The Piracy as the Major Industries
主要産業としての海賊
  MEGA TRAVELLER
Science -Fiction Adventure
in the Far Future

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図1 ヴァルグル海賊

某星系の地上宇宙港で、略奪を行うヴァルグル人




1.はじめに


ヴァルグル海賊(Vargr corsairs)

 どんな言い逃れをしようとも、海賊行為はヴァルグルの間において、完全に合法な専門的職業です。
 カリスマを備えたヴァルグルのリーダーは商船、あるいは軍艦の中でさえ、 乗組員に向かって、彼と一緒に「海賊」になろう、と話すでしょう (そして、もしも彼らが失敗したならば、新しいリーダーが、彼の海賊団に確信させるかも知れません。 貿易を行なうことで、あるいは、誰かの海軍に加わることで、もっと上手く行くようになると)。
 ヴァルグル世界、特に宇宙港は「海賊船を作って、何ができるか見てみよう」という あからさまな事業計画を持つ企業に、安全な避難所を提供します。
 言うまでもなく、これは隣人との関係を緊張させてしまいますが、これがヴァルグルのやり方なのです。


 上記の文章は「GT版 Far Trader p.122」から引用しました。



 「MT版 ハード・タイムズ」において、「コルセア」とは、 ハード・タイムズ以前から海賊として働いてきた集団、のことだと定義されています。
 その一方、「GT版」において、「コルセア」とは、 海賊の別の用語であり、通常はヴァルグルの略奪船団に対して用いられます、と記述されていました。
 非常に興味深い使い分けです。
 私は特に、なぜヴァルグル海賊の呼び名がコルセアなのか、 という疑問を「GT版」に対して抱きました。
 という訳で、今回は「コルセア:Corsairs」について考察してみましょう。



 そもそも「コルセア:Corsairs」とは何なのか、ということを調べ、 その歴史や行動原理をトラベラー世界の海賊船に対応させてみました。
 そして、トラベラー世界の「コルセア」が狙うべき獲物が何なのか、 また、彼らの根拠地はどんな場所なのか、何処にあるのかを明確にしてみます。



 今回は、根拠地を持ち、1回から複数回のジャンプを経て略奪行に出掛けるコルセアについて考察しました。
 「MT版 ハード・タイムズ」や、松永様の「海賊フローチャート」で定義されている 「コルセア:Corsairs」とは、大幅に異なります。





2.コルセアとは何か?


(1)古代テラに存在したコルセア

 「コルセア:Corsairs」について、古代テラでは歴史上の観点から、以下のような定義がなされていました。
 研究者によって視点が異なりますから、この定義も絶対ではありませんが。

コルセア(Corsairs)

 フランス語圏の私掠船、もしくは、バルバリー海賊。


 私掠船についての考察は次回に回しました。
 今回は、同じ「コルセア」であっても、バルバリー海賊だけに対象を絞ります。



 バルバリー海賊というのは7世紀以降、地中海の南岸に拠点を持ち、生活の糧を得るため略奪行に赴いたイスラム海賊のことです。
 当時のイスラム教徒にとって、異教徒を殺し、異教徒から略奪することは、宗教的に「正しい行い」でした。
 船を持ったイスラム教徒が積極的に、地中海北岸の略奪行へ赴いたことも、不思議なことではありません。

 彼らが駆る海賊船は、小回りの利く小さなガレー船。
 数の優位と機動力を活かして防衛線を突破し、無防備な商船や海沿いの街を襲撃。
 高価な略奪品や拉致した住民をガレー船に載せて、素早く立ち去るという戦法を取ります。

 すでにローマ帝国が力を失って数世紀。
 地中海の北岸(ヨーロッパ側)に、彼らを撃退できる軍事力は存在しませんでした。
 海岸沿いの町だけでなく、海岸から離れた場所も略奪されたとのこと。 当時の技術レベルでは仕方のないことですが、文字通りの神出鬼没だったようです。
 財宝や物資だけでなく、住人も拉致されました。
 最初は奴隷としての労働力を期待されて拉致されていたようですが、 ヨーロッパ側が拉致された被害者(奴隷)を買い取りによって救い出すようになってからは、今度はそうした身代金目当ての拉致が増えたとのこと。
 善意の救出活動が被害を増加させてしまうというのも悲しい話です。

 前述した通り、これらの行為はイスラム教徒にとって「正しい行い」です。
 根拠地の司法当局は、彼らの殺人/略奪行為を咎めません。それどころか宗教関係者や為政者、一般市民は、彼らを「英雄」と呼び、賞賛します。
 当然のように、彼らは合法的にガレー船を手に入れ、乗組員を集め、略奪品を売却することが可能になっているのです。
 余談ですが、イスラム教徒の船や町を襲うことは、イスラム教徒にとっても「犯罪」でしたから、そうした行為には厳しい処罰が待っています。

 これらの海賊は「バルバリー海賊:Barbary Corsairs」、 あるいは単に「コルセア:Corsairs」と呼ばれました。
 なぜか「海賊:Pirates」とは呼ばれていません。
 日本語では区別できない「海賊:Corsairs」と「海賊:Pirates」との違いは 一体、何なのでしょうか?



 「ローマ亡き後の地中海世界」を執筆されている塩野七生氏によれば、

 pirate はラテン語の pirata を語源としており、非公認の海賊である。
 自分自身の利益を得ることを目的として海賊行為に従事する者。

 corsair はラテン語の cursarius を語源とした、公認された海賊。
 同じように海賊行為は行っても、その背後には、公認にしろ黙認にしろ、国家や宗教が控えていた者たちを指す。
 故に、公益をもたらす海賊である。


 なのだそうです。
 但し、コルセアとして海戦に参戦しての帰途はパイレーツに豹変し、 帰り道にあたった海沿いの町や村を襲って略奪した物や人を満載して本拠地に帰還するという例は数えきれないくらいにあった、 とも記述されていますので、必ずしも明確な区別ではなかったようですね。




(2)トラベラー世界のコルセア

 私の考察において「コルセア:Corsairs」は、根拠地を持ち、そこを拠点として活動に勤しむ海賊だと定義しました。
 松永様の「海賊フローチャート ver2.0」では Step.1 と Step.3 に掲載されている、

Step.1.2 基地の設定(首謀者のみ)
 海賊には基地が必要である。
 治安度2-の世界にならどこでも「基地にする」と宣言するだけでよい(笑)。
 密輸品の調達や略奪品の売却、物資の補給などのために、
 人口コードが5+の世界が望ましい。
 こうした世界では、その世界上で犯罪を犯さない限りは、
 大手を振って生きていける。
 これは私掠許可証を所有している場合は、拿捕対象となる世界以外、
 どこにでも基地を設置できる。

Step.3 航海の決算
 無事に帰ってくることができれば、略奪品の売却、身代金の受け取りなどを行う。
 基地としている世界でこうした取引を行うならば、何の問題も生じないが、
 その他の世界では常に逮捕される危険がある。


 といったルールを念頭に置いている訳です。
 こうした根拠地を持つ「コルセア」は、 乗組員が大手を振って歩き回る(休暇を楽しむ)ことと、略奪品を安全に売り捌くことができるようになりました。
 この根拠地にBクラス以上の宇宙港が存在するのであれば、宇宙船の整備や修理、改造も可能でしょう。

 逆に考えると、「コルセア」の根拠地は、

 1.乗組員が大手を振って歩き回る(休暇を楽しむ)ことができ、
 2.略奪品を安全に売り捌くことが可能で、
 3.宇宙港クラスにもよりますが、
   海賊船の整備や修理、改造が可能な世界。


 である、ということになります。
 こういった世界が簡単に見つかるのか、また、利用を続けることができるのか、ということについても考えてみましょう。





3.ヴァルグル海賊(コルセア)の経済


 実は以前から、私は大きな疑問を抱えていました。
 スピンワード・マーチ宙域の銀河核方向、グヴァードン宙域から押し寄せるヴァルグル海賊は、 はたして生計を立てることができるのだろうかと。

 ヴァルグル海賊は数パーセク〜十数パーセクの距離を横切って、帝国領内を荒らしている、という設定です。
 しかし、CT版もMT版も、投機貿易はそれほど儲かりません。
 何パーセクもの旅路を経ても儲かることが確実な投機貿易品を入手できる世界(仕入れ世界と市場世界)の組み合わせは、それほど多くないのです。
 宇宙船の維持費やローン返済のことを考えたら、ヴァルグル海賊はあっという間に破産してしまうでしょう。
 それなのに、どうしてヴァルグル海賊は何パーセクもの彼方から(2回〜5回のジャンプ、往復で6〜12週間が必要)押し寄せることができるのか。
 これが、私の大きな疑問です。

 16〜17世紀、イギリスやフランスの海賊が大西洋を横切ってカリブ海へ、 更にマゼラン海峡を抜けて太平洋側まで遠征した歴史を思い浮かべるのであれば、上記は妥当な設定かも知れません。
 しかし、古代テラの海賊が半年や一年といった長期間の遠征を実行できた理由は、彼らの略奪品が高価な銀塊だったからです。 あるいは、黄金並に貴重なスパイスなど、ドレークが奪ってきた膨大な銀塊の価値は、イギリスの国家歳入よりも大きかったとか。
 しかし、何度も繰り返しますが、トラベラーの投機貿易はそれほど儲からないのです。

 私の考察に誤りがあって、投機貿易品はもっと儲かるものなのでしょうか?
 それとも、ヴァルグル海賊は宇宙船のローン返済に気を遣わなくても良いのでしょうか?

 ヴァルグルに限らず、帝国の国境外に根拠地を持つ海賊船全般の経済について言えることですが、 これらの問題を考察してみました。




(1)ヴァルグル海賊の移動経路

 ヴァルグルが利用している宇宙船は、「CT版 トラベラー・アドベンチャー」によれば、 200トンのジャンプ2商船か、400トンのジャンプ2海賊船です。
 基本的に、彼らの恒星間移動はジャンプ2で行われていると考えても良いでしょう。
 「MT版 反乱軍ソース・ブック」に掲載されている巡洋艦2隻も、 英文エラッタでジャンプ2性能に訂正されていましたから、この推測に矛盾しません。
 「CT版ボード・ゲーム:第五次辺境戦争」に登場するヴァルグル戦艦と巡洋艦は ジャンプ3性能だったような記憶もありますが、とりあえず無視(笑)。

 さて、ヴァルグル海賊がジャンプ2性能で帝国領内へ略奪行に押し寄せてくると想定しましょう。
 彼らの根拠地が、ユーズ星域のパンドリン星系だと仮定します。
 ユーズ星域はリジャイナ星域の銀河核方向に隣接した星域で、 パンドリン星系はデンタス星系の銀河核方向に隣接しています(1パーセクの距離にあるということです)。
 宇宙港クラスはB、人口レベル6、テックレベルはA。海賊の根拠地としては手頃な世界でしょう。

 パンドリン星系からジャンプ2で移動できる目的地は、隣接したデンタス星系か、2パーセク離れたキノーブ星系の2箇所のみ。
 できるだけ帝国の内部へ食い込みたいので、キノーブ星系を選択しました。
 キノーブ星系にはガス・ジャイアントが存在するので、燃料補給だけを行い、次の目的地へ向かいます。
 というか、帝国国境線のすぐ内側にある2星系は、防備が堅い筈だと考えました。
 他にも政治的/経済的な対策が行われていて、これらの世界を略奪することは割に合わないだろうと思われます。

 キノーブ星系からジャンプ2で移動できる目的地は、ヨーバンドとヒーヤ、2パーセク離れたベックス・ワールドの3箇所。
 残念ながら、ピクシーやブーギーン星系との間には3パーセクの距離が邪魔をするため、ジャンプできません。
 今回も帝国内部、ベックス・ワールドへ移動することにしました。
 ベックス・ワールド星系にもガス・ジャイアントが存在するため、 燃料補給の不安はありません。速やかに、次の目的地へ向かいましょう。

 ベックス・ワールド星系から先は、獲物が豊富に見つかります。
 隣接したイノープ星系はテックレベル6の工業世界なので、惑星海軍が存在しません。
 2パーセクの距離にあるプサイアスとケングは未開世界なので、惑星海軍はもちろんのこと、防衛大隊の装備も貧弱です。
 同じく2パーセク離れたシオンシーは小惑星帯。 フィーリは富裕世界なので寄港する商船は豊富ですし、その地上にも財宝が山ほど存在することでしょう。



 ヴァルグル海賊の移動経路を、以下に示します。
 私の考察「スピンワードマーチ惑星海軍:Spinward Marches System Gurds」にも、 同じものを掲載してありますが。


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     図2 ヴァルグル海賊の移動経路(リジャイナ星域とアラミス星域)

 他のコースも掲載されていますが、ここで述べている移動経路は、 アルファベットのに該当しています。



 これらヴァルグル海賊の侵入から、帝国市民を守る帝国海軍や惑星海軍の配備は以下の通り。


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    図3 ヴァルグル海賊の移動経路(リジャイナ星域とアラミス星域)

 水色の星系は、帝国海軍基地が置かれている星系。
 帝国海軍が防衛を担当しています。
 惑星海軍の規模は、不十分か、あるいは存在していません。
 小艦隊規模(巡洋艦8隻以上)の攻撃も撃退できるでしょう。

 青色の星系は、
 十分な規模の惑星海軍を持ち、帝国/星域海軍基地も置かれている星系。
 小艦隊規模(巡洋艦8隻以上)の攻撃も撃退できるでしょう。

 緑色の星系は、
 十分な規模(海軍予算が5,000Mcr以上)の惑星海軍を持つ星系。
 小艦隊規模(巡洋艦8隻以上)の攻撃も撃退できるでしょう。

 黄色の星系は、
 不十分な規模(海軍予算が100〜5,000Mcr)の惑星海軍を持つ星系。
 巡洋艦より小さい戦闘力の通商破壊艦ならば、撃退が可能。

 赤色の星系は、
 惑星海軍を持たない星系(海軍予算が存在しないか、100Mcr未満)。
 人口レベルが4未満、もしくは、テックレベルが7未満の星系であり、
 通商破壊艦に対する防衛力をまったく持ちません。

 帝国国境の最前線、デンタスとキノーブ星系を抜けることさえできれば、その先には無防備な星系が広がっている訳です。
 気まぐれなヴァルグル市民が、略奪行から帰ってきた海賊の土産話を聞いて、自分も略奪行に参加しようと思っても不自然ではありませんね。



 話を元に戻します。

 という訳で、帝国国境線のすぐ外側に根拠地を持ったヴァルグル海賊が獲物の豊富な帝国内部に進入するまで、 ジャンプ2で3回のジャンプ、合計で6パーセクの移動が必要だと判明しました。
 移動途中のキノーブやベックス・ワールドで略奪を行うのであれば、移動距離は2〜4パーセクまで短くなりますし、 反対にイノープやフィーリでは満足できないのであれば、移動距離は8〜10パーセクまで増えるでしょう。
 私の考察において、略奪行の目的地としてイノープやフィーリは十分に適切であり、移動距離として6パーセクが必要だと想定します。
 移動途中の星系では燃料補給を行うだけですので、余計な時間は掛かりません。
 ジャンプ1回(移動距離2パーセク)ならば、移動時間は4週間。ジャンプ2回(同4パーセク)ならば6週間。 ジャンプ3回(同6パーセク)ならば8週間が費やされるものだと考えました。

 略奪行に向かう場合、ヴァルグル海賊船の船倉は空だと考えています。
 これから略奪を行うことが明らかなヴァルグルに、目的地での貿易品売買が可能だとは思えません。
 略奪対象ではない、途中の寄港地で貿易品を売るという行動も、実際には難しいと思われます。
 持っていても売ることができないのですから、帰路には略奪品を積み込む際は、それらの貿易品を捨てなければなりません。
 往路の船倉に売れない貿易品を積むことは明らかな無駄でしょう。

 要するに、略奪行に出たヴァルグル海賊船は、遠征先から持ち帰った略奪品の売却利益だけで、 略奪に出ている期間の維持費とローン返済を賄わなければなりません。
 そうしたヴァルグル海賊船(コルセア)の経済状態を検討してみましょう。




(2)コルセアの維持費とローン返済

 まずは、支出を考えます。

 海賊船の維持費については「Pirate02:海賊の経済1」でも考察しましたが、 専用室の維持費と乗組員の給料、定期整備費用の積み立て、購入する場合は燃料代の合計となります。
 ローン返済も、海賊船が盗品でない以上、支払いは不可欠です。
 ヴァルグル海賊の場合は、海賊船の建造費を出資してくれた方への謝礼に該当するでしょう (そもそも、あのヴァルグル社会にローン制度が存在できるかどうかも分かりません。 それでも出資に対する最低限の見返りがなければ、その世界の経済が破綻します)。

 以下は「Pirate02:海賊の経済1」の表14に、 AU型外航自由貿易船VA型自由貿易船VP型海賊船を追加したものです。


               表4 海賊船の維持費

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 ローンもきちんと支払うという想定ですが、 S型偵察艦の支出は2週間当たり76KCr、A型自由貿易船は98KCr、 P型海賊船の支出は356KCr、T型哨戒艦は431KCrでした。
 AU型外航自由貿易船の支出がA型自由貿易船より少ない理由は、 高価なパワープラントの大きさによるものです。 公式設定のA型自由貿易船は、なぜか大出力のパワープラントを搭載しており、 ジャンプ能力の低さにも関係なく高価な宇宙船となっていました。
 ヴァルグルの宇宙船、VA型商船の支出は2週間当たりは140KCr、 VP型海賊船は598KCrです。



 この支出額を元にして、略奪行全体の支出総額を求めます。
 略奪行の目的地がジャンプ1回で辿り着ける先にあるのであれば、上記支出額の2倍(4週間分)を稼がなければなりません。
 目的地までジャンプ2回が必要ならば、往復に費やす時間は6週間ですから3倍を稼ぐ必要が出てきます。
 ジャンプ3回ならば8週間で4倍。

 これだけだと、まだ良く分かりませんね。
 略奪行全体の支出額を、その海賊船の船倉容積で割ってみました。
 この数字で比較するのであれば、海賊船が貨物1トンでどれだけの利益を得なければならないのか、が分かります。 示されているだけの利益を得られなければ、海賊船は赤字で廃業しなければならない (ヴァルグルの場合は、他のリーダーに船長の座を奪われる)ことでしょう。

 計算した結果は以下の通り。


         表5 略奪行に必要な支出額(ローン+維持費)

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 左端から、宇宙船タイプ、船倉容積(排水素トン)、略奪行に必要な支出額を並べました。
 支出額はジャンプ回数(1〜4回)と移動時間(4週〜10週)毎に分けています。
 それぞれの欄の左側は総額、右側は船倉1トン当たりの支出額にしました。

 船倉1トン当たりの支出額は、5.0KCr以下が黄色5.1〜10.0KCrが緑色10.1〜20.0KCrが水色20.1KCr以上が赤色で示してあります。



 オリジナル設計で船倉を15トンまで拡張しましたが、それでもS型偵察艦は大苦戦です。
 ジャンプ1回で船倉1トン当たり10.2KCr、ジャンプ2回で15.2KCrでした。
 S型偵察艦は、こういった略奪行に向きません。

 A型自由貿易船AU型外航自由貿易船R型政府指定商船は、 ジャンプ1回で2.1〜2.4KCr、ジャンプ3回でも4.2〜4.8KCrと、極めて優秀です。
 問題はこの2隻がジャンプ1性能だということで、ジャンプ3回でも3パーセクの距離しか進めません。

 M型政府指定客船は、 ジャンプ1回で3.7KCr、ジャンプ2〜4回で5.6〜9.3KCrでした。
 ジャンプ3の性能を持っている割に、経済性が良好です。
 これならば、7〜12パーセクの彼方にまで遠征を行うことも可能でしょう。
 行った先で略奪が可能かどうかはともかく。

 P型海賊船は、 ジャンプ1回で4.8KCr、ジャンプ2〜3回で7.1〜9.5KCrでした。
 ジャンプ4回になると採算が悪化して11.9KCrまで上がりますが、まだ稼げないレベルではありません。
 船倉が広い(150トンもある)おかげで、何とかなっているようです。
 ジャンプ2性能ですから、6〜8パーセクの彼方まで遠征することが可能でしょう。

 反対にT型哨戒艦の経済性は悲惨です。
 P型海賊船と比べて支出総額はそれほど変わらないのに、船倉が60トン(P型の4割)しかない所為で、 ジャンプ1回でも14.4KCr、ジャンプ2回以上は21.6KCr以上
 S型偵察艦よりも、略奪行に不向きです。

 C型巡航艦は更に悲惨でした。
 わずか1回のジャンプでも貨物1トン当たり35.6KCrを稼がなければなりません。
 はっきり言って、こんな高価な宇宙船での略奪行は無理です。



 経済性の悪いT型哨戒艦C型巡航艦を救済するため、 同じジャンプ3性能を備えたM型客船を随伴することにしましょう。
 戦闘や略奪はT型哨戒艦C型巡航艦に任せ、 M型客船は略奪品と拉致した人員の輸送に専念するのです。
 T型哨戒艦M型客船3隻、 C型巡航艦M型客船6隻を随伴させた場合の支出総額と、 貨物1トン当たりの支出額を示しました。
 略奪品輸送艦として3〜6隻のM型客船を随伴させれば、 経済性はP型海賊船のレベルまで改善します。
 そんなことを実際に行えるかどうかは別として。



 ヴァルグルの宇宙船であるVA型商船船は、 ジャンプ1〜2回が2.9〜4.3KCr、ジャンプ3〜4回でも5.7〜7.1KCrでした。
 ジャンプ1回で2パーセクの距離を跳べますから、上手くすれば8パーセクの距離まで遠征することが可能でしょう。 問題になるのは戦闘能力の低さですが。

 戦闘能力に秀でたVP型海賊船は、5G加速の性能が仇になったのか、 T型哨戒艦以上に不経済でした。
 MT版の輸送機器設計ルールは、CT版に比べて高加速度の宇宙船を作り難いのです。
 具体的なコストは、ジャンプ1回で31.5KCr、ジャンプ3回で63.0KCr

 ここでも救済策を考えてみます。
 同じジャンプ2性能ですから、VP型海賊船1隻にVA型商船船6隻を随伴させ、 それなりの輸送能力を備えた、合計7隻の海賊船団を編成しました。
 必要な稼ぎはジャンプ1回で4.6KCr、ジャンプ2〜3回で6.9〜9.2KCrまで下がり、 黒字での略奪行が可能になったようです。



 宇宙船を拿捕や窃盗で入手し、ローン返済が不要な方のため、維持費のみで略奪行の支出総額も求めました。


               表6 海賊船の維持費

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 ご覧の通り、海賊船の支出は激減しました。
 ローンを抱えていなければ、ローン返済を終えた老朽艦か、あるいはこちらの方が有り得そうですが、 拿捕や窃盗によって入手した商船であれば、ジャンプ4回以上の略奪行も経済的に行うことができるでしょう。

 すでに述べたように、ヴァルグル社会においてローン制度が存在できるとは思えません。
 しかし、ヴァルグル社会では「カリスマ」というものが極めて重要な役割を果たしていますので、 海賊船の船長が自分の「カリスマ」を保ち続けるためには、出資者への謝礼が欠かせないと考えました。
 出資者へ十分な謝礼を払えなくなった船長は「カリスマ」を失い、新たな船長に取って代わられることとなるのです。
 その新しい船長は自分の「カリスマ」を高めるため、出資者への謝礼を優先して支払わなければなりませんので、 そのための費用がローンの返済額に相当すると考えています。




(3)合法的な、略奪品の売却

 今度は収入を考えましょう。

 基本的に、MT版の投機貿易ルールは儲からないと思っています。
 このあたりは「黄昏の峰への前奏曲1〜4」で確認済み。
 ですから、ジャンプを3回も4回も繰り返した先で売却する貿易品も、それほど利益が出ない筈……だと思っていました。

 しかし略奪品の売却価格を改めて計算してみると、 MT版貿易ルールの利益を大きく減じていたのは、貿易品の仕入れ価格であったという当たり前の事実が判明。
 仕入れ値がゼロで済んでいるのであれば、MT版の貿易ルールで得られる利益は極めて大きくなります。
 売却を合法的に行えるという設定も重要でしょう。
 私のハウス・ルールにおいて、盗品は「10分の1の価格」でしか売れない想定でしたが、 ヴァルグル海賊は帝国領外に根拠地を持っているので、そこでは問題なく合法的に略奪品を売却できるものとしました。
 そもそもヴァルグルは、自分の買う貿易品(商品)が盗品であるかどうか、それが自分の仲間から奪われたものでない限り、気にしません。 正確にはリーダーの意向に従うので、リーダーが気にしないと言えば誰も気にしなくなるのですが。



 具体的な数字を検討するため、キノーブ、ベックス・ワールド、イノープ、フィーリで購入した、 もしくは、略奪した貿易品の売却利益を計算してみました。
 宇宙港でブローカーから購入する、もしくは、星系離脱中の商船をジャンプ・ポイントで待ち伏せて略奪する、という想定です。
 まだ詳細は検討中ですが、宇宙港や地上施設からの略奪も考えられるでしょう。


        表7 パンドリンで貿易品を売却した場合の利益期待値

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 まずは、根拠地であるパンドリン(Pandrin B560675-A,砂漠、非工業)で貿易品を売却した際に得られる、貿易品1トン当たりの利益期待値です。
 赤字確定の利益期待値が1,000cr以下は、赤字で示しました。
 利益期待値が1,001cr〜5,000crの範囲は黄色5,001cr〜10,000cr緑色10,001cr以上水色です。

 貿易品の「天然資源」は、テックレベルによる価格修正が加算されないものを指します。
 「加工品」は通常通り、仕入れ世界のテックレベルが市場世界のテックレベルより高いと有利な価格修正が、 仕入れ世界のテックレベルが市場世界のテックレベルよりも低いと不利な価格修正が加算されるものを指します。
 具体的には「加工品」だけでなく「工業製品」の前半(11〜36)と「情報」も含まれます。
 「機械類」は、仕入れ世界のテックレベルと市場世界のテックレベルの差が、常に不利な価格修正となるもの、 具体的には「工業製品」の後半(41〜66)を指します。
 「珍品」は、仕入れ世界のテックレベルと市場世界のテックレベルの差が、常に有利な価格修正となるものです。

 貿易品売却の際の〈ブローカー〉技能レベルは3レベルを想定しました。
 乗組員の〈ブローカー〉技能レベルが3よりも低い場合、あるいは、宇宙港のブローカーを利用する場合、 得られる利益が2〜3割少なくなってしまいます。
 その分だけ採算が悪くなりますので、御注意ください。



 キノーブ、ベックス・ワールドの貿易品は全く儲かりません。貨物運賃の1,000crにも満たない利益しか得られませんでした。
 運よく珍品を仕入れることができれば良いのですが、そう簡単には見つかりません。
 ところが略奪を行った場合、仕入れ値の負担がなくなった貿易品は最低でも 7,515cr(キノーブ)の利益を保証してくれるようになりました。
 比較的見つけやすい天然資源であれば、6,012crの利益が得られるでしょう。
 この金額ならば1〜2回のジャンプを経ても黒字にできますから、ヴァルグルの自由貿易商人が海賊に鞍替えしたくなる理由も分かりますね。
 定価での合法的な売却が可能ならば、海賊稼業はとても儲かるのです。

 ジャンプ3回の距離にある工業世界、イノープの場合、天然資源と珍品ならば利益が出ます。
 これならば辛うじて、貿易商人としても採算が取れるかも知れません。
 しかし、海賊行為に走れば確実に儲かります。略奪した貿易品が加工品や工業製品であっても構いません。 珍品を見つければ、16,834crもの利益を得られます。

 同じくジャンプ3回で辿り着く富裕世界フィーリはテックレベルが高いおかげか、どの貿易品でもそれなりの利益を期待できます。 具体的には2,016〜3,820crの範囲で。
 通常ならば喜ぶべき金額ですが、ジャンプ3回を経てしまう以上、貿易商人としては赤字でした。
 略奪を行うのであれば、利益期待値は8,116〜9,920cr
 P型海賊船のジャンプ3回(8週間の略奪行)を黒字で終えることができるでしょう。



 しかし貿易品は、高く売れるものが常に入手できるとは限りません。
 貿易品を購入するならば「買わない」という選択肢もありますが、略奪する場合は拒否権なしです。 手ぶらで帰る訳にはいきませんから、貿易品を選ぶことは困難でしょう。
 そのあたりの事情を加味して、上記の利益期待値に貿易品の入手確率を掛けてみました。


       表8 パンドリンで貿易品を売却した場合の利益期待値

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 貿易品の入手確率を掛けてみたところ、イノープの貿易品(略奪品)の利益期待値は平均で、9,352cr
 フィーリの貿易品(略奪品)の利益期待値は、平均9,619crになると判明しました。
 ヴァルグルの海賊船団(例えば、VP型海賊船2隻とVA型商船12隻から成る、 14隻の集団)がパンドリンから遠征してくるとしても、ぎりぎり採算が取れる距離(ジャンプ3回、往復8週間)だということです。

 幾つかの世界で調べてみましたが、入手できる貿易品の中では「加工品」の占める割合が圧倒的なので、 貿易品(略奪品)全体の利益期待値は、「加工品」の利益期待値に左右されることが分かりました。
 イノープのような高人口世界は「珍品」の入手確率が高いので、全体の数値を底上げしてくれますが、基本的には、 帝国製のハイテク製品が(テックレベルの低い)ヴァルグルで良く売れる、という設定を裏付けてくれるようです。

 イフェイトの貿易品(略奪品)利益期待値11,836crは、参考のために載せました。
 この金額ならば、ヴァルグル海賊船団はジャンプ4回の長距離遠征でも採算が合います。
 ジャンプ2が基本のヴァルグル宇宙船では無理ですが、 M型客船を随伴したT型哨戒艦の海賊船団ならば到達可能でしょう。



 略奪行に出掛ける場合、ジャンプ1回か2回で辿り着けるキノーブやベックス・ワールドでも黒字を期待できるのに、 ヴァルグル海賊がわざわざジャンプ3回を必要とするイノープやフィーリまで押し寄せる理由はなんでしょうか?
 近場で十分儲かるのに、わざわざ遠出することは不自然ですから、何とか理由を見つけましょう。
 ヴァルグル海賊がフィーリを襲撃したという情報は、トラベラー・ニュース・サービス(GT版)における公式設定ですので、覆す訳にもいきません。

 理由の1つめは、獲物の豊富さ。
 キノーブの人口レベルは6で、ベックス・ワールドの人口レベルは4。
 それに対して、イノープの人口レベルは9で、フィーリは8でした。
 単純に考えても、イノープはキノーブの1千倍、フィーリは100倍の人口を抱えています。
 イノープやフィーリは人口に比例して、略奪できる品物も豊富であることは確実でしょう。

 「CT版サプリメント:第五次辺境戦争」によると、 海賊行為の増加によって、キノーブ=ピクシー間の輸送は2ヶ月で10隻以下まで激減したそうです。
 元々の輸送量(通商量)がどれだけなのか分かりませんが、減少した輸送量が2ヶ月間も放置されていたことから考えて、 その輸送量も大した量ではなかったのでしょう。
 この設定から考えると、キノーブに寄港する商船の数は少なかったのだと推測されます。
 ヴァルグル海賊がちょっと活動しただけで、獲物(商船)は獲り尽くされてしまうということです。

 理由の2つめは、主要世界の防備。
 ヴァルグルとの国境ぎりぎりですから、帝国政府は当然のように略奪を警戒しており、特にキノーブは主要世界の防備も堅い筈です。
 帝国領の内部であれば警戒も薄く、ヴァルグル海賊が略奪に成功する可能性も高くなります。
 警戒が厳重なキノーブ星系に進入したヴァルグル海賊は星系外縁でこっそりと燃料補給を済ませ、帝国領内部を目指すのではないでしょうか?
 このあたり、ますます地中海のコルセアに類似してきますが、海賊ならば当然の行動だと思われます。



 サンプルとしてパンドリン星系(Pandrin)だけでは足りません。
 隣接したギシャルシャ星系(Ghisaersae C758646-7,農業、非工業)についても利益期待値を求めてみました。


       表9 ギシャルシャで貿易品を売却した場合の利益期待値

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 今度は、ギシャルシャ(Ghisaersae C758646-7,農業、非工業)で貿易品を売却した際に得られる、貿易品1トン当たりの利益期待値です。

 世界の貿易分類に「農業」が追加されたことと、世界のテックレベルが低いおかげで、利益期待値が上がりました。
 今回のサンプルに、貿易分類が「非工業」だけの根拠地はありませんが、その場合、利益期待値は大幅に下がってしまいます。
 多くの場合、根拠地には人口レベル6以下の「非工業世界」を選ばなければならないとは思いますが、 それに「農業、小惑星帯、砂漠、富裕、真空」を加えるだけで、海賊の経済状態は一気に改善されることでしょう。
 根拠地を選ぶ場合、その貿易分類に「非工業」以外、できれば上記の5つのどれかが含まれているようにしてください。
 また、世界のテックレベルは低い方が、貿易品を高く売却できる可能性が高いようです。


 上記の利益期待値に貿易品の入手確率を掛けた結果は、以下の通り。


      表10 ギシャルシャで貿易品を売却した場合の利益期待値

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 イノープの貿易品(略奪品)の利益期待値は平均で9,937cr
 フィーリの貿易品(略奪品)の利益期待値は平均で11,423crでした。
 ギシャルシャから遠征してくる場合、ジャンプ回数が1回増えてジャンプ4回の欄を見なければいけません。 ジャンプ4回を行うヴァルグルの海賊船団の支出は11.5KCrですから、 遠征先がイノープであれば採算割れ、フィーリであればぎりぎり赤字すれすれということになるでしょう。
 ちょっと厳しい話です。
 松永様の「海賊フローチャート」に掲載されている、現金収入を含めれば安心できるのですが。



 非工業世界ではないサンプルを見てみましょう。
 パンドリン(Pandrin)から2パーセク離れたウーグルロジー(Ueghrrozue A6A47BA-A,非水海洋)での利益期待値です。


      表11 ウーグルロジーで貿易品を売却した場合の利益期待値

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 せっかく「非工業」ではない、人口レベルが7以上の世界を見つけて根拠地としたのに、貿易品の利益期待値があまり変わりませんでした。
 「非工業」であっても「農業」が付属しているギシャルシャ星系の方が、高く売れることもあります。


 上記の利益期待値に貿易品の入手確率を掛けた結果は、以下の通り。


      表12 ウーグルロジーで貿易品を売却した場合の利益期待値

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 イノープの貿易品(略奪品)の利益期待値は平均で8,517cr
 フィーリの貿易品(略奪品)の利益期待値は平均で9,519crでした。
 今回もジャンプ4回の欄を見なければいけませんが、その場合の支出は11.5KCr
 ヴァルグル海賊船団は余程の幸運に恵まれない限り、常に赤字となってしまいます。




(4)ヴァルグル海賊(コルセア)の行動範囲

 以上、支出と収入の関係から、ヴァルグル海賊の行動範囲が見えてきました。
 実際、略奪品を定価の「10分の1の価格」ではなく、定価そのままで売却益を計算してみたところ、 その利益の意外な大きさが明らかになっています。
 ヴァルグルが安易に海賊行為を始める理由は唯一つ。貿易よりも略奪が儲かるためなのです。

 反対に、帝国内で海賊行為が流行らない(頻発しない)理由のひとつとしては、 略奪品が定価の「10分の1の価格」でしか売り捌けないため儲からない、ということなのかも知れません。
 当初、「GT版 Far Trader」に記載されていた、 盗品の価格は「10分の1」というルールを訳した際、あまりの安さにとんでもないルールだと頭を抱えたものですが、 こういった数字を出して考察してみると、CT版MT版でも通用する、 実に妥当なルールであることが判明しました。



 さて、ヴァルグル海賊は根拠地において、合法的な略奪品の売却が可能です。
 収支計算から考えて、ヴァルグル海賊が貿易品の略奪だけしか行わないと仮定するのであれば、 ヴァルグル海賊の代名詞的存在(?)かと思われていたVP型海賊船を、 根拠地から離れた帝国領内で「単独で見掛ける」ことはなさそうです。
 貿易品の略奪に専念するヴァルグル海賊は経済的な理由から、 海賊船としてVA型商船を用いることしかできません。

 VP型海賊船が経済的な略奪行を行うためには、 略奪品輸送を請け負うVA型商船の随伴が欠かせないでしょう。
 VP型海賊船1隻に対してVA型商船5〜6隻が付き従うことでようやく、 高価なVP型海賊船を略奪行に赴かせることができるのです。
 つまり、帝国領内でVP型海賊船1隻を「単独で見掛けた」場合、 その星系内にはすでにVA型商船5〜6隻が侵入していると予想すべきなのでしょう。
 貴方が星系防衛の責任を負うT型哨戒艦の艦長であるならば、 目の前のVP型海賊船だけに注意を払っていてはいけない、ということですね。



 また、多くの星系では、貿易品(略奪品)の利益期待値が10.0KCr以下にしかなりません。
 ですから、上記の海賊船団も採算を合わせるためにはジャンプ3回(6パーセク)の遠征が精々です。
 一部の星系だけが10.1KCr以上の利益期待値をもたらしてくれますが、それでも、ジャンプ4回(8パーセク)まで。
 ヴァルグルの根拠地星系から6パーセク以内にある全ての星系、及び、8パーセク以内にある一部の世界は、 常にヴァルグル海賊の襲撃へ備えておく必要があるのです。
 逆に考えれば、ヴァルグルの根拠地星系から9パーセク以上離れた帝国領内の世界は、 ヴァルグル海賊の襲撃をそれほど心配しなくても良いということが分かりました。

 VA型商船だけで、単独であれ数隻の船団であれ、略奪行に赴いた場合は、 ジャンプ5回(10パーセク)〜ジャンプ7回(14パーセク)の距離まで採算が取れてしまいますが、 VA型商船の戦闘力は低いので、撃退するために惑星海軍は必ずしも必要ではないでしょう。
 T型哨戒艦が星系防衛に任務に就いていれば、それで十分です。



 上記で考察してきたようなヴァルグル海賊(コルセア)の跳梁跋扈を防ぐためには、帝国海軍の活動が不可欠です。
 帝国海軍が国境線でヴァルグルの大規模な侵入を防いでいるのであれば、監視の目を掻い潜って侵入してくる小規模なヴァルグル海賊は、 惑星海軍やT型哨戒艦でも撃退が可能でしょう。
 様々な記述から判断して、上記の対応はトラベラーの公式設定とも矛盾しておりません。

 ヴァルグル以外にも、帝国領内への侵入と略奪を狙っている海賊は存在します。
 そうした海賊には、ソードワールズ連合の私掠船を初めとする、268星域やアードン連邦の海賊船などが挙げられるでしょう。
 彼らは帝国領内での略奪について罪の意識を感じることもなく、また、政府自体が略奪行為を奨励しています。





4.海賊(コルセア)の略奪対象


 前章では、帝国の国境外に根拠地を持つ海賊船全般の経済について考察してみました。
 そして、帝国の国境(正確には、国境外に存在する海賊の根拠地)から6〜8パーセク以内に存在している帝国領内の世界は、 帝国海軍がきちんと国境防衛の責任を果たしていない限り、海賊に襲撃されるリスクを抱えているという結論が出ています。
 ですから、帝国の国境から遠く(具体的には10〜15パーセク以上)離れた世界であれば、 帝国国境外からの海賊に略奪される心配はありません

 しかしながら、こうしたトラベラー世界の海賊船の行動パターンを古代テラの海賊船に準えると、大きな違和感が見つかります。
 古代テラの海賊船(の一部)は略奪行のため、極めて長い距離を、長い時間を費やして移動していました。
 例えば、南米のスペイン領で大量の銀塊を奪い、世界を一周してイギリスへ帰還した事例(ドレークの世界周航)や、 北米東海岸を起点としてインド洋を荒らしまわった海賊船(海賊周航)、大西洋を横断して活躍した米英仏の私掠船が挙げられるでしょう。
 その遠征期間は、数週間から数か月、場合によっては年単位の略奪行もありました。

 それに対して、前章で考察したトラベラー世界の海賊船「コルセア」は数週間、最大で2ヶ月の遠征しか行えません。
 理由は簡単で、2ヶ月(ジャンプ3〜4回)以上の遠征は赤字になるため。
 ジャンプ1の自由貿易船ならば長期間の遠征も可能ですが、ジャンプ能力が低いので遠征距離は短くなるのです。



 トラベラーの海賊船と、古代テラの海賊船。
 両者の遠征期間の違いは、果たして何が原因なのか。
 調べてみたところ、その原因は、海賊船本体と積荷の価格差にあるようです。

 そのあたりをはっきりと示した資料は少ないのですが、 17世紀のウィリアム・キッドは私掠船1隻を仕立てるために6,000ポンドの資金を集める必要がありました。 そして、商船1隻を捕えることで71万ポンドの財宝を手に入れています(それを活用することはできませんでしたが)。
 海賊船に投資することで、出資額の100倍以上の報酬を受け取ることができる
 これはとても重要なことです。
 わずか1回の遠征(1隻の商船拿捕)で、これほど多額の報酬を得ることができるのですから、 略奪行の遠征期間が数か月や年単位になっても問題はありません。
 どんなに略奪行のリスクが高くても、遠征した100隻の海賊船が1隻だけしか戻ってこなくても、採算は合うのです。

 トラベラー世界の海賊船は、建造費が30〜328MCrの範囲にありました。
 最安値はS型偵察艦の30.7MCrで、最高値がC型巡航艦の328.7MCrです。
 それに対して、略奪品(貿易品)の売値は基本が5,000crで、条件がどんなに良くても20,000crが最高額です。
 ですから、船倉容積の最も大きいR型商船であっても、貿易品の売却利益は4MCr(=20,000cr×200トン)が最大。 海賊船の建造費に比べて、8分の1〜82分の1の金額にしかならないのです。

 海賊に対するイメージ(大金持ちになれるかも知れないという願望)が潰されてしまった訳ですが、仕方ありません。
 この事実を覆すためには、トラベラーの宇宙船設計ルールと貿易ルールを作り替えるしかなく、 そんなことをしてしまったら、それはもはや「トラベラー」ではないRPGでしょう。
 という訳で、私は「トラベラーの公式設定/公式ルール」を大事にしたいので、この現実を受け入れることにしました。



 「Pirate02:海賊の経済1」でも述べましたが、 略奪した貿易品の売却だけで海賊が生計を立てていくことは困難です。 松永様の「海賊フローチャート」に掲載されている、現金の略奪ルールも考慮に含めましたが、 それでもMCr単位の利益が上がる訳ではありません。
 大金持ちになることは、まず不可能。
 宇宙船はとても高価な代物なので、維持費を稼ぎ、ローンを支払うだけでも一苦労なのです。

 では、大金持ちになりたい海賊は何を狙うべきなのか。
 それはもちろん、商船に運ばれる貿易品ではなく、商船そのものです。
 例に出したR型商船の場合、 積まれている貿易品をすべて売り払っても最大4MCrにしかなりませんが、商船そのものは87.7MCrの価値があります。 中古の宇宙船ですから30%程度の価格でしか売れないとしても、26.3MCr以上にはなるでしょう。
 拿捕した商船を回航せずに放り出すということは、貨物の6倍以上も価値がある財産を捨ててしまうということであり、 海賊として実にもったいないことなのです。



 再び、海賊船の支出を考えます。
 前章で考察した、表4を再掲載しました。


               表4 海賊船の維持費

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 相変わらず、ローンをきちんと支払うという想定ですが、 S型偵察艦の支出は2週間当たり76KCr、A型自由貿易船は98KCr、 P型海賊船の支出は356KCr、T型哨戒艦は431KCrでした。
 ヴァルグルの宇宙船、VA型商船は140KCr、VP型海賊船は598KCrです。

 様々なタイプの海賊船は、ただ運航しているだけでも上記、 表4に示した通りの維持費(+ローン支払い)を必要としていました。




(1)拿捕した商船の買取価格(合法的な場合)

 さて、拿捕した商船の買取価格について考えます。
 これは「Pirate04:海賊の始め方」でも軽く触れましたが、キャラクターが中古船市場で宇宙船を購入する場合、 中古船の販売価格は、船齢10年で定価の80%、20年で60%、30年で40%、40年で20%という計算にしています。
 船齢50年以上の老朽船は、一律で定価の10%。
 そして、キャラクターが中古船市場に宇宙船を売却する場合の買取価格は、 上記販売価格の半分にしました。

 まとめると、以下のようになります。


             表13 中古船の売買価格(合法)

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 左端から、売買される宇宙船の船齢、買取価格販売価格、 仲介する中古業者の手数料、中古船市場における遭遇確率です。
 遭遇確率は、辺境航路における商船の船齢決定表として使って頂いても構いません。
 購入したばかりの新造商船で危険な辺境航路に赴く商人は少ないでしょうし、 購入資金を貸している銀行も商船が辺境航路に向かうことを嫌がる筈ですから(船齢が10年を超えると行動制限が緩くなるのです)。

 中古船の平均船齢は20年。買取価格の平均は30%でした。
 拿捕した商船を合法的に売却できる場合、海賊船は商船タイプと船齢に合わせて、以下のような収入を得るでしょう。


             表14 中古船の売買価格(合法)

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 表の右端が商船タイプ。どう見ても「商船」では有り得ないT型哨戒艦C型巡航艦も並んでいますが、気にしないでください。
 次の数字は、宇宙船のサイズ(トン数)と建造費。
 その次に並んでいる数字は、船齢に応じた買取価格です。
 海賊船が拿捕した商船の平均船齢が20年であると考え、その部分を黄色で示しました。

 最後の数字は、その商船の買取価格で、 P型海賊船VP型海賊船の運航が何年可能かを示したもの。
 S型偵察艦1隻を拿捕して売却しただけでも、 P型海賊船ならば1年間、VP型海賊船でも0.7年分の維持費とローン支払いを賄えます。
 逆に考えると、商船の拿捕と回航、そして合法的な売却を前提とするのであれば、VP型海賊船は 年2隻のS型偵察艦を拿捕するだけで、採算が合うのです。
 拿捕した商船がA型自由貿易船ならば1.3年と1.0年でしたから、年1隻の拿捕でも十分。
 それ以上の拿捕商船は、丸ごと海賊船の儲けになると分かりました。

 商船の拿捕は、確実に儲かる、のです。
 長距離を運んでも利益が出るかどうか当てにならない貿易品を略奪するよりも、商船を拿捕して回航する方が良いようですね。
 ヴァルグル海賊が自由貿易船を拿捕するため、帝国領内に20パーセク以上の距離を、 スピンワード宙域の奥深くモーラ星域まで侵入してきたとしても、不思議ではないということです。

 この事実はヴァルグル海賊だけでなく、合法的に敵性商船を拿捕できる私掠船にも適用できるでしょう。
 トラベラー世界に存在する(かも知れない)私掠船は、 敵国の商船を破壊したり、船荷を奪ったりすることよりも、商船そのものを拿捕することに傾倒すると思われます。
 戦略的に問題が無い訳でもありませんが、私掠船の行動原理に金銭欲がある以上、仕方のないことなのでしょう。

 蛇足ですが、拿捕する商船を自由に選ぶことができるのであれば、ヴァルグル宇宙船と同じ速度で移動できる、 S型偵察艦AU型外航自由貿易船P型海賊船を狙うべきです。
 幾つかシミュレートしてみましたが、ジャンプ1の性能しか持たないA型自由貿易船R型政府指定商船を安全にヴァルグル領まで回航することは、とても困難でした。




(2)拿捕した商船の買取価格(非合法的な場合)

 今度は、拿捕した商船を非合法にしか売買できない場合の買取価格です。


             表15 中古船の売買価格(非合法)

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 盗品はとても安価です。
 このルールは例によって、「GT版:Far Trader」に記載された、 略奪品の売値は「10分の1」という情報を利用しました。
 盗品を購入することで受ける没収や逮捕のリスクを考えた場合、このぐらい安価でなければリスクに引き合いません。

 例えば、A型自由貿易船を正規に購入する場合、 銀行から資金援助を受けるとしても、建造費の20%を頭金として支払う必要がありますね。
 建造費の20%に相当する資金があるのであれば、船齢20年の中古(盗品)を3隻買って、まだ2%分の資金が余ります。 余った予算は貿易投機品の購入など、運転資金に回すこともできるでしょう。

 正規に購入できるのは1隻だけで、今後40年間のローン支払いが必要。
 中古(盗品)を購入するのであれば、同じ予算で3隻を買えて、更にローン支払いが不要。 法律上のリスクは無視できませんが、経済的には非常に大きなメリットが存在するのです。
 ですから、盗品の宇宙船需要は決して無くなりません。



 海賊船が、拿捕した商船を非合法の中古市場で換金する場合、 買取価格は以下のようになりました。


             表16 中古船の売買価格(非合法)

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 非合法にしか売却できない場合、 その売却益で海賊船運航できる年数も10分の1の期間となります。

 S型偵察艦1隻を拿捕して売却したのであれば、P型海賊船は0.1年(=5.2週間相当)、 VP型海賊船は0.07年(=3.7週間相当)の維持費とローンを賄えます。
 1年間の維持費とローンを賄うためには、S型偵察艦10〜14隻を拿捕しなければならない、とも言えるでしょう。

 A型自由貿易船AU型外航自由貿易船を拿捕したのであれば、 1隻当たり0.14〜0.10年(=6.7〜5.0週間相当)の維持費とローンを賄えました。
 1年分だとしたら、7〜10隻です。
 R型政府指定商船を拿捕したのであれば、得られる利益は A型自由貿易船AU型外航自由貿易船2隻分に相当。
 R型政府指定商船ばかりを狙うのであれば、拿捕する商船の数は半分に減ります。

 そう簡単に拿捕できるとは思えませんが、もし成功したならば、 P型海賊船1隻はA型自由貿易船3隻分に相当。
 T型哨戒艦1隻はA型自由貿易船4.5隻分に相当するでしょう。

 商船を拿捕して、回航して、売り払うことは、それが非合法であっても確実に儲かることなのです。




(3)商船と船荷の、資産価値比較

 商船自体の資産価値が、船荷の資産価値に比べてどれだけ大きいものなのか、その比率を求めてみました。

 まず、商船の船倉容積を調べます。
 その船倉が、高価な投機貿易品で一杯に満たされていると仮定しました。
 それらの貿易品は、海賊船の根拠地(あるいは寄港地)において、トン当たり10,000crで売却されます(合法的な売却価格)。
 略奪品なので仕入れ値はゼロ。売却価格がそのまま海賊船の利益となるでしょう。
 その金額を、船荷の資産価値とします。

 次に、商船の建造費を調べました。
 この建造費に船齢による修正を掛けて、中古船の買取価格を求めます(これも合法的な売却価格)。

 最後に、中古船の買取価格船荷の資産価値で割り、比を求めました。
 その結果が、以下の表17に示した数値となります。


             表17 商船と船荷の、資産価値比較

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 船齢にもよりますが、例えばS型偵察艦の場合、 S型偵察艦自体の資産価値は、その小さな船倉(15トン)に積まれている船荷に比べて、102〜10倍の価値があります。
 新造船ならば102倍、減価償却の済んだ船齢50年の老朽船でも10倍の資産価値。
 こんなに高価なものを放り出すなんて、勿体無い。

 A型自由貿易船AU型外航自由貿易船の場合、 その資産価値は、船倉の中の船荷(82〜92トン)に比べて、25〜2.4倍の価値がありました。 平均的な船齢20年の中古船でも15〜14倍です。
 やはり、こんなに高価なものを放り出すなんて、勿体無いですね。

 船荷の資産価値が大きいR型政府指定商船の場合であっても、商船自体の資産価値は22〜2.2倍です。
 平均的な船齢20年の中古船の価値は13倍。資産価値が最も低い船齢50年の老朽船でも2.2倍。

 P型海賊船T型哨戒艦のように強力な宇宙船は、 宇宙船自体が高価なことに加えて船倉容積が小さいため、この比率はより大きくなる傾向があります。
 何はともあれ、拿捕した商船が回航可能な状態なのに、船荷と現金だけを奪って解放するということは、とても勿体無いことだと判明しました。
 機会があり、回航が可能であるならば、拿捕された商船は必ず回航され、何処かで売られてしまう運命なのです。





5.拿捕した商船の回航


 拿捕した商船の回航については「Pirate07:海賊(バッカニア)の日常」の6章でも触れましたが、 今回は、主に経済的な観点から考察していきましょう。



(1)自力で航行できる場合

 商船が降伏勧告を受け入れた場合、捕獲された商船は問題なく、自力で航行できる筈です。
 パワープラントも通常ドライブも無事ですし、星系を離脱中の商船ならば燃料にも十分な余裕があるでしょう。
 星系に到着直後の商船を捕獲した場合、再度のジャンプを行うだけの燃料がないことは自明ですが、 その場合は、通常ドライブを再起動して犯行現場から逃げるだけでも構いません。
 とりあえず犯行現場を離れてしまえば、燃料補給のためにガス・ジャイアントへ立ち寄る時間も確保できます。

 拿捕した商船が自力で航行できるのであれば、回航についての問題点はほとんどありません。
 回航要員を確保できるか、あるいは、拿捕した商船の乗組員に回航を任せるのであれば監視要員を送り込めるのか、ということだけです。
 実のところ、戦闘力の低い冒険商人S型偵察艦海賊船は、 獲物の商船が自力航行の可能な状態で拿捕されてくれない限り、商船を回航することが困難だと分かりました。
 獲物を無力化するため、あるいは降伏勧告を受け入れさせるための火力が、圧倒的に不足しているのです。
 火力が不足している彼らは、商船の逃走を防ぐため、船荷の数倍の資産価値を持つ商船を自ら破壊する(航行不能にする=収入の大幅な減少)か、 あるいは商船を見逃す(=収入を得られない)かという、究極の選択を迫られることになるでしょう。

 回航の途中、帝国の哨戒艦に見つかって臨検を受けるとか、他の海賊に再度襲われるリスクについては、考慮していません。




(2)応急修理をすれば自力航行できる場合

 通常ドライブ燃料の損傷は、 致命的損傷でない限り、応急修理が可能です。
 商船を捕獲する際に攻撃場所を選べば、応急修理によって機能を回復し、回航することもできるでしょう。
 回航を前提として捕獲する場合、致命的損傷を狙えませんから、 商船の捕獲方法は燃料の全喪失が専らとなります。
 若干、襲撃の難易度は上がりますが、商船の拿捕と回航を前提とするのであれば、こうした襲撃方法が必須となりました。

 燃料の損傷を複数回与えなければならない襲撃方法ですので、低火力の冒険商人は、 星系に到着直後の獲物だけに限って仕掛けるべき襲撃です。
 もちろん、強大な火力を備えた海賊船ならば星系を離脱中の商船を襲っても構いません。

 ただし、応急修理を試みている間、海賊船も拿捕した商船も無防備な状態で漂泊することになります。 応急修理を始めるより先に拿捕した商船を牽引して、襲撃現場を離れるべきでしょう。
 牽引が必要になる時点で、冒険商人には回航が困難となってしまう訳ですが。仕方ありません。 航行可能な状態で拿捕することに失敗した以上、冒険商人が拿捕した商船を回航することはないのです。




(3)自力での恒星間移動(ジャンプ)が不可能な場合

 艦橋破壊コンピュータ破壊パワープラント使用不能ジャンプドライブ使用不能といった致命的損傷を受けている宇宙船は、 ジャンプを行うことができません。
 これらの機器はジャンプに必要不可欠なものであり、また、致命的損傷は応急修理できない損傷であるからです。

 どうやらパワープラント使用不能ジャンプドライブ使用不能といった 致命的損傷を受けた商船を回航したり、自分たちのものにしたりすることは多くの場合、極めて困難なようです。
 唯一の例外は、XT型連絡補給艦S型偵察艦を捕えた場合だけでしょうか。
 同じ星系内に造船所やジャンクヤードがある場合は修理が可能かも知れませんが、リスクに引き合うかどうか分かりません。
 基本的に多くの海賊船にとって、パワープラント使用不能の損傷を負った商船は、 商船に積まれた貨物や現金だけが価値あるものであり、商船自体に手間を掛けて修理するだけの価値を見出せないのです。 略奪を終えた後は、そのまま放棄するべきものでしかない、ということが分かりました。




(4)拿捕した商船の修理費用

 拿捕した商船は、無傷で捕えた場合か、応急修理で自力航行が可能な場合にのみ、回航する価値がある。

 という結論が再確認できた訳ですが、無傷で捕えた場合はともかく、 応急修理で直した宇宙船は、遅かれ早かれ本格的な修理を行わなければなりません。
 宇宙船の本格的な修理はBクラス以上の宇宙港でなければ行えない訳ですが、それに加えて修理費が掛かります。
 その修理費が、拿捕商船の売却益をどれだけ奪ってしまうのか、計算してみました。

 以下は、商船タイプ毎に求めた、損傷部分の修理費です。


                表18 商船の修理費用

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 左端は、商船タイプ。
 その隣に、その商船を売却した場合の価格(資産価値)を、合法的な場合と非合法な場合の双方で示してあります。 船齢は20年の中古を想定しました。
 次の燃料容積は、燃料タンクの修理費に影響します。

 拿捕した商船の修理費は、それぞれの損傷を修理するために必要な金額を示しています。
 応急修理によって自力航行が可能であっても、本格的な修理を行うまで商船は損傷していると考えられますから、 損傷した状態で拿捕した商船を売却するのであれば、修理費を売却価格から差し引かれることとなります。
 修理費が売却価格を上回るのであれば、当然、その商船は誰にも買い取って貰えません。 所謂、全損という状態になっている訳です。

 修理費の左端は、燃料の全喪失によって行動不能に陥った商船の修理費です。
 「レフリーズ・マニュアル」にも英文エラッタにも、 燃料損傷の修理に必要な金額は明示されていません。
 ですから、燃料損傷の修理は無料だ! と言い切っても構わないような気がするのですが、 それでは流石に気が引けるので、燃料損傷1回(=10トン)当たり0.2MCrの修理費が掛かる、ということにしました。
 この金額の算定根拠は「Pirate05:冒険商人の生活」に記述してありますので、そちらを御覧ください。

 修理費の中央は、通常ドライブの損傷に対する修理費。
 加速度の小さな商船は修理費も安価ですが、高加速度の戦闘艦艇は修理費も高くなりました。

 修理費の右端は、パワープラント使用不能致命的損傷を受けた商船の修理費。
 予想していた事ですが、燃料の全喪失通常ドライブと比べて、修理費の桁が違います。
 商船を一撃で行動不能に陥れることが可能なため、低火力で非力な冒険商人が狙うであろう 致命的損傷ですが、拿捕した商船の回航と売却を考慮するのであれば、決して狙ってはいけない命中箇所でした。



 修理費は、その金額が非合法な売却価格よりも小さければ、水色の数字で示しました。
 海賊船が拿捕した商船を売り払う際に非合法なルートしか使えないのであれば、 拿捕するための方法としては燃料通常ドライブの損傷しか狙えません。
 S型偵察艦P型海賊船T型哨戒艦の場合は、 通常ドライブの損傷を狙っても赤字になりますが。

 修理費が合法的な売却価格よりも小さい場合は、黄色で示しています。
 水色の数字で示した部分は、 修理費が合法的な売却価格の10%以下しか掛かりません、ということになる訳です。
 ヴァルグル海賊や私掠船は拿捕した商船を合法的に売り払うことができますので、 拿捕するための方法として燃料通常ドライブの損傷に加え、 一部の商船はパワープラント使用不能致命的損傷を狙っても良い訳です。
 利益を大きくするため、燃料通常ドライブの損傷を狙うべきであることは当然ですが。

 修理費が合法的な売却価格よりも大きい場合は、赤字で示しました。
 パワープラント使用不能致命的損傷を与えてしまった場合、 多くの商船は全損扱いとなり、売却できなくなるのです。
 こういった全損扱いの商船であっても部品取りのためならば十分に利用できる訳ですが、その件についての考察は次章にて。



 以上、海賊船が拿捕した商船を回航する件について、主に経済的な観点から考察してみました。

 拿捕した商船を回航し、売却するためには、拿捕した商船が無傷のままか、少なくとも応急修理によって自力航行できることが不可欠です。
 致命的損傷を受けて航行不能になった商船は回航が困難ですし、 苦労して回航しても安く買い叩かれるため、それだけの苦労をする意味がありません。

 拿捕した商船を非合法なルートでしか売り捌けない海賊船は、商船を無傷で拿捕するように努めるでしょう。 これは同時に海賊行為の成功率を下げることになるかも知れませんが、 成功すれば海賊船の得る利益は数倍〜数十倍に膨れ上がりますので、バランスは取れています。。

 拿捕した商船を合法的に売り捌けるヴァルグル海賊や私掠船は、商船の損傷にあまり留意せずに済みますが、 これは同時に、彼らが商船の拿捕に傾倒してしまうことを示唆しています。
 ヴァルグル海賊や私掠船の活動(侵入)を許してしまった場合、 周辺星系の恒星間物流は大きく混乱することとなるでしょう。
 レフリーが自分のシナリオ(キャンペーン)にヴァルグル海賊や私掠船を登場させるのであれば、 彼らの活動範囲や行動原理には十分な注意を払って下さい。





6.廃船の利用価値


 前章において、修理費が売却価格よりも大きい場合は全損扱いとなるため、回航する価値が無いと述べました。
 実際に、パワープラント使用不能致命的損傷を与えてしまった場合には、 多くの商船は全損扱いとなり、売却できなくなるのです。
 こういった全損扱いの商船について利用価値を見出すため、修理のルールを考察しました。



 壊れた機械や車輌を修理する際、メーカーに修理部品を発注して、必要な部品がすべて届いてから修理を行う、ということが一般的でしょう。
 しかし一部の業界では、同型の壊れた機械や車輌から必要な部品を剥ぎ取り、その部品を使って修理を行うことも多いのです。
 最大のメリットは安上がりであること。
 次のメリットは、必要な修理部品がすぐに入手できるため、 メーカーから修理部品が届くまで待つ必要がないことでしょう。
 時は金なりを実践している一部の業界にとっては、非常に有り難い点です。

 もっとも、トラベラーの修理ルールに納期は存在しないので、 ここでは安上がりというメリットだけに注目しました。

 宇宙船の修理はBクラス以上の宇宙港に存在する造船所を利用しなければなりませんので、 部品取りに用いる全損扱いの拿捕商船も、Bクラス以上の宇宙港を持つ星系まで輸送しなければならないのが難点ですね。




(1)修理費用の節約

 「MT版:ハード・タイムズ、p.41」には、 「スペア」や「ジャンク」を利用して修理費用を節約できる、 以下のようなルールが存在していました。

 スペアジャンクは、長期的に見ればたいへん役に立つ品物である可能性があります。
 そこには必要な部品のほとんどが揃っているのですから、労力さえ加えれば、費用を大いに削減できるかもしれないのです。
 また、事故や戦闘で壊れた車輌(あるいはエンジン、コンピュータなど)を修理するときにも、 スペアジャンクが役に立ちます。
 壊れた品物と同型のスペアがあれば、修理の費用は50%減になります。
 ジャンクならば25%減です。
 毎年の定期整備の費用も、スペアジャンクを使えるなら50%減になります。

 修理や定期整備にスペアを使用した場合、その品物はジャンクになるものと考えます。
 ジャンクは、修理になら1回、定期整備になら2回使用できます(そして、もはや完全ながらくたになります)。




スペア」とは、
 予備品として備えておいて、いざというときにごく短期間だけ使う(短期間しか使えない)品物
 ですが、ここでは船齢に関係なく全損した宇宙船から取り出した、 機能している装備や部品のことであると定義しておきます。
 新造船であっても、修理部品として利用する以上は、一律で「スペア」として扱われるのです。

ジャンク」とは、
 事故や戦闘などで破壊され、本来の機能を発揮できない品物
 ですが、ここでは全損した宇宙船から取り出した、損傷している装備や部品のことであると定義しました。
 応急修理が施してあっても、本格的な修理が為されていない以上、それは「ジャンク」になります。
 損傷しているのであれば、その損傷が外部損傷であるか 致命的損傷であるかは関係ありません。



 このルールを用いれば、修理費が売却価格よりも大きくなってしまった全損扱いの拿捕商船も、 十分に利用価値が出てきます。
 XT型連絡補給艦を駆る海賊船が、 2隻のS型偵察艦を拿捕してきました。
 表16より、2隻の船齢が20年だとしたら非合法な売却価格0.92MCrです。
 海賊船S型偵察艦2隻分、1.84MCrを得るでしょう。



 しかし、獲物のS型偵察艦が無傷でない場合、 例えば2隻が通常ドライブの損傷を負っているのであれば、 修理費として1.76MCr=0.88MCr×2隻分が差し引かれ、 海賊船0.08MCr=1.84MCr−1.76MCrしか残りません。

 ここで「ジャンク」を用います。
 同型のS型偵察艦ですから、1隻を廃船扱いにして部品取りに利用。 もう1隻のS型偵察艦の修理費を節約してみました。
 部品取りに利用するS型偵察艦通常ドライブは損傷しており、機能していません。 ですから「ジャンク」として扱われます。修理費は25%減でした。
 S型偵察艦通常ドライブの修理費は0.88MCr。 修理費が25%減ですから、実際に掛かった費用は75%で0.66MCr=0.88MCr×75%
 売却できるS型偵察艦が1隻だけに減ったにも関わらず、 海賊船の手取りは0.26MCr=0.92MCr−0.66MCrまで増えました。
 実に有難い話です。



 異なる設定として、S型偵察艦の1隻が通常ドライブの損傷を負い、 1隻がパワープラント使用不能致命的損傷を受けている状況を想定しましょう。
 通常ドライブの損傷だけならば S型偵察艦0.04MCrで売却できますが、 パワープラント使用不能致命的損傷を受けたS型偵察艦は、 修理費が9.45MCrも掛かるので、どう考えても売却できません。

 しかし、致命的損傷を受けたS型偵察艦通常ドライブは無傷です。
 機能している通常ドライブなのですから、部品取りの際、 これは「スペア」として利用できるでしょう。
 「スペア」からの部品取りですので、修理費は50%減です。
 S型偵察艦通常ドライブの修理費は0.88MCr。 修理費が50%減ですから、実際に掛かった費用は50%分、0.44MCr=0.88MCr×50%
 致命的損傷を受けた、売り物にならないS型偵察艦の利用で、 海賊船の手取りは0.48MCr=0.92MCr−0.44MCrとなりました。
 Bクラス以上の宇宙港まで回航できるのであれば、全損扱いの廃船も十分に利益を生み出せるのです。




(2)装備を丸ごと交換する場合(小改装のルール)

 「Pirate04:海賊の始め方」にも簡単に書きましたが、 中古の装備を利用して、海賊船に武装を追加することも可能です。
 このルールは、「CT版:1兆クレジット艦隊」と「MT版:英文エラッタ」に記されている、 宇宙船の改装ルールを元にしたハウス・ルールです。



 宇宙船の改装について、「MT版:英文エラッタ」の中には、 以下のようなルールが見つかりました。

Page 61, Refitting Ships (addition): 61ページ、宇宙船の改装(追加)

 古くなったシステムは、さらに新しいモデルに置きかえられます。
 すべての改装は、AクラスかBクラスの宇宙港でなければできません。
 ジャンプドライブの改装は、Aクラスの宇宙港でのみ可能です。

 改装は、古いシステムを完全に取り去って、新しいものを設置することを意味します。
 例えば、もしパワープラントが改装されるならば、その全体のパワープラントは取り除かれ、 新しいものがその場所に取り付けられることになるのです。
 …中略…

 パワープラント、通常ドライブ、ジャンプドライブの換装は、「大改装」です。
 新しい宇宙船に取り付けられる、新しい設備の価格の1.5倍のコストが掛かります。
 「大改装」に費やされる期間は、(建造期間表より)新しい宇宙船の建造期間の4分の1です。

 宇宙船の他の要素の換装は、「小改装」です。
 それらのコストは取り付けられる新しいシステムの1.1倍で、建造期間は10分の1です。
 …中略…

 改装できる船の設備は、ある程度制限を受けます。
 パワープラント、通常ドライブ、ジャンプドライブ、主砲は、そのトン数を増やすことができません。
 小艇の発進設備は(取り除くことは可能ですが)追加することができません。
 (船体の)装甲値と形状は変えられません。
 副砲ベイの数と大きさは変えられません。




 このルールを拡大解釈し、換装する新しいシステム(通信妨害機、探知機、砲塔、コンピュータ)に中古品を利用することで、 より安上がりな武器調達や修理、性能向上を試みることにしました。

 (1)の後半で例に挙げた2隻のS型偵察艦ですが、この2隻が揃って同じ武装、 複架のミサイル砲塔を1基ずつ搭載していたとします。
 通常ドライブの損傷を負ったS型偵察艦は、 複架のミサイル砲塔も損傷しており、 それを修理するのであれば修理費として0.56MCr=2.25MCr×25%が必要となります。
 まぁ、オプションの武装については買い手の負担ですから、 売り手である海賊船には関係ありません。恐らく、損傷したままの状態で売却されることになるでしょう。
 しかし買い手側にとって唯一の武装である複架ミサイル砲塔が使えるかどうかは、 文字通りの死活問題です。修理費の負担を考えて、S型偵察艦の買い取りを躊躇するかも知れません。

 そこで、パワープラント使用不能致命的損傷を受けた、 もう1隻のS型偵察艦が、此処でも役立つことになります。
 もう1隻のS型偵察艦に搭載された複架ミサイル砲塔が無傷であるならば、 その砲塔は「スペア」として利用できます。
 修理費は50%減なので0.28MCr=0.56MCr×50%となり、 買い手の負担が半分まで減りました。



 さらに安上がりな修理方法として、宇宙船の改装ルールを利用します。
 致命的損傷を受けたS型偵察艦から砲塔の修理部品を取るだけではなく、 複架ミサイル砲塔を丸ごと移してしまったどうでしょうか。
 小改装」のコストは取り付けられる新しいシステムの1.1倍ですから、 私はこのコストを、新しいシステムの購入費(1.0倍)+造船所の手間賃(0.1倍)であると解釈しました。
 新しいシステムを中古品から入手することで購入費用を小さく、場合によってはゼロまで抑え、 改装費用を安上がりにしたハウス・ルールなのです。
 例に挙げたS型偵察艦複架ミサイル砲塔を丸ごと交換した場合、 「小改装」のコストは造船所の手間賃(0.1倍)だけになりました。
 複架ミサイル砲塔の価格は2.25MCrですから、 その0.1倍の0.225MCrが改装費用となります。
 「スペア」を用いた修理費0.28MCrより、少しだけ安いのです。

 どちらかというと、非武装のS型偵察艦を武装化する際や、 XT型連絡補給艦に新たな武装を追加する際などに用いるべきハウス・ルールだと思いますが
全損扱いの廃船(拿捕した商船)を利用することで、安上がりにできる修理方法が明らかとなりました。




(3)辺境における定期整備

 上記2つ、修理費の節約や改装のために全損扱いの廃船を利用する方法は、宇宙港クラスB以上の世界でなければ行えません。
 しかし、宇宙港クラスB以上の世界まで拿捕した商船を回航できない場合や、 海賊船が宇宙港クラスB以上の世界へ移動しない(できない/したくない)場合もあるでしょう。
 そうした場合、全損扱いの廃船を利用する方法は限られます。
 海賊船の定期整備に用いるしかありません。



 「GT版:Far Trader」に掲載されていた、辺境星系において宇宙船の定期整備を行なう特別ルールを、 再度、紹介します。

 …中略…
 定期整備は、Cクラス以上の宇宙港において「乗組員の手によって」行なうことも出来ますが、 必要な時間は2倍(4週間)になります。
 必要な部品はA〜Bクラス宇宙港であらかじめ購入しておかなければなりません。
 これらの部品は、宇宙船の船体容積の200分の1を占め、通常の定期整備にかかる費用の半額で仕入れることができます。
 乗組員は休暇を得られません。

 定期整備をD〜Eクラスの宇宙港で行なう場合、必要な時間は4倍(8週間)になります。


 という訳で、海賊船がCクラス以下の宇宙港で定期整備を行う際は時間こそ余計に掛かりますが、  部品が船体容積の200分の1を占め通常の定期整備にかかる費用の半額で仕入れる という記述から、この費用は部品代であり、節約できる半額は造船所の人件費であると推測しました。
 ちなみに、何の設備もない場所(Xクラス宇宙港)においては、定期整備が不可能なのでしょう。



 その一方で、定期整備に同型艦の「スペア」や「ジャンク」を利用した場合、 その経済効果は以下のようになっています。

 …中略…
 毎年の定期整備の費用も、スペアジャンクを使えるなら50%減になります。

 修理や定期整備にスペアを使用した場合、その品物はジャンクになるものと考えます。
 ジャンクは、修理になら1回、定期整備になら2回使用できます(そして、もはや完全ながらくたになります)。


 「スペア」や「ジャンク」を利用することで節約できる定期整備の費用は、 明らかに、定期整備に用いる部品代です。
 つまり、「スペア」や「ジャンク」を用いで部品を確保。
 更に、Cクラス以下の宇宙港で乗組員を使って海賊船の定期整備を行うのであれば、人件費は無料。
 両者を合わせれば、定期整備の費用を100%節約できるのではないでしょうか。



 実際のところ、Cクラス以下の宇宙港で行う定期整備は時間が掛かり過ぎます(4週間〜8週間)。
 その期間を貿易や略奪に費やしていたならば、定期整備代を節約した金額よりもずっと大きな利益を得られるでしょう。
 この定期整備の方法は、Bクラス以上の宇宙港で定期整備を行えない(寄港できない)海賊船が、 他に定期整備を行う余地がないため、止むを得ず選択する方法だと思います。



 全損扱いの商船を、修理部品や改装部品の供給源として有効活用する方法について考察しました。
 普通ならば売り物にならない廃船も、使い方によっては経済的な利益を生み出すことができるようです。
 欠点としては、全損扱いの商船を丸ごと回航しなければならないことが挙げられました。

 もちろん、拿捕した商船を犯行現場(襲撃現場)において解体し、これらの修理部品や改装部品だけを持ち去ることが可能ならば、 拿捕した商船を回航する手間は大きく減じることになります。
 しかし、修理や改装は設備が整ったBクラス以上の宇宙港(造船所)でなければ行えない、というルールを尊重するのであれば、 レフリーは犯行現場での解体を認めるべきではないでしょう。
 設備なしに部品を取り出すことが可能であれば、反対に、設備なしでの修理も可能になってしまうからです。
 Traveller Wikiには、 造船所以外での改装や修理を可能にする工作船の情報も記載されていましたが、 そこまでの設備を海賊が保有しているとは思えません。

 そもそも、「ハード・タイムズ、p.41」には、以下のように明記されています。

 適切な技能を有するPCは、スペアジャンクを使って、 さまざまな修理をこなすことができます。
 欠点をあげるなら、こうしたスペアジャンクも、 ちゃんと機能する品物と同じだけの輸送スペースを必要とすることでしょう。


 海賊行為の現場で拿捕した商船を解体し、コンピュータや整備部品など有用な部品を取り出すことは、 トラベラー世界の常識に相応しくないようです。





7.根拠地の条件


 「コルセア」の根拠地の条件として、私は、

 1.乗組員が大手を振って歩き回る(休暇を楽しむ)ことができ、
 2.略奪品を安全に売り捌くことが可能で、
 3.宇宙港クラスにもよりますが、
   海賊船の整備や修理、改造が可能な世界。


 の3項目を挙げました。
 こういった世界が簡単に見つかるのか、また、利用を続けることができるのか、ということについても考えてみましょう。




(1)海賊船を公認している世界

 海賊船私掠船を公認している世界であれば、 海賊船の多くは、その世界に問題なく寄港できます。
 海賊船の乗組員は、その世界で大手を振って歩き回ることができますし、 略奪品も安全に売り捌くことが可能で(恐らく定価での売却も容易でしょう)、 宇宙港クラスが許すのであれば、海賊船の整備や修理、改造までもが可能です。

 要するに、上記の1〜3番、
 1.乗組員が大手を振って歩き回る(休暇を楽しむ)ことができ、
 2.略奪品を定価で安全に売り捌くことが可能で、
 3.宇宙港クラスにもよりますが、
   海賊船の整備や修理、改造が可能。

 の全てを満足できる訳ですね。

 ただし、その世界に不利益となる行動を取った海賊船は、その世界への寄港が認められません。
 例えば、その世界に寄港する商船や、友好的な世界を母港とする商船を襲った海賊船は 寄港が認められないだけでなく、その世界の惑星海軍や私設海軍などから攻撃される可能性もある訳です。
 海賊船を公認する世界を根拠地として利用したいのであれば海賊船は、 獲物とする商船をしっかりと区別しなければならないのですが、そうした配慮が実際になされるかどうかは状況によるでしょう。

 また、その世界の周辺を航行する一般の商船は、海賊船による被害を恐れ、その世界へ近付かなくなります。
 MAG様の「スピンワードマーチ宙域の商用船舶」を用いて、世界の宇宙港規模を求める際、 海賊船を公認する世界から5パーセク以内にある世界では−1.5の修正値を加えて下さい。
 これは、周辺世界の恒星間貿易量が10分の1から100分の1まで激減したことを意味しています。
 周辺世界を航行する商船が海賊船による被害を受けない、 つまり、海賊船を公認する世界や友好的な世界を母港としている商船であるならば、その影響は小さくなるでしょう。
 そうした場合は−1.5の修正値を小さくする、場合によっては±0.0にして構いません。
 その代り、その世界を母港とする海賊船はより遠方まで獲物を探しに行かなければならない訳ですが。

 海賊船を公認する世界から6〜10パーセクの範囲にある世界では−1.0の修正値、 11〜20パーセクの範囲にある世界では−0.5の修正値を加えます。
 これらの世界においても、航行する商船が海賊船による被害を確実に免れるのであれば、 加えられる修正値を小さくするか、±0.0にして下さい。
 こうした、海賊船を公認する世界が存在することによる海賊被害は、小型商船だけに限定されません。
 海賊船を公認する世界の支援が得られるのであれば、暗躍する海賊船は小さな船ばかりではないのです。
 ヴァルグル戦闘巡洋艦のように数万トン級の海賊船も活動することが可能であり、 それらの海賊船は1万トンから10万トン級の商船を拿捕することになるでしょう。
 海賊船の横行というものは、恒星間通商の維持に大きなマイナスの影響を与えるものなのです。

 どうしても恒星間通商を維持したいのであれば、海賊船を撃退できるだけの護衛が必要になると思われます。
 レフリーが認めるのであれば、十分な護衛を付けることでマイナス修正を減じて下さい。



 有難いことに、海賊船を公認する世界はそれほど多くありません。
 少なくとも帝国領内には有り得ませんし、帝国外でも国境の近くには存在できない筈です。

 もしも帝国領内の世界が海賊船を公認し、その活動を支援したとしたら、 それは即座に帝国への反乱と見なされます。
 傭兵規約や通商戦争にも書かれている通り、
 遅かれ早かれ、海賊船を公認した世界は帝国海軍に包囲され、短時間で制圧されてしまうでしょう。

 帝国の国境外に存在する世界も同様で、海賊船を公認していることが明らかになるや否や、 帝国海軍の猛攻撃を受けることとなります。
 という訳で私の世界観において、海賊船を公認する世界は、 帝国領内にも帝国外にも存在できないことになりました。
 但し、以下に示すヴァルグルだけは例外です。



 ヴァルグル領の多くの世界は、海賊を公認しています。
 高価な貿易品(略奪品)や拿捕した商船をヴァルグル領へ持ち帰ってくる海賊船は、 ヴァルグルにとって歓迎すべき成功者です。
 そもそもヴァルグルは、古代テラの「バルバリー海賊:Barbary Corsairs」と同じように、 略奪を悪いことだと思っていませんので、現地経済の活性化に大きく貢献している海賊船を咎めることもしないのです。
 そして困ったことにヴァルグル領だけは、海賊船を公認しても帝国海軍の攻撃を受ける心配がほとんどありません。

 その理由はヴァルグル人の種族的な性質によるのですが、こうしたヴァルグル領の諸世界は、 帝国への襲撃を繰り返す海賊船の寄港を常に歓迎する一方で、帝国と友好的に貿易している部分もあるためです。
 ヴァルグル人は常にお互いで争っているため、外部勢力(非ヴァルグル)からの攻撃を受けない限り、団結することが有り得ません。
 1つのグループが帝国に敵対するようになれば、もう1つのグループは帝国と友好的な状態へと変化します。
 もしも帝国海軍がヴァルグル領の世界を攻撃してしまった場合、ヴァルグルは外部勢力に対抗するため、団結することでしょう。
 それは帝国に敵対するヴァルグルの数を増やしてしまいますから、帝国海軍が積極的にヴァルグル領を攻撃することはできないのです。

 西部劇に登場するインディアン(基本的には白人の敵であり、散発的に襲撃を仕掛けてきますが、 撃退できないほど強いことはなく、友好的な部族も存在する)のイメージにぴったりの悪役なのだなと思います。
 残念ですが、これがトラベラーにおけるヴァルグルの立ち位置でした。

 帝国海軍が国境を厳重にパトロールしているため、ヴァルグル海賊は帝国領内へ大規模に侵入することができません(小規模な侵入ならば有り得ます)。
 そのため、ヴァルグル領の世界から20パーセク以内にあっても、 帝国領内の世界は前述した宇宙港規模の修正が必要がないことにします。




(2)帝国外に存在する、海賊船の避難所

 海賊船が、宇宙港に寄港することには、若干のリスクが伴います。
 犯罪行為(海賊行為)の証拠を隠すことは可能ですが、だからこそ、その犯罪行為(海賊行為)が起きた時点で現場近く(同じ星系内)に居たとか、 海賊船と同じタイプの宇宙船を使用しているといった状況証拠によって疑われ、 航海日誌の提出を求められることもあるのです。

 航海日誌といっても、トラベラー世界の航海日誌は、単なる手書きや音声入力の記録だけではありません。
 その中には、フライト・レコーダーの記録(船内機器の稼働状況、航行状態、通信、探知機の記録すべて)も含まれています。
 それらの記録を偽造することは、決めて困難です(偽造できないように作られていますから)。
 フライト・レコーダーを止める(記録させない)ことはもちろん可能ですが、 そうした事実が明らかになれば今度は確実に、その宇宙船は犯罪行為(海賊行為)との関連を疑われます。

 反対に、海賊船の乗組員である個人を特定する(追跡して逮捕する)ことは極めて困難です。
 商船を略奪する際に多くの海賊は顔を隠しているでしょうし、宇宙服を着たまま略奪を終えるのであれば遺留品も残りません。
 数少ない例外は、海賊側が乗り込み戦闘で敗れ、死傷者を残して逃走した場合でしょうか。

 個人の特定が難しいため、海賊は即ち海賊船の乗組員である、と定義されます。
 ですから、その海賊船が問題なく寄港できる世界であれば、自動的に、 乗組員が大手を振って歩き回れる世界だということになるでしょう。
 持ち込んだ盗品を売り捌く際に海賊船の乗組員であると露見する可能性は高いのですが、 それは入港した後の出来事ですので、ここでは触れません。



 帝国外に存在する幾つかの星系は、海賊船の活動を黙認しています。
 残念ながら、それらの星系に堂々と海賊船が入港できる訳ではありませんが、 海賊船が真っ当なトランスポンダ信号と船籍書類を用意して、 善良な自由貿易船星間傭兵を装うのであれば、入港を認めるのです。
 星系政府が黙認しているのですから、贈賄等の小細工は必要ありません。
 少しぐらい怪しいところがあっても、見過ごしてもらえるでしょう。

 海賊船の乗組員は、その世界で現地の法律を犯さない限り大手を振って歩き回ることができますし、 略奪品も安全に売り捌くことが可能で(盗品の売値は「10分の1」ですが)、 宇宙港クラスが許すのであれば、海賊船の整備や修理、改造までもが可能でしょう。

 つまり、
 1.乗組員が大手を振って歩き回る(休暇を楽しむ)ことができ、
 2.略奪品を10分の1の価格ならば安全に売り捌くことが可能で、
 3.宇宙港クラスにもよりますが、
   海賊船の整備や修理、改造が可能。

 だということになりました。



 「GT版:Far Trader、p.123」の欄外コラムに記載された情報によれば、 幾つかの帝国外世界が非公式に海賊船の活動を支援していることは間違いないようです。

 具体的には、第五次辺境戦争で帝国の属国とされたボーダー・ワールズ:Border Worlds。 非武装中立地帯にトレマス・デックスとクェアーを有するアードン連邦:Federation of Arden、 ダリアン連合に敵対しているガルー共和国:Republic of Garoo、 268星域のトレクサロン:Trexalonなどが挙げられていました。
 これらの世界を帝国外における海賊船の根拠地として利用することは、色々と都合が良いのです。




(3)海賊に対する、帝国内世界の対応

 帝国内の宇宙港経営を任されている組織帝国宇宙港機構(SPA)は、 星系政府の税関と協力して潜在的な買い手を監視し、輸出世界との接触や密告者(情報提供)を通じた、対密輸品作戦に集中しています。
 海賊活動の形跡は、略奪された貿易品の売却によって生じる市場の変化によって明らかにできるのです。


 上記の文章は「GT版 Far Trader」の要約です。

 上記の通り、海賊船にとって極めて不都合なことですが、 海賊船の活動に協力的な宇宙港当局や税関は、まず見つかりません。
 〈贈賄〉ルールの説明に書かれている通り、世界の治安レベルが高いほど〈贈賄〉は成功しやすいので、 個人として協力的な宇宙港職員や税関士は多いのでしょうが、あくまで個人レベルに留まる筈でしょう。
 組織ぐるみの犯罪加担行為が横行していて、それらを帝国が摘発できないという状態は何となく嫌です。

 また、年1回の頻度で行う海賊船の定期整備は、「Pirate04:海賊の始め方」で説明した通り、 Cクラス以下の宇宙港や無人世界で行うことも可能でしょう。
 しかし、武装の追加を含めた海賊船の改造、戦闘によって生じた損傷の修理には、間違いなく、 Bクラス以上の宇宙港(の造船所)を利用することが不可欠です。
 造船所を利用する際には、海賊船の船籍や戦闘記録が詳細に調べられることは言うまでもありません。
 帝国内の造船所も、海賊船の活動には非協力的なのです。
 もちろん個人レベルならば協力者も存在するでしょうが。

 以上のような宇宙港と造船所の姿勢から、帝国内において、 略奪品を安全に売り捌けたり、海賊船の整備や修理、改造を行える世界は存在しません。
 レフリーが認めるのであれば、そうした世界を登場させても構いませんが、帝国政府から非合法(犯罪)活動について黙認を得ているとか、 受け入れる海賊船を厳選しているので、一般市民はその事実を知らない、などの理由が必要となるでしょう。



 帝国内において海賊船は、その正体を隠して行動しなければなりません。
 どの宇宙港であれ、真っ当なトランスポンダ信号と船籍書類を用意して、 善良な自由貿易船星間傭兵を装う必要があります。
 書類に不備が見つかったり、あるいは状況証拠などから疑われた場合、 海賊船航海日誌の提出を求められることでしょう。
 それを免れるためには、疑われないように努めることが一番ですが、贈賄や脅迫といった手段が有効な状況も存在します。
 その具体的な内容については、レフリーとプレイヤーの皆さんにお任せしますが……。

 これらの世界における略奪品の売却は、税関の目を逃れる為に、常に非合法となります。 盗品を堂々と売買できるほど、帝国の治安は悪くありません。
 辺境星系や地方世界の場合はどうかとも思いますが、 目の前で行われる海賊行為盗品売買が黙って見逃されるほど、 治安が悪化している訳ではないでしょう。私はそう考えました。
 取引自体が非合法ですので、盗品の売値は例の如く「10分の1」。
 海賊船の経営状態は苦しくなりますが、そもそも盗品の大きなメリットは「安さ」です。
 定価の「10分の1」で売買されるのでなければ、非合法のブラック・マーケットの存在意義が大きく減じますから。
 安く買えるのでなければ、ブラック・マーケットが大きく育つこともないでしょう。
 禁制品を取り扱うブラック・マーケットは別物です。 そうした禁制品はブラック・マーケットでなければ手に入りませんから、比較すべき定価も存在しません。

 Bクラス以上の宇宙港(造船所)において海賊船の定期整備や修理、改造を行う際は、 航海日誌等を厳重に調査されます。
 ですから、海賊船が造船所を利用することも困難なのです。

 要するに、
 1.乗組員が大手を振って歩き回る(休暇を楽しむ)ことができる
 これだけしか、根拠地としての特典を利用できません。

 2.略奪品を安全に売り捌くことも、
 3.海賊船の整備や修理、改造を行うことも、

 帝国領内ではすべてリスクを伴う行為になっていることとなりました。



 このあたり、宇宙港に寄港した海賊船がどんな追求を受けるかについては、 後程「司法の追跡」というタイトルで考察する予定。
 大筋も出来ていませんから、投稿予定は未定です。

 とりあえず、帝国内の諸世界において、
 海賊船は正体を隠して行動しなければならず、 盗品の売却は常に非合法で売値は「10分の1」。 海賊船の定期整備や修理、改造を行う際は航海日誌等を厳重に調査される。
 ものであると結論しました。
 海賊船にとって不便な状況ですが、彼らが跳梁跋扈する状況は好ましくありませんから、これで良いのでしょう。




(4)海賊を黙認する、帝国内の地方世界

 キャンペーン(シナリオ)に地方世界を登場させるレフリーもいらっしゃると思いますので、 海賊船に対する地方世界の対応も考えてみました。

 皆様の中には、海賊の根拠地と聞いて、トルトゥーガ島(Tortuga)やポート・ロイヤルをイメージされる方もいるでしょう。  あるいは、誰も知らない入り江の秘密基地、のような根拠地をイメージされるでしょうか?
 残念ながら、帝国領内の主要世界がトルトゥーガのような無法地帯になったり、 誰も存在に気付かないような秘密基地に変えることは、考えるまでもなく無理な話です。
 ですが忘れてはいけません。
 歴史上のトルトゥーガは「境界線の彼方」にありました。
 トルトゥーガに海賊船が寄港することを禁止できる軍事力は、何処にも存在していなかったのです。

 トラベラー世界における「境界線」は、「主要世界の100倍直径」です。
 「100倍直径の彼方」に存在する地方世界ならば、海賊の根拠地として利用できるのではないでしょうか?



 簡単に調べてみましたが、基本的に地方世界は人口が少なく、通商量(=宇宙港規模)もそれほど大きくありません。
 重要性も低いので、帝国海軍のT型哨戒艦が稀にしか姿を見せないように、 帝国司法組織の目が届かないことがあるでしょう。  そうした世界ならば、海賊船の寄港が黙認される可能性が高いと思われます。
 寄港時の審査が甘くなっており、簡単に見逃してもらえるかも知れません。
 法律を守らせるための強制力がない世界というのは、海賊にとっても有り難い世界ですね。

 ここで問題になってくる点は、地方世界の人口が少なすぎること。
 可住圏を巡る世界で、規模4以上、大気レベルが5、6、8といった世界でもない限り、 地方世界の人口が6以上になることはまず有り得ません。
 人口レベルが5になることも稀でしょう。
 地方世界の多くが人口レベル4以下であることを考えると、略奪品の売り先としては不適当かも知れません。
 略奪品の大部分は、人口の多い主要世界へ持ち込まなければ売り捌けないでしょう。

 次の問題点は、宇宙港レベルが低いこと。
 宇宙港クラスがB以上の地方世界は存在しません。地方世界に存在できる宇宙港は最上の設備でもF(C相当)でしたから、 海賊船の修理や改造は航海日誌を調査されるまでもなく不可能事なのです。
 ハウス・ルールである、辺境地における定期整備ルールを用いれば、定期整備だけは可能となりますが、 そもそもFクラスの宇宙港を備えた地方世界も希少です。
 人口レベル6以上の地方世界ならば半分の確率(1D6で4〜6)で宇宙港クラスはFですが、 人口レベル2〜5の地方世界は6分の1の確率(1D6で6のみ)、人口レベル1以下の地方世界にFクラスは存在しません。
 Gクラス(Dクラス相当)の宇宙港が存在する確率も、人口レベル2以上で3分の1の確率、人口レベル1で6分の1の確率でした。
 地方世界に、並レベルの宇宙港が存在することすら、ほとんど期待できないのです。



 地方世界を海賊船の根拠地として利用する場合でも、
 1.乗組員が大手を振って歩き回る(休暇を楽しむ)ことができる世界。
 という特典だけしか利用できないようです。




(5)帝国内に存在する、海賊の根拠地

 以上、「コルセア」が利用する根拠地について考えてみました。

 「コルセア」の根拠地の条件として、私は、

 1.乗組員が大手を振って歩き回る(休暇を楽しむ)ことができ、
 2.略奪品を安全に売り捌くことが可能で、
 3.宇宙港クラスにもよりますが、
   海賊船の整備や修理、改造が可能な世界。


 の3項目を挙げましたが、帝国内においては残念ながら、その多くが叶えられません。



 条件の1つめ、
 1.乗組員が大手を振って歩き回る(休暇を楽しむ)ことができる
 について私は、海賊船の乗組員である個人を特定する(追跡して逮捕する)ことが難しいため、 海賊は即ち海賊船の乗組員である、と考えました。
 ですから、その海賊船が問題なく寄港できる世界であれば、自動的に、 乗組員が大手を振って歩き回れる世界だということになるでしょう。

 帝国内において海賊船は、その正体を隠して行動しなければなりません。
 どの宇宙港であれ、真っ当なトランスポンダ信号と船籍書類を用意して、 善良な自由貿易船星間傭兵を装う必要があります。
 その偽装が見破られなければ、海賊船の乗組員は、 大手を振って歩き回る(休暇を楽しむ)ことができる訳なのです。



 条件の2つめ、
 2.略奪品を安全に売り捌くことが可能
 であることは、帝国内では到底期待できません。
 略奪品(盗品)の売却には常に摘発のリスクが付きまとい、 盗品の売値は「10分の1の価格」に抑えられると考えました。
 帝国の法務省や税関がきちんと役目を果たしている以上、不法取引が横行する余裕はないのです。

 この問題の判断は、 海賊行為に伴う盗品売買がリスクもデメリットもなく行われてしまう場合、誰もまともな商売(=貿易)をしなくなって帝国経済が破綻する、 といった推測に基づいています。
 私の世界観も影響していますが、それほど間違ってはいないでしょう。
 盗品売買に伴うリスクは、盗品売買をゼロに抑えることはできなくても、関わることを慎ませるほど厳しいものである筈です。



 条件の3つめ、
 3.海賊船の整備や修理、改造が可能。
 という条件も、帝国内では不可能に近いことになりました。
 Bクラス以上の宇宙港(造船所)において海賊船の定期整備や修理、改造を行う際は、 航海日誌等を厳重に調査されます。
 ですから、海賊船が造船所を利用することは困難なのです。
 戦闘で大きな損傷を受けた海賊船は、その後も海賊を続けることが難しくなりますから、 この制約は活動する海賊船を抑えることにも有用でしょう。



 松永様の「海賊フローチャート ver2.0」で定義されている根拠地とは大きく異なった存在となりましたが、 私の考察において、少なくとも帝国領内に存在する海賊の根拠地は、上記のようになっていると考えました。





8.ヴァルグルの宇宙船


 ヴァルグルの宇宙船、VP型海賊船VA型商船の2隻を、MT版で再設計しました。




(1)VA型−ヴァルグル自由貿易船

 帝国のA型自由貿易船よりも、AU型外航自由貿易船に相当する商船でしょう。
 海賊稼業にも適した2G加速性能を持っています。



 船体は200トン。船体形状は針型の流線形状(エアフレーム)で、 地上宇宙港利用はもちろん、海洋での燃料補給やガス・ジャイアントでの燃料スクープも可能。
 燃料スクープと精製装置も搭載しています。

 パワープラント出力は972MWで、航続時間は14日。
 ジャンプ中の燃料消費はわずかですから、7日間のジャンプを行った後でも、通常航行を13日間続けられます。

 ジャンプ性能は2で、2パーセクのジャンプ1回が可能です。
 加速性能も2Gですが、出力の関係から移動力は0になりました。

 武装は武器設置点が2つと制御装置のために2トンが用意されていますが、CT版掲載のデータは非武装でした。
 私の独断で三連架ミサイル砲塔1基を搭載しています。
 予備ミサイルは18発、斉射6回分に相当します。

 モデル2のコンピュータを搭載しています。
 安く仕上げるため、電子回路保護は施されていません。

 乗組員は、艦橋1、機関1、砲手1の合計3名。
 専用室は5つ装備されているので、2人部屋にすれば7名までの戦闘要員を乗せられます。
 二等寝台はなく、基本的に旅客を輸送することはありません。

 船倉容積は98排水素トン。
 積載輸送機器はありませんが、必要に応じて、エアラフトなどを船倉に積むことは可能です。

 テックレベル13で建造され、建造費は63.1MCr(割引き済み)が必要です。


          表19 VP型ヴァルグル海賊船の性能諸元

Pirate09_Fig19.gif - 18.9KB





(2)VP型−ヴァルグル海賊船

 CT版では、帝国のP型海賊船に相当する武装商船だった筈なのですが、 MT版の輸送機器設計ルールで5G加速を再現したため、高価なT型哨戒艦もどきになってしまいました。
 船内容積と建造費の兼ね合いから、CT版で搭載されていた特殊艦載艇を降ろしました。
 積載輸送機器は2台のGキャリアーだけになっています。



 船体は400トン。船体形状は同じく、針型の流線形状(エアフレーム)。
 燃料スクープと精製装置も搭載済み。

 パワープラント出力は5,832MWで、航続時間は14日。

 ジャンプ性能は2で、2パーセクのジャンプ1回が可能。
 加速性能は前述の通り5Gですが、やはり移動力は0です。

 武装は三連架ビーム・レーザー砲塔が2基と、三連架ミサイル砲塔が2基。
 予備ミサイルは120発で、20斉射分です。

 コンピュータはモデル3を6台搭載。
 安く仕上げるため、電子回路保護は施されていません。

 乗組員は、艦橋2、機関3、砲手5、兵士10、指揮官3、医療1の合計24名。
 専用室が12と、緊急用二等寝台5が装備されています。

 船倉容積は38排水素トン。
 積載輸送機器はGキャリアーが2台。

 テックレベル13で建造され、建造費は251.4MCr(割引き済み)が必要です。


          表20 VP型ヴァルグル海賊船の性能諸元

Pirate09_Fig20.gif - 23.6KB





9.まとめ

 今回は、根拠地を持ち、1回から複数回のジャンプを経て略奪行に出掛けるコルセアについて考察しました。



 まず、スピンワード・マーチ宙域の銀河核方向、グヴァードン宙域から押し寄せるヴァルグル海賊は、 はたして生計を立てることができるのだろうかという疑問から、 帝国の国境外に根拠地を持つ海賊船全般の経済について考えました。

 収支計算から考えて、貿易品の略奪に専念するヴァルグル海賊は経済的な理由から、 海賊船としてVA型商船を用いることしかできません。
 また、多くの星系では、貿易品(略奪品)の利益期待値が10.0KCr以下にしかならないため、 採算を合わせるためにはジャンプ3回(6パーセク)の遠征が精々です。
 一部の星系だけが10.1KCr以上の利益期待値をもたらしてくれますが、それでも、ジャンプ4回(8パーセク)まで。
 ヴァルグルの根拠地星系から6パーセク以内にある全ての星系、及び、8パーセク以内にある一部の世界は、 常にヴァルグル海賊の襲撃へ備えておく必要があるのです。
 逆に考えれば、ヴァルグルの根拠地星系から9パーセク以上離れた帝国領内の世界は、 ヴァルグル海賊の襲撃をそれほど心配しなくても良いということが分かりました。



 しかし、その一方で、拿捕した商船を売り払うことは、海賊船に大きな利益をもたらすことが判明しました。
 S型偵察艦1隻を拿捕して売却しただけでも、 P型海賊船ならば1年間、VP型海賊船でも0.7年分の維持費とローン支払いを賄えます。
 長距離を運んでも利益が出るかどうか当てにならない貿易品を略奪するよりも、商船を拿捕して回航する方が良いのです。
 ヴァルグル海賊が自由貿易船を拿捕するため、帝国領内に20パーセク以上の距離を、 例えばスピンワード宙域の奥深くモーラ星域まで侵入してきたとしても、不思議ではありません。



 全損扱いの商船を、修理部品や改装部品の供給源として有効活用する方法について考察しました。
 普通ならば売り物にならない廃船も、使い方によっては経済的な利益を生み出すことができるようです。
 欠点としては、全損扱いの商船を丸ごと回航しなければならないことが挙げられました。

 もちろん、拿捕した商船を犯行現場(襲撃現場)において解体し、これらの修理部品や改装部品だけを持ち去ることが可能ならば、 拿捕した商船を回航する手間は大きく減じることになります。
 しかし、修理や改装は設備が整ったBクラス以上の宇宙港(造船所)でなければ行えない、というルールを尊重するのであれば、 レフリーは犯行現場での解体を認めるべきではないでしょう。
 しかし、海賊行為の現場で拿捕した商船を解体して、コンピュータや整備部品など有用な部品を取り出すことは、 トラベラー世界の常識に相応しくありません。



 最後に、「コルセア」の根拠地の条件として、私は、

 1.乗組員が大手を振って歩き回る(休暇を楽しむ)ことができ、
 2.略奪品を安全に売り捌くことが可能で、
 3.宇宙港クラスにもよりますが、
   海賊船の整備や修理、改造が可能な世界。


 の3項目を挙げましたが、帝国領内で上記の3条件を満たす根拠地は見つかりません。 正体を隠した海賊船がこっそりと入港できるくらいでしょう。
 こうして、帝国内宇宙空間の治安と恒星間通商は維持されているのです。










2012.08.26 初投稿。