1920年代のアメリカのボストンが舞台のショートシナリオです。
簡単なミステリータッチの内容で、作ったばかりの2〜3人のパーティーでもクリアできるでしょう。
プレイに必要な時間も短いので、息抜きにも最適です。
 簡単な修正でクトゥルフ・ナウ(1980年代アメリカ)でもプレイ可能です。
ガスライトや現代(2000年代)でプレイする場合には、設定の多くを修正する必要があります。
 探索者の中に、一人はジャーナリストがいるか、誰か一人を新聞に出ている被害者の関係者とするのが普通の導入条件ですが、探索者ソウルにあふれたプレイヤーならいきなり4月19日の新聞記事と最近の噂を教えるだけでもいいでしょう。

 

1.あらすじ
 探索者は新聞記事で、ここ最近奇妙な生物の目撃証言が頻発しているのを知り、更に奇怪な殺人事件らしきものの存在にも気付きます。
それらの事件の関連性に気付き、真犯人を見つけだすことが出来るでしょうか。

 

2.登場人物印刷用データ 
印刷用キャラクター画像表示(200dpiで縦10幅cm、A43枚)1
 2 3
(登場人物の説明は、各章で行われています。)

 このシナリオはミステリー仕立てなので、詳しい情報が必要なさそうなキャラクターもイラストと設定をつけてあります。
状況によってはまったく登場しないキャラクターも出てくるでしょう。
特に編集長のドナルド・レーガンは、使った方が都合がいい場合のみ使用してください。

 

3.導入
 シナリオは1920年代の4月19日から始まります。
始まった時点で、PCにはここ2〜3ヶ月、夜空に人間ほどの大きさがある巨大なコウモリらしき物を目撃したという新聞記事が10件あまりも載っていることを伝えてください。
その上で、開始当日の新聞記事(4月19日)で目を引いた記事として、弁護士行方不明の記事を見せてください。

 探索者の中にジャーナリストがいるのなら、馴染みの編集部で大コウモリの写真と巣に関する記事が欲しいと言わせてください。
どこの出版社も写真は一切手に入れていないので、高く買うと言っています。

 大コウモリの目撃証言があった日を、そうではないかという仮定の下に調べれば、それが新月、または曇りや雨などで、月の出ていない夜のみだと分かります。


●ドナルド・レーガン

※導入用サンプルキャラクター

 パルプ雑誌「アンノウンワールド」の編集長。
「アンノウンワールド」はムーとウィアードテールズとSFマガジンを足していい加減にしたような雑誌だが、本人は生活のためにいたって真面目に仕事に取り組んでいる。
すぐに頭に血が上り、どなりまくる。

 ドナルド・レーガンは、キーパーが適当な出版社やキャラクターが思いつかなかったときのために用意されているキャラクターです。
必要なら使用してください。

 被害者の関係者がいる場合は、該当する新聞記事を注目させてください。
アーノルド・ホールデン弁護士が知り合いだったことにするのが一番スムーズでしょう。

 

4.当日の新聞記事

4月19日

 弁護士のアーノルド・ホールデン氏が、17日夜より行方不明になっている。
ホールデン氏は、秘書にあとを任せ、事務所を出た後、そのまま行方不明となった。
事務所はニュー・ビジネスビルの8階にあり、地下駐車場のホールデン氏の車には戻った形跡は無かった。
秘書のエレクトラ・スミスさんは、ホールデン氏が出てしばらくして、合図のような口笛の音を聞いたと証言している。
 ホールデン氏は評判の弁護士で、特に企業間での訴訟に関わる仕事を得意としている。

 

5.過去の新聞記事

3月16日

 本日早朝、自動車部品製造会社 フェニックス社長ウィリアム・リー氏が、パブリック・ガーデンのラグーンにかかる橋で、欄干の柱に腹部を貫かれて死亡しているのが発見された。
遺体のポケットには彼に工場を売りたいという違法な取引を望む文章が書かれた紙が入っていた。
おそらく近くの木に登って飛び降りたのではないかと見られているが、それほどの落下速度を得るほどの木は近くにないという話も。

 氏は前日の夜中に約束があると言って、迎えに来たボディガードのジェット氏の運転で家を出た。その時行き先は告げていかなかったという。
ジェット氏の行方は分かっていない。
 公園の近くにいた浮浪者は、15日夜に誰かの悲鳴が聞こえたと言っている者もいるらしい。
 ウィリアム・リー氏は華僑のバックアップを受けて急速に事業を拡大していたやり手の経営者で、敵も多かったという。

 

3月16日B

 昨夜、チャールズ川で巨大なコウモリが飛んでいるという目撃報告が、1隻の漁船から寄せられた。
目撃者はセント・クリント号のビル・サイモン船長で、星明かりを浴びて、人間ほどの大きさもあるコウモリが飛んでいるのを見たと言う。

 ここ2月あまり同様の目撃証言が多数寄せられており、専門化は真実であればコウモリの新種または突然変異種の可能性もあると見て、更なる情報を集めて正体を突き止めたいと語っている。

※巨大コウモリの写真撮影に成功された方は、当新聞社までご連絡ください。

 

3月18日

 チャールズ川で、先日パブリック・ガーデンで遺体で発見された、ウィリアム・リー氏のボディガードだったジェット氏の遺体が浮かんでいるのが、航行中の船舶によって発見された。
当初水死と見られた死因だが、ジェット氏は全身の骨が砕けており、高所からの水面への落下がその原因だと断定された。
水面にそのような高度から落下するために登る場所などは存在せず、警察はジャック氏が飛行機から突き落とされた可能性を示唆している。

 また16日早朝にウィリアム・リー氏の遺体が発見されたパブリック・ガーデンからは2kあまりしか離れておらず、警察はリー氏も同じ飛行機から突き落とされた可能性があるとの見解を示した。

 パブリック・ガーデンはボストンで2番目に有名な公園で、緑あふれる正方形の敷地に、東西に細長い池があり、それに白い橋が架かっています。
カルガモで有名な場所でもあります。
夜は門が閉められています。

 チャールズ川は港町ボストンの中心部を切り込んだ形で流れている大きな有名な川で、マサチューセッツ湾への通路でもあります。

 

6.過去の新聞記事について
 このシナリオは実に単純ではありますが、前半はミステリーを意図して作られています。
主に推理が必要な部分は、新聞記事の自動車部品製造会社社長ウィリアム・リー殺害と、弁護士アーノルド・ホールデン行方不明を結びつけるところで、「プレイヤーは謎を解けない」というTRPGの鉄則の上でも、なんとか自力でたどり着ける難易度を意図しています。
 それよりも問題になるのは、むしろ「PCが過去の新聞記事をどうやって見つけるか」 の方でしょう。
この部分は、さっさとシナリオを進めたい場合は「アイデア」ロールでもなんでも使ってプレイヤーに見つけさせてください。最初から提示してしまってもかまいません。
 のんびり構える場合は、ほったらかしにしてみましょう。
PCは巨大コウモリを見つけるために川を探したり、警察に行ってみたり、弁護士の行方を捜したりするでしょうが、いよいよ手詰まりとなったら「巨大コウモリの目撃例」を探して過去の新聞をひっくり返すはずです。
そうなったら<目星>でもさせて見つけさせるか、更にのんびり構える場合には、プレイヤーの方から「過去に気になる事件が無いか」と言い出すまでほったらかしにしましょう(笑)。
 巨大コウモリを探して川沿いをうろつきだした場合には、偶然モーリス工業の廃墟のような工場が目に入るという展開にしてもいいでしょう。

 とにかくミステリーの形を成しているシナリオは、キーパーに解かせてもらったとプレイヤーが思ってしまうと激しく興ざめなので、出来るだけ自力で正解にたどり着いてもらって達成感を得てもらいましょう。

 

7.遺体のポケットにあったメモ
 警察で<雄弁>か<信用>ロールに成功すれば、メモを見せてくれます。
または新聞社で担当の記者にうまく話を通せば、速記で記録したのを清書したものを見せてくれます。
ポケットに入っていたメモは、タイプライターで打たれています。
使われたタイプライターは新品または新品同様のもので、警察でも今のところメーカーしか確定していません。

 

ウィリアム・リー様

 私はある工業部品製造工場を経営している者です。
最近の貴殿のご活躍を聞き及び、お願いの手紙をしたためさせていただきました。

 実は私の工場は、経営難に陥っており、次の手形の期限と共に倒産する運命にあります。
そうなったら勿論工場もその設備も差し押さえられてしまいます。
そこで財力と実行力の両方をお持ちのリー様でしたら、手形の期限の前に全てを買い取っていただけるのではないかと思ったわけです。
勿論通常より遙かに安い値段で結構です。当方は差し押さえられる前に現金化さえできればいいのです。
このような取引は法に触れる部分も生じてくるでしょうが、その点でもリー様でしたら問題なく処理できるものと信じてのお願いでございます。

 詳しい話は今夜2時にパブリック・ガーデン前の駐車場でお会いしてお話ししたいと思います。
私は車のハザードランプを点けてお待ちしております。

 

 このメモはフェニックス社社長の死が、人為的なものであるという証拠です。
プレイヤーが巨大コウモリの方ばかり眼を向けているようなら、これの存在をアピールすれば効果があるでしょう。

 

闇の進行状況

 ポール社長は今年1月に当然継続されると思っていたフォード社との独占契約を解除され、裁判に持ち込みますが、フェニックス社が雇ったアーノルド・ホールデン弁護士の力もあって2月に敗訴。
工場は開店休業状態となり、先を見越して作っていた部品も余剰在庫となってしまいました。
しばらくは新たな契約を求めて営業を頑張っていましたが、うまくいかず、やがては復讐の方に意識が向かってゆきます。

 古本屋で見つけた本によって呪文を覚えたポールは、手紙でウィリアム・リー氏を夜中の公園近くにおびき出し、召喚しておいた夜のゴーントに上空まで運ばせて落として殺し、ボディーガードも同じくチャールズ川に運んで殺しました。
しかしどうやって高所から落下したのかが不明なのが新聞記事で大きく取り上げられ、目立ってはまずいと気付いたので、弁護士は建物から出てきたところを口笛の合図で夜のゴーントに捕まえさせ、海まで運ばせて溺れ死にさせました。
 次は最後の標的であるアンドレアス・カーを狙っていますが、フォード社のボストン支部長である彼を人目に付かずに捕まえる機会がなかなか見つけられずに焦っています。

 

8.大コウモリを目撃した漁船
 ボストン漁港などで聞けば、セント・クリント号の船長に連絡がつくでしょう。
セント・クリント号は小さな船で、他に船員は2人いましたが、大コウモリを目撃したのは船長だけでした。

●ビル・サイモン船長

漁師。
 15日夜に、チャールズ川で巨大なコウモリのようなものが飛んでいるのを目撃し、新聞社に取材された。
 長年の漁師生活で眼には自信を持っているが、その夜は月も出ていない上に雲がかかっていて暗く、ほとんどシルエットとしてしか見えていなかった。
しかし質問のしようによってはもう少し細かい特徴も思い出すかも知れない。
例えば「長い尻尾があった」 「人を抱えているようにも見えた」など。

 

9.弁護士事務所
 アーノルド・ホールデン弁護士の事務所は、ボストンのビジネス街にあるニュービジネスビルという12階建てのビルの8階です。
駐車場は地下にありますが、 ビルの中との行き来にはいったん地上の正面出入り口を通る必要があります。

●エレクトラ・スミス

弁護士の秘書。

 行方不明になった弁護士の秘書であり、最後の目撃者でもある。
有能な女性で、弁護士という仕事は、有能であればあるほど敵を増やすことも多いということも分かった上で、やりがいを感じている。
事務仕事は勿論法律にも詳しく、彼女一人でも仕事が出来そうな雰囲気さえある。
彼女自身は有能だったアーノルド・ホールデン弁護士を尊敬しており、一生懸命行方を捜しているが、見つからなかった場合に備えて次の仕事も探し始めている。

 スミス女史は探索者が新たな情報を得ているのを期待して、それを聞き出そうとしますが、新しい情報が無いと分かると肩を落とし、それでも情報を教えてくれます。
  スミス女史に訪ねるか、裁判所で<説得><言いくるめ><信用>等に成功すれば、アーノルド・ホールデン弁護士の最近の仕事を知ることが出来ます。

アーノルド・ホールデン弁護士の最近の仕事

2月
  フェニックスのフォード社自動車部品製造新規独占契約に対し、モーリス工業が起こしていた訴訟に対処。フェニックスに勝利をもたらした。

2月末
  下院議員のフェリックス・モーガン氏の乗った車が関わった交通事故に関して、遺族との示談をとりまとめた。

3月
  ボストン造船所の拡張工事予定地に関して、該当住所に居住中の住民との交渉中。

 この情報で初めて行方不明の弁護士と、殺された社長の間につながりがあるのが分かります。
ここもプレイヤーが自力で見つけだす楽しみを壊さないように、リストを渡すだけにして、あとはプレイヤーの推理に任せてください。

 スミス女史にモーリス工業のことを尋ねると、社長の名前ポール・モーリスと、自宅と工場の住所と電話番号を教えてくれます。
 裁判所では社長の名前しか分かりません。おそらく電話帳で調べれば住所や電話番号も分かるでしょう。

 3月の造船所の件は、ホールデン氏が行方不明となったので、スミス女史が継続を辞退しています。

 

10.モーリス工業の工場
 チャールズ川沿いのの工場街にあります。
50×100mほどの敷地で、塀におおわれ、ぽつぽつと木が生えている敷地内には、3つの建物が建っています。その内2つは工場で、1つは事務所兼倉庫です。
門は開いていますが、人の気配はありません。

 事務所の建物は2階建てになっており、1階は休憩所で、2階が事務所。同じ高さで倉庫がくっついています。
休憩所と倉庫には人の気配は無く、倉庫はシャッターが閉まっています。
倉庫の中を見ることが出来ると、大量のコンテナが積まれているのが分かります。
(先を見越して生産していた部品で、行き場が無くなって置かれたままになっている。)
 外から階段を上った先に事務所の扉があります。
事務所には作業着を着た年配の男性、主任のフレッドが、事務所の番をしています。

●フレッド・クレリー
モーリス工場主任

 契約更新の失敗と共に工場では仕事が無くなり、工員のほとんどが辞めてしまっている。
彼自身は高齢なので他に仕事を探す気にもなれず、事務所の番をしている。

 フォード社のボストン支部長アンドレアス・カーとフェニックス社社長ウィリアム・リーに強い怒りを覚えており、汚い言葉でののしる。
リーの死は、誰かが正義の鉄槌を喰らわしたんだと嬉しそうに話す。

工場は開店休業状態で、工員のほとんどが辞めてしまったと話し、社長は営業に、工場長は工場のチェックをしていると教えてくれます。

 工場には近代的な設備が整い、規模も大したものですが、どの機械も止まっています。
ほとんどは金属加工の機械です。
工場長デヴィッド・マーシャルが、いつ作業を再開しても大丈夫なように、入念に機械のチェックを行っています。

●デヴィッド・マーシャル
モーリス工場長

 彼は会社創設当時からのスタッフであり、社長が必ず新しい契約を見つけてくると信じている。
またあくどい手段で契約を奪ったフェニックス社社長と、賄賂で筋を曲げた(と彼は思っている)フォード社のアンドレアス・カーを恨んでいるが、それを表には出すまいと努力している。

 フェニックス社社長の死については、天罰だろうと言うが、すぐに訂正し、こんなことを言うべきでは無かったと言う。彼はクリスチャンである。

 社長はここ一月ほど工場には顔を出していません。
二人は社長は今も営業に走り回っているのだと信じていますが、少し様子がおかしいとも感じています。

 工場の二人は社長以外にも殺害の動機を持った人物を登場させ、探索者達を混乱させるための存在です。
キーパーは彼ら二人の設定を掘り下げてアリバイの有無などを調べさせてもいいし、さっさと話を進めたい場合は彼らのイラストや名前は出さず、「主任」「工場長」という風に表現して、本筋とは関係ないキャラクターだとアピールしてください。
二人に最近の社長の様子がおかしいと言わせるのも話をシンプルにする効果があるでしょう。

 

11.モーリス邸
 ボストン郊外の住宅地にあります。ボストン市街地から車で30分ほどの場所で、周りは自然が多く、家と家との間隔も広く、少々の物音では隣の家まで届きません。
 ドアチャイムを鳴らすと、ハウスキーパーのメリッサが顔を出します。

●メリッサ

 モーリス家のハウスキーパー。
太った黒人女性で、明るい性格。南部なまりがある。
モーリス家を訪ねた人が特別怪しいというわけでなく、ポールが不在でなければ、名刺をもらった上で、ポールに連絡してから通してくれる。
 最近のポールの変貌ぶりには気付いているが、関わったらいけないと思っており、勿論それを見ず知らずの人間に話してはいけないとも思っているが、基本的に話好きなので、<言いくるめ>には弱い。

  探索者を混乱させるためには、メリッサがブードゥー関係の首飾りをつけているという設定にしてもかまいません。
彼女の部屋にその関係の呪物がゴロゴロしていたりすれば、 探索者の興味を引きつけるでしょう。

 中に通された場合は、まず応接室に通され、すぐにポールもやってきます。

●ポール・モーリス

自動車部品製造業取締役&新米魔術師  50歳

筋力(STR) 8  敏捷力(DEX) 6  知力(INT) 13  
体力(CON) 10  外見(APP) 7  精神(POW) 14 
サイズ(SIZ) 11  SAN値 10/84  教養(EDU) 17
MP 14   
耐久力 11

言いくるめ(61) 隠す(63) 隠れる(59)
機械修理(65) クトゥルフ神話(15) 経理(33)
忍び歩き(23) 写真術(23) 図書館(56)
値切り(35) 自動車運転(36)
ドイツ語(65) 中国語(26)

.32リボルバー 命中20 ダ1D8 15m 攻3 装弾6 耐10 故障96

呪文
夜のゴーントの召還/従属、コルーブラの手、旧き印

 自動車部品製造会社モーリス工業の創始者にして社長。
仕事熱心な男で、一代でゼロから今の地位を築き上げた。
 ボストンの路地にあった怪しげな中国人が経営する古本屋で「無名祭祀書(1909年出版/英語版)」を見つけ、戯れに手に入れた。
本の内容を深く知るに連れ、世界が滅ぶ運命にあるという不安を覚え始める。
そんな時に新規契約の破棄が言い渡され、どうせ世界が滅ぶのであれば、その前に復讐を果たそうと思い立った。
復讐を進める内、彼の中では夜は自分の世界であり、やがて来る永遠の闇の世界では自分が魔王となるという盲信が生まれつつある。
したがって夜に彼に会うと、昼間とは別人のような自信に満ちた態度に驚くことになる。

 早くに妻を亡くし、男で一つで育ててきた娘のことは、復讐のことを優先して今は考えないようにしており、論理矛盾から無意識に目をそらしている。

 フォードT型に乗っている。少し古いタイプ。

 面と向かって戦闘になった場合、ポールは銃で相手を脅して動きを止めておいて、夜のゴーントに捕まえさせる。
しかし銃は使い慣れておらず、最初の一発を撃つ前に1ラウンドの躊躇がある。

 「夜のゴーントの召喚/従属」は月の出ていない夜に行われ、ポールは1匹につき6MPと30分を消費する。成功率は60%だが、状況によってはキーパーは自動成功としてもよい。
夜のゴーントを2匹召喚した場合には、残りMPは2しか無いことになる。
1匹だけの場合は1つ目の命令の後、更に「従属」に成功する可能性があるが、2匹の場合は最初の命令しか聞かせることが出来ない。
 命令は「ここに待機して、口笛が鳴ったらここに出てきた奴を海に運んで落とせ」
「ここに来たやつらを全員上空へ運んで落とせ」という感じで、ある程度は融通を利かせてやること。
 ポールは珍しく正気度が残っている魔術師なので、「夜のゴーントの召喚/従属」を行う毎に1D3、追加で「従属」を行う毎に1正気度を失う点にも注意が必要。

 夜のゴーントのデータはルールブックを参照。

 最後にどうしようもなくなったら、「コルーブラの手」を使おうとするが、今まで使ったことが無く、どれだけMPを消費するかも理解していない。
これでMPがマイナスになった場合は、そのまま廃人と化す。

 ポールは親しみやすい態度で接しますが、それはむしろ卑屈と言える感じです。
探索者達が怪しまれないような自己紹介をすれば、普通に色々話してくれますが、新規の契約に関わりが無いと分かると、あからさまに失望した顔になりますが、腰は低いままです。

 契約について聞かれると、自分がふがいないばかりに新規契約を取り付けるのに失敗し、工場は開店休業状態で、工員の給料も払えない状態だと悲しそうに話します。
 巨大なコウモリについて聞かれると、きょとんとした顔で、「最近忙しいので、よく知らない。」と答えます。
探索者の方から<心理学>ロールの要望があれば、行って下さい。
成功した人はコウモリの話が出た瞬間、彼の眉がピクンと動いたのに気付きます。

 ポールは探索者があまりにも知りすぎていると判断すると、夜のゴーントを使って殺すことを決意し、同時に他にそのことを知っている人がいないか確認しようとします。

●ポールの私室
 ポールの私室はポールが留守の時には扉に鍵がかかっています。
<錠前>に成功すると、鍵が開きます。扉のSTRは15で、体当たりは一度に一人しか行えません。部屋は1階なので外から窓を壊して侵入するのは容易です。

 中は小さめの部屋で、ベッドとデスクが置かれています。壁にはチャールズ川を描いたらしい絵が掛かっており、作りつけの棚には自動車部品らしき物がいくつか飾ってあります。
 デスクの引き出しの一つには鍵がかかっています。
それをこじ開ける(STR7)と、いくつかの呪文めいた物が書かれた書類、五芒星のような模様(古き印です)の描かれた石、無名祭祀書(1909年出版/英語版)、それに1枚のメモが入っています。
メモには3人の名前が書かれ、その内2人は線を引いて消されています。

ウィリアム・リー

アーノルド・ホールデン

アンドレアス・カー

 壁の絵の裏には金庫があります。
ダイヤルナンバーが分からないと開きませんが、古い金庫なので、ある程度(3D10分)時間を掛けて<錠前>に成功すれば開きます。
中にはお金などと新品同様のタイプライターが入っています。

●探索者がモーリス邸を出てくると、黄色いシトロエンがモーリス邸の車庫に入ってきます。
降りてきたのは若い女性で、ポールの一人娘のジョディー・モーリスです。

●ジョディー・モーリス

 21歳。
ポールの一人娘。母親は10年前に亡くなっており、メリッサが母親代わりだった。

筋力(STR) 8  敏捷力(DEX) 11  知力(INT) 13
体力(CON) 11  外見(APP) 15 精神(POW) 8  
サイズ(SIZ) 11         教養(EDU) 14
     
耐久力 11  

言いくるめ(34) 聞き耳(55) 自動車運転(62)
乗馬(35) 信用(24) 人類学(22) 説得(21)
電気修理(19) フランス語(60) 目星(41)
歴史(50)  

 ノースイースタン(Northeastern College of the Boston Yong Menヤs Christian Asso-ciation)大学に通っている。

  基本的には真面目な性格で、ドライブが趣味。輸入品の黄色いシトロエンに乗っている。
ファッションにもそれなりに気を使っているが、フラッパーほど派手なわけではない。

 このままだと大学を辞めなければならないということは、頭の片隅では認識している。
彼女はポールが今年に入ってから様子ががおかしいのに気付いているが、会社のことが原因だと思っている。
最近では彼女に対する態度もよそよそしい。
また、ここ2月あまりポールが真夜中に庭に出て行き、場合によっては車で出かけてゆくのをいぶかしんでいる。

 今まで家の近くで巨大なコウモリのようなものを2回目撃している。

 

12.その後の展開
 ポールは探索者達が多くを知りすぎていると判断すれば、夜のゴーントを呼び出してから待ち伏せをして1人ずつ殺そうとします。
探索者を殺す必要が無いと判断すれば、アンドレアス・カーの暗殺を優先します。
どちらも平行して行う可能性もあります。

 探索者はポールが犯人らしいというところまでたどり着いた後、この先の進むべき道を見つけるのに苦労するかも知れません。
特にポールが探索者の殺害を決意しなければ、その後は放っておけば探索者の身にはなにも起こらず、その内アンドレアス・カーが行方不明(海に捨てられた)というニュースを聞くことになるでしょう。
そうならないためには探索者の方から動く必要がありますが、ポールの部屋への侵入は違法行為だし、その後をつけるなどの行為にはポールが犯人であるという確信が必要かもしれません。
 どうしても進みそうにない場合は、娘のジョディーから探索者達に接触させ、父の様子がやはり気になるので調べてくれないかと依頼させるのも手です。 その場合は彼女が父親の部屋の鍵を開けてくれるとしてもいいでしょう。

●アンドレアス・カー

 フォード社のボストン支部長。
贈賄によって、それまでモーリス工業が独占契約していた部品製造の契約更新を行わず、新たに進出してきたフェニックス社と契約を結んだ。

 ウィリアム・リー社長から多額の賄賂を受け取って契約を行った。
しかし次の標的が自分だとは夢にも思っておらず、超常現象もまったく信じていません。

 カーの殺害は、おそらく彼の自宅で彼が帰ってきたところを待ち伏せするというのが一番ありそうな計画です。
細かい部分はキーパーの判断に任せますが、月の出ていない夜であること、カーの帰宅が人目の無い程度に遅い時間であることが必要です。
 これは探索者も同じで、特にメリッサに名刺を渡したり、個人情報を知られてしまった探索者は、一人で夜に行動するようなら怖い目にあうでしょう。
そのチャンスが無いと判断すれば、ポールは探索者全員をおびき出して殺そうとします。
せっぱ詰まれば全員を射殺してから夜のゴーントに海に捨てさせるという方法を選ぶかも知れません。
 娘のジョディーに父親の正体を見せるというのも、解決の手段になるかも知れません。
その場合はポールは1D10の正気度を失い、自殺を選ぶ可能性があります。
それで真の狂気(SAN=0)に陥った場合は、 逆にどうせ世界は滅ぶのだからと娘を含めた全員を殺そうと考えます。

 このシナリオは犯人としてポール・モーリスが浮かび上がるまでがメインなので、その後はあっさりと進めてしまってもかまわないでしょう。
 探索者は分からなくても、プレイヤーの多くは夜のゴーントが関わっているのは予想がついて、大した怪物じゃないと胸をなで下ろしているかも知れません。
しかし探索者の近辺にポールの(夜のゴーントの)魔手が迫っている段階では、夜闇になめし革のようなはためく音を聞こえさせたり、異臭を感じさせたりして、闇夜の襲撃と高所からの落下が、想像以上に恐ろしい攻撃だと思い知らせてあげましょう。
 探索者が強力な場合は、ポールの能力値を上げたり、他の呪文を付け加えてもかまいませんが、シナリオの意図としては犯人探しがメインなので、最後は探索者達に気持ちのいい勝利を味あわせてあげてください。
「クトゥルフの呼び声」では、これを味わう機会はほとんど無いのですから(笑)。

 

13.終幕
 ポールのカー殺害計画を知った上で阻止し、夜のゴーントを退けることが出来たら、探索者は(1D6+1)の正気度を得ます。
夜のゴーントを退けるのに成功し、カーが殺害されてしまった場合は、生き残った探索者は正気度を(1D4)得ます。
更に廃人となったポールを精神病院に収容することが出来れば、生き残った探索者は正気度を(1D4)得ます。

 

14.最後に
 このシナリオは、キャンペーン・シナリオ「ヨグ・ソトースの影」の導入用に作ったものを独立したシナリオに修正したものです。
その後の「ヨグ・ソトースの影」の強大な敵に遭遇する前に、その後はたどり着けないかも知れない成功と勝利(笑)を味わってもらう為、 シンプルなミステリー形式で、敵も弱く設定されています。
 初心者プレイヤーやキーパーの練習用や、他のキャンペーンの中に生き抜きシナリオとして挿入するなど、自由に活用していただければ幸いです。

 またモーリス社長の部屋には、クトゥルフ定番の日記がありませんが、これは「ヨグ・ソトースの影」の導入としては、まだあまりPCに情報を与えたくなかったのがその理由です。
このままでは社長が犯人だと確信させる材料が足りないと思えば、適当な内容で日記を作って引き出しの中に入れておけばいいでしょう。

 

●「ヨグ・ソトースの影」の導入として使用する場合
 ポールは「銀の黄昏錬金術会」の「銀の門の守護者」で、 呪文は「銀の黄昏錬金術会」の図書室で覚えたので、「無名祭祀書(1909年出版/英語版)」は持っていません。
 彼は追いつめられると自分は誇り高き「銀の門の守護者」であると宣言し、探索者たちのようなちっぽけな存在ではないのだと息巻きます。
最後にどうしようも無くなり、彼が「銀の黄昏錬金術会」についてしゃべりそうになると、いきなり「忌まわしき狩人」が現れ、彼を尻尾で掴んで飛び去ります。
闇夜の出来事なので、しっかりと光をあてて見ていなかった探索者の正気度の喪失は通常の半分の(0/1d5)で済みます。
ポールはそのまま行方不明になり、やがて「銀の黄昏錬金術会」の地下で発見されることになります(POWが0になっています)。





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