妖神グルメ

★★★ 菊池秀行/ソノラマ文庫
 クトゥルフ(文中ではクトゥルー)の飢えを満たすため、狂える神の下僕は、若き天才料理人 、内原富手夫に目を付けた。
ひっちゃかめっちゃかの冗談小説だが、ダゴン対空母カールビンソンや、クトゥルフの触手が一瞬にして大洋を横断してF-15を撃墜したり、結構見せ場もあって面 白い。
浮上するルルイエの巨大さと異常さの描写もなかなかいい。
最近読み直してみたが、感想は変わらなかった。加えて最近ラヴクラフト全集を読んでいたので、前よりももっと様々なディテールが楽しめた。
化夢宇留仁は菊池秀行の最高傑作だと思っている(笑)。


ラヴクラフト・シンドローム

★★★ 別冊幻想文学/アトリエOCTA/1500円
 ラヴクラフト本人の考察がメインだが、色々な視点が用意してあり、初心者にも読みやすい。

銀幕によみがえる禁断の魔書
 当時(1994年)の新作映画「ネクロノミカン」の紹介。

メイキング・オヴ・インスマス
 テレビスペシャルとして放送された「インスマスを覆う影」の裏側紹介。
脚本/小中千昭と主演/佐野史郎にインタビュー。

大瀧啓裕・未知なるHPLを求めて
 インタビュー。ラヴクラフトの文章は元々が装飾過多で読みにくく、かと言って読みやすく直してしまうと雰囲気が違ってしまうので翻訳家泣かせらしい。 なんとなく気持ちは分かる(笑)。

夢魔十夜
 ラヴクラフトが友人などに宛てて書いた自分の見た夢の覚え書き。
ラヴクラフトの要素が凝縮しやていながら小説よりも読みやすく、実は最も活用しやすいコーナーかも(笑)。

異界からの来訪者
 フランス人モーリス・レヴィによるラヴクラフト論。前半はラヴクラフトの一生を簡単に紹介し、後半でそのひねまがった性根を(笑)論じている。クトゥルフ神話のモンスターは日本人だったのだ(笑)! ダーレスの写真がいかにも間抜けそうなのも笑える。

フランスにおけるラヴクラフト
 妙にラヴクラフト人気の高いフランスの様子を解説。

夕ばえの街-ラヴクラフト旅行記
 菊池秀行氏がラヴクラフトゆかりの地を旅した様子を紹介。ラヴクラフトの生活がいかにしょぼかったかが(笑)伝わってきて面 白い。

栗本薫「魔界水滸伝」に終末を語る
 インタビュー。

風見潤「クトゥルー・オペラ」に邪神を屠る
 インタビュー。

矢野浩三郎・ラヴクラフト翻訳談義
 インタビュー。この人だけはラヴクラフトの原文の邪魔な部分は切り捨てた方がいいと言っている。訳文を読み比べてみたいものだ。

仁賀克雄「暗黒の秘儀」を訳して
 インタビュー。

松井克弘・神話大系出版に燃える
 黒魔団の中心人物であり、国書刊行会の編集者である氏にインタビュー。

鏡明・ラヴクラフトとアメリカの闇
 インタビュー。アメリカの作品の恐怖の大元は、移民に対する恐怖と、知らぬ間に操られている現象らしい。そうなのか〜(笑)。

荒俣宏・ラヴクラフトは「斜陽」である。
 インタビュー。数あるインタビューの中で化夢宇留仁はこれが一番笑えた。ラヴクラフトは現代のオタク無職人の元祖なのかもしれない(笑)。

闇に輝くもの/朝松健
 若きラヴクラフトが登場する短編小説。発明直後の飛行機械と空飛ぶ円盤とMIB・・・
楽屋落ち的な内容で、なんかつまらん。下手な同人誌みたい。

恐るべき物語/フレッド・チャペル
 HPLサークルの人々が実名で登場するこれまた楽屋落ち小説だが、まだ新しいアイデアとかもあってそこそこ楽しめた。

ラヴクラフト入門百科事典
●ラヴクラフト略年譜
●全小説作品梗概
 ラヴクラフトの小説の内容を簡単に説明。ホラー小説なんて描写をとったら内容は薄いものだし、オチまで書いてあるので、未読の場合は注意が必要。資料価値高し。幼児期作品まで載ってる(笑)。
●評論と詩・解題
 イメージの結晶である詩は結構興味深い。他の作家の紹介とか作品リストなんかも作ってる(笑)。
●固有名詞事典
 主に作中の人物、場所、怪物など。怪物に関してはなにしろ描写がくどい割に具体的でないのが多く、ゲームとは異なるものもある。例えばミ・ゴ(本書では「ミ・ゴウ」)は雪男と書かれており、ユゴスよりのもの(本書では「異界のもの」)はミ・ゴと同類と書かれつつ、形状描写 はゲームと同じとややこしい。
●固有名詞事典 神話作品篇
 ラヴクラフト以外が書いた神話作品に関する事典。資料価値高し。
●クトゥルー神話作品邦訳一覧
●関連人物事典
 登場人物ではなく(登場人物になったケースもあるが/笑)、 実在の関連人物の事典。
●ラヴクラフト図書館
 ラヴクラフト関連の書籍を紹介。雑誌の特集なども載っていて資料価値が高い。「クトゥルフ・ハンドブック」も載っていて叩かれているのもまた愉快(笑)。
 


ラヴクラフト全集1

★★★ H・P・ラヴクラフト/大西尹明訳/創元推理文庫
 化夢宇留仁はラヴクラフトのまわりくどくて読みにくい文章が苦手である。
この全集は今でも手に入りやすいが、行間は詰まってて改行も少なく、やっぱり読みにくい。

インスマウスの影
 クトゥルフ神話の基本中の基本。
ふとした思いつきで立ち寄ったさびれた町インスマウスの人々は、皆人間離れした容貌をしており、それは忌まわしき歴史による呪いであり、その恐怖は今現在も進行中であった。
主人公はこの町から命からがら逃げ出すが、後の調べで彼の家系にもその呪いが影を落としていることを知り・・・。

 久しぶりに読み直してみて、色々新しい発見もあった。特にショゴスと古きもの(文中では旧支配者)に触れた部分はまったく記憶になかった。
それにしても後半の逃避行の部分はくどすぎる。007シリーズならこれでいいのだが(笑)。

壁のなかの鼠
 デラボーア家の血筋にまつわる恐るべき秘密。
自分の家系が呪われた血筋だとして怖れられているのをよしとせず、うち捨てられた昔の住居を改装して住みつくことにした主人公は、壁の中を走る鼠の大群の足音を聞くが、それは彼と飼い猫にしか聞こえなかった。
館の調査をする内、地下室の祭壇の下に、忌むべき歴史の結果が横たわっているのが発見され、彼もまたその家系に属しているのを証明することに。

 クトゥルフの呼び声でよく出てくる魔術師にまつわるストーリー。
忌まわしいイメージの表現が見事な佳作。

死体安置所にて
 ある夜の小話。うっかり者でいいかげんな墓堀が、自分のミスで死体安置所に閉じこめられてしまう。
暗闇の中、中身の入った棺桶を積み上げてなんとか脱出の目処を立たせるのだが・・・
 ラヴクラフトには珍しい肩の力の抜けたブラック・ユーモア短編。
オチが効いていて、ショートショートとしてもいい感じである。

闇に囁くもの
 ヴァージニア州の山奥で噂される奇態な生物とそのささやき声の存在を、主人公は科学的視点から存在を否定していたが、ある手紙をきっかけにそれはそう簡単に片づけられるものではないと知る。
手紙のやりとりが進む内、その真実みは増し、更に現地で調査している男にも危機が迫っているのが分かった。
それがある日を境に現地の男の手紙はタイプライターのものに変わり、その内容も危険はなくなったのでぜひ来てほしいというものに変わった。
不振に思いながらも現地に向かう主人公だが・・・

 代表作の1つ。80年代SFを感じさせるのは、逆に考えれば恐ろしいほど斬新な内容だったということである。
ゲームでもこういうトリックと雰囲気を出してみたいものである。


ラヴクラフト全集2

★★★ H・P・ラヴクラフト/宇野利泰訳/創元推理文庫
クトゥルフの呼び声
 考古学者の大叔父が亡くなり、その資料を調べていると、大叔父が全精力を注いで研究していた不吉な事件の数々を知ることに。
調べてゆく内、おぞましい事実が浮かび上がってくる。

 旧支配者の代名詞とも言えるクトゥルフだが、この作品では意外にしょぼい。多分寝起きだったからであろう(笑)。 しかしルルイエの描写はかっこいいぞ!

エーリッヒ・ツァンの音楽
 ある田舎町の、周囲を見渡すひときわ高い三角屋根の下宿屋。その屋根裏部屋に、その老人は住んでいた。
彼の奏でるヴィオルは名状しがたい美しい音色で、まるでこの世界のものではないようだった・・・。

 雰囲気のある短編 。

チャールズ・ウォードの奇怪な事件
 懐古趣味に始まり、先祖に魔術師として怖れられた男がいたのを知ったのをきっかけに、その研究にのめり込んでいった青年チャールズ・ウォードは、やがて精神に異常をきたした。
青年は主治医との会見直後に姿を消すが、事実ははるかに複雑で恐ろしいものだった。
全てを知っているのは彼の主治医ウィレット医師のみだが、彼とてその真実にたどり着くには多大な苦労と恐怖を味わっていた・・・。

 傑作。
ラヴクラフトの代表的な長編で、とっつきにくいが一度入ってしまうと止められない魅力を持っている。
恐怖、ストーリー、トリック、小道具全てにおいて実に完成度が高く、ミステリとしても面 白い作品。
勿論ゲームの参考にもなりまくり(笑)。
ちなみにウィレット医師は、ランドルフ・カーターと友達らしいぞ(笑)。


ラヴクラフト全集3

★★★ H・P・ラヴクラフト/大瀧啓裕訳/創元推理文庫
ダゴン
 男がボートで漂流したどり着いたのは、なんらかの原因で海底が隆起した見渡す限りを軟泥に覆われた島だった・・・。

 終わり方がかの有名な日記書いてるときに襲われるパターンで思わず笑ってしまう。これを発明したのはだれでしょう?やっぱりラヴクラフト大先生なんでしょうか?

家のなかの画
 アーカムへ向かう近道を歩く内、嵐に襲われ、雨宿りの為に立ち寄ったのは古びた建物だった。 そこに住んでいるらしい老人が見せてくれたのは、忌まわしい食人の儀式が描かれた絵だった。 夢中になって絵の説明をする老人の話は、次第に狂気をはらんだものに。やがて天井から雨ではない液体が・・・。

無名都市
 アラビアの砂漠にある呪われた都市には、妙に背の低い神殿があり、その地下にはおぞましい異界とこの世を繋ぐ扉が・・・。

  真の暗闇の狭い地下道を進む描写が閉所恐怖症の化夢宇留仁には一番怖かった(笑)。狂えるアラブ人、アブドゥル・アルハザードも言及される。

潜み棲む恐怖
 1世紀も前から土饅頭の並ぶテンペスト山に潜むと言われる怪物。命がけでその調査を行った男は、多くの犠牲を出しながらその真相に近づいてゆく。

 そのまま「クトゥルフの呼び声」のシナリオになりそうな作品。

アウトサイダー
 えらく古めかしい文章でつづられる短編。実はショーヨショート(笑)。 人によってはラヴクラフト最大の傑作とも言われる。

戸口にあらわれたもの
 親友であるダービィを射殺した男は、それはダービィであってダービィでないと証言した。ではいったいそれはなんだったのか? 恐るべき魔術師の、自分の娘をも犠牲にした遠大で忌まわしい計画に巻き込まれた男の顛末を描く。

 よくまとまっていていい感じの作品。
少しの手直しで、ゲームのシナリオに出来そう。

闇をさまようもの
 ある雷の夜に死んだ男は、苦悶の表情を浮かべており、日記には狂っているとしか思えない意味不明の内容が・・・プロビデンスにある朽ち果 てた教会には、呪われた歴史があった。尖塔内にはエジプトで発見された輝けるトラペゾヘドロンが安置されていたのだ。男はそれを見つけ、同時に解き放ってはならない悪夢を復活させてしまったのだった。

 クトゥルフ黄金パターン(笑)。
ロバート・ブロックに捧げている。

時間からの影
 5年間別人になっていた男。彼の知らない間に第2の人格は様々な知識をどん欲に吸収していた。
そして正気に戻った男は、その後20年もの間想像を絶する夢を観る。やがてオーストラリアの砂漠で夢で見た建物の残骸らしきものが発見され、現地に赴いた男は更なる超時空的な体験をすることに。

 偉大なる種族(文中では大いなる種族)や盲目のものの描写が楽しい傑作。ただし中編の割に中身がぎゅっと詰まってて読むのにそれなりに体力がいる。
古のものもゲスト出演(笑)。

 巻末付録のラヴクラフトの履歴書が面白い。黒人とオーストラリア原住民は生物学的に劣っていると断言したり、食べ物では海産物が「説明できないほどのこのうえない激しさで嫌い」であるとか(笑)。
また作品のバックボーン紹介で「時間からの影」は編集者の手により改行が増やされているらしいとある。道理でラヴクラフトの割に読みやすかったわけだ(笑)。


ラヴクラフト全集4

★★★  H・P・ラヴクラフト/大瀧啓裕訳/創元推理文庫
宇宙からの色
 農場に隕石が落下。それ以降そこでは人智を越えた異常な現象が続き、やがてこの世とは思えない異世界へと変異してゆく。

 次第に異常さを増してゆき、悪夢のような世界が展開する描写が秀逸。視覚的イメージが濃厚な名中編。

眠りの壁の彼方
 文明とはほとんど縁がない部落の、教養も無い男が突然大量殺人を犯す。 彼は強烈なイメージを伴う夢によって人格崩壊を起こしていた。
男の夢の内容に興味を持った若く才能のある医者が、彼と思考の交換を試み、異常で壮大な夢の真実にたどり着く。

 夢の描写は相変わらず見事だが、ラヴクラフトにしてはあっさりとしたSF短編である。

故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実
 不吉な経歴と容姿を持つジャーミン家の最後の一人が焼身自殺した。
その原因は探検家だった先祖まで遡るおぞましい血筋と、その遺物にあった。

 アフリカが暗黒大陸だった頃の雰囲気を色濃く伝える佳作。 ラヴクラフトにしては不吉な描写 がもう少しだったように思う。

冷気
 男は優しく理性的な医者だったが、ある難病のために身体を冷やし続ける必要があるらしい・・・。しかし事故により冷やすのが不可能になったとき、おぞましい真実が明るみに。

 古風な雰囲気の作品。ポーの影響が色濃いらしい。

彼方より
 人間に痕跡器官として残っている松果腺にある刺激を加えると、あらたな感覚器官として働き、いつもは見ることも触れることもかなわない世界への扉が開かれる・・・。

 未知の感覚の描写がいい感じ。
映画「フロム・ビヨンド」の原作。 小説は結構あっさりとした作品で、映画が意外にうまく作られていると知った。

ピックマンのモデル
 人智を越えたレベルの恐るべき絵画を描く画家ピックマンの制作裏話(笑)。

 特にひねりがあるわけでもないが、展開と描写がうまいので思わず惹きこまれる佳作。

狂気の山脈にて
 ラヴクラフト最大の長編。南極の地質と埋蔵された化石などの調査に向かった一行が太古文明による都市を発見し、更にその恐るべき遺物に遭遇する。

 描写される対象が壮大すぎて、たまに想像力が追いつかなくなるが、とにかく迫力があって面 白い。
古きもの(文中では旧支配者)の異質さの描写もいいし、ショゴスをはじめとする神話怪物の登場も楽しい。
枚数的には大長編というわけではないのだが、なにしろラヴクラフトの文章なので読み応えは満点。
ラヴクラフトにとってはやはりクトゥルフはミ・ゴと同等程度の種族なのだとはっきり分かる作品でもある。

 巻末にはラヴクラフト自身による小説創作法の紹介と、各作品の解説もあってどれも面 白い。


ラヴクラフト全集5

★★★  H・P・ラヴクラフト/創元推理文庫
神殿
 第1次世界大戦時、浮上不能に陥ったドイツのUボートが、海底に沈んだアトランティスを発見する。しかしそれはある呪いに導かれた結果 だった・・・。

 思わせぶりな描写の連続で描かれるラヴクラフトの典型的短編。

ナイアルラトホテップ
 奇妙な男、ナイアルラトホテップが人々を術中に陥らせ、異界での残酷な死に導いてゆく・・・ような感じ。詩のような文章で化夢宇留仁にはなにがなんだか分かりませんでした(汗)。

魔犬
 墓場荒らしの二人がオランダのある墓を暴き、不思議な魔よけを手に入れた。だがそれ以来彼らの周辺には不気味な物音がし始め、やがて一人が何者かに引き裂かれて殺されてしまう。 オランダに戻りあらためて墓を掘り出してみると、白骨だった死体は・・・。

 なかなか趣があって面白いが、これからというところで終わってしまい、食い足りない感じ。

魔宴
 祖父の誘いで、先祖の土地であるキングスポートで太古のクリスマスの祭りに参加することにした男は、想像を遙かに上回るおぞましい儀式と忌まわしい怪物に遭遇し・・・。

 ダンウィッチやインスマスと比べると地味な印象のキングスポートだが、なかなかどうしてやばい町でした(笑)。

死体蘇生者ハーバート・ウェスト
 出ましたウェスト君(笑)!もう滅茶苦茶なやつです(笑)。相棒も意志弱すぎでいい感じ(笑)。
スチュワート・ゴードンの「ゾンバイオ死霊のしたたり」が意外に原作に忠実だったのを初めて知った。
ラヴクラフトには珍しくセリフの出てくる作品で、連載ものだったこともあり、少々(?)他作品とは趣が異なる。

レッド・フックの恐怖
 ニューヨークの変わり者の刑事マロウンは、移民の町で行われる忌むべき悪魔崇拝を目の当たりにする。

 クトゥルフというよりも悪魔崇拝のイメージ。あと異国人と混血への強い差別意識が現れている。しかしなんだかよくわからん(汗)。

魔女の家の夢
 恐るべき魔女の住処だった屋根裏部屋に住み着いた主人公が、夢に始まりやがて現実に現れる忌まわしい魔術に陥る様を描く。

 いかにもなストーリーではあるが、妙な角度の部屋や夢の描写など、悪夢のようでかつ暗示的な表現が効果 的で、けっこう印象深い作品になっている。髭鼠はお父さんかなあ(笑)?

ダニッチの怪
 代表作の1つ。マサチューセッツ州北山間部の小さな集落ダニッチに、過去に魔法使いだったと言われる男がいた。彼には娘がおり、彼女は誰のものともしれない息子を産む。
閉鎖的な田舎でありがちな近親婚によるものかと思われたその息子は、実は想像を絶する存在を父として生まれてきていた・・・。

 とにかく「双子の兄弟」の描写が秀逸で、江戸川乱歩が喜んだのもうなずける。そこそこボリュームはあるが、読ませてしまう妙な力がある。

 巻末付録にラヴクラフト自信が戯れに書いたと思われるネクロノミコン(アル・アジフ)の出版と在庫の歴史的記録があり、そのままゲームに利用できるサプリメントのようでいい感じである。


ラヴクラフト全集6

★★★  H・P・ラヴクラフト/創元推理文庫
白い帆船
 灯台守の男が、白い帆船に乗って幻想的な旅に出る。

 「バロン」?

ウルタールの猫
 ウルタールでは猫を殺すことをきつく禁じている。 それは過去に起こった不吉な事件が原因だった。

 ヨーロッパ幻想奇譚風。


セレファイレス
 白い帆船に少し似た内容で、夢の中で探し求めていた都セレファイレスにたどり着き、冒険の旅に出、やがてそこの王となるが・・・

 最後のオチのような部分でいきなりインスマスが出てきて目を白黒。どうも訳文に問題があるような気がする(汗)。

ランドルフ・カーターの陳述
 古の書物で忌まわしい研究をしていた友人と共に、夜の墓場でカーターが体験した恐怖。

 オチのセリフがかっこわるい。訳者にはもう少し考えて欲しい。
内容的にもラヴクラフトにしては説明と描写不足でチープな感じ。

名状しがたいもの
 神秘主義者が唯物論者と議論する内、ほんとうに名状しがたきものが・・・

 神秘主義者は実はカーターである。
ショートショート風の内容だが、もう一つ。

銀の鍵
 夢想家だったカーターが、現実との軋轢で夢想するのをやめ、一般人として生きてゆこうとしたが、それは現実社会の無内容さに気づく結果 になった。
絶望の中になったカーターは、夢の中で古くからカーター家に伝わる銀の鍵のことを思い出す。
夢と現実の狭間で、彼は望んでいた懐かしい世界への門を見つける・・・。

 夢だか現実なんだかよく分からずにとまどったが、全体的にブラッドベリみたいないい感じの作品だった。
しかし3人称だか1人称だかよく分からない文章はどうかと思う。

銀の鍵の門を越えて
 失踪したカーターの財産処分問題はもめにもめたが、その日とうとう最終決定を下すことに。そこに参加した4人の中に、カーターがどうなったのかを知っているという者がおり、想像を絶する物語を語り始める。

 痛快な傑作。 少し「夏への扉」のようなシチュエーションもある。

未知なるカダスを夢に求めて
 ドリーム・ランド集大成。この本の前半にあった幻想的な短編に出てきた場所も全てドリーム・ランドに集約される。
そればかりかピックマンを筆頭に、関連無さそうな今までのラヴクラフト作品に登場した事物も大きく絡んでくる。
印象に残ったのはグールとナイト・ゴーントの頼りになること。妙にいいやつらである(笑)。
あとは永井豪の後期デビルマン世界ともどこか共通するものを感じた。
それにしてもこの作品のせいで「ピックマンのモデル」の恐怖感は台無しである(笑)。

 巻末の解題で、上記の「セレファイレス」でいきなりインスマスが出てくることについての説明があった。
訳が変なのではなく、原文が変なのであった(笑)。
また、ドリーム・ランドの現在最も詳細で正確な地図はアメリカのケイオシアム社が作成したものだと説明されているのには笑えた♪


異時間の色彩

★★マイクル・シェイ/荒俣宏・栗原知代訳/ハヤカワ文庫
 H・P・ラヴクラフトの「宇宙からの色」(本書では「異次元の色彩」)へのオマージュ一杯の長編小説。
舞台を現代に移し、湖となったあの場所が再び「色」の脅威にさらされる様を描くが、そのまま続編というわけではなく、「宇宙からの色」は実際の事件を元にラヴクラフトが小説として仕上げたものだということになっている。
つまりこの作品世界にはラヴクラフトも存在するのだ。
ストーリー的には、活動を再開した「色」に気付いた老学者二人と、 昔の惨劇から復讐を誓っていた女性が力を合わせて「色」と戦うというもの。最近のアメリカ映画にありがちな内容である。
ラヴクラフトらしさを出そうという目的自体が作者に無いので仕方が無いのだが、それにしても「色」が単なる怪物になってしまっているのが残念。
化夢宇留仁はコズミックホラーの恐怖は未知であり、理解不能な存在という条件があると思うのだが、この作品中の「色」には明かな悪意があり、かえってそれが人間くささを感じさせる要因になっているのだ。
また実体化する「色」の描写もアメリカ映画っぽくて陳腐な感じである。
 ゲームの参考にはそこそこなると思う。
それにしてもタイトルから連想される時間を超越して復活する「色」というイメージが全然無くて拍子抜けだった。


暗黒界の悪霊
<クートゥリゥ神話中心の短編集>

★★★ロバート・ブロック/柿沼瑛子訳/ソノラマ文庫海外シリーズ15
星から来た妖魔
  青心社の「クトゥルー7」の「星から訪れたもの」と同内容だが、訳者が違うので、ずいぶん趣も違う。 こちらの訳者の全ての作品に言えるのだが、簡潔で読みやすい代わりに少し雰囲気が足らないような気がする。

猫神ブバスティス
 古代エジプトの忌まわしき神官達は、エジプトを追われ、イギリスにたどり着いて、岸壁の隠された洞窟内で忌まわしい研究を続けていた・・・。
などと言うとんでもない仮説を証明するという友人の導きで洞窟の奥へと進むと、 そこには言葉通り恐ろしい研究の結果がミイラとして存在しており、最深部には恐るべき怪物が今だ生き残っていた・・・。

 にゃおにゃお。

自滅の魔術
 自分の魂を分離し、肉体的にも同時に存在する術に成功を収める魔術師。だが分離された悪の部分はあまりにも強大だった・・・

 興奮しやすくて独り言の多い魔術師の、誰も見ていない中での悲喜劇。
単なる馬鹿である(笑)。

悪魔の傀儡(くぐつ)
 青心社の「クトゥルー4」の「奇形」と同内容だが、やはり翻訳の違いから趣が違う。
化夢宇留仁は途中まで読むまで同じ原作だと気付かなかった。
それにしてもこちらのタイトルはひどい。オチがバレバレである(汗)。 でも現代は「THE MANNIKIN」だから、 こっちの方が近いか。

嘲笑う屍食鬼
 ある大学教授が日ごと悩まされる悪夢をどうにかしてほしいと精神分析医のもとを訪れる。
夢は墓場の地下への階段を下りて屍食鬼(グール)の集団を見るというもので、患者はそれが実際に起きたことだと言い張る。
医者がそんなものは存在しないと言っても言葉では通じず、仕方なく現場に付き合うことに・・・。

 H・P・ラヴクラフトに近い雰囲気で、オチも結構いい感じ。

セベク神の呪い
 エジプト考古学に造詣の深い主人公が、謝肉祭最終日の夜にセベク神にまつわる儀式を行おうとしているグループと知り合い、パーティーに招待されるが・・・。

 オチが全然オチになってない!当時はあれでよかったのかも知れないが、 それにしてもつまらなさすぎ。それまでの雰囲気はそれなりによかったのに・・・

暗黒界の悪霊
  青心社の「クトゥルー5」の「闇の魔神」と同内容。翻訳が違う。

ドルイド教の祭壇
 金の力で准男爵になり、ネドウィックを封土にしたホヴォゴ卿は、所有地の森の中で奇妙な祭壇を発見する。村人達や牧師の警告を無視してそれをとりのけた彼には、恐ろしい呪いがふりかかることに・・・

 やはり前半の雰囲気は悪くないのだが、オチがサッパリしすぎでつまらない。

納骨所の秘密
 代々先祖の納骨所で行方不明になるという妙な家系の物語。
原因の先祖もそこまでして頑張る割にはなにをしているわけでもなく、なんだかな〜っという感じ。

顔のない神
 青心社の「クトゥルー5」の「無貌の神」と同内容。
上でも少し触れたが、どうも化夢宇留仁にはこの翻訳者は合わないようだ。文章がサッパリしすぎていて面 白味に欠ける。
特にこの辺の20年代に書かれた短編はオチがサッパリしているだけに、描写と文体で雰囲気を盛り上げてもらわないことには・・・(汗)


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