海賊船が商船に接舷した後の行動は、その商船から貨物や現金を奪うことになります。
商船の乗組員は、降伏して大人しくなっているか、あるいは、乗り込み戦で制圧されていることでしょう。
乗り込み戦の途中経過に関しては、とりあえず保留します。
ただし「海賊いじめ」の考察からは、戦闘する相手に死者を出さないように戦うことが、とても難しいと判明しました。
相手の5倍から8倍の人数を用意しておかなければ、味方に死傷者が多発することが確実なのです。
(1)商船との接舷と、船内への侵入
海賊船が商船と接舷するためには、商船側の協力が得られる(降伏勧告を受け入れた状態である)か、
あるいは、商船の通常ドライブと砲塔(散乱砂砲以外の武装)をすべて無力化しておく必要があります。
まず、通常空間を航行中、すべての商船は1G加速を継続しています。
接舷を試みる海賊船は、進路を合わせるための1G加速を行いつつ、商船に接近しなければなりません。
海賊船は最低でも2G以上の加速度が必要でしょう。
次に、宇宙船の探知機は極めて高性能ですから、商船から50km(視認距離)以内にある物体は
どんな小さな物体であれ、確実に発見/追跡されてしまいます。
小艇であれ、宇宙服を着用しただけの海賊であれ、商船に気付かれないで乗り込むことは不可能なのです。
発見されれば必然的に商船は回避行動を取りますし、武装していれば迎撃することも可能です。
以上のように、商船側に協力する意思がなく、通常ドライブと砲塔が無力化されていない場合、接舷は極めて困難になります。
21世紀テラの海上海賊のように、通常航行中の商船が密かに接舷されていたり、いつの間にか海賊に乗り込まれていた、という事態は起こり得ません。
さらに接舷した後も、商船側の協力が不可欠です。
商船は装甲値40の船殻に覆われており、
船体内部は装甲値30の隔壁で仕切られています。
強力な火器や爆発物がなければ、これらの障壁を突破できません。
こっそり忍び込めたとしても船内各部に仕掛けられたセンサーと
アンチ・ハイジャック・プログラムが侵入者を発見、撃退します。
それらを出し抜くためには、高度なハッキング技術や〈侵入〉等の技術が不可欠でしょう。
さもなければ商船の乗組員を脅して、ハッチやアイリスバルブのロックを外させなければなりません。
やはり、21世紀テラの海上海賊のようなコソ泥タイプの海賊は、存在が難しいようです。
(2)商船と乗組員の解放
略奪の終わった商船がそのまま解放されるのか、それとも、海賊行為の証拠を隠滅するため爆破されるのか、判断が難しい問題です。
表向きは自由貿易商人を装っている冒険商人ですから、
宇宙船の特徴や乗組員の人相が知られ、指名手配されるような事態は好ましくありません。
海賊船の行動や装備、人数、そして奪った貨物の詳細や逃走方向。
そういった情報の流出を防ぐだけで、当局に追跡/逮捕されるリスクは大幅に減少します。
確実な証拠隠滅のためには、略奪した商船のフライト・レコーダーなど一切の記録装置を破壊し、
さらに目撃者(商船の乗組員や旅客)を皆殺しにすることが最善の選択でしょう。
できれば船内に爆発物を仕掛けて、船体を粉々に砕きたいところですが、
これは精密射撃の任意の致命的命中、
宇宙船すべてを吹き飛ばしてしまう消滅で代替しましょう。
もっとも、こうした行為に嫌悪感を抱く冒険商人は多いと思います。
私の勝手な独断ですが、
1D6のサイコロを振り、船長の身分度以下が出たら乗組員や旅客を無傷で解放するように心掛ける。
としました。
海賊行為を働く自由貿易船の船長と乗組員(=冒険商人)は、全員が身分度5以下であることに注意してください。
身分度2の船長は、その3分の1しか商船乗組員の生命に配慮しませんが、
身分度5の船長は、その多く(6分の5)が配慮することになるのです。
その結果として多くの証人を残し、簡単に捕まってしまう訳ですが。
「海賊いじめ」に登場した海賊船『ジャックポット』のドリンカー船長は身分度5です。
サイコロを振ったところ5が出たので、彼は不必要な殺しを嫌うことになりました。
海賊が商船乗組員の命を奪うということに、抵抗を抱くレフリーやプレイヤーの方も大勢いらっしゃるでしょう。
それに関してGURPS Traveller Far Trader には、以下のような記述が見つかりました。
商船の船長や乗組員が自発的に自分の財産を差し出すならば、海賊は誰一人として傷つけない。
そういった評判が広がることによって、仕事を上手く成功させる海賊も有り得るかも知れません。
こういう公式設定もあるのですが、メガトラベラーにおける冒険商人の場合、これは無茶な挑戦です。
そうした評判が広がるほど長い間、冒険商人は仕事を続けることができません。
はっきりした足跡を残せばそれだけ冒険商人が発見され、当局に逮捕されるリスクが高まります。
抵抗しなければ、乗組員や旅客には危害を加えない。
そういった評判を持った海賊については否定しません。
これは評判を広めるのが目的ではなく、(非常に困難ですが)殺人を避けてきた結果としてそういった評判を得たと考えるのが妥当でしょう。
そうでなければ、海賊が商船乗組員の命を奪う必要がない、といった背景設定が必要になります。
トラベラー世界で海賊行為が盛んに行われており、海賊が逮捕されず、逮捕されてもすぐに釈放される
といった世界観であれば、海賊たちは証拠隠滅のため、商船乗組員を殺す必要がなくなります。
もちろん、殺されないことまでは保障されませんが、21世紀テラのマラッカ海峡やソマリア海域の海賊がそんな感じですね。
隣国の領海に入れば、それ以上海賊を追跡できないとか、現地の有力者が海賊を支援しているとか、かなり厄介な状況です。
幸い、トラベラー世界は巨大な帝国に統治され、宇宙空間における法律も整備されているので、そうした状況になっているとは思えませんが。
GURPS Traveller Far Trader の同じページには、しっかりと以下のような記述もありました。
もし海賊行為が稀であり、迅速で確実な処罰がなされるのであれば、証人を抹殺するため、乗り込んで全員を殺害する傾向があります。
ということで、きちんとした法治社会であれば(法治社会であるからこそ)、
基本的に海賊は証人の抹殺に努力を傾けることになりそうです。
CT版とMT版のトラベラー世界については、これから考察して行こうと思います。
Mongoose版のトラベラー世界であれば、海賊も私掠船も野放しなので商船乗組員は比較的安全でしょうけれど、
21世紀テラのソマリアで誘拐された乗組員の運命(その3〜7割が行方不明)を考えると、あまり期待できそうにありません。
(3)商船の機能回復
致命的命中でパワープラント使用不能の損傷を受けた商船や、
「燃料」損傷ですべての燃料を喪失した商船は、ジャンプドライブも通常ドライブも動かせません。
それどころか、生命維持や通信に必要な動力も得られない状況です。
応急修理でもできれば良いのでしょうが致命的命中による損傷は応急修理不能。
Bクラス以上の造船所へ持ち込まなければ、修理できません。
あるいは造船所から工作船を呼んで修理してもらうしかないのですが、商船の乗組員には早急の救助が必要でしょう。
商船が星系に到着した直後でジャンプポイントに停船しているのであれば、
それほどの時間を置かず、通りすがりの商船に助けてもらえる可能性もあるでしょう。
漂流している商船が、海賊船の偽装ではなく、本当に遭難しているということを信じてもらうのは大変ですが(苦笑)。
また、商船が星系を離脱中だったとしても、海賊船の指示通りに停船していれば問題になりません。
しかし逃走を試みた商船は停船しておらず、海賊が立ち去った後も主要世界から遠ざかっている可能性が高いのです。
交通量のない宇宙空間へ漂っていく商船が、救難信号なしで救助してもらえる可能性はあるのでしょうか?
これらの問題については、海賊が通信機を破壊しなかった。
そして、機能停止したパワープラントとは独立した(生命維持と通信用の)非常用電源が存在する。
という設定を用意しておけば何とかなるかも知れません。
海賊がそれらを破壊しなかった理由をこじつけるのは大変ですが。
ちなみに、救難費用や回航費用は計算していませんが、パワープラント使用不能を修理する場合、
A型自由貿易船は10.8MCrの大金を必要とします。
その費用が保険で賄えない限り、船主は破産することになるでしょう。
艦橋破壊やジャンプ・ドライブ使用不能の損傷を受けた商船は、
造船所で修理を受けない限りジャンプできません。
パワープラントと通常ドライブが機能しているのであれば、自力で主要世界へ戻るべきでしょう。
艦橋破壊の修理費は0.4MCr、
ジャンプ・ドライブ使用不能の修理費は12.0MCrでした。
AU型外航自由貿易船のジャンプ・ドライブ使用不能は18.0MCrが必要です。
通常ドライブ使用不能の損傷を受けた商船は、造船所で修理を受けるまで、加減速ができません。
自力で主要世界へ帰還することは不可能ですから、救助を受ける必要があります。
通常ドライブ使用不能の修理費は2.8MCrでした。
致命的命中ではない通常ドライブの損傷を受けて
航行不能に陥った商船の場合、応急修理によって、その機能を取り戻すことが可能です。
レフリーズ・マニュアルp.99の記述によれば、その行為判定は以下のようでした。
損傷した機器を修理するには:
難易度〈難〉、1ターン(20分、確定)。
宇宙戦闘ルールの一部ですので、キャラクターの技能レベルは影響しません。
技能レベルを加味する場合は、難易度を〈至難〉に上げ、〈エンジニアリング〉や〈反重力工学〉技能などをプラスDMに用いれば良いと思います。
行為判定に成功すれば良いので、必要な乗組員が揃っているならば問題にはならないでしょう。
乗り込み戦闘などで乗組員が死傷している場合は、問題になりそうですが。
その後、本格的な修理はBクラス以上の造船所でなければ受けられませんが、修理費は0.7MCrになります。
砲塔の修理費は、その砲塔の価格の4分の1です。
応急修理は上記と同じで、本格的な修理にBクラス以上の造船所が必要なことも同じ。
問題は燃料の損傷で、これだけは明確なルールがありません。
そこでハウス・ルールの出番です。
外部損傷表での燃料損傷は、「船体」に命中したものとみなします。
その命中は、「船体10ton分」を損傷させたものだと考え、
修理の際、船体建造費用の「4分の1」を必要とします。
仮にA型自由貿易船(200ton)が「船体10ton」の損傷を受けたとしましょう。
船体200tonの建造費は15,741,000cr。
船体10tonは、商船全体の20分の1なので、15,741,000cr×20分の1×4分の1=196,763cr。
修理費として、196,763cr(面倒なので四捨五入して200,000Cr)が掛かります。
ちなみに、T型哨戒艦(400ton)の場合、船体10tonの修理費は198,619cr(こちらも四捨五入して200,000Cr)でした。
色々な損傷個所の修理費を見積もりしてみましたが、パワープラントと
ジャンプ・ドライブの修理費が異様に高価です。
海賊被害を対象に含めた、損害保険(船舶保険?)の考察が不可欠になってしまったような気がします。
これらの修理費捻出については、また今度、考察してみましょう。
通常ドライブや砲塔、燃料の損傷は、
比較的安価な修理費で直せます。応急修理も可能ですから、修理費が捻出できない場合は修理せずに航行するという選択肢もあるでしょう。
あまり実践したくありませんが。
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