航海日誌番外編12
シャトルに乗り込んだジュリエッタは、部下達と無駄話をしながら降下の時を待った。
これが正規軍の一般の兵士達を相手にしていた時ならば、話は違ってくる。
ジュリエッタは中隊長として別室に篭り、小隊長、分隊長達が自分の部下の装備を確認し終わるのを待っていなければならない。
そして、中隊付准尉が点検完了を告げに来ると、兵士達の前に仰々しく姿を現わして、訓示と激励を行なう。
中隊は巨大な家族だ。小隊長という母親、小隊軍曹という長男、下士官の兄達と兵卒の弟達。
そして、中隊長は家父長である。
上層部にとっての最小の戦略単位が師団であっても、駐屯単位が連隊であっても、戦術単位
が大隊であっても、兵士達にとって中隊とは軍隊のほとんどなのだ。
だから、中隊長は兵士達の前では絶対的権威の象徴として君臨していなければならなかった。
兵士は中隊長の言葉一つで安心し、また顔色を盗み見て不安にもなるのだ
だが、ここにいるのは全て、軍隊を知り尽くし数々の戦場を生き抜いてきた、鋼鉄のような下士官達だけだ。
例え手に針金一本しかなくても、相手を殺せる死神のような連中を相手に、今更少しばかりの権威を見繕ってみても仕方がない。
彼等は自分達の装備を自分自身で確認し、その間も軽口を叩いていた。
それは歴戦の下士官だけに許された特権だ。
ジャイディが毛並みの綺麗なヴァルグル美人とのロマンスの話をし、クライフが口笛を吹いて盛り上げる。
ジュリエッタも冗談で混ぜっ返した。
これから行なうことは戦争ではなく、一方的な虐殺だ。
それが分かっているだけに、ジュリエッタもチームのメンバーも、皆極度に饒舌になっていた。
やがて降下準備を告げるブザーが鳴る。
それぞれが自分のバトルドレスへと向かう足取りは心なしか重かった。
眼下にまるで巨大な蜘蛛の巣のように、キワサンの街の明りが広がっている。
ジュリエッタはヘルメット内のスクリーンに投影される拡大映像の中に目標を見つけ、それに向けてプラズマ砲を放った。
全長69メートルの青銅製の建国碑、それが真っ二つに割れて崩れ落ちる。
続けて電話通信ビルの屋上集積アンテナを破壊する。
首都警備師団の弾薬集積庫に2発。これには誘爆が次々と続いた。
合間に腰の武器アタッチメントから、燃料気化爆弾を取り出す。
ウォスルー港に停泊しているミサイル巡洋艦の艦橋、24連装のミサイル発射口に立て続けにプラズマ砲を撃ち込む。
船は火山のような火焔を上げた。
地表が加速度的に近づいてくる。
燃料気化爆弾を連邦軍司令本部ビルの向けて投げつける。
反重力装置を操作し、ジュリエッタはゆっくりと広い幹線道路に降り立った。
連邦軍司令本部ビルが吹き飛び、爆風が周囲のビルの窓ガラスを豪雨のように降り注がせた。
ジュリエッタは反重力装置を急激に逆転させ、高く跳躍した。
スクリーンに地図を呼び出し、赤く点滅する目標と眼下の風景を見比べ、中央証券取引所に向けて火焔放射を行なった。
街の各所で破壊が続いている。
郊外の広い森の向こうで爆発が起こった。
フィナンとオクパラに任せた、空軍のユェンク空港の方だ。航空燃料にでも引火が起こったらしく、空を焦がすような巨大な火柱が上がっていた。
ビルの合間に着地し、駐車してあった車を踏み潰した。
もう一度飛翔し、官庁街に小型爆弾をばら撒いた。
全長3.8Kmの巨大な二層橋が、爆煙を上げて連鎖的に崩れ落ちていくのが見える。
これは建造物破壊のエキスパート、クライフの仕事だ。
エルケセス連邦の首都キワサンは、わずか数分の内に首都機能の大半を失っていた。