Tide Power in the Traveller space
トラベラー宇宙の潮汐力
 MEGA TRAVELLER
Science -Fiction Adventure
in the Far Future

CG softs:  DOGA-L3, Metasequia

 

 

 

 

 

 
 



 
 

 

1.はじめに


 唐突ですが、先日「もしも月がなかったら」(ニール・F・カミンズ著 竹内均監修 東京書籍)を読破しました。
 何時に買った本だか覚えていませんが、私の本棚から発掘されたものです。
 タイトル通り、もしも月がなかったら、この地球はどんな環境になっていただろう、という思考実験を行ない、その結果をまとめた書籍でした。
 それぞれの仮想地球に、それっぽい名前を付けているところが良かったです。

1.月の無い地球       ソロン
2.月がもっと地球近かったら ルンホルム
3.地球の質量が小さかったら ……以下略。

 全部で10の仮想地球が取り上げられているのですが、最初の2つは、地球と月との間に働く潮汐力に関して多くのページが割かれていました。
 
 潮汐力とは、言うまでもありませんが、潮の満ち引きを引き起こしている力です。
 著者によると、潮汐によって起こる海洋内(海岸)での無機物撹拌や、干潟の生成は生物にとって非常に重要なので、月の潮汐が無い世界(例えば、ソロン)では、生物の進化が5〜10億年単位で遅れただろう、などということが書いてありました。
 逆に、潮汐力が強い世界(例えば、ルンホルム)では、潮汐が激しいため、海岸線はわずかな時間で形を変え、河川沿いの平野部は潮汐波によって定期的に洪水に襲われ、などという可能性がある訳です。

 こんな面白いネタを見つけて、設定オタクの
私が黙っている訳にはいきません。
 潮汐力についての計算式やデータを見つけ、それをトラベラー宇宙の各世界に、当てはめてみようと思います。
 





2.テラ(地球)に働く潮汐力

(1)月が地球に及ぼす潮汐力

 潮汐力(加速度)の強さは、衛星(月)の質量、惑星(地球)の半径、衛星の公転半径によって決まります。

 を「規模2の世界」とみなせば衛星の質量は「0.0156」(地球の質量を1とした場合の数値、CT「偵察局」)なのですが、理科年表によれば実際は「0.0123」しかありません。月こ構成する物質が低密度なのでどうだとか書いてあったように思いますが、計算を簡単にするためトラベラー宇宙の月質量は「0.0156」ということにして、話を進めます。

 惑星半径は、地球の半径を基準としたいところですが、トラベラー世界で扱い慣れているUPPをそのまま使えるように「規模8」の「」を基準値とします。

 衛星の公転半径は、惑星半径の何倍という表現で軌道の大きさを表していますので、これもそのまま使えるようにします。月の公転半径は、ご存知の通り40万kmですが、これは惑星(地球)半径の60倍ということになっていました。
 規模8の60倍ですから、暫定的に「480」を基準値としておきます。
 あるいは、そのまま「40万km」を基準としても構いません。
 一応、理科年表では「38万4千km」となっていますが、トラベラー宇宙の月は地球から40万kmの距離を回っているのです。
 

 さて潮汐力の大きさは、惑星の質量、衛星の質量、惑星の半径に比例し、衛星の公転半径の3乗に反比例しています。
 ですから、月が地球に及ぼす潮汐力の大きさは、

1 Luna Power = (0.0156/0.0156)×(8/8)×(480/480)^-3

 ということになりました。
 1Luna Power とは「月が地球に及ぼす潮汐力の大きさ」を1とした基準値です。潮汐力の大きさを表現するために今後は多用しますが、恐らく「ルナP」と略して表記することになるでしょう。




(2)太陽が地球に及ぼす潮汐力

 そもそも、私が潮汐力の大きさに注目した点が、主恒星がその星系の居住可能惑星に及ぼす潮汐力の「意外な大きさ」でした。
 トラベラー宇宙にはM型の恒星が数多く存在しており、その恒星を巡る主要世界は、可住圏ならば必然的に、軌道番号0(公転半径は0.2AUの距離)を巡っていることになります。
 それについての考察は追々行なっていきますが、ソル星系の主恒星(ソル:太陽)が惑星(テラ)に及ぼす潮汐力について考えてみましょう。


 潮汐力の強さは、主恒星(太陽)の質量、惑星の半径、惑星の公転半径によって決まります。

 太陽の質量は、地球を基準とすれば「332,946」です。月の質量が、地球を基準として「0.0156」ですから、太陽の質量は、月の質量の「21,342,692」倍になりました。
 地球の質量は、そのまま「1.00」を用います。

 惑星半径も「規模8」の「」を基準値としました。

 地球の公転半径は、1.0AU(天文単位)です。
 1.0AUは、150,000,000kmに相当しており、これは月の公転半径400,000kmの375倍です。月の公転半径を「480」と定義している訳ですから、1.0AUは480×375=「180,000」になりました。


 太陽が地球に及ぼす潮汐力の大きさは、

1 Sol Power = (21,342,692)×(8/8)×(375)^-3
       = 0.405 ルナP。

 ということになりました。
 太陽が地球に及ぼす潮汐力の大きさは、月が及ぼす潮汐力の4割にしか相当しないということです。厳密に、月の質量を「0.0123」とするならば、太陽の潮汐力は、月の潮汐力の5割に相当する筈なのですが、トラベラー宇宙での潮汐力は「4割」になったということです。




(3)ガス・ジャイアントが衛星に及ぼす潮汐力

 太陽系ではあまり問題になりませんでしたが、巨大ガス惑星(ガス・ジャイアント)が衛星に及ぼす潮汐力も、馬鹿に出来ません。
 トラベラー宇宙においては、ガス・ジャイアントの衛星がその星系の主要世界であることも多いので、ガス・ジャイアントが及ぼす潮汐力も計算しておきます。


 例によって潮汐力の強さは、巨大ガス惑星(ガス・ジャイアント)の質量、衛星の半径、衛星の公転半径によって決まります。

 ガス・ジャイアントの質量は、CT「偵察局」にも明記したものがありません。
 かろうじて、大型ガス・ジャイアントは半径6万km以上のもの、小型ガス・ジャイアントは半径2〜6万kmのもの、という記述が見つかっただけです。
 これらの質量を計算するためにはどうすれば良いのか、とても悩みましたが、独断と偏見によって、

 典型的な大型ガス・ジャイアントは、半径5万km(直径10万km)、その質量は月の「7,000」倍ということにしました。
 典型的な小型ガス・ジャイアントは、半径2万5千km(直径5万km)、その質量は月の「900」倍です。

 大型ガス・ジャイアントの半径が少し小さくなりましたがCT「スタート・セット」のチャートブックには、大型ガス・ジャイアントの100倍直径が、1,000万kmと明記されています。
 ですから、大型ガス・ジャイアントの直径は100分の1で10万km。
 同じく、小型ガス・ジャイアントの100倍直径が500万kmという記述より、小型ガス・ジャイアントの直径は5万kmということです。
 私の考察「ピケット/燃料供給など」はその数値に基づいていますので、今回の計算もそれに合わせました。


 衛星(世界)の公転半径は、大型ガス・ジャイアントならば軌道番号8が40万km、小型ガス・ジャイアントならば軌道番号16が40万kmに相当します。
 ですから距離の影響を求める際には、大型ガス・ジャイアントの場合は(軌道番号/8)^-3、小型ガスジャイアントの場合は(軌道番号/16)^-3を用いることになるでしょう。




(4)地球の海洋に現われる潮汐力

 地球の潮汐といいますと、カナダのファンディ湾(潮位差15m)とか、フランスのモン・サン・ミッシェル(潮位差8〜15m)などが有名です。
 しかし、これらの潮位差は地形の影響を大きく受けていますので、地形の影響をほとんど受けない大海原の中(小笠原諸島)で、1日の最大潮位差が1.3mというデータを見つけました。

 月が地球に及ぼす潮汐力が、1.0ルナP。
 太陽が地球に及ぼす潮汐力が、0.4ルナPですから、合わせて1.4ルナP。
 1.0ルナPの潮汐力が、海洋に1.0mの潮位差を作り出すと考えて、これからの計算を進めてみましょう。



 蛇足のように思えますが、潮汐の模式図を載せておきます。
 下の右図に描かれた地球の上下方向に、太陽や月など、潮汐力の原因となる重力源が存在すると考えて下さい。



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Fig.1 潮汐力の働き


3.ソル星系の潮汐力

(1)金星の潮汐

 もしも金星に海があったら、という仮定で計算をしてみます。
 バロウズの描く「金星シリーズ」では、厚い雲の下に広大な海洋が隠されている、という設定だったと記憶していますが。

 トラベラー宇宙の金星は、軌道番号2(軌道半径0.7AU)を巡る、規模8の腐食性大気を持った砂漠世界です。
 無理矢理、金星に海洋が存在することにしてみましょう。

 0.7AUは105,000,000km。地球=月間の距離400,000kmの262.5倍でした。
 太陽が金星の海洋に及ぼす潮汐力の大きさは、

 (21,343,692)×(8/8)×(262.5)^-3
= 1.180 ルナP。

 月が地球に及ぼす潮汐力の、およそ1.2倍です。
 金星に海洋が存在するとしたら、地球とほぼ同程度の(若干弱い)潮汐が存在することになりました。
 実際のところ、金星の自転は極めて遅い周期でしかありません。
 ですから、年に数回の満ち引きしか起こらないのでしょう。
 
もしも自転周期が24時間だとしたら、地球並みの潮汐が存在できそうです。




(2)水星の潮汐

 もしも水星に海があったら、という仮定で計算をしてみます。
 これだけ太陽に近いと、その世界は確実に「灼熱地獄」となっている筈なのですが、その辺はさておき、潮汐だけを考えました。

 トラベラー宇宙の水星は、軌道番号1(軌道半径0.4AU)を巡る規模3の真空世界になっています。
 海洋が存在するとしたら、その潮汐はどうなっているでしょうか。

 水星の規模は3ですから、半径は8分の3で、「0.375」となります。
 0.4AUは60,000,000km。地球=月間の距離400,000kmの150倍でした。
 太陽が金星の海洋に及ぼす潮汐力の大きさは、

 (21,343,692)×(0.375)×(150)^-3
= 2.37 ルナP。

 太陽へ大きく近付いたにも関わらず、水星の規模が小さい(半径が小さい)ことから、潮汐力の大きさもあまり大きくなりませんでした。

 月が地球に及ぼす潮汐力の、およそ2.4倍しかありません。




(3)イオの潮汐

 木星の衛星、イオに及ぼされる潮汐力の計算です。
 現実において木星が、イオに強力な潮汐力を及ぼしていることは有名でしょう。
 そのためイオの火山活動が活発化して、希薄な大気が存在する程だそうですから。

 木星の半径と質量は、私が作成した大型ガス・ジャイアントの数値を用います。
 半径5万km、質量が月の「7,000」倍というデータですね。

 また、イオは(CT「偵察局」より)規模2の世界として扱いました。
 半径は8分の2ですから「0.250」ということになります。
 軌道番号は6ですから、公転軌道の影響は(6/8=0.750)^-3でした。

 イオにも海洋が存在するとしたならば、木星がイオの海洋に及ぼす潮汐力の大きさは、

 (7,000)×(0.250)×(0.750)^-3
= 4,148 ルナP。

 月が
地球に及ぼす潮汐力の、およそ4,150倍です。
 イオにも「カナダのファンディ湾」のような地形が存在するとしたら、その入り江の潮位差は、62,250mにも達すると分かりました。
 海洋の中、小笠原諸島のような孤立した地形であっても、4,000mの潮位差が毎日、生じている訳です。

 ついでに計算してみたところ、イオの公転周期は40時間(=1.66日)になりました。現実世界のイオとは若干異なりますが、極端に異なることはありません。似たような数字です。

 イオの自転周期はすでに公転周期と同期しています。
 そのため、イオは常に同じ面を木星に向けているそうですが、仮にイオの自転周期が15.4時間だとしたら? 
 その場合、イオは地球と同じように、25時間で2回の干満が起こるようにすることになりました。
 ですので上記の想定通り、イオの海洋の中でも4,000mの潮位差が生じ、ファンディ湾では62,250mの潮位差が生じているでしょう。
 1時間当たりに直せば、海洋の中でも毎時660m。
 ファンディ湾ならば、毎時10,000mの潮位変化です。
 自転周期は任意に決めることができますが、どうなるにしても、とても楽しい世界になりそうですね。

 また、イオの自転周期がもっと遅くなった(例えば30時間になった)場合、潮位の変化はゆっくりになりますが、その反面、海洋の水を集める時間が長くなるため、潮位差はより大きくなるそうです。





4.リジャイナ星系の潮汐力

(1)リジャイナの潮汐

 主要世界リジャイナは、主恒星ルソール(+近接軌道に伴星スペック)の軌道番号4(1.5AU)に存在する大型ガス・ジャイアント、アシニボイアの軌道番号55を巡っている、規模7の衛星です。


 まずは、主恒星ルソールがリジャイナに及ぼす潮汐力を計算してみました。
 距離が遠いのであまり影響は無さそうですが、念のためにも計算します。

 主恒星ルソール(F7V)の質量は、CT「偵察局」の表より、「1.196」と求められます。伴星スペック(DM)の質量「1.11」を加え、月の質量を基準に換算すると「49,005,117」になりました。
 リジャイナの規模7より、半径の比率は7/8=「0.875」。
 1.5AUの公転半径は、基準距離40万kmの「562.5」倍です。

 よって、ルソールがリジャイナの海洋に及ぼす潮汐力の大きさは、

 (49,005,117)×(0.875)×(562.5)^-3
= 0.241 ルナP。

 月が地球に及ぼす潮汐力の24%、およそ4分の1しかありません。
 太陽が地球に及ぼす潮汐力よりも小さいくらいですから、無視しても構わないレベルでしょう。


 次は、大型ガス・ジャイアントのアシニボイアが、リジャイナに及ぼす潮汐力を計算します。

 大型ガス・ジャイアントの質量は、月の「7,000」倍。
 リジャイナの軌道番号55を、基準軌道の8で割ると、二者間の距離は「6.875」になりました。

 よって、アシニボイアがリジャイナの海洋に及ぼす潮汐力の大きさは、

 (7,000)×(0.875)×(6.875)^-3 = 18.85 ルナP。

 月が地球に及ぼす潮汐力の18.9倍です。ちょっと、問題のありそうな数字になってしまいました。もしも自転周期が24時間だとしたら、地球の18倍以上の激しい潮汐が存在できそうです。
 海洋の只中でも1日の潮位差が18m。ファンディ湾のような地形では200mの潮位差になることが分かりました。海岸沿いに住む人々の暮らしは大変でしょう。

 「もしも月がなかったら」の中には、潮汐力が強い場合に起こる様々な弊害が書かれていました。

 ニューオリンズのような海岸沿いの低地は、高さ数十メートルの堤防でしっかりと守られていなければ、すぐに海没してしまいます。
 大河川沿いの平地は、定期的に起こる「潮津波」によって、水浸しになるでしょう。 普通の農業は営めませんし、塩水に耐性のある植物でなければ、生育できません。
 極地にある氷冠が、北極のように海上に浮かんでいるのであれば、氷冠は激しい潮汐に砕かれてしまいます。満潮時の潮位より高い標高にあるのでなければ、極地の氷冠は大きく成長できません。
 また、地震も頻発に起こります。


 ちなみに、リジャイナの公転周期は48日です。
 潮汐の影響を抑えるため、自転と公転が同期している(常に同じ面をアシニボイアに向けている)とするなら、24日の昼と24日の夜が繰り返されることになりました。
 24日の昼はともかく24日も夜が続くことは、光合成を行なう植物の発育にとって、あまり好ましいことではありません。

 一応、公式設定に則って計算したつもりですが、本当にリジャイナはこういう、潮汐の激しい世界なのでしょうか。




(2)ハーコートの潮汐

 リジャイナ星系の主要な防御拠点ハーコートは、リジャイナのひとつ内側の軌道を巡る衛星です。
 軌道番号は30、規模は4となっていました。
 この数値を求めて、同じように潮汐力の大きさを求めます。
 主恒星ルソール(+伴星スペック)の影響は無視しても良いでしょう。

 ハーコートの規模4より、半径の比率は4/8=「0.500」。
 ハーコートの軌道番号30を基準軌道の8で割ると、二者間の距離は「3.75」になりました。

 よって、アシニボイアがハーコートの海洋に及ぼす潮汐力の大きさは、

 (7,000)×(0.500)×(3.75)^-3 = 66.4 ルナP。

 月が地球に及ぼす潮汐力の66倍です。
 ハーコートの公転軌道(軌道番号30)は、リジャイナの軌道番号55よりも、アシニボイアにずっと近いため、潮汐力もさらに大きくなりました。
 距離の3乗で潮汐力の大きさが決まりますから、近い軌道番号の衛星は大変です。




(3)リーデスの潮汐

 アシニボイアを巡る衛星の中で最も内側の軌道を巡る衛星が、軌道番号3に存在する農業世界のリーデスです。
 その軌道番号は前述の通り3、規模は5でした。
 ちなみに、軌道番号7を同じ規模5の農業世界ブリュメールが巡っていますが、この衛星に働く潮汐力は、リーデスに働く潮汐力に「0.0787」を掛ければ簡単に求められますので、省略しました。

 リーデスの規模5より、半径の比率は5/8=「0.625」。
 リーデスの軌道番号3を基準軌道の8で割ると、二者間の距離は「0.375」になりました。

 よって、アシニボイアがリーデスの海洋に及ぼす潮汐力の大きさは、

 (7,000)×(0.625)×(0.375)^-3 = 82,963 ルナP。

 月が地球に及ぼす潮汐力の、8万倍です。

 私の乏しい想像力ではイメージが湧き難いのですが、海洋の只中における潮位変化が8万m(=80km)、ファンディ湾の潮位差が120万m(=1,200km)になるということでしょうか?
 どうやらリーデスの陸地は、チベットやアンデス高原クラスの標高に無い限り、毎日2回、高波に洗われていることになりそうです。
 だとすると、リーデスの地表はほとんど居住不能なのでしょう。


 それを避けるため、リーデスの自転周期を、公転周期(14時間47分)と一致させてみることにしました。
 その場合、リーデスが常に同じ面をアシニボイアに向けているのであれば、潮位変化もほとんど無いことになります。
 ただしリーデス上の2箇所、アシニボイアに正対している地点と、その正反対の地点は、深さ8万m以上の海洋に覆われているのではないかと思います。陸地はその中間点に、帯状の陸地として存在するのでしょう。
 大気も、正対地点と正反対の地点は濃厚で、中間点の陸地は希薄なのではないかと推測できます。


 言葉だけの説明では分かり難いと思いましたので、図を描いてみました。




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 ラリィ・ニーヴン著「中性子星」に登場する「ジンクス」星と似ていますが、リーデスは潮汐力によって、徐々にアシニボイアへ近付いているという点が反対です。

 公転半径が「大きくなる」か「小さくなる」かの違いは、中心にある惑星(リーデスの場合はガス・ジャイアント)の自転方向と衛星の公転方向が「順方向」か「逆方向」のどちらになっているかで決まりました。

 「順方向」の場合、惑星の自転に引きずられて、衛星の公転速度は加速されます。
 加速された結果、より大きな遠心力が衛星に働くようになり、衛星はより遠くの軌道を巡るようになりました。
 つまり、公転半径は「大きくなる」のです。

 ごく稀な例でしょうが、火星のフォボスは惑星の自転周期よりも早く公転するため、公転速度が減速されていました。
 この場合「順方向」であっても、公転半径は「小さく」なってしまいます。
 ただ、惑星の自転よりも早い公転速度を得ることは、とても難しいでしょう。
 大抵の場合、後述する「ロシュ限界」の内側に入らなければならないでしょうから。
 金星のように、極端に自転が遅い惑星ならば可能かも知れませんが。

 「逆方向」の場合、惑星の自転に引きずられて、衛星の公転速度は減速されます。
 減速された結果、遠心力が小さくなって、衛星は惑星に向けて落下。
 惑星により近い軌道を巡るようになるでしょう。
 つまり、公転半径は「小さくなる」のです。

 この公転半径の最小値は、CT「偵察局」やMTの星系作成ルールで明確に定義されているように、惑星半径の3倍です。
 これは「ロシュ限界」を簡単に表しているルールのようでした。
 ロシュの計算によると、半径3倍よりも近い軌道に移動した衛星は、潮汐力によって破壊され、粉々になってしまうのです。
 つまり「リング」になってしまう、ということですが。



 脱線ついでに、ジンクスの紹介もしておきます。
 ジンクスは、ガス・ジャイアントの衛星で、昔は、その至近距離を巡っていました。
 潮汐力の結果、地殻は南北に引き伸ばされ、卵型をしているのです。
 やがて、ジンクスの公転軌道は大きく広がり、ジンクスに働く潮汐力も弱くなりましたが、卵型に固まった地殻の形はそのまま残されました。
 海洋や大気は球形に戻ったものの、地殻はそのままなのです。
 そのため、北極と南極は大気圏の外へ飛び出し、逆に赤道地帯は高気圧海に囲まれるというユニークな環境の世界となってしまいました。



 リーデスの場合、ジンクスとは反対です。
 現在の公転軌道が3ですから、ロシュ限界のギリギリになっていました。
 かつて、これよりも近い軌道に存在できた筈がありません。
 ですからリーデスの公転方向がアシニボイアと逆方向になっており、徐々に減速されてきた、と考えます。

 昔はアシニボイアからもっと離れた軌道を巡っていましたが(ですから、リーデスの形は真球に近いのです)、距離が縮まってきたため、海洋と大気圏だけが楕円形に引き伸ばされた(変形した)という解釈をしてみました。
 その結果が、両極の深い海洋と円周部の(真空か、極めて薄い大気しか存在しない)高山地帯という訳です。



 2009.08.06 初投稿