イチオシ宇宙船 パヴア級戦闘輸送艦
商船/輸送船は経済を支える大動脈です。戦時ともなれば、兵站輸送、軍隊輸送その他、重要性はいや増しま
す。このことは、宇宙でも海の上でも変わりません。しかし、戦闘を専らとする宇宙船にとっては、これら民間船 は単なる射撃目標に過ぎません。輸送船が余程大きく、かつ幸運と有能さに恵まれ、軍艦の方が小型、不運、無 能と三拍子そろっていない限り、どんなに頑張ったところで、輸送船が戦闘用の宇宙船と戦って勝つことはありま せん。
ですから、戦時にあって船団護衛は海軍の重要な任務となるわけですが、船団護衛もまた、簡単なことではあ
りません。護送船団が直面するストレスと恐怖については、古くは「呪われた海」から最近の「宇宙勇者ボーフォ ート」シリーズまで、時代や技術を問わず、ノンフィクション・フィクション様々なところで描かれています。そういう 訳ですから、強力な戦闘力と大きな貨物スペースを合わせ持つ「戦闘輸送艦」の誘惑は、海軍関係者には抗い がたいものがあるのでしょう。
問題は、大昔の帆船ならいざ知らず、こうした設計をすれば、戦闘艦としても輸送船としても中途半端になるの
ですが、それでも何タイプかの戦闘輸送艦が現存しています。その中でも、二年前からソロマニ海軍に就役しつ つあるパヴァ(ロシア語で「孔雀」)級戦闘輸送艦は、比較的バランスが取れた設計です。船体に対する貨物スペ ースの割合が40%もあり、輸送船としての機能は十分、一般の商船でもこれ以下の比率のものは多々あります。 武装は3万トンクラスの軽巡洋艦並であり、通商破壊に従事する宇宙船とは十分に渡り合えます。
の二つです。しかし、就役して二年、しかもたった六隻しかないパヴァ級が二度も実戦の洗礼を受けたということ は、もともと危険度の高い地域に配備されていたわけであり、それだけパヴァ級に対する期待が大きいことを示 しているのでしょう。
1. カーペットライダー作戦
ソロマニ辺境の某世界。ここは珍しく、ソロマニ党以外の政党が自由に活動できる世界でしたが、与党による
連立構想の失敗と最大野党指導者の暗殺事件により、一気に内戦となりました。未工事区画を残したまま強引 に出動した一隻も含む三隻のパヴァ級輸送艦は、難民救出のため延べ30回運行し、90万人を星系内外の安 全な惑星に退避させる一方、ハイテク重装歩兵師団二個を現地に輸送しました。宇宙船や地上部隊と交戦は数 回ありましたが、戦果も損害も僅少でした。
2. クラリオン作戦
アスランとの国境に近い某世界で、クーデターが発生しました。事態を収拾するための軍事行動が計画されま
したが、直ちに某世界に移動できる兵力は、パヴァ級5番艦「ヘルメス」一隻しかありませんでした。一方、某世 界は戦艦1隻、大型巡洋艦8隻を中心とするかなり強力な艦隊を持っていましたが、「ヘルメス」は、貨物スペース に各種機雷20万個を詰め込んで某世界に出撃、惑星防衛艦による妨害を排除しつつ、惑星と、宇宙空間の主 要軍事基地の周囲に機雷を敷設しました。この結果、軍民問わず宇宙船の離着陸は完全に阻止され、出動しよ うとした戦艦は機雷で損傷を受けました。後から到着したソロマニ連合政府の艦隊は、なんら抵抗を受けること なく軍事政府を打倒することができました。
ただし、20万個の機雷を誰が片付けるのかと言う問題は未解決であり、未だに掃海中です。一説には、この
時に使用された本物の機雷は一万個ほどで、残りは艦長の機転で搭載された金属の箱だと言われていますが、 どちらにせよ片づけねばならないため、危険は減っても手間は減りません。ただ、機雷、地雷等の「待ち」の種類 の兵器は「設置した」と相手に認識させるのが大事で、必ずしも本物である必要が無いのも確かです。
いずれの場合も、パヴァ級戦闘輸送艦は見事に任務を達成しています。本格的な戦闘は発生していないた
め、その実力はまだ未知数と言うしかありません。さてさて、今後もパヴァ級は期待に応え続けるのでしょうか? でも、なかなか期待大だと思われます。
ベルターの友 第二回
連載第二回は、レアメタルの華と言うべき金属元素の数々。ハイテク工業を支える不可欠な資源です。ただ問
題は、こうしたレアメタルの重要性に鑑み、政府機関による価格統制の対象となっている場合があることです。
含有率: 理論的な鉱石中の含有率
発見率: 鉄の鉱床と比較した場合の発見しやすさです。
#1 アルミニウム、鉄などと一緒に採れる
#2 ルチルに神秘的なパワーなんてものはありません。あればあったで、超能力の使用とみなされる可能性があ
ります。
#3 銅、アルミニウムなどと一緒に取れる
#4 鉛、亜鉛、銅などと一緒に取れる
#5 鉱物(アイゼライト)もあるが、主な供給源は鉄、鉛、銀、亜鉛等の不純物
#6 アルミニウム、カリウムなどの鉱石の不純物
#7 宝石のジルコンもある。
特集 ニッチなお仕事
一攫千金はリスクが高いです。地道に稼ぐのがベストです。地道な宇宙船乗りと言えば旅客/貨物輸送しかありませんが、残念なが
ら、この地道稼ぎすらままならないのが、世の中と言うものでして……。だからこそ、燃料代と生命維持費で損失を受けつつ空荷で他の 世界へ移動する破目になるのです。
でもそんな時、もう少し仕事を探してみてはどうでしょうか?宇宙船で運べるのは、何も貨物と旅客だけではないのです。
1.空きコンテナの回送
コンテナ輸送船は、目的地でコンテナを下ろし、あらかじめ用意されたコンテナを積み込んでまた出発します。
ただ、出入りの貨物量や容積は必ずしもとんとんではないので、空のコンテナが倉庫に山積み、と言う事態も 多々見られます。特に大手の運送会社では、空きコンテナの山に頭を痛めていることも多く、ここに、こうした空 コンテナの回送と言う需要が生まれるのです。ただし、募集されていることは少なく、自ら買って出る必要があり ます。また決して高報酬が得られる訳でもありませんが、うまくすれば大企業からの信用と信頼が得られるでしょ う。何も船荷が無い時にはオススメです。
ただし、時々、空きコンテナと言いつつなぜか折りたたまれていないやつや、折りたたんだ隙間にナニかが入っ
ていたりすることがあります。密輸の片棒を担がされないように注意してください。
2.廃棄物処理
宇宙とは広大なゴミ捨て場です。単に宇宙へ飛びだし、適当な場所で船倉のドアを開けて、人工重力を切って
蹴り出すだけです。高報酬は得られませんが、よく探せば、募集されている以上に仕事があります。ただし、危険 なこともあります。
実例
1. 高強度の放射性廃棄物が含まれており、船倉が放射能に汚染されました。
2. ワクチン研究に使われた実験動物の処理。感染性は低いものの、極めて致死的なウィルスに感染させられた肉食獣
の処理を任されました。惑星上での処分は危険だと言う判断からです。ところが、死んでいなかった実験動物が…。
3. 2と似たケースですが、動物保護団体によるサボタージュを受けたという報告もあります。
4. マジック酸を含む工業廃液の処理を委託されました。しかし、不適切な積み付けにより、マジック酸が梱包容器を溶
かし、さらには宇宙船の外壁に危うく穴があくところでした。
5. 廃棄物と言いつつ、実は使用可能な軍からの横流しされた武器類でした。投棄場所でテロリストグループが回収す
る手はずでした。
6. 鉄くずの山の中に、何故か金庫がありました。あけてびっくり、金塊が……。
3.囚人/戦争捕虜の護送
流刑囚や戦争捕虜の輸送です。囚人の輸送の場合、星系内の輸送の場合が多く、またそれほど多額の報酬
を得られるわけではありませんが、何もしないよりはマシです。戦争捕虜は、惑星上での大規模戦争の場合、残 虐行為の防止と言う意味で、捕虜は他の世界に移送されてそこで拘束されることが多いです。こちらは通常の旅 客収入が得られるし、一般に戦争捕虜達は、軍隊らしく規律が行き届き、かつ粗末な生活条件にも耐える訓練を 受けているので、民間の旅客より良いお客となります。
実例
1. 二等寝台に冷凍された囚人の移送。囚人に問題の起こしようはありませんでしたが、目的地の刑務所では、解凍処
理を担当する医師が事故死していて大慌て、と言う例があります。
2. 危険な犯罪人の護送。シリアルキラー、海賊のボスなど。こうした大物犯罪人の場合、声の大きな弁護士がついてい
ることが多く、そこからの苦情のため、二等寝台による輸送が嫌がられます。こうなれば多数の護衛隊が随行するた め、儲けとしてはかなり大きくなります。しかし、犯罪者が脱走を図り、成功した例が少なくとも2件、確認されています。
3. 捕虜の移送で起きた事例。愚かにも、交戦国の捕虜達が一緒くたに乗せられました。毎日が喧嘩沙汰です。ただ、互
いを無視しあって平穏無事か、そうでなければ友情が育つかして意外に平和なこともまた多いようです。ただ、第三者か ら見れば敵味方の友情にも限度があって、平和を訴えるため、一丸となって宇宙船をハイジャックと言う迷惑千番な事 件が発生しています。
4.捕虜の移送で起きた例。士官が宇宙船をハイジャックし、自国に戻ろうとした事件が報告されています。
5. これも捕虜の移送で、非常な高待遇、ほとんど贅沢とも言える待遇が要求された例があり、短期契約で新たにスチュ
ワードを雇わねばならなくなった事例があります。別に捕虜に対する人道的な配慮ばかりではありません。よくある話な のですが、もし戦争に勝てば、費用は後で相手国に請求できるからです。
6.捕虜の移送の例。交戦国の一方が、自国の捕虜を奪回すべく宇宙船を待ち伏せていました。戦う必要があるかどうか
は、契約によって違います。
なお、上記のような仕事を引き受けて生じるいかなる損害に対しても、当編集部は一切責任を負いませんの
で、そのつもりで。
一週間のすごし方
ク○ドラマを見よ 「ロボ刑事一番星 セカンドシーズン」
ジャンプ空間の一週間とは特殊な時間です。どんなに急いでもジャンプの期間は短くならず、ジャンプ空間に閉
じ込められたままです。どうしても時間が余ってしまった時、地上では、外に出て気晴らしをする、買い物に行く、 と言った手段が取れますが、ジャンプ空間ではそれも出来ない。そう、こういう時は映画鑑賞です。
さて、面白くない映像作品を見てしまうと、愕然としてしまいますよね。他に有意義に時間を使うべきだったと後
悔しますよね。しかし、ジャンプ空間ではもともと有意義に時間を使うチャンスが少ない。だからこそ、思い切って この機会に面白くない作品を見るべきなのです。
という事で、今回紹介するのは、伝説的○ソドラマ「ロボ刑事一番星 セカンドシーズン」です。
「ロボ刑事(ロボデカ)一番星」シリーズは、プロメテウス(番号)で、ロボットブームの元で製作された連続TVドラ
マの一つです。同時期に製作され、すっかり大人気となった「ダグラスくんがゆく」に押され、今では本国プロメテ ウスでも半ば忘れられた存在となっていますが、当初は「ダグラスくんがゆく」と人気を二分していました。いやむ しろ、当初はこちらの方が人気は高く、「ダグラスくん」は、主役二人の演技の下手さと、一話100分、二週連続も ありと言う尺の長さが不評だったのです。
ファーストシーズンを簡単に紹介しますと、自律型ロボットが文明を築いている架空の世界が舞台(サブミキス
がモデルです)。主人公は人間の青年(少年?)ですが、物心つく前に両親を失ってロボットの養父母に育てられ、 しかも、病気治療で特殊な抗がん剤を使った副作用で外見が成長しないため、自分が特殊なアンドロイドだと思 い込んでいます。警察官となったこの青年が、さまざまな事件を体験しつつ、ロボットと人間二つの世界の狭間で 成長していく姿を描いており、なかなかの名作です。実話をベースにリアルな犯罪捜査を描く「ダグラスくん」に対 し、人情刑事モノ路線で誰にでも見られる安心感があって、最高視聴率は25%を超えていました。
しかし、もともと内容的に質が高かった「ダグラスくんがゆく」の人気が急速に増大し、視聴率が同等になったの
で、製作側は危機感を募らせました。それでも視聴率は20%近くあり、危機感を抱く必要があったのかも疑問です が、とにかく、人気挽回を意図して製作側は、セカンドシーズンに大幅な路線転換を図りました。そして、これが 大失敗。
セカンドシーズンでは、前作の青年は登場しません。それどころか、人間は全く登場しません。メカニカルなア
ニメ調にデザインされたロボット達が実写で動き回り、俳優のアフレコを充てる形がとられています。この時点で 既に、映像作品としてはかなり異様な感じであり、とある評論家の「斬新が過ぎてぶっとんだ人形劇」というのは まだ好意的な論評で、評論家からも一般視聴者からも、「カワコワい(かわいいようでよく見ると怖い)」「不気味の 谷の向こう側」「魔界の住人達の盆踊り」など、心理的悪影響が否定できない論評ばかり。どうしてアニメーション にしなかったのか、この何とも言えない映像だけでも鑑賞の価値ありです。
シナリオはと言うと、子供には大人向けで難解に見え、大人には意味不明という最悪のパターンにはまり込ん
でいます。人情路線(ロボット情?プログラム情?)が限度を超えたのか、加害者(ロボット)側の時に屁理屈じみ た理由に重きを置いて、被害者(被害ロボット)の方が悪いと言わんばかりの物語が多々あり、それでいて殺人 (? ロボット同士なので実は単なる器物損壊?)事件ばかりを扱ったため非難続出。また前作では、すぐに修理 できるロボット達と、修理が利かない人間との対比により、生命の大切さを訴えていましたが、不思議なことに、 セカンドシーズンのロボット達は修理と言う技術を忘れ去っており、このとってつけた感じが、偽善的で無茶苦茶 であり、一話につき最低2回、「修理しろよ」「データのバックアップとっとけ」のツッコミが入ります。
バカ映画、クソ映画とは基本的に笑えるものなのですが、この作品の場合、笑えない。いや寧ろ、笑うべきか判
断に迷うのが正解かも知れません。
スペースマンよ、この人に聞け
毎回、この宇宙で活躍する宇宙船船長と、その愛用の船を紹介するコーナー。
連載第第二回は、「職業的冒険者」、オルセン・モリウラ氏です。モリウラ氏の冒険者としての記録は、弊社近刊 「鷲の
嘴」を御覧になっていただくとして、本記事では、モリウラ氏最初の冒険の抜粋をお送りいたします。
オルセン・モリウラ 26歳 冒険者
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パイロット-2 エンジニアリング-1 航法-1 万能-2 ライフル-3 ロボット操作-1 農耕-1 牧畜-1 コンピュー
タ-1 宇宙服-1
トラベラー協会紳士録の人物評価より。
記者: あのう、いきなり答えにくい質問をしますが、ガールフレンドを妊娠させて故郷から逃げたというのは、本当です
か?
モリウラ氏(以下M): ははは、三分の一ほど本当です。中学生の時ですが、一つ年上の幼馴染のお姉さんがいまし
た。その人はいわゆる「ツンデレさん」でしたが、当時、私にはその魅力が分からなかったのです(笑)。で、ツンの方に腹 を立てた私は、彼女のジュースにホルモン剤を混ぜました。乳牛に使うやつで、人間が飲むと、妊娠初期と同じ症状を呈 するのです。家は農家でしたから、その種の薬品がありました。で、案の定大騒ぎになりましたが、そこは彼女の方が一 枚上手でした。父親は僕だと名指ししたんです。
記者: あはははは。でも、父親と言うのはあながちウソではないですね。
M: 仰るとおりです(笑)。勿論、すぐに誤解は解けたし、仲直りもしましたよ。ただ父は、マジで僕が彼女を妊娠させと思
いこんで、何を考えたか、僕を遠くのハイテク世界に追い払うことにして、留学の手続きを済ませていたのです。勿体ない ので、僕は半年間だけ留学することにしました。TL15のハイテク工業世界でした。
記者: なるほど。そこで、成功されたわけですね。
M: そうです。僕の家は、面積だけは大きな農場でしたが、収支はとんとんに近くて、生活費の高いハイテク世界に僕を
留学させるのは大変な負担でした。もとはと言えば、僕のアホなイタズラが発端であり、ワガママで留学させてもらったわ けですから、家の負担を少なくするため、僕はいろいろ考えました。で、元手のかからない方法として、園芸の本を書い たのです。まあ、田舎出身でしたからね。土を知らないハイテク世界の人々よりは、園芸を分かっていました。印刷代の かからないネットダウンロード方式で、しかも利益は折半と言う親切な版元だったので、かなり儲かりました。
記者: そして、宇宙船を買って故郷に帰ったわけですね。
M: そうです。ですがその宇宙船が、人生の岐路で僕をダメな方に運んだのでした。さて、故郷に戻ってしばらくしてか
ら、ツンデレ姉さんの先輩に紹介されました。王子様系と言うのでしょうか、凛々しい感じのキリッとした美人で、ちょっと 高飛車な断定形の口調で話すのです。仮にS王子サマ(女性)としておきましょう。
記者: その仮名、長っ!
M: S王子サマ(女性)は、とある世界の野党指導者の娘さんでした。諸般の事情でご両親は離婚し、母方にいたのです
が、父親との仲は悪くなかった。そんなある時、彼女の地元でクーデターがあり、軍事政権が出来て、お父さんが拘束さ れたのです。そして、よくわからぬ理由で死刑判決を受けたのですが、終身刑に減刑されて、星系外縁の刑務所に送ら れることになりました。
記者: そして、S王子サマ(女性)から救出の依頼があったわけですね。
M: 正確に言うと、S王子サマと、その意を受けたツンデレお姉さんの二人に強要されたのですが。無事に星系外に連れ
出すには、確かに自由になる宇宙船が必要です。目をつけられたのは、僕でした(笑)。
傭兵と言うかなんと言うか、野党支持者の元軍人が集まってきて、兵力には問題ありませんでした。いささか武器弾薬が不足気味でし
た。予算はありましたが、そろえる時間が無かったのです。
ただ、元特殊部隊の少佐と言う隊長が嫌な男でして、僕にねちねちと絡むのです。曰く、
「冒険ごっこじゃないぞ。本物の冒険だ。正義の味方ぶって、女の子に格好良いところを見せようと考えているんなら、止めておけ。ヒーロ
ーごっこじゃない。実戦で、命のやり取りだってある。君にその覚悟はあるのか?」
格好良いところを見せようとした訳ではありません。寧ろ逆で、ツンデレねえさんとS王子サマ(女性)の押しに勝てなかったから、身に余
る冒険に巻き込まれたのです。格好悪さの極みです。でもまあ、隊長の言うことは正論でした。僕は覚悟以前に、いったいどうなることや ら、全く見当がついていませんでした。
いや、話がそれました。私の役どころは、宇宙船の操縦だけのはずでした。ただ傭兵達を運び、ことが終われば、人々をピックアップす
るだけのはずでした。ところが、刑務所を襲撃しようとした直前、戦車と装甲車の一団が刑務所に向かっているという情報が入ったので す。戦車(地面を走るやつですよ)が二台、歩兵戦闘車が一台、トラックが一台です。
で、いろいろあった挙句、私がその追加の部隊を阻止する役目になってしまいました。それで渡された武器と言うのが、梱包爆薬が三
つと、x4のスコープを付けたアサルトライフルが一丁に弾倉が二つです。そう、一つは装てんされていますから、予備弾倉はたった一つな んです。隊長は、爆薬は十分に強力で、山を崩せると請け合いましたが、三発の爆弾で四台のコンボイを破壊しようとする意図そのもの に、かなり無理があると僕は思いました。まあ確かに、刑務所の壁をぶち破るのにも爆薬が必要でしたが。急な作戦で準備に余裕が無 かったのです。
銃の扱いに関しては、僕はそれなりのもんでした。なんせ田舎育ちでしたから(笑)。故郷では、例え農業に害のある動物であっても、あ
くまで「防衛的な駆除」のみが認められて、積極的に狩ることには厳罰が科せられていました。動物保護の観点から、この法律について は大賛成なのですが、おかげで農場は常に野生動物の脅威にさらされっぱなしで、しょっちゅう野生動物を銃撃していました。でも、ボル トアクション、アイアンサイトのみの猟銃しか扱った事が無かったので、電気式の自動装弾とドットサイトには感激でしたね。銃よりも爆弾 の方が大問題でした。たいていの人はそうでしょうが、爆発物を見るのは、僕はその時が初めてでした。
隊長が「ここに仕掛けろ」と言った場所は、軍事には素人の少年だった僕の目から見ても、待ち伏せに絶好の場所でした。海か湖かは
よく分かりませんが、大きな水面と、急な斜面のある丘の間にある狭い地点であり、その水と丘の間に、問題の刑務所に通じている道路 があるのです。私はとりあえず、ひどく適当な目分量で、車線の真ん中に車二台分くらいの間隔を開けて、爆弾を仕掛けました。アスファ ルト舗装を切り取って小さな穴をあけて、そこに爆弾を埋め込み、アスファルトをかぶせておいたのです。それから、丘の急斜面を這い登 り、稜線ぎりぎりのところに伏せて隠れて、コンボイの到着を待ちました。
でも、コンボイがなかなか到着しませんでした。もちろん、爆薬の設置が間に合わないよりは、到着が遅れる方が良いんですけどね。
「土の温かさ」とか言う人が居ますが、その時の私には、土が温かいなんてとても思えませんでした。気温三℃の日に、二時間も地面に 伏せていれば、こう、お腹が冷えて、ぐるぐるぐるぅっ、と雷のような音が…。えっ? ああ、「土の温かさ」と言うのは、陶芸に関する表現な んですか? なるほど。でも、陶器が温かいのは心象的にであって、物理的には冷たいですよね。
そうこうしている内に、ごろごろがらがらという、耳障りな走行音が聞こえてきました。いよいよです。グッドタイミングで、刑務所の方の
隊長から無線が入りました。
「そろそろ敵が来る時間だ、船長。どうだ?」
隊長は、僕の事をてんで馬鹿にしていましたが、一応は船長と呼んでくれていました。
「エンジンの音が聞こえてきましたが、まだ見えない…、あ、来ました。」
丘の曲がり角から、コンボイが姿を現わしました。双眼鏡すら用意がなかったので、ライフルのスコープで敵を観察しました。
「車両は四台。先頭は無限軌道式車両、二番目にトラック。後尾二台も無限軌道式の黒塗りの車両。歩兵戦闘車と戦車の区別は分かり
ません。」
この時の通信は、盗聴されないようにデジタル信号で僕の宇宙船を経由させていました。中継した時に録音されていましたから、僕が
言ったことは、一言一句間違いありません。
「了解した。でっかくて頑丈そうなのが戦車、そうでないのが歩兵戦闘車だ。」
そう隊長は言うものの、狙撃スコープ越しには、トラック以外の車両はどれもでっかくて頑丈そうに見えました。無限軌道のきゅりきゅり
という走行音がまた不気味でして。しかし、ここで僕は、戦車の方が大きな主砲を装備していることに思いあたりました。そうして見れば、 歩兵戦闘車が先頭、戦車が二台とも後尾についていました。僕の認識する限り、戦車のような強力な車両は列の先頭と後尾に立つもの なのですが、たぶん、故障で立ち往生でもされたら、後続の車両が通過できなくなるから後ろにつかされたんでしょう。
無限軌道式の戦車なんて、見たことが無い人もいるでしょう。ブルドーザーならハイテク世界でも使われていますが、ブルドーザーを倍く
らいに大きくして、そこに大きな砲塔をひっつけたものだと考えて下さい。単に空を飛ばないと言うだけで、戦闘力は反重力戦車にも匹敵 します。むしろ、地面を走る分だけ重量のしばりが少ないですから、防御力は反重力戦車よりもはるかに強力です。ですから、TL13のこ の星でもまだ使われていたのですね。もっとも、この時は地面に仕掛けた爆弾で、装甲の薄い車体の下部を狙いましたから、問題にはな りませんでしたけど。
僕が爆破すると同時に、刑務所襲撃が開始される手はずになっていました。責任重大です。僕は当初、列の先頭の車が、コンボイの進
行方向に対して一番前に仕掛けた爆弾の上に来た時が、起爆のタイミングと考えていました。しかし、後尾の二台の戦車は、戦闘力が 高いから必ず破壊しなければならないと考えて、最後尾の戦車が、一番後ろの爆弾に重なった時に起爆することにしました。この場合、 先頭の歩兵戦闘車が破壊を逃れる可能性が高くなるのですが、仕方ありません。
先頭の歩兵戦闘車の上部ハッチには、顔を出している男がいました。機関銃には手をかけていませんでしたが、周囲を見回していま
す。爆弾を仕掛けた痕に気付かれないかと、僕は心配になりましたが、車列はそのまま進み続けました。
そして、最後尾の戦車が爆弾の上に差し掛かった時、いったんスコープから目をはずして、起爆装置をちゃんと確認してから、スイッチ
を押しました。
その後の出来事に関しては、貧弱な語彙で恐縮ですが、「どっかーん!」としか形容できません。最後尾の戦車は無限軌道が吹き飛
び、転輪やらキャタピラの破片やらが当たり一面に飛び散るのが見えました。もう一台の戦車は、何があったのか分かりませんが、二次 爆発があって、砲塔の天蓋にあるハッチが吹き飛んで、炎が噴出しました。そして、トラックは一瞬の間にへしゃげて、そのまま宙に飛び あがり、運の良いことに先頭の歩兵戦闘車の覆いかぶさるようにして落っこちました。僕が適当に仕掛けた爆弾は、見事にこの小さなコ ンボイを壊滅させたのです。
「やった。戦車二台とトラック破壊。歩兵戦闘車も大損傷の模様。」
「…了解、こっちも攻撃を開始する」
僕の報告に隊長が息を呑んだ気配がありましたが、あまりの幸運に舞い上がっていた僕は、気にすることはありませんでした。私は再
びスコープを覗き込み、まずは歩兵戦闘車を調べました。「大損傷」と報告してしまったものの、トラックに乗っかられただけで一番ダメー ジが軽そうなので、こいつがまた動き出すかどうか、もしくは中にいる兵士が脱出するかどうかが、刑務所を襲っている組には重要だと思 ったからです。
ひしゃげたトラックの下の、妙なところに腕があるのが見えて、一瞬、乗員が脱出しようとしているのではないかと思いましたが、すぐ
に、ハッチから身を乗り出していた兵隊の腕だと分かりました。吐き気がこみ上げそうになりましたが、その時、側面のハッチが開き、大 きなヘルメットが出てきました。乗員が脱出を図っているのです。
この時、丘の上の私と車両の距離は二百メートルくらいでした。ごっついヘルメットを貫通できるかどうかわからなかったので、僕はドッ
トを背中の真ん中に置いて、撃ちました。しかし一発目は外れました。銃声はかなり大きなものでしたが、僕に狙われている乗員は、撃 たれたことに気がつかない様子でした。ヘルメットがでかすぎたせいか、それとも爆発音で耳が聞こえなくなっていたのかも知れません。 修正しながら撃った二発目も外れましたが、三発目が肩甲骨の間に命中しました。相手の体が硬直するのが、スコープの中でもはっきり とわかりました。もう一発、とどめに背中を撃ってから、スコープを最後尾の戦車に戻しました。最後尾の戦車も、損傷が軽いように思わ れたからです。
しかし、その戦車は僕から見て手前側、左の無限軌道が完全に破壊されて傾いていました。二度と動きそうにはありません。ですが、
内部の損傷は少なかったのか、乗員が脱出を図っていました。一人は既に脱出していて、傾いた砲塔を伝って地面に滑り降りようとして おり、開いた砲塔のハッチからは、もう一人の乗員が顔を出していました。僕は外に出ていた乗員を撃ちました。今度は一発目から命中 し、乗員は地面に崩れ落ちました。次にハッチの方に照準を変えると、そこの兵隊は、外付けの機関銃に手をかけていました。スコープ の光点がたまたま顔にかぶさったので、そのまま引き金を引きました。命中はしませんでしたが、弾は近くを通ったようで、その兵隊は砲 塔の中に引っ込んでしまいました。
「二人撃ちました。戦車の乗員がまだ生き残っている。中に引っ込みました。どうしますか?」
「……放っておけ。それよりも、脱出の準備を急げ。こちらは順調だ。」
また隊長が息を呑んだ気配がして、今度は少し気になりましたが、言われたとおり、私はシャトルを隠した場所まで走り出しました。冷
えたお腹がぐるぐると言うので、尾籠な話で恐縮ですが、足を緩めると、どばっと来そうな感じだったので、全速力で走りました。おかげ で、地面に転がっていた男に思いっきり躓いて、思いっきりすっころんでしまいました。おそらくは、丘の見回りをしていた刑務所の職員だ ったのでしょう。警察官の服装をしていました。ふんじばられて猿轡をはめられていた上に、僕に蹴っ飛ばされたもんですから、彼は本当 に苦しそうでした。
この時になってやっと、刑務所から聞こえてくる戦闘の音を気にする余裕がうまれてきました。爆発音がいくつも聞こえてきましたが、銃
声は、三発くらいしか聞こえてきませんでした。傭兵達の武器は消音されていましたから、音が出るのは刑務所の看守の武器以外には ないはずです。それが三つしか聞こえないという時点で、計画が順調だとに進行中だと僕は思いました。
僕はいそいそと反重力車に乗り込んで、発進準備を整えました。
「隊長、発進準備完了。」
「よし、刑務所の門の前に降ろせ。」
実を言うと、反重力車も僕は無免許でしたが、刑務所の門の前に降ろすことくらいはできました。
そして、どやどやっと傭兵達と囚人服の男、つまり今回のターゲットであるSさんの叔父が、乗り込んできました。さらに、制服の警官が
二人。隊長が言うには、亡命希望者らしいです。
その後は無事に軌道上にたどり着き、宇宙船との会合にも成功して、大急ぎでジャンプアウトしました。
話はこれでおしまいです。しかし、宇宙船に戻ると僕は隊長に怒鳴りつけられました。僕が無益な殺生をしたと隊長は言うのです。彼
は、爆弾で丘を崩して道を塞ぐ、と言う意味で「丘に仕掛けろ」と言ったのですが、僕はそれを、「丘で(待ち伏せを)仕掛けろ」と勘違いし たのでした。僕達の言葉、日本語は難しい言語でして、色々と意味のとり方があるのです。勘違いでしたし、下手をすれば、コンボイの阻 止に失敗した可能性すらありました。
ただ、脱出しようとしていた乗員を撃ったことに関しては、僕は何も言うことはありません。勘違いでも何でもなく、僕自身の意志、つま
りは殺意の結果です。僕は、2%に分類される人間だったのです(注)。
注)「戦場は98%の者から正気を奪う。残りの2%はもともと狂っていた。」
デビッド・グロスマン中佐による戦場心理学研究の古典 「戦場における人殺しの心理学」より
記者: で、その後は?
M: S王子サマ(女性)が、隊長にとりなしてくれました。『彼のやったことが無益な殺生なのかは判らない。有益な殺生なん
て無いとは思うが。でも隊長、ヒーローごっこじゃない、覚悟がいるぞとあなたは彼に言った。だから彼は、覚悟を決めて やることをやったのだ。増援は完全に阻止された。あなたはそれを無益な殺生と非難する。覚悟が出来ていなかったの は、あなたじゃないのですか?』とね。
記者:さすが王子サマ、 いいことを言いますね。ところでその後、そのSさんとはどうなったんですか?
M: S王子サマ(女性)は、後で報酬は何が良い、何でもする、と言いました。いや、私も思春期のガキでしたから、「なんで
もする」と言われた時は、ちょびっとは期待はしましたよ。でも、妊娠騒ぎは十分な教訓でした。必要経費だけもらいまし た(笑)。
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