ある日の航海日誌(笑)

宇宙船「ベローチェ号」はジャンプ空間を航行していた。  
ジャンプアウトまであと3日、船員たちは特に何もすることはない。  
船長のミハエル・ロイウェンにとっては非常に退屈な時間が過ぎていく。彼は船員達の部屋を覗いて回ることにした。

船医のジュリエッタ・ロメオは戦闘ライフルの手入れをしていた。  
陸軍士官学校から陸軍病院付属大学に進み、陸軍降下猟兵師団の特殊戦闘大隊 付軍医、 最終階級は特務大尉という物騒な経歴をたどってきただけあって、部屋の中は軍装品で 溢れている。  
人間を「直す」のも「壊す」のも得意だと広言している怖いお姉さんだ。  

ロイウェンはあきれて次の部屋へと向かった。  

整備士のフィカルゼ・ロメオの部屋は空だった。
フィカルゼはジュリエッタの 双子の 弟で、帝国海軍にエンジニアとして入隊し、その後士官候補生養成所を経て艦隊情報部での任務についたという変り種だ。  
海軍情報部時代の主な仕事は、装備の横流しの内偵調査。
装備品や機械について詳しいために配属されたようだが、天性の詐欺師を自称しているフィカルゼは、囮捜査で多数の横領犯を捕まえたらしい。  

ロイウェンはついでにフィカルゼを探すことにして、次の部屋に向かった。  

客室担当兼、貿易業務と法律業務一切を担当するメール・ド・ウェイランは書類の山の中に埋まっていた。  
次の目的地での市場調査書、税制度の解説、輸出入に関する独自の法律と規則 、経費 の会計書・・・。
「今回はやたらと大変そうだな」  
声をかけたロイウェンを、メールは恨みがましそうに見た。
「あなたが買ってきたコーンと、フィカルゼさんが買った石鹸のせいです!」  
ロイウェンが出発惑星で10トン買い込んだコーンは、これから到着する惑星では麻薬の原料になる可能性があるとして、生のままでの販売は禁止されていた。
加工 してく れる食品会社を探して、そこに材料として売るしかないのだ。  
それも政府の許可が下りたとしての話だが・・・。  
そして、フィカルゼが買い付けた500ダースの石鹸は、化粧品目薬品として薬事法 の審査を受けなければならない上、一部の化学物質が科学法の適用を受けて通産局の審査も受けなければならないかも知れないのだ。  
それに対する意見書と科学データの提出準備、別法適用による税率の変化に合 わせたコストの再計算・・・メールの仕事はいつもの倍以上に増えていた。  

ロイウェンはこれ以上彼女を刺激しないように部屋を出た。  

廊下でワインを乗せたワゴンを押すグラマラスな金髪美人に出会った。  
こんな乗務員はいない・・・というより、どっかの辺境惑星のローカル歌手の顔だ。
「オマエなぁ・・・!」  
雑用係のシルビア・オザキ・カートレット18歳。
「サービス、サービス」  
超能力で肉体を、一度見た相手ならばどんな人間にでも変身させられるという 特技を持っている。  
だが、それ以外には何もできない・・・。
「見つかったら大騒ぎになるんだからな。カンベンしてくれよ」
「ハァ〜イ!」  
シルビアは変身を解いて、童顔で背の低い日系人の身体に戻った。
「夕食か?」  
ジャンプ空間はオレンジ一色の世界だ。そこを抜けても黒い宇宙空間だけが広 がって いる。
それでも、星の表面に居た時の時間感覚を引きずったままなのが人間のお かしさ だ。
「うん、フィカルゼがね、今日は手が込んでるって言ってたよ」  

ロイウェンは調理室に向かった。  

フィカルゼは調理室で忙しく働いていた。  
この男は一級整備士の資格と同時に、調理師の免許まで持っている。
「ああ、ロイウェンさんですか。今日はご馳走ですよ。こないだ、ミュラってい う牛の 一種なんですけどね、その子牛の肉を買い込んだんです。柔らかくてね、ぜんぜん臭みが無いんです。これをオリーブオイルで軽く焼いて、塩と胡椒だけで味付けしたのが、 セコンド・ピアット(メインディッシュ)ですよ」  
フィカルゼはおしゃべりだ。
「アンティパスト(前菜)はブルスケッタ(フランスパン)にね、オリーブとツ ナとト マトの三種類のペーストを塗ったものです。緑・白・赤でね、イタリアンカラー ですよ。 それから、同じ緑・白・赤の三色の豆をオリーブオイルで馴染ませたサラダを出 します」  
機関銃のようにしゃべり続けるフィカルゼを無視して、ロイウェンはフライパ ンを覗 きこんだ。
「それはプリモ・ピアット(第1の料理・パスタやスープ)の具です。ポルチー ニ茸と マッシュルーム、ガーリック、ほかにもズッキーニなんかの山の幸をオリーブオ イルで 炒めました。太目のパスタにからめると美味しいんですよ」
「さっきから聞いてりゃ、オリーブオイルばっかりじゃねーか。油漬けにする気 か?」
「オリーブオイルはイタリア料理の命ですよ。ジャポネーゼがショーユ・ソース を使う のと一緒です」
「フーン・・・こ、これはナンだ?」
「ドルチェ(デザート)ですよ。作り方は簡単。さっきのミュラの新鮮なミルク と、そ れから作ったバターに、砂糖とバニラエッセンスを加えてクリームを作るんです 」  
そう言うとフィカルゼは躊躇無く袋一杯分(1Kg)の砂糖をボールに放り込 んだ。
「こっちにはビスケットをコーヒーリキュールに浸したものを作って、敷き詰め たとこ ろにクリームを塗って・・・また敷き詰めてクリームで塗って・・・適当な高さ までいっ たら最後に生クリームを塗ります」  
ロイウェンは10000Kcalはありそうな、その糖分の塊から目をそらし 、調理 室から出ていった。  

今のメンバーで旅をするようになってから、胃に負担がかかっている一方、体重が少 し増えた気がする・・・運動量を少し増やそうか・・・。  
ロイウェンは自分の部屋へと帰っていった。

 

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