メイス重工

1、メイス重工とは
 メイス重工は、1120年代半ばに台頭してきた新興の多星系企業である。造船業を中核とするコングロマリットを形成しており、フォーニスやモーラに1万t級ドックを多数保有している。標準星間文明以下の星系向けの艦船の建造を得意としている。こうした諸邦では自領内で容易に維持ができる艦船を求めたのである。デネブ領内にはこうしたTLにある星系が多く、メイス重工はメガコーポとの競合を避けながらも着実に売り上げを伸ばすことができた。メイス重工では、技術の遅れを巧妙な設計によって補う方針を採用している。メイス重工の設計開発部門は、同規模の企業に比して大きく、豊富な人材を有している。彼らは、技術者というよりもある種の職人集団で艦船の設計には絶対的な権限を持っている。建造責任者の黙認さえ取り付ければ建造中の設計変更さえも平然と行われるのである。この結果、建造中の設計変更による納期の遅れや予算増が頻発する傾向がある。低いTLで高性能を追求するメイス重工の姿勢に代わりは無く、こうした問題は瑣末時として看過される傾向にある。
 メイス重工は、苦難の時代に乗って成長を遂げた稀有な企業の一つとしても知られている。デネブ領の周辺地域では、造船能力が低下し艦船の需要が増していた。特にこうした世界で維持と運用が容易なTL9〜12の艦船の需要が増していた。メイス重工は、こうした需要に応えるためにジェネラルプロダクツ社のマガッシュやライラナーの造船所を買収し建造能力を強化している。事業規模も拡大し、きわめて短期間にデネブ領全土に販売網を拡大した。

主要産業:パワープラント、造船、地上機器
規模:宙域規模
株式保有
 フラグストン一族25%、オルタレ・エ・シェ15%、諸貴族10%
 ジェネラルプロダクツ5%、個人株主25%、投資信託会社20%
主要工場
 フォーニス、モーラ、ライラナー、マガッシュ

2、社史

(1) マイノス造船公社
 メイス重工の前身は、マイノス造船公社というフォーニスの国営企業である。840年代、フォーニスの経済は出口の見えない不況に陥っていた。フォーニス政府は公的資金を投入と行政指導によって造船業界を統合しマイノス造船公社を生み出した。フォーニスの政治家と官僚たちは、造船業の競争力の回復こそが景気回復の最良の手段であると信じていた。  
 しかし、マイノス造船公社の設立後も景気は回復しなかった。不況からの脱出の牽引力となることを期待されたマイノス造船所は、設備投資が遅れから徐々に国際的な競争力を失いつつあった。多額の税金を投入した計画の失敗を政治家たちは認めることができなかった。彼らはマイノス造船公社を雇用政策に転用した。マイノス造船公社は、政策によって雇用調整の道を立たれ、業務縮小も許されなかった。政府からの資金の注入によってかろうじて経営を維持しているだけであった。政府はマイノス造船公社の艦船の売り込みに全力を上げ、フォーニスの外交官はマイノス造船公社の営業マンであるかのように販売に血道をあげた。第三次辺境戦争による戦時需要によって一時的に経営を持ちなおしたが、設備投資の遅れは、モーラ系造船業企業との間に取り返しのつかない技術格差を生んでいた。

(2) マイノス造船の終焉
 第三次辺境戦争による戦時特需によって一時的に経営は持ち直したが、モーラの造船業界との間の技術格差は大きく、利潤の大きな軍艦の発注をほとんど受けることができなかった。フォーニスの経済は停滞し、星系政府の財政も破綻した。領主であるフォーニス伯フランツ・フラグストンは、強権を発動し星系政府の自治権は凍結した。経済再建のためにフラグストン家の一門から首相を選び、宙域政府や星域政府から選抜された経済の専門家となる新政府を樹立した。
 新政権の政策によってマイノス造船公社は分割民営化され、老朽化した生産設備の更新と経済を活性化するために外資が導入された。分割によって新たに誕生した企業の多くは外資系企業に次々と買収されていった。造船業を受け継いだメイス重工だけはフランツ伯爵を筆頭とするフォーニスの貴族たちを中心に買収され、外資による買収を免れた。フォーニスの国民感情の上ではメイス重工は特殊な地位を得ることになった。

(3) メイス重工の誕生
 フラグストン家の家長であるフォーニス伯フランツがメイス重工の会長に就任し、社長にはオルタレ・エ・シェ社から引き抜いたヨハンを任じた。ヨハンはフランツの実弟である。ヨハンは事実上の経営権を与えられた。メイス重工の会長職は名誉職と化しフラグストン家の家長が就任することが伝統となった。
 ヨハンは、社長就任と同時にオルタレ・エ・シェ社の協力によって資金を調達し、設備の更新と技術部門の強化に乗り出した。技術に勝るモーラの造船業界に対抗するために巧妙な設計によって対抗するしかなかった。標準設計を用いた大量生産は放棄され、可能な限り顧客の求める性能を実現するために受注生産が主力となった。

(4) 発展期
 成立から100年余、メイス重工は順調な成長を続けた。オルタレ・エ・シェ社との提携を軸に標準星間文明社会に積極的に販路を拡大していった。968年、メイス重工はモーラに支社と造船所を開設した。モーラの証券取引市場に上場も認められ、資金の調達も容易になった。設立時はオルタレ・エ・シェ社とフラグストン一門で8割に達していた株式保有比率も機関投資家や個人投資家の参入によって徐々に低下していった。
 モーラ支社の支社長は、社長が兼任することになり、メイス重工の社長はモーラに長期出向するという特異な形式が採用された。フォーニスの国民感情を考慮した会長が本社の移転に断固として反対した為である。会長と役員たちの妥協によって本社機能の”一部“がモーラに移されることが認められた。モーラ支社の開設後、社長の常駐化に伴いモーラ支社には本社機能が移され、事実上の本社として機能している。
 第四次辺境戦争の直前、メイス重工は転機を迎える。帝国海軍の指導によってジェネラルプロダクツ社製の駆逐艦駆のライセンス生産を受注したのである。同社から派遣された技術者たちの指導によってメイス重工は効率的な艦船の量産技術と軍艦開発技術を獲得した。

(5) 現在
 メイス重工は、1120年代までジェラルプロダクツ社の陰に隠れて目立たない存在であった。TL9〜12の諸世界向けの惑星防衛艦や民間船舶を中心に受注を増やしていたが、他に目立つ商品はジェラルプロダクツ社製艦船のライセンス生産が多かった。
 したがってメガコーポの関連会社の一つというのがデネブ領における一般的な認識であった。1120年代半ば、ジェネラルプロダクツの帝国本土撤退に応じてメイス重工に注目を集めるようになった。マガッシュやライラナーのジェネラルプロダクツ社の造船施設を買収し、事業の一部を継承したからである。1130年にはメイス重工の経営規模を宙域規模にまで拡張していた。主要生産施設を安全地帯に有し、TL9〜12の艦船の需要の増大に容易に対応できたことが成長の原因である。

3 グループ企業

(1) フォーニス本社工場
 フォーニスの本社工場は、メイス重工の発祥地として特別な地位にある。メイス重工の経営拠点はモーラ支社に移されたが、本社はフォーニスにあることには変わりはない。メイス重工の会長職はフラグストン一門の長であるフォーニス伯爵が就任する慣習となっている。会長は名誉職同然と化している。多忙な会長に代わってフォーニス本社の実務は、副社長が担当している。副社長は、フラグストン家一門か家令の中から選出される慣わしである。彼は筆頭株主であるフォーニス伯爵の代理人として全社に睨みを利かしている。
 メイス重工の会長は、企業運営を社長と役員会に委ねており、本社の移転に関すること以外は基本的に干渉しようとしない。フォーニスからモーラに本社を移転させることだけは決して認めようとしない。緊急総会を開いて一度など移転を主張した役員たちをすべて罷免したこともある。そのためにメイス重工の社長は、モーラ支社を陣頭指揮するために長期出張しているという建前が頑なに守られることになる。
 フォーニス工場ではTL9〜12までの艦船を主に建造している。主だった顧客は、標準星間文明や初期星間文明程度のTLを有する星系では、自国で維持できるSDBや商船の需要が大きい。彼らは性能が劣っていても自国産業の育成のために維持と運用の楽な艦船を好むのである。

(2) モーラ造船所
 メイス重工の事実上の中心造船所となっている。モーラ星系には本社機能の大部分が移されており、メイス重工の社長もモーラ造船所で陣頭指揮をとるという名目で常駐している。本社機能の大部分を工廠に付属する施設に移転している。
 十分に発展した工業地帯を有するモーラに位置するこの工廠では、フォーニス工廠とは違い帝国でも最高水準の艦船の建造が可能である。現在のモーラ工廠では軍需生産が中心となっている。第五次辺境戦争やヴァルグルやアスランの侵入によって消耗した駆逐艦や護衛艦の修理と建造が焦眉の急となっており、民需生産を新たに買収したライラナー造船所に移管し、モーラ造船所は軍需向け工廠として機能している。

(3) ライラナー工廠
 1126年にジェネラルプロダクツ社から購入した比較的小規模な工廠であるが、モーラ工廠が軍需向け生産で手一杯になったことから民間船舶の生産を移管されている。ライラナー工廠の技術者や従業員は、ジェネラルプロダクツ社から移籍者が多く特異な設計方針を持つメイス重工の製品群の生産に慣れていなかった。
 メイス重工はジェネラルプロダクツ社から事業の一部を継承しており、同社製商船の建造と補修に責任を負う立場になっていた。こうした背景もあり、ライラナー工廠ではジェネラルプロダクツ社の商船のライセンス生産が続けられている。

(4) マガッシュ造船所
 メイス重工とジェネラルプロダクツ社の協定によって同社の保有する造船所の一部がメイス重工に売却された。マガッシュ造船所もそのときに売却された造船所の一つである。デネブ宙域の安全地帯に位置するためにデネブ宙域方面での販売強化の拠点になることを期待されている。デネブ宙域では戦災と恒星間通商の衰退が著しく、多くの造船所が能力をはっきできなくなっていた。メイス重工は、そこにビジネスチャンスを見出したのである。マガッシュ造船所はマガッシュの地方政府の中でも先進国に偏在していたが、メイス重工は中進国に造船所を新設した。
 現在、マガッシュ造船所は二つの系統の艦船が生産されている。ジェネラルプロダクツ系の工廠では、これまでどおりの艦船が建造されているが、戦線の後背地に位置するために帝国海軍の艦船の補修が主な業務になりつつある。
 一方、新設した工場ではメイス重工が得意とする〈辺境向け艦船〉の建造を進めている。フォーニス工廠で建造していた標準星間文明世界向け艦船を標準設計化してコストダウンを図ったものである。周辺地域の諸世界は、維持の容易なこの手の艦艇は好評でメイス重工の重要な収入源になっている。

星系名 UWP 座標
フォーニス A354A87-C スピンワードマーチ3025
モーラ AA99AC7-F スピンワードマーチ3124
ライラナー A434934-F スピンワードマーチ2716
マガッシュ A400976-F デネブ0316

(5) メイス自動車工業
 メイス重工は、第四次辺境戦争の直前、モーラのイルカーン自動車工業を買収した。イルカーン自動車工業は、新たにメイス自動車工業として再編され、グループ企業の一角を占めるようになった。イルカーン自動車は軍需部門と民需部門の双方を有していたが、独自開発能力は低く、ライセンスメーカーの地位に甘んじていた。
 新たに発足したメイス自動車工業は、グループ全体から人材を募り、開発部門を強化した。問題は、宇宙船の開発者はすぐに地上車輌の開発ができないとうことであった。メイス自動車工業は、開発能力取得のために多額の予算を用意し、好き勝手に開発させることにした。彼らが開発した商品の多くは、成功と失敗が相半ばする。「ダックレッグ」のような傑作を生み出すこともあれば、ヴァルカン型反重力戦車のように正気を疑いそうになる代物まで平然と開発するのである。帝国海軍とのコネもあり1105年から1115年まで海兵隊向けのトレピダ型反重力戦車のライセンス生産を受注している。第五次辺境戦争と終結後の軍備再建が急がれた時期である。
 1116年、メイス自動車工業は、トレピダ型反重力戦車の後継車輌として独自開発したウィンド型反重力戦車を発表した。これまでのメイス自動車の開発した商品を知る関係者は同社がまともな商品を開発したことに驚愕した。ウィンド型反重力戦車は、改造が施された後に海兵隊に正式採用され、メイス自動車工業が、短期間で最先端の開発技術を取得したことを世間に示した。に示した。これまでのメイス自動車の開発した商品を知る関係者は同社がまともな商品を開発したことに驚愕した。

(6) ゼロスエンジニアリング
 ゼロスエンジニアリングは、メイス重工のグループ会社の内でもっとも風変わりな企業として知られている。同社はフォーニスの本社工場に核融合炉と推進システムを供給している。彼らが生産する推進システムの中に核融合ロケットをはじめとする反動推進システムが多数含まれているのである。特に核融合ロケットの開発については他者の追随を許さない。技術的に成熟し、発達の余地のないとみなされていた核融合ロケットの開発を細々と行っている。