The Best Weapon
41st stage
 (Hunny pot for Pirates
)

最強兵器 決定戦
第41回
(海賊いじめ1)

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MEGA TRAVELLER
 


 

中距離における銃撃戦
    シミュレーション(その1)



 前回(第40回)の考察までの結果を利用し、中距離における射撃戦を一度行なってみようと思います。

 とある商船(100トン級S1型連絡船)に乗り込んできた海賊達が、その商船の乗組員達に反撃される、という設定です。

 海賊船が、辺境星系の100倍直径において、小さな商船を襲撃しました。
 狙われた商船はあっさりと降伏。
 海賊船は商船に接舷し、貨物の搬送作業を開始します。

 搬送作業に携わらない手隙の海賊達は、商船の乗組員を捕虜にした後、商船内の捜索作業を始めました。
 「海賊の経済1」で説明した通り、商船内に積まれている現金を奪うことは、海賊船の黒字を維持するため、とても重要なことなのです。

 しかし船内で海賊達を待っているものは、多額の現金だけではありませんでした。
 商船の内部には武装した乗組員がまだ潜んでおり、侵入してきた海賊達へ反撃を開始したのです。

 という情況設定で銃撃戦のシミュレートを始めました。
 海賊側が一方的にやられていきますので、「海賊いじめ」というタイトルになってしまった訳です。



2012.01.22 加筆

 2010.年の6月に「海賊いじめ1&2」を投稿した後、 無謀!掲示板において、海賊に関する議論が生じました(過去ログ36番の[1563]:2011/06/05〜37番の[1640]:2011/06/15のあたり)。

 今から考えてみると、松永様と私の世界観に大きな隔たりがあったようですね。
 特に「正当防衛」の解釈が異なっていたので、松永様の「海賊ルールver.2」に 私の「海賊いじめ」を組み込むこと自体に無理があった訳です。

 色々と勉強になりましたので、その後の勉強した分と合わせ、海賊退治に関する法的解釈についてまとめてみました。
 57世紀の宇宙で適用されている法律がどんなものか見当も付きませんので、参考にした法律は、21世紀テラ、某極東島国の刑法。
 参考にした書籍は「司法書士コンプリート8 刑法、森山和正、東京法経学院」。

 加筆した法的解釈については、この考察の最後にまとめておきました。
 必要ならば、リンクを辿って先に読んでみてください。


 目次
    ※プロローグ
    ※戦場はCデッキ
    ※同じマス内での巻き添え命中
    ※複数マスへの巻き添え命中
    ※不意討ちに失敗した場合

    ※法的解釈(2012.01.22加筆)

       (1)正当防衛
       (2)海賊行為の始まり
       (3)正当防衛の条件
       (4)積極的加害の意思?
    ※結論





プロローグ


 貿易船『ジャックポット』は、30年のローンを抱えたA型自由貿易船である。
 船長のアル・ドリンカーは今年で34歳。自由貿易船の船長兼オーナーとなるには、ちょっと若すぎるが、これにはきちんと理由がある。 実は昨年、先代の船長が破産したため、退職金代わりにこの自由貿易船をローン付きで譲り受けたという訳なのだ。

 ドリンカー船長は黒字経営を目指して頑張ってきたが、リジャイナ周辺の航路は競争が激しく、 『ジャックポット』のような中古の貿易船や、彼らのように技量の低い乗組員ではなかなか貨物や旅客が集まらない。
 そこで、競争の緩やかな辺境航路、スピンワードメインへ船を向けることにしたのである。 先代の船長は「絶対行ってはいけない場所だ」と言い残していたが、破産した老船長の言った事など、誰が信用するものだろうか。



 そして3ヵ月後、ドリンカー船長と乗組員は、レック星系で途方に暮れていた。 高値で売れることを期待していた貿易品に、全く買い手が付かなかったのだ。
 それでも運行経費を支払うため、手放さない訳にもいかない。 はるばる運んできた貿易品は、全く利益の出ない安値で買い叩かれてしまった。
 共有室で頭を抱える彼らの目の前には、空になった船倉と、ここ1ヶ月、全く使われていない客室があった。 予想した通り、辺境航路には競争というものが全くなかったのだが、 そもそも競争に値するだけの貨物も旅客も存在しなかったのである。

 ローンの支払い期限が、翌週に迫っていた。
 船荷も旅客もない状態が続いている上、頼みの綱の貿易品も安く買い叩かれてしまったため、支払いに充てる現金が無い。 このまま出港したならば、次の寄港地カーカ星系で、銀行の差し押さえに遭ってしまうことは確実だろう。
 かといって、このままレックの宇宙港に留まっていても、何の利益も生まれない。 停泊したままでは、銀行の差し押さえを待つだけだ。
 どう転んでも、破産は免れない。

 ところがその時、絶望に沈むドリンカー船長の目に、隔壁に飾られたカトラスが目に入った。 彼がまだ大手の運輸会社に勤務していた頃、保安訓練の修了証と共に受け取った個人名入りのカトラスである。
 カトラス。
 船内での戦闘。
 乗り込み戦。
 略奪。
 追い詰められた船長の思考が「海賊」という単語に連鎖するまで、それほど時間は掛からない。 船長は乾いた唇をなめ、口を開いた。

「なぁ、みんな。ちょっとした副業に関する相談なんだが……」





 結果だけを述べるならば、副業は大成功だった。
 集まらない旅客の代わりにレックの「ならず者」達を乗せた『ジャックポット』は、ほとんど空荷のままで出港。
 レック星系の100倍直径で、R型の政府指定商船を襲撃する。 商船の乗組員が抵抗したため乗組員ひとりが軽傷を負ったものの、それ以外に損害は無かった。 そして200トンの船荷の中から高価な船荷ばかりを選んで奪い取ることに成功したのだ。
 『ジャックポット』はカーカ星系へジャンプして、渡りを付けたブラックマーケットでそれらの貿易品を売却。 船のローンを支払うに足る、十分な現金を得ることができた。もっとも、それはすぐさま、ローンの支払いに使われてしまったのだが。

 味を占めたドリンカー船長と乗組員は、カーカ星系の100倍直径でも再び襲撃を行なうことにした。
 今度の獲物は、A型の自由貿易船だ。武装を見せびらかす作戦が有効だったのか、乗組員による抵抗は皆無。 今回は負傷者を1人も出さずに済み、それに加えて余禄もあった。
 奪った船荷は少なかったものの、徹底した家捜しの成果として、貿易船の金庫から十数万クレジットの現金を見つけ出したのである。 その現金だけでも、次のローン支払いは安心だ。

 カーカ星系を離脱した『ジャックポット』は、次のエキスト星系で貿易品を売り払った後、 今度はS型偵察艦A型自由貿易船を1隻ずつ襲撃した。
 乗組員の抵抗は無く、A型自由貿易船からは、再び多額の現金を入手する。

 その後、次の寄港地パイリーマ星系で奪った船荷を売却したのだが、ドリンカー船長達は大いに悩んでいた。
 スピンワードメインの恐るべき辺境航路(赤字航路)の脱出にはほぼ成功した。あと1回のジャンプでテュレデッド星系に到着だ。
 合わせて4隻の商船を略奪した訳なのであるが、努力の甲斐あって、ローン返済2回分に相当する資金を集めることができている。
 これだけの現金があれば、もう海賊を続ける必要はない。本来ならば、ここでまっとうな道に立ち返るべきだった。 副業(海賊行為)を止め、ならず者達を船から降ろし、旅客や貨物を運ぶ商売に戻るべきなのだ。

 しかし、副業はあまりにも効率が良すぎた。
 襲撃した自由貿易船の金庫から見つけ出した、十数万クレジットの現金を思い出すだけで、船長の胸は熱くなるのである。 自分が船長になってからの一年間、あれだけの現金を金庫にしまったことがあっただろうか。
 船荷の運賃も旅客代金も、受け取る側から、燃料代や整備代、維持費、乗組員の給料、ローン支払いへと消えてしまうのが常だった。 自分の手元に、多額の現金が残っていることの幸福感。

「今回で最後にしよう」

 ドリンカー船長は、未練を断ち切るように言い切った。

「ここパイリーマで最後の副業を済ませたら、船をテュレデッドへ向ける。……もう、終わりにするんだ」





「ちっ、しけた船だぜ」

 乗組員のひとり、砲手を勤めるクレメンツが、吐き捨てるように呟いた。
 『ジャックポット』ブリッジのスクリーンには、1隻の商船、 小さなS1型連絡船が映し出されている。
 パイリーマ星系の100倍直径で待ち伏せていた『ジャックポット』の至近距離へ、 つい先程、ジャンプアウトしてきた宇宙船だ。 船名は『レディバグ』。 とある通信社が保有し、スピンワードメインの辺境星系を結んでいる、定期連絡船のようだ。

 慎重に、致命傷にならない部分を狙っての威嚇射撃の後、ドリンカー船長は、連絡船との間に通信回線を開くよう、通信士に命令した。
 指示を受けて、船医も兼ねている通信士のタッカチャティは、レーザー通信機を指向させ、 『レディバグ』との通信を開始する。

「こちらは海賊船『ジャックポット』、連絡船『レディバグ』に告ぐ。
 本船の火器はそちらを完全に捕えている。
 無駄な抵抗は止めて、我々の指示に従え。
 さもなくば、貴船を即座に破壊する。」

 しばらくの沈黙の後、音声だけの返答が返ってきた。

「こちら、連絡船『レディバグ』。」

 若い女の声だ。

「当方に抵抗の意思はありません。そちらの指示に従います。」

「映像をよこせ…何か罠を仕掛けているんじゃあないだろうな。」

 タッカチャティが脅しをかける。
 映像があったとしても、細工がされていないということにはならない。 気休めにしかなりはしないが、相手の表情ぐらいは確認しておきたいところだ。

「そ、そんなことは…えと…でも…。」

 向こうの通信相手、『レディバグ』の乗組員は映像付きの通信を嫌がっていたが、結局のところ従うことに決めたようだ。
 少しの間をおいて、通信スクリーンに映像が映し出された。
 その映像に、『ジャックポット』の艦橋にどよめきが起こる。

 スクリーンに映っている通信相手が、雑誌の表紙を飾れるほどの美少女だったから、という理由だけではない。
 なぜか彼女のバストショットが、下着姿だったからである。
 彼女の上半身を覆うものは、赤いレースがあしらわれたハーフカップのブラだけしか見当たらない。
 胸元のラインを最も綺麗に見せる、ハリウッドブラと呼ばれる代物のようで、豊かな胸の膨らみが半ば以上露出している。 形も大きさも十分にハリウッド級だ。
 その美貌とスタイルを活かせば、スーパーモデルとして即座に活躍できるだろうに、どうしてこんな船に乗っているのか。

 ドリンカー船長はしばらく呆気にとられていたが、タッカチャティの咳払いで我に返った。

「あー、その…なんだ、その格好は…船長の趣味なのか?…とにかく船長を出してくれ。」

「え、えと…その、私がその船長のビアトリスです…この格好でしたら… こちらには私以外誰も乗っていませんから…プライベートな格好でいたというだけです。」

 彼女はそう言いながら両腕で胸の膨らみを隠そうとするが、その動きはかえって胸を寄せ上げるだけの結果に終わった。明らかに逆効果である。
 船長と通信士、男性2人の視線は否応も無く、その部分へと引き寄せられてしまった。 何カ月も女日照りのジャックポットの面々にとっては、目の毒だ。
 特にレックで雇ったならず者達のぎらついた視線を後ろから感じ取った船長は、タッカチャティに目配せをして映像を切らせた。

 背後から舌打ちが聞こえたが、船長は無視した。
 下手をすると、一人の女を巡って暴動すら起きかねない。

 100トン級の偵察艦や連絡船ならばパイロット1人で運航することはありふれた話である。 乗組員がたった1人しかいないのであれば、そのパイロットは自動的に船長だ。
 それがビアトリス程の若い女性、二十歳前の娘が船長をしているという例は聞いたこともなかったが、あり得ない話ではない。

「では、ビアトリス『船長』。」

 ドリンカー船長はいつもの台詞を発する。

「とりあえず、乗員乗客名簿と積荷目録、それから航海日誌を転送してもらおうか…… なに、素直に従ってくれれば船やあんたに危害を加えるつもりはない。」

 再び、タッカチャティの咳ばらいが聞こえ、ドリンカー船長は台詞を続ける。

「それと、接舷の準備だ…接舷の後は、貨物搬送を手伝ってもらいたい。ブリッジを明け渡す準備も…」

「あ、あの…」

 それまで無言で聞いていた『レディバグ』から発言があった。

「接舷までにはどれぐらいかかるでしょうか。」

 ドリンカー船長はタッカチャティに確認する。

「15分だ。15分後には接舷する。それまでには準備を終えて、貨物室に降りてきておけ。」

「15分…先ほども申しあげたとおり、こちらの乗員は私一人です…15分というのは…身支度だけでもせめて…1時間は…」

「身支度…?」さっきのビアトリスの下着姿がフラッシュバックした。
 なるほど、身支度にそれなりの時間が必要だろう。 が、いつ警備艇に見つかるか分からない状況で、そんなに時間を取られるわけにはいかない。

「15分だ。それ以上は待てない…いや、待たない…15分後には接舷し、そちらの艦橋を制圧する。 それまでに君の言うところの『身支度』を整えておくことだ。」

 そして、最後に一言付け加えた。

「我々は何時でも、ミサイルを君の船に撃ち込むことができるのを忘れないことだな。」
                           (2)海賊行為の始まり




 20分後…、予定よりも少し遅れて、『ジャックポット』は 連絡船『レディバグ』との接舷を終えた。
 誰が貨物室に残り、誰が艦橋を制圧するのかを決めるのに少々時間を取られたのだ。
 もし、船に居残る役目がタッカチャティに決まっていなかったら、もっと時間がかかったかもしれない。

 双方の貨物ハッチを開放して、船体を横付けする。
 そうして船倉内に空気を満たせば、直接、貨物の遣り取りが出来るようになる。
 速やかな貨物の移し替えのためには、不可欠な手順である。

 接合部の気密状態を点検してから、ドリンカー船長は部下を率いて連絡船へと乗り込んだ。 そこには呼びつけられたビアトリス…船長が待っているはず…だったが、誰もいない。

 レックで雇った「ならず者」達のまとめ役、リーダーのエゼカンブが軽く舌打ちをした。

「どっかそこらへんに隠れているのかもしれねえ…探してみろ…女一人だからと言って油断するんじゃあねえぞ。」

 その指示に、彼の部下達が船倉内をくまなく探し始める。
 彼らの行動が、いつになく熱心なのは気のせいだろうか。

 数分後、さほど広くもない船倉の捜索がほぼ終わりかけたとき、エアロックの作動音が響いた。
 すぐ近くにいたエゼカンブがあわてて一歩下がり、動き始めたアイリスバルブに向けて油断なく銃を構える。
 海賊たちの注目が集まる中、開き切ったアイリスバルブからほかならぬビアトリス「船長」が姿を現した。

 しかし、その姿から受ける印象は、通信スクリーンで見たときとは全く違っていた。
 髪を結い上げ、化粧を施した顔は大人びていて、とても10代と思えない。
 どことなく幼い感じは残っているものの、着ている船長服にぴったりのしっかりした雰囲気である。 先程、通話スクリーンで見た時とは、まるで別人物のようだ。
 もっとも、ブラウスを突き破りそうな胸の大きさは少しも変わっておらず、絞られたウエストが余計にその点を強調している。

「お待たせいたしました。『レディバグ』の船長、ビアトリス・ポートマンです。」

 完全武装した海賊達を前にしながら、その振る舞いには全く動じるところがない。 先ほどの通信でみせたおどおどした態度はどこへ行ったのだろう。

「あなた方の違法な振る舞いに関しては、いずれ帝国政府よりそれ相応の懲罰が下されることになるでしょう。
 しかし、この場は、緊急避難として、そちらの意向に従います…ですからそちらもこれ以上の罪状を重ねないようにお気を付けください。
 これでよろしいでしょうか?」

「なんだと…」

 ならず者の一人が彼女の態度に喰ってかかろうとしたが、エゼカンブがそれを制した。

「たいしたお嬢さんだ…だが、あんまり生意気を言ってると、俺としても部下を抑えきれねえぜ。」

 その言葉に、ビアトリス…いや、もう、『レディバグ』の船長と呼んだ方が良いだろう…は、腰に手を当てこう告げた。

「お断りしておきますが…自発的に海賊に協力したなんてことになったりしてはこちらとしても困ったことになります。
 ですから、記録はできる限り残させていただきますわ。」

 彼女の表情には、笑みさえ浮かんでいる。
 そして、わざとらしく腕時計で時間を確かめた後、自分が遅刻したことなど棚に上げてこう付け加えた。

「あなた方からの接舷要請があってから、既に30分が過ぎております…お急ぎなのではなくて?」
                             (3)正当防衛の条件




 プロローグ部分の執筆は、有り難くも橘様に分担して頂きました。
 おかげで、非常に面白い文章に仕上がっていると思います。





戦場はCデッキ


 実は今回、100倍直径で海賊船に襲われた商船は、私のオリジナル宇宙船です。
 この宇宙船は、Xボートの上下を引っくり返したような形にデザインしました。
 Xボートと反対に、細い方が船首(上方向)、太い球体部分が船尾(下方向)です。
 貨物コンテナは船隊の太い部分(D〜Fデッキ)に収まっており、細い船首部分(A〜Cデッキ)がブリッジと居住区に充てられています。

 断面図は、下の図1のようになりました。



BW41_Fig01.gif - 13.4KB

            図1 S1型連絡船の断面図

 左側の断面図、青い部分は船体のシルエットです。
 小さな船体に無理矢理、帝国標準規格のコンテナを押し込めるため、こういったデザインになりました。
 右側の断面図は、上下のデッキ間を連絡する手段を表しています。
 左側の灰色部分は昇降シャフト(エレベーター)ですが、スペースの都合もあって、CデッキからFデッキの間にしか設置されていません。
 Aデッキのブリッジ、Bデッキの船長室へは、シャフト(ハシゴ)を登る以外に方法がないのです。



 船倉(Fデッキ)を制圧した海賊達は、 昇降シャフト(エレベーター)を利用して、旅客居住区(Cデッキ)まで移動しました。
 待ち伏せされる危険を避けるならば、隣接して設けられているシャフトを登っていくべきなのですが、この連絡船は垂直型です。
 Fデッキ(船倉)からAデッキ(ブリッジ)までの高低差は15メートルもありますから、少しでも楽をしたいと考えたのでしょう。

 体力が心配ならば、体力のある若者2人にシャフトを登らせ、残る2人だけが昇降シャフトを利用するという作戦も考えました。
 しかしその場合、海賊側は貴重な戦力を2分してしまいますから、確実に、各個撃破されてしまうことになるでしょう。
 試しにシミュレートしてみたところ、「不意討ち」判定を行なうまでも無く、海賊側が全滅してしまいました。
 個人戦闘ルールをきちんと考察するためには、海賊4人がかたまって行動する以外、方法がないのです。



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       図2  S1型連絡船Cデッキ(居住デッキ)の見取り図

 ピンクの矢印は、昇降シャフトを降りた後の、海賊達の移動経路です。
 Cデッキから上へ移動するには、手動ハッチの設けられたシャフトを登る必要があるのです。
 昇降シャフト、アイリスバルブ、手動ハッチの記号は、CTのサプリメント「商船と砲艦」を参考にしました。
 青い線は頑丈な隔壁(装甲値30)、緑色の線は内壁やドア(装甲値8)を表しています。



 ドリンカー船長は手勢を引き連れ、昇降シャフトへと乗り込んだ。
 宇宙服に加え、重い武器を抱えた状態でシャフト(梯子)を何メートルも登るなど、誰でも嫌なことである。
 ブリッジは連絡船の最上部(Aデッキ)にあるので、少しでも体力を節約したかったのだ。

 昇降シャフトで上がれる最上階はCデッキである。
 連絡船のデッキを3つ上がったところは、旅客用の居住デッキになっていた。
 開き始めたドアの隙間から、居心地の良さそうな共有室が見える。

 昇降シャフトのドアが開いた途端、ドアの向こうから銃撃されるという危険もあったので、4名はドアの左右に張り付いた。





同じマス内での巻き添え命中


 「待ち伏せ」を警戒した海賊達、ドリンカー船長ら4名は、昇降シャフトのドア左右に張り付きました。
 昇降シャフトの壁を「遮蔽物/援護物」として利用するためです。
 たったこれだけのことですが、「援護物」は敵の射撃命中難易度を1つ引き上げてくれますし、 「遮蔽物」は完全に攻撃を防いでくれます。

 「援護物」の利用について、考察は次回に行いますが、 ここでは試しに、「海賊達が遮蔽物/援護物を利用しなかった」と考えてみましょう。

 無抵抗の乗組員に慣れてしまい、抵抗を予期していなかった。
 すでに全ての乗組員を拘束しているので、待ち伏せされるとは思わなかった。

 理由は色々と思いつきますが、海賊達4人は警戒しておらず、昇降シャフトのドアが開いた瞬間、 彼らが「無防備に立っていた」と想定します。
 海賊が4人も狭い場所に固まっているのですから、そこを攻撃しなければ、もったいないでしょう。
 そうした場合、乗組員側はどんな兵器(銃器)を用いるべきなのでしょうか。



 覚えたての個人戦闘ルールに拠れば、こうした場合は「不意討ち判定」を行なうようです。

 難易度〈難〉、〈リーダー〉、〈偵察〉(対立)

 連絡船内の保安システム(監視カメラ、熱源探知器他)は未だ、「レディバグ側」のコントロール下にあります。
 ブリッジを制圧するまで海賊の手には渡りません。
 海賊側は全ての乗組員を拘束したので、保安システムが生きていても関係ないさ、と判断したのでしょうが、生憎です。
 保安システムによって、レディバグの乗組員は、海賊達の移動や装備を把握済み。
 反対に海賊側は、乗組員の居場所はおろか、複数の乗組員が船内に残っていることも知らないのです。

 という訳で、難易度を修正して〈並〉にしました。
 おまけとして、レディバグ側は〈リーダー−1〉と〈偵察−3〉が+DMに、 海賊側はドリンカー船長の〈リーダー−1〉だけが−DMとして加算されます。
 難易度〈並〉でDM+3ですから、サイコロの目は4以上で成功。
 まず、失敗することはないでしょう。



 ちなみに待ち伏せしている乗組員は、センタマウント社製のビアトリス(筋力強化型の後期生産バージョン)です。
 筋力13、敏捷力11(敏捷力DM=2)の能力値に加え、 プログラムの換装により、〈戦術−3〉、〈偵察−3〉、〈使用している銃器−3〉、〈格闘−3〉の技能レベルを備えています。
 食い詰めた海賊如きでは、とても太刀打ちできません。

 対する海賊側のメンバーは以下のようなメンバーからなっていました。
 アトキンズ(A)バクスター(B)の2人は レックで雇われた「ならず者」の一員であり、SMGを抱えた優秀な兵士です(命中DM=+4、耐久値4/5)。
 元海兵隊員のクレメンツ(C)は、 レーザーライフル(TL9)を装備(命中DM=+4、耐久値4/5)。 砲手兼スチュワードを勤めています。
 ドリンカー船長(D)はあまり荒事が得意ではなく、スナッブピストルカトラスを持っているだけです(命中DM=+1、耐久値3/4)。
 防具としては、テックレベル12で製造された宇宙服(装甲値6、敏捷力修正−1)を着用。
 手榴弾などの特殊装備は持っていないことにしました。



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        図3 Cデッキでの戦闘 昇降シャフト内を銃撃する

 「不意討ち」に成功したのであれば、 昇降シャフトのドアが開いた途端、銃弾の嵐を送り込むという攻撃が、最善の策でしょう。
 図3で示したように、待ち伏せしているビアトリス(α)から、 すべての海賊ユニット(A〜D)に対して射線が通ります。
 ビアトリス(α)は、(図示していませんが)家具か何かを遮蔽物援護物)に用いている、としました。
 同時にそれは、ライフルの固定物としても利用できる筈です。

 あるいはビアトリス(β)のように、通路の角を遮蔽物援護物)として用いることも可能です。
 この場合、わざわざ別個に遮蔽物を用意する必要がありません。



 αとβ、どちらのビアトリスからでも構わないのですが、彼女達が高速弾を装填した戦闘ライフルで、 昇降シャフト内の海賊達をまとめて銃撃したと考えます。

 戦闘ライフル(高速弾)でフルオート射撃を行なうと、 中距離射撃ですが「ジャイロ」装備の銃器なので、難易度〈並:7+〉
 待ち伏せですから、当然、固定物も用意できるでしょう。
 この際、「ジャイロ」の有無は関係ないかも知れません。

 敏捷力DMと技能レベルより、命中DMは+5。
 命中率2+の「部分貫通」になりました。



 表4に、そのダメージ期待値と無力化率を示します。


       表4 戦闘ライフル(高速弾)、中距離射撃における
           ダメージ期待値と無力化率(基本ダメージ3)

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 セミオート射撃と書いてある欄は、海賊1人に1発の銃弾しか撃ち込めない (フルオート射撃で3人を撃つ)という意味です。
 右側の、「速射」3倍の欄については、後述。

 赤字は命中DM+1の標準的なキャラクター、青字は命中DM+4の優秀なキャラクター、 緑字は命中DM+5のビアトリスによる射撃を表しています。
 上記の無力化率は、目標の意識喪失までの耐久値が4以上であることを前提にしていますから、 海賊の耐久値が2〜3ポイントであるならば、無力化率は91.7%まで上がります。

 それはともかく、高速ライフルフルオート射撃を行なえば、 3人の海賊(武装の危険度から判断してA〜C)に、ダメージ期待値6.0、無力化率72.2%のダメージを与えられることが分かりました。
 もしも援護物下にある場合、DM−4と同等ですから 命中率6+の「部分貫通」を見て、ダメージ期待値1.9、無力化率16.7%でした。
 やはり、あまり効果がないようです。
 何としても、援護物から引きずり出しましょう。

 さて、フルオート射撃で同時に狙える目標の数は、 (戦闘ライフルの場合)3人までです。
 そして、その3人全員について無力化率を検討すると、

 3人の全員を無力化できる確率は、           37.6%です。
 3人の内、誰か1人が無力化されずに反撃してくる確率は、43.5%。
 3人の内、2人が無力化されない確率は、        16.7%。
 3人全員の無力化に失敗する確率は、           2.1%でした。

 かなり高い確率で、1人か2人の海賊が無力化されず、反撃してくることが予想されました。
 今回は「不意討ち」ですから、反撃は少なくとも次の戦闘ラウンドまで有り得ませんが。



 せっかく不意討ちしたのに、27.8%もの確率で無力化に失敗してしまうのは、宜しくありません。
 フルオート射撃だけでは弾数が足りないようですから、 「速射」も加えて、弾倉1個分の銃弾を浴びせましょうか。
 しかし困ったことに、戦闘ライフルは「速射」ができない銃器です。
 考察のため、「速射」が可能な磁気ライフルに持ち替えましょう。

 磁気ライフルフルオート射撃に「速射」を追加すると、 命中判定を12回行なえます(MAG様のAutomatic_Weaponより)。
 4人の海賊に、3回ずつ撃ち込めば良いでしょう。
 中距離射撃、固定物による「ジャイロ」有り、 速射で難易度が1つアップ、難易度〈難:11+〉です。

 命中DM+5なので、命中率6+の「部分貫通」。
 そのダメージ期待値と無力化率を、表5に示します。


       表5 磁気ライフル、中距離射撃における
           ダメージ期待値と無力化率(基本ダメージ4)

BW41_Fig05.gif - 12.1KB

 セミオート射撃と書いてある欄は、海賊1人に1発の銃弾しか撃ち込まない (フルオート射撃で4人を撃つ)という意味。
 右側、「速射」3倍の欄が、今回の考察ポイントになります。

 基本ダメージ4で「速射」3倍の欄を見ると、ダメージ期待値8.0と無力化率84.1%。
 おや? かえって悪くなってしまいましたか?
 そう、「速射」オプション無しのフルオート射撃でも、 1発当たりダメージ期待値8.0の無力化率91.7%ですから、普通にフルオート射撃を行なった方が、 効率が良くなっているのです。
 考察の36回「個人戦闘2」で速射について検討した通り、 命中率が「1+」よりも良くなければ、「速射」は不利なのです。
 わざわざ「速射」を行なう必要はありませんでした。

 また、磁気ライフルは、フルオート射撃で同時に4人を攻撃できます。
 その4人全員についての無力化率は、

 4人の全員を無力化できる確率は、           70.6%です。
 4人の内、誰か1人が無力化されずに反撃してくる確率は、25.7%。
 4人の内、2人が無力化されない確率は、         3.5%。
 4人の内、3人が無力化されない確率は、         0.2%。
 4人全員の無力化に失敗する確率は、まず有り得ません。

 磁気ライフルは、とても強力なのです。



 戦闘ライフル磁気ライフルは、 宇宙服を着た目標に「部分貫通」を与えられる武器です。
 SMGオートライフルのような 「無貫通」の銃器についても考察してみましょう。

 戦闘ライフルの場合と同じように中距離射撃、 固定物による「ジャイロ」有り、命中DM+5ですから、オートライフルならば、命中率は2+。
 海賊1人当たりのダメージ期待値は2.0で、無力化率16.7%。
 SMGの場合、固定物を使えませんから、命中率6+。
 海賊1人当たりのダメージ期待値は0.6で、無力化率0.0%。
 駄目ですね。
 海賊1人当たり1発の「無貫通」攻撃では、無力化など夢に終わってしまいます。

 そこで思いついたのは散弾銃
 「致傷範囲の内側で、かつ射線上のマスのユニットすべて」に 「巻き添え命中」の判定を行なえるルールでは?

 ですから、散弾銃を1発セミオートで撃っただけでも、 昇降シャフト内の4人それぞれに1回ずつ、命中判定を行なえる訳です。
 フルオート射撃(目標数+2の自動散弾銃)ならば、 4人それぞれに3回の命中判定を行なえるのです。
 散弾銃はライフル扱いなので、固定物によるジャイロも利用可能。

 そのダメージ期待値と無力化率を、表6に示しました。


       表6 散弾銃、自動散弾銃の中距離射撃における
           ダメージ期待値と無力化率(基本ダメージ4)

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 散弾銃のセミオート射撃によるダメージ期待値と無力化率は、海賊4人の全員に与えられますが、 前述したライフルSMGと同じように、わずかなダメージを与えるだけしか出来ません。
 しかしフルオート射撃を行なった場合、海賊4人の全員に、3回ずつの命中判定を行なえるのです。
 その結果、ダメージ期待値は5.9、無力化率は94.0%になりました。

 4人全員についての無力化率は、以下の通りです。

 4人の全員を無力化できる確率は、           78.1%です。
 4人の内、誰か1人が無力化されずに反撃してくる確率は、19.9%。
 4人の内、2人が無力化されない確率は、         1.9%。
 4人の内、3人が無力化されない確率は、         0.1%。
 4人全員の無力化に失敗する確率は、自動散弾銃でも有り得ません。

 磁気ライフルフルオート射撃より期待値が高いっ!
 いやぁ、凄いぞ、自動散弾銃っ!
 貫通力が「1」だからといって、馬鹿にしてはいけません。

 まぁ、ある程度の腕(命中DM)が無いと「絵に描いた餅」ですが。
 命中DMが+4の場合、自動散弾銃の無力化率は82.3%ですが、 磁気ライフルの無力化率は83.3%です。
 つまり、命中率が「2+」より良くなければ、自動散弾銃磁気ライフルよりも強力だ、とは言えないのです。

 戦闘ライフルの高速弾フルオート射撃と比べた場合、 命中率が「5+」より良ければ自動散弾銃は戦闘ライフルよりも強力です。
 「巻き添え命中」の目標数が違うことも考慮すべき (散弾銃は致傷範囲内ならば人数制限なし、戦闘ライフルは3人まで)でしょうが。



 このままでは、戦闘ライフルの立場が危うくなってしまいます。
 目標が狭い場所(昇降シャフト内)に密集している訳ですから、ここはひとつ、 「榴弾」という弾種を用いるべきではないでしょうか。

 昇降シャフトが上がってくるまでの時間を使って、ビアトリスは戦闘ライフルの弾倉を 「榴弾」のものに交換しました。
 ドアが開いた瞬間、昇降シャフトの内部へ「榴弾」をフルオートで撃ち込むのです。
 命中率2+の「無貫通」で、命中判定が3回。

 そのダメージ期待値と無力化率は、表7のようになります。


       表7 戦闘ライフル(榴弾)、中距離射撃における
           ダメージ期待値と無力化率(基本ダメージ4)

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 表7の左側は、「榴弾」のセミオート射撃。
 右側が「榴弾」のフルオート射撃です。
 「無貫通」の命中判定を3回ですから、当然のことですが、 ダメージ期待値や無力化率は自動散弾銃のものと同じになりました。

 主目標となった海賊は、ダメージ期待値5.9の無力化率94.0%。
 「巻き添え命中」を受けた周囲の海賊も、おなじ分だけ命中判定を受け、無力化率94.0%です。
 他の情況でも同じように役立つかどうかはともかく、特殊な情況において、自動散弾銃や 「榴弾」のフルオート射撃は、 磁気ライフルよりも威力を発揮する可能性があるということです。
 「榴弾」による「巻き添え命中」も、致傷範囲内であれば人数に制限は有りません。



教訓 その1
 味方ユニットを1マスに集めてはいけません。
 「榴弾」や散弾銃フレチェット弾)で一網打尽にされます。
 隣接マスですら「榴弾」の致傷範囲内ですし、 フルオート射撃の的にされますから、とても危険です。
 できれば、ユニット同士の間隔は2マス(3メートル)以上にしましょう。
 狭い宇宙船内で、それが可能かどうかはともかく。



 「巻き添え命中」のルールを読んでいて思いついたのですが、 ひょっとして、これらの弾丸射出火器から発射される「榴弾」は、着発信管ではなく、 時限信管近接信管を用いているのでしょうか。
 主目標に命中しなくても「榴弾」は炸裂し、 主目標周辺へ「巻き添え命中」の効果を及ぼすようなのです。

 掲示板でも少し触れましたが、戦闘ライフルの高速弾も 「巻き添え命中」を生じるのですね。
 気付きませんでした。
 というか、高速弾は「巻き添え命中」を引き起こさないと思い込んでいたのです。
 今回の考察では、高速弾は狙った目標以外、ダメージを与えないものとして計算しました。





複数マスへの巻き添え命中


 「待ち伏せ」を警戒した海賊達が、昇降シャフトのドア左右に張り付いてしまったため、 彼らは「遮蔽物/援護物」に隠れた状態となってしまいました。
 この状態では、折角の「不意討ち」成功も活用することができません。
 レディバグ側の乗組員ビアトリスは、海賊達が昇降シャフトを出るまで、射撃を延期することにします。



 昇降シャフトのドアが開いた途端、ドアの向こうから銃撃されるという危険もあったので、4名はドアの左右に張り付いた。
 ドアが開き切るまで待ったが、何も起こらない。
 アトキンズ(A)バクスター(B)、 2人の兵士は顔を見合わせると、タイミングを合わせて飛び出した。 通路の先、共有室の入り口左右を抑え、油断無く共有室内を見渡したが、待ち伏せの痕跡は見出せない。
 昇降シャフトの中で待機していたクレメンツ(C)ドリンカー船長(D)に対して、 安全だから出て来い、という合図を送る。

 更に上のデッキへ上がるためには、シャフトを登っていかなければならなかった。 水平構造の自由貿易船に慣れていると、やたらと不便な構造である。
 ドリンカー船長達は居住デッキを通り抜けて、上のデッキと連絡するシャフトへ向かおうとした。

 先頭は、警戒しながら進むアトキンズ(A)
 接近戦に備え、油断無くSMGを構えている。

 2番目はバクスター(B)
 抱える銃は同じSMGで、先を進むアトキンズ(A)が右を見れば左を、 アトキンズ(A)が左を見れば右を見る、といった感じで互いに死角をカバーしあっている。 彼らは、とても優秀なペアなのだ。

 3番目が元海兵隊員のクレメンツ(C)
 強力なレーザーライフルを腰の高さで構えた、頼りになる狙撃手である。

 最後尾が、ドリンカー船長(D)
 スナッブ・ピストルを構え、ベルトからはカトラスを下げているが、 その姿勢は腰が定まらず、どうにも危なっかしい。

 レディバグ側の逆襲が開始されたのは、その瞬間だった。

 突然の銃声と共に、バクスター(B)クレメンツ(C)の体が崩れ落ちる。
 共有室の反対側にあるバーカウンターの影から、フルオート射撃を受けたらしい。
 そんなところに誰かが隠れているとは、誰も思わなかったのだが。

 通路を曲がった先、ドリンカー船長(D)から見えない位置にいる アトキンズ(A)も撃たれたが、まだ戦える状態のようだ。 苦悶と悪態が入り混じったような、うめき声が聴こえてくる。

 しかし次の瞬間には新たな銃声が響き、今度はアトキンズ(A)の体が宙を舞った。 待ち伏せしていた敵から、サブマシンガンの銃弾を至近距離から撃ち込まれたのだ。
 彼の体はそのままの勢いで、バクスター(B)の向こう側へ、大の字になって落下する。 その衝撃で盛大に吐血するが、すでに彼の命がないことは明らかだった。
 よほど大量の銃弾を一点に集中されたのか、宇宙服の胸部には握りこぶしが入る程の大きな貫通孔が空いているのである。 恐らく即死だったのだろう。

 驚愕するドリンカー船長(D)の横を、サブマシンガンを抱えた1つの影が通り過ぎた。 手動ハッチの奥から飛び出してきたのだ。
 あまりにも素早い動きなので、彼は引き金を引くことはおろか、スナッブピストルの銃口を向けることも出来なかった。
 慌てて振り向こうとする彼の後頭部に、今度は硬い銃口が押し付けられる。かすかに感じられる熱気と硝煙臭は、つい先程発砲した際の名残だ。

 ドリンカー船長は、一切の抵抗を諦めた。 動きを止めると、右の手のひらをゆっくりと開き、スナッブピストルを床へ落とす。

「う、撃たないでくれ・・・こ、降伏する。」

 こうして、Cデッキにおける戦いは、わずか数秒で終了した。
                           (4)積極的加害の意思?



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   図8 移動を開始した海賊達に対する、ビアトリス(α)からの射撃線

 図8の状態を説明すると、アトキンズ(A)が手動ハッチの前に辿り着き、手動ハッチを開けようとしているところ。
 バクスター(B)は、開いた手動ハッチの向こう側を素早く覗き込み、 必要ならばSMGで掃射します(そうする予定でした)。
 元海兵隊員のクレメンツ(C)はまだ移動中ですが、手動ハッチの反対側、 ちょうどビアトリス(α)が隠れているあたりを監視。
 最後尾のドリンカー船長(D)も、ようやく昇降シャフトを出るところ、です。

 ついでに、別行動をとっていたビアトリス(β)が、 今ようやく、手動ハッチの向こう側へ辿り着いたことにしておきました。
 するとタイミングとしては、アトキンズ(A)が手動ハッチを開けた直後が理想ですね。
 不意討ち判定に成功したのですから、どんなタイミングで攻撃を始めても、不意討ち側の自由でしょう。

 しかし、4つの目標が4つのマスに分散してしまいましたから、フルオート射撃の主目標を選ぶことは重要です。
 B、C、Dの3ユニットが1列に並んでいる点で、すでに海賊の負けが決まっているような気もしますが。



 例えば、主目標にを指定したら、 磁気ライフル(目標数+3)の巻き添え命中には を1つずつしか選べません (MAG様のAutomatic_Weaponより)。
 どちらも射撃線から外れていますので、制限に引っ掛かってしまうのです。
 ですから、を2回射撃して、 を1回ずつ射撃、になりますね。

 戦闘ライフル(目標数+2)はさらに厳しく、を2回射撃して、 のどちらか片方を1回だけ射撃することしか出来ません。
 下の表9では、便宜上、を1回射撃することにしました。
 残りの2人は無傷ですから、次の戦闘ラウンドにはビアトリス(α)の貞操(?)が危なくなります。

 「榴弾」を装填した戦闘ライフルの場合、 主目標Aを中心とした1マス以内に「巻き添え命中」の効果を及ぼすことが出来ました。
 ですから、主目標Aにフルオート射撃分、3回の命中判定を行って、 その後、周囲に「巻き添え命中」の判定を行なうことになります。
 図8の情況では、隣接する、 手動ハッチの向こう側に居るビアトリス(β)もそれに巻き込まれました。
 貫通力1の「無貫通」であっても、3回の命中判定が行なえるのですから、かなりの無力化率を発揮できるでしょう。
 当たり前のことですが、乱戦になった場合や、仲間の一部が近接戦闘を行なう場合、「榴弾」の使用は危険です。

 自動散弾銃の場合、射線上に居る目標は、主目標のAと 味方のビアトリス(β)だけです。
 他の3人、B〜Cに「巻き添え命中」の判定は行なえません。
 どう考えても、主目標にを指定することは好ましくないようです。



        表9 フルオート射撃の主目標にAを指定した場合の
              ダメージ期待値と無力化率

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 表の上段に示した数値は、 ビアトリス並みの優秀なキャラクター(命中DM+5)が射撃した場合のダメージ期待値と無力化率です。
 彼女のような腕前であれば、磁気ライフルと、 「榴弾」使用の戦闘ライフルは、ほぼ同程度の致傷力を発揮します。
 その次は、高速弾使用の戦闘ライフル
 ほとんど役に立たない(1人しか倒せない)銃器が自動散弾銃になりました。

 表の下段に示した標準的なキャラクター(命中DM+1)の場合、 磁気ライフルが最も有効な銃器であり、次点が高速弾使用の戦闘ライフルです。
 「榴弾」使用の戦闘ライフルは致傷範囲こそ広いものの、ほとんど役に立たず、 自動散弾銃は全く使えません。



 では、主目標をにした場合はどうなるでしょう。
 は射線上の巻き添え目標です。
 は射撃線からずれていますが、 主目標に隣接した目標として「巻き添え命中」を行なえます。
 戦闘ライフル磁気ライフルの場合は、前の考察(表4、表5)と変わりませんでした。
 戦闘ライフル(フルオート目標数+2)ならばA〜Cを、それぞれを72.2%の確率で、 磁気ライフル(フルオート目標数+3)ならばA〜Dの全員を、 それぞれ91.7%の確率で無力化できます。

 「榴弾」を使用した戦闘ライフルの場合、主目標Bに3回の命中判定を行ない、 その後、周囲の隣接目標であるに 「巻き添え命中」の判定を行なうことになります。
 から2マス離れているので、致傷範囲には含まれません。
 ビアトリス(β)が「巻き添え命中」を受けるかどうかは悩みますが、 射撃側(α)からの射線が引けます。
 ルールに従えば、彼女も「巻き添え命中」の判定を行なうべきなのでしょう。
 致傷範囲内の目標は、ダメージ期待値5.9、無力化率94.0%のダメージを受けます。
 ひとりだけが、無傷で残りました。

 自動散弾銃の巻き添え命中は、射線上の主目標から前後1.5メートル(1マス)なので、 しか巻き込めません。
 フルオート射撃でを(94.0%で)無力化できますが、 は無傷です。
 はともかく、が無傷なのは大問題でしょう。



        表10 フルオート射撃の主目標にBを指定した場合の
              ダメージ期待値と無力化率

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 今回も、ビアトリス並みの優秀なキャラクター(命中DM+5)であれば、磁気ライフルと、 「榴弾」使用の戦闘ライフルはほぼ同程度の致傷力を発揮します。
 3番目に有効な銃器は、高速弾使用の戦闘ライフル
 自動散弾銃の 2人を倒せるようになりましたが、あまり効果的ではありません。

 標準的なキャラクター(命中DM+1)の場合も、 磁気ライフルが最も有効な銃器であり、その次が高速弾使用の戦闘ライフルです。
 「榴弾」使用の戦闘ライフル自動散弾銃は、ほとんど使えません。



 今度は、主目標をに変更しました。
 は射線上、 はやはり射撃線から外れた巻き添え目標になります。
 戦闘ライフル磁気ライフルの場合は、今回も同じ。
 「榴弾」を装填した戦闘ライフルも同じようなものですが、 今度はを致傷範囲に含んでいます。
 自動散弾銃の場合は主目標のと、 その前後のB、Dを高確率(94.0%)で無力化できますが、 やはりは無傷のままで残されました。



        表11 フルオート射撃の主目標にCを指定した場合の
              ダメージ期待値と無力化率

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 主目標をに指定した場合、 「榴弾」の「巻き添え命中」がすべての目標に及ぼされるようになりましたから、 最も有効な銃器は「榴弾」使用の戦闘ライフルです。
 もちろん、ビアトリス並みの優秀なキャラクター(命中DM+5)に扱われることが条件ですが。
 その次が磁気ライフルになります。
 3番目は、高速弾使用の戦闘ライフル
 自動散弾銃B〜Dの3人を倒せるようになりましたから、 手持ちの銃器がそれしかないのであれば、主目標をにするべきなのでしょう。

 標準的なキャラクター(命中DM+1)の場合も、 磁気ライフルが最も有効な銃器であることに変わりありません。
 その次が、高速弾使用の戦闘ライフルです。
 3番目が、無力化をほとんど期待できないものの、4人に「巻き添え命中」を及ぼせる 「榴弾」使用の戦闘ライフル
 自動散弾銃は、3人だけしか致傷範囲に入りませんから、有効性は最下位です。



 主目標をにしても、あまり意味はありませんでした。
 の武装は優先度の低いスナッブピストルですし、 優先度の高いが巻き添え目標から外れてしまいます。
 戦闘ライフル磁気ライフルの場合は、 B〜Dを72.2〜91.7%で無力化。
 は無傷。
 自動散弾銃の場合は、 致傷範囲内にいるを高確率(94.0%)で無力化できますが、 致傷範囲外の、射線から外れているは無傷のまま残ってしまいました。



        表12 フルオート射撃の主目標にDを指定した場合の
              ダメージ期待値と無力化率

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 主目標をに指定した場合、 ビアトリス並みの優秀なキャラクター(命中DM+5)であれば、磁気ライフルと、 「榴弾」使用の戦闘ライフル自動散弾銃は、 ほぼ同程度の致傷力を発揮します。
 「榴弾」や散弾銃であっても、 、2人の目標を確実に倒せますから。
 高速弾使用の戦闘ライフルは、無力化率こそ低い(それでも72.2%)のですが、 「榴弾」や散弾銃では倒せない、 を無力化できる可能性があります。
 さて、どの銃器を選ぶべきなのでしょう。
 もっとも、主目標にを選ぶこと自体が間違っているのですが。

 標準的なキャラクター(命中DM+1)の場合、 磁気ライフルが最も有効な銃器であり、次点が高速弾使用の戦闘ライフルです。
 「榴弾」使用の戦闘ライフル自動散弾銃は、ほとんど使えません。



 ビアトリス(α)の武装が戦闘ライフル(高速弾)か 磁気ライフルならば、フルオート射撃の主目標を にして、A〜Cの3名をまとめて射撃。
 磁気ライフルの余った1回分は、撃ち損じた目標をもう一度撃てば良いでしょう。
 主目標がであれば、余った1回でを撃っても構いません。
 無力化率は72.2〜91.7%なので、もしも誰かを撃ち漏らしたら、 ビアトリス(β)SMGで再度の銃撃を行ないます。

 武装が戦闘ライフル(榴弾)の場合も、 やはりフルオート射撃の目標をにするべきです。
 運が良ければ、4人全員を一度に無力化することができるでしょう。
 無力化率が94.0%ですから、全員を無力化できる確率は78.1%もあります。

 武装が自動散弾銃ならば、やはり主目標をに設定。
 B〜Dの3人をまとめて無力化(94.0%)し、 の無力化はビアトリス(β)に任せます。



 以上のような考察結果を踏まえて、レディバグ側の乗組員、 ビアトリス(α、β)の行動をシミュレートしてみました。

 ビアトリス(α)の射撃。
 戦闘ライフル(高速弾)のフルオート射撃、 主目標、命中率2+。
 初弾は主目標のSMG)、 サイコロの目は「7」なのでダメージ6ポイント、意識喪失で無力化。
 次弾は射線上のレーザーライフル)、 サイコロの目は「10」だったので、ダメージ12ポイントになり死亡確定。
 最後の銃弾は射線を外れた目標SMG)、 サイコロの目は「4」でダメージ3ポイント
 の耐久ポイントは4/5だったので、意識こそ失わずに済みましたが、かなり痛い負傷です。

 次がビアトリス(β)の行動です。
 彼女は、目の前で手動ハッチを開けたSMG)が、 背中からの一撃に耐えた様子を見ました。
 そこで一歩前進して、に密着(至近距離へ接近)。
 そしておもむろに、宇宙服の関節部分に狙いを定め、SMGの引き金を引きます。
 至近距離ならば難易度〈易〉の筈ですが、 「狙い撃ち」を行なうので難易度〈並〉に上昇。
 命中DM+5、移動DM−2なので、最終的な命中率は「4+」。
 「狙い撃ち」なので「部分貫通」になりました。
 フルオート射撃のサイコロは「10、8、3、9」で、累積ダメージは18ポイント
 彼も即死です。
 なまじっか、1発の命中を耐えてしまったがために……。

 ビアトリス(β)は射撃後も移動を続け、 驚愕のあまり動けなくなっている海賊ドリンカー船長スナッブピストル)の背後へ回り込みました。
 以上、この戦闘ラウンドが終了。

 次の戦闘ラウンドのイニシアチブは、確実にレディバグ側が取れます。
 突然の射撃に驚いて何も出来ない隙に、ドリンカー船長(D)以外は全員が無力化。
 おまけに自分の背後には誰かがいて、銃を突きつけているという情況。
 この情況で降伏しなかったら、そっちの方がおかしいですな。



 ビアトリス達は無傷。
 アトキンズ(A)クレメンツ(C)は死亡。
 バクスター(B)は6ポイントの重傷を負って、行動不能。
 ドリンカー船長(D)だけは無傷ですが、武器を捨てて降伏したということにします。

 士気チェックのルールを読んだら、75%の損害を負った場合、 それ以上の戦闘継続には〈至難〉の士気チェックが必要だそうで(並士気のグループ)。
 ドリンカー船長の〈リーダー〉技能は1レベルですから、成功を望めませんね。

 消費した弾丸は、戦闘ライフルの高速弾が4発と、SMGの銃弾が10発だけ。
 捕獲したレーザーライフル1丁、SMG2丁、 スナッブピストル1丁、それに加えて弾薬類とカトラスが1本。
 出血で絨毯を汚されても、それなりの補償は可能なようです。



教訓 その2 
 味方ユニットを一直線上に並べてはいけません。
 隣接していなくても、フルオート射撃で全滅する恐れがあります。
 散弾銃フレチェット弾の射撃はさらに恐ろしいのです。
 味方ユニットが3つならば三角形、4つならば四角形に配置しておくべきでしょう。
 困ったことに、これは移動終了時に限りません。
 移動途中でも味方ユニットが一直線に並んだ瞬間、敵の「妨害」によって フルオート射撃が始まるかも知れないのです。





不意討ちに失敗した場合


 さらに厳しい情況を想定してみました。
 ほとんど有り得ない情況だと思いますが、「不意討ち」判定に失敗したという想定です。
 前述した「不意討ち」判定も、サイコロの目が3以下ならば失敗してしまいます。
 2D6で3以下ですから、8.3%の確率なのです。
 ある程度、失敗した場合に備えておくことは必要でしょう。



 先頭のアトキンズ(A)は「手動ハッチを開ける」という行動を終えましたが、 そのままの姿勢で、ハッチの向こう側にビアトリス(β)の姿を見つけてしまいました。
 急いでシャフトを駆け上ってきたため、彼女には隠れている暇がなかったということでしょうか。

 他のバクスター(B)クレメンツ(C)ドリンカー船長(D)は未行動。
 ビアトリス(β)が発見された以上、攻撃を仕掛けるには「今」しかありません。
 という訳で、ビアトリス(α)が隠れ場所から銃口を突き出します。



BW41_Fig13.gif - 17.6KB

       図13 「不意討ち」に失敗した場合、海賊側が取る対応

 ビアトリス(α)の行動に対して、 バクスター(B)が「妨害」を試みました。
 難易度は〈並:7+〉ですが、移動速度1なので、DM+1です。
 成功率は26/36=72.2%。
 結構、高いですね。
 レディバグ側が使える3つの戦術ポイントを注ぎ込めば、DM−2ですので9+(=27.8%)まで下げられますが。
 彼女達を不利な状態に追い込むことが目的ですので、 バクスター(B)が「妨害」に成功したとしておきましょう。
 戦術ポイントを節約したのか、戦術ポイントを注ぎ込んだにも関わらず、成功されてしまったのか。

 バクスター(>B)SMGの利点を活かし、 またビアトリス(α)援護物を無効とするため、 移動速度1でビアトリス(α)の右側面に回り込もうとします。
 公式ルールでは4マスの移動、私の採用したCT「スナップショット」風ルールでは3.5マスになりました。

 バクスター(B)の行動に対して、ビアトリス(β)が 「妨害」を試みることも可能ですが、敢えて、行ないません。
 ビアトリス(β)が「妨害」に成功して何らかの行動を行なうと、 海賊側も(恐らく今度は)クレメンツ(C)が「妨害」を試みてくるでしょう。
 そして「妨害」に成功したクレメンツ(C)がさらに移動してしまいますから、 ビアトリス(α)の予定しているフルオート射撃の目標が、 ドリンカー船長(D)1人だけになってしまうのです。
 「不意討ち」に失敗した時点で「多人数攻撃」を諦めるべきだと思いますが、 今回の考察ではそういうことにしておきます。

 さて、ビアトリス(α)の真横に移動したバクスター(B)は、 近距離からSMGフルオート射撃
 難易度〈並〉、命中DM+4、移動DM−1なので、命中率4+の「無貫通」。
 ダメージ期待値3.6、無力化率61.2%でした。
 至近距離から撃てば難易度〈易〉、命中率0+なのでダメージ期待値8.2の無力化率99.6%。
 明らかにレディバグ側の「負け」です。



 「不意討ち」に失敗した場合、どんなに優秀なキャラクターであっても、数の劣勢を覆すことは出来ません。
 何をしようと試みても「妨害」されてしまい、結局、何も出来ないまま無力化されてしまう可能性が高いのです。



 ここで思ったのですが、SMGの高い致傷力は、 近距離(1〜2マス)か至近距離(同一マス)でなければ発揮できませんね。
 ですから「射線を妨害しないバリケード」のようなものを設けておき、 バクスター(B)がそれ以上、 ビアトリス(α)に近づけないようにしておいたらどうでしょうか。
 長篠の戦いにおける、馬防柵のようなイメージですが、個人戦闘ルールの「地形」には、それに類するような記述がありません。
 例によって、常識で判断しなさいということなのでしょうか。

 馬防柵でなくても、カスミ網のように、人の移動を制限するだけでも構いません。
 1戦闘ラウンドの銃撃戦でボロボロになり、使い捨てになってしまっても、わずかな時間を稼げれば十分です。
 邪魔な家具の間をすり抜けようとしたら、足首の高さに張られていた極細ワイヤに引っ掛かって転ぶ、なども問題なし。

 そうした阻止手段が有効だった場合、 バクスター(B)はその阻止手段の突破に1戦闘ラウンドを費やしてしまうか、あるいは、 3マスの距離(中距離)から、援護物下ビアトリス(α)を射撃するしか、 選択の余地がありません。
 その場合、難易度〈難:11+〉が援護物でさらに難しくなって、〈至難:15+〉
命中DM+4でも命中率が11+です。
無貫通」ですから、命中しても「かすり傷」しか与えられなくなりました。

 「妨害」に成功したバクスター(B)は射撃後、手近な物陰に隠れてしまうかも知れません。
 それでもビアトリス(α)は、余裕を持ってフルオート射撃を実行できます。
 ほぼ確実に、アトキンズ(A)クレメンツ(C)ドリンカー船長(D)の3人を無力化できることでしょう。
 「敵の移動を制限する」作戦は、意外に重要なことなのではないでしょうか。
 具体的に、どうやってそれを実現するかについては、現在も検討中ですが。





法的解釈(2012.01.22加筆)


2012.01.22加筆

 この章全体を、再投稿で加筆しています。

 そもそも、これらの考察「最強兵器−決定戦」は、メガトラベラーの宇宙戦闘/個人戦闘ルールに関する考察ですから、 海賊に襲われた商船の対応について、法的正当性を論ずるつもりはありませんでした。
 しかし掲示板において、その法的正当性に疑問が提示されたため、私なりの考えを以下にまとめておきます。

 結論だけ先に述べておくならば、海賊に襲われた時点で商船の行動には正当防衛が適用されます。 極端な話、海賊船を沈めても海賊の乗組員を皆殺しにしても、それは罪になりません。
 もちろん「やり過ぎ(過剰防衛)」はいけませんが、その問題については以下で考察してあります。




(1)正当防衛

 正当防衛緊急避難はしばしば混同されますが、両者は全く異なったものです。

 そもそも、正当防衛とは、 急迫不正の侵害に対し、自己または他人の権利を防衛するため、止むを得ずにした行為、 です(刑法36条)。

 また、緊急避難とは、 自己または他人の生命、身体、自由または財産に対する現在の危機を避けるため、止むを得ずした行為で、 これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合のこと、 なのです(刑法37条)。



 大事なポイントは、正当防衛の対象が権利の侵害(違法/不当な行為)であることと、 緊急避難の対象が権利の危機(合法/正当な行為)となっていることです。
 この相違によって、同じような書き方がなされている止むを得ずした行為であっても、 緊急避難の場合は危機を避けるために必要な唯一の手段(行為)でなければならないのに対し、 正当防衛の場合は唯一の手段である必要がありません。
 例えば、強盗に襲われて「逃げることが可能」であっても「戦って防衛する」ことは正当だということです。

 また、正当防衛で守れる権利は、自己や他人の生命だけではありません。
 自由や財産などの権利も含まれるのです。
 例えば、セクハラを受けた女性が相手の男を突き飛ばして結果的に殺してしまった場合も、 監禁されている人物が自由になるため監禁者を殺して脱出した場合も、正当防衛が適用されます。

 正当防衛の理念に従えば、海賊に襲われた自由貿易船が、海賊に対して反撃することは正当な行為となります。
 宇宙船自体が海賊船の艦載兵器(ミサイルやレーザー)に狙われている状況でなくとも、仮に海賊船が非武装であっても、 反撃それ自体は正当防衛が適用され、違法性を免れることができるのです。
 ですから、自由貿易商船の皆さんは、安心して海賊船に反撃を行って下さい。

 ただし、すでに述べているように「やり過ぎ」は正当防衛の適用外となります。
 それについては、(4)積極的加害の意思?を参照してください。




(2)海賊行為の始まり

 海賊行為(=船荷や現金の略奪)が失敗に終わった場合、それはどの程度の罪になるのか。
 そして、襲われた商船の反撃が正当防衛として許されるのは何時からか。
 そんな疑問から、海賊の罪状のリストアップを試みました。
 極東島国の刑法に「海賊行為」に関する法律そのものは見つからなかったのですが、強盗罪や暴行罪を拡大解釈してみた訳です。



「本船の火器はそちらを完全に捕えている。
 無駄な抵抗は止めて、我々の指示に従え。
 さもなくば、貴船を即座に破壊する。」 

「とりあえず、乗員乗客名簿と積荷目録、それから航海日誌を転送してもらおうか……
 なに、素直に従ってくれれば船やあんたに危害を加えるつもりはない。」

「それと、接舷の準備だ…接舷の後は、貨物搬送を手伝ってもらいたい。
 ブリッジを明け渡す準備も…」

「我々は何時でもミサイルを君の船に撃ち込むことができるのを忘れないことだな。」


 以上、海賊船『ジャックポット』の要求を抜粋しました。
 結構、露骨な要求を行っております。
 こうした要求の際、言い回しを工夫すれば罪を逃れることもできるようですが、 このあたりは一般常識で判断されますから、襲われた商船の船長が恐怖を感じたと判断されれば十分です。



 どうやら『ジャックポット』が、連絡船『レディバグ』に対する威嚇射撃を行なった時点で、 彼らには強盗罪(強盗未遂罪)の適用が始まっていたようです。
 財産を奪う意図が無ければ、暴行罪だけで済む可能性もあるでしょうが。

 また、『レディバグ』を(ミサイルを用いた脅迫で)強引に停船させたことで、監禁罪
 名簿や日誌の転送、接舷、貨物搬送を要求したことから、強要罪
 単に「危害を加えると脅した」だけで、『レディバグ』が指示に従わなかったとしても、 脅迫罪が適用されます。

 逆に考えるならば、すでにこの状態で『レディバグ』の権利が侵されていると言えるのです。
 具体的には、財産権(強盗罪強要罪)、 身体の自由(監禁罪)、身体の安全(強盗罪脅迫罪)などになるでしょう。

 ちなみに、連絡船『レディバグ』はジャンプアウトの直後で燃料タンクがほとんど空です。 ジャンプによる逃走が不可能であることに留意してください。
 通常ドライブの性能はどちらも同じ1G加速。
 相対速度はゼロですから、宇宙船戦闘を始めたら、『ジャックポット』が移動/戦闘不能になるまで逃げられません。 船体の小さな連絡船では、まともに戦っても勝率が3割以下です。
 正気の船長ならば、この場面で「降伏」を選ぶでしょう。




(3)正当防衛の条件

 この後、『レディバグ』側の乗組員による反撃が正当なのか、という疑問が掲示板で提示されました。
 乗り込んできた海賊を攻撃することが正当ではないと考える理由を、私は思いつけませんが、法律上の正当性を考察してみました。

 すでに述べた通り、正当防衛とは、 急迫不正の侵害に対し、自己または他人の権利を防衛するため、止むを得ずにした行為、 です(刑法36条)。

 言うまでも無く、海賊による強盗行為は現在進行中の出来事であり、急迫の条件は満たされています。
 宇宙空間の治安を守る帝国海軍は救援に駆けつけることができませんから、自分の力で防衛しなければならないのです。
 もちろん、海賊船の強盗行為は、哨戒艦による臨検と違って、合法性がありません。
 ですから、不正の条件も満たします。

 自己または他人の権利。
 これは緊急避難と間違われることが多いのですが、 正当防衛の対象となる権利は、生命の危険だけではないのです。
 財産権や自由権、住居権なども当然、防衛できる権利に含まれます。

 という訳ですので、海賊による貨物強奪を阻止するために戦うことは、法律でも保証されている当然の権利なのです。
 もちろん抵抗しない自由もありますので、必ずしも抵抗(戦闘)しなければならないという訳ではありませんが。




(4)積極的加害の意思?

 Cデッキにおける不意討ち強力な銃器の使用、 そして結果として複数の死者が生じたことについても、疑問が提示されました。

 まず「不意討ち」に関しては、 一度「降伏」しておきながら「不意討ち」したことが許せない、という主旨のようです。
 どうして「不意討ち」が非難されるのか私には理解できませんが、 『レディバグ』の「降伏」は脅迫下で為されたということを指摘させて頂きます。
 脅迫によって結ばれた約束や契約を、被害者が遵守すべきなのでしょうか。
 私は単純に、戦力を分散させ、不意討ちされた海賊側が愚かだっただけだ、と思っております。
 そういう展開で話を進めたのも私ですが(苦笑)。

 また「不意討ち」を禁じる主旨の法律を見つけることができませんでした。
 罰則も見つかりません。
 もちろん、警察等であれば「不意討ち」が禁じられるのは当然でしょう。 彼らは「正当防衛」でも「緊急避難」でもなく、 圧倒的な兵力で犯罪者を追い詰めるのですから。



 「強力な銃器の使用」については、それ以外に選択肢が無かった、と考えています。
 『レディバグ』側のビアトリス2台(αとβ)は御指摘通り、無警告で、強力なフルオート射撃を行いました。
 これが「過剰防衛」とか「積極的加害の意思」という疑問を引き起こしているようですが、 私の解釈では、必要最低限の暴力しか使用しておりませんので、問題なしです。
 「積極的加害の意思」とは、不必要な暴力を振るった場合に適用されることです。
 例えば、海賊が気絶した後に止めの一撃を加えるとか、武器を捨てて降伏した後も射撃を続けるとか、そういった場合の話です。
 相手を殺したから、過剰防衛積極的加害の意思ということにはなりません。

 Cデッキの戦いにおいて、ドリンカー船長他3名の海賊は、『レディバグ』の制圧を完全なものとするため、 『レディバグ』最上部のブリッジへと向かいました。
 その際の装備は、武装はレーザー・ライフル1丁、SMG2丁、スナッブピストル1丁という、それなりの重武装です。
 もしも海賊の無力化に失敗して反撃を許したら、ビアトリス達はあっさりと無力化されてしまうのです(これは、考察41においても確認済み)。
 勝利のためには、海賊を一撃(1戦闘ラウンド)で無力化することが必須となりました。

 海賊側の人数4名に対して、『レディバグ』側の戦力はビアトリス2台のみ。
 射撃の警告を与え、降伏を促すことは極めて危険です。
 自殺行為でしょう。

 しかも、海賊達は宇宙服(装甲値6の防具扱い)を着用したままの姿です。
 この事実によって、 海賊達を無力化するために『麻酔弾』や『ガス弾』といった手段は使えなくなりました。
 また、「無貫通」の銃器で目標を無力化することはとても困難です。
 装甲値6の宇宙服を「部分貫通」可能な、 戦闘ライフルや磁気ライフルといった強力な銃器の使用が不可欠となるのです。

 味方の射手が40人も居れば「無貫通」のセミオート射撃で、 海賊の耐久ポイントを1つずつ削っていき、殺さずに制圧することも可能でしょう。
 犯人逮捕を目的とする警察や海兵隊ならば、そうする力(人数と装備)を持っていますし、そうしなければなりません。
 しかし、現時点で『レディバグ』側のビアトリスは3台しかないのです。
 現実を無視した、実現不可能なアイデアですね。



 以上のような考察から、不意討ち強力な銃器の使用、 海賊側に複数の死者が出たことは、止むを得なかった行為/結果であり、 正当防衛の範疇に入ると考えられます。

 最後にもうひとつ。
 極東島国の法律では、殺人に対する正当防衛の適用範囲が極めて狭められております。
 それというのも、極東島国では銃器の所持が厳しく制限されていますので、 正当防衛の当事者(加害者と被害者の双方)が銃器を所持していることがまず有り得ないのです。
 「銃器の所持」に関する背景が、極東島国とトラベラー世界では異なっていますので、 正当防衛について考える際には、この相違点が重要なものとなってきます。
 素手や刀剣で殺人を実行するのはとても大変ですが、銃器を所持しているのであれば殺人はとても簡単なことに成り得るのです。
 トラベラー世界で正当防衛について考える際は、この事実に留意して下さるよう、お願いします。





結論


 中距離における銃撃戦を、具体的にシミュレートしてみました。



 まず最初は、4つの目標が1マス内にまとまって存在する場合の攻撃方法。
 考察36回「個人戦闘2」でも優先順位を考察しましたが、複数の目標を攻撃できる「巻き添え命中」を考慮に入れると、 「無貫通」にしかならない「榴弾」のフルオート射撃自動散弾銃が意外と強力であると判明しました。
 もちろん、それらが十分な致傷力を発揮するためには、十分なスキル(命中DM)が必要なのですが。

 得られた教訓は、味方ユニットを1マスに集めないこと。
 「榴弾」や散弾銃フレチェット弾)で一網打尽にされます。
 隣接マスですら「榴弾」の致傷範囲内ですし、 フルオート射撃の的にされますから、とても危険です。
 できれば、ユニット同士の間隔は2マス(3メートル)以上にしましょう。
 狭い宇宙船内で、それが可能かどうかはともかく。



 次に、移動中の隊列に対し「不意討ち」で行なう、射撃方法を考察、評価しました。
 基本的には磁気ライフル戦闘ライフル(高速弾)が最も有効だったのですが、 目標の選び方によっては、 戦闘ライフル(榴弾)や自動散弾銃の方が強力になることも有り得ます。

 得られた教訓は、味方ユニットを一直線上に並べないこと。
 隣接していなくても、フルオート射撃で全滅する恐れがあります。
 散弾銃フレチェット弾の射撃はさらに恐ろしいのです。
 味方ユニットが3つならば三角形、4つならば四角形に配置しておくべきでしょう。
 困ったことに、これは移動終了時に限りません。
 移動途中でも味方ユニットが一直線に並んだ瞬間、敵の「妨害」によって フルオート射撃が始まるかも知れないのです。




2010.06.14 初投稿。
2012.01.22 法的解釈について加筆。
2014.04.06 表12へのリンクが間違っていたため、該当部分を訂正。