In the Far Side of the 100 Diameters
100倍直径の彼方にて
  MEGA TRAVELLER
Science -Fiction Adventure
in the Far Future

CG softs:  DOGA-L3, Metasequia

 

 

 

 

 

 
 



 
 
 
 
 
 


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図1 最小安全距離と100倍直径、航路帯の概念図





1.はじめに


 1494年にトルデシリャス条約が調印されてから間もなく、新たに「境界線の彼方」という言葉が生まれました。

 トルデシリャス条約とは、当時の教皇によって定められた西経46度37分の子午線を境界線として、 東側に存在する陸地(アフリカ大陸)をポルトガル領、 西側に存在する陸地(南北アメリカ大陸)をスペイン領にするという、実に自分勝手な条約です。
 当時の欧州における最強国家がポルトガルスペインの両国でしたから、 そうした無理な条約を作ることも不可能ではありません。

 後発の国家であるイギリスフランスは (後にはオランダも参加)、当然ながら、条約の内容に納得できませんでした。 そして両国の新領土へ積極的に密輸船や私掠船を送り込み、新領土の財宝や商業上の利益、領土さえも奪おうと企てたのです。

 それらの侵略行為に対して、衰えつつあった両国は獲得した領土を守ることができません。 侵入者を取り締まるだけの軍事力はスペインに存在しなかったのです。
 正確には、地中海でトルコ帝国イスラム海賊の侵攻を防ぐことに必死で、 境界線の彼方まで軍事力を派遣する余裕がなかったと述べるべきでしょうか?

 密輸船や私掠船の横行に耐えかねたスペインが、 イギリスフランスと和平条約を結んでも、状況はほとんど変わりません。 それらの敵対国は境界線の彼方に和平条約は適用されない、と認識していたのです。 本国間の戦闘行為こそ行われなかったものの、密輸船や私掠船は和平条約の有無に関係なく活動を続けました。

 金銀を初めとする財宝を豊富に産出していながら、幾つかの拠点を除けば、それらを守るべき軍事力は皆無。
 それなのに、スペイン以外は利益を得ることが許されない。
 そうしたアンバランスな情勢が他国の妬みを招き、多くの密輸船や私掠船を呼び込むこととなりました。
 つまり境界線の彼方とは、軍事力の空白=無法地帯を意味している訳です。



 トラベラー世界においては、上記の境界線に該当しそうな概念として、 100倍直径という言葉があります。
 今回は、トラベラー世界における境界線=100倍直径について考察してみました。

 まずは、100倍直径の大きさと、その中での移動時間を計算で求めています。
 それに加えて、主恒星の質量による影響も考察しました。
 以前、MAG様が紹介された最小安全距離も取り入れています。



 主要世界とジャンプ・ポイントを結ぶ航路帯について、概念図を描いてみました。
 主要世界の100倍直径だけを考えた場合。
 主要世界が、主恒星の最小安全距離内側に存在する場合。
 そして、ジャンプマスクの概念を取り入れた場合。



 松永様の「海賊フローチャートver.2.0」で取り上げられている 「ベルトランナー Belt Runner」の置かれている環境についても考察しています。
 松永様の想定とは大きく異なってしまいましたが、世界観の相違ということで御勘弁ください。
 このタイプの海賊について先に読みたい方のため、リンクを張っておきます。
                        ※4.ベルト・ランナーの可能性


 最後に、100倍直径航路帯の警備を担当している、 T型哨戒艦の行動パターンを考えてみました。
                         ※5.T型哨戒艦の過ごす日々





2.100倍直径の大きさ


 トラベラーの根幹を成している恒星間の旅行手段「ジャンプ航法」については、 「レフリーズ・マニュアル、p.85」において、以下のように説明されています。

恒星間旅行

 異なる恒星のまわりをめぐる世界の間を移動するには、ジャンプ・ドライブで恒星間旅行を行わなければなりません。
 恒星間宇宙船は、まず通常ドライブによる加速で、巨大質量の近くを離れます (重力井戸の中からジャンプを行うと、事故の危険がきわめて高いのです)。
 そして、安全なジャンプ・ポイントに到着したら、ジャンプ・ドライブを働かせるのです。
 ……中略……。

 ジャンプ航法には、そのジャンプ距離にかかわらず、だいたい1週間を要します。
 規模8の世界からジャンプ・ポイント(直径の100倍離れた地点)に到達するには、1G加速で約5時間かかります。
 かくして、商業ベースの恒星間宇宙船は、だいたい月に2回ジャンプを行うことになります。
 ジャンプに1週間を使い、各星系でのさまざまな活動に1週間を使うわけです。
 この1週間で、ジャンプ・ポイントから世界への移動、燃料補給、船荷の売買、乗客の確保、 宇宙港からの出発、再びジャンプ・ポイントまでの移動などを行うのです。
 ……以下略。


 補足しておくと、ジャンプを終了する際(目的地の星系に着いた時)も、世界(重力井戸)から離れたジャンプ・ポイントに到着します。
 直接、世界の上空や衛星軌道へジャンプアウトすることはできません。
 これがトラベラーにおけるジャンプ航法の基本概念です。



 世界直径の100倍に相当する距離、これを100倍直径と呼んでいます。
 そして、宇宙船がこの100倍直径を越えて移動することは滅多にありません。

 一般的な商船は、恒星間の貿易や旅客輸送のために航行しています。
 ですから100倍直径まで移動すれば、それ以上遠くへ移動する必要がありません。 その場で直ぐジャンプ航法に入り、星系を離脱してしまうのです。  星系に到着した場合も同様で、わざわざ100倍直径よりも遠くに ジャンプアウトして、移動時間を増やす必然性がないのです。

 そして商船の行動範囲が制限されている以上、軍艦も基本的に、100倍直径の外に出る必要がありません。
 戦略上の要衝として、燃料補給が可能な世界やガス・ジャイアントを警備するため、 100倍直径外側で活動することもありますが、 世界が強力な重力場の中心であり、守るべき商船が100倍直径内側に留まる以上、 軍艦の行動範囲も100倍直径内側に限られてくる訳です。

 以上のことから私は、トラベラー世界における境界線とは、 要するに100倍直径のことであろう、と推測しました。
 古代テラにおける境界線の彼方と同じように、100倍直径の彼方は軍事力の空白地帯であり、 法の庇護は限られた地域でしか得られないのです。
 古代テラの境界線と、トラベラーにおける100倍直径の違いは、 その彼方に財宝があるかどうかということだけでしょう。




(1)主要世界の100倍直径

 具体的な境界線=100倍直径の大きさについて、考えてみます。

 主要世界の100倍直径について、移動距離と移動時間をまとめました。
 星系作成ルールによれば、主要世界の規模は、サイコロ2個(2D6−2)によって決定され、 その結果はの範囲にあります。


         表2 主要世界の規模と、星系内移動時間の関係

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 主要世界の規模と、それから決まる100倍直径(ジャンプ・ポイント)までの距離(kmと宇宙戦闘スケール)。
 さらに、その距離を移動するために必要な時間を1G加速で求めました(単位は、hourとターン)

 ついでに、スピンワードマーチ宙域の帝国領272星系について、その主要世界の規模を調べ、 それぞれの規模の右端に世界規模の分布を追加しています。



 主要世界の規模が「0:小惑星帯」である場合、 安全にジャンプを行える100倍直径の境界線は、20,000kmの距離に存在します。
 「レフリーズ・マニュアル」の定義で規模「」の世界は、 直径が200km以下ということになっていましたから、これだけ離れれば十分なのです。
 この距離をメガトラの宇宙船戦闘ルールで置き換えると「2ヘクス:近距離」に相当しました。 つまり主要世界の宇宙港から、100倍直径のジャンプ・ポイントを確実に探知/追跡できる距離、でもある訳です。
 規模「0:アステロイド・ベルト」の世界の100倍直径で海賊行為を働く場合、 その行動すべてが主要世界や宇宙港から目撃されていると考えるべきでしょう。証拠の隠滅は望めません。 こうした星系(世界)においては、海賊行為を慎むべきであると思われます。

 帝国領内に「小惑星帯」は、9星系(3.3%)存在しました。
 余談ですが、「小惑星帯」は「規模0」の主要世界を呼ぶ際にしか用いられません。 「規模0」の地方世界は「アステロイド・ベルト」と呼ばれます。


 主要世界の規模が「1〜4:小型世界」の場合、 安全にジャンプを行える100倍直径は16万〜64万kmの距離に存在します。
 この距離を宇宙船戦闘ルールで置き換えると「4〜14ヘクス:遠距離〜超遠距離」に相当しました。
 つまり主要世界の宇宙港から、容易ではないにしろ探知/追跡が可能な距離ですし、多くの場合は、援護射撃も可能です。 救難信号が発信されれば直ちに(4G加速のT型哨戒艦ならば最大2時間で)現場へ駆けつけ、 海賊船を撃退することもできます。
 規模「1〜4:小型世界」の世界の100倍直径で海賊行為を働く場合、 かなりの危険が伴うことが分かりました。やはり、こうした星系(世界)においても、海賊行為を慎むべきでしょう。 それでも止められないのであれば事前の情報収集やT型哨戒艦の無力化について、努力を惜しんではいけません。

 帝国領内に「小型世界」は、99星系(36.4%)が存在します。



 主要世界の規模が「5〜7:中型世界」になると、 100倍直径は80万〜112万kmの距離になります。
 宇宙船戦闘ルールで置き換えると「16〜23ヘクス:超遠距離」です。
 この距離ならば、探知や追跡は不可能ですし、もちろん射撃も届きません。海賊船は比較的、安全です。
 主要世界の100倍直径で海賊行為を働くのであれば、 最低でも規模「5以上」が欲しいところですね。

 帝国領内に「中型世界」は、109星系(40.1%)が存在します。



 主要世界の規模が「8〜A:大型世界」では、 100倍直径が128万〜160万kmまで離れました。
 宇宙船戦闘ルールで置き換えると「26〜32ヘクス:超遠距離」です。
 海賊行為を働く海賊船は、更に安全となりました。

 帝国領内に「大型世界」は、55星系(20.2%)が存在します。



 主要世界が「ガスジャイアント:GG」の衛星であれば、主要世界の規模に関わらず 安全にジャンプを行える100倍直径ガスジャイアント100倍直径になります。
 その距離はガスジャイアントの大きさにもよりますが、500万〜1,000万km。 宇宙船戦闘ルールで置き換えると「100〜200ヘクス」です。
 もちろん、探知や追跡、射撃は絶対に不可能。ジャンプ・ポイントで海賊行為を働く海賊船はとても安全になりました。

 スピンワードマーチ宙域の帝国領内にガスジャイアントの衛星となっている主要世界が幾つ見つかるのか、 それを明らかにできる資料は存在しません。
 公式設定では唯一リジャイナが大型ガスジャイアントの衛星であると明記されているだけです。
 星系データから明確にガスジャイアントの衛星ではないと判断できる情報は、 星系内に存在するガスジャイアントの数と、主要世界の規模0だけでした。 そのデータによれば、272星系中86星系(31.6%)の主要世界は、ガスジャイアントが存在しないか、 (規模0であるため)主要世界が衛星に成り得ないと判明しましたが、 それ以外の186星系(68.4%)については否定も肯定もできないのです。
 レフリーの裁量によります、としか言えないのがとても残念ですね。




(2)主恒星の100倍直径と最小安全距離

 上記の通り、主要世界の100倍直径は、主要世界から比較的近い距離にあります。
 世界の規模の範囲ですから、 よって、ジャンプ・ポイントまでの移動距離も1万〜160万km(2〜32ヘクス)です。
 主要世界がガスジャイアントの衛星である場合を除き、 主要世界の100倍直径に存在するジャンプ・ポイントの監視や警護は、容易であるに違いありません。
 こうして、トラベラー宇宙の治安は守られているのです。



 と思っていたのですが、CT版:偵察局MT版トラベラーには、 主恒星のスペクトル型を加味した上級星系作成ルールが掲載されています。 これら主恒星のスペクトル型について「Primary_Star:トラベラー宇宙の主恒星」で考察してみたところ、 実に恐ろしい事実が発覚しました。

 主要世界の多くは、その星系の可住圏(主恒星から受け取るエネルギー量が適切な範囲にある公転軌道)を巡っていると想定されます。
 その公転軌道半径は主恒星のスペクトル型から自動的に決まりますが、その軌道半径はしばしば、 主恒星の100倍直径内側を巡っていることになりました。
 そうした場合、その星系にジャンプアウトしてくる宇宙船は、主要世界やガス・ジャイアントの100倍直径ではなく、 主恒星の100倍直径でジャンプアウトすることになるでしょう。

 スピンワードマーチ宙域の帝国領内について、主恒星のスペクトル型を調べたところ、272星系の内188星系(69.1%)は、 主要世界が主恒星100倍直径内側を巡っていると判明しています。
 おまけに、それらのデータから星系内移動時間を求めたところ、 幾つかの星系で明らかにトラベラーの世界観と一致しない時間(最大で2ヶ月超)が出てきました。
 星系内移動に2ヶ月も掛かっていたら、商船はそれだけで破産してしまうでしょう。
 トラベラーにおいて、商船のローン返済は大変なのです。

 そこで今度は、MAG様の考察「Jump MSD (Jump Drive)」を参考にして、 重力偏差(重力勾配)に基づいた最小安全距離を計算してみました。
 その結果、これだけ離れれば安全にジャンプを行えると定義された距離、最小安全距離は、 主恒星から0.27〜2.22AUの範囲に収束しました。
 主要世界(可住圏の軌道)が主恒星の最小安全距離に収まってしまう星系の数は、 スピンワードマーチ宙域の帝国領内272星系の中で148星系(54.4%)まで減少しています。
 困ったことに、最小安全距離を用いても、半数以上の星系になりました。
 星系内移動に2ヶ月も掛かる問題が解決しただけでも有り難い話だと思いますが。



 それはともかく、考察「Primary_Star:トラベラー宇宙の主恒星」から、 過半数(54.4%)の星系において、宇宙船が利用するジャンプ・ポイントは、 主要世界やガス・ジャイアントの100倍直径よりも遠くにあることが判明しました。
 宇宙船は主恒星の最小安全距離でジャンプアウトして、主要世界まで長い距離を移動しなければならないのです。

 当然ながら、主要世界から遠く離れたジャンプ・ポイントの監視体制は、主要世界の近くにある場合と比べて疎かになりがちでしょう。
 困ったことに、海賊船の活動余地が広がってしまいました。



 主要世界が、主恒星の最小安全距離内側を巡っていると想定するならば、 宇宙船の星系内移動距離は以下のように変わります。


      表3 主要世界の規模とスペクトル型、星系内移動時間の関係

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 帝国領内の124星系(45.6%)は、主要世界が主恒星の最小安全距離外側を巡っていると想定されました。
 ですから、これらの星系において商船は従来通り、主要世界の100倍直径まで移動するだけで良いでしょう。
 1G加速の商船に必要な移動時間は最大7時間、往復でも14時間で済みます。



 残りの148星系(54.4%)は、主要世界の100倍直径でジャンプすることができません。 主恒星の最小安全距離まで離れなければならないのです。
 それらの星系において宇宙船が移動しなければならない距離、即ち、ジャンプ・ポイントから主要世界までの距離は、 最も短いM0Y型の主恒星でも3,000万km(600ヘクス)、 最も遠いMZ型で8,780万km(1,755ヘクス)になります。
 必要な移動時間は、30.7〜52.6時間ですから、往復で61.4〜105.2時間(2日半〜4日半)でした。

 トラベラー世界における商船の基本行動パターンは、1週間のジャンプと1週間の星系滞在の繰り返し、です。
 宇宙港に停泊していなければならない最低限の日数は、投機貿易品の配達時間(基本4日)から考えて4日以上でしょう。 1週間(7日)から4日を引けば、残りは3日。
 商船が星系内移動に費やせる日数は、最大でも3日までだと考えられます。

 3日=72時間。
 往復72時間=片道36時間×2倍。


 スペクトルM5X型の主恒星ならば、移動時間は37時間。 往復74時間の3日強となりますが、ここまでは辛うじて許容範囲だと言えます。
 しかし白色矮星、スペクトルFZ型〜MZ型の主恒星を持つ星系では、 星系内の移動時間が3日を大きく超えてしまいました。
 これは大きな問題ですが、反対に考えると白色矮星を主恒星とした7星系を除けば、問題は生じません。
 この7星系には何らかの解決策(例えば、主要世界が可住圏よりも遠い軌道を巡っている、など)を用意してもらうことにして、 他の265星系(97.4%)では遠慮なく最小安全距離を用いることにしましょう。



 ちなみに、スピンワードマーチ宙域の帝国領内で、主要な12星系における星系内移動距離と移動時間は以下の通りでした。
 主要な星系として12星域の星域首都を抜き出していますが、ヴィリス星域だけは特別に首都ではなく、ヴィリス星系のデータを用いています。


    表4 スピンワードマーチ宙域の帝国領、主要12星系の星系内移動時間

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 抜き出した12星系の内7星系(58.3%)は、 主要世界が主恒星最小安全距離内側に存在していました。
 帝国領全体では272星系中148星系(54.4%)が内側に存在していましたから、統計通りだと言えます。

 宇宙港規模8以上の星系、上記の表にも抜き出されているモーラグリッスントリンの3星系は、帝国領内における物流の要です。
 この3星系に、未掲載のフォーニスを加えれば、帝国領内における物流量の6割以上を占めていました (正確には63.4%です。考察のPirate03:海賊の経済2の表21より)。
 そしてフォーニスも主恒星のスペクトル型はM0X。 同じように主要世界が主恒星最小安全距離内側にありました。

 上記のことから考えて、帝国領内における物流の6割(63.4%)は、 星系内移動時間として3日弱を費やしている訳です。
 残りの4割(36.6%)の星系も、半分以上の主恒星がスペクトルM0〜9X型である以上、 星系内移動時間に3日弱を費やしているのです。
 大雑把な計算ですが、帝国領内における恒星間物流の81.7%(=63.4%+36.6×0.5)が、星系内移動に3日弱を費やしていることになりました。

 トラベラー世界における商船の基本行動パターンは、1週間のジャンプと1週間の星系滞在の繰り返し、です。
 そして、1週間の星系滞在の内訳は、多くの商船において、3日弱の星系内移動と、4日間の宇宙港停泊になりました。
 商船の乗組員や旅客、貿易品を扱うブローカーなども、そうした状況に合わせた対応を心掛けていると思われます。

 辺境航路で自由貿易を営む自由貿易商人であっても、状況はあまり変わりません。
 モーラグリッスントリンフォーニスの4星系を除くと、およそ半数の星系は星系内移動時間に3日弱を必要としました。
 自由貿易商人の基本的な行動パターンは、この星系内移動時間を基本として考えるべきですね。

 しかし、残り半数の星系は最大でも1日半、短ければ数時間の星系内移動で間に合うことが分かりました。
 そうした星系においては、宇宙港の停泊時間を長く取ることができますので、商談や乗組員の休養にも好都合です。

 しかし、商船の星系内移動時間がこれほど長くなってしまうとは思いませんでした。





3.航路帯の位置関係


 前項では、主要世界の100倍直径と、主恒星の最小安全距離について考察しました。
 それによって、商船が星系内を移動しなければならない距離と、必要な移動時間についても数字が出てきています。

 今度は、それらの商船が移動する場所(航路帯)について考えてみましょう。
 言葉だけで説明するのが難しいので、幾つかの説明図を描いてみました。




(1)主要世界の100倍直径でジャンプできる場合

 スピンワードマーチ宙域内の帝国領124星系(45.6%)において、主要世界に寄港する商船は、 その世界の100倍直径ジャンプを始め、 また、ジャンプアウトしてきます。

 そのための空間(=ジャンプ・ポイント)は、 100倍直径の外側ならば何処でも構わない筈ですが、様々な事情によって1つから3つの場所に制限されているでしょう。
 そして、指定されたジャンプ・ポイント以外の場所に向かおうとする/出現してきた宇宙船は、 密輸船や海賊船であると見なされ、問答無用の攻撃を受けることとなる筈です(主要世界を守るためには、こうした対応が不可欠です)。

 ジャンプ・ポイントが特定の1箇所に限定されている状況を想定して、 その概念図を下に描いてみました。分かり易くするため、縮尺は適当ですが。


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           図5 主要世界の100倍直径の概念図


 ジャンプ・ポイントが1箇所に限定されている以上、 そのジャンプ・ポイントを利用する商船の航路も自動的に制限されます。
 実質的にその航路は、幅が1千〜1万kmの航路帯となるでしょう。
 周囲の商船はどれも同じ加速度(1G)ですから、付近を航行中の商船はどれも同じような速度になります。 お互いにトランスポンダ信号を発信して現在位置とベクトルを知らせていますから、双方が意図しない限り衝突することも有り得ません。

 特定の航路帯を移動する最大のメリットは、確保された安全、です。 警備する空間が限定されますから、パトロールするT型哨戒艦の密度は高くなりました。
 また、何かトラブルがあった場合はT型哨戒艦だけではなく、周りを航行している商船の援助も期待できるでしょう。

 逆に考えると100倍直径の内側であっても、 航路帯の外側においては安全や救援が保障され難い、という可能性も否定できません。
 十分な海軍力を備えた星系(例えばジュエル星系やリジャイナ星系)ならば、 十分な数のSDB監視衛星が、 100倍直径境界線を守っている筈なのですが。
 実際はどうなのでしょうね。




(2)主恒星の最小安全距離でジャンプできる場合

 スピンワードマーチ宙域内の帝国領148星系(54.4%)において、主要世界に寄港する商船は、 その星系の主恒星の最小安全距離ジャンプを始め、 そして、ジャンプアウトしなければなりません。
 主要世界とジャンプ・ポイントを結ぶ航路帯は、 100倍直径までの航路帯と比べて数倍から数百倍の長さになりました。


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           図6 主恒星、最小安全距離の概念図


 この概念図も、ジャンプ・ポイントが1箇所に限定されている、という想定で描きました。 主要世界の100倍直径から突き出した1本の航路帯が、 主恒星の最小安全距離外側にある ジャンプ・ポイントまで一直線に伸びている、という形になります。

 航路帯の行程の大部分は、 主要世界の100倍直径外側にあります。
 当然ながら、主要世界の100倍直径に存在する(かも知れない) SDB監視衛星の援護/支援を全く受けられませんので、 通商破壊や私掠活動に対して極めて脆い状況にあると言えます。
 この航路帯を守るためには、頻繁にT型哨戒艦を巡回させるしかないでしょう。




(3)ジャンプマスクが生じる場合

 使い方が難しいルールなのですが、GT版トラベラーには、 ジャンプマスクという概念が存在します。
 私の英語力では上手く翻訳できませんでしたので、掲示板におけるMAG様の投稿を引用しましょう。

[2137] ジャンプドライブについて 2 投稿日:2007/11/12(Mon) 22:54

 ジャンプドライブは一直線に沿って機能する. この直線が船よりも大きな物体の100直径球と交差した場合,船はジャンプ空間から妨害物体近くの通常空間へと投げだされてしまう. このような落とし穴から船を守るのが航宙士の仕事である. もちろんこれらの努力により他の物体上にジャンプアウトする危険も避けられる.

 訳注)GURPSでは,恒星に関して100直径ルールの適用が指定されている. 恒星の100直径に入っていなくても,恒星に目標星系がマスクされているとジャンプできない.
 しかしこれは船の通常ドライブ航行に大きな負担をもたらす. GURPSでは惑星への滞在日数なども自由化されているので相殺されるが,単純にCT,MTに導入するのは危険である.


 これがジャンプマスクです。
 主要世界自身の100倍直径と、主恒星の最小安全距離、 この2つがジャンプドライブの直線(飛行経路)を妨害する要素になってしまうため、商船はそうした妨害要素を避けられるように、 ジャンプ・ポイントを設定しなければなりません。


 具体的には、以下のようになるでしょう。


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          図7 主恒星、ジャンプマスクの概念図


 ジャンプマスクのルールを採用しなければ、商船の利用するジャンプ・ポイントは、 1つだけしかありません。
 図6でも示した地点、上の図7で示すところのジャンプ・ポイントAになります。
 理由は、主要世界との移動距離が最も短いため。
 星系内移動時間を最小限に抑えたい商船として、利用するジャンプ・ポイントはA地点のみになる筈なのです。

 ところがジャンプマスクのルールを採用したところ、 このジャンプ・ポイントAから行き来できる目的地星系が限られてしまいました。
 上図を時計盤に見立てて12時から6時の範囲(=第1象限と第4象限の方向)との行き来は問題ありませんが、 6時から12時の範囲(=第3象限と第2象限の方向)は、主恒星の最小安全距離が ジャンプドライブの直線を妨害していますので、商船はジャンプすることができません。

 この問題、ジャンプマスクを回避するため、 9時から12時(=第2象限)と行き来する商船はジャンプ・ポイントBへ、 6時から9時(=第3象限)と行き来する商船はジャンプ・ポイントCへ、 それぞれ別のジャンプ・ポイントへ移動しなければならないのです。



 移動距離の短いジャンプ・ポイントAを利用する場合、商船の星系内移動時間は表3に示した通りです。
 多くの場合、星系内移動に費やす時間は往復3日以内に収まるでしょう。
 しかしながら、ジャンプマスクの影響を回避するためにジャンプ・ポイントBジャンプ・ポイントCを利用する場合、星系内移動時間は以下のように増加しました。

 この問題はLASH型商船を設計した際にも考察しましたが、 今回は最小安全距離の概念を導入したので、数字が大きく変わります。


        表8 ジャンプマスクが生じた際の星系内移動時間

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 ジャンプしたい星系が、その星系の主恒星の向う側(反対側)にある場合、 商船は主恒星の最小安全距離を大きく迂回しなければなりません。
 進路上に主恒星の最小安全距離が存在しない場所まで離れてようやく、 商船は目的地へ向けたジャンプが可能になるのです。

 その場合、移動時間が36時間(1日半)以内で済む星系は、 わずか10星系(3.7%)しか見つかりません。
 厳密に言えば6星系(2.2%)だけなのですが、それでは寂しすぎるので、 37.7時間スペクトルM0Y型を加え、 10星系(3.7%)に増やしました。
 それでも少ないですね。
 星系内の移動時間が36時間(1日半)以内であれば、往復しても3日以内。
 問題にはならないと思われます。

 移動時間が48時間(2日)以内で済む星系は、133星系(48.9%)です。
 星系内の移動時間が片道で2日ですから、往復すると4日間。 商船の宇宙港に寄港する時間が、少し圧迫されてしまいます。
 不幸中の幸いと言うべきか、これらの星系は主要世界の公転周期が短いため、 ジャンプマスクの影響を受ける期間も短くて済むでしょう。

 移動時間が72時間(3日)以内で済む星系は、119星系(43.8%)です。 星系内の移動時間が片道で3日ですから、往復すると6日間
 商船が宇宙港に寄港している時間がほとんどありません。 旅客の乗り降りだけは可能だとしても、貨物の積み込み、投機貿易品の売買は不可能です。
どうすれば良いのでしょうね。

 移動時間が72時間(3日)以上の星系は、10星系(3.7%)です。 星系内の移動時間は往復で7日間
 ここまで長く掛かると、商船が宇宙港に寄港する時間は全くありません。

 以上の結果から考えると、ジャンプマスクの概念は、 CT版トラベラーMT版トラベラーに相応しくないようです。
 困った話ですが、ジャンプマスクによる星系内移動時間の増加は、 トラベラー世界における商船の基本行動パターン、1週間のジャンプと1週間の星系滞在の繰り返しと相容れません。



 余談ですが、GT版トラベラーには、アンカーという概念も存在しており、 ジャンプアウトの際には巨大質量の100倍直径、 もしくは最小安全距離を利用する必要があったりします。
 つまり、ジャンプドライブの直線(飛行経路)が100倍直径最小安全距離に ぶつからないとジャンプアウトできないというルールなのですが、このあたり、私には理解できないので棚上げしておきました。
 理解できた方、ぜひ教えてください。





4.ベルト・ランナーの可能性


 松永様の「海賊フローチャートver.2.0」において、非常に興味深いタイプの海賊が提示されていました。

 その名も「ベルトランナー Belt Runner」。

 コルセアの変種。
 アステロイドベルトなど星系外縁部で活動する海賊。
 獲物に出会う確率が低く、出会っても儲けは少ないが、逃走が比較的容易。


 という定義でした。

 私には思いつきませんでしたが、確かに有り得そうな海賊です。
 これの実在を裏付ける形となっているのが、GURPS Traveller 「Far Trader」 p.120 で見つけた情報でしょう。

 重要な貿易に関わるか、もしくは強い経済力を持つ世界は、100倍直径までの宇宙空間を防衛できるでしょう。
 利益を生み出さない世界の内部や周囲において、これらの防衛は海賊行為を許してしまいますが、海賊が星系全体に広がることもありません。
 多くの経験豊かな海賊は、沈滞した世界や、危険な外星系(unsafe outsystems)に集中するでしょう。
 ……中略……。
 それらの世界は、安全になるまで発展することが出来ませんし、また、発展するまで守るだけの価値もないのです。


 という訳で、危険な外星系(unsafe outsystems)、だそうです。
 これの意味するところが、帝国の辺境にある星系という意味なのか、同じ星系内でも遠い軌道を巡る外惑星なのか、悩んでおりましたが、 松永様の提示されたベルトランナーが存在するのであれば、 同じ星系内でも主要世界から遠く離れた世界、という解釈で良いでしょう。
 主要世界の100倍直径外側は、行き交う商船の姿もない、無法地帯です。 星系外縁部で活動する海賊船ベルトランナーが活躍する場所なのです。

 ……無法地帯、と言い切ってしまうのは言い過ぎでしょうか。
 ちょっとニュアンスを弱めて、治安の悪い領域、と言い直しておきます。



 上記の情報に記されている通り、星系内で人の住んでいる場所は、必ずしも主要世界だけとは限りません。
 主要世界に比べれば少ない人口でしょうが、 それでも住人を持つ世界(地方世界:Subordinate Worlds)は数多く存在するのです。
 それら地方世界の人口と、通商量(宇宙港規模)を簡単に求めてみました。

 星系全体の通商量(宇宙港規模=寄港する商船の数)は例の如く MAG様の考察「スピンワードマーチ宙域の商用船舶」から求められます。
 考察を簡単にするため、主要世界と地方世界の人口比をそのまま、通商量(宇宙港規模)へ適用することにしました。 その地方世界が主要世界と比べて100分の1の人口を抱えているのであれば、通商量(宇宙港規模)は100分の1だという具合で。
 その結果は、以下のようになります。




(1)リジャイナ星系の地方世界

 主要世界のUWPとガスジャイアントの有無は、CT版から公式データが存在していました。
 主要世界の人口倍率と主恒星のスペクトル型、ガスジャイアント、アステロイドベルトの数はMT版から掲載されました。
 しかし、星系そのものや地方世界の公式データは存在しません。

 わずかな例外は、CT版「偵察局」に掲載されているリジャイナ星系とソル星系(太陽系)のデータだけです (リジャイナ星系のデータはMT版レフリーズ・マニュアルにも再掲載されていますが)。
 仕方がないので、そのデータを使って地方世界の通商量を求めてみました。
 まず最初は、リジャイナ星系から。


       表9 リジャイナ星系−地方世界の通商量(宇宙港規模)

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 リジャイナ星系は三連星の恒星を有しています。
 主星ルソールと白色矮性スペックは近接軌道を互いに公転し、そこから約5000AU離れた軌道を、薄暗いダリダが巡っています。
 星系内には呼吸可能な大気を持つ世界が7つあり、うち4つが可住圏(にあるガス・ジャイアントの衛星軌道)にあります。
 リジャイナはそのなかでもっとも理想的な環境の世界であり、ために最初に植民されました。
 現在、リジャイナは星系のすべての世界を統治しています。

 ダリダを巡る世界は環境があまりよくなく、開発がさほど進んでいません。軍事基地と小規模な鉱山施設があるぐらいです。


 以上が公式設定からの抜粋です。
 地方世界の人口と通商量の関係を見ていきましょう。
 同じ惑星を巡る衛星は、惑星の100倍直径内側にあることが多いので、 それらの世界はすべて1つの惑星系として計算しました。



 主星ルソールから見て最も内側を巡る惑星は、大気も水も無い岩の塊、オースンです。
 宇宙港も存在しませんが、70人程度の人口(レベル1)が住んでいるとのこと。
 主要世界リジャイナの人口レベル8と比べて−8ですから、通商量(宇宙港規模)は7−8=−1になりました。寄港する商船は存在しません。
 当然、商船を襲うことは不可能です。

 次の軌道を巡る惑星は、小型ガス・ジャイアントのバーガンド
 内圏にはガス・ジャイアントが存在できないというルールだったような気がしますが、深くは考えないようにしましょう。
 2つの衛星を持ち、そのひとつセントは人口レベル3、7,000人の人口を抱えています。
 人口レベルの差は−5で、通商量(宇宙港規模)は7−5=2ですから、2か月に1隻の頻度で商船が寄港するようです。
 どうでしょう? 獲物の商船を待つのに平均1ヶ月も掛かるというのは、ちょっと問題になりませんか?
 あらかじめ商船の寄港予定が分かっていれば、それを待ち伏せることも可能になる訳ですが。

 3番目はオリブリウス
 内圏なので水の無い砂漠世界ですが、汚染されていない大気(希薄)を持っています。
 宇宙港クラスがFなので、これから植民が始まるのでしょう。現在の人口は700人。
 宇宙港規模は1で、寄港する商船はほとんど存在しません(年に1隻?)。
 この地方世界も、商船を襲うことは不可能に近いようです。

 4番目の軌道(可住圏)を巡る惑星が、大型ガス・ジャイアントのアシニボイア
 リジャイナを初めとして5つの衛星を持ちます。
 最大人口を抱える衛星は当然ながら主要世界のリジャイナで、その数は7億人。
 宇宙港クラスAで、宇宙港規模も7+になります。寄港する商船は2週間で5千隻以上。圧倒的でした。



 伴星ダリダを巡る惑星は、まず内側のキルンダ系
 どういった事情か分かりませんが、その衛星のひとつには7万人の人口(レベル4)が住んでいます。
 人口レベルの差は−4で、通商量(宇宙港規模)は7−4=3。
 2週間当たり3隻の商船が寄港するので、この惑星系ならば海賊できそうです。

 ダリダの最も外側を巡る惑星は、小型ガス・ジャイアントのエラゼール
 戦略的な要所なので、軍事基地が置かれていたりします。
 衛星の最大人口は7,000人(レベル3)で、通商量(宇宙港規模)は2。
 2か月に1隻の頻度で商船が寄港するようですが、実際は軍の補給船が頻繁に立ち寄ることになるでしょう。



 リジャイナ星系の地方世界について、通商量(宇宙港規模)を計算してみましたが、 地方世界の多くは寄港する商船の数が少なすぎて、海賊行為が不可能だ、という結果に終わりました。
 可住圏に存在するアシニボイア系の居住人口が圧倒的過ぎます。

 もっとも私の計算式は、主要世界と地方世界の人口比をそのまま通商量(宇宙港規模)に当てはめるだけですから、 あまり現実的な数字になっていない可能性もあります。
 例えば、鉱産物の輸出を前提に開発された鉱山世界であれば、人口レベルに見合わない通商量(宇宙港規模)となっていることが有り得るでしょう。
 レフリーの裁量で通商量(宇宙港規模)を1〜2レベル増やすことは構わないと思います(星系全体の通商量−1レベルが上限ですが)。

 その結果、通商量(宇宙港規模)が3〜4になっていれば、その地方世界で ベルトランナーが活躍することもできるでしょう。



 次は、ソル星系(太陽系)のデータで地方世界の通商量(宇宙港規模)を求めてみました。


      表10 ソル星系(太陽系)−地方世界の通商量(宇宙港規模)

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 太陽系の主要世界は地球です。
 そのほか、月、火星、アステロイド・ベルトに多数のソロマニ人が居住しています。
 水星、ガニメデ、レア、冥王星に小規模な都市があります。
 金星といくつかの衛星には、商業上の小設備や実験室が置かれています。

 ソロマニ戦争の末期、地球は帝国軍に制圧されました。以後、地球は帝国の支配下にあります。
 よって、地球の政治形態は6(占領政治)です。
 他のすべての世界は地球の統治下にあり、政治形態は6です。
 帝国の支配が弱まれば、それぞれの世界が独自の政府を持つものと予想されています。


 以上が公式設定からの抜粋です。



 簡単にまとめると、可住圏に存在する地球/月系の人口が圧倒的です。
 火星小惑星帯の人口レベルが6で、通商量(宇宙港規模)はかろうじて4になりました。
 ベルトランナーが狙える地方世界は、この2つしかありません。
 それ以外の地方世界は人口が少なく、通商量もごく僅かなのです。



 しかし、地方世界の通商量(宇宙港規模)が小さいことを思い知らされました。
 主要世界ならば星系を通過する商船の寄港も期待できますが、地方世界は本当に用事のある商船しか寄港しません。
 そのために通商量(宇宙港規模)が小さくなってしまうのでしょう。

 上記2例の計算結果から、通商量の多い星系、栄えている星系内にあったとしても、 同じ星系内の地方世界は人口が少なく、寄港する商船の数も驚くほど少ない事実が判明しました。
 主要世界を離れた100倍直径の彼方で商船を待ち伏せているベルトランナーは、 なかなか獲物に出遭えません。
 何と言っても、地方世界の大半は通商規模が2以下なのです。 商船の寄港数は2週間当たりでも0.3隻。6週間〜8週間の間に1隻の商船しか訪れませんでした。 無計画なベルトランナーは獲物に遭遇するまで、3〜4週間を地方世界の周辺で無為に過ごすことになるでしょう。

 寄港予定を抑えているにしても、獲物の数が少なすぎます。
 襲撃された商船が救難信号を発信しても、それを受信する商船が周囲に居ない。 T型哨戒艦が駆けつけるのは1週間後。 そういった状況は海賊行為を働くために理想的だと言えるでしょう。
 しかし海賊船の運航費用を稼ぐためには、最低でも2週間に1隻の商船を襲撃しなければならないので、 6〜8週間に1隻の商船では明らかに足りません。
 これでは宇宙船のローンはおろか、維持費すら賄えないと思われます。

 ベルトランナーの生活を成り立たせるには、その地方世界の通商量が大きいか、 長い待ち伏せ時間に見合った高価な略奪品を期待できるなどの、説得力のある設定が必要になるでしょう。
 それはそれで、レフリーにとって遣り甲斐のある仕事かも知れません。

 それが面倒ならば、何時に来るか分からない商船のことなど忘れましょう。
 わざわざ地方世界まで遠出するのであれば、そこに寄港する商船ではなく、その地方世界そのものを襲撃すれば良いのではないでしょうか?





5.T型哨戒艦の過ごす日々


(1)T型哨戒艦のローテーション体制

 私が想定した、主要世界を守るために必要な年間予算100MCrの根拠は、T型哨戒艦のローテーションにあります。
 T型哨戒艦1隻だけを維持運用するのであれば、その4分の1(25MCr)でも足りますが、 残念ながら1隻だけでは主要世界を守りきれないのです。
そこで、主要世界を守るために必要な、最低限の数が4隻だと考えました。



 まず最初に、こうした辺境星系は多くの場合、Cクラス以下の宇宙港しか持ち合わせておりません。 「Pirate03:海賊の経済2」で調べたところ、Bクラス以上の宇宙港を持つ星系は102星系中10星系のみです。
 T型哨戒艦の定期整備や修理には、他星系の宇宙港を使用する必要がありました。
 星系内では行えない定期整備や修理のため、T型哨戒艦4隻の内1隻は、常に星系外へ出ていることになるでしょう。

 ジャンプ1回の距離(3パーセク以内)にある造船所まで、移動だけで2週間と定期整備に2週間(修理は1〜4週間)を費やしているとしましょう。
 その場合、4隻のT型哨戒艦はローテーションで年に3回、2週間ずつの休暇を得られることになります。 家族から離れ、娯楽の乏しい辺境星系で哨戒任務に就く訳ですから、このぐらいの恩典は有って然るべきかと。
 強力なSDBではなくT型哨戒艦を用いるのは、このローテーションを合理的に行うためです。 ジャンプ能力のないSDBを恒星間移動させるのには、大変な手間と時間を要しますので。



 次にT型哨戒艦の1隻は航路帯に沿って、 主要世界とジャンプ・ポイントの間を常に哨戒していると考えました。
 海賊船の撃退が主な目的ですが、 救難信号への対処も基本的には、この哨戒中のT型哨戒艦が対応します。
 改めて「帝国百科」の宇宙船遭遇表を見てみると、 遭遇する商船の36分の1(2.8%)は何らかの危機に直面していることに気付きました。 救難活動に当たるT型哨戒艦は大忙しなのです。
 ただし1隻の哨戒だけでは航路上のすべてを守ることができませんので、海賊船の活動も許してしまうのでしょう。



 残る2隻のT型哨戒艦は交互に休息を取って、主要世界の上空に張り付いていると考えました。
 主要世界を地上襲撃者:World Raiderの襲撃から守るため、常時1隻が待機している訳です。



 以上より、T型哨戒艦の行動パターンは、

   造船所のある星系から移動   1週間

   星系内での哨戒        1週間
   主要世界での休養       1週間
   主要世界軌道上での警備    1週間
   上記3週間のローテーションを4回繰り返す(合計12週間)

   造船所のある星系へ移動    1週間
   造船所のある星系での休暇   2週間(定期整備や修理)

   合計             16週間


 という形になる訳です。
 T型哨戒艦の乗組員は、16週間のローテーションで長期休暇(2週間)1回、 短期休暇(1週間)4回、合計6週間の休暇を得られました。

 という訳で、主要世界の軌道上に常時1隻のT型哨戒艦を駐留させるためには4隻分の予算が必要であり、 年間100MCr以上が必要になる訳ですが、多くの世界にとっては防衛予算が足りません (100MCrの予算を確保するには主要世界の人口が20万以上が必要です)。




(2)T型哨戒艦の哨戒頻度

 基本的なローテーションが決まったところで、今度はT型哨戒艦の哨戒活動について考えてみましょう。
 主要世界とジャンプ・ポイントとの間を巡回していることにしましたが、この哨戒頻度はどのくらいなのでしょう。


             表11 T型哨戒艦の哨戒頻度

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 主要世界からジャンプ・ポイントまでの移動距離と移動時間を示した表3を加筆修正して、再掲載しました。

 移動時間は一般的な商船の加速度(=1G)で求めてあります。
 救難活動や海賊船との交戦を考慮すると、4G加速のT型哨戒艦であっても1G加速で航行し、 商船と移動速度を合わせておく方が都合良いと考えたためです。



 主要世界が「0:小惑星帯」である場合、 T型哨戒艦哨戒周期は2時間弱でした。
 わざわざ哨戒活動を行うまでもなく、ジャンプ・ポイントは主要世界と宇宙港の目前なのですが、 T型哨戒艦が常に周囲を遊弋していることから、 ジャンプ・ポイントを利用する商船は海賊船以外の非常事態に対しても、安全でしょう。



 主要世界の規模が「1〜4:小型世界」の場合、 哨戒周期5〜9時間の範囲になります。
 すでに述べた通り、主要世界の宇宙港から探知/追跡が可能な距離ですし、多くの場合は援護射撃も可能です。 T型哨戒艦が探知機と兵器の有効範囲を航行している可能性も高いでしょう。
 やはり主要世界が「1〜4:小型世界」の場合、海賊行為の実行は危険です。



 主要世界の規模が「5〜7:中型世界」の場合、 哨戒周期10〜12時間の範囲になります。
 移動距離と哨戒周期から考えて、 T型哨戒艦が探知機と兵器の有効範囲に居る確率は半分でした。 タイミングを的確に選べば、T型哨戒艦が遠くに居る隙を狙って、 海賊行為も可能になるでしょう。

 ただし海賊行為が可能になるのは、哨戒しているT型哨戒艦が1隻だけの場合です。
 2隻以上のT型哨戒艦が哨戒活動に就いているとしたら(人口レベル6以上の裕福な星系ならば十分に有り得ます)、 海賊船が活動するタイミングは見つかりません。 海賊行為を諦めるか、T型哨戒艦との戦闘を覚悟する必要があります。
 もちろん多くの海賊船にとって、T型哨戒艦との戦闘はリスクが高過ぎますが。



 主要世界の規模が「8〜A:大型世界」の場合、 哨戒周期13〜15時間の範囲になります。
 大雑把な計算ですが、T型哨戒艦が探知機と兵器の有効範囲に居る確率は3分の1〜4分の1でした。 海賊行為を実行する余地は十分にあります。

 反対に、「8〜A:大型世界」が海賊船の活動を封じ込めるためには、 常時3〜4隻のT型哨戒艦航路帯に配置して、哨戒させなければなりません。 ローテーションを考慮して3倍、9〜12隻のT型哨戒艦が必要になります。



 主要世界が主恒星の最小安全距離内側に存在する場合、 警備すべき航路帯の長さは、非常に大きくなってしまいます。
 移動距離が最も短いスペクトルM0Y型の主恒星でも3,000万km(600ヘクス)、 最も遠いMZ型で8,780万km(1,755ヘクス)でした。
 哨戒周期62〜106時間
 T型哨戒艦が探知機と兵器の有効範囲に居る可能性はほとんどありません。 海賊船は好きなだけ、海賊行為に励むことができます。

 海賊船の活動を封じ込めるためには、最低でも4時間に1隻、 できれば2時間に1隻の頻度でT型哨戒艦を哨戒させなければなりません。
 つまり16〜27隻ということになりますが、 ローテーションを考えれば3倍が必要で、その数は48〜81隻に増えるでしょう。



 以上の考察より、航路帯とジャンプ・ポイントを海賊船から守るために必要な、 T型哨戒艦の数が明らかになりました。
 「0:小惑星帯」と「1〜4:小型世界」は1隻だけで十分ですが、 「5〜7:中型世界」は2隻(ローテーションを考慮すると6隻)、 「8〜A:大型世界」は3〜4隻(同じく9〜12隻)、 主要世界が主恒星の最小安全距離内側に存在する場合は16〜27隻(同48〜81隻)と、 膨大な数が必要となります。
 裕福な星系ならばともかく、海賊船が出没するような辺境星系で、 これらを維持/運用するための予算はとても望めません。
 辺境星系において、航路帯とジャンプ・ポイントを海賊船から守ることは、 実質的に不可能なのです。寄港する商船はT型哨戒艦が到着するまで自力で身を守る必要があるでしょう。




(3)ジャンプ・ポイントへの到着時間

 辺境星系において、商船が海賊船に遭遇したとしても、 哨戒中のT型哨戒艦が直ぐに駆けつけてくれるという状況は期待できそうにありません。
 世界の規模が「0:小惑星帯」と「1〜4:小型世界」の場合はともかく、 主要世界が主恒星の最小安全距離内側に存在するような場合は望み薄なのです。

 哨戒中のT型哨戒艦が何処にいるかは、トランスポンダを受信すれば分かります。
 その情報を判断材料として、海賊船は商船の襲撃を決断すべきでしょう。

 松永様の「海賊フローチャートver.2.0」で獲物(商船)との遭遇頻度が私の計算よりずっと小さい理由は、 周囲にT型哨戒艦が居ないかどうか(当然、すぐ近くに居れば襲撃は手控えられる)、 そして、海賊船が怪しまれずに商船の視認距離まで接近できたかどうか、 という要素を踏まえたものだと解釈しております。
 実際はどうなのでしょうね?



 哨戒中のT型哨戒艦は遠くに居るか、あるいは遭難した宇宙船の救助に掛かり切りで、 海賊行為を始めたとしても、すぐに此方へ駆け付ける心配はありません。
 安心して海賊行為に取り掛かることにしましょう。

 しかし、主要世界には常に1隻以上のT型哨戒艦が待機している筈です。
 もしかしたら、そのT型哨戒艦海賊行為の現場、 ジャンプ・ポイントへ向かってくるかも知れません。
 念のため、そのT型哨戒艦がジャンプ・ポイントへ到着するまでの時間を計算しておきましょう。


      表12 主要世界の規模とスペクトル型、星系内移動時間の関係

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 4G加速が可能なT型哨戒艦は、1G加速しかできない一般的な商船と比べて、 およそ半分の時間でジャンプ・ポイントへ到着することができました。
 おまけに、上記の数字はジャンプ・ポイントで静止することを前提にした移動時間ですから、 到着することだけを考えるのであれば、必要な時間は更に半分となります。
 救難活動ではなく、海賊船の撃破を目的としているのであれば、そうした行動も有り得るでしょう。



 主要世界の規模が「0:小惑星帯」か「1〜4:小型世界」の場合、 必要な移動時間は2時間以内でした。
 出撃して1時間以内には、ジャンプ・ポイントの周辺で海賊行為に勤しんでいる海賊船を 艦載兵器の射程内に収められるでしょう。
 主要世界から出撃したT型哨戒艦が短時間でジャンプ・ポイントまで駆けつけられるのですから、 余分なT型哨戒艦を哨戒に充てる必要もないくらいです。 実際のところ、デブリの排除や遭難宇宙船の救難活動もありますので、哨戒活動は手を抜けませんが。



 主要世界の規模が「5〜7:中型世界」か「8〜A:大型世界」の場合、 T型哨戒艦に必要な移動時間は3〜4時間でした。
 ジャンプ・ポイントで海賊行為を始めた海賊船には、 襲撃と略奪を済ませるまでに、2〜3時間の猶予が与えられるでしょう。 手早く済ませて逃げることができれば、海賊船の勝ちです。

 ちなみに、「Pirate06:2G加速の価値は?」において、 漂流者の生存時間は最低でも6時間以上である、と結論しました。
 主要世界の100倍直径以内で海賊行為に遭ったのであれば、 生きている内に救助されることを期待できるのではないでしょうか。



 主要世界が「ガスジャイアントの衛星」だった場合、 T型哨戒艦の移動時間は6〜9時間です。
 哨戒中のT型哨戒艦が近くに居ない限り、 海賊船は十分な余裕たっぷりに海賊行為を始め、終わらせることができるでしょう。



 主要世界が主恒星の最小安全距離内側に存在する場合、 T型哨戒艦の移動時間は16〜27時間にまで延びました。
 主要世界から出撃したT型哨戒艦は、海賊船を捕まえるどころか、 (宇宙服だけを頼りにしている)生存者の救助さえも難しいようです。



 トラベラー世界、少なくともCT版MT版において、 海賊船通商破壊艦の活動を許す要因のひとつは、 主要世界とジャンプ・ポイントを結ぶ航路帯の長さにあるようです。
 多くの星系で、主要世界が主恒星の最小安全距離内側を巡っているため、 航路帯の長さは3,000万km以上になりました。
 移動時間が長くなり過ぎたため、主要世界で待機しているT型哨戒艦は、 ジャンプ・ポイントで活動している海賊船の撃退には役立ちません。
 ジャンプ・ポイントに常駐戦力を置いたり、航路帯すべてを警備したりできるの戦力があれば良いのですが、 航路帯は広大であり、海軍予算は有限です。裕福な星系以外、それを実現することは無理でしょう。





6.まとめ

 今回は、トラベラー世界における境界線=100倍直径と、 星系外縁部で活動する海賊船ベルトランナーについて考察してみました。



 まずは、100倍直径の大きさと、その中での移動時間を計算で求めました。
 それに加えて、主恒星の100倍直径による影響も計算すると、 ジャンプポイントから主要世界までの移動時間について、 幾つかの星系で明らかにトラベラーの世界観と一致しない数字(最大で2ヶ月超)が出てきます。
 そこで今度は、MAG様が紹介された最小安全距離の概念を取り入れて解決しましたが、 それでもまだ、過半数(54.4%)の星系において宇宙船は、 主恒星の最小安全距離でジャンプアウトして、主要世界まで長い距離を移動しなければなりません。

 具体的に述べると、帝国領内の124星系(45.6%)は、主要世界が主恒星の最小安全距離外側を巡っており、商船に必要な移動時間は最大7時間、往復でも14時間でした。

 過半数の141星系(51.8%)は、主要世界が主恒星の最小安全距離内側を巡っており、商船に必要な移動時間は30.7〜37時間、往復で2日半〜3日でした。

 最後の7星系(2.6%)は、主恒星が白色矮星の星系です。
 これらの星系も主要世界が主恒星の最小安全距離内側を巡っている訳ですが、 主要世界が白色矮星の至近距離を巡っていると想定したため、移動時間がとても大きくなってしまいました。
 商船の移動時間は44.5〜52.6時間、往復で4日半というところです。
 トラベラー世界における商船の基本行動パターンと矛盾してしまうので、 この7星系には何らかの解決策(例えば、主要世界が可住圏よりも遠い軌道を巡っている、など)を用意する必要があるでしょう。
 もともと、これらの7星系で主要世界が白色矮星の至近距離を巡っているという想定は、 私のハウス・ルールですので、その想定が間違ている可能性は高いのです。



 ジャンプマスクの概念について、図を描いて考察しました。
 同時に、ジャンプマスクを回避した場合の星系内移動時間についても計算しています。

 考察の結果、ジャンプマスクの概念は、 CT版トラベラーMT版トラベラーに相応しくないと判断しました。
 ジャンプマスクによる星系内移動時間の増加は、 トラベラー世界における商船の基本行動パターン、1週間のジャンプと1週間の星系滞在の繰り返しと相容れません。



 ベルトランナーが活動する星系外縁部、地方世界の通商量(宇宙港規模)について考察しました。
 通商量の多い星系、栄えている星系内にあったとしても、 同じ星系内の地方世界は人口が少なく、寄港する商船の数も驚くほど少ないという事実が判明しています。
 主要世界を離れた100倍直径の彼方で商船を待ち伏せているベルトランナーは、 なかなか獲物に出遭えません。彼らの生活を成り立たせるには、都合の良い設定が必要になりそうです。



 最後に、100倍直径航路帯の警備を担当している、 T型哨戒艦の行動パターンを考えてみました。
 100倍直径航路帯の警備に必要なT型哨戒艦の数を求め、 海賊船通商破壊艦の活動を許す要因のひとつは、 主要世界とジャンプ・ポイントを結ぶ航路帯の長さにあると結論しました。
 航路帯すべてを防衛することは、裕福な星系以外、不可能なことなのです。






2012.05.06 初投稿。