The Royalty of the Privateer
私掠船の忠誠心
  MEGA TRAVELLER
Science -Fiction Adventure
in the Far Future

CG softs:  DOGA-L3, Metasequia

 

 

 

 

 

 
 



 
 
 
 
 
 


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図1 拿捕許可証(Letter of Marque)

古代テラに存在していた、拿捕許可証の一例。




1.はじめに


 私掠船(Privateer)の歴史は意外と古く、古代テラの13世紀には存在していたようです。
 しかし、それだけ長い歴史を持っているにも関わらず、私掠船が何なのか、 という疑問に対しては、簡単には答えが見つかりません。
 その歴史の長さが仇となり、正体が分かり難くなっていることも事実でしょう。
 時代の移り変わりと共に私掠船の定義はめまぐるしく変化しています。
 数少ない共通点として挙げられる点は、略奪品の売却で利益を得ていることその利益を運航経費に充てていること、ぐらいでしょうか。

 そこでまず、私は古代テラにおける私掠船の歴史を調べてみました。
 次に、私掠船に関する記述をルールブックやサプリメントから探し出し、 彼らの行動パターンをトラベラー世界に当てはめました。
 その結果がこの考察なのですが、トラベラー世界、少なくとも帝国領内には 私掠船が存在できないという困った結論が出てしまっています。
 21世紀テラと同じように、まともな法体系と司法組織が存在する帝国領内において、運航経費を略奪品の売却で得ることは困難なようでした。



 トラベラー世界に私掠船が存在できない理由は何故かと問うならば、それは 私掠船悪質な海賊船に過ぎないから、としか言いようがありません。
 国家権力(もしくは、それに準じた企業や宗教組織の権力)を背景にして略奪行為を行う海賊船こそが、 私掠船の正体なのです。

 そもそも私掠船の行動パターンは一般的な海賊船と何一つ異なる点がありません。
 私掠船は、自身の活動費用、維持費や給料、修理費、 そしてローン返済(出資者への見返り)を、略奪行為によって賄わなければならないのです。
 ですから海賊船と同じように、商船を襲撃して船荷を略奪して、 あるいは拿捕した商船を丸ごと回航して、根拠地で売り捌くという行動になってしまいました。
 私掠船は、その存在を維持するため、私掠活動を続けるため、 商船の略奪を継続して行わなければなりません。 通商破壊艦のように、商船を破壊するだけで逃走するといった作戦行動を、 私掠船が選択することはできないのです。
 行動パターンが同じなのですから、私掠船は何処から見ても海賊船でしょう。

 更に国家権力が後援している以上、私掠船を取り締まる強力な組織は存在できません。 その結果、宇宙空間には略奪行為が横行し、恒星間通商は衰えることとなるのです。 これはつまり暗黒時代の再来ですから、帝国が私掠行為を禁止することも当然ですね。

 私掠船に対してロマンチックなイメージを持っている方もいっらしゃるでしょうが、 私がこのような結論に至った過程を、以下に綴っていきたいと思います。



 今回は、国家(もしくは、それに準じた権力を持つ企業や宗教組織)を背景にして海賊行為を行う 私掠船(Privateer)の行動を考えてみました。

 まず最初は、歴史上に存在した私掠船について。
                      ※2.私掠船の歴史

 次に、トラベラー世界に存在できる私掠船の種類について。
                      ※3.トラベラー世界の私掠船

 歴史に関する十分な理解があり、トラベラー世界に私掠船を登場させたいと思う方は、 以下のリンクでスキップして下さい。
                      ※4.私掠船の行動原理

 トラベラー世界で私掠船を始めたい方は、こちらで準備を行って下さい。
                      ※5.私掠船の始め方
                       (1)根拠地と略奪対象の選定
                       (2)宇宙船の確保
                       (3)乗組員(私掠船員)の募集


 トラベラー世界における私掠船の実践は。
                      ※6.私掠行為の実践
                       (1)私掠船と商船との遭遇
                       (2)襲撃の可否と実行
                       (3)私掠船の交戦規定
                       (4)拿捕商船の回航と売却
                       (5)私掠活動の評価


 冒険の過程で、プレイヤー・キャラクターがNPC船長の下に就いたり、逆にNPCの部下を持つこともあるでしょう。
 その際には、以下のルールでNPCを作成してください。
                      ※7.NPCの作り方
                       (1)私掠船船長の作り方
                       (2)私掠船員の作り方
                       (3)技能習得表エラッタ


 まとめへのリンクはこちらです。
                      ※8.まとめ



 「Mongoose版 Merchant Prince」には私掠船(Privateer)に関する情報が存在しましたが、 翻訳してみたところ、この私掠船は、 政府や企業、宗教組織に雇用されている武装宇宙船のことでした。
 「MT版ハード・タイムズ」では、星間傭兵と呼ばれているものです。
 「Mongoose版」が星間傭兵のことを 私掠船と呼称する理由は分かりませんが、 過去の私掠船とは全く異なる物ですから、考察の参考にはなりませんでした。

 松永様の「海賊フローチャート」にも「私掠船」と呼ばれる海賊が存在します。
 同じ名前ですが世界観の違いによる混乱を避けるため、両者を全く別物の海賊だと考える方が無難でしょう。



 私と同じような関心を持つ方は多いようで、ネット上でも分かりやすい報告書を見つけることができました。
 特に、この考察を書くための情報として「欧州私掠船と海賊−その歴史的考察、 稲本守、2008、http://lib.s.kaiyodai.ac.jp/library/kiyou/tkh05/p45.pdf」を参考にしています。
 参考文献とした書籍は、以下の通りです。
 「略奪の海 カリブ、増田義郎、岩波新書、1989」
 「図説 海賊大全、ディヴィッド・コーディングリ、東洋書林、2000」
 「海賊の掟、山田吉彦、新潮新書、2006」
 「世界史をつくった海賊、竹田いさみ、ちくま新書、2011」





2.私掠船の歴史


 私掠船の歴史を調べてみました。以下はその概略です。




(1)私掠船の始まり?

 1243年、イギリスのヘンリー3世が私掠認可状のようなものを発行したのが、 私掠船の始まりだという話です。
 航海中に敵国の商船を見つけたら、攻撃して積荷を奪っても良い。ただし捕獲物の半分は国王に献上すること。
 この目的は敵国を悩ませること(annoying the king's enemies)で、 現代で言うところの通商破壊に該当するでしょうか。
 しかしながら、使用されるのが軍艦ではなく、認可状を得た民間船であること。
 そして、積荷を奪って我が物にしてしまうこと。
 この2つの点で、現代の通商破壊とは異なっている気がします。



 記録に残る次の事例は1295年、イギリス船がポルトガル船による略奪の被害を受けたため、その船主は 被った損害を回復するため、ポルトガル船を拿捕しその積み荷を捕獲する許可をイギリス国王に願い出ました。
 この事件をきっかけに出されることになった拿捕許可証(Letter of Marque and Reprisal)」は、 他国によって損害を蒙った者に対して「報復(Reprisal)」行為を行うこと、 即ち加害国に属する財産を捕獲することを許可したものになっています。

 要するに、私掠船が行う略奪行為は本来、
 奪われた財産を取り戻すため
であり、簡単には奪われた財産そのものを見つけられず、取り返せないから、
 手近な同国籍の船を襲って、奪われた財産に見合ったものを略奪する
ということになった訳です。

 この時代は外交や国際司法が未発達であるため、他国籍船による略奪被害を解決できません。 また、保険制度も不十分だったため、略奪による損害を回復するためには略奪が一番だったのです。
 私掠行為は、略奪されたことへの「報復(Reprisal)」であり、 また、奪われた財産の「補償(Compensation)」という意味合いもありました。
 ですから実際の運用には、厳重な注意が払われていたようです。

 拿捕許可証にはその目的を逸脱しないよう、私掠行為の程度や方法についても明記されることになっていました。
 その限度を越えた私掠行為は報復と認められず、海賊行為と見なされるのです。
 それ故、13世紀から15世紀までの初期私掠船の時代においては、 他国船によってもたらされた損害を裁判所で証明できない限り、原則として許可証が与えられません
 私掠によって捕獲された船や積荷も、まずは審査のため海事裁判所に提出されます。
 捕獲物が拿捕許可証に示された条件に則らずに略奪されたものであると認定された場合、 捕獲された船や積荷は解放され、時には被害者に賠償金が支払われることもあった。
 ということだそうです。

 こういう背景ですから、外交や司法、保険の制度が充実すれば、拿捕許可証が不要になることは明らかでしょう。
 当時は許可証を得た私掠行為でさえも一部で問題視されており、 「これは海賊行為を公認するものだ」と批判する方が居たとのこと。




(2)私掠船の黄金時代

 しかしながら、私掠行為の定義は変化していくものです。
 何と言っても、略奪はとても儲かりますから。

 この時代、イギリスは頻繁に他国と戦争をしていました。
 戦争状態に陥ると、どちらの国も自国を被害者だとみなし、その被害を回復するための拿捕許可証を発行します。
 要するに、拿捕許可証の定義から「報復(Reprisal)」は消え、 報復の前提となる被害を裁判所で証明する必要は無くなってしまいました。
 略奪の収入も、敵国によって受けた損害に対する「補償(Compensation)」ではなく、 私掠活動に伴う「利益(Gain)」へと変わってしまったのです。

 大航海時代の到来(略奪の機会と利益の増加)が、それをさらに加速しました。
 商船の航行範囲が急激に拡大したのにも関わらず、治安維持を司る海軍の規模拡大が不十分であったこと。
 そして、輸送される貨物が極めて高価なもの(例えば銀塊や香辛料など)となり、略奪の旨みが増したためです。



 エリザベス女王の時代、イギリスはスペインを仮想敵国として、積極的な私掠行為に乗り出しました。
 表向き、スペインとは友好的な付き合いを続けておきながら、海賊をけしかけていた訳です。
 アフリカでポルトガル船から奴隷を略奪し、中米のスペイン領に密輸を行ったホーキンズ、 スペインの銀輸送船団を略奪したドレークらが話が有名ですね。 彼らは巨額の富をイギリスまで持ち帰り、イギリスの財政は一気に潤ったという訳です。
 当然のように被害者のスペインからは抗議されますが、それについては知らんぷりを決め込んでいました。 スペインは実力行使を行うべく、海賊の根拠地であるイギリス本土へ無敵艦隊を送り込みましたが、 その艦隊が(1588年を含めて5回連続で)敗退してしまうと、スペインは自力で私掠船団を捕え、処罰するしかなかったのです。
 ちなみに、捕えられた私掠船の乗組員は海賊として処罰されました。 この当時、私掠船員を戦時捕虜として扱う慣習は、まだ存在していなかったようです。

 エリザベス女王の没後も私掠行為は止まりません。
 私掠行為は儲かるビジネスだという認識がなされており、 イギリスの有力者は揃って私掠船に投資していました。
 出資した額に合わせて、私掠船が持ち帰った利益の配分を受ける訳です。
 私掠行為が盛んになれば、拿捕許可証の認可料と税金でイギリスの財政も潤います。
 ちなみに、認可料と税金は私掠船が持ち帰った利益の10分に1程度だったとのこと。

 有力者までが利殖に夢中ですから、拿捕許可証の発行も形だけで、制限は何もありません。
 拿捕許可証の書き換えや転売、さらには中立国の略奪なども頻発するようになったそうです。
 更には許可証を持たずに出港して略奪行為を行う事例が頻発したとか。
 しかしこれらの略奪品も、私掠による捕獲品として関係者に分配されました。
 この場合、被害者が海事裁判所に提訴しても、私掠によって利益を得る立場にある海軍長官、貴族、大商人等が介入したため、 積荷の返還や損害賠償を認めさせることは極めて困難であったそうです。
 これらの事例から考えてみると、私掠船の定義に 許可証の発行はふさわしくありませんね。
 私掠認可状の発行を受けることよりも、政府や王室の公認/黙認が重要な要素となりそうです。




(3)期待外れのバッカニア

 17世紀、1630年頃から、カリブ海の島を拠点とした海賊が現れるようになります。
 所謂バッカニアと呼ばれた海賊たちです。
 新大陸の利権を狙うヨーロッパの各国(スペイン以外の国々)は、スペインの領土(新大陸やカリブ海の島々)を狙っていましたが、 獲得した植民地や島を防衛することは大変であり、必然的にバッカニアを利用することになりました。
 というのも、当時の海軍ドクトリンとして、海軍の第一の任務は侵略に対する防衛であり、 艦隊の大部分はほとんど常に本国近海に留め置かれたという背景があるためです。

 本国政府から植民地経営を委ねられた現地の総督たちは、必要な戦力を補うため、盛んにバッカニアを雇い入れました。
 役に立ちそうな海賊を選び、私掠船としての許可証を与えるか、 彼らの行動を黙認することによって、彼らの攻撃目標が敵対国になることを願った訳です。
 とにかく敵対国を攻撃して貰いたい一心なので、見返りは期待していません。 この頃から、見返りなしの私掠許可証が発行されているようでした。

 実際問題として、バッカニアに拿捕許可証を与えたことが植民地防衛に役立ったかどうかは分かりません。
 スペイン側の都市や要塞を攻略した例もある訳ですが、それと同時にイギリス側に被害がどれだけ出ているのか記録が見つからないためです。
 元からバッカニアは、豊かなスペイン商船やスペイン植民地を主要な目標にしていました。 イギリスやフランスの貧しい植民地は目標に成り得なかったのです。
 安全な根拠地の提供はバッカニアの活動を容易にした筈なのですが、その効果は不明ということです。

 その後、艦隊戦力を充実させたヨーロッパの国々は、17世紀末から18世紀の初頭にかけて積極的な海賊狩りを行いました。
 その結果としてバッカニアは壊滅しています。
 十分な艦隊戦力が用意できるのであれば、信用できず、何時、敵に回るか分からないバッカニアは不要な存在だということの証明でしょう。




(4)通商破壊を目的とした私掠船

 最後になる私掠船の活躍は、18世紀です。
 バッカニアの項でに述べた通り拿捕許可証の発行目的は、 すでに「利益(Gain)」にもありません。
 とにかく敵国の通商を妨害するため(通商破壊のため)、 拿捕許可証の発行目的は、多数の民間商船を動員することに切り替わっていたのです。
 私掠によって得た捕獲物のすべては私掠船の取り分になりますから、私掠活動に乗り出す資産家や船員は続出しました。 アメリカやフランスの私掠船活動は有名ですが、彼らの動機が愛国心ではなく金銭欲だったという事実には泣けてきます。
 以下は「海賊大全、p.347」からの引用。

 私掠船活動については各州で議論が沸騰した。
 反対する人々は、私掠船を認可すれば本来の海軍に必要な乗組員をはじめ、海軍用品、さらには職人の時間まで、そちらに取られてしまうと批判した。
 海軍の軍艦が敵船を拿捕した場合、その売却によって得た利益のうち、三分の二は大陸会議や各州の政府に差し出さなくてはならなかったが、 民間で艤装した船舶の場合は収益全部が彼らのものになった。
 したがって私掠船で仕事をするほうが、はるかに大きな利益が手に入る可能性があった。
 私掠船の規律は軍艦のそれより厳しくなかったし、船長もあまり規則に捕らわれなかった。
 乗組員たちが拿捕した積み荷を前にして、時間のかかる法定手続きを待たずに、その一部をすぐに自分のものにすることに決めたときも、 船長たちは見て見ぬふりをしたり、ときには自分もそれに加わりさえした。
 そのうえ私掠船はフルタイムで商船の襲撃に従事しており、 食糧や物資の輸送とか、外交官の輸送などといった、収益性の少ない軍事行動はしないですんだ。
 乗組員自身もまた(たいていは軍艦から逃げ出した者だったが)、私掠船で働く方が大陸会議の軍艦で働くよりも危険が少ないと考えていた。
 軍艦だったら英国海軍の軍艦を相手に戦うはめになるからだ。




 しかし民間商船による私掠行為は政府による統制が困難でした。
 私掠船乗組員の欲望を餌にしている以上、当然の結果ですが、私掠船の一部は敵国の商船ばかりではなく、 中立国や自国の商船まで襲撃するようになったのです。
 国家が海賊の勢力増大を手伝ってしまった訳であり、こうした事例を踏まえて 徐々に拿捕許可証の発行は廃止されていきました。
 最終的に、1856年のパリ宣言、1907年のハーグ条約によって、私掠船は絶滅します。




(5)私掠船の問題点

 拿捕許可証の発行は、民間船舶(民間人)を戦争に動員すること、 商船と船荷を奪って敵国に損害を与え、自国に富をもたらすことの二点で、非常に有効な手段だと言えるでしょう。
 しかしながら、常に私掠船が法律に従うとは限りません。
 統制を外れた私掠船は敵国船ばかりではなく、中立国や友好国の商船さえも襲うようになります。

 自国の商船を略奪された中立国や友好国が大人しくしている筈はありませんね。
 それらの国家は拿捕許可証を発行した国家に賠償請求を行い、 応えられないのであれば海外資産の押収などといった経済的報復を企てます。
 それでも収まらないのであれば、立場を変えて敵対陣営に参戦するという最悪な事態にも成りかねません。

 私掠船の活動が制約できない問題点は、国家の政策を大きく損ねてしまいました。
 確かに私掠船は安価な通商破壊を可能にするメリットを備えているのですが、 それは両刃の剣であり、中立国や友好国を敵に回すというデメリットも隠されています。
 通商活動が盛んな現代において、まともな国家であれば私掠船を用いることはないでしょう。
 まともな通商活動を行い、外交関係を樹立している国家にとって、私掠船活動はマイナスの方が大きいのです。





3.トラベラー世界の私掠船


 残念ながら、CT版とMT版のトラベラーで私掠船に関する情報を見つけることはできませんでした。
 わずかながらプレイヤー・キャラクター作成ルールの中に、

拿捕許可証

 ある政府が、敵対する政府の商船に対する襲撃の許可証を発行することがあります。
 そういった許可を受けた海賊船は私掠船として、なかば公認の身分を得ることになります。
 拿捕許可証には価格はありませんが、恩典として船を得る際のDMがあります。


 という関連情報が見つかっただけです。
 あくまでキャラクター作成の際に用いるだけのもので、プレイ中に使えるものではありません。
 とは言うものの、考察のネタとしては十分に興味深いものでした。
 これを元に、トラベラー世界における私掠船の実態について考えてみましょう。



 これまで述べてきた4種類の私掠船について、まとめてみました。
 私掠船拿捕許可証私掠行為について、

1.誰が私掠行為を行うのか。
2.私掠行為の対象は誰か。
3.何処までの私掠行為が許されるのか。

 を、下の表で比べてみましょう。

 同時に、トラベラー世界における私掠船がどのタイプに該当するか、考察しました。
 参考資料の中で使用されている、私掠免状という訳語をそのまま転載していますが、 以下で用いている私掠免状は、トラベラーに登場する拿捕許可証と同じものです。 御了承ください。


           表2 私掠の目的による、私掠船の分類

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 前章で述べた通り、私掠船には大別して4つのタイプが存在します。
 この4種類を、新しいもの(下の方)から順に考察していきましょう。



 まず1つ目、最新バージョンの私掠船である、(4)通商破壊のための私掠免状は、

1.自国の商船/海賊船が行う、
2.敵国の商船に対する、
3.無制限の略奪を認可したものです。

 一般の方が思い浮かべる私掠船といったら、このイメージではないでしょうか?
 そもそも一般人は私掠船の存在自体を知らないというツッコミは却下。

 19世紀が終わるまで、戦争が始まると一般の商船は港に籠り、外海へ出なくなってしまいました。 誰しも戦争被害に遭って船を喪うことは避けたいでしょうから、当然の反応だと思われます。
 20世紀テラの物流事情であれば、様々な資源を海外から持ち込まなければ経済が成り立ちませんが、 当時の海外から持ち込まれる貿易品は贅沢品が主流であり産業基盤を支える必需品が少なかったため、引き籠ることも可能だったのでしょう。

 言うまでもないことですが、戦争が始まると海軍戦力が必要になります。
 当時、一部の大国は例外として、平時から海軍戦力を大量に揃えている国家はほとんど存在しませんでした。
 そして、海軍戦力の乏しい国家がどうやって海軍戦力を確保するかというと、私掠免状の発行によって、 多くの民間船を戦争に動員することで海軍戦力を得るのです。
 その報酬は、拿捕した敵国商船の船荷や商船そのもの。
 戦争に協力してくれたら、拿捕した商船や船荷を貴方の物にして構いません。
 この一言で多くの民間人が自分の商船に武装を施し私掠船として出撃していく訳ですから、 人間の欲望とは凄まじいものだと思います。

 元が民間船ですから、私掠船は正規の軍艦相手に太刀打ちできません。
 敵国の商船を拿捕して敵国の補給路を妨害したり、通商破壊を行うぐらいのことしかできない訳です。
 中には敵国海軍のフリゲート艦を拿捕した猛者もあったようですが、こうした事例は例外中の例外でしょう。
 商船相手の通商破壊しか行えない私掠船ですが、 私掠船の攻撃を受けた敵国商船は被害を防ぐため、船団航行や護衛艦の随行など様々な対策を講じる必要が生じました。
 私掠船の活動は勝利の決定打にこそ成り得ませんが、敵国の作戦行動を妨害することならば十分に可能なのです。

 一応、私掠免状が有効な期間は、発行国が戦争を行っている期間だけです。
 建前上、戦争が終結したら私掠免状は無効になり、 その時点を過ぎて行われた全ての私掠行為は、犯罪行為に変わります。
 一応とか建前上とか述べている理由は、私掠免状が無効になった後も 私掠行為を止めない私掠船の存在が珍しくないためですが。

 また、私掠船が拿捕した商船や船荷は一度、海事法廷に提出しなければなりません。
 海事法廷で拿捕した商船の船籍や船荷の荷主を調べ、私掠免状の範囲に適合していることを確認しなければ、 私掠船の船主や乗組員の物にはならないのです。
 海事法廷を経ないで勝手に処分することは違法であるため、それは私掠ではなく 海賊行為となってしまうでしょう。
 もっとも、私利私欲のため海事法廷への提出を行わない私掠船の乗組員や船主は多く、 更なる戦果拡大のために違法行為を黙認する海事法廷も珍しくありませんでした。
 戦争に勝つためならば、私掠行為海賊行為に変わっても構わないと考えられている訳で、 こうして私掠船海賊化が進んでいく訳です。



 この私掠船をトラベラー世界で再現するとしたら、どんな形になるでしょうか。

 「GT版 Far Trader」の記述によると、 ソードワールズ連合の貴族(minor nobles)は 独自の判断で私掠行為を行っているとのこと。
 私掠行為の対象は明記されていませんが当然のこと、 敵対する帝国ダリアン連合に所属する商船でしょう。
 ヴィリス星域のアードン連合や268星域のトレクサロンも同様に、 帝国を目標とした拿捕許可証を発行している可能性があります。
 プレイヤー・キャラクター作成ルールの経歴「海賊」で得られる拿捕許可証とは、 こうした敵対国家が発行したものかも知れません。
 明言されていませんがゾダーン連盟私掠船を用いることはありません。 彼らの民族的特徴から、私掠船海賊船とは縁がないようです。 軍事作戦の一環として通商破壊は行いますが、そこに私掠は介在しないのです。

 帝国政府は残念ながら、加盟している地方政府(星系政府)に拿捕許可証の発行を禁じています (これも「GT版 Far Trader」の記述)。
 ですから、ソードワールズ連合私掠船に対して、 同じような私掠行為で対抗することは有り得ません。
 帝国海軍の実力はソードワールズ連合海軍と比べて遥かに強力ですから、 リスクの高い私掠船をわざわざ動員する必要がないのだと思われます。
 帝国領内において、帝国政府や星系政府が発行した帝国拿捕許可証を持つ私掠船は、 存在できないことが分かりました。

 これでは困りますね。
 こういう結論が出てしまうと、 プレイヤー・キャラクター作成ルールで拿捕許可証を得た海賊は、 その全員が帝国に敵対する国家、ソードワールズ連合などの関係者なのか? という疑問を抱いてしまいます。
 このままですと、帝国内の海賊は、すべて国境付近でしか活動できないという話にも成りかねません。
 どう考えても不自然な状況ですから、帝国内でも拿捕許可証を発行してくれる政府か組織が必要でしょう。
 この問題については、3つ目の(2)利殖的私掠免状で考察します。



 次の2つ目、(3)バッカニアの活動支援は、

1.無国籍の海賊船が行う、
2.敵国の商船に対する、
3.無制限の略奪を認可したものです。

 これも、乏しい海軍戦力を補うための対策です。
 カリブ海において、周辺海域を荒らしまわっている海賊船を味方に付けるため、 私掠免状を発行するというものでしたが、 史実では「境界線の彼方」という特殊な状況下でのみ成立していました。

 海賊は何時でも根拠地(略奪品を売却し、乗組員に休暇を与えられる場所。 松永様の海賊フローチャートで言うところの基地)を必要としていますから、 根拠地を提供するのであれば、その星系(世界)は海賊から襲撃されない保障を得ることができます。
 海賊は根拠地周辺での海賊行為を行わないことが期待されますが、残念なことにそれは保障されません。 海賊の行動原理は、根拠地星系の治安維持ではなく、略奪による利殖にあるからです。
 更に襲撃されない保障を得られるのは根拠地として利用する海賊だけであり、 十分な安全補償を得るためには、複数の海賊に対して根拠地を提供する必要があるでしょう。

 トラベラー世界でも再現できるかと思っていたのですが、考察してみたところ、少なくとも帝国内では不可能なようです。
 私掠免状を発行することは、海賊船の活動を支援するということですから、 どんな状況であれ、そうした活動支援を行う政府が帝国に容認される筈がありません。
 このタイプの私掠船は、私掠免状を与えられていたとしても所詮、海賊です。
 決して、公的な保護を受けることはありません。
 帝国海軍に発見された場合は容赦なく追撃を受け、拿捕/逮捕されてしまうでしょう。 私掠免状の発行自体が帝国への反抗だと見なされてしまうのです。

 強力な海軍から遠く離れた宙域ならば、現地政府が私掠免状を発行することも可能かも知れません。
 しかし、その私掠免状を持った海賊船が、 私掠免状を発行した政府の意図通りに活動してくれるかどうか、全く当てにはならないのです。



 3つ目の(2)利殖的私掠免状は、

1.自国の商船/海賊船が行う、
2.仮想敵国の商船に対する、
3.無制限の略奪を認可したものです。

 国家権力(もしくは、それに準じた権力を持つ貴族や会社、宗教組織)が利殖を目的にして、 私掠免状の発行を始めた場合です。
 要するに、国家公認(あるいは黙認)の海賊船ですが、 トラベラー世界においても、このタイプの私掠船が最も多いと思われます。

 厄介な問題点は、このタイプの私掠船の活動が戦時に限らないことでしょう。
 戦争中に活動することもあるでしょうが、利殖目的ならば、その活動は平時に限るべきです。 戦争中は、獲物とすべき敵国商船が航行を取り止めたり、船団を組んだり、護衛艦を随伴したりしてしまいますから、 安全確実に低コストで商船の拿捕を試みるのであれば、リスクの少ない平時に行うべきであることは明らかなのです。

 しかし、国家権力が海賊船の活動を支援していると公言することには、大きな問題があります。
 実際、前章の(2)私掠船の黄金時代で紹介した私掠船は、 その立場を隠して行動していました。 私掠免状を与えられた、イギリスの私掠船でありながらも、 その立場を明らかにせず、一介の海賊船として略奪行為を行っていたのです。
 私掠免状を持っていることも、私掠船であることも公言できない、 非公式の私掠船、という訳ですが。 雰囲気的には、非合法工作員産業スパイに該当するでしょうか。

 幸い、トラベラー世界には通商戦争という設定が存在します。
 「CT版:トラベラー・アドベンチャー、p.95、商人の戦争」に記された記述によれば、

 …前略。
 競争は市場で起こり、価格、品質、サービスによって争われました。宣伝や場所の優位、任期、景品なども関係しました。
 しかし、帝国内には法律の力が及ばない所があります。
 星々の間の広漠な空間では、天の網といえども広さが足りないらしく、企業は普通の制限を超えた競争に発展するのです。
 これが通商戦争です。
 …中略…。

 市場における平和的手段以外による、企業体(大抵はメガコーポレーション)間の商業上の競争が、通商戦争であると定義されます。
 すなわち企業は、破壊を目的とした襲撃、産業スパイなどの荒々しい直接行動に出るのです。


 とのこと。
 上記の通り、帝国内には法律の力が及ばない所があります。 だからこそ海賊船が存在できる訳ですが、こうした場所ならば、 利殖を目的とした私掠船も十分に活動可能でしょう。
 「CT版:トラベラー・アドベンチャー」の中でプレイヤー・キャラクターは、 敵対企業の商船を襲撃するという海賊行為に参加します。
 常識で見れば、これは明らかな犯罪行為ですが、 通商戦争に必要な私掠船として雇われたのであれば、問題は解決するかも知れません。

 もちろん、それらの私掠船非公式の私掠船ですから、 拿捕許可証の所持や、自身が私掠船であることも公言できません。 当事者の企業は双方共、通商戦争を行っていることを隠さなければならないからです。
 そのため、略奪した商品や拿捕した商船を堂々と売り捌く訳にはいかず、 それらの売値は盗品としての価格、「定価の10分の1」になってしまうでしょう。
 略奪品を「10分の1」の価格でしか売り捌けない場合、 私掠船の経営状態は苦しくなることが明らかです。 トラベラー世界に、こうしたタイプの私掠船は存在できないことが分かりました。

 ……おや、おかしいですね。
 「CT版:トラベラー・アドベンチャー」に書かれている公式設定を否定する結論になってしまったようです。 私の想定の何処かが間違っていることは間違いないのですが、では、何処が間違っているのでしょうか。



可能性、その1。
 通商戦争のため、企業に雇われた私掠船は、 その企業の手を介することによって、略奪品を定価で売却できる。


 これは有り得そうです。こういう特典がなければ、一介の自由貿易商人が私掠船に成りたがるとは思えません。
 「CT版:トラベラー・アドベンチャー」の記述によれば、拿捕した商船や積荷を通常の投機貿易ルールで売却できる模様。 何かの制限や罰則(リスクやペナルティ)があるとも書かれておりません。オベルリンズ氏は一体どのような伝手を持っているのでしょうか。 それとも通商戦争の終結後、アケラットに適切な価格で買い取って貰う予定なのでしょうか。 残念ながら、良く分からないというのが本音です。
 この設定の問題点は、企業が無条件に略奪品を定価で売却できるのであれば、 その企業の私掠活動(通商戦争)を制することができなくなってしまう、という点でしょう。
 この案を採用するとしても、通商戦争の制限に基づき、 法律の力が及ばない所で奪った略奪品だけが安全に定価で売却できる、と考えておくべきだと思われます。



可能性、その2。
 通商戦争のため、企業に雇われた私掠船は、その企業に維持費等を支払って貰える。
 略奪品の売却益はそのまま利益となるので、定価で売却できなくても困らない。


 これも「CT版:トラベラー・アドベンチャー」の記述から思いつきました。 実際に燃料、補給品、生活物資、その他の費用は会社持ちです、と書かれているので、間違いないでしょう。
 雇い主に維持費を負担してもらうこと自体、私掠船の定義から外れているように思えましたが、 これはこれで私掠船の暴走を管理するには効果的な対策かも知れません。 雇われた私掠船は経済的に、雇い主の企業を離れることができませんから。
 このタイプの私掠船についても、後で考察してみたいと思います。



 最後のひとつ、最古の私掠船である(1)報復的私掠免状は、

1.自国の商船が行う、
2.加害国の商船に対する、
3.損害を回復するだけの略奪を認可したものです。

 前述した通り、報復的私掠免状は、船主が被った損害を回復するためのものですから、 他国船によってもたらされた損害を裁判所で証明できない限り、原則として許可証が与えられません
 こういう背景ですから、外交や司法、保険の制度が充実すれば、拿捕許可証が不要になることは明らかでしょう。

 どうにも、トラベラー世界の私掠船には相応しくなさそうです。
 帝国外の辺境ならば有り得ないことでもなさそうですが、あまり面白くありません。
 少なくとも帝国領内において、この種類の拿捕許可証は存在しないと考えました。





4.私掠船の行動原理


 歴史的経緯を踏まえて、トラベラー世界に存在する私掠船の定義を考えてみました。
 あくまで私の世界観による個人的解釈ですが、

 私掠船とは、
 政府(国家)や貴族、大企業の公認、あるいは黙認の下、敵対国家や敵対勢力、敵対企業の商船を略奪する海賊船
 のことである、とします。



 政府(国家)や貴族、企業の公認(黙認)は日陰者である海賊にとっては実に有難い話であり、  本来ならば司法の目から隠れて行わなければならない海賊船の修理や定期整備、乗組員の募集と休養、略奪品の売却に至るまで、 海賊業務に必要なすべてを政府(貴族や企業)が後援してくれることになります。
 利益率も極めて高いので、後援者にも事欠かないでしょう。

 しかし、特別な状況(一般的には戦争状態)でない限り、私掠船を公認することはできません。
 何よりも海賊行為は犯罪であり、私掠とは国家公認の海賊だからです。
 拿捕許可証の発行によって海賊活動を公認する国家は、周辺の国家から白眼視されることでしょう。
 更には、恒星間通商に従事している自国民からも非難され、そうした公認を取り下げなければならなくなる筈です。
 それでも公認を続けるという国家は、周辺の国家とまともな経済/外交関係を持っていないか、 あるいは、公認を非難できる国家が周囲に存在しないことを意味します。
 歴史上の出来事ですが、地中海のマルタ騎士団(キリスト教系私掠船)もバルバリー(イスラム系私掠船)も、 周辺国家が力を付けると略奪が不可能になりました。
 マルタ騎士団は欧州各地に点在した騎士団領の没収によって経済基盤を奪われ、 バルバリーは根拠地を封鎖され海賊船団を破壊されるという結果になったのです。
 どんな大義名分があろうと、襲われた商船から見れば私掠船海賊船です。
 あらゆる手段を使ってでも殲滅すべき犯罪集団であることに変わりありません。

 こうした国家公認海賊は帝国内には存在できませんが、 帝国の国境外、例えばアードン連邦や268星域、ヴァルグル領ならば存在できるでしょう。
 そうした海賊の根拠地が国境外にある限り帝国海軍は手を出せませんが、 そうした海賊が帝国領内に侵入して海賊行為を行ったのであれば、 帝国海軍の追及を受けることになります(政治的には、それが限界です)。

 すでに戦争状態に陥っている場合、あるいは、周辺国家に力がない場合は、公認の私掠船活動が可能だと思われます。
 戦争状態とは、スピンワード・マーチ宙域ですと第一次〜第五次の辺境戦争が該当するでしょうか。
 ソードワールズ連合やアードン連邦ならば、喜んで拿捕許可証を発行しそうですね。
 268星域の幾つかの星系も怪しいでしょう。
 ヴァルグル連合は拿捕許可証に関係なく帝国領を襲撃していますが、ヴァルグルですので除外。

 帝国が敵国(ゾダーンやソードワールズ、ヴァルグル)に対して拿捕許可証を発行する可能性は、 GT版の記述によれば、明確に否定されています。
 CT版やMT版については、具体的な記述が見つからないので不明ですが、




(1)私掠船の運航経費

 私掠船に必要な経費は、すべて私掠で賄わなければなりません。
 何処か別の財源(政府の海軍予算など)から資金提供を受けているとすれば、 その宇宙船は政府に雇われた星間傭兵であり、私掠船ではないでしょう。
 そもそもそれだけの財源があるのであれば、その政府は私掠船に頼らずとも戦えますから、 十分な財源を持たない私掠船の活動が海賊船と同じ経済原理に縛られることは明らかです。

 ですから基本的に私掠船は、根拠地の近くで仕事(商船の拿捕)を行います。
 「Pirate09:主要産業としての海賊」でも考察しましたが、 海賊船が略奪だけで生計を立てるためには、頻繁に商船を拿捕しなければならず、 拿捕を効率良く行うためには移動時間の少ない近場で仕事を行わなければなりません。
 この、拿捕の効率というものが後々、私掠船の行動を縛るものとなってくるのです。

 ここでまた、私掠船の運航経費について考えてみましょう。


        表3 私掠船の維持費(Pirate09_Fig04を再掲載)

Pirate10_Fig03.gif - 11.4KB

 再び、商船私掠船のローン+維持費を掲載しました。

 宇宙船とは高価なものであり、運航しているだけで多額の経費を必要とします。
 最も安価なS型偵察艦であっても2週間当たり76KCrA型自由貿易船ならば98KCrP型海賊船T型哨戒艦356〜431KCrでした。
 私掠船の場合、維持費だけで運行することはできません。
 自由貿易商人の所有する商船の多くはローン購入が前提となっていますし、 現金購入が可能であっても初期投資の回収が必要だからです(投資の回収をしない投資家は存在ないでしょう)。
 ローン返済が終了した船齢40年以上の老朽船であっても新しい商船を購入するための頭金が必要です。 頭金の金額は建造費用の20%ですから、それだけの金額を貯めるためには、ローン返済をさらに4年続けなければなりません。




(2)P型海賊船の経済性

 「Pirate09:主要産業としての海賊」で明らかになった通り、 商船の中で最も資産価値が高いものは、その商船自身です。
 ですから私掠船は、商船の拿捕と回航を最優先目標としなければならないでしょう。

 上記の維持費を基準にして、私掠船が果たしてどれだけの収益を上げられるのか、計算してみました。


           表4 私掠船の収益(P型海賊船の場合)

Pirate10_Fig04.gif - 16.0KB

 私掠船として一般的な存在であろうと思われる、P型海賊船をベースに考えました。

 表の左端は、拿捕して回航した宇宙船のタイプ
 その次の金額は、その宇宙船が船齢20年の中古船だと想定して、根拠地で売却した場合の収入です。単位はMCr。

 表の右側が私掠船、ここでは商船を拿捕して回航したP型海賊船の収益です。
 略奪行の遠征期間(ジャンプ回数と移動距離)によって、その収益は大きく変化しました。
 拿捕した商船のタイプが表の一番上S型偵察艦だった場合を例に取り、考えてみましょう。

 船齢20年の中古S型偵察艦は、9.2MCrで売却できました。
 商船を拿捕して回航してきたのは私掠船であり、 拿捕許可証を発行した勢力の根拠地ですから、合法的な売却が可能なのです。



 略奪行の遠征期間が4週間(ジャンプ1回)の場合、私掠船の運航経費は712KCrでした。
 その経費をS型偵察艦の売却価格から差し引けば、手元には8.5MCrが残ります。
 普通の自由貿易業務では、どんなにサイコロ運が良くても4週間(1ヶ月)で8.5MCrは稼げません。 これが私掠船の魅力(魔力?)なのでしょうか。

 遠征期間は4週間ですから、私掠船は1年間(52週間)に12.5回の遠征が可能です。 遠征先で大きな失敗しなければ、S型偵察艦12.5隻を拿捕することができるでしょう。 その場合、1年間の収益は106MCr



 略奪行の遠征期間がちょっと伸びて8週間(ジャンプ3回)の場合、私掠船の運航経費は1,424KCrに増えました。
 経費をS型偵察艦の売却価格から差し引くと、今度は7.8MCrが残ります。

 遠征期間が8週間ですから、1年間に6.25回の遠征が可能。 S型偵察艦6.25隻を拿捕できるのであれば、1年間の収益は49MCr
 遠征期間4週間の場合と比べて、収益が半減してしまいました。



 遠征期間が更に伸びて13週間(ジャンプ5回)となった場合、運航経費は2,314KCrです。
 略奪行1回あたりの収益は6.9MCr。

 遠征期間が13週間ですから、略奪行は年間4回しか行えません。 S型偵察艦4隻を拿捕できると考えて、1年間の収益は28MCr
 収益は、大幅にダウンです。
 遠征期間4週間の場合と比べて、収益が半減してしまいました。



 遠征期間が半年(26週間、ジャンプ10回)の長さになると、運航経費は4,628KCr。
 略奪行1回あたりの収益は4.6MCrまで下がりました。
 ここまで遠征期間が長くなると略奪行1回当たりの収益が半減してしまいますが、 これは建造費の安価なS型偵察艦ばかりを拿捕しているためです。
 もっと高価なR型政府指定商船M型客船を拿捕しているのであれば、 遠征期間が長くなっても1回当たりの収益はそれほど変わりません。

 遠征期間が半年ですから、略奪行は年間2回まで。 S型偵察艦2隻を拿捕できるとすれば、1年間の収益は9MCr



 表を見れば明らかなことですが、遠征期間が短くて拿捕する商船の数が多くなる程、私掠船の収益は大きくなります。
 遠征期間が長くなると収益が小さくなってしまうのですから近場では商船を拿捕できない といった状況に迫られない限り、私掠船が遠出をすることは有り得ません。 もちろん必要ならば遠出も考えられる訳ですが、彼らを駆り立てる動機(金銭欲)を満たすことは難しくなるでしょう。

 また、拿捕する商船が高価なものになる程、私掠船の収益は大きくなりました。
 流石にC型巡航艦T型哨戒艦の拿捕は難しいでしょうが、 P型海賊船ならばR型商船の拿捕は容易です。
 遠征期間4週間の略奪行で、年間12.5隻のR型商船を拿捕できたのであれば、 私掠船の収益はなんと320MCr
 新品のP型海賊船をローンなしで2隻も買えます。
 私掠船がこれだけ儲かるのであれば、誰もが拿捕許可証を欲しがることでしょう。

 ちなみに、拿捕した商船の回航を行わない場合、船荷だけを略奪して解放する場合は、 表の一番下に示した収益しか稼げません。
 略奪できる船荷の量は、P型海賊船の船倉容積である150トンが最大です。
 その船荷がトン当たり10,000crで売却できると想定しましたが、それでも船荷の売却益は1.5MCrが最大。
 遠征期間4週間の略奪行でかろうじて年間10MCrの収益を上げられますが、それほど魅力的な金額ではありません。
 おまけに、8週間以上の遠出になると自動的に赤字です。
 こんなことでは誰も私掠船になってくれません。

 どうやら私掠船拿捕許可証には自動的に、 拿捕した商船合法的な売却手段が付随するようです。



 念のため、拿捕した商船合法的な売却ができない場合。
 非合法的な売却しかできない場合の収益についても、計算してみました。


           表5 私掠船の収益(P型海賊船の場合)

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 拿捕した商船が盗品として扱われるため、 「定価の10分の1」でしか売れない場合の収益です。
 このルールは例によって、「GT版:Far Trader」に記載された、 略奪品の売値は「10分の1」という情報を利用しました。



 さて、非合法的な売却しかできない場合、私掠船は上記の通り、全く儲かりません。
 どの商船を拿捕しても黒字にできるのは、遠征期間が4週間(ジャンプ1回)以内の範囲のみ。
 それ以上の遠出をする場合は、拿捕する商船を厳選しなければなりませんでした。
 おまけに収益額は、合法的な売却ができる場合と比べて「10分の1」以下。
 R型商船12.5隻を拿捕したとしても、1年間の収益は24MCrのみです。

 こんな状況では、民間船を戦争に動員することなどできません。
 やはり私掠船拿捕許可証には、 拿捕した商船合法的な売却手段が付随しなければならないのです。



 私の世界観ですが、私掠船拿捕した商船合法的に売却する際、 例えば白紙船籍証明のように特別な書類は必要ないと考えます。
 拿捕した商船を本拠地まで回航して、 発行された拿捕許可証と一緒に海事裁判所へ提出すれば十分でしょう。
 海事裁判所はそれを審査した後、拿捕した商船に合法的な新しい船籍を発行してくれる筈です。

 トラベラー世界に私掠船が存在するためには、 拿捕した商船合法的な売却が不可欠ですから、 面倒な手続きは世界観を損ねてしまうと思うのです。



 私掠船私掠活動によって見込める収益を確認するため、 私掠船T型哨戒艦AU型外航自由貿易船を用いた場合、 それぞれについても計算してみました。
 私掠船ですから、拿捕した商船合法的な売却が可能だという想定です。




(3)T型哨戒艦の経済性


           表6 私掠船の収益(T型哨戒艦の場合)

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 T型哨戒艦は、私掠船として用いるのに最適です。
 十分な火力と4G加速、モデル3のコンピュータが揃っていますから、 格下のP型海賊船民間商船が相手ならば、ほぼ無敵なのです。
 狙った商船に無駄な損傷を与えることなく、容易に拿捕することが可能でしょう。

 そんなT型哨戒艦の数少ない欠点は、建造費の高さと、小さな船倉容積です。
 高額の建造費は必要な維持費用を増してしまいますし、小さな船倉では略奪した船荷をわずかしか運べないため収入が小さく、 船荷の略奪だけでは経営を維持することができませんでした。
 T型哨戒艦を駆る海賊船にとって最大の敵は、 帝国海軍のT型哨戒艦ではなく、低い収入による経営難なのです。



 しかし拿捕許可証が発行され、 拿捕した商船合法的な売却が可能であれば、 T型哨戒艦の経営状態は一気に改善されるでしょう。

 上の表6を見て分かる通り、 4週間に1隻の頻度でS型偵察艦A型自由貿易船を拿捕するだけでも、 年間104〜149MCrの収益が上がるようになりました。
 略奪した現金と船荷の売却益だけを収入源とした場合、 維持費を賄うために2〜6隻の商船を略奪しなければならなかった状況と比べて頂ければ、 私掠船は非常に儲かることがお分かりになるでしょう。
 拿捕した商船を回航したとしても 非合法的な売却しかできない場合の収益は大きく目減りします。
 4週間に1隻のS型偵察艦A型自由貿易船を拿捕した場合、 その売却益は維持費を賄うだけが精々で、1年間の収益は1〜4MCrのみ。
 赤字に陥らないだけマシなのでしょうが、あまり魅力的な金額ではありませんでした。
 やはり私掠船の活動には、 拿捕した商船合法的な売却手段が不可欠です。



 ちょっと遠出して8週間に1隻の拿捕しかできない場合、年間の収益は47〜69MCr
 4週間に1隻の場合と比べて、収益が半減してしまいましたが、まだまだ魅力のある数字です。



 更に遠出して13週間に1隻の場合は、年間収益が26〜40MCr
 26週間(半年)に1隻の頻度でしか拿捕ができない場合の年間収益は、7〜14MCr
 海賊船(コルセア)として働くには十分な金額ですが、 大きなリスクを冒して私掠船となるには、ちょっと物足りないようです。




(4)AU型外航自由貿易船の経済性

 戦争が始まって私掠船となる民間商船は、戦闘向きの宇宙船ばかりと限りません。
 S型偵察艦A型自由貿易船R型商船など、 非力な商船であっても私掠船として利用することが考えられます。
 実際のところ、海軍戦力の不足で苦しんでいる政府にとって、民間商船を無駄に遊ばせている余裕もないでしょう。

 そのサンプルとしてAU型外航自由貿易船を取り上げ、収益を計算してみました。


         表7 私掠船の収益(AU型外航自由貿易船の場合)

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 小型の商船は経済性を重視しているため、私掠船となった場合の収益性も優秀です。

 年間収益の大きさと傾向に関しては、 これまでに述べたP型海賊船T型哨戒艦と変わりませんでした。
 しかし同じ金額の収益であっても、AU型外航自由貿易船は安価に購入できます。

 先にも述べましたが、P型海賊船が遠征期間4週間の略奪行で、 年間12.5隻のR型商船を拿捕した場合、 私掠船の収益は320MCrになりました。
 新品のP型海賊船をローンなしで2隻も買える金額ですね。
 しかし、購入する商船AU型外航自由貿易船にするならば、7隻も買えるでしょう。

 AU型外航自由貿易船私掠船となって活動を始めた場合、 わずか2隻のR型商船を拿捕するだけで、わずか8週間の遠征で新しい商船を買えます。
 ローン返済で苦しむ自由貿易商人が大喜びで私掠船になる可能性は、とても高そうですね。




(5)私掠船の行動原理

 以上、P型海賊船T型哨戒艦AU型外航自由貿易船私掠船となって活動を始めた場合について、運航経費と収益について考察しています。
 その結果、私掠船の行動原理は3つの原則にまとめられることが分かりました。

1.私掠船は、利益の獲得を目的として行動する。
2.私掠船は、商船の拿捕を目的として行動する。
3.私掠船は、できる限り根拠地の近くで行動する。




 まず1番目、私掠船は、利益の獲得を目的として行動する。についてですが、 そもそも私掠免状とは、海軍戦力の乏しい国家が多くの民間船を戦争に動員するための非常手段です。
 その報酬は、拿捕した敵国商船の船荷や商船そのもの。
 人間の欲望(金銭欲)を掻き立てて民間船を戦争に動員する訳ですから、当然、 その行動は利益の獲得を目的としていなければなりません。
 この行動原理は、私掠船の根底を成しているものでしょう。

 2番目、私掠船は、商船の拿捕を目的として行動する。については、表4〜表7に示した通りです。
 拿捕した商船の回航を行わない場合、船荷だけを略奪して解放する場合、 私掠船はほとんど利益を上げられません。
 敵国商船を拿捕した以上、船荷だけを略奪して解放する、という贅沢が許される筈もないのです。
 商船の回航をしなければ収益が減ってしまいますから、私掠船の船長がそんなことをしたら、乗組員が怒ります。
 根拠地にスポンサー(出資者)が居るのであれば、彼らも怒るでしょう。
 私掠船活動は慈善事業ではなく、営利事業なのです。

 また、商船の拿捕を目的としている以上、 私掠船の襲撃目標は敵国商船に限られてしまいます。
 トラベラー世界においても民間船と軍艦の戦力差は圧倒的ですから、 トラベラー世界の私掠船も、民間商船の拿捕しか行えません。
 やはり、海賊船と同じですね。
 実際の作戦行動も100倍直径での待ち伏せが専らになるのです。

 3番目、私掠船は、できる限り根拠地の近くで行動する。についても、表4〜7に示した通り。
 私掠船が遠くへ出かけるほど、商船を拿捕する回数は少なくなり、収益が減ってしまいました。
 近い場所で行動する方が、遠い場所で行動するよりも収益が大きくなるのですから、 ジャンプ1回(4週間周期)の遠征で1隻の商船を拿捕できるのであれば、わざわざジャンプ2回以上の遠出をする理由はありません。
 できる限り、根拠地の近くで商船を拿捕しようと試みる筈です。
 私掠船が遠出をするとしたら、近場で獲物を見つけることができないか、 遠出に見合うだけの収益が得られる、という条件が必要になるでしょう。



 これらの行動原理に基づいて、具体的に私掠船の船長がどんな行動を取るのか、考えてみます。





5.私掠船の始め方


 という訳で、私掠活動の準備を始めます。

 この部分は、松永様の「海賊フローチャート」に掲載されている 私掠船のルールを参考にさせて頂きました。
 私掠船が活躍する舞台設定の詳細はレフリーの裁量によるところが大きいため、 どんな設定でも適用できる、普遍的なハウス・ルールがなかなか作れません。
 そのため開き直って、ある程度はゲーム的な数字を用いることにしました。




(1)根拠地と略奪対象の選定

 まず何よりも先に、拿捕許可証(私掠免状)を発行する政府、及び、略奪対象となる政府を選択して下さい。
 これらの政府は双方とも、単一の星系を支配する星系政府ばかりとは限りません。
 ソードワールズ連合帝国のように複数の星系を支配する恒星間政府であったり、 あるいは、複数の星系を商圏とする恒星間企業である可能性もあります。
 その場合は、その恒星間政府の首都(星域首都)や本社(星域本社)が存在する星系を選択して下さい。



 その次に、私掠船の根拠地を決定します。
 海賊船と同様、私掠船にも物資補給や乗組員に休暇を与える為の根拠地が必要です。
 特に、略奪してきた船荷や商船を売り捌く際には不可欠でしょう。
 具体的には、人口レベル3以上で、Cクラス以上の宇宙港を備えた星系の中から選んで下さい。
 より円滑な私掠活動を行うためには、人口レベル5以上、Bクラス以上の宇宙港を備えている星系が望ましいでしょう。

 私掠船の根拠地は、拿捕許可証を発行した政府自身の領域内、 あるいは、同盟国の領域内にしか設置できません。
 私掠船に基地を提供することは、略奪対象となった政府への敵対行為と見なされますから、 何処でも基地を設置するという訳にはいかないのです。
 特に中立国は、私掠船の略奪品を買い取ったり、補給物資を売ったり、損傷を修理するだけでも駄目です。 運が悪ければ、その宇宙港で抑留されてしまいますから、私掠船は、中立世界に寄港しない方が無難でしょう。
 反対に中立国の立場からすると、私掠船の寄港を許しただけで中立違反と見なされ、 当事国から宣戦布告を受ける原因となりかねません。強い外交的圧力がない限り、私掠船の入港を認める筈がないのです。



 最後に、私掠船の略奪場所(活動場所)になる星系を決めて下さい。
 基本的には、略奪対象となった星系政府の星系内か、恒星間政府の領域内(恒星間企業の商圏内)に存在する星系になる筈です。
 恒星間政府(企業)を略奪対象とした場合、略奪対象になる星系は複数存在しますが、これまでの考察で説明した通り、 私掠船は、できる限り根拠地の近くで行動します。御注意下さい。
 また、何を間違えても同盟国や中立国の領域内で私掠活動を行ってはいけません。
 同盟国や中立国を敵に回してしまいますから。



 拿捕許可証を発行する政府、及び、略奪対象となる政府、 私掠船の根拠地と活動場所、の4つが決まったら、根拠地と活動場所との間を結ぶ移動経路を調べて下さい。
 ジャンプ1の場合、ジャンプ2の場合、ジャンプ3の場合、それぞれについて必要なジャンプ回数を書き留めておきます。




(2)宇宙船の確保

 プレイヤー・キャラクターは拿捕許可証を手に入れました。
 これで大手を振って海賊行為……もとい、私掠行為が可能となる訳ですが、 実は拿捕許可証だけでは何もできません。
 次のステップとして、宇宙船を確保しなければならないのです。

 プレイヤー・キャラクターの一行が宇宙船を所有しているのであれば、この項は飛ばしてくださって構いません。



 この項では、私掠船として利用可能な宇宙船を探し出しますが、 星系政府の紹介や自分自身の伝手を使って探し出せる宇宙船の数については、以下の表を参照して下さい。


             表8 利用可能な宇宙船の数

Pirate10_Fig08.gif - 4.66KB

 根拠地として選んだ世界の宇宙港クラスから、利用できる宇宙船の数を決定して下さい。
 MAG様の考察「スピンワードマーチ宙域の商用船舶」から、 宇宙港規模を計算して用いることもできます。 後のハウス・ルールに関わってきますので、個人的には宇宙港規模の利用を推奨。



 上記に示した宇宙船の数は、船荷や旅客を見つけられず、宇宙港で待機している不定期船(自由貿易船)の数を表しています。
 場合によっては、戦争によって航路が閉鎖されて運航できなくなった、定期便の商船や客船が含まれているかも知れません。
 これらの宇宙船の船主は、宇宙港で待機している間にも容赦なく督促される銀行ローンや運航経費の重圧に耐え兼ね、 私掠船としての活動を決意する可能性が高いのです。

 トラベラー世界における商船の運航経費は、銀行ローンの支払いが大半(80%以上)を占めていました。 その商船が恒星間を航行していても、宇宙港で待機していても、その支出額に大きな違いはありません。 旅客や貨物を積んで航行しなければ、運航経費を賄うことができないのです。
 20世紀テラにおける商船の運航経費と大きく異なることに注意して下さい。

 この利用可能な宇宙船の数は、あくまで目安です。
 私掠活動によって得られる収益の前評判、リスクとのバランス、 帰還してきた私掠船からの情報によって、大きく変化することでしょう。
 レフリーは、それらを加味して実際に見つかる利用可能な宇宙船の数を調節して下さい。



 次に、これらの宇宙船について、具体的な種類や船齢、武装の有無を決定します。
 利用可能な宇宙船の数だけ、下の表でサイコロを振って下さい。


           表9 利用可能な私掠船の種類と船齢

Pirate10_Fig09.gif - 10.0KB

 「Pirate07:海賊(バッカニア)の日常、表5」をアレンジしました。
 最初のサイコロ(2D)で、宇宙船の種類を決めて下さい。
 船齢も同じようにサイコロ(2D)で決定します。

 武装は、その宇宙船が備えている 武器設置点1つ毎にサイコロ(2D)を振って下さい。 武器設置点宇宙船の船体容積100トン毎に1つというのが基本ですが、 R型政府指定商船(2つ)M型政府指定客船(3つ)のように、 若干、少な目の宇宙船も存在しています。
 「武装なし」は、その武器設置点に武装が搭載されていないことを、 「ミサイル」はミサイルが搭載されていることを意味します。
 もちろん、宇宙船の種類に合わせて、武装の数を調整しなければなりません。

 S型偵察艦A型自由貿易船は、 パワープラント出力の制限から三連架のレーザー砲を搭載できません。 レーザー砲を搭載するとしたら、単架砲塔が精々でしょう。
 反対にXT型連絡補給艦P型海賊船は、 三連架砲塔を搭載することが一般的なようです。
 世界観に合わせて、調整してください。



 そして最後に、船主が私掠活動に同意するかどうか、判定を行います。

 根拠地と活動場所との間を結ぶ移動経路を確認し、その宇宙船に必要なジャンプ回数から難易度を求めて下さい。
 ジャンプ回数は、その難易度で判定できる最大値を意味していますので、 例えば移動経路がジャンプ2回であるならば、難易度〈難〉を用いることになります。


             表10 私掠船募集の難易度

Pirate10_Fig10.gif - 11.2KB

 私掠船の行動原理は、利益の獲得です。
 リスクに伴った利益が期待できないのであれば、船主が私掠活動に同意することは有り得ません。
 必然的に、根拠地から近い活動場所での私掠活動には多くの船主が同意し、 根拠地から遠く離れた活動場所での私掠活動には僅かな船主しか同意しないことになります。
 より多くの私掠船を集めるためには、活動場所の近くに根拠地を設けなければいけないのです。

 根拠地と活動場所との移動経路がジャンプ1回でも難易度〈並:7+〉、 ジャンプ3回で難易度〈難:11+〉ですから、船主から同意を得ることを難しくしてあります。
 但し、これは軽武装の商船を基準としておりますので、 P型海賊船T型哨戒艦のような武装商船は DM+4を加えて下さい (P型海賊船の武装が三連架のレーザー砲のみならばDM+2程度が妥当でしょう)。
 非武装の商船であれば、反対にDM−4を加えます。

 プレイヤー・キャラクターや政府関係者は、その宇宙船に武装を取り付けることで(武装の取り付け費用を負担することで)、 募集のDMを有利に変えることができるでしょう。
 また、商船を戦闘に参加させない(補給船として用いる)と確約することで募集DMに+4を加えることも可能です。
 これは私掠活動への参加を渋る船主を同意させるための対策ですが、 もちろんペナルティもありますので御注意下さい。



 簡易ルールとして、以下の表も用意しておきました。
 根拠地と活動場所を結ぶ移動経路は、ジャンプ1かジャンプ2のどちらか片方だけを用いて下さい。 宇宙船のタイプも、ジャンプ1性能のものと、ジャンプ2性能のどちらか片方に統一します。
 移動経路にジャンプ1を選んだ場合は、 ジャンプ1性能の商船を主力とした私掠船団になるでしょうし、 ジャンプ2を選んだ場合はS型偵察艦AU型外航自由貿易船P型海賊船などが主体の私掠船団になると思われます。


            表11 簡易版:募集できた私掠船の数

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 表8で掲載した利用可能な宇宙船の数に、募集難易度の期待値を掛けて求めました。
 プレイヤー・キャラクターに敵対する私掠船団を作るなどの際には、有用だろうと考えます。



 宇宙港クラスE〜X宇宙港規模3以下の星系において、 私掠船として利用可能な宇宙船を見つけることはできません。 根拠地としては別の星系を選ぶしかないのです。

 宇宙港クラスD宇宙港規模4〜4+の星系は、典型的な辺境星系です。 ジャンプ1回の距離まで遠征してくれる私掠船を1隻だけ見つけられるでしょう。 ジャンプ2回以上の遠出をしてくれる私掠船は見つかりません。

 宇宙港クラスC宇宙港規模5〜5+の星系は、辺境でも交通量の多い星系です。 ジャンプ1回の距離まで遠征してくれる私掠船ならば2隻を見つけられます。 ジャンプ2回以上の遠出をしてくれる私掠船は見つかりません。

 宇宙港クラスB宇宙港規模6〜6+の星系は、 Xボート連絡網や幹線航路を構成している交通量の多い星系です。 ジャンプ1回の距離まで遠征してくれる私掠船ならば6隻、 ジャンプ2〜3回の距離まで遠征してくれる私掠船は1隻だけ見つかります。 ジャンプ4回以上の遠出をしてくれる私掠船は見つかりません。

 宇宙港クラスA宇宙港規模7以上の星系は、 星域首都のような主要星系です。
 これだけ交通量の多い星系になると。ジャンプ1回の距離まで遠征してくれる私掠船が25隻も見つかります。 ジャンプ2〜3回の距離まで遠征してくれる私掠船は6隻、 ジャンプ4〜5回の距離になると私掠船は1隻だけですが。 ジャンプ6回以上の距離では私掠船が見つかりません。

 簡易ルールですから大雑把ですが、私掠船の行動原理に従うのであれば、 私掠活動に同意する利用可能な宇宙船の数が、 上記のような結果になることは間違いありません。
 根拠地から近い活動場所での私掠活動には多くの船主が同意し、 根拠地から遠く離れた活動場所での私掠活動には僅かな船主しか同意しないのです。




(3)乗組員(私掠船員)の募集

 今度は乗組員(私掠船員)の募集を行います。
 一応、プレイヤー・キャラクターの1人が「船長」を勤めるという想定で、 乗組員募集のハウス・ルールを作成しました。
 プレイヤー・キャラクターの一行だけで乗組員が揃うのであれば、この項も飛ばしてください。



 「信用」は、対人関係においてとても大切な要素です。
 誰であっても、見ず知らずの他人に大人しく従うことはありません。
 話し相手の背後に、何らかの組織(国家や企業)が存在し、これまで積み上げてきた「信用」が存在するからこそ、 話相手の言うことに従えるのです。
 当然、何の実績もなく、顔見知りでもない「船長」がいきなり現れたとしても、 その「船長」の募集に応じる乗組員はほとんど居ないでしょう。
 反対に、実績豊富で、顔と名前が良く知られている「船長」は、乗組員の募集で困ることはありません。

 こういった事情をルール化できないかと悩んでいたところ、  ヴァルグル人固有の能力値である「カリスマ値」というものに気付きました。
 「Tactics誌」に連載されていた「グランド・ツアー Act.3」の中には、 人類の「カリスマ値」を計算するルールが掲載されています。
 それを流用して「船長の信用」を数値化してみました。

 ヴァルグルに与える影響力「カリスマ値」は、人類の場合、以下の方法によって求められます。

 人間のカリスマを考える場台、社会身分度を3で割って端数を切り捨ててください。
 それを〈リーダー〉の技能レベルごとに+1、〈接触〉の2レベルごとに+1します。
  これを基本値とし、以後の行動によって変動させてください。


 具体的には、以下のようになりました。


             表12 カリスマ値の求め方

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 「グランド・ツアー Act.3」から抜粋した計算方法を、表にまとめただけです。
 表の一番下「切り裂き魔のリーダー +4」は、勝手に追加しましたが。

 「Best Weapon 41&42:海賊いじめ1&2」に登場した 『ジャックポット』船長ドリンカー氏の場合、彼の社会身分度は5。 上の表を見ると、社会身分度が3〜5の範囲は「カリスマ値」が「1」です。
 それに加えて、ドリンカー船長は〈リーダー〉技能1レベルを持っているので、 最終的な彼の「カリスマ値」は「2」になりました。

 「海賊いじめ」には登場していませんが、 ビアトリスをブリッジから操っていた黒幕『レディバグ』船長ポートマン氏は立派な成り上がり者で社会身分度がB。 社会身分度9〜Bの範囲は「カリスマ値」が「3」です。
 持っている技能は〈リーダー〉1レベルと〈接触〉5レベルなので、+1と+2。 ポートマン船長の最終的な「カリスマ値」は「6」でした。

 この「カリスマ値」は乗組員の募集ばかりではなく、乗組員の反乱を抑える為にも活用されますので、重要です。



 次に、この「カリスマ値」を元手にして、乗組員を雇ってください。
 具体的には、船長の「カリスマ値」に1〜5の係数を掛けて 「雇用ポイント(Recuruit Points)」を算出。
 この「雇用ポイント」と引き換えに、乗組員を雇うことになります。


        表13 雇用ポイント(Recuruit Points)の求め方

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 上記の表で示した計算結果が、船長の持つ「雇用ポイント」です。
 平時や開戦直後の「雇用ポイント」は、「カリスマ値」の5倍ですが、 敗戦間近になると「カリスマ値」の1倍しか雇えません。
 戦争が進む(戦況が悪化する)につれて、乗組員の募集が困難となるように設定しました。 この傾向は私掠活動のリスク増大と、宇宙船乗組員の消耗を表しています。

 終戦直後の数ヶ月は平時として扱って下さい。 勝敗に関わらず、終戦直後は失業した復員軍人が宇宙港に溢れますから、 終戦後も私掠活動を続ける私掠船にとっては都合が良いのです。

 私掠船の遠征距離、根拠地から活動場所までの移動時間によって、乗組員の人気も変わるようにしました。
 遠征距離が短ければ短期間で大きなボーナスを期待できますから、当然、乗組員の応募は多くなります。 反対に、遠征距離が長ければ応募が少なくなるでしょう。
 また、私掠船が強力な戦闘艦(T型哨戒艦)である場合も、 優秀な乗組員が多く集まる設定にしてあります。
 ただし、プラス修正がどれだけ集まっても、「カリスマ値」に掛ける係数の最大値は5倍です。
 修正した係数が0倍になったら、どんなに優秀な(カリスマ値の高い)船長でも、乗組員を集めることはできません。



 乗組員(私掠船員)を雇用する際には、雇う乗組員1人ずつに「雇用ポイント」を支払わなければなりません。
 雇用には最低でも1ポイントの「雇用ポイント」が必要ですので、 表13で求めた「雇用ポイント」が1ポイントしかなかった場合は、 どんなに頑張っても1人だけしか乗組員しか雇えない訳です。


        表14 雇用ポイント(Recuruit Points)の使い方

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 表の左端は、ランダムな遭遇率を示しています。 「Pirate07:海賊(バッカニア)の日常、表2」を参考にして、年齢分布を求めました。
 これは参考値ですので、プレイヤー・キャラクターが乗組員を雇用する場合は自由に決めて構いません。

 その次の欄は、乗組員のランクです。
 新人(Recruit)は文字通りの新人で、勤務期数が1期(18〜22歳)。 ランダムな遭遇率は58.3%
 標準(Regular)は、標準的な経験を積んだ乗組員で、勤務期数は2期(22〜26歳)。 遭遇率は25.0%
 勤務期数3期(26〜30歳)熟練(Veteran)は経験豊富な上級士官であり、 遭遇率は13.9%まで下がります。
 最後の精鋭(Elite)は、船長クラスに相当する腕利きの乗組員であり、 その勤務期数は4〜5期(30〜38歳)。遭遇率は2.8%しかありません。
 勤務期数も参考値ですので、レフリーの裁量で自由に変更してください。
 経験豊富な乗組員であっても、その経歴が営業部門やブローカー部門に偏っていれば、 宇宙船運航に必要な乗組員としての技能が新人並であることは十分に有り得ます。
 反対に、勤務期数が少ない若者が特定の技能に関して、 熟練精鋭並の技能レベルを備えていることも、珍しいことではありません。 レフリーの裁量で、乗組員の年齢を変更して下さっても結構です。

 3つめの欄は、乗組員の持つ技能レベルです。
 〈主要技能〉は、その乗組員が雇われるため必要不可欠な技能ひとつ、 例えば「パイロット」として雇われるのであれば〈パイロット〉技能、 「エンジニア」として雇われる場合は〈エンジニアリング〉技能のレベル数を表しています。 「兵士」であれば、使用する〈銃器戦闘〉の技能レベル数になるでしょうか。
 〈副次技能〉は、上記以外の技能、〈探知機〉、〈通信〉、〈宇宙服〉、〈爆発物〉、〈コンピュータ〉等に該当します。 適当なものを2つ選んで下さい。ただし〈リーダー〉、〈戦術/宇宙船戦術〉技能については、指揮部門の乗組員しか選ぶことができません。

 最後の欄は、そのランクの乗組員を雇うために必要な「雇用ポイント」です。
 乗組員の経験と能力に合わせて、支払う「雇用ポイント」が異なるように設定しました。
 必要な技能を1レベルしか持たない新人(Recruit)は、 わずか1ポイントの「雇用ポイント」で雇えますが、 4レベルの〈主要技能〉を備えた精鋭(Elite)を雇うには 4ポイントの「雇用ポイント」支払が必要なのです。



 乗組員を雇用する際、重要な要素がもうひとつあります。
 それは「忠誠心」。
 雇った乗組員がどれだけ「船長」の指示や命令に従ってくれるかということは、 私掠船の「船長」にとって極めて重要なことではないでしょうか。

 乗組員の「忠誠心」にも、「雇用ポイント」を支払う必要があります。
 さもなければ「忠誠度=低」の乗組員ばかりを揃えることになるでしょう。
 詳細は、以下の表に示してあります。


        表15 雇用ポイント(Recuruit Points)の使い方

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 左端のランダムな遭遇率は、今回も参考値です。 プレイヤー・キャラクターが乗組員を雇用する場合は自由に決めて構いません。

 その右側には、乗組員の忠誠度ランク乗組員を信用できる程度雇うために必要な雇用ポイント」を示しました。

 「忠誠度=低」の乗組員は、都合が悪くなれば簡単に裏切ります。 後述しますが、船長の命令に従わせるためには、 難易度〈難:11+〉の行為判定に成功しなければなりません。

 「忠誠度=並」の乗組員は一般的な忠誠心を備えています。それなりに信用できるでしょう。 船長の命令には、難易度〈並:7+〉の行為判定に成功すれば従います。

 「忠誠度=高」の乗組員は高い忠誠心を備えており、余程のことがなければ裏切りません。 難易度〈易:3+〉の行為判定に成功すれば、船長の命令に従います。

 忠誠度ランクの右に並記されている数字は、忠誠心そのものを表した数字であり、 具体的には、船長の命令を聞かせるためにサイコロで幾つ以上の目を出さなければいけないか、を示しています。
 数字が大きいほど忠誠心が低く、数字が小さいほど忠誠心が高いことになっていますので、御注意。
 乗組員の雇用を決めた後、プレイヤー・キャラクターを除く全乗組員(NPC)の忠誠心を合計し、平均値を出して下さい。 その数字が後で重要になってきます。



 「雇用ポイント」が多い船長ならば、 精鋭で「忠誠度=高」の乗組員を揃えることができるでしょう。 反対に「雇用ポイント」の少ない船長は、 「忠誠度=低」の新人しか雇うことができません。 実際のところ、限られた「雇用ポイント」をどのように割り振るかが課題となってきます。
 「忠誠度=低」の熟練と 「忠誠度=高」の新人、どちらを雇うべきなのでしょうか。



 『ジャックポット』船長ドリンカー氏の場合、彼の「カリスマ値」は「2」です。 これを5倍して、彼の持つ「雇用ポイント」は10ポイントになりました。
 「Best Weapon 41:海賊いじめ1」において、ドリンカー船長は乗り込み戦要員(兵士)として、 レックの「ならず者」6人を雇用しています(『ジャックポット』の元からの乗組員は計算に含めません)。 この6人を雇うために必要な「雇用ポイント」を計算してみましょう。

 乗組員を1人雇うために必要な「雇用ポイント」は、最低でも1ポイントです。1ポイント×6人で6ポイント。
 1ポイントでは「忠誠度=低」の新人しか雇うことができませんが、 ドリンカー船長はこれだけで6ポイントの「雇用ポイント」を使ってしまいました。 「雇用ポイント」の残りは4ポイントです。
 6人の内1人を熟練にランクアップしましょう。 「雇用ポイント」の追加消費は2ポイントでした。
 残りの2ポイントは、2人を標準へランクアップすることで費やします。 「雇用ポイント」の追加消費が1ポイント×2人なので2ポイント。もう余りはありません。

 最終的に、ドリンカー船長が雇った(雇えた)乗組員は、 「忠誠度=低」の熟練1人(リーダーのエゼカンプ氏に相当)、 「忠誠度=低」の標準2人(アトキンズとバクスターの2名)、 「忠誠度=低」の新人3人(下っ端のフランク、グレイ、シィファーウの3名)です。
 6人全員の「忠誠度」が「」レベルであることは気になりますが、 これは全てドリンカー船長の「カリスマ値」が低いことに原因があります。諦めるしかないでしょう。
 忠誠心の平均値は「忠誠度=低(11)」が6人なので、そのまま「(11)」です。

 船長の「カリスマ値」が低かったり、あるいは、必要な乗組員の人数が多過ぎる場合、 十分な人数の乗組員を集められない可能性があります。
 そうした場合は、「カリスマ値」付きのNPCを雇ってください。 詳しくは後述しますが、NPCは副長や士官、戦闘指揮官、下士官として乗組員と兵士を統率することになるでしょう。
 問題点としては、NPCの「カリスマ値」で雇われた乗組員と兵士の忠誠心が、そのNPCに向いていること、 そして、そのNPC自身が船長に向ける忠誠心が把握できないこと、の2つが挙げられます。



 立場は反対ですが、もしも『レディバグ』船長のポートマン氏が乗組員を集めるのであれば、こうなります。
 彼の「カリスマ値」は「6」ですから、これを5倍して「雇用ポイント」は30ポイント。
 雇うべき乗組員の人数は6人ですから、30ポイントを6で割って1人当たりの「雇用ポイント」は5ポイント。 「忠誠度=高」の熟練を雇えるでしょう。
 あるいは折角ですから、 「忠誠度=高」の精鋭2人、 「忠誠度=高」の熟練2人、 「忠誠度=並」の熟練2人という組み合わせにしても構いません。
 この場合、「忠誠度=高(3)」が4人と「忠誠度=並(7)」が2人ですから、 忠誠心の平均は(3×4+7×2)÷6=4.33(端数切捨て)で、「(4)」になりました。



 拿捕許可証を得た船長が、宇宙船と乗組員の双方を確保できたのであれば、 私掠活動に乗り出して下さい。





6.私掠行為の実践


 準備が整ったところで、私掠行為を実践しましょう。

 私掠船は根拠地を出発し、予定された活動場所へ到着しました。
 その道中、敵対勢力による妨害が行われる可能性は極めて高いのですが、此処では考慮しません。
 無事、活動場所へ到着したことにしておきましょう。

 活動場所へ到着した私掠船は、襲撃すべき獲物を探します。
 私掠船は建前上、海賊船とは違うので、 遭遇した商船を手当たり次第に襲える訳ではありません。拿捕許可証が許す範囲でしか獲物を選べないのです。
 拿捕許可証が許す範囲とは、 具体的には特定の星系や恒星間政府に船籍を持つ商船か、特定企業の保有商船ということです。

 この問題については、松永様が「海賊フローチャート」の中で、 ハウス・ルールを提案していました。
 しかし試算してみたところ、拿捕許可証が許す範囲内で襲撃できる商船に遭遇できる確率が、思った以上に低いようです。 遭遇する商船の90%を見逃さなければならないといった遭遇率では、私掠行為の意味がありません。
 そこで私なりのハウス・ルールを提案。

 遭遇率の増大とルールの簡略化を兼ねて、遭遇を行為判定の難易度にしてみました。
 具体的には以下のようになります。


        表16  拿捕許可証の対象になる、商船との遭遇率

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 私掠船が獲物を漁る活動場所、その星系の重要度によって、 拿捕許可証の対象となる商船との遭遇率が変わることにしました。

 その活動場所が、略奪対象(政府/企業)の首都(本社)や重要な拠点であれば、 私掠船難易度〈易:3+〉=97.2%の高確率で、 拿捕許可証の対象商船商船と遭遇できるでしょう。
 私掠船が活動する場所は、主にこうした重要拠点(植民地や航路上の中継点)になると思われます。

 活動場所が、略奪対象(政府/企業)の一般的な拠点であるならば、 拿捕許可証の対象商船商船との遭遇確率は、 難易度〈並:7+〉=58.3%まで下がります。
 まだ半分以上の遭遇率を保っていますが、この程度の拠点に私掠船を送り込むことは、あまり得策ではありません。

 活動場所が、略奪対象(政府/企業)にとって重要ではない拠点ならば、 拿捕許可証の対象商船商船との遭遇確率は、 難易度〈難:11+〉=8.3%になりました。
 私掠船を送り込むだけ無駄でしょう。論外です。

 私掠船の活動場所が略奪対象(政府/企業)にとって、 重要/一般的/重要でない、の判断は、レフリーの裁量にお任せします。シナリオの都合に合わせて設定してください。




(1)私掠船と商船との遭遇

 戦争が始まって私掠活動が行われるようになると、略奪対象とされた政府や企業は、必ず対応策を取ります。
 最も簡単な対応策は、商船を集めて輸送船団を編成することでしょうか。
 非力な商船でも数が集まればそれなりの戦闘力を持てますし、輸送船団の中核に大型商船を据えれば、 その探知力と火力を警戒して普通の私掠船は近寄れなくなります。
 強力な戦闘艦艇を護衛に就けることができれば最善ですが、それだけの余裕があるかどうかは分かりません。

 それはともかく、略奪対象の商船が輸送船団を編成して運航するようになると、 私掠船が襲撃できる商船の数は大きく減少します。
 そうした場合、このハウス・ルールでは宇宙港規模を1つ減少させることで、 襲撃できる商船の減少を表現しました。
 実際のところ、戦時の輸送量変化(旅客や船荷の需要量/輸送能力の増減)を簡単に求めることはできません。
 ですから開き直って、戦時の輸送量は平時と変わらないという想定をしておきます。
 運航する商船の90%は輸送船団を編成するため私掠船とは遭遇せず、 諸般の事情で輸送船団に組み込めない残り10%の商船が私掠船と遭遇するのです。

 対応策が取られるまでの時間も、レフリーの裁量にお任せします。
 重要拠点に有能な人材が控えていれば、私掠活動が始まって数日中には対応策が取られることでしょう。 その星系を出発する商船は、数日中に輸送船団として編成され、出発するようになります。 すでにジャンプしてしまった商船には間に合いませんが、4週間あれば、到着する商船も輸送船団になる筈。
 反対に、あまり重要ではない星系だったり、無能な人材しか居ない星系では、 私掠活動の被害があっても数週間、見過ごされるかも知れません。

 商船が輸送船団を編成するようになった後、表16の遭遇率は右側の欄を用いてください。
 輸送船団を組まずに運航する商船の数が10分の1に減少する (宇宙港規模が1つ減少する)ことに加え、 私掠船の活動場所が、略奪対象(政府/企業)の首都(本社)や重要な拠点であれば、 遭遇率は難易度〈並:7+〉=58.3%に、 活動場所が、略奪対象(政府/企業)の一般的な拠点であれば、 遭遇率は難易度〈難:11+〉=8.3%まで下がってしまいます。
 略奪対象(政府/企業)にとって重要ではない拠点では、拿捕許可証の対象商船商船と遭遇できません。 全く遭遇できない訳ではありませんが、輸送船団以外で運行する商船の数があまりにも少なくなってしまうため、 シナリオの都合やレフリーの裁量で認めない限り、遭遇できなくなるのだと解釈して下さい。



 「Pirate01:海賊との遭遇、表10〜12」に掲載した、宇宙港規模による商船との遭遇頻度を再掲載します。
 今回は、3つの表を1つの表にまとめてみました。


         表17 宇宙港規模による、商船との遭遇頻度

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 基本的には、宇宙戦闘ルールでの1ターン(20分)毎にサイコロを振り、その目に対応した欄の数だけ、商船が出発/到着します。 但し、宇宙港規模4+〜4の星系は3ターン(1時間)に1回のサイコロで、宇宙港規模3の世界は9ターン(3時間)に1回ですが。
 サイコロは星系を出発する商船と、星系に到着する商船のそれぞれについて1回ずつ振ってください。
 詳しい使い方は「Pirate01:海賊との遭遇、6節」で述べましたが、以下に同じ説明文を掲載しておきます。



 いくつかの仮定を重ねますが、ある星系では、ジャンプポイント(宇宙船がジャンプする、もしくは、ジャンプアウトする空間)が、 特定の1ヘクス(直径5万kmの宇宙空間)に限定されているとします。
 これは、有事の支援体制をやりやすくすると同時に、特定空間外にジャンプしてきた宇宙船を、 自動的に海賊船密輸船として識別できるというメリットがあります。
 この空間が、主要世界の100倍直径のすぐ外側に設定されているとしました。
 商船が、星系内のガスジャイアントで燃料補給をする可能性は、 別の投稿「軌道宇宙港の燃料供給サービス」において否定されています。 その星系の主要世界がガスジャイアントを巡る衛星でない限り、商船がガスジャイアントで燃料補給を行なうことは、不経済だと分かりましたから。

 星系に寄港する商船は、すべて、上記のジャンプポイントを経由し、1G加速で主要世界へ向かうことにします。
 ジャンプアウトしてきた商船は、ジャンプアウト後の20分(1ターン)を掛けて、 現在位置の確認、通常ドライブの再起動などを行ないます。
 次のターン(40分後)には、ジャンプポイントから1ヘクス離れた位置を、速度1で航行しているでしょう。
 さらに次のターン(3ターン=1時間後)には、3ヘクス離れた位置を速度2で、 4ターン(=1時間20分)後には、6ヘクス離れた位置を速度3で、 5ターン(=1時間40分)後には、10ヘクス離れた位置を速度4で航行していることになりました。
 つまり、ジャンプポイントから11へクス以上の距離に離れる(艦載兵器の射程外に出る)まで、1G加速の商船では2時間が必要なのです。
 上記の計算は、主要世界の規模が5以上(100倍直径の距離が16へクス以上)の場合に限りますが、大抵の世界には当てはまると思います。

 星系を離脱する場合でも、商船は同じようなコースを辿ります。
 ジャンプを行なう5ターン(=1時間40分)前、商船はジャンプポイントの手前、 10ヘクスの位置に速度5で移動してきます(1Gによる減速中だと想定)。
 次のターン、ジャンプの4ターン(=1時間20分)前には、手前6ヘクスの位置に速度4で移動。 3ターン(=1時間)前には、手前3ヘクスの位置に速度3。 2ターン(=40分)前には、手前1ヘクスに速度2で移動するでしょう。
 ジャンプの1ターン(=20分)前、商船はジャンプポイントのヘクスに、速度1で移動してきました。
 ジャンプの実行ターン。商船はそのヘクスで静止し、 ジャンプ計画を立案、ジャンプドライブを起動させ、ジャンプすることになります。
 やはり、11へクス以上の距離からジャンプポイントに到着するまで、2時間が必要なのです。



 この表を用いることで、例えば宇宙港規模7の星系について、以下のような情景を作り出すことが出来るでしょう。

ジャンプポイント(0ヘクス
 ジャンプアウトしてきた商船が1隻(A型自由貿易船
 ジャンプ直前(速度0)の民間船が1隻(1千トン級客船

ジャンプポイントから1ヘクスの位置
 主要世界へ向かう、加速中(速度1)の商船が1隻(AU型外航商船
 ジャンプポイントへ向かう、減速中(速度2)の商船が1隻(R型政府指定商船

ジャンプポイントから6ヘクスの位置
 主要世界へ向かう、加速中(速度3)の商船が1隻(1万トン級貨物船
 ジャンプポイントへ向かう、減速中の民間船が1隻(退役S型偵察艦

ジャンプポイントから10ヘクスの位置
 主要世界へ向かう、加速中(速度4)の商船が1隻(M型政府指定客船

 以上のように、ジャンプポイントから10ヘクス以内の距離には、7隻の商船が存在していることになりました。
 海賊船から見ると獲物はいくらでも選べるように思えますが、実行はちょっと待ってください。 周囲にこれだけ多くの商船が存在する中で、実際に手を出せるでしょうか。 海賊船の行動は、周囲の商船からしっかり監視されているのです。

 再掲載、終わり。



 上記のように「Pirate01:海賊との遭遇、6節」で記述した通り、 宇宙港規模6+より大きな通商量を持つ星系で海賊行為を働くことはとても危険です。 私掠船も同じように、宇宙港規模の大きな星系を避ける必要があるでしょう。
 しかし、それではあまりにも私掠船の活動場所が制限されてしまいますから、 戦時の宇宙港規模が1つ減少させることで、活躍の余地を広げてみた訳です。



 遭遇した商船のタイプは、まず下記の表でサイズを決定してから、適当なタイプを割り当ててください。
 商船も、そのサイズが戦闘力に大きく影響することが判明しましたので、サイズを先に決めることとしました。


           表18 遭遇した商船のサイズ決定表

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 1D6を振って、遭遇した商船の大まかなサイズを決定してください。
 該当するサイズのない空欄は「振り直し」です。
 サイズが決まれば、その星系の状況から自然とタイプが決まってくるでしょう。
 このあたり、遭遇表をきちんと作りたいと思っているのですが、まだ手を付けられません。
 迷った場合は、松永様の「海賊フローチャート」を利用して下さい。



 蛇足ですが、戦時編成の輸送船団についても計算してみました。
 強力な輸送船団に襲撃を仕掛ける私掠船が存在するとは思えませんが、 輸送船団の編成内容を見てみれば、 T型哨戒艦程度で輸送船団を襲撃することは、 無謀な行為であることが分かるでしょう。
 17世紀のバッカニアは輸送船団からはぐれた商船を襲っていたようですが、風と潮流に進路を左右される帆船とは異なり、 トラベラー世界の宇宙船は性能が揃っていますので、そう簡単に輸送船団からはぐれてくれません。

 その輸送船団が運航する頻度と、 その輸送船団を編成する商船のサイズと数を、以下に示します。


         表19  戦時編成の船団規模表(商船数と頻度)

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 横軸が宇宙港規模で、縦軸が運航頻度や商船サイズ、商船の合計数となっています。
 示している数字はそのまま輸送船団に含まれる商船の数ですが、0.5隻となっている場合は、 平均0.5隻であり、1D6で4+が出れば1隻、3−が出た場合は0隻という数字を示しています。



 平時の宇宙港規模が7+で、戦時の宇宙港規模が6+の星系の場合、これはリジャイナに匹敵する主要星系の通商量ですが、 輸送船団が12時間(12H)毎に1船団で、星系を出発する船団も星系に到着する船団も12時間に1船団という意味です。
 その内容は、まず5万トン〜10万トン級商船が1隻。 この商船が輸送船団の旗艦となっている筈です。
 次に1万トン級商船が6隻ですから、私掠船相手には鉄壁の防御を発揮できます。
 相対的に守られる側となりますが、それなりの戦闘力を持っている筈の5千トン級商船も6隻。 そして1千トン級商船600トン級商船400トン級商船200トン級商船100トン級商船がそれぞれ30隻ずつ。
 合計163隻の大船団となるようです。こんな大船団には、とても手出しできません。
 しかも、12時間に1回の頻度で運航していますから、 これらの船団相手に私掠活動を行うことはリスクが高過ぎるようです。



 平時の宇宙港規模が6で、戦時の宇宙港規模が5になる星系の場合。 これはジェンゲやダイナムン、インズなどXボート連絡網が併設された幹線航路上に存在する星系の通商量ですが、 輸送船団の運航頻度は週に2回、3日半(3.5day)に1船団が出発/到着します。
 その内容は、まず5万トン級商船が0.5隻。 運が良ければ(悪ければ)、5万トン級のこの商船が輸送船団の旗艦となっているでしょう。
 次に控えるのは1万トン級商船5千トン級商船が1隻ずつ。 5万トン級商船が船団に存在しない場合は、これらの商船が船団を守ることになります。
 守られる商船は、1千トン級商船2隻、600トン級商船400トン級商船200トン級商船100トン級商船が4隻ずつ。
 合計20隻の船団で、週に2回の頻度で運航していることが分かりました。 この船団も強力ですが運航頻度が少ないので、船団の通らない時間帯を狙えば 同じ航路での私掠活動も十分に可能でしょう。



 平時の宇宙港規模が5で、戦時の宇宙港規模が4の星系になると、これはダイナムやレックなどに相当する辺境星系の通商量ですが、 輸送船団の運航頻度は週に2回、3日半(3.5day)に1船団が出発/到着します。
 その内容は1千トン級商船が2隻、このどちらかが輸送船団の旗艦です。
 そして600トン級商船400トン級商船が4隻ずつ、 200トン級商船100トン級商船が2隻ずつ、合計14隻の船団になりました。
 はっきり言って弱いです(苦笑)。
 より強力な戦闘艦に襲われたら、非力な獲物が固まっているだけに一方的な虐殺が待っていることでしょう。 状況によっては、専門の護衛艦が必要になるかも知れません。
 それでもS型偵察艦A型自由貿易船T型哨戒艦 などを原型とした私掠船では手出しできせんから、それなりの安心は得られます。



 平時の宇宙港規模が4+以下の星系では、輸送船団を編成するだけの商船を集めることができませんでした。
 辺境航路は、平時であっても過酷なままなのです。




(2)襲撃の可否と実行

 さて、貴方が船長を務める私掠船の前方には、無防備な商船が航行しています。
 周囲を航行する他の商船は50万km以上の遠距離を航行しており、 私掠行為の邪魔になることはありません。
 実に美味しそうな獲物です。

 貴方が海賊船の船長であれば、迷わず襲い掛かりたいところでしょうが、ちょっと待ってください。
 目の前の商船は、拿捕許可証の対象となっているのでしょうか?
 本来、私掠船は、襲って良い相手を選ばなければなりません。
 大事なことを確認せず、拿捕許可証の対象以外を襲ってしまうのであれば、 それは私掠船ではなく海賊船になってしまうのです。

 拿捕許可証の対象、襲撃が可能な商船に遭遇する確率は、以下の通りとしました。
 表16を再掲載します。


        表16  拿捕許可証の対象になる、商船との遭遇率

Pirate10_Fig16.gif - 6.74KB

 詳しい内容は前述した通りですが、襲撃が可能な商船に遭遇する確率は、 平時や開戦直後で難易度〈易:3+〉=97.2%難易度〈難:11+〉=8.3%です。
 戦時中になると〈並:7+〉=58.3%難易度〈難:11+〉=8.3%まで下がりますが。
 これを反対の視点で見ると、平時や開戦直後でも2.8%92.7%、 戦時中になると41.7%91.7%の高確率で、 襲ってはいけない商船に遭遇するということですね。
 遭遇した商船拿捕許可証の対象となっていないのであれば、 私掠船は涙をのんで、その商船を見逃さなければなりません。

 というのは建前で、多くの私掠船は、 遭遇した商船拿捕許可証の対象か対象外かに関係なく、商船を襲っています。
 このあたりが悪質な海賊船だと思うのですが、仕方ないことでしょう。
 その活動場所で遭遇する商船の大半が拿捕許可証の対象となっていれば 問題は表面化しなかったかも知れませんが、 そもそも、商船の拿捕や略奪という明らかな犯罪行為(海賊行為)を奨励しておきながら、 同じ私掠船拿捕許可証の順守を期待することが間違っていると思います。



 もちろん、拿捕許可証の制限を順守する 採算度外視の私掠船の存在を否定するつもりはありません。
 私掠船船長が順法精神に満ち溢れているのであれば、その可能性は高いでしょう。
 しかし、そうした船長はまず、拿捕許可証の制限に従うこと、 遭遇した商船を見逃さなければならないことを、乗組員に納得させなければならないのです。
 私掠船の乗組員に1人以上のNPCが含まれているのであれば、 遭遇した商船を見逃す際に、以下の行為判定を行って下さい。

 私掠船の乗組員(NPC)を説得し、遭遇した商船を見逃すように納得させるには:
   難易度〈様々〉、船長のカリスマ値、状況による修正、
           1ターン(20分、確定)。
   サイコロの目が2であっても、致命的失敗としては扱いません。


 難易度としては、乗組員の忠誠度ランクを用いて下さい。
 忠誠度ランクの異なる乗組員が混在している場合は、その平均値を用います。
 プラスのDMとして船長の「カリスマ値」がありますが、状況による修正値はマイナスのDMばかりです。

 商船を1隻見逃そうと試みる毎に、DM−1
   (累積しますので、最初の1隻目から−1です)。
 すでに襲撃を試みて失敗した場合は、失敗した1隻ごとにDM−4(累積)。

 忠誠度ランクの高い乗組員が揃った「カリスマ値」の高い船長ならば 5〜6隻の商船を見逃しても大丈夫でしょうが、 忠誠度ランクの低い乗組員ばかりで「カリスマ値」の低い船長では 最初の1隻を見逃すことさえ危険になりました。

 行為判定に成功すれば乗組員は船長の言葉に納得し、遭遇した商船を見逃してくれるでしょう。
 失敗した場合、乗組員は船長を拘束して、勝手に商船の襲撃を始めます。 プレイヤー・キャラクターである元船長は船室に閉じ込められたり、エアロックから放り出されたりすると思われますが、 少なくとも私掠船船長を続けることはできません。

 情けない話ですが、私掠船とはこういうものです。
 活動場所に存在する商船すべてを襲うのが私掠船の行動原理ですから、 遭遇する商船すべてが拿捕許可証の対象でない限り、こうした問題が生じることも必然です。
 20世紀以降のテラで私掠船の存在が許されなくなったことも当然なのです。



 どういった状況で行為判定を行うかはレフリーの裁量に任せます。
 私掠船が200トンのA型自由貿易船で、 遭遇した商船が400トンのP型海賊船(武装商船)だった場合、 いくら強欲な乗組員ばかりであったとしても、襲い掛かることに同意する者はいないでしょう。
 A型自由貿易船P型海賊船を拿捕することは、 考えるまでもなく無謀な行為だからです。そうした場合、説得の行為判定を行う必要はありません。

 あくまでも目安ですが、商船を利用した 軽武装の私掠船が襲撃できる商船は、 同サイズの商船まで。
 重武装のP型海賊船T型哨戒艦であれば、 自身の2倍サイズの商船までを襲撃する、ということにしておきましょう。
 どんなに強欲な乗組員であっても、その程度の判断力は備えていると考えました。



 私掠船船長が、 遭遇した商船を見逃した後でも船長のままでいられる確率は、以下の通りになりました。


            表20  私掠船船長の生存率

Pirate10_Fig20.gif - 12.4KB

 表の左端に、船長の「カリスマ値」と乗組員の忠誠度ランクを並べました。
 表の一番上が、食い詰めた海賊船『ジャックポット』のドリンカー船長(「カリスマ値2」)と、 「忠誠度=低」の乗組員を揃えた状態。
 表の一番下は、辺境航路の郵便船『レディバグ』のポートマン船長(「カリスマ値6」)と、 「忠誠度=高」の乗組員を揃えた状態です。

 表の横軸は、遭遇した商船を見逃した回数を示しました。
 商船を1回見逃す毎にDM−1が累積するという条件で、船長で居続けられる確率を求めています。



 「カリスマ値2」のドリンカー船長と 「忠誠度=低」の乗組員という組み合わせは、不幸です。
 遭遇した商船を1回見逃しただけでも、ドリンカー船長が船長のままで居られる確率は16.7%しかありません。 見逃しが2回目になると1.4%で、3回目以降も船長で居ることは絶対に有り得ませんでした。

 仮に乗組員の忠誠度ランクが「忠誠度=並」まで上がれば、 1回の見逃しだけは船長のままで居られるかも知れません(生存率は72.2%)。
 それでも2回の見逃しを行える船長は半分以下(42.1%)ですから、 2回、3回と遭遇した商船を見逃す船長は居ない筈です。

 その一方で「カリスマ値6」のポートマン船長と 「忠誠度=高」の乗組員という組み合わせは、最強になりました。
 遭遇した商船を5回見逃しても、ポートマン船長は確実に船長のままで居られます。 行為判定に失敗する可能性は、6回目の見逃しまで有り得ませんので。



 私掠船に対するロマンチックなイメージを抱いていた方には心苦しいのですが、 これが私掠活動の現実です。 そうでなければ古代テラでも20世紀の初頭から、私掠活動が禁止されることもなかったでしょう。
 ささやかなフォローですが、「カリスマ値」の高い船長が 「忠誠度=高」の乗組員を揃えていれば、簡単には反乱を起こさない(起こされない)ルールにしておきました。
 そうした組み合わせならば、ロマンチックな私掠活動も継続できることでしょう。




(3)私掠船の交戦規定

 私掠活動を行っていく上で、船長が気を付けることは唯一つ、 決して捕まらないこと、でしょう。
 少なくとも捕まらずに逃げ回っていれば、最低限の通商破壊活動は行えます。 船主や乗組員の利益は出ませんが。



 松永様の「海賊フローチャート」には、私掠活動の心得として 私掠船の交戦規定が掲載されていました。以下に転載します。
 私の世界観と合わない点も多々ありますが、それについては後述しました。

・私掠船の交戦規定
 1)私掠許可状の対象となる船籍の船以外は襲撃/攻撃してはならない。
 2)非戦闘員を殺傷してはならない。
 3)商船/民間船に対する襲撃行動の際は、
  私掠船としての資格を明示しなければならない。
  この後、敵船舶が逃走を図れば、
  ドライブ部分のみを狙った射撃のみ許可される。
  この際に生じる死傷者は、2)の例外とする。
 4)私掠免許状の定める対象以外に属する戦闘員を殺傷してはならない。
 5)私掠免許状が定める対象に属する軍艦以外への、先制攻撃は認められない。
 6)武装した商船/民間船に対して先制攻撃を行ってはならない。
  敵から射撃を受けて、かつ戦闘員と見なすとの警告を行った後でなければ、
  反撃を行ってはならない。
  この後の戦闘によって生じる死傷者は、2)の例外とする。
 7)捕虜の取り扱いはジュネーブ協定を順守する。


 私掠船の交戦規定について、分かり易く纏められたことは立派だと思います。 しかし幾つかの点で私の世界観と相違すること、補足したいことが見つかりました。 その相違(補則)について記しておきます。

 まずは1)私掠許可状の対象となる船籍の船以外は襲撃/攻撃してはならない。の規定ですが、 これが有名無実な建前であることは前述した通りです。
 建前でもこうした規定が存在することで、7)項の適用に問題が生じる訳ですが。

 次の2)非戦闘員を殺傷してはならない。という規定の中に書かれた非戦闘員ですが、 トラベラー世界において、これは利害関係のない第三者を指すようです。
 その商船の乗組員と旅客は基本的に当事者ですから非戦闘員として認められません。 この実例については「CT版:トラベラー・アドベンチャー」を御覧ください。
 ですから私掠船が商船への発砲を躊躇ったり、乗り込み戦等で人員を負傷させないように注意する理由として、 この規定は相応しくないでしょう。

 3)商船/民間船に対する襲撃行動の際は、私掠船としての資格を明示しなければならない。という規定は、 その実行を考えると微妙なところです。海上の海賊船と宇宙空間の海賊船は、 周囲の環境があまりにも違いすぎますので。
 具体的には、私掠船商船に降伏勧告を行う際には、 正規のトランスポンダ信号(拿捕許可証を発行された船籍信号)を発信しなければならない、という感じでしょうか。
 古代テラで活躍した通商破壊艦は、中立国の旗を掲げて獲物の商船に接近しておきながら、 降伏勧告を行う直前に正規の国旗に差し替えたと聞いております。同じことを57世紀の宇宙空間で行うのであれば、上記のような行動になるかと。

 ちなみに、この後、敵船舶が逃走を図れば、ドライブ部分のみを狙った射撃のみ許可される。という規定の実行は、 トラベラー世界(メガトラの宇宙戦闘ルール)では視認距離以外、不可能です。
 恐らく現場では常に無視される規定となっていることでしょう。

 5)私掠免許状が定める対象に属する軍艦以外への、先制攻撃は認められない。
 6)武装した商船/民間船に対して先制攻撃を行ってはならない。
  敵から射撃を受けて、かつ戦闘員と見なすとの警告を行った後でなければ、
  反撃を行ってはならない。

 この規定も、私掠船の抱えたリスクを理解しているのであれば、順守することは不可能です。 先制攻撃を許されないのであれば、その私掠船の生還率は極めて低いものとなってしまうでしょう。
 どうしても私掠船船長が先制攻撃を我慢したいというのであれば、 遭遇した商船を見逃す際の行為判定をDM−4で行って下さい。
 判定に成功すれば私掠船は先制攻撃を我慢できますが、 失敗すれば火器担当の乗組員が船長の意向を無視して先制攻撃を行ってしまいます。

 7)捕虜の取り扱いはジュネーブ協定を順守する。という規定も、現実を考えると怪しいところでしょう。
 私掠船の最優先目的は拿捕した商船の回航ですから、 捕虜になった乗組員や旅客はそのまま自動的に、私掠船の根拠地まで拉致されます。
 そうでない場合は、宇宙服や救難ボールだけの装備で宇宙空間に放り出されるか、壊れた宇宙船の中へ取り残されることが確定です。 宇宙船の限られた居住スペースで、重要度の低い捕虜を連れ帰る余裕はありませんから。
 あるいは証拠隠滅のため壊れた宇宙船ごと砲撃で吹き飛ばされる可能性もありますが、この問題も後で考察してみます。

 反対に私掠船が捕えられた場合、古代テラの歴史から判断して その乗組員は海賊として処刑されることが一般的です。
 戦況によっては捕虜交換を期待することもできるでしょうが、そのためには、 私掠活動を行っている側があらかじめ大量の捕虜を得ていなければなりません。
 歴史上の例を挙げれば、南北戦争の際、南軍の私掠船乗組員が生き永らえた理由は、南軍が地上戦で捕虜を得ていたおかげでした。 南軍が捕えていた北軍の捕虜を、北軍が捕えた南軍の私掠船員を交換することで、私掠船員の安全を確保できたに過ぎません。
 私掠船を集めなければ戦えないほどの不利な陣営が、それだけの捕虜を得ることは難しいでしょう。




(4)拿捕商船の回航と売却

 私掠船は、拿捕した商船を根拠地まで回航して売却します。
 商船を回航する際は、「Pirate07:海賊(バッカニア)の日常」で考察した通り、 必要な人員を移乗させるか、あるいは、元の乗組員に運行を任せる場合は監視用の人員を送り込まねばなりません。

 回航要員の必要人数は、その商船に必要な乗組員の内、 艦橋、機関、維持/補修、指揮部門の人数を合わせたものとしました。
 以下の表で、回航要員の必要な人数を示します。
 もちろん、回航要員の中には最低でも1人〈パイロット〉や〈エンジニアリング〉技能の持ち主が含まれていなければなりません。
 恒星間航行(ジャンプ)を行うのであれば〈航法〉技能の持ち主も不可欠です。

 しかし実際のプレイにおいて、回航要員のNPCを1人1人作ることは面倒ですから簡略化して、 艦橋部門の回航要員を何人、機関部門を何人、 維持/補修部門を何人、指揮部門を何人、と決めて下さい。
 回航要員の無難な内訳配分は、艦橋部門機関部門の回航要員を半分ずつと、 1人か2人の指揮部門になるのではないでしょうか。
 以下の表で取り上げた商船維持/補修部門の乗組員は不要ですから、 回航要員の中に維持/補修部門を含める必要も有りません。
 指揮部門の回航要員も不要に見えますが、 P型海賊船XT型連絡補給艦T型哨戒艦の回航には不可欠ですので、1人か2人は連れていくべきだと思います。


           表21 商船の回航に必要な乗組員の人数

PIRATE10_FIG21.GIF - 9.49KB

 改めて、宇宙船の運航に必要不可欠な技能を調べてみると、本当に1人〜3人の乗組員で運航できるものなのか、疑問を感じます。
 特にS型偵察艦
 1人だけの乗組員で宇宙船を動かすためには、よほど熟練した乗組員でなければ無理なのではないでしょうか。

 回航要員を出せない場合(必要な乗組員が足りない場合)は、捕えた商船の乗組員に回航を任せなければなりません。
 元の乗組員たちが全面的に協力してくれるとしても、こっそりと救難信号を発信するなどの行為を防ぐため、 最低でも1人以上、できれば3人程度、監視用の人員を送り込む必要が生じます。

 捕虜の反抗や破壊工作の可能性については、面倒なので今回も棚上げしておきました。 これも後日の考察ネタです。
 また、私掠船に多数の回航要員を乗り込ませることは困難ですので、とりあえず 1隻の私掠船が回航できる商船の数は1隻だけである、と想定します。
 考察を進めている内に1隻だけでは赤字になる可能性が見つかってしまいましたが、 以下の表25〜27は1隻だけを回航している計算です。



 拿捕した商船を伴って根拠地まで帰還する場合、 つまり拿捕した商船を根拠地まで回航する際には、その移動経路も重要になってきました。
 商船のジャンプ能力が私掠船のそれと同じか、優っている場合はまず問題になりません。 遠征してきた時(往路)と同じ移動時間で根拠地まで帰還できる筈です。

 しかし、商船のジャンプ能力が私掠船よりも低い場合は困りますね。 船団を組んで帰還する都合上、私掠船のジャンプ能力が、商船の低いジャンプ能力で縛られ、 復路の移動時間が大きくなってしまいますから。
 例えば、リジャイナ星域のルー(1809)を根拠地とした私掠船T型哨戒艦が、3パーセク離れたヨーリ(2110)を活動場所に選んだとしましょう。
 T型哨戒艦のジャンプ能力は3ですから、往路はジャンプ1回(1週間)で移動することができます。 同じジャンプ3のM型政府指定客船を拿捕したのであれば、復路も同じジャンプ1回(1週間)で帰還できるのです。 往復に必要な時間は2週間でした。
 しかしジャンプ1の能力しかないA型自由貿易船を拿捕した場合、 復路はジンニーやワイポック、ダイナムン等を経由しなければならないため、ジャンプ6回(6週間)が必要になるでしょう。 往復に必要な時間は最低でも7週間ということになります。

 こういった問題を解決する手段の一つとして、私掠船、ここではT型哨戒艦の船倉に 折り畳み式の燃料タンクを装備しておき、拿捕した商船に燃料補給するという方法を思いつきました。
 燃料補給を行うことで、拿捕した商船は連続したジャンプ1を2回、3回と繰り返せるようになります。 上記の例ならば、ヨーリ(2110)から深宇宙(2009)を経由してリジャイナ(1910)へ移動する訳です。 ルーへ帰還する時間はジャンプ3回(3週間)まで短縮できることでしょう。
 根拠地へ帰還するまでの時間は後々、とても重要になってきます。きちんと計算しておいて下さい。



 拿捕許可証を発行された私掠船は、 その根拠地において、合法的に拿捕商船を売り捌くことができます。
 以下は「Pirate09:主要産業としての海賊」からの抜粋(再掲載)。



 キャラクターが中古船市場で宇宙船を購入する場合、 中古船の販売価格は、船齢10年で定価の80%、20年で60%、30年で40%、40年で20%という計算にしています。
 船齢50年以上の老朽船は、一律で定価の10%。
 そして、キャラクターが中古船市場に宇宙船を売却する場合の買取価格は、 上記販売価格の半分にしました。

 まとめると、以下のようになります。


             表22 中古船の売買価格(合法)

Pirate10_Fig22.gif - 6.99KB

 左端から、売買される宇宙船の船齢、買取価格販売価格、 仲介する中古業者の手数料、中古船市場における遭遇確率です。
 遭遇確率は、辺境航路における商船の船齢決定表として使って頂いても構いません。
 購入したばかりの新造商船で危険な辺境航路に赴く商人は少ないでしょうし、 購入資金を貸している銀行も商船が辺境航路に向かうことを嫌がる筈ですから(船齢が10年を超えると行動制限が緩くなるのです)。

 中古船の平均船齢は20年。買取価格の平均は30%でした。
 拿捕した商船を合法的に売却できる場合、海賊船は商船タイプと船齢に合わせて、以下のような収入を得るでしょう。


             表23 中古船の売買価格(合法)

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 表の右端が商船タイプ。どう見ても「商船」では有り得ないT型哨戒艦C型巡航艦も並んでいますが、気にしないでください。
 次の数字は、宇宙船のサイズ(トン数)と建造費。
 その次に並んでいる数字は、船齢に応じた買取価格です。
 海賊船が拿捕した商船の平均船齢が20年であると考え、その部分を黄色で示しました。

 以上、抜粋(再掲載)終わり。



 上記、表23で示した金額が、拿捕商船を売り払った際の私掠船収益となる訳ですが、 実際は維持費や修理費などの必要経費を差し引いた上で、船主への利益配分、乗組員へのボーナスが決まってきます。
 そこで、恐らく私掠船では最も重要な要素になる、 船主への利益配分乗組員へのボーナスについて考察しました。
 必要経費については、表3〜表7で考察しましたから省略。
 修理費も、その損傷の程度や修理方法によって異なるので棚上げです。

 そもそも、私掠活動の動機は愛国心や正義感ではありません。
 私掠活動はあくまでも、利益を見込んだ(期待した)投資であり、経済活動です。
 帰還した私掠船の船主に利益(見返り)を提供しなかったら、 あるいは、その利益が満足できるものでなければ、以後、誰も私掠活動に投資をしなくなるでしょう。
 乗組員へのボーナスも同様で、わざわざ危険を冒して私掠船に乗り込んだ乗組員達が、 ボーナスに不満を抱いたら大変です。



 問題はどの程度の利益(見返り)が妥当かということですが、これはリスクとの兼ね合いですから簡単には決まりません。
 試しに解を簡単にするため、出撃する私掠船は、その9割が十分な獲物(拿捕した商船)を持ち帰り、 残り1割は敵軍に撃破されて(あるいは拿捕されて)帰還しない、という想定にしておきます。
 こうした場合、9割の私掠船が持ち帰った利益は最低でも、 1割の私掠船喪失をカバーできる金額でなければなりません。 そうでなければ、利益よりも投資の方が大きい訳ですから、その経済活動は縮小してしまうのです。 投資した金額よりも利益の方が大きいのであれば、その経済活動は更なる投資を呼び寄せて拡大します。

 上記の例で出撃する私掠船が10隻であると仮定するのであれば、 9隻の私掠船が持ち帰る利益の合計は、 新たな私掠船1隻を建造できる金額と同等だ、ということになります。 1隻当たりの利益は1÷9=0.111で、11.1%になるでしょう。
 仮に、私掠船の損耗率が50分の1(=2.0%)であれば、持ち帰る利益は建造費の2.5%程度で構いませんし、 損耗率が50分の49(=98.0%)であれば、帰還した私掠船は建造費50隻分以上の利益を持ち帰るべきなのです。

 計算を簡略化するため、また、サイコロ判定の都合と併せ、 私掠船の損耗率は12分の1(=8.3%)である、と想定しました。
 そして、私掠船が持ち帰らなければならない利益の最低額は、建造費の11分の1(=9.1%)ですが、 これも簡略化のため、建造費の10分の1(=10.0%)である、とします。

 この場合、私掠船の利益配分、船主の分け前は、 私掠船タイプに合わせて、以下のようになりました。


           表24 私掠船の利益配分、船主の分け前

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 表の左端が私掠船の宇宙船タイプ、その右に並んでいる数字がサイズ(排水素トン)と建造費(MCr)で、 更にその右側が船主の分け前(MCr)です。
 船主の分け前(MCr)の欄は2つありますが、左側が通常の私掠船で、 右側が補給船として働く私掠船です。

 通常の私掠船は、損耗率が12分の1の想定。

 補給船として働く私掠船は、 5.私掠船の始め方、(2)宇宙船の確保.表10で 募集DMに+4を加えられるタイプの私掠船を意味しています。
 この応募に応じた私掠船は戦闘に参加しません(させられません)。 戦闘要員の代わりに拿捕商船回航用の乗組員を乗せ、補給船として、任務を果たすのです。 安全を確保できるため、損耗率は36分の1(=2.8%)。
 その代り、収入は通常の3分の1に減ります。 回航した商船を売却した金額の3分の1しか受け取れません。



 乗組員のボーナスは、もっと単純に考えました。
 松永様の「宇宙船設計シート:starshipmaker.xls」において、 乗組員の給料は1人1ヶ月当たり平均3,000crであると定義されています。
 この金額は妥当だと思われますので、私も同じ金額を利用させて頂いていますが、 私掠船の乗組員のボーナスは1人当たり平均30,000crであるとしました。
 あくまで乗組員1人当たりの平均ですから、60,000crを受け取る上級船員や、10,000crしか受け取れない下っ端船員が居るかも知れませんが。

 私掠船に乗り込む人数は様々ですが、私の独断で決めた乗組員人数を用いて、 私掠船タイプ毎に異なるボーナス総額を求めてみました。


          表25 私掠船の利益配分、乗組員のボーナス

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 表の左端が私掠船の宇宙船タイプ、その右に並んでいる数字がサイズ(排水素トン)と乗組員人数で、 更にその右側が乗組員のボーナス(MCr)です。
 乗組員へのボーナス欄も2つありますが、今回も左側が通常の私掠船で、 右側が補給船として働く私掠船です。

 通常の私掠船は、損耗率が12分の1の想定。
 補給船として働く私掠船は、損耗率が36分の1(=2.8%)で、 ボーナスも3分の1しか受け取れません。

 船主の分け前と比べると乗組員のボーナスは、僅かな金額でしかありません。




 通常の私掠船について、その収支を考えてみました。
 まずはP型海賊船から。

 P型海賊船商船の拿捕を目的として活動する場合の収支については すでに表4で考察済みですが、表24で求めた船主の分け前を追加してみましょう。
 要するに、表4で示した金額から船主の分け前乗組員のボーナスを引いてみた訳です。


           表26 私掠船の収益(P型海賊船の場合)

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 P型海賊船が、拿捕した商船を売却した際の収益計算です。

 表の左端は、拿捕して回航した宇宙船のタイプ
 その次の金額は、その宇宙船が船齢20年の中古船だと想定して、根拠地で商船を売却した場合の収入です。単位はMCr。

 表の右側がP型海賊船の収益。
 商船を売却した場合の収入から、 維持費等の必要経費と船主の分け前乗組員のボーナスを引きました。
 2つある数字は、左側が遠征1回(売却1隻)当たりの収益で、右側が年間収益です。



 計算の結果は表4と同じです。 遠征期間が短く、拿捕する商船の数が多い程、私掠船の収益が大きくなりました。
 船主の分け前は、私掠船が抱えるリスク(損耗率12分の1)に対する見返りですから、 出撃を1回行う毎に必ず船主へ支払われます。
 その支払いをきちんと考慮するのであれば、私掠船の多くが近場(ジャンプ1回から、多くてもジャンプ3回)での 私掠活動を好むというハウス・ルール(表10〜11)にも、納得して頂けると思います。

 また、P型海賊船私掠船が、 S型偵察艦A型自由貿易船1隻しか拿捕しない場合は、 自動的に赤字となることも判明しました。
 船主の分け前は、私掠船が抱えるリスクに対する、当然の報酬です。 前述した通り、最低限の見返りが無ければ私掠活動を続けられませんから、 赤字という結果は困ります。乗組員のボーナスも同様。
 こうした事態の解決策は、 安価なS型偵察艦A型自由貿易船2隻以上拿捕するか、 高価なR型政府指定商船M型客船を拿捕するまで活動を続ける、 ということになるでしょう。

 宇宙船の売却益を見れば、複数の商船を拿捕した際の収益も簡単に求められます。
 例えばS型偵察艦売却益9.2MCrですから、 R型政府指定商船26.3MCrと比べて、約3分の1です。 ですからS型偵察艦を3隻拿捕すれば、 R型商船1隻とほぼ同額の売却益を得られる筈です。
 A型自由貿易船AU型外航自由貿易船売却益12.3MCr12.8MCrで、R型政府指定商船の約半分。 これらの自由貿易船を2隻拿捕すれば、 R型商船1隻とほぼ同額になると分かりました。

 どちらにしても、同じ場所(星系内)での活動時間が増えますから、私掠船のリスクを高めてしまうのですが、 私掠船の黒字活動のためには止むを得ません。
 そうした場合、1隻だけの私掠船では、拿捕した商船の回航要員が不足します。 補給船として働く私掠船を1隻以上伴う必要も生じました。
 補給船1隻が拿捕した商船を何隻まで回航できるのかは、 その補給船に乗り込む回航要員の人数と、 拿捕した商船の回航に必要な人数(表21)によりますので、簡単には求められませんが。



 その次は、私掠活動を行うT型哨戒艦の場合です。


           表27 私掠船の収益(T型哨戒艦の場合)

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 T型哨戒艦が、拿捕した商船を売却した際の収益計算です。

 P型海賊船と比べて明らかに収益が少ないのですが、 これはT型哨戒艦の維持費が高いことに加え、船主の分け前が大きいためでしょう。 T型哨戒艦は建造費も高いのです。
 T型哨戒艦も複数の商船を拿捕するため、 1隻以上の補給船を伴うべきだと思われます。



 今度は、私掠活動を行うAU型外航自由貿易船です。


        表28 私掠船の収益(AU型外航自由貿易船の場合)

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 AU型外航自由貿易船が、拿捕した商船を売却した際の収益計算です。

 低速で軽武装のAU型外航自由貿易船が、簡単に商船を拿捕できるとは思えませんが、 商船を1隻でも拿捕できたのであれば、船主の分け前を考慮しても、 これだけの利益を得ることができる訳です。



 という訳で、すでに述べた通り、 P型海賊船T型哨戒艦が、 商船を1隻拿捕するだけでは経済的に満足できないことは明らかです。 戦闘力の高い私掠船は複数の商船を拿捕しなければなりませんが、 必要な回航要員を乗せるスペース(専用室)は有りません。
 その一方、低速で軽武装のAU型外航自由貿易船が簡単に商船を拿捕できるとも思えません。 戦闘力の高い別の私掠船商船を拿捕してもらう必要があるでしょう。

 ここで、両者の利害が一致しました。
 戦闘力の高い私掠船は、積極的な襲撃(戦闘)を行い、 複数の商船を拿捕します。
 戦闘力の低い私掠船は、襲撃に参加せず、 拿捕された商船の回航だけを受け持ちます。

 こうした回航専門の私掠船を、補給船と呼ぶことにしました。
 自力で回航できない商船を拿捕した私掠船は、 同伴した補給船に、その回航を委ねます。
 その報酬は、回航した商船を売却した金額の3分の1。
 回航するだけで、利益を3分の1も渡してしまうのは勿体無いと感じるかも知れませんが、 回航専門の補給船であっても、危険な敵地へ潜入するというリスクを冒しているのです。
 それに何より、補給船の随伴が無ければ、拿捕した商船を回航できません。 そのあたりの事情を考えれば、妥当な金額だと思います。



 P型海賊船T型哨戒艦など、 戦闘力の高い私掠船が、拿捕した商船を1隻だけ回航している (回航要員を1隻分だけしか乗せられない)としましょう。
 2隻目以降の商船については、 随伴した補給船と、それらに乗り込んできた回航要員へ任せるしかありません。
 そうした場合、3分の1の分け前を支払った場合に、私掠船が得る利益は以下のようになります。

 以下の金額は、回航した商船を売却した金額の3分の2、です。
 私掠船の運航に必要な経費と船主の分け前は、 1隻目(表25〜27)で計算済みですから、2隻目以降の売却金額は丸ごと利益になるのです。
 補給船に支払う3分の1を考えても、結構な金額でした。


     表29 私掠船の収益(回航を任せたP型海賊船やT型哨戒艦の場合)

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 必要経費や船主の分け前が影響しなくなるので、どんな距離であれ、遠征1回当たりの収益は同じになります。
 但し、遠征の時間が短ければ短期間に何度も遠征に出掛けることができますから、遠征時間が短い程、年間収益は大きくなりました。
 1回の遠征で複数の商船を拿捕してしまえば、それだけ私掠船の経営は安定するのです。



 これに対応する補給船側の収益は以下のようになりました。


     表30 私掠船の収益
        (回航を任されたA型自由貿易船やAU型外航自由貿易船の場合)

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 補給船は、自身が回航した商船の売却金額だけしか分け前を受け取れません。
 必要経費や船主の分け前が関わってくるので、 小さな商船1隻だけの回航では、採算が合わないようです。

 A型自由貿易船AU型外航自由貿易船には、空の客室(専用室)が6つも付いています。 2人部屋として用いるのであれば、回航要員を12人も乗せられますね。
 表21を見直してみたところ、回航要員12人で回航できる商船の数は、 S型偵察艦ならば12隻、 A型自由貿易船AU型外航自由貿易船で6隻、 R型政府指定商船ならば4隻、になるようです。
 実際問題として回航要員が持たなければならない技能、艦橋要員ならば〈パイロット〉や〈航法〉、機関要員は〈エンジニアリング〉、 といった制限が存在しますから単純に人数だけで考えることはできませんが、4隻程度の回航には問題がないでしょう。
 まとめて4隻の商船を回航できるのであれば、 その商船S型偵察艦であっても、 回航費用として3分の1の分け前しか貰えなくても、補給船は十分に黒字となれます。
 トラベラーのルール(世界観)から推測して、こうしたタイプの私掠船も十分に有り得ると分かりました。




(5)私掠活動の評価

 私掠行為の評価は、持ち帰った利益の大きさで行われます。
 敵に与えた損害の大きさで評価される訳ではありません。
 このあたりが私掠船の限界だろうかと悩む訳ですが。

 船長は持ち帰った利益から必要経費(維持費やローン支払い、乗組員の給料など)を引いて下さい。 残った利益を、船主と(船長を含めた)乗組員で山分けします。
 具体的には、残った利益を船主の分け前乗組員のボーナスの合計額で割り、 倍数を求めます。次に、船主の分け前乗組員のボーナスに 求めた倍数を掛けて、それぞれの最終的な金額を決めて下さい。
 基本的には、船主が利益の大半を持っていくことになると思います。 プレイヤー・キャラクターが私掠行為で大きな利益を得たいのであれば、彼は船長ではなく、船主になるべきなのです。
 上記以外の分け方で、船長や一部の乗組員だけが利益を独占することは許されません。 船主と乗組員のすべてがプレイヤー・キャラクターでない限り、レフリーはそれを認めるべきではないでしょう。
 それでも強行するのであれば、利益を独占した船長や一部の乗組員は近日中に殺される危険があります。 利益にあぶれた船主や乗組員の金銭への執着心を侮ってはいけません。



 それはともかく、私掠行為の評価は、この倍数を用います。
 船主の分け前乗組員のボーナスが、通常の何倍貰えるか、 ということを表現しているのが、この倍数ですから。

 私掠船が持ち帰った利益(の大きさを示す倍数)に応じて、 私掠船の船長と乗組員の「カリスマ値」が増減します。
 以下の表を参照して下さい。


              表31 私掠行為の評価基準

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 表の左端に私掠船の経営状態を、中央に倍数を、右端にカリスマ値の増減を示しました。

 私掠船を喪失した場合、船長も乗組員も根拠地まで無事に帰還できるとは思えませんが、 もしも戻ってきた場合、船長のカリスマ値は「−8」、他の乗組員も「−4」の減少です。
 マイナス分の修正を打ち消すまで(減少したカリスマ値を取り戻すまで)船長になることはできません。

 もしも船主の分け前乗組員のボーナス1.0倍未満だった場合は、私掠船の経営が赤字になったと評価されます。
 余程の事情が無い限り、船長はボーナスなしで即座に解雇されるでしょう。 最低限の給料は支払われますから路頭に迷うことはないと思いますが、「カリスマ値」を「−4」して下さい。 やはりマイナス分の修正を打ち消すまで、私掠船の船長になることはできません。
 他の乗組員のカリスマ値減少はやや少なめで「−2」です。

 船主の分け前乗組員のボーナス1.0倍以上になって初めて、 私掠船の経営が黒字であると評価されます。 今後も私掠船の船長を続けることができるでしょう。
 しかし倍数1.0倍以上になっただけで、 「カリスマ値」を増やすことはできません。
 船長が「カリスマ値」を「+1」するためには、 倍数2.0倍以上必要です。
 倍数4.0倍以上になれば「+2」、 8.0倍以上ならば「+3」、16.0倍以上で「+4」の増加となります。
 乗組員の「カリスマ値」増加は船長の半分ですから、 倍数4.0倍以上で「+1」、 16.0倍以上で「+2」しかありません。



 例えば、A型自由貿易船『ジャックポット』を駆る海賊船長ドリンカー氏が、 船齢20年のR型政府指定商船1隻を拿捕して、根拠地まで回航してきました。
 遠征期間は往復で8週間(ジャンプ3回の距離)だったことにしましょう。
 表23より、この商船26.3MCrで売却できます。
 表3より、A型自由貿易船の維持費(+ローン)は2週間当たり98KCrで、遠征期間が8週間ですから392KCr。 計算が面倒なので、≒400KCr=0.4MCrに丸めておきます。
 次に、船主の分け前は表24より4.1MCr。乗組員のボーナスは、 乗組員の人数が決まっていなければ表25を用いるのですが、すでに11人と決まっているので1人当たり3万クレジットより0.33MCrとなりました。

私掠活動の収入
 R型政府指定商船(船齢20年) 1隻   26.3MCr

支出
 維持費                  0.4MCr

収入−支出                25.9MCr


 A型自由貿易船『ジャックポット』私掠行為による利益は、 何と25.9MCrの高額になりました。
 この利益を船主と乗組員で山分けしますから、 船主の分け前乗組員のボーナスの合計額を求めなければなりません。

 船主の分け前               4.1MCr
 乗組員のボーナス             0.33MCr
  合計                  4.43MCr

 利益 25.9MCr ÷ 合計額 4.43MCr = 5.85


 それぞれを5.85倍するので、

 船主の分け前     4.1MCr × 5.85 = 23.97MCr
 乗組員のボーナス   0.33MCr × 5.85 = 1.93MCr
  合計                 25.90MCr


 という形で、残った利益の山分けをすることになりました。

 ドリンカー船長は、私掠船の船主として23.97MCrを受け取ります。 何よりも先にA型自由貿易船『ジャックポット』のローンについて、繰り上げ返済を行うことになるでしょう。
 私掠行為は、成功すればとても儲かるのです。

 乗組員のボーナスは、1人当たりの平均が 0.03MCr × 5.85 = 0.1755MCr です。17万と5,500crですね。
 計算が面倒になったドリンカー船長は、全員一律に17万5,500crを支払うことにしました。 同額を貰えることになった下っ端船員は大喜びですが、能力に自信のある上級船員や戦闘指揮官は複雑な表情をしています。 ちなみにドリンカー船長も船長分として同額を受け取っています。

 ドリンカー船長の「カリスマ値」は「+2」、 他の乗組員の「カリスマ値」も「+1」になりました。

 「カリスマ値」の増減に興味がなくても、利益の分配は私掠行為の評価に影響します。 ルール通りに山分けして下さい。
 そうしない場合は前述の通り、金銭を巡ってのトラブルが生じる恐れがあります。



 もしもR型政府指定商船の船齢が40年だった場合、売値は8.8MCrしかありません。
 船主の分け前乗組員のボーナスに掛かる倍数1.90ですから、「カリスマ値」の増減は生じませんでした。

 拿捕してきた商船が、船齢40年のS型偵察艦だった場合は、 売値が3.1MCrにしかなりません。
 倍数0.61ですから赤字扱いになり、 帰還したドリンカー船長は「カリスマ値」に「−4」の修正を受け、船長を解任されてしまいます。
 そういった事態を恐れる私掠船の船長は、収支が黒字になるまで帰還しなかったり、 拿捕許可証の制限を無視して獲物を捕らえることになるでしょう。





7.NPCの作り方


 冒険の過程で、プレイヤー・キャラクターがNPC船長の下に就いたり、逆にNPCの部下を持つこともあるでしょう。
 その際には、以下のルールでNPCを作成してください。




(1)私掠船船長の作り方

 まずは船長から。

 船長には、十分な技能を備え、それなりの経験豊富な人物が選ばれます。
 しかし私掠船を動員するような状況(戦況)において、経験豊富で優秀な船長を手配することは困難です。 人材不足は深刻ですから、私掠船の船長に応募してくるNPCのすべてが、船長の経験者であるとは限りません。 一等航宙士や二等航宙士といった高級船員であっても、必要最低限の技能を備えているのであれば、船長の職務に就けざるを得ないでしょう。

 私掠船の根拠地で船長の募集を行う際は、次の表を用いて下さい。
 表に書かれているだけの人数が、私掠船の船長に応募してきた人数ですが、 前述したように船長経験者ばかりとは限りません。その多くは一等航宙士や二等航宙士などの高級船員です。
 既出の表8とほぼ同様ですが、私掠船の数ではなく、船長の人数に変えました。


           表32 雇用可能な船長(NPC)の人数

Pirate10_Fig32.gif - 4.69KB

 根拠地として選んだ世界の宇宙港クラスから、雇用可能なNPC船長の人数を決定します。
 MAG様の考察「スピンワードマーチ宙域の商用船舶」から、 宇宙港規模を計算して用いることもできます。 個人的には宇宙港規模の利用を推奨。

 この応募してきたNPCの人数は、あくまで目安です。
 私掠活動によって得られる収益の前評判、リスクとのバランス、 帰還してきた私掠船からの情報によって、実際の人数は大きく変化することでしょう。
 レフリーはそれらの状況を加味して、応募してきた人数を調節して下さい。



 次に、応募してきたNPCの具体的な作成手順に入ります。
 この部分のルールは、MT版:レフリーズ・マニュアル、p.43、表11a〜11c、を参考にしました。


           表33 NPCの作成(その1:UPP)

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 それぞれの欄でサイコロ(2D6)を振って、NPCのUPPを決定して下さい。
 最初のサイコロでUPPの前半部である肉体的特徴(筋力、敏捷力、耐久力)を決め、 次のサイコロで後半部の精神的特徴(知力、教育度)、 最後のサイコロで社会身分度を決めることになります。

 完全なハウス・ルールですが、社会身分度を決めるサイコロは、2回振って下さい。
 2回振った中で低い方の数値を、そのNPCの社会身分度とします。
 これは、海賊行為……、もとい、私掠活動に参加するNPCは、 社会の中でも貧困層の出身者が多い、ということを表現するためのルールです。
 貧困層の出身でなければ、私掠活動に参加しなくても裕福になることは可能ですし、 富裕層の出身者は自ら私掠活動に参加するのではなく、出資することを選ぶでしょう。



 NPCの年齢や保有する技能レベルについて、 レフリーズ・マニュアル、p.43、表11d〜11eは、参考になりませんでした。 特に表11dについては、最も頻出するNPCの年齢が38歳で、その人口分布がアンバランスであることなどが理由として挙げられますが……。
 NPCの保有する技能レベルについての表11eは、船長に関する限り、 年齢÷10+1D6(端数切り上げ)の1D6を最大値の6で固定すれば、流用できるかも知れません。 この場合、勤務期数3期(30歳)の熟練(Veteran)は、技能レベルの合計が9になり、 勤務期数5期(38歳)の精鋭(Elite)は10ということになりますので。

 それはともかく、私のハウス・ルールにおいて、 NPC船長の年齢や保有する技能レベル(乗組員のランク)は、 以下のようにしてランダムに(サイコロで)決定します。


       表34 NPCの作成(その2:船長の年齢と技能レベル)

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 1D6を振り、表の左端を使って年齢とランクを決定して下さい。
 船長に限って言えば、勤務期数1期(22歳)新人(Recruit)は有り得ません。 流石に、そこまでの若者(未経験者)を船長という役職に就けることは不自然ですから。 船長に応募してきたNPCはそれなりに経験豊富で優秀な乗組員ばかりなのです(S型偵察艦のような例外は有り)。

 人材不足の状況で、少しでも有望な乗組員を船長に引き上げるという設定です。
 それでも船長候補の半数(50.0%)は勤務期数2期(26歳)標準、 3分の1(33.3%)が勤務期数3期(30歳)熟練、 残り6分の1(16.7%)しか勤務期数4〜5期(34〜38歳)精鋭が居ない、 ということになりましたが、一般の乗組員よりもずっと粒揃いです。

 そして、主要技能を1つ、副次技能を2つ選択する場合、そのNPCが保有する技能レベルの合計値は、 10のどれかになりました。
 妥当な数値ではないでしょうか。

 ちょっと手間は増えますが、年齢のサイコロとランクのサイコロを別々に振った方が面白いかも知れません。
 とても優秀で精鋭並みの技能レベルを備えているのに、 勤務期数が2期(26歳)で若すぎる為、責任のある地位に就かせて貰えない若者や、 反対に勤務期数が5期(38歳)で十分な貫禄があるのに、 標準並みの技能レベルしか備えていない中年を作ることができるからです。



 最後に、船長の持つ技能、主要技能と副次技能を選んで下さい。


       表35 NPCの作成(その3:船長の主要技能と副次技能)

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 プレイヤーズ・マニュアル、p.60〜64、豪商キャラクターを参照したところ、 船長はパイロットを兼ねることが多いようです。 階級O4に達した高級船員は、操船部門に転属するというルールも見つかりました。
 また帝国百科、p.94、給料の支払いによれば、 指揮部門の乗組員は〈リーダー〉技能か〈パイロット〉技能を活用しているようです。

 という訳で私のハウス・ルールにおいて、 船長は主要技能として〈リーダー〉技能か〈パイロット〉技能を持っていることにしました。
 この2つの技能のどちらかを、その船長の主要技能として選択してください。

 副次技能としては、〈リーダー〉、〈宇宙船戦術〉、〈パイロット〉、〈航法〉、 〈銃器戦闘〉、〈宇宙服〉、〈格闘〉、〈管理〉、〈法律〉の9つを用意しました。
 〈リーダー〉と〈パイロット〉技能は主要技能と重複していますが、 これは主要技能として選択しなかった技能を、副次技能でカバーできるようにしたためです。
 副次技能は任意の2つを選択してください。
 レフリーが認めるのであれば上記に記載されていない技能、例えば〈接触〉や〈コンピュータ〉といった副次技能を選択しても構いません。

 最後に、船長の「カリスマ値」を計算して下さい。
 船長の社会身分度を3で割り(端数切捨て)、〈リーダー〉技能のレベルと、 〈接触〉技能レベルの半分(端数切捨て)を加えれば「カリスマ値」が出てきます。

 以上で、NPC船長の作成は終了です。




(2)私掠船員の作り方

 今度は、一般の乗組員(私掠船員)です。
 募集人数については、制限がありません。募集している船長の「カリスマ値」で決定して下さい。
 手っ取り早く「カリスマ値」を割り振って、必要な乗組員を任意に作り出す方が簡単です。
 しかしサイコロを振った結果として、技能レベルの低い新人しか集まらなかったとか、 反対に、優秀な熟練が応募してきたけれど人数が足りなくなった、という状況も面白いでしょう。



 私掠船員の作成手順も、船長の場合とほぼ同様です。
 まずはUPPから決めて下さい。


           表33 NPCの作成(その1:UPP)

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 それぞれの欄でサイコロ(2D6)を振って、NPCのUPPを決定して下さい。
 最初のサイコロでUPPの前半部である肉体的特徴(筋力、敏捷力、耐久力)を決め、 次のサイコロで後半部の精神的特徴(知力、教育度)、 最後のサイコロで社会身分度を決めることになります。

 今回も、社会身分度を決めるサイコロは、2回振ります。
 2回振った中で低い方の数値を、そのNPCの社会身分度として下さい。



 NPC私掠船員の年齢や保有する技能レベル(乗組員のランク)は、以下のように決定します。


      表36 NPCの作成(その4:私掠船員の年齢と技能レベル)

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 2D6を振り、表の左端に対応させて年齢とランクを決定します。

 新人(Recruit)は文字通りの新人で、勤務期数が1期(18〜22歳)。 ランダムな遭遇率は58.3%
 標準(Regular)は、標準的な経験を積んだ乗組員で、勤務期数は2期(22〜26歳)。 遭遇率は25.0%
 勤務期数3期(26〜30歳)熟練(Veteran)は経験豊富な乗組員であり、 遭遇率は13.9%まで下がります。
 最後の精鋭(Elite)は、上級士官に相当する腕利きの乗組員であり、 その勤務期数は4〜5期(30〜38歳)。遭遇率は2.8%しかありません。

 ちょっと手間は増えますが、年齢のサイコロとランクのサイコロを別々に振った方が面白いかも知れません。
 とても優秀で精鋭並みの技能レベルを備えているのに、 勤務期数が2期(26歳)で若すぎる為、責任のある地位に就かせて貰えない若者や、 反対に勤務期数が5期(38歳)で十分な貫禄があるのに、 標準並みの技能レベルしか備えていない中年を作ることができるからです。



 最後に、私掠船員の持つ技能、主要技能と副次技能を選んで下さい。


      表37 NPCの作成(その5:私掠船員の主要技能と副次技能)

Pirate10_Fig37.gif - 14.0KB

 今回も、プレイヤーズ・マニュアル、p.60〜64、豪商キャラクター帝国百科、p.94、給料の支払いを参照して、主要技能と副次技能を決定しました。
 大幅に私の主観も入り込んでいますが。

 そのNPC私掠船員が担当する部門に合わせて、主要技能1つと副次技能2つを選択してください。
 副次技能として全部門共通で、〈銃器戦闘〉、〈格闘〉、〈宇宙服〉を選択しても構いませんし、また、 レフリーが認めるのであれば、〈接触〉や〈コンピュータ〉といった副次技能を選択しても構いません。

 以上で、NPC私掠船員の作成も終了です。




(3)技能習得表エラッタ

 プレイヤーズ・マニュアル、p.63、豪商キャラクターの技能習得表を確認していたところ、 英文エラッタの中から該当部分に大きなエラッタを発見してしまったので、それを転載します。



 This table as published was copied directly from Book 7 - Merchant Prince without revising it for MegaTraveller.
 Consideration and discussion suggest that it be replaced with the following:

 > この表は、Book7「豪商」の表をコピーしただけであり、メガトラベラー向けの変換が為されていません。
 > 以下に訂正済みの表を掲載します。



      表38 技能習得表エラッタ(プレイヤーズ・マニュアル、p.63)

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 太字で示した部分は、選択技能です。

 そして黄色で示した部分が、エラッタの変更点(修正点)。
 こんなに間違っていて良いのだろうかと疑問に思うくらい、たくさんの変更点がありました。

 宜しければ、参考にして下さい。





8.まとめ

 私掠船の歴史と、その背景についての調査をまとめました。
 更に、トラベラー世界において私掠船が存在するとしたら、それがどのような政治的背景を持っているのか、 また、どのような経済的運営がなされているのかについても考察しています。

 政治的背景については、20世紀テラで私掠船が存在できなくなった通り、 トラベラー世界、少なくとも帝国領内には私掠船が存在できません
 なぜなら私掠船の存在は、周辺の恒星間通商を大きく妨げることになるからです。  拿捕許可証の発行によって海賊活動を公認する国家は周辺の国家から白眼視され、 更に恒星間通商へ従事している自国民からも非難され、そうした公認を取り下げなければならなくなる筈です。
 実際問題として、帝国政府が敵国に対して拿捕許可証を発行する可能性は有りません。 GT版の記述によって明確に否定されています(CT版とMT版については不明)。

 経済的運営については、前回の考察「Pirate09:主要産業としての海賊」でも考えましたが、 今回は私掠船の運営に限定して考察しました。
 そもそも、私掠船に必要な経費はすべて私掠で賄わなければならない筈です。
 何処か別の財源(政府の海軍予算など)から資金提供を受けているとすれば、 その宇宙船は政府に雇われた星間傭兵であり、私掠船ではありません。
 そもそもそれだけの財源があるのであれば、その政府は私掠船に頼らずとも戦えますから、 私掠船の活動が海賊船と同じ経済原理に縛られることは明らかなのです。

 考察の結果、私掠船の行動原理は3つの原則にまとめられることが分かりました。

1.私掠船は、利益の獲得を目的として行動する。
2.私掠船は、商船の拿捕を目的として行動する。
3.私掠船は、できる限り根拠地の近くで行動する。


 ということです。



 帝国領内での存在が難しい私掠船ですが、帝国領外ならば可能だろうということで、 私掠活動の実践についても考察し、幾つかのハウス・ルールを作成しました。
 根拠地と活動場所の選定、宇宙船の確保、乗組員の雇用などについてルール化しています。



 あまりにも長くなってしまったので今回は考察対象から省きましたが、 通商戦争に雇われた私掠船という存在も有り得るでしょう。

 もちろん、それらの私掠船非公式の私掠船ですから、 拿捕許可証の所持や、自身が私掠船であることも公言できません。 当事者の企業は双方共、通商戦争を行っていることを隠さなければならないからです。
 こうした私掠船は略奪品の売却が困難ですから、すぐに経営が行き詰ってしまう筈ですが、

可能性、その1。
 通商戦争のため、企業に雇われた私掠船は、 その企業の手を介することによって、略奪品を定価で売却できる
か、あるいは

可能性、その2。
 通商戦争のため、企業に雇われた私掠船は、その企業に維持費等を支払って貰える。
 略奪品の売却益はそのまま利益となるので、定価で売却できなくても困らない。
ということであれば、問題は解決するでしょう。

 次回は、このタイプの私掠船についても、考察してみたいと思います。





2013.02.10 初投稿。