航海日誌番外編13

 ジュリエッタは撤退地点、東南5Kmの地点にある海浜公園に向かって移動を開始した。
 途中、最後の標的である国立理科大学の施設を発見し、燃料気化爆弾を取り出す。
 自分が学生だった頃を思い出し、施設内に泊まり込んで研究を続けている学生達がいるのではないかと考えて心が痛んだ。
 しかし、止めるわけにはいかない。
 この施設では宇宙技術の研究が進められている。
 中央の講堂に爆弾を投げつけると、ジュリエッタはその場を離脱した。
 燃料気化爆弾は、液体状態で爆弾につめられている燃料を着弾寸前に空気中に放出、空気と攪拌させ最適な混合率になった時点で点火、大爆発を伴う急激な燃焼をおこさせる、いわばガス爆発を人為的に起こす恐ろしい爆弾だ。
 そして爆発の衝撃波は、通常の爆薬のように1点から広がる形で作り出されるのではなく、広い空間から生み出されるので、持続時間が長い。
 このような持続的な衝撃波も、核兵器以外では生み出すことはできない。
 気化爆弾は、爆発点近傍では、核兵器ときわめてよく似た破壊・殺傷効果を与えるのである。
 その衝撃波は、地上の構造物と比較的脆弱な地下施設をことごとく破壊し、地表に巨大なクレーターを作り出す。
 地上は数百メートル四方が一挙に1000度以上の火炎地獄となり、地上の人間は例え建物や塹壕に隠れていても、全ての酸素が燃焼し尽くし酸素欠乏になることによって、窒息死、もしくは急激な気圧の変化による内臓破裂を引き起こして死に至る。

 背後で激しい爆発が起こり、巨大な上昇気流によってキノコ雲が立ち上っていく。
 ジュリエッタは短く祈りの言葉を口にし、すぐに感傷を断ち切った。
 今はまだやることが残っている。
 スクリーンにチーム全体の現在地を呼び出す。
 ジュリエッタの左右に800メートルの間隔を開けて、ゲイルとジャイディ。
 フィナン、オクパラ、クライフが同じような線を作って後方1200メートルを移動している。
 武装ヘリが見えた。素早くロックオンしてプラズマ砲で撃墜する。
 ウェンインは右前方700メートル、エスリー島へ向かう海底トンネルの爆破作業中。
 スティットソンは?
 海軍ビルと連邦中央銀行の破壊を命じていたはずだが、マーカーがない。
「スティットソン、応答しろ。現在位置を知らせろ」
 無線機に呼びかけながら、スティットソンのバトルドレスの情報を呼び出した。
 ジュリエッタは凍りつくような思いをした。
 スティットソンのバトルドレスの情報が全て「―――」で示されている。
「スティットソン、報告しろ」
 だが、応答はなかった。
「誰か、スティットソンのバトルドレスを見たか」
 部下達に尋ねるが、期待した返事は返ってこなかった。

 海浜公園に着いたジュリエッタ達を、降下艇が迎えた。
 ジュリエッタは部下達を先に乗り込ませた。
 人数を数える。
 6人、やはり1人足りない。
 だが、それ以外にも何か違和感があった。
「フィナン?」
 そう、フィナンだった。
 フィナンのバトルドレスがいない。フィナンには腕が4本あるので、一目で他の者とは見分けがつくはずだ。
「フィナン、応答しろ!」
「遅れてすみません、大尉」
 言うなり、公園内にフィナンのバトルドレスが着地した。
 ということは・・・。
 ジュリエッタはフィナンを降下艇に引き入れながら、もう一度部下達を見回した。
 7人そろっている。
 頭部の通信装置を指差して、壊れていることを伝えようとしているのがスティットソンらしい。
 ハッチが閉まり、降下艇が急速に地上から離れていく。
 無事に全員生還を果たしたらしい。
 ジュリエッタは肩から力が抜けていくのを感じ、ゆっくりと息を吐いた。

 エルケセス連邦は翌日、帝国政府に対して保護と復興支援を申し込み、帝国の一自治区となることを承諾したのだった。