マガッシュ(A400976-F デネブ0316)

1、概説
 マガッシュは、1125年までサバイン星域の首都が存在した。星域内で最も発達した産業を有する工業世界であり、星域経済の要として重要な位置を占めている。1125年、宇宙船の事故でサバイン公爵、サー・ヨハネス・オールと彼の長子で後継者と見なされていたカール卿が死去した。モーラで開かれたデネブ領皇室会議からの帰途のことである。核融合炉の事故ということであったが、不信な点も多くさまざまな憶測が流れている。
マガッシュは、典型的な貴族支配の星系である。ヨハネスは、マガッシュ侯爵としてカールの3人の兄弟を加盟国の為政者として配置していた。マガッシュでは、オール家の家督を巡る争いが勃発していた。この権力抗争によって連邦政府は事実上崩壊し、5つの加盟国は自立し、冷戦状態に陥っている。サバイン星域でも特に重要なマガッシュ星系の混乱は戦時下であるデネブ領では容認しがたくデネブ大公は特使を派遣して5つの勢力の調停と統一政府の再建に向けて話し合いを継続している。
デネブ大公は3人の継承者の頑な態度を嫌悪しており、新たなサバイン公爵にスィンゲン伯爵を任じ、星域首都も移転させてしまった。マガッシュ侯爵の地位は空位とされたままである。デネブ大公は、限定主権を有する星系の内政に介入する意思はないが、内戦に発展した場合には、即座に艦隊と海兵隊を派遣する意思を明確化している。総人口は、80億。テクロノジーはF。星系内にGG2個、4つの小惑星帯を有する。

2、社会と経済
 マガッシュ星系は、560年代にスピンワードマーチ宙域開発のために資源供給地として開発された星系のひとつである。マガッシュは、地下資源の採掘で得た利益によって工業化を達成し、サバイン星域の経済の中心を担うまでに成長した。マガッシュの産業で製造業とサービス業が中心である。第一次産業は地下資源の採掘が中心であるが、多くは自動化されており産業に占める割合は低い。真空世界であるマガッシュでは農業の産業に占める比率は少ない。環境維持システムの一環として農業用ドームも存在するが、この星系では高級食材である生鮮食品の生産を行なっているに過ぎない。マガッシュの農作物は競争力が無く輸入に依存している。マガッシュの住民にとって農園は富の象徴となっている。富裕層は観光ドームに農園を含む別荘を有することがステータスと化している。一部の観光ドームは、富裕階層のための別荘地と化している。


 連邦政府の崩壊によってマガッシュは5つの共和国に分裂した。その内の3つは、ヨハネス・オールの3人の子弟を首班に据えていた。彼らは互いにオール家の家督相続を主張し冷戦をはじめた。残りの2つの共和国は中立を宣言し、この問題に関わることを避けた。
中立を維持する二つの共和国は、一種の緩衝地帯として機能しており、継承争いが内戦に発展することを防いでいる。この5年の間、産業基盤の整備のために使用されるべき資本は、軍事予算に振り向けられ各勢力の市民生活を圧迫している。
 その一方で星間資本は、主な投資先を新たな星域首都スィゲンに移転しつつある。マガッシュでの設備投資は凍結され、スィゲンへの投資が増加している。徐々にではあるが、経済は悪化の一途を辿っている。長引く不況を背景に敵対勢力への敵意が高まっている。

3、軍事と外交
事態を重く見たデネブ大公ノリスは、新たな星域首都をスィンゲン(B467998-D デネブ0518)に定め、サバイン公爵にスィンゲン伯爵ジョージ・フォレスタルを任じた。フォレスタル政権は、デネブ海軍の傀儡政権であった。サバイン星域は、1120年から前線の後背地となり、デネブ海軍の星域政府への介入が目立つようになった。
ヨハネス公爵の政治力によってかろうじて自治が認められていたに過ぎない。遷都とフォレスタル政権の成立によってサバイン星域政府の実権はデネブ海軍が掌握した。もちろん、デネブ海軍も民政を尊重しているが、海軍の意向が通りやすくなったことは事実である。デネブ海軍は、新たな星域首都となったスィゲンの海軍基地に第195艦隊の残存戦力を集結させている。マガッシュの支配権を争う3人の後継者の間では、スィゲンの第195艦隊を脅威と見なしている。星系限定主権の関係上、内戦や帝国からの独立といった事態にならない限り星系に介入することは無い。3人の継承者にとって戦争という最終手段をとることが不可能となり、冷戦を継続する結果となった。
中央政府の崩壊したマガッシュでは、陸軍は解体され、各共和国分軍として再編成されたが、デネブ海軍の脅威に対抗するために星系海軍だけは解体を免れた。星系海軍は、強力な惑星防衛艦を多数擁し、外征戦力として3個強襲戦隊とそれに付随する海兵隊3個師団を有している。マガッシュの為政者たちは星系海軍の存在を誇示し、デネブ大公の介入を未然に防ごうとしたのである。

3.1星系海軍
 星系海軍は、惑星防衛艦200個戦隊、強襲戦隊3個、それに海兵隊3個師団からなる戦力を有する。その維持費も膨大である。各共和国による分割を免れたが、予算は各共和国に課す分担金に賄われている。星系海軍にはデネブ政府から交付金が付与されており、連邦政府が崩壊した後も付与は継続されていた。各共和国の負担金削減によって星系海軍では交付金の重要性が増している。星系海軍をより中立的な組織としている。
身から出た錆であるが、継承権を争う3国では、星系海軍に不審の目を向けている。いつ星系海軍がデネブ海軍の尖兵と化して侵略を開始するのか不安が拭えないのだ。その結果、空軍戦力の強化に専念している。対軌道攻撃力を持つ航空機を配備し、万が一に備えることにしたのである。彼らは、軍事予算を確保するために負担金の拠出を拒み、星系海軍をデネブよりにする結果を招いている。
星系軍が有する海兵3個師団と3個強襲戦隊は、戦時にはデネブ海軍に供出することを条件に保有が認められた戦力である。デネブ海軍は、強襲戦隊と海兵隊の編入を行なっていない。星系海軍の存在が内乱の抑止力としてなることを期待しているからである。

3.2 地上軍
 マガッシュの地上軍は、各共和国の国軍として再編成されている。連邦の崩壊以前の記録では、75万の戦力を有していた地上軍は、以前の10倍の規模に拡大している。フレーデルの軍備拡張に応じる形で軍備を拡張したためである。

3.3 外交
 連邦政府が崩壊し小国分立状態になったマガッシュでは、独立した共和国群が外交関係を引き継いだ。星域内の友好国に外交使節が派遣され、新たな関係が模索された。分裂しても国力の大きい各国は、ほとんどの星系に対して強い態度で臨むことができたが、互いの存在が足を引っ張ることになり、外交的には弱体化したといっても過言ではない。
 特にスィゲンに遷都した星域政府に対する影響力は、この5年の間に明らかに衰退している。星系の利権を代表する貴族を選出できないである。新たに成立したフォレスタル政権は、デネブ海軍の支持を背景に貿易構造の改革に乗り出している。フォレスタル氏を中心とする星域皇室会議のメンバーは、サバイン星域の弱体化はマガッシュの混乱に起因すると考えている。一刻も早くマガッシュを正常化させ事態を好転させたいが、経済問題で介入という直接手段に訴えることができない。
 マガッシュは、冷戦によって地上軍の強化に多額の資金と工業力を投じている。その資金と工業力を他に転じればサバイン星域の恒星間秩序の混乱の収拾に少なくない貢献を果たすことができる。その一方で帝国軍による介入や内戦といった事態になった場合には最悪の結果を招くことになる。星域政府としても最悪の事態を避けるために静観する以外に方法は無かった。

4、地方政権
 マガッシュのドーム都市群は、5つのブロックに分けられていた。植民の時期により民族構成が異なるためである。マガッシュ星系政府は5つのブロックからなる連邦政府であった。オート侯爵の死後、中央政府の崩壊によって5つのブロックは独立した地方政権として自立した。軌道都市も何れかの地方政権に帰属を決め、いずれにも属さないことを選んだ軌道都市は星系軍の軍政下におかれることになった。

4.1 アキィターニア
 人口28億。ベルンとシクロンの間に位置し、緩衝地帯として機能している。この領邦は設備投資の遅れにより長期に渡って経済が停滞していた。TLも標準星間文明水準で停滞し、先進地区への部品供給地として機能している。この地域の安価な労働力に着目したメイス重工は、アキィターニア領の軌道都市に工場を進出させており、周辺地域向けの恒星間宇宙船の建造を本格化させている。
 メイス重工の進出など経済的に明るい兆候も見られるが、軍備拡大に狂奔するベルンとシクロンに挟まれているために軍備増強に付き合わされる形になり、財政に負担を強いられており、設備投資のための予算をひねり出せないでいる。

4.2 ベルン
 人口15億。3人の相続人の一人ウィリアムの領地である。星系内でも産業は発達しているベルンでは伝統的に大きな政府を求めており、大企業の多くは公営化されている。フレーデルの軍備拡張に引きずられる形で軍備拡張を行なっている

4.3 シクロン
 人口10億。カールの実妹であるエリザベートを支持する政権である。継承順位からすれば正妻の子であるエリザベートは、一番爵位を継承するにふさわしい人物である。すでに彼女は、スィゲンのフォレスタル伯爵の次男に嫁いでおり、リヒャルトとウィリアムは、彼女の家督相続を認めなかった。エリザベートの家督相続は、オート公爵家をフォレスタル伯爵家の風下に立たせることになる。そのことだけは許すことはできなかった。
フレーデルを掌握したリヒャルトの爵位継承宣言を契機に継承争いが本格化した。お互いに自領に引き返し、残る二つの共和国に支持を求めると同時に軍備の強化に乗り出したのである。シクロンを掌握したエリザベートは、軍備増強と平行した外交を活発化させ、中立を維持している二つの共和国との間に不可侵条約を結んだ。星系外に対する外交も強化し、連邦政府が有していた権益をいくつか手に入れることにも成功している。

4.4 フレーデル
 リヒャルト・オールが首班を務める地方政権である。領内の人口は20億に達し、軍備拡張に余念が無く地上軍の整備に力を入れる。3人の中では継承権が低いリヒャルトは、実力による爵位継承を目論み、連邦政府を瓦解させた。地上軍の強化のために重税を化し軍備の拡大に狂奔している。彼はデネブ海軍の介入に耐えるだけの力を持つ軍隊に建設を望み独自に星系海軍の編成を目論んでいる。彼のエージェントによる星系の切り崩しを行なっている。彼はデネブ軍の介入が本格化する以前に武力によって政権を奪取し、それによってデネブ大公に地位を認めさせようと考えている。

4.5 ゼルフィア
 人口8億。シクロンとフレーデルの間に成立した中立勢力。最も産業基盤の整備された地域であり、星系首都がおかれていた。連邦政府が崩壊後、官僚組織を自国に組み込んだ。
5つの勢力中では最も人口が少ないが、産業が発達している。他の勢力が星系海軍への負担金の出資を削減する中で唯一、負担金を増額して影響力を増大させた。