キル・ゾッド

帝国暦578年第114日。リジャイナ星系外周部に集結しつつある一つの艦隊があった。  
銀河帝国スピンワードマーチ宙域海軍第一任務艦隊。
空母16隻を基幹とし、戦艦4隻、重巡洋艦4隻、軽巡洋艦10隻、駆逐艦44隻を従える、銀河系最大規模の戦闘部隊である。
その旗艦である空母「サザンクロス」の艦橋で、艦隊司令付副官ナタリー・プレティシコワ大尉が、海軍総司令部からXボートによってもたらされた命令書を読み上げていた。

「一つ、第一任務艦隊はリジャイナ星系に出現する全ての敵対勢力を排除すべし。二つ、578年130日以降、リジャイナ〜ウォンガ〜イリースの経路で移動し、途中別命にて合流する艦艇を指揮下に入れ、再編成を行うべし。三つ、578年156日以降、ゾダーン連盟領ファーリーチ星系に対して移動を行い、同星系の敵対勢力を排除、これを占領すべし。この命令によりA3号、A4号、B1号、B2号a、B2号bの各作戦命令は以後無効とする。以上」  
艦橋にいた将兵がざわめいた。参謀の一人が鋭い一瞥をくれて、聞き耳を立てる兵士達を自己の任務へと戻らせた。
「出現する敵対勢力とは、ゾダーン軍のことでしょうか?」  
別の参謀が質問を発した。
「決まってるだろうが!あのクソ虫のゾッドども以外に、この俺様の敵がどこの宇宙にいるって言うんだ?」  
ナタリーは声の主を見た。帝国海軍の汚点、石器時代の勇者、宇宙の暴走牛…数々の悪名にまみれた上司を。
「A3号以降、全ての命令が無効とは、司令部は我々を反撃の時の主力として温存するつもりで…」
「うるせえぞ!ゴタゴタとぬかすな!お前らの仕事はただ一つだ!ゾッドどもの腐った****を切り取ってクロナーに送り届けてやるぞ!」  
アレクサンダー・ベイリュース中将。彼の副官になったことをナタリーは人生最大の凶事だと思っていたが、実戦を前にしてこれほど頼もしい上官はいない。  
他の幕僚たちも、恐らく同じ考えなのだろう。普段のようにベイリューズの悪口雑言に対して眉をしかめる者がいない。  
ベイリュースは艦隊通信用のマイクを手に取ると、スイッチを最大限、つまり全艦に向けて合わせた。
「ヘイ!可愛い戦闘童貞、戦闘処女の紳士淑女諸君!パーティーのお知らせだ!言っておくマナーはただ一つ、キル・ゾッド!キル・ゾッド!キル・ゾッド!」  

この「錨に座った裸婦」の刺青を両腕に彫った海軍一の野蛮人ならば、どんなに強力な敵でもきっと叩き潰してくれる…ナタリーはゴリラのような風貌の上官を、始めて好意的な視線で見つめた。

By 龍太郎氏

龍太郎氏による、辺境戦争史第2回です。

魅力的なキャラクターが登場し、ますます面白くなってきた「オリジナルな辺境戦争」。
目が離せません。

化夢宇留仁

 

NEXT