The Daily Work of the Buccaneer
海賊(バッカニア)の日常
  MEGA TRAVELLER
Science -Fiction Adventure
in the Far Future

CG softs:  DOGA-L3, Metasequia

 

 

 

 

 

 
 



 
 
 
 
 
 


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図1 P型海賊船

M型客船を捕獲し、貨物の積み替えを行っているところ。
海賊船のレーザー砲塔は、客船のブリッジに照準を合わせています。




1.はじめに


 今回は真面目に「海賊らしい海賊」を考察してみました。

 しかし、そもそも「海賊:Pirate」とは何なのでしょう?



 国連海洋法条約によると、「海賊行為(Piracy)」は
公海における他の船舶若しくは航空機又はこれらの内にある人若しくは財産」に対して 「私有の船舶又は航空機の乗組員又は旅客が私的目的のために行うすべての不法な暴力行為、抑留又は略奪行為
 のことだそうです。

 はっきり言って、良く分かりません(苦笑)。
 海賊被害の多くが公海ではなく、国家の領海内で発生していることは明らかな事実です。 発生場所を公海に限定されたら、多くの海賊被害がなかったことにされてしまうでしょう。 上記条約によると、領海内で生じた略奪は海上武装強盗であり、 海賊行為ではないとのこと。
 また、私有の船舶が私的目的で暴力や略奪を行う場合にのみ、海賊行為と見なされるという文言も納得できませんね。 国有の船舶(具体的には軍隊や警察の艦船)が行う暴力や略奪は海賊行為に当たらないとか、 政治目的を大義名分として行われる不法行為(例えばテロ行為)も海賊行為にならないとか。
 海賊被害の現実を無視した条約だと思います。



 こういった問題について、IMB(国際商業会議所の国際海事局)は、もっと分かりやすい定義を提示していました。

 海賊行為とは、盗難やその他の犯罪行為あるいは暴力を振るう目的で、船舶に乗り込む行為である。

 実にシンプルです。
 犯罪行為(略奪など)や暴力を目的にして、船舶に乗り込めば海賊です。
 とても分かりやすいです。
 陸上の街や施設を襲撃する海賊が含まれていませんが、商業会議所の定義ですから仕方ないでしょう。



 また、トラベラー(MT版)では
 商船や地上施設を襲い、略奪することによって生計を立てている恒星間もしくは惑星間宇宙船の乗組員。
 海賊が生きていくには、幸運とともに狡猾さや多くの技術が必要である

 という風に、プレイヤーズ・マニュアルp.14で定義されておりました。

 略奪で生計を立てている、という点が重要ですね。
 この定義ならば世間一般で言うところの私掠船も、海賊の定義に収まりそうです。



 以前の考察「Pirate05:冒険商人の生活」において、 キャラクターが遭遇する海賊船は、その4分の1(=25.0%)がP型海賊船であると判明しました。
 そしてキャラクターがP型海賊船 を手に入れるには、 経歴部門の「海賊」で恩典表のサイコロを振る以外に方法がありません。 つまりルール上、P型海賊船を駆る海賊は、生粋(?)の海賊以外に有り得ないのです。

 実際には海賊以外にも、高価な投機貿易品を輸送するためとか、通商戦争に備えるなどの理由で企業や個人が建造している可能性もありますが、 そのあたりを考え出すときりがないので海賊だけに限定しておきましょう。



 という訳で、プレイヤーズ・マニュアルp.24〜25にあるキャラクター作成システムの経歴部門 「海賊」について考察してみました。
 更に、P型海賊船を駆る海賊の戦術についても考えています。



 便宜上、私はこのタイプの海賊を「バッカニア:Buccaneer」と呼ぶことにしました。 経歴部門の呼称「海賊:Pirate」そのままでは、他のタイプの海賊と区別が付きませんので。

 この海賊は、松永様の「海賊フローチャート」において 「コルセア Corsair」と呼ばれている海賊の一部に該当するでしょう。 世界観等が異なりますので、全く同じものということは有り得ませんが。





2.海賊の日常


 海賊の日常について考察するべく、プレイヤーズ・マニュアルを開いてみます。
 その概略は、以下のようになっていました。

 応募制限  出身世界のテックレベルが初期星間(TL8)以上。

 応募判定  7+ (社会身分度7以下はDM+1、耐久力9以上はDM+2)
 生存判定  6+ (知力8以上はDM+2)
 任官判定  9+ (筋力10以上はDM+1)
 昇進判定  8+ (知力9以上はDM+1)
 特別任務  5+

 再応募判定 7+


 応募制限や応募判定はともかくとして、生存判定6+はやや厳しい方だと思います。 経歴部門の「海兵隊」や「司法官」、 「ハンター」、「未開人」は同レベルの生存判定(6+)ですし、 「偵察局」と「悪党」はもっと厳しい生存判定(7+)なのですが、 DMなしでの生存は難しいでしょう。 海賊が長生きするためには、知力DM(8以上は+2)の有無が重要になってきました。

 そういえば、豪商キャラクター作成ルール(p.60〜64)では 「1年間の海賊任務」が生存判定7+(〈パイロット−2〉の技能を持っていればDM+1)でしたね。 自由貿易商人の「海賊任務」がいかに危険なものであったのか、良く分かります。



 以下の表2では、「海賊」に応募したキャラクターの知力がランダムに決まる(36分の21が知力7以下、 36分の15が知力8以上になった)と仮定し、それぞれのキャラクターの生存率、生存人数を求めています。


               表2 海賊達の年齢別分布

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 ある年、360人のキャラクター(全員18歳)が、経歴部門「海賊」の応募に成功したと想定します。
 面倒なので、彼らの社会身分度や耐久力は考えません。重要なUPPは知力のみです。
 ランダムにサイコロを振った結果、その内210人(36分の21=58.3%)は知力7以下、150人(36分の15=41.7%)は知力8になりました。

 さて、最初の勤務期である「第1期」を見てみましょう。
 いきなりですが、海賊になれた若者の人数が360人から289人に激減しています。 その差は71人。最初の勤務期(4年間)だけで、19.7%の若者が生存判定に失敗してしまいました。 その多くは知力7以下のキャラクターなのですが、凄まじい淘汰です。
 これだけ人数が減っても、第1期の若者が、 全海賊キャラクターの半数以上を占めている点も驚きですが。

 ちなみに、生存判定に失敗した71人は負傷し、2年を勤めただけで除隊するルールになっていました。
 この2年は勤務期として数えられず、任官や昇進の判定も行えませんから、彼らが振れる除隊恩典のサイコロは0回です。
 2年だけの勤務でも技能習得はできますし、特別任務のサイコロも振れますので、運が良ければ3つの技能を習得できる訳ですが、 退職金なしで放り出されるというのは、結構つらい状況ですね。



 次の「第2期」に入る前に再応募の判定をしなければなりません。成功率は7+の目が必要でDMなし。
 判定の結果、なんと120人もの若者が海賊から足を洗ってしまいました。
 プレイヤーズ・マニュアルによると再応募の失敗は、何らかの事情によって経歴部門を続けられなくなったことを指すようです。 ルール的に、危険な海賊稼業に嫌気が差した可能性は有り得ません。 その場合は「再応募を希望しない」選択になりますから。
 このあたりの背景も後で考察してみましょう。
 「第2期」の生存判定に生き残った人数は、137人。生存判定に失敗した人数は32人(18.9%)のみ。
 このあたりから、最初は人数の多かった知力7以下のキャラクターが少数派になりました。 生存判定の成功率があれだけ違うのですから、当然の結果ですが。

 再び再応募の判定をすると、今度は58人が除隊してしまいます。
 そして「第3期」の生存判定で生き残りは66人。
 今回の生存判定失敗は13人(16.5%)で、かなり淘汰が進んできたようです。



 「第4期」の再応募で、27人が除隊。
 生存判定の失敗は7人(17.9%)で、32人が生き残りました。

 「第5期」の再応募は、14人が除隊。
 生存判定の失敗は2人(11.1%)で、16人しか生き残っていません。



 それにしても、5期(20年)の勤務期を生き残る海賊は、360人中わずか16人(4.4%)しか居ないことが分かりました。
 その多く(219人=60.8%)は再応募の失敗による除隊ですが、生存判定の失敗による負傷除隊も125人(=34.7%)。
 57世紀になっても、「海賊」稼業は危険に満ちているようですね。

 蛇足になりますが、「海賊大全」のp.14に関連した情報を発見しました。
 以下へ、引用します。

 記録の示すところによれば、17〜18世紀にカリブ海や南アメリカ沿岸で働いていた海賊達の大半は20代の若者だった。
 ……中略……。
 バッカニアや海賊の生涯を調べてみると、海賊業を10年以上続けた者はほとんどいないことが分かる。
 黒ひげやキッド、エイヴァリなどの有名な海賊の経歴は2年か3年の長さしかなかった。
 サー・ヘンリー・モーガンはジャマイカの荘園に引退し、イギリスの海賊ジョン・ウォードはチュヌジアの御殿で晩年を過ごしたが、 彼らは、略奪した富を楽しんで十分に生きた海賊の、稀有な例だったのである。


 以上、引用終わり。

 という訳で、勤務年数は2倍の20年に延びましたが、海賊大全の記述、
 バッカニアや海賊の生涯を調べてみると、海賊業を10年以上続けた者はほとんどいないことが分かる。
 が、トラベラー世界の海賊にも適用されていることを確認できました。
 再応募失敗の解釈が(レフリーとプレイヤーの裁量なので)難しいですけれど、まぁ、そういうことで。




 今度は、海賊達の階級について計算してみました。
 経歴部門「海賊」の中で、階級別人口を求めた訳です。


              表3 海賊達の階級別分布

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 海賊の過半数302人(55.9%)は、階級を持たない「平船員」です。
 その多くは勤務期数が1期か2期の若者なのですが、極少数、5期を務めても平船員のままだというベテランもいらっしゃいました。
 かなり居心地が悪いと思われますが。

 階級番号1「兵長」と2「伍長」の人数は、それぞれ92人(17.0%)と85人(15.7%)。 英語版では、「兵長」の部分に「Henchman」、 「伍長」の部分に「Corporal」と書かれています。 数人の部下を持つ「手先」や「最下級の下士官」といった立場なのでしょう。

 階級番号3「軍曹」と4「少尉」は、39人(7.2%)と15人(2.8%)。 特典として「少尉」になると自動的に〈パイロット−1〉の技能が得られます。
 英語版では「Sergeant」と「Lieutenant」でした。 「軍曹」はそのままですが、「少尉」の方は誤訳でしょうか?  私の辞書には「Lieutenant」=「海軍大尉/陸軍中尉」と書かれておりました。……謎ですね。
 階級番号4は「Lieutenant=副官」と訳した方が良いのかも知れません。

 階級番号5「指揮官」は7人(1.3%)だけ。
 なぜ「船長」ではないのかと疑問に思って確認したところ、 英語版では「Leader」そのままでした。



 私はこれまで、「指揮官」=「船長」だと考えてきました。
 しかし海賊全体の人数540人に比して「指揮官」の人数はわずか7人。どう考えても少なすぎます。
 「指揮官」=「船長」の仮定が正しいとするならば、7隻しかない海賊船に、540人が乗り込んでいる計算になります。
 1隻当たりの海賊人数は77人。これまで私が想定してきた海賊船、 A型自由貿易船P型海賊船には、不自然な数字だと思います。

 それでは、階級番号4の「少尉」も「船長」に加えてしまったらどうでしょうか。
 「ハードタイムズ」p.94の表6には、海賊団が2隻以上の海賊船を保有している可能性が示唆されております。
 「指揮官」は海賊団の「指揮官兼船長」であり、 「少尉」はその下に従属した海賊船の「船長」なのです。
 「少尉」も含めると、海賊船の数は22隻まで増やせます。1隻当たりの海賊人数は25人。 まだ多すぎる人数ですね。

 この際ですから、階級番号3の「軍曹」も「船長」として認めてしまいましょう。
 「指揮官」や「少尉」が乗り組む海賊船では 普通に「士官」として働いてもらいますが、乗組員の少ない海賊船、 S型偵察艦A型自由貿易船ならば「船長」です。
 捕獲した商船をアジトに回航する場合も、 「軍曹」が「船長」になって構わないと思います。
 海賊船の数は最大で61隻まで増やせました。1隻当たりの海賊人数は9人。 S型偵察艦の最大定員が8人ですから、妥当な数字でしょう。

 「ハードタイムズ」p.94の表6、コルセアの項から求めてみましたが、 海賊団が36個存在すると仮定した場合、その内5個は海賊船を2隻、内1個は海賊船3隻を保有しています。 海賊団36個の保有する海賊船は、全体を合わせて43隻。
 これら複数の海賊船を保有する海賊団の旗艦6隻に階級番号5の「指揮官」を割り当て、 残り37隻の船長に階級番号3〜4の「軍曹少尉」54人を振り分けましょう。
 余った「少尉」と「軍曹」は、 船長の居る海賊船に「副官」として割り振ります。
 1人だけ、1隻の海賊船しか指揮できない「指揮官」が生じてしまいますが、 その点を除けば役職分担に問題はありません(海賊船37隻なので、1隻当たりの海賊人数は14.6人)。



 実は、私が海賊船「船長」の人数に拘るのには、それなりの理由があります。
 海賊達の除隊恩典(プレイヤーズ・マニュアルp.24)を御覧下さい。
 貰える除隊恩典の数は、キャラクターの勤務期数と最終階級に比例していますが、最低でも1つ、多いキャラクターは8つ以上になります。

 「2等チケット」や「1等チケット」、「+1知力」、 「−1社会身分度」については、御存知のことと思いますので説明しません。
 一時金についても、考察は保留。
 気になる除隊恩典は、海賊船と、許可証の2つです。

 サイコロの目で「7」が出た時にのみ受け取れる海賊船は、 P型海賊船のことを指しています。
 当たり前の話ですが、六面体のサイコロ1個(1D6)を振って、「7」の目を出すことはできません。 通常、除隊恩典表で「DM+1」を得られるのは、階級番号5以上のキャラクターのみ。
 ですから「海賊」の場合も、階級番号5以上のベテランキャラクターでなければ 海賊船は手に入らない。
 最近まで私はそう思っておりました。

 その思い込みを否定してくれたのが、「4」の許可証です。
 「プレイヤーズ・マニュアルp.26、拿捕許可証」の説明によると、

 ある政府が、敵対する政府の商船に対する襲撃の許可証を発行することがあります。
 そういった許可を受けた海賊船は私掠船として、なかば公認の身分を得ることになります。
 拿捕許可証には価格はありませんが、恩典として船を得る際のDMがあります。


 ということだそうで。
 具体的には、許可証を受け取ったキャラクターが、以降の除隊恩典表で「DM+1」を得られるのでしょう。
 明記されていませんでしたが、2つ以上の許可証を受け取っても「DM+1」のままであり、 階級番号5以上の「DM+1」とは重複して「DM+2」になる、という風に解釈します。

 「海賊」を1期しか勤めていない若年キャラクターでも、 サイコロ運が良ければ海賊船を入手できることになりました。
 除隊した元海賊たちは、以下のような確率でP型海賊船を受け取れるのです。


        表4 除隊した海賊が「海賊船」を入手する確率

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 表2より、生存判定に失敗した海賊、再応募に失敗した海賊の人数と、除隊恩典数を求めました。
 「0.5期」といった半端な数字は生存判定に失敗した海賊を、 「1期」という数字は1期の勤務を終えて再応募に失敗した海賊を表しています。
 生存判定や再応募に失敗した海賊は、経歴部門「海賊」を除隊しなければなりません。 その際に貰う退職金(?)として一時金ではなく、すべてを除隊恩典にした場合に、 海賊船を入手できる確率と、その期待値を計算してあります。

 毎年、入隊してくる人数と同じ360人が除隊しているということになりました。
 キャラクター作成ルールですから、死亡して除隊する可能性は最初から排除されているのです。 「生存判定の失敗=死亡」として扱う特別ルールも提示されていましたが、面倒なのでパスします。



 経歴部門「海賊」を除隊する「平船員」は、毎年228人も発生していました。
 その内訳(127人は再応募失敗で、101人は生存失敗)はともかくとして、 「平船員」228人の内、2.7人(1.2%)が海賊船を受け取っている事実は重要でしょう。
 全体の人数から見ればわずかな数ですが、勤務期の長い「平船員」ほど、その確率は高くなっているのです。



 階級番号1〜2「兵長〜伍長」で除隊する海賊は、96人でした(再応募失敗は77人、生存失敗は19人)。
 除隊する人数は「平船員」の4割しか居ませんが、 海賊船を受け取る人数は7.4人(7.7%)で3倍です。
 驚いたことに、「1期1.5期」で除隊する46人の内1.3人(2.8%)、 「2期2.5期」で除隊する26人の内1.9人(7.4%)が、 海賊船を受け取っていました。
 「4期4.5期」で除隊すると5分の1(19.6%)、 「5期」で除隊すると4分の1(26.3%)の確率で海賊船を受け取れます。



 階級番号3〜4「軍曹〜少尉」で除隊する海賊は31人(再応募失敗は26人、生存失敗は5人)。 除隊する人数は31人だけですが、海賊船を受け取る人数は6.4人(20.6%)。



 階級番号5「指揮官」で除隊する海賊は5人(再応募失敗が5人、生存失敗は無し)。 その多く4.3人が海賊船を受け取っていますが、運が悪いと貰えません(受け取れる確率は83.9〜88.3%)。

 階級番号5「指揮官」になれる海賊が極めて限られているので、 この5人がほぼ確実に海賊船を受け取れるとしても、全体から見ると小さな数字でしかありませんでした。
 許可証によるDMは、通常のルールならば、階級番号5以上だけしか 海賊船を受け取れない状況を、打開することが目的だったようです。
 実際に許可証のDMを計算に含めることで、海賊船の入手数は5倍近くまで増えました。 「指揮官」だけでなく、「少尉」や「軍曹」も 海賊船の「船長」を勤めることがある、という私の想定は、ほぼ裏付けられたと考えます。



 話は変わりますが、エラッタ情報です。

 「プレイヤーズ・マニュアルp.26、宇宙船」の項での説明によると、 この海賊船は除隊恩典1回だけでキャラクターの私有になっていましたが、 この記述は英文エラッタ「Consolidated MEGATRAVELLER Errata」で訂正されました。

英文エラッタによる修正

 「海賊」キャラクターが除隊恩典として「海賊船」を受け取る場合、 頭金を支払っているだけで、他には何の支払いもされていない状態です。
 除隊恩典として何度「海賊船」を受け取ることになったとしても、キャラクターは1隻しか受け取れません。
 これは(英文の)19ページ、2番目のコラムに書かれている宇宙船の項目とも合致します。


 という訳で、海賊船を1回受け取っただけですと、その船は新造船でローン支払いが40年残っていることになりました。
 2回受け取ると船齢10年でローンの残りが30年、5回受け取ることでようやく船齢40年のローン支払い完了、となるのです。
 除隊恩典の海賊船は奪ったもの(だから、ローン返済は不要だ) と考えていた方には申し訳ないですが、エラッタでこのように訂正されました。
 トラベラー世界は宇宙船の横領に対する監視が厳しいので、古代テラに活動した海賊のように 拿捕した商船をそのまま海賊船に転用することは難しいのです。
 ただし銀行は、ローン返済さえきちんと行っていれば、誰がローンを払っていても気にしないようですが。



 もっとも、海賊達が拿捕した商船を乗っ取り、そのまま海賊船に転用してしまう事例は歴史上に多く見られます。
 それを再現するために、以下のようなハウス・ルールを作ってみました。


            表5 海賊達の除隊恩典−海賊船

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 「ハードタイムズ」p.94の表を利用して作成した、 除隊恩典で受け取った海賊船の種類を決めるハウス・ルールです。

 海賊キャラクターの階級が「平船員」の場合はDM−3、 階級番号1〜2「兵長〜伍長」はDM−1、階級番号3〜4「軍曹〜少尉」はDM+1、 階級番号5「指揮官」はDM+3を加えます。
 「平船員」の半分はS型偵察艦しか貰えず、 「指揮官」の多くはP型海賊船を受け取ることになるでしょう。
 船齢を決めるサイコロにDMはありませんが、損傷を決めるサイコロには階級番号によるDMが上記と同じように適用されます。
 階級の低いキャラクターは、せっかく貰えた海賊船が損傷したままである可能性が高いのです。



 船齢が「新造船」となっている場合、その商船の船齢は5年以下(1D6−1年)だとします。
 資産価値が高いので、最終的な所有者である銀行や保険会社は、懸賞金付きで商船の行方を捜している可能性があるでしょう。
 レフリーは横領判定のサイコロにDMを加えて下さい。

 船齢が「10年〜30年」の場合、その商船の年齢は書かれている数字±5年であるとします。 詳細な数字が必要な場合は、1D6−1年を加えるか引くかして下さい。
 更に、その商船にはローン返済が残っています。船籍を偽装していても、スキップ・トレーサーの追跡からは逃れられません。

 船齢が「40年〜60年」の場合も、その商船の年齢は書かれている数字±5年です。
 ローン返済は終わっていますので、銀行や保険会社の追跡はありません。

 S型偵察艦XT型連絡補給艦の場合、 ローン返済はありませんが、その代りに帝国偵察局の追及があります。
 帝国中に散在する偵察局基地や中継基地、Xボート基地の存在する星系に進入した場合、ほぼ確実に正体が露見するでしょう。

 商船の定期整備は、2D6ヶ月前に行われたと考えます。
 場合によっては、早急にBクラス以上の宇宙港に寄港し、定期整備を受ける必要があるかも知れません。



 海賊船の損傷は、すでに応急修理が為されており、当座の通常航行やジャンプ、戦闘などに支障はありません。
 しかし応急修理のルールに示されている通り、使用直前に故障する可能性が常に潜在しています。
 ある程度の資金を稼いだら、何処かの宇宙港(Bクラス以上)で本格的な修理を施す必要があるでしょう。 当然ながら、その際は宇宙港当局に正体がばれるリスクもあります。



 また、除隊恩典表で複数回「海賊船」の目が出た場合は、その数だけサイコロを振って、 複数ある海賊船の中から1隻を選び、自分の持ち船にできる、というルールにしました。
 選択肢が広がるので、除隊恩典が無駄になることはないでしょう。



 それにしても、この許可証(Letter)という代物が怪し過ぎです。
 プレイヤーズ・マニュアルの説明にある通り拿捕許可証(Letter of Marque)だと考えるべきなのかも知れませんが、 わずか1期しか勤めていない平船員(22歳)にも入手できる拿捕許可証は、 余りにも不自然過ぎますね。
 本物の拿捕許可証とは、平船員が簡単に入手できるようなものではありません。
 もっと価値があるものなのです。

 私なりのハウス・ルール的な解釈ですが、この許可証とはあくまで、そのキャラクターが 経歴部門「海賊」に努めている間、私掠船員(Privateer)として働いたことを意味する、とします。
 傭兵キャラクターの勲章(従軍記章)的な扱いにしました。
 某政府や某企業のために雇われた海賊船に勤務していたため、拿捕船舶を売却する方面とのコネが得られ、 そのコネが海賊船入手のためのDM+1になっている、という解釈です。





3.待ち伏せの成功率


 プロの海賊が駆るP型海賊船は、3G加速の性能を持っています。
 冒険商人のように、ジャンプ・ポイントでの待ち伏せに拘る必要はありません。
 もちろん、待ち伏せ場所は100倍直径の近く(50万km=10ヘクス以内)に限られるでしょうが、襲撃の自由度が大きく異なるのです。

 待ち伏せのパターンは以下のように、大きく様変わりしました。




(1)星系離脱中の商船を、100倍直径で待ち伏せ

 P型海賊船は、星系離脱中の商船に関する情報、 商船の武装や目的地、積荷の価値などに関する情報を精査し、特定の商船を待ち伏せることにしました。



 海賊船がジャンプ・ポイントで獲物の商船を待ち伏せする場合、上記のようなパターンになると思います。
 以下の図で、その詳細を説明します。


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       図6 ジャンプ・ポイントで待ち伏せる海賊船と商船の行動

 P型海賊船は、商船の航路から離れた地点で、商船を待ち伏せします。
 ジャンプ・ポイントからの距離は9〜10マス、商船の航路から最短距離で4マス離れた地点です。

 商船がもっとも頻繁に遭遇する海賊(冒険商人自由貿易船)は、 ジャンプ・ポイントのすぐ近く(隣接ヘクス)で待ち伏せしているパターンが一般的です(それ以外の場所では襲撃できません)。
 ですから商船もジャンプ・ポイント周辺での警戒に重点を置いていることでしょう。 人間の注意力/集中力には限りがありますから、特定の場所を重点的に警戒することは正しい判断です。 そうしなければ、船長も乗組員も疲れ切ってしまいますから。

 ところが、P型海賊船の3G加速は、ジャンプ・ポイントの手前6ヘクスでの襲撃を可能にしてしまいました。
 商船がジャンプ・ポイントに到着する時間より、1時間以上早い時間です。
 冒険商人の襲撃しか予想していなかった商船は、警戒態勢を取るより先に不意討ちを受けることになるでしょう。

 P型海賊船の襲撃パターンで、(商船側から見て)厄介な点は、海賊船が航路上に居ないことです。
 浮遊機雷冒険商人の海賊船ならば、商船の航路上で待ち伏せしているため、 先行している商船が問題なく航行していれば、それらの脅威も存在しないことが自動的に確認できるでしょう。
 しかしP型海賊船は航路上に存在しない(離れた地点で待ち伏せしている)ので、 先行している商船では待ち伏せの有無を確認できません。
 先行している商船が無事に通過して安全だと油断したところへ、P型海賊船が襲い掛かってくるかも知れないのです。
 3G加速のP型海賊船は、そうした襲撃パターンさえも可能になりました。



 海賊船の襲撃開始タイミングをXターンとして、以下に襲撃手順を説明します。



X−1ターン(20分前)

 商船は、ジャンプ・ポイントの手前15ヘクスで移動を開始し、手前10ヘクスで移動を終了しました。
 速度は6から5へ減速(1G)。
 移動終了時の商船と、待ち伏せしている海賊船との距離は5ヘクスですから、 商船が海賊船を発見するためには、2Dで11+を出さなければなりません(探知成功率は8.3%)。



Xターン(襲撃開始)

 商船は、ジャンプ・ポイントの手前10ヘクスで移動を開始し、手前6ヘクスで移動を終了しました。
 速度は5から4へ減速。

 そこへP型海賊船が3G加速で肉薄します。
 海賊船の移動終了時、お互いの距離は1ヘクス(視認距離)となり、自動的に相手を探知/追跡成功(判定不要)。
 この段階で、海賊船は襲撃(威嚇射撃や降伏勧告など)を開始しますが、不意討ちされた商船は対応できません。



X+1ターン(20分後)

 商船に降伏勧告を受諾させたか、通常ドライブの無力化に成功した場合、海賊船は3G加速で針路を修正して、商船と同じヘクスに移動できます。
 次のターンには相対速度を合わせて、乗り込みを行えるでしょう。

 商船を降伏させることができず、通常ドライブの無力化にも失敗した場合、商船は逃走を試みる可能性があります。
 しかしながら1G加速の性能ではどの方向へ逃げても、海賊船の隣接ヘクスから逃れることはできません。
 商船は視認距離の海賊船から精密射撃を受け続け、遅かれ早かれ、捕獲されることが確実です。



 様々な宇宙船タイプの商船が、待ち伏せ中のP型海賊船 (目標サイズ=中、視認レベル=弱)を探知できる確率は、以下の通りです。


           表7 商船の探知可能距離と探知成功率

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 この表は基本的に、「Pirate05:冒険商人の生活」の表9と同じものですが、 P型海賊船の探知能力を追加しました。

 冒険商人の場合は襲撃時の相対速度が小さいため距離2ヘクスと4ヘクスでの探知を行っていたのですが、 今回のP型海賊船は相対速度が大きいので距離5ヘクスでの探知だけを行うことになりました。
 右端に示した「襲撃の成功率」が、更に高まります。

 獲物として狙われた商船のタイプが、R型政府指定商船A型自由貿易船ならば、襲撃の成功率は91.7%まで増えました。
 探知される可能性はほとんどありませんので、ほぼ確実に不意討ちできる訳です。

 商船がM型客船S型偵察艦の場合、襲撃の成功率は72.2%。 高い確率でM型客船を襲撃することもできるようになりました。

 商船がP型海賊船T型哨戒艦だった場合、 襲撃成功率は58.3%40.5%P型海賊船は探知能力は高いので、これだけ状況を整えても襲撃成功率は半分程度なのです。

 商船だと思って狙った獲物がSDBだった場合、襲撃に成功する確率は13.9%です。
 やはりゼロではありませんが、こんな低い確率で攻撃を仕掛けるべきではありません。 冒険商人と同じように、運がなかったと諦めましょう。




(2)星系に到着した(ジャンプアウト直後の)商船を待ち伏せ

 ジャンプアウトしてくる商船の待ち伏せは、P型海賊船にも有効な作戦です。
 星系に到着後、主要世界へ移動中の商船を襲撃するパターンも有り得るのですが、 そのパターンは捕獲時の速度を保ったまま、捕獲した商船と一緒に主要世界へ接近することになるので、非常に危険です。
 襲撃は商船の速度が小さい時期に、ジャンプ・ポイントの近くで行わなければなりません。
 以下の図8は、ジャンプ・ポイントの近くで襲撃を行う場合について考察しています。

 ただし大型ガス・ジャイアントや小さな恒星(K〜M型)の場合、ジャンプ・ポイントは主要世界から十分に離れた位置にあります。
 これらのジャンプ・ポイントで待ち伏せを行う場合、 商船の速度がある程度大きくなっても、ジャンプ・ポイントから離れた地点でも襲撃が可能でしょう。
 この問題については次回のPirate08でも考察する予定ですが、 とりあえず、図6の移動方向を反対に置き換えて考えてください。


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       図8 ジャンプ・ポイントで待ち伏せる海賊船と商船の行動

 P型海賊船は、ジャンプ・ポイントから5ヘクスの距離で、商船を待ち伏せします。

 海賊船は、ジャンプアウトしてきた商船に関する情報をトランスポンダで確認し、襲撃を決断することになるでしょう。
 大抵の商船が相手ならばP型海賊船は勝てる筈ですが、 同型のP型海賊船が相手だと苦戦しますし、T型哨戒艦には勝てません。
 しっかりと商船のタイプを確かめておく必要があります。



 海賊船の襲撃開始タイミングをXターンとして、以下に襲撃手順を説明しました。



X−1ターン(20分前)

 商船は、ジャンプ・ポイントにジャンプアウトしました。
 速度は0で、現在位置の確認や通常ドライブの起動を行います。
 待ち伏せしている海賊船との距離は5ヘクスですから、商船が海賊船を発見するためには2Dで11+を出さなければなりません(探知成功率8.3%)。



Xターン(襲撃開始)

 商船は、ジャンプ・ポイントから移動を開始し、手前1ヘクスで移動を終了しました。
 速度は0から1へ加速(1G)。

 そこへP型海賊船が3G加速で肉薄します。
 海賊船の移動終了時、お互いの距離は1ヘクス(視認距離)となり、自動的に相手を探知/追跡成功(判定不要)。
 この段階で、海賊船は襲撃(威嚇射撃や降伏勧告など)を開始しますが、不意討ちされた商船は対応できません。



X+1ターン(20分後)

 この後の行動は星系離脱中と同じですので、省略しました。



 離れた場所から急加速で獲物に接近するP型海賊船の不意討ち成功率は、比較的、高いものになっています。
 更に、1G加速の一般的な商船が、3G加速のP型海賊船から逃れることは出来ません。 2G加速のS型偵察艦ならば時間を稼ぐこともできますが、最終的には同じ結果になるでしょう。

 海賊船として3G加速の性能は不十分だと思っていましたが、 1G加速の商船だけを狙って襲撃するのであれば、この加速性能で十分だと判明しました。





4.攻撃の成功率


 「帝国百科」掲載の公式設定によれば、P型海賊船三連架ビーム・レーザー砲塔(攻撃力4)を1基だけ、搭載しています。

 私は、この点に疑問を感じました。
 440トンの船体に砲塔を1基しか搭載しないなんて、実に勿体無い話です。
 T型哨戒艦を見習って、三連架ビーム・レーザー砲塔三連架ミサイル砲塔を、2基ずつ搭載すべきではないでしょうか。

 幸い、P型海賊船のパワープラント出力には十分な余裕がありました。
 三連架ビーム・レーザー砲塔を1基だけしか搭載しない標準仕様の場合、その移動力は2ですから、 移動力低下と引き換えに三連架ビーム・レーザー砲塔を2基に増やすことは十分可能なのです。
 「帝国百科」に掲載されたP型海賊船の武装が軽い理由は、 建造時の厳しい検査を免れるためであり、多くの船主は検査終了後、直ちに武装を追加しているのではないでしょうか。

 私が「最強兵器−決定戦33&34回、海賊船1&2」を考察した際は、上記の想定に基づいて、 P型海賊船の武装をT型哨戒艦並に強化しました。
 その時は、それが当然だと思ったのです。
 しかし駆け出しの海賊船オーナーに武装強化する資金的余裕がある筈もありません。 今回は公式設定通り、三連架ビーム・レーザー砲塔1基のみで考察してみましょう。



 とは言うものの、これまでの考察、 「Pirate05:冒険商人の生活」と「Pirate06:2G加速の価値は?」を振り返ってみると、 海賊船の武装は手数の多さを優先すべきではないか、という疑問が見つかりました。
 ですから、P型海賊船の武装も三連架ビーム・レーザー砲塔1基ではなく、 単架ビーム・レーザー砲塔3基に分割すべきではないのでしょうか?

 CT版のルールですと、砲手は砲塔群1つに付き1人が必要でした。ですから、砲塔群の分割は余分な砲手が必要となって色々と大変です。
 しかしMT版のルールならば砲塔群の数に関わらず砲手の必要人数は一定で、建造費の負担も増えません。
 砲手の必要人数が変わらず、建造費の増加もないのであれば、後は戦闘面での優劣だけです。
 以下の考察では、P型海賊船の武装が三連架ビーム・レーザー砲塔1基の場合と、 単架ビーム・レーザー砲塔3基の場合とで比較してみました。



 まずはP型海賊船の探知機による、追跡の成功率からです。




(1)目標の追跡(照準の固定)

 P型海賊船も、T型哨戒艦S型偵察艦と同じく、 貫通力1kmの質量探知機と探知可能最低出力10kwの中性微子探知機を搭載していました。
 ですから、難易度〈並〉の受動物体追跡受動エネルギー追跡が可能なのです。

 獲物の商船に気付かれたくない(探知されたくない)時や、獲物が電子妨害を行っている場合には、非常に有り難い追跡方法です。



 難易度〈並〉の能動物体追跡によって、海賊船と商船が相手を追跡する際の成功率を以下に示しました。
 P型海賊船の行う受動物体追跡と受動エネルギー追跡も、同じ成功率です。


           表9 商船の追跡可能距離と追跡成功率

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 この表も「Pirate05:冒険商人の生活」の表10と同じものですが、 P型海賊船の追跡成功率を追加しました。

 搭載されている探知機の性能が同等であれば、後はコンピュータ・モデル数の勝負です。 P型海賊船はモデル2のコンピュータを搭載しているので、一般の商船よりも少しだけ追跡成功率が高くなりました。

 具体的には、距離2ヘクスで成功率58%、3ヘクスで42%になります。
 4ヘクス以上での成功はあまり望めませんが、近距離(2〜3ヘクス)での射撃戦闘は期待できるかも知れません。
 近距離での射撃で特定箇所だけを狙うこと(精密射撃)は出来ませんが、 逃走を試みる商船に外部損傷を与えることは可能です。  運が良ければ通常ドライブ燃料に損傷を与え、逃走を阻止することもできるでしょう。
 ただし運が悪いと致命的損傷を与えてしまい、 場合によっては400トン未満の商船を爆発させてしまうかも知れません。
 精密射撃以外で商船を射撃する場合、それが例え威嚇射撃だったとしても、 殺意が無かったという言い訳は通じないのです。



 P型海賊船の武装を単架ビーム・レーザー砲塔3基に変更している場合、 探知/追跡能力が大きく向上しました。 射撃を1回諦める毎に探知/追跡の行為判定を1回増やす、というルールを利用して、追跡の成功判定を3回まで増やせるのです。
 射撃回数は本来の3回から1〜2回まで減ってしまいますが、射撃ができないよりはマシでしょう。
 それから、単架ビーム・レーザー砲塔の利点がもう1つ見つかりました。
 単架ビーム・レーザー砲塔は攻撃力が小さいため、 獲物の商船が200トン未満でなければ致命的損傷を与えられません。 通常射撃でも相手を爆発させずに捕獲できる可能性が増すでしょう。

 追跡目標が2ヘクスの距離で行為判定3回を行った場合、92.8%の確率で目標の追跡に成功します。 ほぼ確実な成功率ですね。
 一般的な商船は41.7%の成功率。

 追跡目標が3ヘクスの距離で行為判定3回を行った場合、80.2%の追跡成功率で、 一般的な商船は27.8%の成功率。

 追跡目標が4〜5ヘクスの距離でも行為判定3回を行えば62.3〜42.1%の追跡成功率になります。

 武装を単架ビーム・レーザー砲塔3基に変更したP型海賊船は、 S型偵察艦と同じように2〜3ヘクスの距離を保って一方的に商船を射撃する、卑怯な真似が可能になりました。
 公式設定通り三連架ビーム・レーザー砲塔1基だけのP型海賊船に、 このような特典はありません。探知と追跡については明確に単架ビーム・レーザー砲塔3基の方が有利です。




(2)射撃の命中率

 目標追跡の次は、今回も射撃の考察です。

 すでに述べた通りP型海賊船の武装は、三連架ビーム・レーザー砲塔が1基と、 単架ビーム・レーザー砲塔が3基、この2通りを想定しました。



 まず、三連架ビーム・レーザー砲塔1基の攻撃力は4です(テックレベルは13以上を想定)。
 P型海賊船のコンピュータはモデル2ですから、 例によって、目標サイズDM−1(100〜999トン)、移動力=0の商船を標的とした場合、射撃命中率は、通常射撃で5+(83.3%)になります。
 精密射撃を狙った場合は7+(58.3%)で、 任意の致命的命中を与えられる可能性は9+(27.8%)。

 そして、単架ビーム・レーザー砲塔1基の攻撃力は2(同じくテックレベル13以上を想定)。
 同じ条件で同じ目標を狙った場合、射撃命中率は、通常射撃で6+(72.2%)。
 精密射撃を狙った場合は8+(41.7%)で、 任意の致命的命中を与えられる可能性は10+(16.7%)。



 冒険商人単架ミサイル砲塔1基)や S型偵察艦単架パルス・レーザー+単架ミサイルの混合砲塔1基)の数値と併せ、 P型海賊船のダメージ期待値を以下にまとめました。


       表10 射撃の命中率(目標サイズDM+1、移動力=0)

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 一般的な商船やS型偵察艦に搭載されるコンピュータのモデル数は1。 そしてP型海賊船のコンピュータ・モデル数は2ですので、同条件で 同じ武装(攻撃力2の単架レーザーやミサイル砲塔)を使用しても、命中率が1だけ良くなります。

 P型海賊船の武装、三連架ビーム・レーザー砲塔と、 単架ビーム・レーザー砲塔との違いは、命中率の違いとなって現れました。
 三連架ビーム・レーザー砲塔は攻撃力が大きいため、命中率がさらに1つ良くなるのです。
 その差は16.7〜11.1%でした。
 今のところ、三連架ビーム・レーザー砲塔の優位はこれだけです。



 命中箇所についての考察は、前回、前々回の繰り返しになるので省略しました。



 通常射撃の場合は命中箇所がランダムに決まりますので、それぞれの命中箇所に決まる確率と、 射撃の命中率を掛け合わせたものが結果として出てきます。
 それらについて、冒険商人S型偵察艦の数値と比較してみましょう。


         表11 射撃のダメージ期待値(射撃1回〜3回)

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 この表は「Pirate05:冒険商人の生活」の表12と 「Pirate06:2G加速の価値は?」の表8をアレンジして、 P型海賊船のダメージ期待値を追加したものです。

 冒険商人の武装は単架ミサイル砲塔1基なので、射撃1回。
 S型偵察艦単架パルス・レーザー+単架ミサイルの混合砲塔1基を想定して射撃2回。

 P型海賊船の武装は、 冒険商人と比較するための単架ビーム・レーザー砲塔1基の射撃1回と、 公式設定通りの三連架ビーム・レーザー砲塔1基の射撃1回、 オリジナルである単架ビーム・レーザー砲塔3基の射撃3回、3通りで期待値を求めました。



 S型偵察艦は射撃を2回行えます。 ですから、射撃1回だけの冒険商人よりダメージ期待値が大きいことは当然でしょう。
 しかし、モデル2コンピュータを搭載して命中率が良くなった筈のP型海賊船単架ビーム・レーザー砲塔1基(射撃1回)よりダメージ期待値が大きいことも判明しました。
 その差は精密射撃の場合で9.0〜10.2%。ある程度は予想していたことですが、これほどの違いが出るとは。

 単架ビーム・レーザー砲塔1基(射撃1回)で、 S型偵察艦の射撃2回よりも大きなダメージ期待値を得るためには、 P型海賊船のコンピュータ・モデルを3に上げなければなりません。
 この場合の命中率は「+2」に相当しますから、ダメージ期待値は、 表11の三連架ビーム・レーザー砲塔1基(射撃1回)と同じ数値になります。
 つまり冒険商人が武装を変えずS型偵察艦よりも強くなるためには、 搭載コンピュータをモデル3にグレードアップしなければならない訳で……あまり現実的ではありませんね。 それでも通常射撃の場合はまだ期待値が劣っているのですから、武装(ミサイル砲塔)を追加した方がずっと安上がりです。



 肝心の三連架ビーム・レーザー砲塔1基(射撃1回)と 単架ビーム・レーザー砲塔3基(射撃3回)の比較ですが、 何処の数値を見ても単架ビーム・レーザー砲塔3基が圧倒的に有利でした。
 海賊船の武装は、攻撃力(1発の強さ)よりも射撃回数(手数の多さ)を優先すべき、であり、  コンピュータのグレードアップは十分な武装を確保してから行うべきなのです。

 それにしても公式設定のP型海賊船は、 どうして武装が三連架ビーム・レーザー砲塔1基なのでしょう。
 謎です。公式設定には、何かデザイナーの意図がある筈だと思うのですが。



 それとも三連架ビーム・レーザー砲塔1基の数少ない優位は、 兵器の攻撃力が船体サイズを上回った際に与える致命的損傷にあるのでしょうか。
 確かに、攻撃力2の単架ビーム・レーザー砲塔では、 船体サイズ200〜399トンの宇宙船に致命的損傷を与えることができません。 攻撃力2が致命的損傷を与えられるのは、船体サイズ199トン以下の宇宙船だけです。
 ちょっと比較してみましょう。

 攻撃した宇宙船のサイズが400トン以上
  攻撃力4×射撃1回=致命的損傷なし   攻撃力2×射撃3回=致命的損傷なし

 攻撃した宇宙船のサイズが300トン〜399トン
  攻撃力4×射撃1回=致命的損傷1回   攻撃力2×射撃3回=致命的損傷なし

 攻撃した宇宙船のサイズが200トン〜299トン
  攻撃力4×射撃1回=致命的損傷2回   攻撃力2×射撃3回=致命的損傷なし

 攻撃した宇宙船のサイズが100トン〜199トン
  攻撃力4×射撃1回=致命的損傷3回   攻撃力2×射撃3回=致命的損傷3回

 攻撃した宇宙船のサイズが100トン未満(小艇)
  攻撃力4×射撃1回=致命的損傷4回   攻撃力2×射撃3回=致命的損傷6回

 上に示した通り、三連架ビーム・レーザー砲塔1基致命的損傷に関して 優位になれるのは、攻撃した宇宙船のサイズが200トン〜399トンの範囲だけでした。
 P型海賊船の天敵であるT型哨戒艦のサイズは400トンですから、 三連架ビーム・レーザー砲塔でも致命的損傷を与えることは不可能です。
 一応、優位なのですが、あまり意味のない優位だとしか言えません。
 200トンの商船を脅す際には使えるのですが(致命的損傷を与えれば、一撃で商船を破壊できる可能性があります)。

 やはり三連架ビーム・レーザー砲塔1基を搭載している理由は謎のままです。
 ふと思ったのですが、商船からの反撃1発ですべての武装を失う(可能性がある)というのは、不味いのではないでしょうか。
 武装が三連架ビーム・レーザー砲塔1基だけでは、反撃を受けた際の継戦能力に問題がありますな。




(3)海賊船の勝率

 S型偵察艦を初めとして、武装を強化した冒険商人の海賊船が、 獲物である商船の捕獲に成功する確率を求めてみました。

 商船の行動(星系を離脱中/星系に到着後)、海賊船が狙う損傷個所、海賊船の射撃回数などによって、その数字は大きく変化します。


       表12 P型海賊船が獲物(商船)の捕獲に成功する確率
             三連架ビーム・レーザー砲塔1基

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 この表は、P型海賊船の武装が公式設定通り 三連架ビーム・レーザー砲塔1基であると想定して計算しました。



 まずは星系離脱中の商船を襲撃した場合です。

 パワープラント使用不能を狙った場合、 最初の射撃チャンス(射撃回数は1回)での成功率は27.8%でした。
 冒険商人の3.3倍、S型偵察艦の1.7倍です。
 数値が大きくなった理由は、精密射撃において例外的成功+2が出る確率の違いでした。
 もともと例外的成功+2が出る確率は低いので、攻撃力とコンピュータによる「DM+2」が大きく影響するのです。

 致命的命中によるジャンプ・ドライブ使用不能と 外部損傷の通常ドライブを狙った場合、捕獲に成功する確率は、 射撃2回で17.6%、射撃3回で26.3%でした。
 射撃1回だけでは捕獲できませんが、射撃2回目以降ならばS型偵察艦より高い確率で捕獲できるでしょう。
 ちょっと意外な数値でしたが、獲物にジャンプ・ドライブ使用不能の損傷を与えるため、 精密射撃例外的成功+2が必要だからだと思われます。

 まず「燃料」損傷2回を与えることで商船のジャンプを阻止。
 次に通常ドライブを狙って捕獲する。
 という方法は、射撃2回で42.2%、射撃3回で63.2%でした。
 今回も射撃1回だけでは捕獲できませんが、射撃2回目以降はS型偵察艦より高い確率になっています。
 精密射撃の成功率が高いからでしょうか。計算は間違っていないはずですが……。

 強力な武装(三連架ビーム・レーザー砲塔1基)とコンピュータのおかげか、商船の捕獲成功率が高い数値になりました。
 個人的にはまだ物足りない(安心できない)捕獲成功率ですが 冒険商人S型偵察艦に比べれば、ずっと良い数値だと言えるでしょう。



 次は星系到着直後の商船を襲撃する場合。

 パワープラント使用不能を狙った場合の捕獲成功率は変わりません。

 通常ドライブを狙った場合は、精密射撃の成功率がそのまま捕獲成功率です。
 捕獲成功率は射撃1回で63.2%、射撃2回で86.5%、 射撃6回で95.0%でした。
 冒険商人は無論のこと、S型偵察艦よりも高い成功率です。

 「燃料」損傷2回を狙う方法は、ジャンプ直後の商船に極めて有効です。
 燃料のすべてを失った商船はパワープラント使用不能と同様に、逃走も抵抗もできません。
 成功率は射撃1回で66.7%、射撃2回で88.9%、 射撃3回で96.3%でした。
 もっとも成功率の高い攻撃方法です。



 やはり今回のP型海賊船でも、星系到着直後の商船を襲撃する方が、 星系離脱中の商船を襲撃した場合と比べ、捕獲成功率は高くなっています。

 しかし私は臆病なので、この程度の成功率ではまだ満足(安心)できません。
 更に捕獲成功率を高めるため、P型海賊船の武装を三連架ビーム・レーザー砲塔1基から、 単架ビーム・レーザー砲塔3基に変更して、同じように捕獲成功率を求めてみましょう。


       表13 P型海賊船が獲物(商船)の捕獲に成功する確率
             単架ビーム・レーザー砲塔3基

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 この表は、P型海賊船の武装を 単架ビーム・レーザー砲塔3基に変更して計算しました。



 再び、星系離脱中の商船を襲撃した場合です。

 パワープラント使用不能を狙った場合、 最初の射撃チャンス(射撃回数は3回)での成功率は42.1%でした。
 冒険商人の5.1倍、S型偵察艦の2.5倍です。 流石に射撃回数が3回まで増えたおかげで、凄い成功率になりました。
 射撃6回で66.5%、射撃9回で80.6%。 獲物の商船が武装していたとしても、反撃のチャンスは半分程度しかありません。

 ジャンプ・ドライブ使用不能通常ドライブを狙った場合、 捕獲に成功する確率は、射撃3回で24.7%、射撃6回で43.3%、 射撃9回で57.3%でした。
 他の方法と比べると見劣りしますが、それでも冒険商人S型偵察艦に比べれば、 ずっと高い捕獲成功率です。

 「燃料」損傷2回と通常ドライブを狙って捕獲する方法は、 射撃3回で76.9%、射撃6回で94.6%、 射撃9回で98.8%でした。
 攻撃が命中すれば燃料タンクか通常ドライブ、砲塔のどれかに必ず当たりますので、 精密射撃ではない通常射撃3回でも、案外、高い捕獲成功率になりそうです(未確認)。



 最後に、星系到着直後の商船を襲撃する場合。

 パワープラント使用不能を狙った場合の捕獲成功率は変わりません。

 通常ドライブを狙った場合、捕獲成功率は射撃3回で85.6%、 射撃6回で97.9%、射撃9回で99.7%でした。
 非常に高い捕獲成功率です。
 もちろん、この数値は非武装の商船を襲撃した場合の捕獲成功率であり、 武装商船を襲撃した場合は商船の砲塔を無力化するため、もう少し手間が掛かるでしょう。

 「燃料」損傷2回を狙う場合、捕獲成功率は射撃3回で88.9%、 射撃6回で98.8%、射撃9回で99.9%でした。
 この方法は商船が武装していても関係なく、高い確率で無力化/捕獲に成功できます。 燃料のすべてを失った商船はパワープラント使用不能と同様に、逃走も抵抗もできませんので。



 武装を単架ビーム・レーザー砲塔3基に変更したおかげで、 星系に到着直後の商船ばかりでなく、星系離脱中の商船を襲撃した場合でも、 捕獲成功率が軒並み高くなりました。
 これならば、名前通りの海賊船になれそうです。
 もちろん、ジャンプアウト直後の商船を待ち伏せる方法が最も確実で、安全なことに変わりはありませんが。





5.海賊船の防御力


 さて、前項「4.攻撃の成功率」において、 P型海賊船海賊船として実に優秀であることが判明しました。
 不意討ちの成功率、捕獲成功率の双方とも冒険商人S型偵察艦とは、 比べられないほどに高くなり、おまけに、3G加速の追撃からは誰も逃げられません。
 個人的には、武装を単架ビーム・レーザー砲塔3基に変更した方がより強力だと思っているのですが、 公式設定通り、三連架ビーム・レーザー砲塔1基のみでも十分です。

 そんなP型海賊船から無事に逃れる方法は、商船に武装を施し、 反撃で海賊船を無力化する以外にないと思われます。
 商船側の反撃がどの程度の確率で成功するものか、期待値を求めてみました。

 まずは、商船側の射撃命中率を見てみましょう。
 P型海賊船は、サイズDM=−1で、搭載しているコンピュータはモデル2、 それに加えて恐ろしいことに移動力=2の性能を持っていました。
 私が「最強兵器−決定戦33&34回、海賊船1&2」を考察した際は、この設定をすっかり忘れており、 P型海賊船の移動力を0で計算してしまった訳ですが、改めて計算をやり直します。

 冒険商人S型偵察艦海賊船と比べ、 防御DMが3も大きいことは、商船側の反撃成功率をどれだけ抑えてくれるのでしょうか?



 まずは、SDBT型哨戒艦、一般的な商船が P型海賊船を射撃した場合の命中率、精密射撃の成功率を比べてみました。


       表14 射撃の命中率(目標サイズDM+1、移動力=2)

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 SDBの射撃命中率は元から高いので、それほど変わった印象を受けません。
 SDBが、海賊船の天敵であることに変わりはありませんでした。
 ささやかですが、精密射撃の成功が自動的に 致命的損傷にはならなくなったことを、素直に喜ぶべきでしょうか。

 T型哨戒艦の射撃命中率も3下がりました。
 そのおかげで、T型哨戒艦に撃たれる=自動的に撃破、ではなくなったようです。
 運が良ければT型哨戒艦の追撃から逃れることが可能になるかも知れません。



 M型客船P型海賊船の射撃命中率は同じでした。
 精密射撃の成功率は8.3%(=6分の1)しかありませんし、 致命的損傷を受ける確率は2.8%(=36分の1)です。

 P型海賊船は通常ドライブの性能が3Gですからで、 移動不能になるまで通常ドライブの損傷3回が必要でした。
 また、燃料タンクが大きいので燃料損傷にも耐性があります。
 唯一の弱点は兵器損傷でしょうか。 武装が三連架ビーム・レーザー砲塔1基だけですから、 兵器損傷1回を受けるだけでも戦闘不能になってしまうのです。

 襲撃された商船がM型客船P型海賊船であるならば、 反撃を海賊船の砲塔に集中することで戦闘不能に陥れ、逃走することが可能かも知れません。



 R型商船A型自由貿易船S型偵察艦の場合、 反撃はほとんど命中しません。精密射撃の成功率も2.8%だけです。期待するだけ無駄でしょう。
 これらの商船がP型海賊船に襲われた場合、逃走も反撃も、抵抗はほとんど無駄に終わります。
 実に悲しいことですが。



 通常射撃と精密射撃のそれぞれについて、特定の命中箇所に当たるを求めました。


         表15 射撃のダメージ期待値(射撃1回〜4回)

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 表11の射撃目標を、移動力=2、コンピュータ・モデル2のP型海賊船に置き換えたものです。

 冒険商人の武装は単架ミサイル砲塔1基なので、射撃1回。
 S型偵察艦単架パルス・レーザー+単架ミサイルの混合砲塔1基を想定して射撃2回。

 P型海賊船の武装は、三連架ビーム・レーザー砲塔1基の射撃1回。

 T型哨戒艦ドラゴン型SDBの武装は、 三連架ビーム・レーザー砲塔2基三連架ミサイル砲塔2基の射撃4回を想定しました。



 計算の結果、予想通りと言うべきでしょうか。
 冒険商人に代表される、軽い武装しか搭載していない一般的な商船の反撃は、ほとんど当たらないことが判明。
 P型海賊船の弱点である兵器損傷を狙っても、 通常射撃の場合は7.9%、精密射撃の場合でも9.3%しか命中しません。
 最初の不意討ちだけでも高確率で商船は無力化(捕獲)されてしまいます。
 P型海賊船ならば、武装した商船を襲うことも可能であると分かりました。
 もちろん、獲物はA型自由貿易船R型商船などの脆弱な商船に限りますが。

 S型偵察艦のように、武装を2門搭載している商船の場合、反撃の成功率は少しだけ高くなります。
 通常射撃の場合は15.1%、精密射撃の場合は17.8%
 私は臆病なので、反撃の成功率が二桁になると襲撃を躊躇してしまいます。皆様はどう思われますでしょうか?



 海賊のP型海賊船が、民間商船のP型海賊船を襲撃した場合、 お互いの射撃命中率が低いので、なかなか決着が付きません。
 双方とも、最優先の攻撃目標は相手の砲塔であり、次に燃料タンクや通常ドライブを狙うことになるでしょう。
 砲塔を破壊されて戦闘不能になれば、戦闘不能になった側はすぐに逃走に移る筈ですから、やはり勝負になりません。



 T型哨戒艦ドラゴン型SDBは、 極めて高い確率でP型海賊船の砲塔を破壊することが可能です。
 その後、通常ドライブなどを破壊して、海賊船を捕獲できるかどうかは分かりませんが、 P型海賊船に勝ち目がないことだけは明らかになりました。



 結論として、P型海賊船弱いものいじめが得意だということが言えそうです。
 T型哨戒艦SDBには勝てませんが、 一般的な商船や冒険商人に対しては、いくらでも強気になれるでしょう。

 移動力を2に上げるのではなく、コンピュータのモデル数を4にグレードアップすれば、防御DMだけでなく攻撃DMも付いてお得な上、 建造費も安上がりに済んだと思うのですが、公式設定では移動力の方が優先されていました。
 その背景を考えてみたのですが、これはゲーム・バランスのためかも知れません。
 コンピュータのモデル数を上げてしまうと攻撃力が強くなり過ぎ、プレイヤー・キャラクターの勝ち目が無くなってしまいます。
 海賊船の強さを強すぎず、弱すぎずのレベルに調整するため、こうした設計になったのではないでしょうか?

 少なくともT型哨戒艦よりも強力なP型海賊船が存在したら 対処に困りますよね。





6.拿捕した商船の回航


 捕獲した商船は、航行可能な状態ならば回航することが可能です。
 回航用の乗組員を移乗させたり、捕虜が勝手なことをしないように監視するなど面倒なデメリットが増えますが、 現場での貨物移送が不要になる他、犯行現場を離れることで追跡されにくくなる、その商船自体を売り物にできるなどのメリットもあるでしょう。

 この中でも、犯行現場を離れるメリットは特に重要です。
 捕獲した商船は、襲撃された時点で救難信号を発信しませんでしたか?
 救難信号を聴きつけたT型哨戒艦が、今こも瞬間にも、発信源目掛けて急行している最中かも知れません。
 逮捕されたくなかったら、海賊船はすみやかに犯行現場を離れるべきなのです。




(1)自力で航行できる場合

 商船が降伏勧告を受け入れた場合、捕獲された商船は問題なく、自力で航行できる筈です。
 パワープラントも通常ドライブも無事ですし、星系を離脱中の商船ならば燃料にも十分な余裕があるでしょう。
 星系に到着直後の商船を捕獲した場合、再度のジャンプを行うだけの燃料がないことは自明ですが、 その場合は、通常ドライブを再起動して犯行現場から逃げるだけでも構いません。
 とりあえず犯行現場を離れてしまえば、燃料補給のためにガス・ジャイアントへ立ち寄る時間も確保できます。



 前述の通り、その商船を自力航行させるためには、必要な人員を移乗させるか、あるいは、 元の乗組員に運行を任せる場合は監視用の人員を送り込まねばなりません。

 回航要員の必要人数は、その商船に必要な乗組員の内、 艦橋、機関、維持/補修、指揮部門の人数を合わせたものとしました。
 以下の表で、回航要員の必要な人数を示します。
 もちろん、回航要員の中には最低でも1人〈パイロット〉や〈エンジニアリング〉技能の持ち主が含まれていなければなりません。
 恒星間航行(ジャンプ)を行うのであれば〈航法〉技能の持ち主も不可欠です。


           表16 商船の回航に必要な乗組員の人数

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 改めて、宇宙船の運航に必要不可欠な技能を調べてみると、本当に1人〜3人の乗組員で運航できるものなのか、疑問を感じます。
 特にS型偵察艦
 1人だけの乗組員で宇宙船を動かすためには、よほど熟練した乗組員でなければ無理なのではないでしょうか。

 回航要員を出せない場合(必要な乗組員が足りない場合)は、捕えた商船の乗組員に回航を任せなければなりません。
 元の乗組員たちが全面的に協力してくれるとしても、こっそりと救難信号を発信するなどの行為を防ぐため、 最低でも1人以上、できれば3人程度、監視用の人員を送り込む必要が生じます。

 捕虜の反抗や破壊工作の可能性については、また後で考えましょう。
 恒星間航行(ジャンプ)を行うのであれば、ジャンプ中の船内は完全に孤立した密室となりますので、反抗される可能性は高い筈です。
 運航に必要のない乗組員(砲手、接客、医療など)や旅客は二等寝台に放り込むか、ファストドラッグで動けなくしておくべきだと思いますが、 あるいは人質として海賊船に閉じ込めておく方法も良いですね。




(2)応急修理をすれば自力航行できる場合

 通常ドライブ燃料の損傷は、 致命的損傷でない限り、応急修理が可能です。
 商船を捕獲する際に攻撃場所を選べば、応急修理によって機能を回復し、回航することもできるでしょう。
 回航を前提として捕獲する場合、致命的損傷を狙えませんから、 商船の捕獲方法は燃料の全喪失が専らとなります。 星系を離脱中の商船に対してはなかなか行えませんので、 その対象は星系に到着直後の商船に限った方が容易でしょう。 もちろん強大な火力を備えた海賊船ならば星系を離脱中の商船を襲っても問題なしですが。

 修理については「Pirate05:冒険商人の生活」でも考察しましたが、 レフリーズ・マニュアルp.99の応急修理ルールを、再度、掲載しておきましょう。

 損傷した機器を修理するには:
   難易度〈難〉、1ターン(20分、確定)。


 宇宙戦闘ルールの一部ですので、キャラクターの技能レベルは影響しません。
 技能レベルを加味する場合は、難易度を〈至難〉に上げ、〈エンジニアリング〉や〈反重力工学〉技能などをプラスDMに用いれば良いと思います。
 行為判定に成功すれば良いので、必要な乗組員が揃っているならば問題にはならないでしょう。
 サイコロ振りが面倒でしたら、一律3時間で修理が完了することにしてください。

 通常ドライブの応急修理に成功すれば、自力航行が可能です。
 燃料タンクを損傷し、燃料の全喪失で航行不能になった場合も、 応急修理を済ませた後に燃料を補給すれば、自力航行が可能になります。
 必要な燃料は、余裕のある海賊船の燃料タンクから移し替えれば良いでしょう。
 そして現場を離れた後、ガス・ジャイアントなどで燃料補給を行って、 今度は海賊船の燃料タンクを満たせば良いのです。

 しかし応急修理の成功率は12分の1ですから、1つの損傷を修理するためには平均6ターン(3時間)が費やされることになります。 すみやかに犯行現場を離れなければならない海賊船にとって、あまり現実的な数字ではありません。
 応急修理は捕えた商船を回航するための手段として、残念ながら不適切なようです。




(3)自力での星系内移動が不可能な場合

 致命的損傷は応急修理ができません。
 獲物の商船にパワープラント使用不能の損傷を与えてしまった場合、その商船の自力航行は不可能となります。
 滅多にないことだと思いますが通常ドライブ使用不能の損傷でも同じことです。
 あるいは、応急修理に掛ける時間がない、という状況も同様。

 こういった場合は、他の宇宙船で牽引することにしましょう。

 宇宙船の牽引は明らかなハウス・ルールなのですが、 宇宙船同士が牽引できないという状況も変ですから、 一般的な宇宙船は牽引装置が常備されていることにしました。
 宇宙船同士が牽引できることは当たり前のことですから、ルールブックには記述がないのです。そう解釈しましょう。
 実際のところメガトラベラーの宇宙船戦闘ルールでは、戦闘の結果、 燃料の全喪失で航行不能になった宇宙船(特に戦闘艇などの小型艦艇)が続出します。 ですから、航行不能になった宇宙船を回収するためのルールが不可欠な筈なのです。
 ところが、関連した記述は全くありません。
 自動車の牽引装置と同じように、宇宙船同士の牽引装置は装備されていて当たり前のことなのでしょう。

 という訳ですから如何なる宇宙船であれ、10トンの戦闘艇でも、10万トン級の大型貨物船でも、牽引装置を装備していることにしました。
 牽引装置の規格は様々でしょうが、船体サイズが10分の1〜10倍までの宇宙船とならば、連結が可能であるとします。 牽引準備に掛かる時間は、20分から1時間くらいが手頃でしょうか(レフリーの裁量)。

 また、牽引時の加速性能は、牽引側の通常ドライブ出力によって決まります。
 牽引する宇宙船のサイズ(排水素トン)と加速度(G)の積を、牽引する宇宙船と牽引される宇宙船のサイズ合計(排水素トン)で割って下さい。 その和を、牽引している状態での加速度とします。 ただし加速度の端数は切り捨てで、加速度がゼロになった場合は牽引不可能にしました。

 具体的には、以下のようになります。


        表17 宇宙船同士を連結し、牽引した状態での加速度

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 例えば、440トンのP型海賊船は3G加速できますから、その積は1,320(トン×G)です。
 200トンのA型自由貿易船を牽引する場合、 牽引する宇宙船(P型海賊船)と牽引される宇宙船(A型自由貿易船)の合計は640トン。 1,320÷640=2.06ですので牽引している状態でも2G加速が可能になりました。
 一方、P型海賊船が400トンのR型商船を牽引する場合は、サイズ合計が840トンで 牽引状態での加速度は1,320÷840=1.57。1G加速に制限される訳です。

 XT型連絡補給艦だけは特別な例外で、その巨大な収容区画に510トン分の宇宙船を収容することができます。
 巨大な収容区画と言っても実際には寸法上の制限がありますので、S型偵察艦ならば2隻、 Xボートでも3隻しか収容することはできません。これは上記の計算式の例外となります。



 御覧の通り、2G以上の加速性能を持たない限り、宇宙船の牽引ができないルールとなりました。
 トラベラーのルールで加速度は「自然数に決まっている」からという建前もありますが、本音は加速度を少数で求めることが面倒だからです。
 拿捕した商船を「0.67G」で牽引するS型偵察艦や 「0.33G」で牽引するA型自由貿易船の移動は、あまり計算したくありません。

 ですので、これまで考察してきた冒険商人S型偵察艦海賊船は、どうやっても牽引ができないことになりました。
 苦労して獲物の商船を捕獲しても、パトカーのサイレンならぬ、T型哨戒艦のトランスポンダに怯えながら、 急いで貴重品や現金を奪い、貨物の積み替えを済まさなければならなかったのです。
 時間を気にして焦り、見つけ損ねた隠し金庫もあったでしょうし、 反対に時間を掛けすぎて捕まってしまった冒険商人も居たことでしょう。

 しかし、今回の考察で登場してきたP型海賊船は、880トン以下の商船を牽引できます。 商船が自力航行できるように手加減しながら攻撃するとか、応急修理に掛かる時間を考える必要はありません。
 捕まえた商船に牽引装置を接続して、すみやかに現場を立ち去りましょう。
 極端な話、燃料の全喪失パワープラント使用不能の損害を与えておけば、 救難信号の発信はどうやっても不可能ですから、船内に残る乗組員の制圧は後回しでも構わないのです。

 とりあえず犯行現場を離れてしまえば、じっくりと乗組員を制圧するなり、商船の内部を捜索するなり、 燃料タンクの応急修理を行うことも可能になるでしょう。燃料タンクを満たし、100倍直径まで運べば、当座のジャンプも可能になります。
 もっとも、致命的損傷は造船所でなければ修理できませんので、 その修理を試みることは正体露見のリスクを抱えてることにも繋がります。 回航できたとしても修理は困難であり、ジャンクとして売り捌くことが精々かも知れません。




(4)自力での恒星間移動(ジャンプ)が不可能な場合

 艦橋破壊コンピュータ破壊パワープラント使用不能ジャンプドライブ使用不能といった致命的損傷を受けている宇宙船は、 ジャンプを行うことができません。
 これらの機器はジャンプに必要不可欠なものであり、また、致命的損傷は応急修理できない損傷であるからです。

 前項のような牽引方式は、ジャンプに利用できません。
 牽引によるジャンプが容易であれば、SDBシャトルXT型連絡補給艦のような 特殊設計された輸送母艦の存在は不自然です。
 これらの輸送母艦が公式設定に存在する以上、牽引によるジャンプは困難だと考えなければなりません。
 XT型連絡補給艦を除く海賊船に輸送母艦としての能力はありませんから、 何か別の方法で、商船を恒星間移動(ジャンプ)させる方法を見つけなければならないでしょう。



 艦橋コンピュータに関しては、 他の宇宙船の管制装置(艦橋コンピュータ)を用いる裏技も存在しますが、 パワープラントジャンプドライブだけは代替できません。
 ジャンプさせたければ、どうしても本格的な修理を施す必要があります。
 Bクラス以上の宇宙港が存在しない星系で、どうやって本格的な修理を行うのか。
 実はジャンプ不能艦の修理というルールが存在しました。

 以下は、英文エラッタp.39よりの抜粋。

 パワープラントやジャンプドライブを破壊された宇宙船は、 宇宙港まで輸送母艦に抱えられて輸送されるか、その場で修理を受けなければなりません。
 その場で修理を受けるためには、まず、修理能力のある宇宙港へメッセージを届けることになります。
 新しいドライブ装置が、損傷艦の元へ届けられ、2倍の時間を掛けて交換されるのです(費用は2倍になりません)。


 という訳で、造船所が出張修理のサービスを行ってくれるようです。 パワープラントとジャンプドライブの修理以外は、サービスの対象外ですね(動けるなら自分で造船所まで来い、ということか?)。
 致命的損傷の修理は、Bクラス以上の宇宙港(造船所)で4〜8週間が必要です。
 2倍の時間ですから8〜16週間が必要で、更に宇宙港までメッセージを届ける時間と、 新しいドライブ装置が現場に届くまでの時間が必要になります。
 すぐ隣の星系にAクラス宇宙港が存在するとしても最低10〜18週間、 数パーセクの彼方まで連絡が必要だったり、宇宙港の対応が遅かったりすれば、16〜26週間はすぐに過ぎてしまうでしょう。
 修理費の捻出も大変ですが4ヶ月から半年の間、その星系を離れられないことの方が問題です。

 獲物の商船を回航するためとはいえ、同じ星系に半年も留まっている海賊船
 物凄く不自然な状態ですから、確実に目立ってしまいます。
 そもそも致命的損傷の修理は造船所に依頼しなければなりませんから、 その際に船籍証明や戦闘記録の提出を求められることも間違いなし。

 どうやらパワープラント使用不能ジャンプドライブ使用不能といった 致命的損傷を受けた商船を回航したり、自分たちのものにしたりすることは多くの場合、極めて困難なようです。
 唯一の例外は、XT型連絡補給艦S型偵察艦を捕えた場合だけでしょうか。
 同じ星系内に造船所やジャンクヤードがある場合は修理が可能かも知れませんが、リスクに引き合うかどうか分かりません。
 基本的に多くの海賊船にとって、パワープラント使用不能の損傷を負った商船は、 商船に積まれた貨物や現金だけが価値あるものであり、商船自体に手間を掛けて修理するだけの価値を見出せないのです。 略奪を終えた後は、そのまま放棄するべきものでしかない、ということが分かりました。




(5)拿捕した商船の回航難易度

 上記の通り、商船の損傷状態を4パターンに分けて考察した結果を、以下にまとめてみました。


           表18 拿捕した商船の回航難易度評価

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 当然ながら、回航が最も簡単な(手間が掛からない)商船は、自力で航行可能な無傷の状態です。
 拿捕した商船を自分たちのものにするのであれば、トランスポンダの偽造、船籍書類の用意等、色々と手間は掛かりますが、 修理が不要な無傷の商船を利用するのが一番でしょう。
 トランスポンダや船籍書類の用意が要らないジャンクとして転売するにしても、自力で航行が可能なことはとても便利です。
 何しろ宇宙船は大きいので、簡単には運べません。
 せっかく通常ドライブやジャンプドライブといったドライブ機器が揃っているのですから、自力航行で運ぶことが最も簡単なのです。

 商船が傷つくことを恐れ、船荷を差し出すだけで難を逃れようとした船長(+乗組員)は、確かに商船を無傷のままに保てるでしょう。
 しかし困ったことですが、無傷の商船を丸ごと奪われる可能性が高そうです。

 ちなみに、冒険商人S型偵察艦の海賊にとって 拿捕した商船を回航できるチャンスは、商船を無傷で捕獲した場合に限られるということが分かりました。



 自力での航行が不可能な、ただし、応急修理可能な損傷を与えた商船の場合、 応急修理を終えれば、再び自力航行が可能になります。そうすれば回航も容易でしょう。
 しかし、獲物の商船に与える損傷を修理可能なものに限定するのは、多くの場合、余計な手間を必要とします。
 手間が増える分、獲物を逃がしてしまったり、獲物の反撃で海賊船が損傷を受けたりする可能性が高くなりました。

 また、海賊行為の犯行現場で応急修理に何時間も時間を費やしていられるのか、という問題も生じます。
 4G加速で駆けつけてくるT型哨戒艦の動向はトランスポンダで遠くからでも分かりますが、 果たしてT型哨戒艦の到着までに応急修理が終わり、逃げ出すことができるのでしょうか?

 但し、牽引可能な海賊船ならば、修理時間の問題は解決します。 牽引によって安全な場所へ移動した後、じっくりと応急修理を行えば良いのですから。

 どうやら、冒険商人S型偵察艦の海賊にとって、 自力回航のため応急修理が必要な商船は、回航可能な商船に含まれないようです。
 しかしP型海賊船T型哨戒艦を駆る海賊にとって、 自力回航のため応急修理が必要な商船は、十分に回航することが可能な商船でしょう。



 自力の星系内移動が不可能な(応急修理できない)商船の場合、牽引以外に回航する方法はありません。
 冒険商人S型偵察艦の海賊は、この時点で回航を諦めることとなります。
 多くの場合、自力の星系内移動が不可能な商船は略奪の後、犯行現場に放棄されることが分かりました。

 牽引が可能なP型海賊船T型哨戒艦の海賊ならば 100倍直径まで輸送し、一緒にジャンプすることも可能でしょうが、通常ドライブの使えない拿捕商船と船団を組んで航行することは、 海賊船の行動を大きく制限するため回航中のリスクが増大します。
 無事に回航できたとしても、致命的損傷は造船所でなければ修理できません。 修理の試みは正体露見のリスクと背中合わせです。ジャンクとして売り捌くことが無難でしょう。船籍偽装の伝手があれば話は別ですが。



 自力の恒星間移動(ジャンプ)が不可能な(応急修理できない)商船の場合、利用価値はほとんどありません。 回航と修理に多大な手間と費用が掛かるため、とても割に合わない行為となるのです。
 自力の恒星間移動(ジャンプ)が不可能な商船も、その多くが犯行現場に放棄されます。 例外は、XT型連絡補給艦S型偵察艦を捕えた場合だけでしょう。

 非常に逆説的な状況ですが、 商船の船長や乗組員が積極的な抵抗(逃走や反撃)を行うのであれば、拿捕されるとしてもパワープラント使用不能などの 致命的損傷を受けることにより、商船自体の喪失を防ぐことができそうです。
 致命的損傷を受けた商船は回航が困難になりますし、修理しなければ商船として売却することもできません。 ジャンクとして売り捌く場合は、その儲けの少なさ故に、回航する手間が引き合わないでしょう。



 拿捕した商船の回航について、考察してみました。
 古代テラ(16〜18世紀と21世紀)における海上海賊の場合と比較して、商船の回航については幾つかの点で大きく異なっているようです。

 まず、宇宙空間で逃走する商船を拿捕するためには、獲物の商船が航行不能になるまで攻撃しなければならないこと。
 海上海賊の場合と違って、航行可能な商船を拿捕することは不可能です。商船が自主的に降伏しない限り、無傷で拿捕することは出来ません。

 宇宙空間で逃走する(反撃してくる)商船を無力化するには、商船のパワープラントを破壊することが一番です。
 しかしパワープラントの破壊は自力航行能力すべてを奪うことになり、修理も困難であることから、実質的には回航が不可能となります。
 商船の回航を目的とするのであれば、パワープラントへの攻撃を慎まなければなりません。

 パワープラント使用不能を避けた攻撃方法としては、複数回の燃料損傷を与え、 燃料の全喪失状態で無力化する以外にありません。
 この方法を用いるのであれば、狙う商船は星系に到着直後に限った方が容易です。  もちろん、強大な火力を備えた海賊船であれば星系を離脱中の商船でも構いませんが。 この方法は余計な手間と時間を費やさせることになるでしょう。



 以上の相違点から、
 商船が傷つくことを恐れ、船荷を差し出すだけで難を逃れようとした船長は、無傷の商船を丸ごと奪われる可能性が高く
 反対に、商船が傷つくことを厭わず、積極的な抵抗を試みた船長は、大破した商船と共に残される可能性が高い
 と言えるようです。

 宇宙空間における海賊は、海上海賊と異なる経済原理で動くことが確認されました。





7.海賊的な民主主義


 「海賊」と「民主主義」。

 私にはどうにも矛盾した概念のように思えて仕方ありませんが、欧米人の感覚だと両立しても不思議なことではないのでしょう。
 まだまだ21世紀、極東島国人の常識から抜け出せません。
 トラベラーを十分に楽しむためには、今までの経験と異なる常識、異なる世界観を理解しなければならないのですが。

 それはともかく、「ハード・タイムズp.60、ヴァイキング」の説明によると、

 軍隊と同じような面をたくさん持っているものの、ヴァイキングの社会は民主的でもあります。
 “銃1丁が1票”というのがヴァイキングの基本的な考え方です。
 定期的にリーダーの信任投票が行われますし、 リーダーに挑戦して支配権を争うシステムがきちんと規則化されているグループも少なくありません。


 ということだそうです。
 残念ですが、良く分かりませんでした。

 分からないままでは困ると思い、色々と参考文献を漁った結果が以下の考察です。
 宜しければ、「海賊:Pirate」キャラクターを演じる際の参考にしてください。




(1)銃1丁が1票

 上記「ハード・タイムズp.60、ヴァイキング」に関する記述は、 どうやら18世紀頃、世界中を荒らしまわった海賊たち(バッカニア)を参考にしているようです。
 そういうことならば「ヴァイキング:Viking」ではなく、 最初から「バッカニア:Buccaneer」と名付けるべきだったのではないでしょうか。
 アメリカ人らしく、「バッカニア」が色々と美化されている点も気になりました。

 それはともかく、海賊船の乗組員は「海賊条項」と呼ばれる契約書にサインすることで、 その海賊船の仲間となります。
 「海賊条項」の内容は、海賊船ごとに若干の差異がありましたが、 基本的な2つの条項はどの海賊船でも変わりません。
 1つは、「船長」を投票で選ぶこと。
 もう1つは、略奪品の分け前が平等であることです。



 まず1つめ、こうした海賊船船長は 乗組員全員が参加した海賊会議の中、投票で選ばれます。
 当然ながら、乗組員全員の意向に合わせて船長の義務を果たさなければなりません。
 不必要に残酷だったり、臆病だったり、その他にも妥当な理由が見つかれば、すぐに船長の地位から降ろされます。

 もっとも「黒ひげ」のように残酷さで有名な船長も多く見受けられますので、 残酷であることを理由に辞めさせられた船長がどれだけ居たのか、分かりません。
 こうした船長は、有能さを発揮して残酷さを補うだけの敬意を集めていたのでしょう。 恐らく、乗組員の反抗も不信任投票もなかったのではないかと推測されます。
 ああ、このタイプの船長ハード・タイムズの定義だと 「切り裂き魔:Ripper」に該当するのかも知れませんね。 後で「切り裂き魔」についても考察しなければ。

 臆病さについては、失敗を恐れるあまり慎重になり過ぎて、襲撃の実行を躊躇う船長が該当するでしょう。
 捕えた商船の乗組員を皆殺しにしなかったことで臆病者と非難され、追放されてしまった船長も居ました。
 「拿捕許可証」の適用範囲に拘って、襲撃できた筈の商船を見逃す船長も同様です。 乗組員の不満や圧力に耐えかね、本来、襲撃してはいけない獲物に手を出して船長は多かった筈。
 乗組員全員の意向に合わせて海賊船を運営することは、とても大変なのです。 民主的な運営をしているからといって、必ずしも賢い運営をしているとは限りません。

 また、とある文献によれば船長は、 闘い、追跡し、追跡されるときにのみ、指揮官だったそうです。 船長に船上での特権はほとんどなく、食事も居室も他の乗組員と同じものを提供されていたとのこと。
 ですから、「キャ○テン・○ーロック」のように豪華な船長室で暮らすことを夢見ているキャラクターは、このタイプの海賊に参加してはいけません。
 有名なあの海賊を、トラベラー世界の海賊におけるカリスマ豊かな「切り裂き魔」になぞらえた、 松永様の見解は実にユニークであり、かつ的確だったと同意いたします。



 もう1つ、こうした海賊船において、略奪品の分け前は平等でした。
 略奪品を売り捌いた後の収入は、まず、海賊船の維持費(定期整備や修理費)に回され、 その残りが乗組員全員に等しく分配されます。
 船長は分け前が少しだけ多く、1.5人前〜2人前を受け取ったとする文献もありますが、 一般的な企業や傭兵部隊のボーナス分配を考えると、驚くほど小さな差額でしかありません。

 この体制から考えるに、海賊船の戦闘力を高めるため 航法コンピュータのグレードアップに投資する計画が承認される可能性はなさそうです。
 多くの乗組員は、将来の利益よりも目先の利益を優先するでしょう。 船長が上手く乗組員を説得するか、乗組員の過半数が思慮深い性格でない限り、難しいかと。
 武装(砲塔)を増やす程度ならば資金負担も大したことはありませんし、その効果が目に見えるので、乗組員の賛同を得やすいと思います。

 分け前に関係することですが、海賊船の所有権も乗組員全員の共有になるようです。
 ですから、除隊恩典表で貰う海賊船も、キャラクター個人の所有ではなく、 キャラクターを含めた複数の海賊たちの共有になっているのではないでしょうか。
 この共有権は、譲渡したり売ったりできるものではありません。
 その海賊船にキャラクターが乗り込んだ時点で自動的に発生し、 海賊船を降りた時点で自動的に消滅します。

 もしも個人所有の宇宙船で海賊を始めようと考えているのであれば、 船主は所有権の問題に注意してください。
 海賊たちは、基本的に個人の財産権を尊重しません。
 その理由は財産権を尊重していたら仕事にならないためですが、それゆえ、 海賊船の所有権についても、あまり尊重しない傾向があるのです。
 もちろん海賊船船長は投票で選ばれますから、 船主だから自動的に船長になる、ということもありません。

 ある実例によれば、海賊船の船主は略奪品の分け前について1人前を受け取る資格があるとのこと。
 高価な海賊船を提供したのに1人前というのは寂しい話ですが、分け前を貰えるだけでも有り難い話かも知れません。
 海賊たちには、その海賊船を奪って逃走する選択肢も有り得るのです。
 別の実例では、海賊船を提供した船主兼乗組員は、 その海賊船が拿捕した商船を1隻、優先的に受け取れるとのこと。
 拿捕した商船と引き換えに、その海賊船の所有権も完全に失われるのでしょう。



 実はこのシステムは、犯罪者グループ内の不満を抑えて団結させるために、とても有効な方法のひとつです。
 犯罪者グループが対立する理由の多くが、襲撃時の指揮権と略奪品の分配にあることは御存知の通り。
 あらかじめ乗組員全員の同意を得ておくことで、指揮の統一を図ることができますし、 略奪品の分配が平等に行われるのであれば、裏切りやサボタージュの可能性を最小に抑えられるでしょう。




(2)新たな人生への誘い

 色々と「バッカニア」について調べた後に、再度トラベラー関連の資料を調べ直したところ、 「GURPPS Traveller Far Trader p.122 海賊の種類」の中に面白い記述を見つけました。

 …前略…。
 海賊たちは、犠牲者(捕えた乗組員)の中から、新しい乗組員を募集しようと試みるかも知れません。
 海賊たちは、捕らえた乗組員がオーナー(船主や企業経営者)の所有物であることを軽蔑する一方、 彼らを歓待して仲間の補充を試みるかも知れないのです。
 海賊たちは、商船乗組員としての終着点が、新たな人生の入り口に立っていることなのだ、と主張するでしょう。
 海賊たちのいくらかは、本気(真剣)なのです。


 これは前述、海賊の種類の中で「反逆者(反乱者):Mutineers」に分類された海賊の説明文の一部抜粋です。
 最初にこれを読んだ(訳した)時、私にはまったく理解できませんでした。

 海賊(犯罪者集団)の中へ、そう簡単に外部の者を招き入れて良いのか、不和や情報漏洩のリスクが怖くないのか、とか。
 ちょっと歓待されたくらいで、堅気の筈の商船乗組員が簡単に海賊(犯罪者集団)へ仲間入りする気持ちになるのだろうか、とか。
 新たな人生の入り口って何なのだ、とか。

 幾つかの疑問が生じてしまったのですが、これについては「海賊大全、p.205」を読んで氷解。

 この当時(17〜18世紀)、船乗りは商船であれ軍艦であれ、過酷な環境で働かされていました。
 ある医者に言わせると、牢獄よりも狭い場所で働かされ、牢獄よりも悪い食事で、溺死の可能性が高い職場、だそうです。
 そんな労働環境ですから船乗りになりたがる者は滅多におらず、強制的な徴募によって誘拐されてきた者が乗組員にされるという状況でした。
 船が港に入っている間は脱走を防ぐため、足枷をはめられることもあったとか。

 当時の統計によると、軍艦に強制徴募された水兵の50%は海上で亡くなっていたそうです。 こうした過酷な職場に捕らわれていた乗組員にとって、海賊との出会いは「逃亡のチャンス」だったとのこと。
 実際、出会った海賊たちが拿捕した商船の乗組員を、自分たちの仲間に誘うこともしばしばありました。 そして大抵の場合、誘われた乗組員は自ら進んで仲間に加わったそうです。

 全ての商船乗組員が上記のような労働環境だったとは思いませんが、 こういう状況なので、捕えた商船や軍艦から海賊船へ移ることを希望する(海賊に参加する)乗組員は多かったのでしょう。



 このあたりの背景は、「海賊」が活躍していた17〜18世紀のテラ社会が いかに抑圧的であったかを理解しないと、納得しにくい話かも知れません。
 フランス革命が18世紀の末(1789〜1791年)ですから、当時の社会に人権という概念はありませんでした。

 こういった背景を知れば、Far Traderの文章も納得できるのですが、 トラベラー世界にこういう環境の商船乗組員が存在するのか? という疑問も湧いてきました。
 個人的に、自分の分身(プレイヤー・キャラクター)が、着の身着のままで、狭苦しい船室に押し込められ、 食事は栄養失調レベル。乗り込んだ商船が宇宙港に到着しても足枷を嵌められて逃げられない、という状況で働かされるのは嫌です。
 そういった背景がないと、進んで海賊に加わりたがる乗組員も存在できないことになるのですが、いいのでしょうか?

 最初の疑問は解決しましたが、乗組員の待遇という新たな疑問が生じてしまいました。





8.まとめ

 P型海賊船での海賊行為を生業としている海賊らしい海賊について考察しました。



 まずは「海賊」の定義ですが、

 IMB(国際商業会議所(ICC)の下部組織)の定義、

 海賊行為とは、盗難やその他の犯罪行為あるいは暴力を振るう目的で、船舶に乗り込む行為

 と、プレイヤーズ・マニュアルp.14の定義、

 商船や地上施設を襲い、略奪することによって生計を立てている恒星間もしくは惑星間宇宙船の乗組員。
 海賊が生きていくには、幸運とともに狡猾さや多くの技術が必要である


 この2つを念頭に置いて、考察することにしました。



 次に「プレイヤーズ・マニュアルp.24〜25」のキャラクター作成ルール「海賊」より、 彼らの生存率や年齢別、階級別分布を求めてみました。
 その結果、現役で働いている海賊の過半数は勤務期数1期(18〜22歳)の若者であること、 5期(20年)の勤務期を生き残る海賊は360人中わずか16人(4.4%)しか居ないこと、などが判明しています。

 海賊の階級についても考察しました。
 階級番号3「軍曹」以上は、海賊船の船長を務めている可能性があります。
 階級番号4「少尉」は確実に船長ですが、 「Lieutenant」の翻訳としては「副官」の方が適切かも知れません。
 階級番号5「指揮官」は、 2隻以上の海賊船を保有している海賊団の「指揮官」に該当するようです。

 除隊恩典表で海賊船を受け取る確率も計算しました。
 それに関連したエラッタと、受け取る海賊船の種類を「ハード・タイムズp.94、 表7、海賊団の宇宙船タイプ」に合わせたハウス・ルールを提案しています。



 恒例の襲撃パターン考察ですが、P型海賊船は3G加速の性能を持っているため、 ある程度離れた距離で待ち伏せしておき、獲物の商船に急加速で肉薄するという襲撃が可能になりました。
 不意討ちの成功率が高くなったことに加え、 もっとも頻繁に遭遇する海賊(=冒険商人)とは襲撃パターンが大きく異なります。
 P型海賊船は航路から離れた地点で待ち伏せしているので、 先行している商船では待ち伏せの有無を確認できません。
 先行している商船が無事に通過して安全だと油断したところへ、P型海賊船が襲い掛かってくるかも知れないのです。

 戦闘面でも、P型海賊船は強力でした。
 攻撃力4の三連架ビーム・レーザー砲塔1基とモデル2コンピュータの組み合わせは、 これまで考察してきた海賊船の中で最強の捕獲成功率を発揮できます。
 これならば、名前通りの海賊船として働けるでしょう。
 試しに計算してみたところ、攻撃力2の単架ビーム・レーザー砲塔3基に置き換えた方がさらに強力なのですが、 公式設定がなぜ三連架ビーム・レーザー砲塔1基に拘るのか、納得できる理由は見つかりませんでした。



 P型海賊船の防御力は、移動力2とモデル2コンピュータの相乗効果で、かなり高いことが判明。
 一般的な商船や冒険商人如きでは、歯が立ちません。
 しかしながらT型哨戒艦SDBに対しては無力であることも分かりました。
 基本的にP型海賊船弱いものいじめが得意なのです。BR>


 古代テラ(16〜18世紀と21世紀)における海上海賊の場合と比較して、商船の回航については幾つかの点で大きく異なっていました。
 それらの相違点から、
 商船が傷つくことを恐れ、船荷を差し出すだけで難を逃れようとした船長は、無傷の商船を丸ごと奪われる
 反対に、商船が傷つくことを厭わず、積極的な抵抗を試みた船長は、大破した商船と共に残される
 という可能性を推察しています。



 最後に、「海賊:Pirate」キャラクターを演じるための参考として、幾つかの資料から考察を行いました。
 18世紀頃、世界中を荒らしまわった海賊たち(バッカニア)について、まとめてあります。




2012.04.08 初投稿。