How the value of the 2G Maneuver?
2G加速の価値は?
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図1 P型海賊船に追われるS型偵察艦

冒険商人の海賊船(1G加速の自由貿易船)に対してならば
2G加速の性能を活かして優位に立てるS型偵察艦ですが、
3G加速のP型海賊船からは逃げられません。

P型海賊船は私のオリジナルですが、
S型偵察艦はMAG様から頂きました。




1.はじめに


 今回は、宇宙船戦闘において極めて脆弱な宇宙船である「S型偵察艦」の再評価を行ってみました。

 S型偵察艦は、船体サイズがわずか100排水素トンです。
 MT版トラベラーの宇宙戦闘ルールにおいて、船体容積100排水素トンの宇宙船は、攻撃力2以上の射撃が命中すると 1回以上(攻撃力−1回)の致命的損傷を受けるルールになっていました (レフリーズ・マニュアルp.93 致命的損傷表より、 受ける致命的損傷はランダムに決定。)。
 このルールはCT版でも「宇宙海軍」から採用されていますが、 大抵の艦載兵器は、低テックレベルの単架砲塔でもない限り、攻撃力2以上を備えています。
 ですから、もしもS型偵察艦が宇宙船戦闘に参加したのであれば、 あっという間に複数回の致命的損傷を受けて戦闘不能になるか、 運が悪ければ消滅(爆発)してしまうことになるでしょう。



 具体的な致命的損傷の内訳について、以下の表にまとめました。


          表2 致命的損傷の累積効果(小型商船の場合)

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 この表は、宇宙船が致命的損傷を受ける度に、 特定の損傷を1回以上受ける確率を示しています。
 例えば、商船がジャンプドライブ使用不能の損傷を1回以上受ける確率は 致命的損傷1回当たり16.7%ですが、 致命的損傷3回を受けるならば42.1%、致命的損傷6回を受けるならば66.5%、 致命的損傷10回を受けるならば83.8%、致命的損傷15回を受けるならば93.5%、 といった風に増えていきます。

 「ジャンプ可能」は、致命的損傷を受けても ジャンプ・ドライブパワー・プラント艦橋の3つが 無事である確率を示しました。この3つが無事で燃料が残っていれば、商船はジャンプが可能です。

 「移動可能」は、致命的損傷を受けても パワー・プラント通常ドライブ艦橋の3つが 無事である確率を示しました。

 最後の「戦闘可能」は、致命的損傷を受けても 探知機パワー・プラント乗組員火器管制装置の4つが無事である確率を示しました。
 不思議に思われるでしょうが、MT版の宇宙戦闘ルールでは乗組員が全滅しても、 「ジャンプ」と「移動」が可能です。自動操縦装置が普及しているのでしょうか?



 上記のように、MT版宇宙戦闘ルールにおいて致命的損傷を受けることは、 宇宙船にとって文字通り致命的な結果をもたらします。

 S型偵察艦の脆弱性については、「Best_Weapon_33:海賊船1」で考察済みですが、 以下に考察内の文章を引用しました。

>  例えばC型巡航艦が攻撃を行なった場合、標的となったS型偵察艦
> 自動的に致命的損傷を15回以上受けてしまいます。
>  爆発の可能性は34.5%もありました。
>  運良く爆発を逃れたとしても、ジャンプできる可能性はわずか0.5%、
> 移動ができる可能性も1.2%、戦闘できる可能性は0.3%しかありません。
>  乗組員も、27.1%の確率でしか生き残れませんでした。
>
>  T型哨戒艦に攻撃された場合は致命的損傷が7回以上です。
>  仮に7回だったと想定しても爆発の可能性は17.9%
> 爆発せずにすんだとしてもジャンプ可能8.2%、移動可能12.9%、
> 戦闘可能6.9%でした。
>  乗組員の生存率は54.4%です。あまり変わりません。
>
>  ……中略……。
>
>  S型偵察艦が、宇宙戦闘でこれほど脆い存在だとは思いませんでした。
>  S型偵察艦で海賊家業を始めることは、とても無謀だと思います。




 という訳で私は、宇宙戦闘においてS型偵察艦は極めて脆い宇宙船である、という結論を出した訳です。

 海軍のT型哨戒艦に追跡された場合、兵器の照準(目標の固定/追跡)に成功された時点で S型偵察艦は即座に降伏しなければなりません。
 商船から反撃を受けた場合には高い確率で撃破されてしまいますから、 獲物として襲うことができる商船は非武装の商船だけに限られます。
 そして「Best_Weapon_33:海賊船1」を考察した時点(2009.11.22)では、 海賊の出没する辺境航路を、非武装の商船が航行するなど有り得ない想定でしたので、 実質的にS型偵察艦は海賊稼業に使えない結論になりました。

 現在は、海賊の出没する辺境航路であっても、非武装の商船が航行していることは有り得るだろう、 という考えに変わりました。ですからS型偵察艦の海賊船も有りだと思うのですが……。



 戦闘には不向きなS型偵察艦ですが、帝国内には多くの数が航行しております。
 特に寂れた辺境航路においては、運航経費の低さなどからS型偵察艦の需要も多いことでしょう。
 となると、S型偵察艦が海賊船に襲撃される事態も多くが発生している訳で、 そうした問題を考察しない訳にはいきません。

 今回は海賊船としてのS型偵察艦について、再度の考察を試みました。
 前回の考察「Pirate05:冒険商人の生活」の表2によれば、 辺境航路で遭遇する海賊船の12分の1(=8.3%)はS型偵察艦です。
 個人的には、多くの退役偵察局員が海賊行為に手を染めていると思いたくありません。
 海賊に奪われた偵察艦が名義を書き換えられ、海賊船として利用されている、と考えたいところです。

 それはともかく、例えS型偵察艦が脆弱であっても、獲物の商船が非武装であれば、その弱点は問題になりません。
 逆に探知/追跡能力の高さや2G加速の能力が海賊船に向いていると明らかになるかも知れないのです。
 もちろん、商船として運航しているS型偵察艦について考察する必要もあるでしょうが。



 通信妨害の行為判定についての考察も掲載しています。
 先に御覧になりたい方は、右のリンクをクリックしてください。
                 ※5.通信妨害の行為判定(ハウス・ルール)



 また、パワープラントの損傷や燃料喪失で、生命維持装置が機能しなくなった宇宙船の旅客、乗組員について、 漂流者の生存時間というタイトルで考察を行いました。
                            ※6.漂流者の生存時間





2.待ち伏せの成功率


 MAG様の考察「スピンワードマーチ宙域の商用船舶」によると、 スピンワードマーチ宙域を航行する100トン級商船の数は20,000隻という数字が提示されていました。  これら100トン級商船のすべてがS型偵察艦だとは思いませんが、 悲しいことにトラベラーの公式設定に登場する100トン級商船はS型偵察艦Xボートの2種類しかありません。
 J型探査船S型偵察艦の改造型(派生型)という設定ですので、 ここではS型偵察艦の数に含めておくことにしました。

 それはともかく、20,000隻の1割だけがS型偵察艦だと想定しても、その数は2,000隻。 十分過ぎる程の数だと言えます。



 「帝国百科」に掲載されたS型偵察艦は非武装ですが、 「CT版サプリメント、商船と砲艦」によれば、

 偵察艦に装備されている武器は、その任務により様々です。 連絡業務に就いている偵察艦では、1基のレーザーと1基のミサイル・ラックが標準です。 調査業務の船ではこれが2基のミサイル・ラックとなります。 独立任務の船は武装を取り除いて引き渡されますが、船主の大半はすぐになんらかの武器を取り付けるようです。

 と記述されていました。
 偵察局で任務に就いているS型偵察艦は必ず武装しており、 独立任務に就いているS型偵察艦の大半も武装しているということが、公式設定なのです。

 そしてJ型探査船は、採掘にも使える 単架パルス・レーザー1門を装備していることが公式設定です。

 という訳で今回は、攻撃力2の単架パルス・レーザー1門と、 攻撃力2の単架ミサイル・ラック1門を装備しているといった想定で、考察を進めることにしました。



 冒険商人の場合と同じように、S型偵察艦を駆る海賊も、 100倍直径での待ち伏せが主流になると思われます(実は、それ以外の選択肢がほとんどありません)。

 しかしS型偵察艦は2Gの加速性能を持っています。
 これを活用することによって、海賊は待ち伏せパターンを若干ですが、有利に変えることができるでしょう。




(1)星系離脱中の商船を、100倍直径で待ち伏せ

 獲物に関する情報を得やすいのは、星系離脱中の商船を100倍直径で待ち伏せる作戦です。 このあたりの事情は冒険商人の場合と変わりません。


 S型偵察艦がジャンプ・ポイントで獲物の商船を待ち伏せする場合について、 下図で詳細を説明します。


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       図3 ジャンプ・ポイントで待ち伏せる海賊船と商船の行動


 S型偵察艦は、ジャンプ・ポイントの2ヘクス内側で、商船を待ち伏せします。
 遭遇(襲撃)の時点で商船との相対速度は3になってしまいますが、 2G加速が可能なS型偵察艦ならば簡単に追いつけるのです。



 海賊船の襲撃開始タイミングをXターンとして、以下に襲撃手順を説明しました。



X−2ターン(40分前)

 商船は、ジャンプ・ポイントの手前15ヘクスで移動を開始し、手前10ヘクスで移動を終了しました。
 速度は6から5へ減速(1G)。
 移動終了時の商船と、待ち伏せしている海賊船との距離は8ヘクスですから、 ほとんどの商船にとって海賊船を発見することは出来ません(探知成功率0.0%)。



X−1ターン(20分前)

 商船は、ジャンプ・ポイントの手前10ヘクスで移動を開始し、手前6ヘクスで移動を終了しました。
 速度は5から4へ減速(1G)。
 移動終了時の商船と、待ち伏せしている海賊船との距離は4ヘクスですから、 商船が海賊船を発見するため2Dで10+を出さなければなりません(探知成功率16.7%)。

 実は、この時点で商船が発見しても、商船にはどうしようもありません。
 海賊船であるS型偵察艦の加速度が2Gですから、1G加速の商船には避ける手段がないのです。
 商船が武装していれば反撃が可能であり、その反撃はS型偵察艦にとって大きな脅威となる筈ですが、 商船が非武装であるならば、海賊船にとっては不意討ちの先制射撃ができなくなったという程度の問題でしかありません。
 商船はあらかじめジャンプ・ドライブを起動させておき、ジャンプ・ポイントを通り過ぎた時点でジャンプすることになるでしょう。
 その行動を海賊船が許してくれたら、の話ですが。



Xターン(襲撃開始)

 商船は、ジャンプ・ポイントの手前6ヘクスで移動を開始し、手前3ヘクスで移動を終了しました。
 速度は4から3へ減速。
 商船と海賊船との距離は1ヘクス(視認距離)となり、商船は自動的に海賊船を発見できます(判定不要)。
 この段階で、海賊船は襲撃(威嚇射撃や降伏勧告など)を開始しますが、不意討ちされた商船は対応できません。
 ですから1ターンだけ、海賊船は一方的な攻撃を行えるのです。

 相対速度が大きいため、不意討ちの成功率が一気に増えました。



X+1ターン(20分後、商船は逃走可能)

 商船の通常ドライブ無力化に失敗した場合、商船は逃走を試みる可能性があります。
 前回の考察「Pirate05:冒険商人の生活」にも書きましたが、 襲撃を受けた時点で主要世界へ引き返すという選択肢は有り得ません。
 商船は加速してジャンプ・ポイントを通り過ぎようと試みるしかないのです。

 しかし2G加速のS型偵察艦からは逃げられません。
 横方向へ回避しても、加速して速度を4に上げても、すぐ後ろの視認距離から海賊船が離れることはないのです。
 海賊船は確実に、2回目の射撃を行えるでしょう。

 商船はジャンプ以外の方法では逃げられません。
 その一方でジャンプできなくなった商船は、航行不能になるまで撃ちまくられることが確定。 非武装の商船に対してならば、S型偵察艦は徹底して強気に出られるのです。



X+1ターン(20分後、商船は逃走不能)

 商船は速度3のまま、慣性飛行を続けます。
 ジャンプ・ポイントの手前3ヘクスで移動を開始し、ジャンプ・ポイントで移動を終了。

 海賊船は2G加速で商船を追跡。
 ジャンプ・ポイントの手前2ヘクスで移動を開始し、ジャンプ・ポイントで移動を終了します。 このまま次のターンにも加速を行えば相対速度が一致し、商船との接舷が可能になるでしょう。



 様々な宇宙船タイプの商船が、待ち伏せ中のS型偵察艦 (目標サイズ=中、視認レベル=弱)を探知できる確率は、以下の通りです。


           表4 商船の探知可能距離と探知成功率

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 この表は、「Pirate05:冒険商人の生活」の表9と同じものです。

 前回の冒険商人の場合は襲撃時の相対速度が小さいため距離2ヘクスと4ヘクスでの探知を行っていたのですが、 今回のS型偵察艦は相対速度が大きいので距離4ヘクスと8ヘクスでの探知を行うことになりました。
 右端に示した「襲撃の成功率」が大幅にアップです。

 獲物として狙われた商船のタイプが、R型政府指定商船A型自由貿易船ならば、襲撃の成功率は83.3%まで増えました。
 冒険商人の場合は48.6%でしたから、逆の見方をすれば、 不意討ち失敗の確率が半分から6分の1まで減ったことになります。
 S型偵察艦は戦闘において脆弱ですから、 獲物は必ず非武装の商船を選ばなくてはなりません。 厳選した、数の少ない非武装商船に逃げられては困ります。 不意討ちの成功率が高いことは、S型偵察艦を駆る海賊の生活をずいぶんと楽にしてくれることでしょう。

 商船がM型客船S型偵察艦の場合、 襲撃の成功率は56.7%
 運が良ければ、半分以上の確率でM型客船S型偵察艦を 不意討ちすることができるようになりました。
 冒険商人の場合は16.2%でしたから、比べようがありませんね。

 商船だと思って狙った獲物がSDBT型哨戒艦だった場合、 襲撃に成功する確率は4.9%です。
 ゼロではありませんが、不意討ちできる見込みはほとんどありませんでした。
 不意討ちに成功したところで勝てる相手ではありませんから、不意討ち失敗に気付くよりも早く、撃たれて消滅しているような気がします。




(2)星系に到着した(ジャンプアウト直後の)商船を待ち伏せ

 星系に到着する(ジャンプアウト直後の)商船を待ち伏せる作戦は、S型偵察艦の場合にも有効な作戦です。
 星系離脱中の商船を待ち伏せる作戦と同じように、ジャンプ・ポイントの2ヘクス内側で待ち伏せましょう。
 この位置ならば、強力な武装商船がジャンプアウトしてきても逃げることが可能です。



 という訳で、図3と同じ場所で星系に到着した商船を待ち伏せてみました。
 行動パターンはほとんど変わりませんが。


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       図5 ジャンプ・ポイントで待ち伏せる海賊船と商船の行動


X−1ターン(20分前)

 商船が星系に到着しました。
 ジャンプアウトしてくる場所は、あらかじめ決められたジャンプ・ポイントであるとします。
 当然、移動速度は0になっているでしょう(安全のため、そうするべきです)。
 商船はジャンプアウトと同時にトランスポンダの送信を開始しました(哨戒艦から無警告で撃たれたくなかったら、そうすべきです)。
 このトランスポンダ情報を利用して、S型偵察艦は襲撃の是非を検討できるでしょう。

 移動終了時の商船と、待ち伏せしている海賊船との距離は2ヘクスですから、 商船が海賊船を発見するため2Dで8+を出さなければなりません(探知成功率41.7%)。
 商船がM型客船S型偵察艦の場合、探知成功率は6+(72.2%)です。



Xターン(商船が海賊船の探知に失敗)

 商船はジャンプ・ポイントから移動を開始し、手前1ヘクスで移動を終了しました。
 速度は0から1へ加速。
 しかし移動した先は海賊船の目の前1ヘクス(視認距離)であり、商船は自動的に海賊船を発見できます(判定不要)。
 この段階で、海賊船は襲撃(威嚇射撃や降伏勧告など)を開始しますが、不意討ちされた商船は対応できません。
 ですから1ターンだけ、海賊船は一方的な攻撃を行えるのです。

 ここから先の行動は、図3の説明と変わりません。



Xターン(商船が海賊船の探知に成功)

 商船が海賊船の探知に成功した場合、商船は逃走を試みることになるでしょう。

 もちろん、海賊船の追跡に完全成功すれば、海賊船の正体(宇宙船のタイプなど)が判明します。
 海賊船の正体がS型偵察艦で、商船のコンピュータや武装に自信があるのであれば、 返り討ちにするつもりで海賊船に突撃する選択肢もありですが、完全成功の確率(一般の商船で17.4%、 M型T型で52.2%)を考えると、あまり期待できません。
 トランスポンダを切っている不審船舶を見つけた商船は、正体の確認よりも先に逃走を試みるべきなのです。

 普通に考えて、逃走を試みる商船は海賊船から離れる方向へ加速すると思われます。
 そうした場合も残念ながら、2G加速のS型偵察艦からは逃げられません。
 どの方向へ逃げても、視認距離に張り付いた海賊船から逃げることは不可能です。

 救援の期待できる方向、主要世界へ近付く方向へ加速するという選択肢もあるのですが、その場合は上記の例 Xターン(商船が海賊船の探知に失敗)と同じような行動パターンになるでしょう。
 海賊から逃れることを諦めても、少しでも早い救援を期待するためには良い方法かも知れません。





3.攻撃の成功率


 すでに述べたように、海賊稼業を始めたS型偵察艦は、 単架パルス・レーザー1門と、 単架ミサイル・ラック1門を装備している想定です。
 その攻撃力はどちらも2でした。

 低い攻撃力ではありますが、積載兵器の数は2つ。
 冒険商人の用いる自由貿易船と比べたら、2倍の火力です。
 その2倍の火力がどれだけ攻撃の成功率を上げてくれるのか、そのあたりを評価してみましょう。

 まずはS型偵察艦の探知機による、追跡の成功率からです。




(1)目標の追跡(照準の固定)

 S型偵察艦であっても、搭載した兵器の使い道は冒険商人と変わりません。
 獲物の商船を威嚇射撃で脅すか、精密射撃で航行不能に追い込むか、の2つです。

 もちろん、射撃を行う準備段階として照準を合わせることが不可欠であることも同じです。 そのための行為判定は、以下のようになっていました。

 探知機で目標を追跡(照準を固定)するには:
   難易度〈並〉、攻撃=コンピュータ・レベル、防御=距離(対立、不確定)


 上記の難易度は、最大有効距離が遠軌道距離(〜500,000km)の能動EMSによる能動物体追跡か、 貫通力250m以上の質量探知機による受動質量追跡、 探知可能最低出力10kw以下の中性微子探知機による受動エネルギー追跡
 この3つの追跡方法のどれかを用いた場合に利用できます。
 それ以外の追跡方法では、難易度が〈難〉か〈至難〉になるでしょう。

 また、貫通力250m以上の質量探知機も探知可能最低出力10kw以下の中性微子探知機も、 テックレベルが14以上でなければ利用できません。
 そしてテックレベル14以上の宇宙船であっても、民間船舶はそれらの探知機を搭載していない方が一般的なようです(帝国百科のデータより)。
 MT版 Starship Operator's Manualにも、そういった記述が見つかりました。

 しかしS型偵察艦は、その探知機の双方を搭載していました。
 具体的には、貫通力1km以上の質量探知機と、探知可能最低出力10kwの中性微子探知機ですが、 これらの装備のおかげで受動質量追跡受動エネルギー追跡の双方を 難易度〈並〉で行うことができるのです。
 レフリーズ・マニュアルに書かれている通り、能動物体探知能動物体追跡も 自己の存在を周囲に知らせてしまいます。
 相手に追跡の行為判定を悟らせない受動追跡は、不意討ちを仕掛ける側にとって大きなプラス要因となるでしょう。



 難易度〈並〉の能動物体追跡によって、海賊船と商船が相手を追跡する際の成功率を以下に示しました。
 ハイテクの質量探知機中性微子探知機を搭載している宇宙船は、 受動質量追跡受動エネルギー追跡も行えますが、難易度は同じです。
 成功率も同じですので、表を分けることはしませんでした。

           表6 商船の追跡可能距離と追跡成功率

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 この表も「Pirate05:冒険商人の生活」の表10と同じものです。



 搭載されている探知機の性能が同等であれば、後はコンピュータ・モデル数の勝負です。 レフリーが認めるならば、コンピュータ・モデルの代わりに、キャラクターの〈探知機〉技能レベルを用いても良いそうですが。

 モデル7コンピュータ搭載のSDBは、乗組員の技能レベルに関係なく 3ヘクス以内の追跡が確実に(97%で)成功、 4〜5ヘクスの距離でもほぼ確実(83%以上)、 あまり期待できませんが10ヘクスの最大射程でも成功する可能性がありました。

 モデル3コンピュータを搭載しているM型客船T型哨戒艦の場合、 成功率はDM+2の分だけ増え、距離2ヘクスで成功率72%、3ヘクスで58%になります。
 4ヘクス以上での成功はあまり望めませんが、近距離(2〜3ヘクス)での射撃戦闘は可能かも知れません。

 一般的な商船の場合、目標との距離が2ヘクス以上あると、追跡の成功が期待できなくなります。
 実際にR型政府指定商船A型自由貿易船S型偵察艦の場合、 距離2ヘクスで成功率42%、3ヘクスで28%です。 4ヘクス以上になると、追跡にはほとんど成功しなくなりました。



 S型偵察艦の場合、兵器を2つ装備していますから、 射撃を1回諦める毎に探知/追跡の行為判定を1回増やす、というルールを利用することもできます。
 射撃回数は1回減ってしまいますが、射撃できないよりはマシな状況でしょう。

 追跡目標が2ヘクスの距離で行為判定2回を行った場合、66.0%の確率で目標の追跡に成功すると判明しました。
 対する一般商船は41.7%の成功率です。
 追跡目標が3ヘクスの距離にある場合、行為判定2回の追跡成功率は47.8%で、 一般商船は27.8%の成功率。

 どうやら2〜3ヘクスの距離を保って一方的に商船を射撃するという卑怯な真似も出来るようですね(笑)。
 1G加速の商船がS型偵察艦の視認距離まで近付けないように、進路を上手く調節しなければなりませんが。

 追跡目標が4〜5ヘクスの場合でも行為判定2回を行えるのであれば 30.6〜16.0%の確率で追跡に成功します。
 案外、馬鹿になりません。
 冒険商人の皆様は武装したS型偵察艦に御注意下さい。 サイコロ運が悪いと、これだけ離れていても一方的に射撃される可能性があるのです。
 おまけに受動エネルギー追跡は、追跡されていること、それ自体が探知できません。 射撃は完全な不意討ちになるでしょう。



 視認距離まで近付かなければ射撃できない。
 その筈だった冒険商人の想定が、あっさり覆されてしまいました。
 コンピュータのモデル数を上げなくても、ハイテク探知機を搭載したり、積載兵器の数を増やすだけで、当初の想定が変わってしまうのです。




(2)射撃の命中率

 目標追跡の次は、射撃の実行です。

 S型偵察艦の武装は前述の通り、 単架パルス・レーザー1門単架ミサイル・ラック1門です。

 それらの射撃命中率は、通常射撃で7+(58.3%)。
 精密射撃を狙った場合は9+(27.8%)で、 任意の致命的命中を与えられる可能性は11+(8.3%)。



 前回「Pirate05:冒険商人の生活」でも計算した通り、 通常射撃は外部損傷表を用いてランダムに命中箇所を決めます。 精密射撃に成功すれば、命中箇所は選択可能な範囲で任意に選択。 さらに難しい成功を得れば、任意の致命的命中までをも与えることができます。



 外部損傷表で与えられる損傷は、通常ドライブ−1燃料−1〜2兵器−1〜3のどれか。
 精密射撃に成功した場合、命中箇所を任意に選べます。 選べる命中箇所は、通常ドライブ−1燃料−2兵器−3のどれかになるでしょう。

 パルス・レーザーによる外部損傷は、少し選択肢が増えて通常ドライブ−1〜2燃料−1〜3兵器−1〜3のどれか。
 精密射撃に成功した場合、選べる命中箇所は、通常ドライブ−2燃料−3兵器−3のどれかになるでしょう。



 命中判定の行為判定で11+を出した場合は、目標に対して任意の致命的命中を与えることができます。
 「Pirate05:冒険商人の生活」でも検討しましたが、 一撃で獲物の逃走と抵抗を封じるためにはパワープラント使用不能が最善の選択。
 次善の目標としては艦橋破壊ジャンプ・ドライブ使用不能
 優先順位の三番目以降として、通常ドライブ使用不能火器管制装置破壊 などが考えられます。

 ハウス・ルール的な解釈ですが、目標に何であれ致命的損傷を与えたくない場合は、 通常の精密射撃成功として扱えば良いでしょう。
 これは最初に説明した、大きな攻撃力による致命的損傷、 攻撃力−1回の致命的損傷にも適用して構わないと思います。 そうでもしないと、海賊船が獲物の商船を射撃する度に、2.8〜8.1%の確率で消滅(爆発)してしまいますから。



 前回も書いたことですが、重要なのでもう一度書いておきます。
 このルールは海賊船と商船の戦闘ならば問題ないのですが、 軍用艦艇同士(特に戦闘艇)の戦闘シーンに導入するとトラベラーの世界観が崩壊します。 精密射撃のルールを採用される方はご注意ください。



 射撃のダメージ期待値表を再掲載しました。


           表7 射撃のダメージ期待値(射撃1回)

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 この表は「Pirate05:冒険商人の生活」の表12と同じものです。

 通常射撃の場合は命中箇所がランダムに決まりますので、それぞれの命中箇所に決まる確率と、 射撃の命中率を掛け合わせたものが結果として出てきます。

 射撃1回当たりの命中率は冒険商人と同じですから、特定の損傷を与える確率も同じでした。
 しかしS型偵察艦の武装は2門です。
 それぞれの兵器で射撃するため、射撃の回数も2回に増えます。  射撃のダメージ期待値は以下のように変わるでしょう。



 冒険商人の武装(単架ミサイル単架パルス・レーザー1門) と比較するため、それらの武装のダメージ期待値も上半分に併記しました。
 S型偵察艦の武装として、複架ミサイル砲塔(攻撃力2のミサイル2門)と 単架パルス・レーザー単架ミサイルの混合砲塔(どちらも攻撃力2)を想定しています。


          表8 射撃のダメージ期待値(射撃1〜2回)

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 ご覧の通り、獲物の商船に損傷を与えられる確率が大幅にアップしました。
 流石はS型偵察艦です。
 2G加速の能力と合わせれば、非武装の商船を幾らでも略奪し放題でしょう。

 獲物の商船が武装している場合は、最初の一撃だけで相手の砲塔を無力化できる確率が44.0〜65.1%になりました。
 ギャンブルにしては、ちょっと勝率が悪すぎます。
 やはり武装した商船を襲うのは止めておいた方が良いでしょう。

 お気づきの方もいらっしゃると思いますが、このダメージ期待値はS型偵察艦に限りません。
 A型自由貿易船の武装を複架ミサイル砲塔に換装するか、 もうひとつの武器設置点に単架ミサイル砲塔を追加するだけで、同じ効果を得られます。
 冒険商人は襲撃の成功率を上げるため、普段から金回りの良い時に武装の強化を図っておくべきなのでしょう。





(3)海賊船の勝率

 S型偵察艦を初めとして、武装を強化した冒険商人の海賊船が、 獲物である商船の捕獲に成功する確率を求めてみました。

 商船の行動(星系を離脱中/星系に到着後)、海賊船が狙う損傷個所、海賊船の射撃回数などによって、その数字は大きく変化します。


         表9 海賊船が獲物(商船)の捕獲に成功する確率

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 2門の武装を搭載したS型偵察艦は、1ターン毎に2回の射撃を行えます。
 ですから、射撃回数も2回、4回、6回という数え方になりました。

 星系を離脱中の商船は燃料を満載しており、何時でもジャンプが可能です。
 ですから星系を離脱中の商船を襲撃した場合、 海賊船が射撃するチャンスは2〜4回、不意討ちの先制攻撃を加えても最大で6回しかありません。
 この6回で商船を停船させることができるのか、という考察の結果が表9の数字、上半分になりました。

 当然のことですが、狙った損傷個所によって、捕獲の成功率が変わります。



 パワープラント使用不能を狙った場合、 最初の射撃チャンス(射撃回数は2回)での成功率は16.0%でした。
 1ターンに2回の射撃が可能になったおかげで、成功率は冒険商人のほぼ2倍。大きな進歩です。
 射撃4回になると成功率は29.4%、射撃6回で40.7%と更に増えました。

 致命的命中によるジャンプ・ドライブ使用不能と 外部損傷の通常ドライブ(1発の命中で十分です)を狙った場合、 破壊すべき命中箇所が2つですので、武装が1門しかない冒険商人では、なかなか捕獲できませんでした。
 しかしS型偵察艦は違います。
 捕獲に成功する確率は、射撃2回で5.8%、射撃4回で11.3%、 射撃6回で16.5%になりました。
 ……確かに増えましたが、大した変化ではありませんね。

 まず「燃料」損傷2回を与えることで商船のジャンプを阻止。
 次に通常ドライブを狙って捕獲する。
 という方法は、射撃2回で23.0%、射撃4回で40.7%、 射撃6回で54.3%でした。

 最も成功率の高い方法でも、23.0〜54.3%が最大です。
 2G加速のS型偵察艦でも、星系を離脱中の商船を襲って、 捕獲できる確率はあまり大きくありません。逃がしてしまう可能性の方が高いようです。



 星系に到着した直後の商船を襲撃する場合は、表の下半分の数字になります。

 星系に到着した直後の商船であっても、 パワープラント使用不能を狙った場合の捕獲成功率は変わりません。

 通常ドライブを狙った場合、精密射撃の成功率がそのまま捕獲成功率になります。
 捕獲成功率は射撃2回で57.8%、射撃4回で82.2%、 射撃6回で92.5%でした。

 「燃料」損傷2回を狙う方法は、ジャンプ直後の商船に極めて有効です。
 燃料のすべてを失った商船はパワープラント使用不能と同様に、逃走も抵抗もできません。
 成功率は射撃2回で54.9%、射撃4回で79.7%、 射撃6回で90.8%でした。

 今回も、星系に到着した直後の商船を襲撃する方が、 星系を離脱中の商船を襲撃した場合と比べ、捕獲成功率は高くなっています。
 燃料不足でジャンプによる逃走が不可能だ、という要素が大きく影響していました。
 S型偵察艦も商船を襲う際には、 100倍直径でジャンプアウト直後の商船を待ち伏せる方法が最も確実で、安全なようです。





4.冒険商人との遭遇


 再び、立場を入れ替えてみました。

 偵察局が通信任務や急使任務(小規模な人員や貨物の輸送)、独立任務で運行させている他、 民間の手に渡って自由貿易や郵便業務に従事しているS型偵察艦も、帝国内外に数多く存在します。
 それらのS型偵察艦が、冒険商人海賊船に遭遇した場合、 どのような対応をとるべきか、考えてみましょう。
 海賊船S型偵察艦を使っている可能性は考えません。
 そうした事例は稀だと思われますし、何よりパラメータが増えすぎて面倒だからですが。
 辺境航路を航行しているS型偵察艦が遭遇する海賊船の半数は、 A型自由貿易船AU型外航自由貿易船を駆る冒険商人です。
 それで問題ないでしょう。


 という想定ですので、航行している商船はS型偵察艦で、武装の有無は未定。
 待ち伏せいていた海賊船は、武装1門(単架のミサイル砲塔)を備えた A型自由貿易船AU型外航自由貿易船だとします。




(1)星系離脱中に、100倍直径で待ち伏せされた場合

 「Pirate05:冒険商人の生活」5章の(1)を反対の立場から見た場合です。

 しつこいようですが、S型偵察艦の加速度は2Gです。
 その加速性能をフルに活用すれば、主要世界からジャンプ・ポイントまでの移動時間は7割まで削減できますが、 残念ながら海賊に不意討ちされる可能性が増えるという問題点が発覚しました。
 その点について、以下の図で説明します。


PIRATE06_FIG10.JPG - 50.9KB

       図10 ジャンプ・ポイントで待ち伏せる海賊船と偵察艦の行動


 星系離脱中の商船を、2G加速のS型偵察艦に置き換えました。
 海賊船は、ジャンプ・ポイントの外側1ヘクスの距離で待ち伏せしています。

 海賊船の襲撃開始タイミングをXターンとして、以下に襲撃手順を説明しましょう。



X−2ターン(40分前)

 偵察艦は、ジャンプ・ポイントの手前12ヘクスで移動を開始し、手前6ヘクスで移動を終了しました。
 速度は8から6へ減速(2G)。
 移動終了時の偵察艦と、待ち伏せしている海賊船との距離は7ヘクスですから、 ほとんどの商船にとって海賊船を発見することは出来ませんが、 S型偵察艦ならば2Dで11+を出せば探知できます(成功率8.3%)。



X−1ターン(20分前)

 偵察艦は、ジャンプ・ポイントの手前6ヘクスで移動を開始し、手前2ヘクスで移動を終了しました。
 速度は6から4へ減速(2G)。
 移動終了時の偵察艦と、待ち伏せしている海賊船との距離は3ヘクスですから、 S型偵察艦が海賊船を発見するためには2Dで7+を出さなければなりません(探知成功率58.3%)。



Xターン(襲撃開始)

 偵察艦は、ジャンプ・ポイントの手前2ヘクスで移動を開始し、ジャンプ・ポイントで移動を終了しました。
 速度は4から2へ減速(2G)。
 偵察艦と海賊船との距離は1ヘクス(視認距離)となり、 偵察艦は自動的に海賊船を発見できます(判定不要)。
 この段階で、海賊船は襲撃(威嚇射撃や降伏勧告など)を開始します。



 1G加速の商船が冒険商人の海賊船と遭遇した場合、距離2ヘクスと4ヘクスでの探知を行っていました。
 探知能力に優れたS型偵察艦が1Gで移動している場合、探知成功率が2ヘクスで72.2%、4ヘクスで41.6%ですから、 冒険商人の「襲撃成功率」は16.2%しかありません。
 2G加速の商船が遭遇した場合は、距離3ヘクスと7ヘクスでの探知を行うことになります。
 探知能力に優れたS型偵察艦でも、探知成功率が3ヘクスで58.3%、7ヘクスで8.3%ですから、 冒険商人の「襲撃成功率」は38.2%に増えてしまいました。

 もっとも、遭遇時の速度が大きいと海賊船に襲われても回避しやすいので、必ずしも危険になるとは限りません。



 例えばS型偵察艦X−2ターン(40分前)に 待ち伏せしている海賊船を発見した場合、その探知成功率は8.3%しかありませんが、 進路変更によって海賊船の2ヘクス以上先を通過することが可能です。
 海賊船が上手くイニシアチブを取れば1ターンだけ視認距離まで近付いて射撃1回を行えますが、あまり効果はないでしょう。
 その一撃を受けないようにイニシアチブを取れれば、非武装であってもS型偵察艦は無傷で逃走できる訳です。

 S型偵察艦X−1ターン(20分前)に 待ち伏せしている海賊船を発見した場合、探知成功率は58.3%もありますので、半分以上の確率で不意討ちを避けられます。
 イニシアチブの取り方によっては、一度も撃たれずに海賊船の脇を通過することができるでしょう。
 イニシアチブを取れない場合、海賊船の射撃チャンスは二度ですから、最大で2回の射撃を受ける可能性がありました。
 しかしイニシアチブが取れなかったということは、偵察艦から反撃を行うチャンスが得られたことを意味します。
 偵察艦に武装が搭載されていれば、冒険商人に反撃して、海賊船の砲塔を無力化することも容易でしょう。

 どうにも、1G加速の商船を駆る冒険商人が、 星系離脱中S型偵察艦を捕獲することは、 不意討ちに成功しても難しいようです。

 海賊船の不意討を避けるため速度を抑えて航行するか、経済性のため最大加速で航行するか、 S型偵察艦の船長は難しい選択を迫られますね。



 イニシアチブの成否はともかくとして、海賊船に射撃される回数と、商船が逃走に成功する確率は、以下のようになりました。


        表11 商船の逃走成功率(星系を離脱中/反撃なし)

PIRATE06_FIG11.GIF - 12.6KB

 ヘクス・マップで試したところ前述の通り、海賊船を7ヘクス手前(X−2ターン)で探知に成功すれば、 イニシアチブによっては射撃を受けることなく逃走に成功しますし、射撃を受けても1回だけで逃げられます。
 脆弱なS型偵察艦にとっては実に有難い話ですね。
海賊船の探知に成功するタイミングが3ヘクス手前(X−1ターン)の場合、 イニシアチブを取れないと射撃2回を受ける可能性が見つかりました。
 どちらにしても、海賊船は最大で2回しか射撃を行えません。
 S型偵察艦は2G加速の性能を生かして悠々と逃走することが可能なのです。

 おまけに2G加速の通常ドライブを搭載しているおかげで、簡単には移動不能に陥りません。
 ミサイルビーム・レーザーによる攻撃は、 命中した際の損傷判定で外部損傷表を用いますが、 通常ドライブに与える損傷は通常ドライブ−1が最大です。
 2G加速のS型偵察艦を移動不能に陥れるためには、 通常ドライブ−1の損傷を2回与えるか、 精密射撃による致命的損傷通常ドライブ使用不能の一撃を与えなければなりません。
 S型偵察艦の無力化がますます大変になりました。

 致命的損傷を与えられるのであれば、通常ドライブ使用不能だけでなく、 ジャンプドライブ使用不能パワープラント使用不能消滅(爆発)でも自由に選べますね。
 ならば移動もジャンプも戦闘も不能になるパワープラント使用不能を選択すべきでしょう。
 上の表を見ての通り、致命的損傷パワープラント使用不能の一撃を与える以外、 簡単にはS型偵察艦を捕獲できないのです。



 星系離脱中S型偵察艦が、 冒険商人海賊船に待ち伏せされた場合、その逃走成功率はほぼ100%でした。
 唯一、パワープラント使用不能の損傷を受けた時だけは捕獲されてしまいますが、 それでも逃走成功率は射撃回数1回で91.7%、射撃回数2回で84.0%もありました。



 S型偵察艦の逃走成功率は意外と高く、100〜84.0%です。
 今回もイニシアチブの取り方で海賊船の射撃回数が大きく変わり、それに合わせて逃走成功率も変化しました。
 上手くイニシアチブを握れれば海賊船の射撃回数が0回で逃走成功率は100%、失敗すれば海賊船の射撃回数が2回で84.0%になる訳です。
 こういったリスクに対するレフリーとプレイヤーの反応は様々ですから 自由貿易商人がどういった対応を取るべきか、という結論は出しません。
 それぞれのレフリーとプレイヤーが考える世界観に従うべきでしょう。



 ところで、S型偵察艦は簡単に致命的損傷を受けてしまいます。
 ですから私は、海賊は獲物を消滅させてしまうより逃がす方を選ぶだろう、と考えていました。

 しかし、獲物を逃がすよりは消滅させた方がマシだ、と考える海賊が居る可能性は否定できません。
 食い詰めて余裕のなくなった海賊や、犯罪(強盗未遂)の証人を残したくない海賊は、恐らくそうした行動を取ることでしょう。

 命中箇所を絞った精密射撃ではなく、通常の射撃(無制限射撃?)を行った場合、 狙われたS型偵察艦にどのような致命的損傷が発生するのか、 以下の表に確率を示しました。


          表12 S型偵察艦が致命的損傷を受ける確率

PIRATE06_FIG12.GIF - 6.89KB

 この表は、S型偵察艦冒険商人海賊船からの射撃1回を受けた場合、 その兵器の攻撃力によって、特定の致命的損傷を受ける確率を示しています。

 獲物が消滅しては元も子もない。
 そんなことを考えた私は、目標に致命的損傷を与えたくない場合は、 通常の精密射撃成功として扱えば良い。
 大きな攻撃力による致命的命中、攻撃力−1回の致命的損傷精密射撃ならば無視できる。
 というハウス・ルールを提案させて頂いた訳なのですが、このハウス・ルールを利用しない場合は、 上記の表で示したように、獲物の商船(S型偵察艦)が消滅(爆発)してしまうことになるでしょう。

 具体的には攻撃力2の射撃を1回受けただけで、 爆発の可能性が1.6%
 T型哨戒艦P型海賊船の主兵装である三連架ビーム・レーザー 攻撃力4の射撃を受ければ、その1回で爆発の可能性が4.7%も生じます。
 その射撃が外れたり、存在しない損傷個所(例えばスクリーン破壊主砲使用不能) に命中した場合は「被害なし」ということになりますが、射撃が命中すれば高い確率で大きな損傷を受けます。
 それらの損傷を受ける確率が分かりやすいように「ジャンプ不能」、「移動不能」、 「戦闘不能」の確率を示しました。
 爆発を免れたとしても、かなり悲惨な状況に陥ることは、間違いありません。

 海賊船に撃たれた場合、S型偵察艦は射撃1回当たり 1.6〜4.7%の確率で爆発します。
 だからこそ、海賊船に襲われたら降伏するべきだ、という考えも一理あるでしょう。
 しかし私の世界観において、それは殺されてから略奪されるか、略奪されてから殺されるか、という意味のない選択肢でしかありません。
 私ならば、威嚇射撃や降伏勧告を無視して逃げ続けます。
 そもそも、獲物の安全を頓着せず射撃してくる海賊が、捕えた乗組員の生命を尊重してくれる可能性はあるのでしょうか?



 また、表12の数字は、獲物の商船の反撃でS型偵察艦の海賊船がどれだけのリスクを負うか、という数字でもあります。
 S型偵察艦で武装した商船を襲撃しようと考えているプレイヤーは、このリスクを良く考えてください。
 商船の反撃は正当防衛です。常に手加減(精密射撃)をしてもらえるとは限りません。 少なくとも私ならば手加減なしで、海賊の生命に頓着せず反撃します。
 本当に、武装した商船を襲撃するのは危険ですから、止めてください。



 今度は、襲われた側のS型偵察艦が武装している場合、 そのS型偵察艦の逃走成功率がどれだけ増えるか求めてみました。


        表13 商船の逃走成功率(星系を離脱中/武装あり)

PIRATE06_FIG13.GIF - 14.7KB

 偵察艦の逃走成功率は、上段の数字。
 偵察艦が損傷を受ける確率が、下段の数字(緑字)です。



 獲物の商船が武装している場合、海賊船は何よりも先に武装の無力化を試みなければなりません。
 商船のジャンプドライブ通常ドライブを破壊してから、 最後にのんびり砲塔を狙うという訳にはいかないのです。

 S型偵察艦を捕獲するためには、兵器損傷2回、通常ドライブの損傷も2回、それに加えて 「燃料」損傷2回かジャンプドライブへの致命的命中が必要です。
 とても1回か2回の射撃では間に合いません。
 そのためS型偵察艦の逃走成功率はパワープラント使用不能を除けば100%です。
 砲塔や燃料タンクなどに若干の損傷は受けるでしょうが、偵察艦は確実に逃げられるのです。

 S型偵察艦を捕獲する唯一の方法は前述の通り、精密射撃パワープラント使用不能を狙う以外にありません。
 この損傷を与えられた場合、偵察艦はジャンプも移動も戦闘も行えなくなります。 武装していても関係ありません。
 そして、そこを狙われた場合の逃走成功率は、射撃回数1回で91.7%、射撃回数2回で84.0%。

 冒険商人の海賊船がS型偵察艦を捕獲するためには、 容赦なくパワープラント使用不能を狙うことになるでしょう。




(2)星系への到着(ジャンプアウト)直後を待ち伏せされた場合

 今度は、「Pirate05:冒険商人の生活」5章の(2)を反対の立場から見た場合です。

 ジャンプアウトの座標は高い精度で割り出すことが可能です。
 冒険商人の海賊船は、ジャンプ・ポイントの隣接マスで待ち伏せをしていることでしょう。
 そして、ジャンプアウト直後の商船は相対速度がゼロであり、再度のジャンプも燃料不足のためにできません。

 しかしS型偵察艦の加速度は2Gです。
 相対速度ゼロの状態から逃走を始めたとしても、 偵察艦は最大2回の射撃を受けるだけで逃走に成功できることが分かりました。
 イニシアチブを上手く取れば、受ける射撃は0回。リスク無しでの逃走が可能なのです。



 待ち伏せされた商船が海賊船から逃れる成功率を、以下の表にまとめました。


         表14 商船の逃走成功率(星系に到着/反撃なし)

PIRATE06_FIG14.GIF - 5.21KB

 すでに明らかとなっていたことですが、通常ドライブを損傷するだけで、非武装の商船は捕獲されます。 もっともS型偵察艦は、通常ドライブの損傷を2回受けるまで移動不能にはなりませんが。
 それよりも致命的となるのは、外部損傷表でもダメージを受ける燃料タンク。 わずか1発の命中であっても「燃料−2」の損傷を受ければ、 偵察艦は行動不能になります。
 当然ながら、待ち伏せていた海賊船はそこを狙ってくるでしょう

 最初のターン、偵察艦がイニシアチブを取ることに成功すれば、 海賊船から離れる方向に2G加速をすることで1回も射撃を受けず、逃走できます。
 逃走成功率は100%。船体の何処にも被害を受けません。

 ちょっとだけイニシアチブを取ることに失敗した場合、海賊船から射撃1回を受ける可能性があります。
 「燃料」損傷を受ける確率は30.3%。
 ですから偵察艦の逃走成功率は69.7%まで下がりました。

 イニシアチブを取ることに連続して失敗した場合、海賊船から2回の射撃を受けてしまいます。
 逃走成功率はさらに下がって48.6%。
 ジャンプによる逃走は不可能ですから、非武装の偵察艦は降伏の道を選ぶべきなのでしょう。

 しかし、降伏の選択もイニシアチブ次第。
 イニシアチブを有利に取れる(〈宇宙船戦術〉技能レベルの高い)乗組員が揃っていれば、 2G加速のS型偵察艦はリスクなしで逃走できます。
 冒険商人の海賊船が待ち伏せしていても、恐れることはありません。



 S型偵察艦が武装している場合、海賊船は砲塔の無力化を優先します。
 逃走成功率は、以下のように変わりました。


         表15 商船の逃走成功率(星系に到着/武装あり)

PIRATE06_FIG15.GIF - 6.02KB

 今回も偵察艦の逃走成功率は、上段の数字。
 偵察艦が損傷を受ける確率が、下段の数字(緑字)です。



 武装した商船がS型偵察艦であっても、捕獲の前に 砲塔通常ドライブの双方を無力化しなければならないことは変わりません。 2門の武装と2G加速の通常ドライブ、それらを無力化するため、海賊船には3〜4回の射撃が必要となりました。
 どちらも外部損傷表で命中を与えることができるため、それほど難しくはありません。 ですが、冒険商人の貧弱な武装で3回以上の射撃を行うことはまず不可能です。
 その結果、偵察艦の逃走成功率は100%になりました。



 このままでは、獲物のS型偵察艦に逃げられてしまいます。海賊船が狙いを変更したことにしましょう。
 海賊船がパワープラント使用不能燃料を狙ってきた場合、 どちらにしても偵察艦パワープラントが機能しなくなります。
 通常ドライブによる逃走も、砲塔による反撃も不可能。
 実に効率的な攻撃方法であり、必要な射撃回数も増えません。
 「燃料」損傷を与える方法が最も逃走成功率が低く、 48.6〜69.7%のままでした。
 燃料を狙うのであれば、偵察艦が武装していても、逃走成功率は変わらないのです。

 すべての燃料を失った偵察艦はパワープラントが機能を停止し、 乗組員の生命維持や救難信号の発信も不可能になってしまうのですが、やはり仕方ありませんね。





5.通信妨害の行為判定(ハウス・ルール)


 海賊が商船を襲撃する際、海賊が無線妨害機を使用し、商船の救難信号発信を妨害するのは、至極当然のことでしょう。
 「帝国百科」に掲載された宇宙船の公式データには、 なぜか、無線妨害機を載せた宇宙船が1隻も見当たらないのですが、その問題には目を瞑っておいてください。
 市販の標準モデルには装備されていなくても、メーカー・オプションで無線妨害機などを追加できるのかも知れません。




(1)通信機の定義と使用方法

 「レフリーズ・コンパニオン p.38〜39」に掲載されていた、通信機の定義を以下に転載します。



電波(無線)通信機

 無線通信機は、電波を用いて、情報を送受信します。
 情報は「放送」されます(情報は全方位に送信され、最大通信距離の中に存在する、如何なる電波受信機によっても探知されます)。


 トラベラー世界において、指向性の電波通信機は存在しないようです。
 指向性放送(directional broadcast)という概念がStarship Operator's Manualで紹介されているものの、 具体的なルールや数値(性能や大きさ、価格などのデータ)は存在しないのです。
 そういった無線機を登場させてしまうと、後述するレーザー通信機やメーザー通信機の有難味が減じてしまうからでしょうか?

 作動(送信)している無線通信機の存在は、最大通信距離の中に存在する電波受信機(無線通信機の他、 レーダー探知機受動EMS)によって探知することが可能です。
 追跡(locate)ではなく探知(detect)です。大まかな位置が掴めるだけであることに注意してください。

 無線通信機の妨害は、無線妨害機によってのみ可能です。
 レーダー妨害機やEMS妨害機では無線通信を妨害できません(理由は分かりませんが、ルールに書いてあります)。
   
   

レーザー通信機

 レーザー通信機は、レーザー光線を用いて、情報を送受信します。
 情報は「狭域送信 Beamcast 」されます(特定の受信機に向けて送信され、その受信機によって受信されるだけです)。
 レーザー通信機は、視界不良、煙幕、雲などに悪影響を受けます。
 希薄(大気レベル4)以上の大気中で使用される場合、通信範囲は大陸間距離(〜5,000km)以下に制限されます。

 レーザー通信機は使用前に、受信機の位置を把握しなければなりません。
 (レーダーまたはレーザーレーダーによって、事前の打ち合わせによって、または他のセンサーによって、 はっきりと位置を突き止める必要があるのです)。
 一度、接触(通信している状態)が確立されたならば、通信機は(自動的に、自力で)接触を維持します。


 希薄(レベル4)以上の大気中では、大陸間距離までしか通信できない
 というのは新しい制限(ルール)ですね。
 納得しやすい制限ですので、問題なし。

 もうひとつの新しいルールは、使用前に受信機の位置を把握しなければならないこと。
 これも考えてみれば当然でしょう。 上記の通り、レーザー通信は極めて指向性が強いので、相手の位置を正確に把握していないとレーザーが相手を捉えられません。

 私は、宇宙船同士がレーザー通信を試みた場合、あらかじめ無線通信で接触しているか、 あるいは、通信相手の追跡(捕捉)に成功しなければレーザー通信を行えないと解釈しました。
 宇宙船が通信相手を追跡(捕捉)できるのは通常、視認距離(隣接マス)から10マスの範囲ですから、 お互いに移動する宇宙船同士が、電波妨害を受けながらレーザー通信を確立するのは難しいことのようです。
 戦闘時の軍用艦艇は、出撃時にあらかじめレーザー通信を確立してから、散開すべきなのでしょう。
 もちろん軌道宇宙港のように、存在場所が明らかになっている通信相手ならば、そうした準備(通信相手の追跡成功)は必要ありません。

 レーザー通信機の妨害は、大気、煙幕、散乱砂によって可能です。
 しかし具体的な記述はないので、レフリーの裁量に任されている模様。
   


メーザー通信機

 メーザー通信機は、マイクロ波を用いて、情報を送受信します。
 情報は「狭域送信 Beamcast 」されます(特定の受信機に向けて送信され、その受信機によって受信されるだけです)。
 メーザー通信機は、無線通信機の指向性「狭域送信」バージョンです。
 メーザー通信機は、大気(の濃度や状況)に、悪影響を受けません。

 メーザー通信機は使用前に、受信機の位置を把握しなければなりません。

 この使用制限はレーザー通信機のものと同様ですので省略します。

 メーザー通信機を妨害できるものはありません。



中間子通信機

 中間子通信機は、中間子のコード化されたパケットを使って、情報を送受信します。
 情報は「狭域送信 Beamcast 」されます(特定の受信機に向けて送信され、受信されるだけです)。
 中間子パケットの特性により、情報は送信機と受信機との間で傍受されることがありません。
 (惑星や恒星でさえ)何物も中間子通信機のビームを遮断できません。

 中間子通信機者は使用前に、受信機の位置を把握しなければなりません。

 この使用制限はレーザー通信機のものと同様ですので省略します。

 流石に、恒星やブラックホールの存在は中間子通信機を妨害できると考えたいのですが、公式ルールにおいては「遮断できない」そうです。
 まぁ、そういうものだと考えて受け入れましょう。
 中間子スクリーンで通信を遮断するなどという方法も有りだと思いますが、このあたりはレフリー裁量になるのでしょうね。




(2)通信妨害の行為判定

 ここからが本題です。
 「MT版ロボット・マニュアル」のp.34には、通信妨害に関するルールが記述されていました。
 基本的には、ロボットが通信妨害を受けた事態のための行為判定なのですが、これはそのまま宇宙船同士の通信妨害にも応用できると思います。
 通信妨害の公式ルールを、宇宙船同士の通信妨害で使えるようにアレンジしてみました。

 通信妨害を受けた宇宙船は、宇宙港当局や最寄りの宇宙船に緊急事態(海賊の襲撃)を伝えるため、以下の行為判定を行って下さい。

電波妨害を突破するには
   難易度〈難〉、攻撃=コンピュータ・レベル、防御=コンピュータ・レベル、    1戦闘ラウンド(20分、確定)

 レフリー:
   コンピュータ・レベルの代わりに、乗組員(通信士)の〈通信〉技能レベルと
   教育度DMの合計を用いても構いません(ロボットに限り技能なし可)。
   電波妨害機の最大妨害距離が、無線通信機の最大通信距離を越える
   距離帯毎に1段階難易度が上昇します。
   無線通信機の最大通信距離が、電波妨害機の最大妨害距離を越える
   距離帯毎に1段階難易度が減少します。


 「帝国百科」に掲載された宇宙船の公式データによると、 すべての宇宙船は、最大通信距離が星系内距離の無線通信機を1台装備しています。
 ですから、これらの宇宙船の救難信号発信を妨害するためには、少なくとも同出力 (最大妨害距離が星系内距離)の無線妨害機が必要となるでしょう。

 どちらかというと、この行為判定は通信妨害下で救難信号を受信する宇宙船(通りすがりの商船)が行うべき行為のような気もします。
 しかし、通りすがりの商船それぞれについて、乗組員(通信士)の技能レベルや教育度を決定するのは大変ですから、 簡略化のため、救難信号を発信している側の行為判定で済ませてしまえば良いでしょう。


            表16 通信機の最大通信距離(距離帯)

PIRATE06_FIG16.GIF - 8.31KB

 「レフリーズ・マニュアルp.68〜69」に掲載されている、 電波(無線)通信機電波妨害機の 最大通信距離(最大妨害距離)を、距離帯区分と並べて示しました。

 今更ですが、遠方遠軌道までの通信機は、 最大通信距離が10倍で、距離帯が1つ増える違いだったのに、最後の星系内通信機だけ 一気に最大通信距離が30万倍、距離帯が3つも増えていることに衝撃を受けております。
 なぜなのでしょうね?
 最後の2つの間に、異なる距離帯の通信機が存在した方が良いと思うのですが。

 前述の通り、宇宙船が標準装備している星系内通信機を妨害するためには、 電波妨害機も同出力(最大妨害距離が星系内)のものが必要となりました。
 出力が1つ低い電波妨害機は、最大妨害距離が遠軌道ですから、距離帯が3つも足りません。 妨害突破の難易度が3つも下がりますから、行為判定の必要もないほど簡単になるのです。



 宇宙服に搭載されている無線機については、「帝国百科」に記載されていませんが、 そのテックレベルで利用可能な最小サイズの無線通信機だと考えました。
 その場合、テックレベル11以下の宇宙服は最大通信距離が遠方(〜5km)、 テックレベル12〜14の宇宙服は最大通信距離が超遠方(〜50km)、 テックレベル15の宇宙服は最大通信距離が地域間(〜500km)の無線通信機を装備していることになります。

 乗り込み戦や地上戦闘において、どちらかが電波妨害機を使用した場合は、上記の最大通信距離を用いることになるでしょう。




(3)能動EMS探知/追跡妨害の行為判定

 通信妨害と同じように、探知機による探知や追跡を妨害することも可能です。
 ただし、EMS妨害機によって妨害が可能な探知機は能動EMSのみ。
 受動EMS質量探知機中性微子探知機の妨害はできません。

 ただし能動EMSの中には、妨害が困難なレーザー・レーダーなども含まれている筈です。 これらをどうやってEMS妨害機で妨害できるのか、そのメカニズムが良く分かりません。 探知側のレーザー・レーダー使用タイミングに合わせ、妨害側から同波形のレーザー光を撃ち込んだりするのでしょうか。

 このあたりは考え始めるときりがないので、棚上げしておくことにしますが。
 一般的な宇宙船の探知能力(探知と追跡の行為判定難易度)は、以下のようでした。


               表17 宇宙船の探知能力

PIRATE06_FIG17.GIF - 6.34KB

 一般の商船(A型自由貿易船R型政府指定商船M型客船)は、 能動EMS受動EMSしか搭載していません。
 ですから上の表で示した通り、 探知能動物体探知受動エネルギー探知の2つ、 追跡については能動物体追跡だけしか行えないことになります。

 受動EMSを搭載しているのに、なぜ受動エネルギー探知ができないのか、 MT版の探知ルールには不満もありますが、試しに訳してみたStarship Operator's Manualによれば、 中性微子探知機は魔法のような高性能探知機でした。
 どうやらTL9以下の未開人にはとても理解できないメカニズムが存在するようなのです。
 そんな便利な中性微子探知機を搭載していない以上、 受動エネルギー探知ができないのは当然だということになりますね。
 ちょっと悔しいのですが、納得して、ルールに従うべきでしょう。



 軍用艦艇や偵察局の艦船は、質量探知機中性微子探知機を搭載している可能性があります。
 具体的にはS型偵察艦T型哨戒艦ドラゴン型SDBなどが該当しますが。
 これらの艦艇は、質量探知機による 受動物体探知受動物体追跡中性微子探知機による受動エネルギー追跡、 以上3つの探知/追跡が可能になりました。

 ドラゴン型SDB探知/追跡難易度が部分的に高い理由は、 ドラゴン型SDBの製造テックレベルが13であるためです。
 難易度を下げるためには、貫通力1km以上の質量探知機と 探知可能最低出力10kwの中性微子探知機の搭載が必要であり、 それらの探知機はテックレベル14以上でなければ手に入りませんから。



 これらの宇宙船が電子妨害、EMS妨害機の影響下に入ると、 一切の能動物体探知能動物体追跡が出来なくなります。
 その場合、宇宙船の探知能力(探知と追跡の行為判定難易度)は、以下のように変わるでしょう。


            表18 宇宙船の探知能力(EMS妨害下)

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 御覧の通り、能動物体探知能動物体追跡の欄が空白に変わりました。

 一般の商船は、受動エネルギー探知だけしか行えません。
 射撃準備に不可欠な追跡を封じられてしまった訳です。
 この状況は、獲物とされた商船だけでなく、 自由貿易船で海賊行為を働く冒険商人にとっても同じことですが。

 つまり、EMS妨害機を使用している海賊船は、 一般の商船から視認距離以外で撃たれることが有り得ません。
 また、EMS妨害機を使用している商船は、 冒険商人から視認距離以外で撃たれることがなくなります。

 視認距離における精密射撃の話ばかりをしてきて今更ですが、 サイコロ運が悪いと視認距離以外でも撃たれる可能性があることは否定できません。
 モデル1のコンピュータしか搭載していない商船であっても、2ヘクスの距離で41.7%、6ヘクスの距離で2.8%の追跡成功率を持っています。
 追い詰められた商船が必死の反撃を試みたり、あるいは、 獲物を逃がしそうになって焦った冒険商人が射撃を試みることも考えられるのです。
 EMS妨害機は、あなたの宇宙船をそんな危険から守ってくれます。実に有難いアイテムですね。
 問題は、EMS妨害機の値段が40万クレジットもすることですが。
 A型自由貿易船のローン(+維持費)2ヶ月分の値段です。 こんな高いアイテムは、貿易品の売買で一山当てた商人でなければ買えません。



 双方がEMS妨害機を使用しているのであれば、通常はお互いに射撃がやりにくくなるだけの話でしょう。
 しかし片方だけが質量探知機中性微子探知機を搭載しているとなれば、 一方的に有利、もしくは不利な状況が発生します。

 S型偵察艦T型哨戒艦ドラゴン型SDBは、 質量探知機中性微子探知機を搭載しているため、 EMS妨害機の影響下であっても、それなりの探知/追跡能力を残しています。
 実際のところ、ドラゴン型SDBだけは 追跡の行為判定がに下がって困りますが、 テックレベル14以上の技術で製造されたS型偵察艦T型哨戒艦は、 能動EMSが使えなくなっても不都合がありません。

 残念ですが、商船でも海賊船でも、S型偵察艦の探知機に電子妨害が効かないことは覚えておきましょう。
 EMS妨害機を使用しても、撃たれる可能性が残っています。



 それはともかく、電子妨害が確実に成功してしまうのは面白くない。
 通信妨害と同じように、探知機の妨害も行為判定を行って、不確実さを再現すべきだ。
 そのように思われる方のため、以下のハウス・ルールを用意しました。
 はっきり言って探知の行為判定が煩雑になりますが、それはそれで面白いかと。

 通信妨害公式ルールのアレンジです。
 能動探知/追跡を行う際に、EMS妨害を受けた宇宙船は探知/追跡を行うため、以下の行為判定を行って下さい。
 この行為判定に成功した後、改めて探知/追跡の行為判定を行うことになります。

EMS妨害を突破するには
   難易度〈難〉、攻撃=コンピュータ・レベル、防御=コンピュータ・レベル、
   1戦闘ラウンド(20分、確定)

 レフリー:
   コンピュータ・レベルの代わりに、乗組員の〈探知機〉技能レベルと
   教育度DMの合計を用いても構いません(ロボットに限り技能なし可)。
   EMS妨害機の最大妨害距離が、能動探知機の最大探知距離を越える
   距離帯毎に1段階難易度が上昇します。
   能動探知機の最大探知距離が、EMS妨害機の最大妨害距離を越える
   距離帯毎に1段階難易度が減少します。
   行為判定の結果が例外的成功だった場合、電子妨害の影響はありません。
   ペナルティなしで、能動探知/追跡の行為判定を行えます。
   行為判定の結果が通常の成功か部分的成功だった場合、部分的に妨害されます。
   能動探知/追跡の行為判定を行う際に、難易度をひとつ上げて下さい。


 通信妨害と同じように、一般的な宇宙船の探知機と妨害機は同じ出力(最大探知距離と最大妨害距離)を備えているでしょう。
 そのため、実質的な行為判定の成否は、搭載されたコンピュータのモデル数に依存することになります。
 コンピュータのモデル数がお互いに低い場合にのみ、乗組員の技量が重要な要素となりました。



 能動探知機の最大探知距離と、EMS妨害機の最大妨害距離を比較するため、距離帯区分を以下の表にまとめておきます。


           表19 能動探知機の最大探知距離(距離帯)

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 「帝国百科」に掲載された宇宙船の公式データによれば、 帝国内を航行する一般的な小艇(戦闘艇を含みます)は惑星距離(〜50,000km)の能動EMSを、 一般的な恒星間宇宙船は遠軌道距離(〜500,000km)の能動EMSを搭載しています。

 EMS妨害機を搭載している宇宙船は CE型小型護衛艦P型海賊船の2隻のみです。
 そして、その最大妨害距離は遠軌道距離(〜500,000km)でした。
 EMS妨害機は、T型哨戒艦SDBにも必須の装備である。 私はそう思っているので納得しかねますが、公式設定では上記のようになっていました。その理由については、これから考えましょう。



 今更ですが、一般的な小艇に積まれている能動EMSの最大探知距離が 惑星距離(〜50,000km)までしかないことを発見して、驚いております。
 惑星距離(〜50,000km)ということは、宇宙船戦闘マップで3ヘクス(近距離)までしか探知/追跡できません。
 おまけに、能動探知/追跡の難易度はひとつ難しくなって、難易度〈難〉です。
 戦闘艇を含めて、小艇が海賊船の待ち伏せに気付くことは、とても難しいということが判明しました。



 P型海賊船が、標準仕様でもEMS妨害機を載せている事実に安心しました。
 しかし、EMS妨害機を載せている理由はやはり、海賊行為のためなのでしょうか。





6.漂流者の生存時間


 前回の冒険商人に加えて、今回はS型偵察艦の海賊を考察してみました。
 その結果、彼らが商船を襲撃する際は、 パワープラント使用不能燃料を狙うべきだ、 という結論がまとまりつつあります。

 どちらにしても攻撃に成功すれば、狙われた商船のパワープラントが機能を停止。
 ジャンプや通常ドライブによる逃走も、砲塔による反撃も不可能となる訳ですから、極めて効果的な狙い場所だと言えるでしょう。

 その代わり、捕獲された商船は乗組員の生命維持や救難信号の発信も不可能になります。 残念ながら、パワープラント使用不能致命的損傷ですから、応急修理ができません。 燃料「タンク」の損傷は修理できますが、失った燃料は取り戻せません。
 捕獲された商船は、海賊船が造船所まで連れて行ってくれない限り、航行不能の状態が続きます。

 商船に非常用電源(予備の小型核融合炉やバッテリー)が搭載されていない状況もどうかと思うのですが、 生命維持を賄う数Mwの電力があれば、その商船はコンピュータと管制パネル、探知機と通信機、ミサイルなどの武装を動かせます。
 商船は反撃が可能になる訳ですから、海賊船は優先的に、非常用電源を破壊することとなるでしょう。

 海賊の関心が商船の貨物と金庫の中身にしか向いておらず、旅客や乗組員の命に無関心だった場合、 解放された彼らは生命維持も救難信号の発信も不可能になった商船の中へ取り残されることとなります。
 果たして、彼らの運命はどうなるのでしょうか?
 これまでずっと放置してきた疑問ですが、ちょっと考えてみましょう。



 あなたは海賊に捕獲され、略奪の後に解放された商船の乗組員です。
 唐突ですが、そういう設定で考えて下さい。

 不幸中の幸いと言うべきか、海賊の襲撃と同時にトランスポンダを救難モードに切り替えたので、 あなたの商船が海賊に襲われたことは、付近の宇宙船や主要世界の宇宙港には伝わっている筈です。
 トランスポンダは機能を停止する寸前まで、商船の現在位置とベクトルを通報しているので、 信号が途絶した今も、救援の宇宙船はあなたの現在位置を把握しています。
 主要世界の宇宙港を緊急発進した救援が4G加速でジャンプ・ポイントに到着するまで、最短で3〜4時間というところでしょうか。 主要世界がガス・ジャイアントの衛星だった場合は、最短で6〜9時間です。
 あなたの商船が海賊に捕獲されるまで逃げ回っていれば、上記に1時間が追加されるでしょう。

 残念ながら、商船のパワープラントは破壊されました。応急修理もできません。
 積載小艇は高価な略奪品ですから、海賊に持ち去られてしまいました。
 動力がない以上、商船の生命維持システムも機能を停止しています。
 あなたは、一体どれだけの時間、生き延びることができるのでしょうか?




(1)レスキュー・ボール

 宇宙船が遭難した際、真っ先に頼るアイテムがレスキュー・ボールです。
 着用に技能が必要な宇宙服と異なり、素人であっても無難に使えるためでしょう。
 それに加えて、宇宙服よりもずっと安価です(これは重要)。

 「帝国百科」p.66から情報を抜粋しました。

レスキュー・ボール[救命球]:

 すべての帝国海軍艦艇と、ほとんどの民間船舶に標準装備されています。
 折り畳まれた状態のレスキュー・ボールは、直径が5cm、長さが10cmの筒状になっています。
 展開時には直径1mの球となり、人間1人が2時間生存できるだけの空気が中に入ります(それを使い尽くしてから、圧縮空気を使うことになります)。
 爆発的な減圧やその他の空気漏れが生じた場合、救命用の宇宙服を持たない者が、レスキュー・ボールに入って救出隊の到着を待つのです。
 使用者は引綱を引いてレスキュー・ボールを膨らませ、中に入ってジッパーで密閉します。
 ボールは合成樹脂製で、レーダーで発見しやすいように表面が金属で覆われており、  圧縮空気のボトル、救急医療キット、そして外の状況を観察するための透明窓が装備されています。
 レスキュー・ボールは、宇宙空間の放射線や腐食性で劣悪な大気から、内部の者を5時間から7時間ほど守ってくれます。

 TL7  容積1リットル  重量5kg  価格150cr


 以上、引用終わり。

 という訳で、あなたには2時間の生存時間が与えられたようです。
 しかし上記で述べたように、2時間で救援が到着する可能性は、まず有りません。

 実は、海賊船にパワープラントを無力化された瞬間から、商船の生命維持システムが止まっています。 レスキュー・ボールに備えられた酸素だけでは、とても救援が来るまで間に合いません。
 どうやら、宇宙服を使わなければならないようですね。




(2)宇宙服

 再び「帝国百科」を開きます。今度はp.68を参照しましょう。

装備品

 携帯型生命維持システム(PLSS)は、大気が呼吸不可能な世界を訪れるときの必需品です。
 空気循環装置はバッテリーの電力で浄化を続け、タンクに酸素が残っているかぎり呼吸を続けることができます。
 予備の酸素タンクを持っていけば、さらに長時間の活動が可能になります。
 より高度なテックレベルでは、軽量化されたタンクに大きな圧力をかけて空気を充填します。


 以上、引用終わり。

 すっかり忘れていましたが、MT版の宇宙服は幾つかの部品が組み合わさって宇宙服を構成していました。 宇宙服本体に生命維持システムやヘルメット、吸着盤や推進器、追加装甲などを組み合わせ、 様々な宇宙服をデザインできるのです。
 CT版の宇宙服は、すべてを一纏めにした宇宙服しかありませんでしたが。

 その中の生命維持システムについて、必要な数値を以下にまとめました。


              表20 宇宙服の最大活動時間

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 左端は、その生命維持システムのテックレベル。
 次の欄は、酸素タンクのタイプと数。
 3番目の欄が、その生命維持システムによって得られる最大活動時間。
 右側の3つの欄が、生命維持システムの容積、重量、価格となっております。

 CT版の宇宙服は、最大活動時間が6時間でした。また、幾つかのシナリオに登場する宇宙服は8時間です。
 それに比べてMT版の宇宙服は、活動時間が長くなりました。一部に短くなっているものもありますが。



 テックレベル9の生命維持システムは、重くて、嵩張ります
 平均的なキャラクター(人類)の筋力は「7」ですから、最も軽く小さな生命維持システム(4時間タイプ、重量7kg)であっても、 通常荷重の制限を使い切ってしまうでしょう。
 次に大きなシステムは24時間の連続行動が可能ですが、重量は14.5kg。これだけで2倍荷重を超えてしまいました。
 過半数のキャラクター(筋力7以下)は、生命維持システムを背負うだけで動けなくなってしまいます。 不特定多数の旅客向け、避難用としては使えません。
 宇宙船の備品としてテックレベル9〜11の宇宙服が積まれているとしたら、 その付属品である生命維持システムは恐らく最小サイズの4時間タイプになっていると思われます。 一部の乗組員向けに、長時間の船外活動用として24時間タイプが積まれているかも知れませんが、主流は4時間タイプの筈です。

 ということで、テックレベル9の宇宙服を着た旅客や乗組員の生存時間は、レスキュー・ボールの分と合わせて6時間になりました。
 これで十分だとは思えませんが、低テックレベルの装備しかない場合、この程度が限界です。
 活動時間の長い生命維持システムを用意しておくことはあまり現実的でありません。
 生存時間を引き延ばすため、予備のレスキュー・ボールを複数(1人当たり4〜10個)用意しておき、 ボール内が息苦しくなってきたら(内部の酸素を使い果たしたら、新しいボールに引っ越すという対策はどうでしょう。
 宇宙服の酸素は引っ越し(移動)時だけしか使いません。 これならば、低テックレベルの宇宙服でも安価に長生きできる筈。



 テックレベル12の生命維持システムは、テックレベル9のものと比べて若干、軽量小型化されました。
 最小サイズ(4時間タイプ)は重量4kgになりましたから、筋力4以上のキャラクターならば標準荷重(ペナルティなし)で背負えますし、 筋力2の虚弱キャラクターでも2倍荷重で活動可能です。技術の進歩は有り難いですね。
 次のシステム(24時間タイプ)は重量11kgですから、過半数(筋力6以上)のキャラクターならば2倍荷重で背負えました。 それでもやはり着用者を選びますから、不特定多数の旅客向け、避難用としては使えないでしょう。

 テックレベル12〜13の宇宙服が積まれている場合も、生命維持システムは4時間タイプが主流になっていると思われます。
 生存時間は、レスキュー・ボールの分と合わせて6時間でした。
 やはり、レスキュー・ボールの予備が必要になるようです。



 テックレベル14の生命維持システムは、劇的なレベルで軽量、小型化に成功しました。
 最小サイズは重量0.5kgで、酸素タンク1本分の重量にしかなりません。生命維持システム自身の重量は無視できるレベルのようです。 おまけに活動可能時間は12時間ですから、従来の3倍に増えました。
 技術の進歩は実に有難いことなのです。
 そして、最も重く嵩張る生命維持システム(48時間タイプ)であっても、その重量は3.5kg。テックレベル12の最小サイズよりも軽くなりました。
 着用者(キャラクター)の筋力制限は無いも同然ですから、このタイプの普及を妨げる要素は、その価格(8,000Cr)だけです。

 テックレベル14以上の宇宙服を積んでいる場合、生命維持システムは12時間タイプが主流でしょう。
 場合によっては、長期の避難行動に備えて48時間タイプを搭載している可能性もあります。
 旅客や乗組員の生存時間は、レスキュー・ボールの分と合わせて14時間〜50時間に延びました。
 これだけの猶予があれば、多くの旅客や乗組員は、救援が来るまで生きていられるようです。

 帝国内を航行している商船の多くは、「帝国百科」の記述によれば、同じテックレベル15で製造されているようです。
 すると、その商船の船内ロッカーに積まれている宇宙服もテックレベル15で製造されている可能性が高いですね。
 スピンワード・マーチ宙域のテックレベル分布、高テックレベル世界への移動距離や時間を考えると、その設定には疑問を感じるのですが、 その設定に従えば、解放された旅客や乗組員には最低でも14時間の生存時間が与えられるでしょう。
 そういうことにしておきます。



 ふと思ったのですが、商船が奇襲されてパワープラント使用不能致命的損傷を受けてしまった場合、 商船は救難信号を発信できません。
 また、海賊の脅迫に屈して(海賊の約束を信用して)降伏した場合も救難信号を発信することはないでしょう。
 そのような場合、周囲の宇宙船も宇宙港も、海賊の襲撃を知ることができません。
 精々、商船のトランスポンダが突然途絶えた、という程度の認識しかしてもらえないでしょう。
 ジャンプする直前は宇宙港の管制へ、ジャンプ・インのタイミングと目的地を伝えることが一般的な慣習らしいのですが、 辺境星系では分かりませんね。そもそも、管制されていない星系も多いようです。

 連絡なしでジャンプする商船が数多く存在するのであれば、ジャンプ・ポイント周辺でトランスポンダが途絶えても不審には思われません。
 ジャンプしたと思われるだけです。
 だとすれば、乗組員と旅客を皆殺しにして、略奪後の商船を爆破してしまえば、完全犯罪の成立でしょうか?

 そこまで酷いことはやらないとしても、パワープラントが破壊された商船は、解放された後も救難信号を出すことができません。
 救難信号を出さなければ、何時まで待っても救援は来ないでしょう。
 できることならば海賊船は、救助の宇宙船が到着する寸前まで、乗組員の生命に責任を持って欲しいものです。





7.まとめ

 S型偵察艦の海賊船について考察しました。



 まずはS型偵察艦の脆弱性を再確認。
 その小さな船体サイズ故にS型偵察艦致命的損傷を受けやすいこと、 そして、その致命的損傷がどれだけ致命的であるかを確認しました。
 S型偵察艦は、獲物の商船から反撃を受ける可能性が見つかったのであれば、 その商船に襲いかかるべきではありません。非武装の商船だけを厳選すべきなのです。



 次に、海賊船の待ち伏せ場所を考察しました。
 2G加速のS型偵察艦であっても、星系内移動中の商船追跡は極めて困難です。
 必然的に待ち伏せ場所は冒険商人と同じ、主要世界の100倍直径付近となりました。

 しかしながら冒険商人のようにジャンプ・ポイントのすぐ近くで待ち伏せている必要はありません。
 ジャンプ・ポイントから少し離れた場所で待ち伏せできるため、 星系を離脱中の商船に対する不意討ち成功率は高くなりましたし、 星系に到着直後の商船を待ち伏せする場合は、戦況が不利ならば逃げることが容易になったのです。



 宇宙船戦闘の際、脆弱なS型偵察艦は極めて不利な立場に陥りますが、 獲物の商船が非武装ならば、それは何のペナルティにもなりません。
 獲物を逃がさず、捕獲するまでの追跡を可能にする2G加速。
 捕獲率を2倍に引き上げてくれる、2門の武装。
 それらによって、冒険商人よりも高い勝率を発揮できるのです。
 非武装の商船を襲うのであれば、S型偵察艦は強力な海賊船となるでしょう。



 S型偵察艦を運航する、偵察局員や自由貿易商人の立場からすると、 乗り組んだ偵察艦が海賊船に襲われた場合、そのリスクは乗組員の技量に左右されることが分かりました。
 イニシアチブを有利に取れる(〈宇宙船戦術〉技能レベルの高い)乗組員が揃っていれば、 2G加速のS型偵察艦はリスクなしで逃走できます。
 冒険商人の海賊船が待ち伏せしていても、恐れることはありません。

 イニシアチブを取れない、〈宇宙船戦術〉技能レベルの高い乗組員が乗っていないとしても、 海賊側の手加減によって致命的損傷を受けなければ、偵察艦は頑強でした。
 1回や2回の射撃では簡単に捕獲されません。
 若干のダメージは免れませんが、逃走成功率は高いのです。

 もし海賊側が手加減をしてくれない(容赦なく致命的損傷を与えてくる)場合、 S型偵察艦は、その脆弱性を暴露します。
 1回でも射撃を受けたのであれば、偵察艦の多くは致命的損傷を負います。
 その偵察艦はジャンプ/移動/戦闘不能の状態に追い込まれるでしょう。
 レフリーとプレイヤーの世界観にもよりますが、海賊の射撃が手加減なしであるならば、降伏の道を選ぶべきかも知れません。

 武装商船を襲撃したS型偵察艦の海賊船にも同じことが言えるでしょう。
 反撃を受けた偵察艦は、高確率で海賊稼業を続けられなくなります。
 武装した商船を偵察艦で襲うことは、とてもリスクが高いのです。



 星系を離脱中S型偵察艦は、逃走成功率が高いままです。
 武装/非武装に関わらず、偵察艦の逃走成功率は100〜84.0%。
 武装の有無に関係ないのはパワープラント使用不能を狙う以外に捕獲する方法がないためです。

 星系に到着直後偵察艦も、燃料不足によって行動が制限されています。
 逃走成功率は大きく低下して100〜48.6%。特に「燃料」損傷を狙われると逃げられません。
 イニシアチブを有利に取れば、ノーリスクで逃走することも可能ですが。



 最後に、無線通信の電波妨害についてハウス・ルールを提案させて頂きました。
 行為判定が煩雑にはなりますが、無線通信や能動EMSの妨害が確実では面白くない、という方には使いでがあるかと思います。






2012.03.11 初投稿。