(1)トランスポンダ
トラベラー世界には、宇宙船の「身分証明書」に相当するものが2つありました。
1つはトランスポンダ。 これについては、以前、MAG様が掲示板に投稿された情報を引用します。 トランスポンダは実際には特別な広域通信機です。トランスポンダは常に宇宙船の識別コードを広域ラジオで送信し続けている。このため,宇宙船が星系に侵入したならば,他の輸送機器はその存在を自動的に探知することができる。 トランスポンダは全体が密封されたブラックボックスにおさめられている。宇宙船管理機関の正規職員以外がトランスポンダに手を出し改造を試みることは危険である。 全ての宇宙船は,止むにやまれぬ事情があればトランスポンダ信号を切ることができる。例えば海賊船に追われている時などがそれである。ただし,それは危険な行為である。軍用艦艇の大半は,もしもトランスポンダーを発していない輸送機器を探知したのならば「まず射撃し,それから問え」と指導されているからである。 …中略… 海賊船のトランスポンダは船橋で色々とID設定を変更できるように違法改造されている。しかしながら,ID設定と船のパワー出力や排水素トンが異なると周囲の船から不審船として通報される危険があるので,この機能は慎重に利用されるようです。
トランスポンダは上記のように、極めて重要なアイテムです。 GURPSの「FarTrader」にも、わずかですが記述されていました。 それによれば、トランスポンダは少なくとも、その宇宙船を特定(identify)できる情報、船籍世界、船体サイズ等の情報を発信しています。 これらをひとまとめにして、船籍コードと呼んでおきましょう。 これらの情報を常時、発信していなければならない訳ですから、その星系に指名手配情報が届いているならば、横領/ハイジャックされた宇宙船は、確実に見つかってしまいます。
海賊行為を行なおうとしているならば、尚更です。 海賊行為を働いている時のトランスポンダ信号は、普段の信号と異なるものでなければなりません。 トランスポンダを切るだけで済ませる、という方法もありますが、そんなことをした場合、周囲の商船から「不審船」として警戒されることは間違いないのです。 海軍などの艦艇に見つかったら、無警告の射撃を受けても、文句は言えません。 トランスポンダを切った状態で海賊行為を行なうことは、とても危険なのです。
そんな訳ですから、まず何よりも偽造船籍コードを手に入れなければなりません。 プレイヤーズ・マニュアルの〈交渉〉技能に関する説明文には、以下のような成功判定が記されていました。 これを、偽造船籍コードの入手判定にそのまま利用してしまいましょう。
偽造船籍コードを取り扱っている業者を見つける 難易度〈至難〉、〈交渉〉、〈社交〉、1日
もちろん、その星系に偽造船籍コードを売買する犯罪組織が存在しなければ、判定に成功しても船籍コードは手に入りません(これはレフリーの裁量)。
肝心の偽造船籍コードですが、以下のような価格になっていました。 この価格は最低の価格であって、実際は数倍の値段で取り引きされていることと思います。 それだけの需要があり、取り引きにはリスクが伴いますので。
トランスポンダ偽造プログラム(MAG様から提供していただいた情報です) TL10 1偽造船籍コード Cr100,000 TL11 2偽造船籍コード Cr150,000 TL12 4偽造船籍コード Cr250,000 このトランスポンダ偽造プログラムを商船のトランスポンダに組み込むことで、商船は宇宙空間において、別の商船に成り代わることが可能になります。 これら、偽造船籍コードは、実在する商船の船籍コードをコピーしたものであるか、すでに喪失したり、解体された商船の船籍コードであるか、あるいは完全に架空の商船の船籍コードであるかのどれかでしょう。 それぞれの偽造には一長一短があります。
実在する商船の船籍コードであるならば、そのコードが偽造だとばれる危険性はほとんどありません。 ただし、同じ船籍コードの商船が同時に2隻以上存在している訳ですから、偶然、その2隻が同じ星系で鉢合わせしてしまう可能性や、航行記録の照会などから疑いを持たれる可能性は、常に有り得ます。 逆に考えると、すでにローンを払い終えている自由貿易船は船籍コードや航海日誌をコピーしようと狙われる可能性があります。 定期整備の際に造船所の事務員がコピーを盗み取ろうとするかも知れませんし、買収された乗組員がコピーを売り渡している可能性もあるでしょう。
すでに喪失した商船や、解体された商船の船籍コードを利用した場合も、偽造であると疑われる可能性は低いと思います。 船籍証明や航海日誌も、その商船のものを流用することが容易ですので。 こういうものが欲しい場合は、解体業者やジャンク・ヤードを訪ねるべきかも知れません。 サルベージ業者やベルターは遭難して、放棄された宇宙船に遭遇することも多いでしょうから、そんな場合は小遣い稼ぎのチャンスです。
トランスポンダの使用だけを考えるのであれば、架空商船の船籍コードを用いる方法が、最も手軽で確実でしょう。 誰かが船籍世界に問い合わせようとしない限り、偽造がばれる心配もありませんから。 辺境星系には、そんな架空船籍を専らに扱う企業(犯罪組織)が存在するのかも知れませんね。
(2)船籍証明
もう1つの「身分証明」は、船籍証明(ship's registry)です。 宇宙船の型式、船体サイズ、船籍世界(Home
World)、旅客と貨物の輸送能力、必要な乗組員の人数、所有者情報、搭載されている兵器の種類と数を明らかにしているそうです。
この船籍証明は、大抵の宇宙港へ入港する際に、必ず要求されます。 また、旅客の乗降や貨物取引、燃料や補修備品の購入などにも確認されることがあるそうです。 治安レベルの厳しい世界では、無断出港などを防止するため、船籍証明を宇宙船から取り外し、宇宙港長(帝国領事)などに預けるように要求されるとのこと。 出港時は、様々な手続きが済んでいることを確認してからでないと、返してもらえないそうです。
トランスポンダを偽造しても、それだけで「指名手配」を逃れることは出来ません。 船籍証明を要求しない田舎の宇宙港や、正体を知っても黙認してくれる海賊の避難所ばかりを選んで寄港するならば大丈夫かも知れませんが、その場合、行動範囲が極端に狭いものとなってしまうでしょう。
ですから、ハイジャックや横領で手に入れた宇宙船ならば、船籍証明も偽造する必要があります。 合法的に手に入れた宇宙船で海賊を行なうならば、必ずしも必要ではありませんが、あると便利な代物です。 前述した、トランスポンダ用の偽造船籍コードを入手する際に、合わせて購入すると良いでしょう。 この価格も最低価格ですので、数倍の値段を要求されるかも知れませんが。
偽造された船籍証明(日誌も含まれます) cr25,000
ただし、この船籍証明の偽造は、完璧なものではありません。 大抵の商船ならば1週間以内の寄港で用事を済ませ、星系外へ脱出しているでしょうが、ドライブ故障などで滞在期間が延びてしまうと危険です。 宇宙船の改造(武装の取付けや変更)、戦闘における損傷の修理、定期整備などの際には、大きな危険を冒すことになるのです。
具体的には宇宙港に滞在する1週間が過ぎた後、その週の終わり(入港7日目)に、偽造に気付かれないための成功判定を、難易度〈並〉で行なってください。 追加の1週間が過ぎるごとに、DM−1が累積していきます。 入港14日目(2週目の終わり)にはDM−1、入港21日目(3週目の終わり)にはDM−2、28日目(4週目の終わり)にはDM−3と、偽造が露見する可能性は次第に高くなっていくのです。 宇宙港の係官の〈管理〉技能レベルや宇宙港データベースの更新頻度(レフリーが判断)をマイナスDMに、乗組員の〈管理〉、〈贈賄〉技能レベルをプラスDMに用いて下さい。 当然、それなりの必要経費(賄賂やハッキングなど)も掛かるでしょう。
偽造が発覚した場合、逮捕を免れたとしても、周辺の宇宙港に警告が送られてしまいます。 その船籍証明を使い続けることは、あまり賢明なことだと思えません。
以上、GURPS
Travellerの「Far
Trader」に掲載されているルールを、MT向けに修正しました。
「Far
Trader」には記載されていませんでしたが、この「偽造船籍証明」を用いても、正規のルートで商船を売り払うことは出来ません。非合法のルート(売値は市価の10分の1)で売り捌くしかないでしょう。 船籍証明を精査された場合には、誤魔化しきれないからです(偽造発覚の難易度判定をするまでもなく、露見するでしょう)。 また、優秀なスキップ・トレーサーの追跡を逃れることもできません(素人レベルの追跡ならば誤魔化せるようです)。 追跡を困難にすることはできるでしょうが、優秀なスキップ・トレーサーは宇宙港の入出港記録などからも、追跡対象を見つけ出してしまうのです。
(3)完璧な船籍証明の偽造
厳重な調査を受けても偽造が発覚しない、高レベルの船籍証明も存在しますが、このような船籍証明をPCが作成/入手することは、まず不可能でしょう。 高度な偽造設備、広範囲に渡る専門知識、データベースへの侵入などが必要なためです。 入手に至るまでの過程は、ひとつのシナリオに成り得るほど困難ですが、もし入手できたとするならば、その対価は少なくともcr500,000以上になります。
PCが上記の技能を修得し、必要な設備を手に入れたとしたら、多くの犯罪組織から狙われることは明らかです。 PCは犯罪組織によって何処かへ閉じ込められて、延々と偽造書類の作成を強いられることでしょう。
(4)造船所への入渠
海賊船は、しばしば造船所への入渠が必要とされます。 海賊稼業を始めるために必要な改造、戦闘による損傷の修理、年に一度の定期整備には、AまたはBクラス宇宙港に存在する造船所の設備が不可欠だからです(定期整備については、次項の追加ルールも参考にしてください)。
トラベラー宇宙ならば、武装の搭載は「帝国市民の権利だ」と簡単に言い切れそうな気がしますので問題ありません。 しかし、戦闘による宇宙船の損傷を修理することは、当然ながら、宇宙港当局の関心を引いてしまいます。 その修理は、海賊行為に関係している可能性があるのですから。 何処で損傷を受けたのか、その際の戦闘記録や航法日誌の提出は当然だと思います。 もちろん、正直なことは言えないでしょう。
宇宙船の修理に必要な期間は、MTのルールでは定義されておりません。 しかしCTのルールを応用して、通常の損傷ならば1〜4週間。致命的損傷ならば4〜8週間が必要だと想定してみました。 そうすると、偽装された船籍証明では、正体が露見してしまう可能性がとても高いのです。
「Far
Trader」に拠れば、そうしたリスクを冒さずに必要な改造、修理、定期整備を行えるA、Bクラス宇宙港が幾つか存在しているとのこと(海賊の避難所)。 レフリーは敵役としての海賊船を活躍させるため、または、海賊になったプレイヤーの活動を支援するため、密かに海賊船を援助しているA、Bクラス宇宙港を登場させるべきかも知れません。
私の個人的な考えですが、帝国海軍/惑星海軍/偵察局基地などが存在しない世界であれば、何処でも良いと思います。 リジャイナ星域のユーキー(Bクラス宇宙港)や、ライラナー星域のフューラキン(Aクラス)などが手頃だと思いますが。
(5)辺境星系における定期整備
「Far
Trader」に掲載されていた、辺境星系において宇宙船の定期整備を行なう、特別ルールです。 普通の商船がこれを利用しても、停泊時間が4週間に延びること(収入の減少)と、節約できる定期整備料金(整備料金の半分)のバランスが取れません。 このルールを用いるメリットはほとんど無いでしょう。
特別ルールは、以下のようになっています。
宇宙船は、年に1回の定期整備を行なわなければなりません。 このような定期整備は、購入価格の0.1%(1,000分の1)の費用と、A〜Bクラス宇宙港で2週間の時間を費やします。 乗組員は2週間の休暇を取ることでしょう。
この定期整備は、Cクラス以上の宇宙港において「乗組員の手によって」行なうことも出来ますが、必要な時間は2倍(4週間)になります。 必要な部品はA〜Bクラス宇宙港であらかじめ購入しておかなければなりません。 これらの部品は、宇宙船の船体容積の200分の1を占め、通常の定期整備にかかる費用の半額で仕入れることができます。 乗組員は休暇を得られません。
定期整備をD〜Eクラスの宇宙港で行なう場合、必要な時間は4倍(8週間)になります。
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