The Life of the Merchant Adventurer
冒険商人の生活
  MEGA TRAVELLER
Science -Fiction Adventure
in the Far Future

CG softs:  DOGA-L3, Metasequia

 

 

 

 

 

 
 



 
 
 
 
 
 


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図1 乗り込んできた海賊に、反撃を仕掛ける乗組員

海賊A(手前)が前進してきたところを、ビアトリスα(右側)が妨害して射撃。
ビアトリスαの射撃を、海賊B(奥)が妨害することに成功。
海賊Bの射撃を、更にビアトリスβ(左側)が妨害することに成功。
海賊Bは戦闘ライフルのフルオート射撃によって無力化されました。
海賊Bが行動不能になったので、今度はビアトリスαの射撃です。
海賊AはSMGの近距離フルオート射撃を受けて...。




1.はじめに


 古代テラ(16〜17世紀)には、冒険商人(Merchant Adventurer)という職業が存在しました。
 貨物輸送や自由貿易の任務をこなしつつ、機会を見つければ海賊船として敵性商船や港町を略奪していた、 商船乗りのことです。
 この当時は商船と軍艦の区別がされていなかったため、武装と乗組員さえ揃えれば、商船であっても十分な戦闘力が発揮できたのでしょう。

 しかしトラベラー世界(57世紀の宇宙)において、武装を搭載できるとはいえ自由貿易船の戦闘力では、 哨戒艦や護衛艦などの軍用艦艇はもちろんのこと、 獲物である商船と戦って勝つことすら困難であると分かりました。

 ですから、57世紀の海賊船はすべて戦闘力の高い宇宙船を使用しているのだろう。
 冒険商人などという職業はとっくの昔に絶滅しており、57世紀のトラベラー世界では絶対に遭遇する筈がないのだ。

 私はそう思い込んでいた訳ですが、トラベラーに掲載されている遭遇表やプレイヤー作成ルールなどから、次のような疑問を抱くようになりました。
 トラベラー世界には冒険商人がまだ生き残っているのではないか、それどころか、 遭遇する海賊の多くはそういった冒険商人なのではないかと。



 今回は、自由貿易船で海賊行為を行う冒険商人の行動を考えてみました。
 基本的に彼らは本業の貿易業務が上手くいかず、食い詰めて海賊行為に手を染めざるを得なくなった自由貿易商人達です。
 準備は(装備も人員も情報も)不足しているでしょうし、海賊を実行する際の覚悟にも欠けていることが多いでしょう。

 松永様の「海賊フローチャート」では 「ジャンプ野郎 (Jumpcusser)」と呼ばれている海賊になります。
 同じ名前で呼んでも良かったのですが、混乱を避けるために敢えて呼び方を変え、区別することにしました。





2.遭遇する海賊船の種類


 辺境航路を航行している商船が海賊船と遭遇した場合、 その海賊船はどんな宇宙船を使用しているのか、これは大きな問題です。

 CT版の場合、基本ルールの遭遇表より、S型偵察艦T型哨戒艦C型巡航艦の3種類と遭遇することが明らかになっています。
 このあたりは「黄昏の峰への前奏曲」と「海賊との遭遇」で考察しました。

 MT版の場合、帝国百科p.91の遭遇表を利用すべきなのでしょうが、この表は海賊船として ヨットXボート燃料シャトルのように、 明らかに海賊稼業には不向きな宇宙船が出てきたり、 反対に5000トン以上の貨物船巡洋艦戦艦 といった大型艦まで出てくるので、どうにも不自然な結果となってしまいます。

 幸いMT版では「ハードタイムズ」という追加ルールが出版されています。
 その中にはしっかり海賊団の宇宙船タイプを決める表が掲載されていましたので、それを用いることにしました。
 掲載されている3種類の海賊団、ヴァイキングコルセア切り裂き魔の中で、戦前からの海賊団はコルセアだけです。 ですからこの表はコルセアと同じDMなしで、サイコロを振るべきなのでしょう。

 その結果、遭遇する海賊の宇宙船タイプは、以下のようになりました。


               表2 海賊船との遭遇表
        (MTハードタイムズp.94 16章の6項より転載)

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 非常に面白い結果が出てきました。
 ハードタイムズの遭遇表は、自由貿易商人を演じるプレイヤーと遭遇する海賊船が、あまり強くなり過ぎないようにする意図で調整されている訳ですが、 AU型外航自由貿易船A型自由貿易船の2種類、 自由貿易商人の使用する宇宙船が海賊船の半数を占めているのです。
 この遭遇表から考えてみると、57世紀のトラベラー世界であっても冒険商人の活動は盛んなようですね。

 以下、具体的に見ていきます。




AU型外航自由貿易船(200ton)

 遭遇率30.6%でトップです。
 遭遇する海賊船の3割はAU型だと判明しました。
 分かる気がします。何といっても、AU型は黒字経営を続けること、それ自体が大変ですので。 通常の旅客/貨物輸送では、絶対に赤字なのです(CT「商船と砲艦」にも明記されている事実です)。
 それを黒字に変えるためにはジャンプ2の能力を活かして 投機貿易で儲けるしかない訳ですが、それに失敗したとしたら?

 AU型は「商船」キャラクターが「国境外運輸会社」に勤めていれば、 高確率で受け取れます。新たな商船(中古の可能性も高いですが)の供給は潤沢なのでしょう。
 AU型のジャンプ2能力は、海賊行為の後、居場所をくらますためにも有用です。




P型海賊船(400ton)

 次点は、P型の海賊船です。
 遭遇率は25.0%で、4分の1。
 堂々と海賊船を名乗っている宇宙船を何処の造船所が建造しているのか、と不思議に思えますが、 危険な辺境航路を航行する武装商船として建造されているのでしょう。

 大きな船倉、ジャンプ3能力、4つの武器設置点。
 この3要素だけを見ると立派な海賊船ですが、まっとうな海賊船にしては、コンピュータの能力が低すぎます。
 この火力は自由貿易船政府指定商船に対してならば圧倒的な優位を発揮できますが T型哨戒艦などの軍用艦艇には太刀打ちできません。




A型自由貿易船(200ton)

 三番目は、遭遇率19.4%(5分の1)のA型です。
 帝国内を航行している商船としてはポピュラーなものなので、妥当な数字かも知れません。 「商船」キャラクターが「星域規模運輸会社」か 「自由貿易商人」に勤めていれば、簡単に入手できる商船です。
 AU型よりも遭遇率が低い理由は、「淘汰されやすい」が故でしょう。

 AU型との遭遇率と合わせると、A型+AU型の海賊船はちょうど半分(50.0%)になりました。
 一般の商船に武装を乗せる理由が、これらの素人っぽい海賊船から逃れるためだと思えば納得できそうです。 搭載する意義(効果)も十分ですね。

 同じようにポピュラーなR型商船が海賊船として遭遇しない理由は、R型が「助成金を受け取りやすい」からでしょう。
 政府助成を受けていれば、そう簡単に破産はしません。 また、政府指定の航路を運航していれば、横領も難しくなります。 そんな訳で、海賊船になるR型は珍しいのです(多分)。




S型偵察艦(100ton)とXT型連絡補給艦(1,000ton)

 四番目は、同率(12分の1で8.3%ずつ)のS型とXT型です。

 あまり認めたくないのですが、多くの退役偵察局員が海賊行為に手を染めていると解釈すべきなのでしょうか。 あるいは、退役偵察局員に貸与された偵察艦以外にも、民間には大量の偵察艦が流通していると解釈すべきか。 個人的には、後者を希望。

 S型偵察艦は戦闘能力が低く、簡単に撃破(拿捕)されてしまいます。
 海賊に奪われた偵察艦が名義を書き換えられて(あるいは、そのままで)、 海賊船として利用される可能性もあるでしょう。

 XT型連絡補給艦については、CT「商船と砲艦」にも記載されていたように 海賊船として理想的なのだそうです。
 具体的にどうやってハイジャックして、その後どうやって海賊船として運用するのか、今の私には想像できませんが。




T型哨戒艦(400ton)とCE型小型護衛艦(300ton)

 六番目になって、ようやく5.6%(18分の1)のT型と遭遇します。
 これだけ数が少ないのですから、ひょっとしてT型哨戒艦を駆る海賊は、エリート、なのでしょうか?

 七番目が、最後の軍艦(600ton以下)で、遭遇率は2.8%(36分の1)です。
 戦闘能力の高い軍艦で、かつ600ton以下という宇宙船は、ガゼル型(CE型)小型護衛艦ぐらいしか思い当りません。 ですので、そういうことにします。

 T型哨戒艦CE型小型護衛艦、 この2つを合わせても、遭遇率は12分の1(8.3%)しかないことが判明しました。 商船の武装で太刀打ちできないほどの強力な海賊船に出遭うことは、意外と少ないようです。





3.自由貿易商人の日常


 海賊稼業に手を染める自由貿易商人(=冒険商人)がどれだけの割合で存在するのか、 ふと気になって、プレイヤーズ・マニュアルp.60〜64 豪商キャラクター作成表を調べてみました。

 プレイヤーはサイコロを振って、毎年の任務を決定します。
 その任務表によると、社会身分度5以下の自由貿易商人キャラクターは、36分の1(=2.8%)の確率で、 1年間の「海賊」任務に就きます。 ランダムに身分度を決めた場合、社会身分度が5以下になる確率は27.8%ですから、

 27.8%×2.8%=0.77%

 個人所有の自由貿易船は、およそ130隻に1隻の割合で海賊船になっている可能性があると分かりました。
 これがトラベラー世界の「公式設定」なのでしょう(笑)。



 私の考察「Pirate_1:海賊との遭遇」によると、 スピンワードマーチ宙域(帝国領)は、海賊が150〜180隻活動していることになりました。
 この半数(50.0%)がAU型やA型の自由貿易船だとすると、その数は75〜90隻になります。
 それだけの海賊船が存在するためには、個人所有の自由貿易船が9,750〜11,700隻存在すれば良いでしょう。

 問題は、自由貿易船について企業所有と個人所有の割合に関するデータが存在しないことですが、 MAG様の考察「スピンワードマーチ宙域の商用船舶」によれば、 スピンワードマーチ宙域(全体)には、200トン級の商船が20,000隻以上(私の計算方法では32,000隻)運航しているとのこと。
 帝国領に限定すると、この数は4分の3(15,000〜24,000隻)に減ってしまいますが、 これら自由貿易船の内4割から8割が個人所有(つまり自由貿易商人の所有)であれば、海賊船の供給には事欠かないようです。

 海賊船の供給源としては十分ですね。


           表3 自由貿易商人の任務、内容と分布

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          表4 自由貿易商人の任務、リスクと見返り

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 自由貿易商人の任務決定表は、そのキャラクターの社会身分度によってDMがあります。
 具体的には、身分度5以下の場合DM+1があるだけなのですが、たったそれだけのことで任務の内容と分布が大きく変化しました。



 最初の「引き抜き」は、身分度6以上のキャラクターでなければ発生しませんが、 36分の1(=2.8%)の確率で、キャラクターはより大規模な会社に引き抜かれます。
 自由貿易商人全体としては、2.0%の確率でした。
 リスクと見返りは引き抜かれた先で任務表を振り直すため平均を求められません。

 次の「定期便」任務は、 身分度6以上で36分の12(=33.3%)、身分度5以下で36分の9(=25.0%)発生します。
 この任務は、定期航路に就航している商船での勤務だそうで、安定した経営が可能になるのでしょう。
 実際に表4を見ると、典型的なローリスク/ローリターン任務になっていました。
 蛇足ですが下っ端の船員が高級船員へ昇進するためには、この「定期便」任務に就いていることが必要です。

 3番目から5番目、「チャーター便」、「投機貿易」、 「市場開発」任務は、身分度6以上で36分の12(=33.3%)、身分度5以下で36分の14(=38.9%)発生します。
 この任務はそれぞれ、特定の会社や個人にチャーターされた商船での勤務投機貿易を行なっている商船での勤務商圏に組み込まれていない世界に行き、その世界を新たな市場として開発しようとする宇宙船での勤務、になります。
 若干リスクは増えますが、技能習得やボーナスなどの見返りもそれなりにあると言えるでしょう。



 6番目の「密輸」任務ですが、これは 身分度6以上で36分の1(=2.8%)、身分度5以下で36分の2(=5.6%)発生します。
 自由貿易商人全体としては、2.0%の確率でした。
 この任務は、商品の違法な売買により利益を上げようとする商人の船での勤務だそうです。
 生存判定が6+(=72.2%)ですから危険度は高いのですが、技能習得(5+)もボーナス(6+)も高確率で得られます。

 7番目の「海賊」任務は、身分度5以下のキャラクターのみ、36分の1(2.8%)で発生します。
 他の商船を攻撃し、貨物を盗んで利益を上げようとする商人の船での勤務であり、 生存判定が7+(=58.3%)の極めて危険な、ハイリスク/ハイリターン任務です。
 私の危惧していた冒険商人の実在が、公式ルールで確認されました。



 最後の「待機」任務は、身分度に関係なく、36分の10(=27.8%)の確率で発生します。
 商船としての仕事がまったくなく、資金難のため地上で働きながら航行を待つ状態だそうです。
 本当に1年の間、まったく仕事がないのかどうか分かりませんが、普通に考えればローンの支払いはできません。 多くの船主は困窮して、商船を手放すことになるでしょう。
 小規模な運輸会社「輸送組合の9割」は「5年以内に消滅する」という設定もありますから、 これもトラベラー世界の常識なのだと思います。
 経営に参加していない、下っ端の乗組員には関係ありませんが。

 しかしながら、船を諦めきれない船主や乗組員の数も、決して少なくはありません。
 現実に納得できない3.5%の自由貿易商人は違法な貨物の売買(密輸)に手を染め、 0.8%は海賊稼業に乗り出すのです。

 困窮した自由貿易商人の多くは倒産/破産/他企業による買収という運命を大人しく受け入れながらも、 その一部は密輸を行い、さらに少数が海賊稼業を始めてしまう。
 これもまた、トラベラー世界の常識なのではないでしょうか(苦笑)。





4.待ち伏せ場所の選定


以下は、最強兵器決定戦41回「海賊いじめ1」より抜粋したもの。



 そして3ヵ月後、ドリンカー船長と乗組員は、レック星系で途方に暮れていた。 高値で売れることを期待していた貿易品に、全く買い手が付かなかったのだ。
 それでも運行経費を支払うため、手放さない訳にもいかない。 はるばる運んできた貿易品は、全く利益の出ない安値で買い叩かれてしまった。
 共有室で頭を抱える彼らの目の前には、空になった船倉と、ここ1ヶ月、全く使われていない客室があった。 予想した通り、辺境航路には競争というものが全くなかったのだが、そもそも競争に値するだけの貨物も旅客も存在しなかったのである。

 ローンの支払い期限が、翌週に迫っていた。
 船荷も旅客もない状態が続いている上、頼みの綱の貿易品も安く買い叩かれてしまったため、支払いに充てる現金が無い。 このまま出港したならば、次の寄港地カーカ星系で、銀行の差し押さえに遭ってしまうことは確実だろう。
 かといって、このままレックの宇宙港に留まっていても、何の利益も生まれない。 停泊したままでは、銀行の差し押さえを待つだけだ。
 どう転んでも、破産は免れない。

 ところがその時、絶望に沈むドリンカー船長の目に、隔壁に飾られたカトラスが目に入った。 彼がまだ大手の運輸会社に勤務していた頃、保安訓練の修了証と共に受け取った個人名入りのカトラスである。
 カトラス。
 船内での戦闘。
 乗り込み戦。
 略奪。
 追い詰められた船長の思考が「海賊」という単語に連鎖するまで、それほど時間は掛からない。船長は乾いた唇をなめ、口を開いた。

「なぁ、みんな。ちょっとした副業に関する相談なんだが……」




 皆様は自由貿易商人をプレイしていて、上記のような状況に陥ったことはなかったでしょうか?
 私はレフリーを担当していて、プレイヤーを追い込んだことがしばしばあります。 シナリオの始まりとして定番の状況ですよね(笑)。

 実は「借金返済に充てるため強盗を行う」ことは一般的な事例でして、 某極東島国の犯罪統計によると、強盗犯の3割は「借金の返済」が目的だったりします。
 「生活費を得るため」という動機を加えるのであれば、6割にもなるでしょう。
 ローンが払えなくなったら自己破産すれば良い、という単純なものではないのです。 返せなくなった借金は踏み倒せても、自分たちの生活費は必要ですよね?
 もちろん、借金で首が回らなくなったり、生活に苦しむ者が皆、強盗を行っているという訳ではありませんが、 ローン返済を滞らせた(滞らせそうになった)自由貿易商人がパートタイムの海賊(冒険商人)に 転向する動機として、十分に納得できる数字ではないでしょうか。



 さて海賊行為を決意した冒険商人は貨物を満載した商船を襲い、 その貨物を頂こうと計画している訳なのですが、そのためには獲物となる商船を待ち伏せしなければなりません。
 待ち伏せ場所は、何処にすべきでしょう?




(1)星系内航行中の襲撃

 海賊と聞いて真っ先にイメージするのは、
 通常航行中の商船を追いかけ、威嚇射撃で停戦を要求。
 その後、おもむろに接舷して貨物や貴重品を奪う。

 といった行動パターンではないかと思います。

 しかし、宇宙空間でこの行動パターンは実践できません。
 真空の宇宙空間に、最大速度の制限は(光速を除いて)存在しないからです。

 ルールブック等で説明されている通り、トラベラー世界の宇宙船は2地点間を移動する際、その中間点までの定常加速を行います。
 そして、中間点で加速方向を180度反転。
 今度は目的地に到着するまで、定常減速を続けるのです。

 以下に、規模0〜A、小型ガス・ジャイアント(SGG)、大型ガス・ジャイアント(LGG)の軌道上から、 100倍直径へ移動するまでの距離と所要時間、移動中の最大速度を示しました。


         表5  商船(1G加速)の航行時間と最大速度

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 2地点間の距離(航行時間)と加速性能に左右されますが、商船の最大速度は秒速35〜315kmにもなります。
 もっとも遅い速度(秒速35km)だとしても、待ち伏せていた海賊船が商船と同じ速度になるまで1時間、 加速中に引き離された距離を詰めるまで更に2時間で、合計3時間が必要となるでしょう。
 追跡に気付いた商船が加速して逃げれば、追いつくための時間はもっと多くが必要となります。

 水の抵抗で速度上限が決まっている海上ならば、 商船を追いかけることも、進行方向を合わせて接舷することも容易です。
 しかし、宇宙空間で追跡と接舷を実行することがどれほど困難であるのか、お分かり頂けたでしょうか。

 では、待ち伏せ場所を何処にするべきか。
 獲物の商船が自ら減速し、最終的には停船してくれる場所を探しましょう。




(2)主要世界の衛星軌道上

 移動経路の端、主要世界の衛星軌道上において、商船は必ず停船します。
 軌道周回に必要な速度まで減速しなければ主要世界を通り過ぎてしまいますから、当然のことでしょう。
 商船はそのまま軌道宇宙港に入港するか、あるいは、大気圏に突入して地上宇宙港を利用することになります。
 待ち伏せには都合の良い話ですね。

 しかし、ここで海賊行為を働くのは、流石に躊躇われます。
 宇宙港には豊富な探知機に加え、ある程度の戦闘力が常駐しているでしょう。
 それに加えて、軌道港や地上港に停泊している商船の数隻が武装しているかも知れません。
 やはり、待ち伏せには危険すぎる場所のようです。

 寂れた辺境世界であれば、宇宙港の防衛設備は存在せず、稀に帝国海軍の哨戒艦が巡回するだけ、という状況が有り得るかも知れません。
 停泊している商船が存在しないか、存在しても他船の救助に消極的な場合も考えられます。
 あるいは、海賊船の武装が強力で、それらの防衛設備や商船の抵抗を力尽くで排除できるとか。

 しかし、そういった状況が有り得るとすれば、主要世界の衛星軌道に停泊している商船だけでなく、地上宇宙港に停泊中の商船、 そして主要世界の居住地や市民の財産までもが海賊行為の対象となってしまうでしょう。
 それはそれで検討すべき問題ですが、これは地上襲撃者 (松永様の海賊フローチャートVer.2では「掠奪者 Raider」)の領域になります。
 今回は冒険商人についての考察ですから、 主要世界の衛星軌道上で海賊行為を行う可能性については、考慮しません。




(3)主要世界、あるいは、主恒星の100倍直径

 では移動経路の反対側、主要世界、あるいは、主恒星の100倍直径での待ち伏せはどうでしょうか?

 経済的な理由、星系内の移動時間を最低限に抑えなければならないという理由から、 商船がジャンプ空間に入ったり出てきたりする空間(ジャンプ・ポイント)は、ほぼ1箇所に限定されます。 実質的に待ち伏せ場所は1箇所しかないということで、効率は高くなりました。
 ジャンプアウトの精度などから考えて、ジャンプ・ポイントの大きさは半径5,000〜20,000km程度の球状となるでしょう。
 実質的には、宇宙戦闘ルールの1マス内に収まります。
 また、「ジャンプ・マスク」の概念を考慮したとしても、 ジャンプ・ポイントの数は3箇所までしか増えません。

 このジャンプ・ポイントをどれだけの頻度で、どれだけの商船が通過するのか、
 再び、MAG様の考察「スピンワードマーチ宙域の商用船舶」より求めてみました。
 「Pirate_1:海賊との遭遇」に掲載した表10〜12の形を変えたものです。

           表6 宇宙港規模による、商船の寄港頻度

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 上記の商船数は、左端の時間単位で何隻の商船がジャンプ・ポイントに出現するかを示したものです。
 当然、星系を離脱する商船も存在しますので、ジャンプ・ポイント周辺に存在する商船の数は、上記の2倍になる訳ですが。

 すでに「Pirate_1:海賊との遭遇」で考察した通り、 宇宙港規模6+以上の星系では、海賊船が活動できません。
 手頃な商船を見つけて襲いかかっても、その周辺には常に数隻の商船が存在するのですぐに通報されたり、 あるいは、撃破されてしまうからです。

 宇宙港規模5〜6の星系であれば、商船は3〜4時間に1隻の頻度でしか出現してきません。
 短時間で一連の海賊行為を終えられるのであれば、海賊にはふさわしい環境です。

 宇宙港規模4以下の星系は、商船が半日〜5日に1隻しか訪れません。
 獲物を見つけることは大変ですが、海賊行為を行っても救援が駆けつける可能性は少なく、 海賊船の視点からすれば、比較的、安全な環境だと言えます。

 この待ち伏せ場所を使って、考察を続けることにしましょう。




(4)ガス・ジャイアントの大気圏、衛星軌道、100倍直径

 商船が燃料補給のためガス・ジャイアントを利用する、というのはトラベラーで定番の設定ですが、 私の考察「燃料補給サービス」において、ガス・ジャイアントの利用は 主要世界がガス・ジャイアントの衛星になっている星系でなければ不経済である、 という悲しい結論が出ております。

 経済性を最優先すべき商船が、主要世界から離れたガス・ジャイアントで燃料補給を行うことは、 (人目を避けるなど)特別な理由がない限り、有り得ないことなのです。
 レフリーが何らかの設定を作っておかない限り、 そうしたガス・ジャイアントで待ち伏せをする海賊船は、滅多に獲物を見つけることができません。



 もっとも前述の通り、主要世界がガス・ジャイアントの衛星となっており、 そのガス・ジャイアントでの燃料補給がそれほど時間を取らないのであれば、話は別です。
 ジャンプアウトしてきた商船は真っ先にガス・ジャイアントへと移動し、 燃料補給を終えた後に再び、主要世界へ向かうことになるでしょう。
 そうした行動を取る商船の数を、以下にまとめました。


    表7 宇宙港規模による、商船の寄港頻度(ガス・ジャイアント周辺)

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 上記の商船数は、ガス・ジャイアント周辺を航行する商船の数を示したものです。
 「帝国百科」に記述されている通り、 ガス・ジャイアントでの燃料補給は、星系到着(ジャンプアウト)から主要世界への移動途中に行われます。

 1G加速で接近してくる商船は、ジャンプ・ポイントから移動してきた商船であり、燃料タンクはほぼ空の状態です。
 表5で示した通り、ガス・ジャイアントの100倍直径(ジャンプ・ポイント)からガス・ジャイアントの大気圏まで、 1G加速による移動で12〜18時間が必要でした。 しかし宇宙船の探知機の有効範囲内、艦載兵器の最大射程である10マスの範囲内にある時間は、目的地に近付いて減速中の2時間だけになります。
 表には、その2時間の範囲内(10マス以内)を接近中の商船数だけを示しています。

 ガス・ジャイアントにおける燃料補給(燃料スクープ)には、8時間が必要です。
 実際には以下の行為判定を行うことになっていました。

 ガス・ジャイアントから宇宙船の燃料をすくいとるには:
   難易度〈並〉、〈パイロット〉、〈航法〉、1時間(致命的)


 サイコロ運が良ければ最短3時間で終えることも可能ですが、 計算を簡単にするため一律8時間を想定しておきました。
 ガス・ジャイアントの大気圏で燃料補給中の商船数は、表に示した通りの数となるでしょう。

 ガス・ジャイアントを離脱する商船は、主要世界へと移動する商船です。
 燃料は満載状態。
 主要世界までの移動時間は様々ですので平均を求められませんが、 接近中と同じように2時間の範囲内(10マス以内)を移動中の商船数を示しています。

 最下段の数字が、それらの合計値。
 ガス・ジャイアントで商船の待ち伏せを行う場合、その周囲には平均してこれだけの商船が航行していることになりました。



 ジャンプ・ポイントでの待ち伏せ以上に、ガス・ジャイアント上空は込み合っています。
 宇宙港規模6+以上の星系では、海賊船が活動できません。
 例えば宇宙港規模7+のリジャイナ星系において、ガス・ジャイアントの周辺には常に200隻弱の商船が航行中です。 海賊行為を始めた商船はすぐに発見/通報され、撃破されることになるでしょう。

 宇宙港規模5〜6の星系でも、ガス・ジャイアント周辺には3〜4隻の商船が航行しています。
 海賊行為を始めるには、まだリスクが高いようです。

 宇宙港規模4以下の星系であれば、 ガス・ジャイアント周辺には0.96〜0.11隻の商船しか航行していません。
 なかなか獲物にありつけませんが、見つけた時、周囲に他の商船は存在しないのです。実に好都合な環境だと言えるでしょう。



 主要世界がガス・ジャイアントの衛星になっている星系であり、宇宙港規模4以下の星系であれば、 ガス・ジャイアントでの待ち伏せも可能になると判明しました。
 しかし、主要世界がガス・ジャイアントの衛星になっているかどうかは、レフリーの裁量に任されています。
 ですからガス・ジャイアントで待ち伏せする海賊がいるかどうかもレフリー任せ、ということになるでしょう。





5.待ち伏せの成功率


 熟考(あるいは短慮)の結果、パートタイムの海賊に転職したドリンカー船長は、 主要世界の100倍直径で、獲物となる商船を待ち伏せることに決めました。 厳密に述べると、レック星系はM0X型の恒星系ですから、主要世界は主恒星の100倍直径内を巡っています。 従って待ち伏せ場所も、主恒星の100倍直径になりました。
 それはともかく、冒険商人としての初仕事です。




(1)星系離脱中の商船を、100倍直径で待ち伏せ

 集まらない旅客の代わりにレックの「ならず者」達を乗せた『ジャックポット』は、ほとんど空荷のままで出港した。
 通常の航行手順通り100倍直径の外側にあるジャンプ・ポイントまで移動した後は 宇宙港の管制塔に対して「これからエキスト星系に向けてジャンプする」ことを通告する。
 そして通信の終了と同時に、トランスポンダを停止。
 こうすることで『ジャックポット』が星系外へジャンプしたように見える訳だ。

 待ち伏せを開始した『ジャックポット』は、通信機から流れ出す情報を元にして、獲物の品定めを開始した。
 帝国内を航行する宇宙船はトランスポンダを通じて、 その宇宙船を特定できる情報、船籍世界、船体サイズ等の情報発信を義務付けられている。
 だから獲物の宇宙船タイプや武装の有無まで判断できる訳で、選び放題なのだ。

 などと言いつつも、ドリンカー船長と乗組員達はすでに獲物を決めていた。
 『ジャックポット』から3時間遅れで離陸した 非武装のR型商船『ジャイロ・デイヴィス』だ。
 困窮する『ジャックポット』を尻目に大量の貿易品を買い付け、旅客を満載した仇敵なのである。 富の不均衡を是正するためには、裕福な政府指定商船を襲うに限る。
 決して、ドリンカー船長達が安酒を飲んでいる隣で高い酒をガブ飲みされたとか、 『ジャイロ・デイヴィス』の乗組員が美女達をはべらせていたのが癪に障ったという訳ではない。
 獲物の品定めは海賊行為の成否に直結する重要事項なので、単なる私怨で決めてはいけないのだ。



 待ち伏せを始めて2時間半後、R型商船の『ジャイロ・デイヴィス』が接近してきた。 ジャンプ・ポイントで停止するため、しばらく前から減速中である。
 『ジャックポット』との距離は2万5千キロ(宇宙戦闘ルールで2ヘクス先の近距離に相当)。 高性能なコンピュータや探知機を搭載していれば、潜んでいる『ジャックポット』を見つけることも可能な距離だ。
 『ジャックポット』のブリッジを緊張が包んだ。 誰もが息を潜めて『ジャイロ・デイヴィス』の航跡を見守り、無線機からの情報に耳をすましている。
 トランスポンダを切って潜伏中の『ジャックポット』は、何処から見ても不審船舶である。 見つけられた瞬間、不審船舶として通報されたり、獲物が回避行動に出る可能性は高いのだ。

 緊迫した20分が過ぎ、『ジャイロ・デイヴィス』はジャンプ・ポイントの手前7,000kmまで接近した。
 同時に、『ジャックポット』のブリッジには警戒レーダーの警告音が鳴り響く。
 『ジャイロ・デイヴィス』のレーダーが『ジャックポット』の姿を捉えたのである。
 今更気付いても、もう遅い。
 獲物が不審船に対応するよりも早く、『ジャックポット』の砲塔は 『ジャイロ・デイヴィス』の船体に向けてミサイルを発射していた。

 『ジャイロ・デイヴィス』は自身を目掛けて飛翔するミサイルを避けるべく、 その鈍重な船体に許される限りの回避運動を開始したが、その甲斐もなく、ミサイルは船体を直撃。
 そのミサイルは『ジャイロ・デイヴィス』の主翼に命中。
 燃料タンクに大きな破孔を開け、大量の燃料を宇宙空間へと流出させた。
 残る燃料だけではジャンプできない。



 『ジャックポット』のドリンカー船長は、その成果を確認した後、おもむろに降伏勧告を行った。

「こちらは海賊船『ジャックポット』、商船『ジャイロ・デイヴィス』に告ぐ。
 本船の火器はそちらを完全に捕えている。
 無駄な抵抗は止めて、我々の指示に従え。
 さもなくば、貴船を即座に破壊する。」




 上記は、最強兵器決定戦41回「海賊いじめ1」を投稿する際、長くなり過ぎたのでカットした部分です。
 海賊行為の実例サンプルとして持ち出し、色々と加筆してみました。

 今更ですが『ジャックポット』は海賊船として仕事をする際の船名です。
 自由貿易船の名前としては別の船名が存在しますが、色々とやっている内に忘れてしまいました。
 なので自由貿易船として航行している際も『ジャックポット』の船名を使用します。



 海賊船がジャンプ・ポイントで獲物の商船を待ち伏せする場合、上記のようなパターンになると思います。
 以下の図8で、その詳細を説明します。


PIRATE05_FIG08.JPG - 49.3KB

        図8 ジャンプ・ポイントで待ち伏せる海賊船と商船の行動

 海賊船『ジャックポット』は、ジャンプ・ポイントより1マス外側で、待ち伏せすることにしました。
 色々とシミュレーションしてみたところ、この場所が最も襲撃に成功しやすい場所だと判明したためです。
 ジャンプ・ポイントやその内側で待ち伏せしている場合、待ち伏せそのものには成功しやすいのですが、 相対速度が大きいので逃げられる可能性が高く、また、停船させることに成功しても接舷までの時間が長く掛かってしまいました。

 海賊船の襲撃開始タイミングをXターンとすれば、その襲撃手順は以下のようになるでしょう。



X−2ターン(40分前)

 商船は、ジャンプ・ポイントの手前6ヘクスで移動を開始し、手前3ヘクスで移動を終了しました。
 速度は4から3へ減速。
 商船と海賊船との距離は4ヘクスですが、商船が海賊船を発見するためには2Dで10+の目が必要になります(探知成功率16.7%)。



X−1ターン(20分前)

 商船は、ジャンプ・ポイントの手前3ヘクスで移動を開始し、手前1ヘクスで移動を終了しました。
 速度は3から2へ減速。
 商船と海賊船との距離は2ヘクスまで近付き、商船が海賊船を発見するためには2Dで8+を出せば十分です(探知成功率41.7%)。



Xターン(襲撃開始)

 商船は、ジャンプ・ポイントの手前1ヘクスで移動を開始し、ジャンプ・ポイントのヘクスで移動を終了しました。
 速度は2から1へ減速。
 商船と海賊船との距離は1ヘクス(視認距離)となり、商船は自動的に海賊船を発見できます(判定不要)。
 この段階で、海賊船は襲撃(威嚇射撃や降伏勧告など)を開始しますが、不意討ちされた商船は対応できません。
 ですから1ターンだけ、海賊船は一方的な攻撃を行えるのです。

 商船があらかじめ「海賊船が出没している」などの事前情報を手に入れていれば警戒しているでしょうが、 今回は完全に無警戒、あるいは、油断していたという設定で考えます。
 商船が「警戒している」という設定であるならば、以下の行為判定を行って下さい。

 攻撃を仕掛ける側が不意討ちを行うには:
   難易度〈易〉、〈リーダー〉、〈探知機〉(対立)


 特例として、行為判定に失敗しても海賊船側が不意討ちされることはないとします。

 上記は、何の事前情報もなかった(商船の乗組員が知らなかった/信じなかった)場合の難易度です。 商船の探知機で海賊船の待ち伏せを察知できなかった以上、当然の結果だと思いますが。

 3日以内に海賊被害や不審船舶の通報があった場合、難易度は〈並〉です。
 ジャンプポイントを無事に通過した(ジャンプで星系を離脱した、あるいは、ジャンプアウトして星系に到着した)宇宙船1隻に付き DM+1があり、4隻が通過すれば難易度は〈易〉に戻ります(安全が確認されたとみなされるため)。
 宇宙船の通過による安全確認がなされなくても、3日経てば難易度は〈易〉に戻ります。

 1日以内に海賊被害や不審船舶の通報があった場合、難易度は〈難〉です。
 宇宙船の通過による安全確認1隻ごとにDM+1があることは同じであり、4隻通過で難易度〈並〉、8隻通過で難易度〈易〉に戻ります。

 一度、襲撃(不意討ち)に失敗しても、ほとぼりが冷めるまで待つか、数隻の獲物を見逃せば、商船の警戒がなくなるので、 再度の襲撃(不意討ち)がやりやすくなるでしょう。



 もしも不意討ちに失敗して1〜2ターン前(20〜40分前)に商船が海賊船を発見した場合(その可能性は51.4%もあります)、 残念ながら加速能力の問題で主要世界へ引き返すという行動は選べません。
 主要世界へ引き返すのであれば、その行動は当初の予定通りに減速を続け、 ジャンプ・ポイントの真ん中、つまり海賊船の目の前で停船することになるからです。
 海賊船は絶好の射撃チャンスを得られますし、距離も相対速度も小さくなるので、接舷が容易になってしまいます。

 そういった事態に陥ることを防ぐため、商船はトランスポンダを発信していない不審船舶を避けるべく進路変更を行ったり、 あるいは、加速してジャンプ・ポイントを通り過ぎようと試みるべきでしょう。
 相対速度が2以上ある状況で商船がそういった行動に出るのであれば、 1G加速しかできない冒険商人の海賊船は、逃げる商船に追いつけません。
 すれ違いの一瞬で商船を航行不能にできない限り、襲撃は失敗に終わるでしょう。射撃チャンスは1回だけしかないのです (イニシアチブを有利に握れば2回の射撃も可能です)。
 おまけに商船が武装している場合は、海賊側も反撃のリスクが無視できません。
 不意討ちに失敗したのであれば、冒険商人の海賊船はすみやかに逃走すべきだと思われます。

 加速度が4〜5Gの軍用艦艇を用いた海賊船ならば、逃げる商船にも追いつけるのでしょうが、 そういった軍用艦艇(T型哨戒艦CE型小型護衛艦)について、今回は考察しません。



 ちなみに様々な宇宙船タイプの商船が、潜んでいる海賊船の探知に成功する確率は、以下の通りでした。

           表9 商船の探知可能距離と探知成功率

PIRATE05_FIG09.GIF - 6.47KB

 潜んでいる海賊船の目標サイズが中、視認レベルが弱であるとした場合の探知成功率を表9に示しました。
 これはつまり、海賊船のタイプがA型自由貿易船AU型外航自由貿易船であるということです。

 そして、獲物として狙われた商船のタイプが、R型政府指定商船A型自由貿易船であるならば、襲撃の成功率は48.6%になるでしょう。

 商船がM型客船の場合、コンピュータ・モデルの違いによって、探知成功率が上がります。 得られるDMは+2という僅かなものですが、襲撃の成功率は3分の1、16.2%まで低下しました。
 同じモデルのコンピュータを搭載しているのであれば、A3型商船などであっても襲撃の成功はほとんど見込めません。

 商船がS型偵察艦の場合、 搭載している中性微子探知機のおかげで、受動エネルギー探知が容易になります。
 目標の視認レベルが弱なので実質的なDMは残念ながら+2しかありませんが、 襲撃の成功率はM型と同じく3分の1、16.2%まで下がるでしょう

 商船だと思って狙っていた獲物がSDBT型哨戒艦だった場合、 冒険商人が襲撃に成功することは絶対に有り得ません。
 運が悪ければ最大射程(10ヘクスの遠距離)から、運が良くても3ヘクスの近距離から先制攻撃を受けることが判明しました。
 トランスポンダを切っている不審船舶は無警告の射撃を受けても仕方ないのがトラベラー世界の常識です。
 運がなかったと諦めて、殺される前に降伏しましょう。




(2)星系に到着した(ジャンプアウト直後の)商船を待ち伏せ

 ジャンプアウトの座標は、極めて高い精度で割り出すことが可能です。
 多くの商船は「経済的な運航」を心掛けていますから、ジャンプ誤差(1パーセク当たり3,000km)の範囲内に出現するでしょう。
 1G加速の宇宙船であっても20分あれば3,500kmを横切れます。
 意図的に商船がジャンプアウト座標をずらさない限り、 ジャンプアウトしてくる商船は、ほぼ確実に海賊船の待ち伏せを受けるのではないでしょうか。
 ジャンプアウト直後の商船は燃料タンクがほぼ空ですから、脆弱です。
 おまけに視認距離で相対速度ゼロですから、非武装の商船ならば、どうあっても逃げられません。
 武装した商船であっても、逃走の成功率は低いでしょう(戦闘に勝って海賊船を無力化しない限り、何処までも追われる可能性があります)。

 海賊にとって不利な点は、ジャンプアウトしてくるまで、何が出てくるか分からないことです。
 ひょっとしたら、視認距離に強力な武装商船が出現してくるかも知れません。
 視認距離で相対速度ゼロですから、どちらかが勝つか負けるかまで決着が着かない点はハイリスクです。
 あるいは、海軍の哨戒艦が出現してくるかも知れません。
 そういうことになったら、攻守の立場は逆転してしまいます。

 とは言うものの、星系を離脱中の商船に不意討ちを仕掛け、戦闘で無力化することはかなり困難です。
 その成功率の低さと比べてみるのであれば、ジャンプアウトしてくるまで何が出てくるか分からないリスクは、許容できる問題かも知れません。




(3)商船の出現頻度(星系を離脱する商船と、到着する商船)

 待ち伏せで重要なことは、周囲に他の商船が存在するかどうかという点です。
 海賊船が襲撃を実行する前にレフリーは、ジャンプ・ポイントの周辺、少なくとも10ヘクス以内の商船について、 その存在と宇宙船タイプ、武装の有無、移動方向と行動方針を決めておいて下さい。
 その背景については、すでに「Pirate_1:海賊との遭遇」の中 「6.宇宙港規模による、商船との遭遇頻度」で説明済みですから省略しますが、 毎ターンにサイコロ(2D)を振り、星系を離脱する商船と、星系に到着(ジャンプアウト)した商船の数を決める訳です。
 星系を離脱する(主要世界の宇宙港を離れて、ジャンプ・ポイントへ向かってくる)商船と、 星系に到着した(ジャンプアウトしてきた)商船のサイコロは、別々に振ってください。
 星系を離脱する商船はトランスポンダの情報で2〜7時間前からその存在と動向が分かりますが、 到着する宇宙船は何の事前情報もなく出現します。ご注意ください。

 出現頻度について簡単に述べると、宇宙港規模5〜6の世界であれば、 毎ターン(20分毎に)2Dを振って11+が出ると、新たな商船が登場します。 平均すれば3〜4時間に1隻という頻度になるでしょう。

 宇宙港規模4の世界は 3ターン(1時間)に一度2Dを振って11+が出ると、商船が出現します。 平均すれば、半日(12時間)に1隻の頻度です。商船が半日〜5日に1隻しか訪れません。
 獲物を見つけることは大変ですが、海賊行為を行っても救援が駆けつける可能性は少なく、 海賊船の視点からすれば、比較的、安全な環境だと言えます。

 宇宙港規模3の世界は 9ターン(3時間)に一度2Dを振って12が出た時だけ、商船が出現します。 平均すれば、5日に1隻の頻度でしかありません。

 「ジャンプ・マスク」の概念を考慮してジャンプ・ポイントの数が2〜3箇所に増えた場合、 それに合わせて、商船の出現数も2分の1や3分の1に減少します。
 そうした場合は、サイコロを振る頻度を2ターン(40分)毎に1回や、3ターン(60分)毎に1回という頻度に減らしてください。
 宇宙港規模4以下の場合は、 2〜3時間に1回や、6〜9時間に1回という頻度になるでしょう。





6.攻撃の成功率


 ジャンプ不能になった商船『ジャイロ・デイヴィス』は、それでも抵抗を諦めなかった。
 ふらついた船体を翻しながら、今度は通常ドライブによる逃走を開始する。
 さらに無線を使って「海賊の襲撃を受けている」と救難信号の発信まで始めている。
 『ジャイロ・デイヴィス』の船長は、素直に降伏を受け入れるような、大人しい性格ではないようだ。



「馬鹿野郎っ! 当て損ねたなっ!
 パワープラントに当てれば、絶対に逃げられなかったのにっ!」

 ドリンカー船長は大きな声で悪態をついた。
 砲手席のクレメンツは、大慌てで弁明する。

「すいません。……でも仕方ないでしょう。
 こいつのボロ・コンピュータじゃ、そう簡単に狙い撃ちできないんですから。
 ……それでも燃料タンクには当てました。
 少なくとも、ジャンプはできなくなった筈です……。」

 そう言われてしまうと、ドリンカー船長もそれ以上の叱責を続けられない。
 クレメンツの言う通り、射撃を燃料タンクに当てただけでも大したことなのだ。

 ドリンカー船長が黙り込むと、通信機の前に座っていたタッカチャティがぼそりと呟いた。

「あの船は緊急チャンネルで救難信号を発信しています。
 近くに他の宇宙船は見当たりませんが、早く片付けないと不味いですよ。」

「あれ? 電波妨害装置とかジャマーは使ってないのか?」

 次の射撃に備えてタイミングを測りながら、クレメンツが素直な疑問を口にした。
 元海兵隊員のクレメンツにとって、そうした装備は積まれていて当然の装備なのだろう。

「そんな金があるかっ!」

 ドリンカー船長がクレメンツを怒鳴りつけた。

「電波妨害装置やジャマーは高いんです。
 それだけの余裕があったら、海賊なんてしていません。」

 タッカチャティが補足した。
 そう、電波妨害装置は30万クレジット、EMSジャマーは40万クレジットもするのである。
 商船のローン支払いが毎月15万クレジットであるから、今月末のローン支払いにも困っている 『ジャックポット』には、とても無理な買い物だ。
 経済感覚のないクレメンツに対し、タッカチャティは容赦なく追い討ちを掛ける。

「注意しておきますが、クレメンツ。
 貴方の撃っているミサイルは1発2万クレジットです。
 そう簡単に補充できませんので、大事に使ってくださいね。」

「俺にどうしろって言うんだぁっ!」

 無理難題を吹っかけられて、クレメンツが叫んだ。

 『ジャックポット』は『ジャイロ・デイヴィス』を追跡。
 ミサイルを撃ちまくりつつ、視認距離を保ちながら追いかけて行く。



 1時間後、通常ドライブを破壊された『ジャイロ・デイヴィス』は、慣性飛行のまま傷付いた船体を漂わせていた。
 『ジャックポット』は『ジャイロ・デイヴィス』の通常ドライブを破壊することで、 ようやく足止めに成功したのである。
 最初の一撃でジャンプ不能にできたため逃走されることはなかったが、 言うまでもなく、捕獲に1時間も掛けることは非常に危険なことなのだ。
 『ジャイロ・デイヴィス』が武装していたら、反撃で痛い目に遭っていたことだろう。
 『ジャックポット』の乗組員とポートマン船長は、 もう二度とR型商船には手を出すまいと心に誓うのであった。




 上記の戦闘シーンは考察の参考とするため強引にでっち上げたものですが、武装の軽い(ミサイル1門しか装備していない) 『ジャックポット』が、非武装とはいえ、 抵抗する意思の強いR型商船を捕獲することは極めて困難です。
 本来ならば無傷であるか、軽微の損害を負っただけの『ジャイロ・デイヴィス』は すみやかにジャンプを行い、星系外への逃走に成功していたことでしょう。
 それでは何の参考にもならないので、最初の一撃でジャンプ不能に追い込んでしまいましたが。



 海賊船は、まず最初に商船を停船させ、接舷を企てます。
 降伏勧告を行うだけで商船が大人しくなってくれれば有難いのですが、そう簡単にはいかないでしょう。

 海賊船は威嚇射撃を行うなどして、武力を誇示することが必要です。
 商船の抵抗を未然に封じ込めなければなりませんから。
 あるいは、腕に自信があるのであれば、精密射撃通常ドライブを破壊することも有り得ます。

 実際に冒険商人の駆る海賊船がどれだけの攻撃力を備えているのか、考察してみました。




(1)目標の追跡(照準の固定)

 威嚇射撃で脅すにしろ、精密射撃で航行不能に追い込むにしろ、 獲物の商船に艦載兵器の照準を合わせなければ始まりません。
 そのための行為判定は、以下のようになっています。

 探知機で目標を追跡(照準を固定)するには:
   難易度〈並〉、攻撃=コンピュータ・レベル、防御=距離(対立、不確定)


 上記の難易度は、最大有効距離が遠軌道距離(〜500,000km)の能動EMSによる能動物体追跡か、 貫通力250m以上の質量探知機による受動質量追跡、 探知可能最低出力10kw以下の中性微子探知機による受動エネルギー追跡
 この3つの追跡方法のどれかを用いた場合に利用できます。
 それ以外の追跡方法では、難易度が〈難〉か〈至難〉になるでしょう。

 また、貫通力250m以上の質量探知機も探知可能最低出力10kw以下の中性微子探知機も、 テックレベルが14以上でなければ利用できません。
 そしてテックレベル14以上の宇宙船であっても、民間船舶はそれらの探知機を搭載していない方が一般的なようです(帝国百科のデータより)。

 ですから冒険商人の用いる自由貿易船も、獲物となった商船も、お互いに相手を追跡するためには、 能動物体追跡を行う以外に方法がありません。
 一般の商人が中性微子探知機などを購入したら、海賊行為への関与を疑われる。
 それがトラベラー世界の常識であると、私は考えました。
 もちろんPC(プレイヤー・キャラクター)の駆る商船は、民間籍であっても様々な改造が行われていると考えられますから例外ですが。



 難易度〈並〉の能動物体追跡によって、海賊船と商船が相手を追跡する際の成功率を表10に示しました。

           表10 商船の追跡可能距離と追跡成功率

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 搭載されている探知機の性能が同等であれば、後はコンピュータ・モデル数の勝負となりました。
 レフリーが認めるならば、コンピュータ・モデルの代わりに、キャラクターの〈探知機〉技能レベルを用いても良いそうです。
 低レベルのコンピュータしか搭載していない民間商船は、 〈探知機〉技能レベルの高い乗組員を雇ったり、 あるいは、技能レベルの高いロボットを購入すると戦闘で有利になるでしょう。

 モデル7コンピュータ搭載のSDBは、乗組員の技能レベルに関係なく 3ヘクス以内の追跡が確実に(97%で)成功、 4〜5ヘクスの距離でもほぼ確実(83%以上)、 あまり期待できませんが10ヘクスの最大射程でも成功する可能性があるという素晴らしさでした。

 モデル3コンピュータを搭載しているM型客船T型哨戒艦の場合、 成功率はDM+2の分だけ増え、距離2ヘクスで成功率72%、3ヘクスで58%になります。
 4ヘクス以上での成功はあまり望めませんが、近距離(2〜3ヘクス)での射撃戦闘は可能かも知れません。

 一般的な商船の場合、目標との距離が2ヘクス以上あると、追跡の成功が期待できなくなります。
 実際にR型政府指定商船A型自由貿易船S型偵察艦の場合、 距離2ヘクスで成功率42%、3ヘクスで28%です。 4ヘクス以上になると、追跡にはほとんど成功しなくなりました。

 砲塔の射撃を1回諦める毎に探知/追跡の行為判定を1回増やすこともできますが、 このターンに射撃を行うつもりであれば、あまり現実的な選択肢ではありません。



 搭載するコンピュータのモデル数が低い場合、2ヘクス以上の距離では 射撃に不可欠な目標の追跡(照準の固定)を確実に行えません。
 では、射撃に際してどうすれば良いかというと、目標追跡(照準固定)の行為判定が不要な距離 (=視認距離まで近付けば良い、ということになります。

レフリーズ・マニュアル p.98 特別ルール 視認距離:
 敵ユニットが視認距離にいる場合、わざわざ探知機を使わなくても敵は見えています。
 したがって、視認距離の敵ユニットは自動的に固定状態にあるものとみなします。


 宇宙戦闘マップ上で、視認距離とは隣接したマスのことを意味しています。
 視認距離で射撃を行うのであれば、追跡の成功率が低いことを気に病む必要はなくなるのです。




(2)射撃の命中率

 目標の追跡に成功すれば(視認距離ならば自動的に成功)、ようやく射撃を実行できます。

 海賊船であるAU型外航自由貿易船A型自由貿易船、 獲物としてのR型政府指定商船S型偵察艦の搭載武装を考えると、 単架砲塔のミサイルかパルス・レーザー砲が妥当なところでしょう。
 前回の考察「海賊の始め方」でも計算しましたが、 パワープラントの増設が不可欠なレーザー砲を2門以上積むことは困難なのです。

 以上のようなことをふまえて、射撃の命中率を求めました。

 宇宙戦闘で目標に命中させるには:
   難易度〈難〉、攻撃=コンピュータ・レベル、命中DM、距離DM、
          防御=防御DM(対立)


 コンピュータDMの代わりに、砲手の〈砲術〉技能レベルを用いても良いそうです。 低レベルのコンピュータしか積んでいない商船の場合は、有利になるかも知れません。
 しかし流石に、攻撃兵器DMや防御兵器DMの代わりに〈砲術〉技能を用いるというのは不味いでしょう。不自然です。


 海賊船と商船の艦載兵器は、単架のミサイルとパルス・レーザー(どちらも攻撃力は2)で計算しました。
 参考のために求めたSDBT型哨戒艦の兵器は、 三連架のビーム・レーザー(攻撃力4)で計算してあります。

      表11 射撃の命中率(目標のサイズDM=+1、移動力=0)

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 そして、その射撃で与えられるダメージの期待値も計算してみました。

 通常射撃の場合は命中箇所がランダムに決まりますので、それぞれの命中箇所に決まる確率と、 射撃の命中率を掛け合わせたものが結果として出てきます。

 ただしパルス・レーザーによる射撃は、外部損傷表でDM+2を受けられます。
 それに合わせて、通常射撃の命中分布も変化しました。



 精密射撃の場合、例外的命中が必要になるため命中率は下がるものの、 命中が得られれば命中箇所を任意に選べます。 選べる命中箇所は、通常ドライブ−1燃料−2兵器−3のどれかになるでしょう。

 例外的命中にならない命中だった場合は、命中箇所を選べない普通の命中として扱います。 精密射撃の命中率には、その分の命中率も加味しました。

 パルス・レーザーによる精密射撃は、 選べる命中箇所が、通常ドライブ−2燃料−3兵器−3のどれかになります。



 また精密射撃例外的命中+2となった場合には、 目標に対して任意の致命的命中を与えることも可能です。

 致命的命中の命中箇所は色々と選べますが、商船を無力化するためには パワープラント使用不能の命中が最も確実でしょう。
 パワープラントが使用できなくなれば、通常ドライブによる逃走はもちろんのこと、コンピュータが動かなくなるのでジャンプも不能。 おまけに一切の武装も使えないので抵抗も不可能。実に効率の良い命中箇所なのです。
 些細な問題として挙げられるのは乗組員の生命維持や救難信号の発信も不可能になることですが、 略奪を終えた後の乗組員は皆殺しですから本当に些細なことでしょう。
 え? 皆殺しは駄目ですか?
 皆殺しは駄目で、解放した乗組員を窒息死(宇宙服の生命維持は4〜48時間まで)させるのも趣味に合わなければ、仕方ありません。
 命中箇所にはパワープラント使用不能以外を選ぶことにしましょう。
 獲物にした商船乗組員の生命を気に掛けるのであれば、宇宙海賊はさらに難易度が上がってしまうようです。
 積載小艇は高価で利益率の高い商品ですから、救命艇を残していく訳にいかないのです。

 通常ドライブ使用不能だけだとジャンプで逃げられてしまいます。
 そもそも外部損傷表でも通常ドライブに損傷を与えることは可能なので、 わざわざ致命的命中通常ドライブを選ぶ必然性がありません。

 獲物のジャンプによる逃亡を阻止したいのであれば艦橋破壊ジャンプ・ドライブ使用不能のどちらかが一番でしょう。
 どちらか片方の損傷だけでジャンプは不可能になります。
 コンピュータ破壊という命中箇所は、2台の予備コンピュータを搭載していることから無意味です。
 もちろん、このままでは通常ドライブによる逃走と戦闘の継続が可能ですから、再度の射撃が必要となるでしょう。

 獲物を吹き飛ばしてしまう消滅は論外。
 海賊行為をする意味がなくなりますから。

 一撃で獲物の逃走と抵抗を封じるためにはパワープラント使用不能が最善の選択なのですが、 次善の目標としては艦橋破壊ジャンプ・ドライブ使用不能
 優先順位の三番目以降として、通常ドライブ使用不能火器管制装置破壊 などが挙げられます。



 ところで、このルールは海賊船と商船の戦闘ならば問題ないのですが、 軍用艦艇同士(特に戦闘艇)の戦闘シーンに導入するとトラベラーの世界観が崩壊します。 精密射撃のルールを採用される方はご注意ください。

           表12 射撃のダメージ期待値(射撃1回)

PIRATE05_FIG12.GIF - 11.5KB

 ご覧の通り、SDBの火力は圧倒的です。
 通常射撃でも精密射撃でも、その命中率は100%なのですから。
 さらにSDB91.7%の高確率で 任意の致命的命中を与えられます。
 視認距離でなければ精密射撃で撃たれることはありませんが、 そうでなくても、攻撃力4の射撃が命中すれば、船体サイズ200トンの自由貿易船は、 自動的に2発の致命的命中を受けてしまいます。無事に済むとは思えません。
 どう考えても冒険商人SDBと戦うことは無謀です。
 もし遭遇したら、すみやかに降伏しましょう。
 遭遇した時点ですでに吹き飛ばされている可能性も高いのですが。



 T型哨戒艦も十分に厄介な相手です。
 近距離における通常射撃は9割の命中率で、精密射撃は7割以上の確率で狙った場所を吹き飛ばされるでしょう。
 そして任意の致命的命中を受ける確率は41.7%
 それが外れたとしても、攻撃力4の射撃が1回命中するだけで致命的命中2発を受けてしまうリスクは変わりません。
 冒険商人にとって、T型哨戒艦でさえも大きな脅威なのです。



 M型客船を獲物とした場合、 相手に1回でも反撃を許してしまえば、58.3%の確率で海賊船の通常ドライブや兵器が吹き飛ばされます。
 パワープラント使用不能を受ける確率は27.8%
 そのリスクを防ぐためには、先制攻撃でM型客船の砲塔を無力化する必要があるでしょう。
 しかし、コンピュータ・レベルが高いM型客船を不意討ちすることも困難ですから、 つまるところ冒険商人にとって、M型客船は獲物にふさわしくないと分かりました。
 非武装のM型客船ならばリスクなしで襲撃することも可能ですが、その成功率は高くありません。



 R型政府指定商船A型自由貿易船AU型外航自由貿易船S型偵察艦などの小型商船ならば、 冒険商人にとっての安全な獲物になるでしょうか。 両者の性能はほぼ同等ですので、不意討ちに成功して先手を取れれば勝てるかも知れません。
 とは言っても精密射撃の成功率が27.8%で、 任意の致命的命中を与えられる確率は8.3%だけ。
 非武装の商船を襲うのでない限り、戦闘が始まったら勝率は半分以下。逃げられる可能性も高いのです。

 こういった数字から考えてみると、冒険商人が行う海賊行為は、
 相手(獲物の商船)に撃たせたら負け
 であることが分かりました。






(3)商船の弱点は燃料タンクか?

 商船の視認距離まで接近しているのですから、精密射撃例外的命中+2に成功し、 任意の致命的命中パワープラント使用不能のダメージを与える。
 たった1発の命中弾で商船の抵抗(戦闘能力)と逃走(ジャンプと通常ドライブ)の可能性を封じ込めるのですから、 海賊にとってこれほど効率の良い攻撃方法はないでしょう。
 しかし問題は、その成功率が12分の1(=8.3%)と極めて低いことにありました。
 この攻撃方法だけに頼ったのでは、海賊行為の成功率が低いままです。
 他にも、効果的な攻撃方法がないものでしょうか。

 致命的命中以外で、商船のジャンプドライブを無力化する方法はありません。
 商船の砲塔を潰し、通常ドライブを破壊しても、すでに100倍直径の外側を航行している以上、ジャンプで逃げられる可能性は常に存在します。
 100倍直径の内側で襲撃を仕掛けるのは物理的に無理ですから、他の方法で商船のジャンプを阻止しなければなりません。

 そこで外部損傷表に書かれた「燃料」の損傷結果に注目しました。
 「燃料」の損傷は、命中1発に付き、最大積載量の1〜3%の燃料が失われます。
 大型の宇宙船ならば燃料満載状態で100回の命中に耐えられる訳ですが、最低でも10トンの燃料が失われる以上、 小型の宇宙船(商船)の耐久力はそれほど大きなものに成り得ません。

 商船は果たして何発の「燃料」損傷に耐えられるのか、表13にまとめました。


         表13 商船の燃料タンク容量と、燃料損傷の耐久値

PIRATE05_FIG13.GIF - 7.31KB

 表13は、商船の燃料タンク容量を帝国百科の公式データから転載したものです (M型客船だけは公式データがないのでオリジナル設計)。

 燃料のジャンプ必要量は、商船の船体サイズの10〜20%(ジャンプ距離1〜3)+ パワープラント用燃料の半分(ジャンプ中の1週間と主要世界までの通常航行に必要な分量)という計算で求めました。

 ジャンプ終了後の燃料は、満載燃料からジャンプ必要量を引いた残りになります。

 燃料の単位はキロリットル(KL)と排水素トン(Hton)で併記し、最後のDamageは 何回の「燃料」損傷に耐えられるかを現した数字を示しました。
 SDBを外して、代わりにP型海賊船を加えてあります。



 重要な結果を先に述べると、M型客船からS型偵察艦までの商船は、 「燃料」損傷2回を受けるだけでジャンプ不能になります。
 ジャンプ・ドライブが無事であっても、 ジャンプに不可欠な燃料が不足するのでは、話になりません。
 ジャンプ1性能しか持たない商船の燃料タンクはぎりぎりの容量しかないので、 「燃料」の喪失に耐えられないのです。

 しかしジャンプ3性能のM型客船は、最低限のジャンプ1で逃走を図る場合、 さらに6発(60排水素トン分)、合わせて8発の「燃料」損傷に耐えられます。
 ジャンプ2性能のAU型外航自由貿易船については未評価ですが、ジャンプ1で逃走するとしたら、 追加1回(10排水素トン分)の「燃料」損傷に耐えられるでしょう。

 T型哨戒艦P型海賊船はパワープラント用の燃料タンクが大きいので、 それぞれ6発と4発の「燃料」損傷に耐えられます。
 ジャンプする距離を抑えるのであれば、さらに2〜4発を追加できるでしょう。



 星系を離脱中の商船は一般的に燃料を満載しているものですが、 「燃料」損傷の耐久力が大きいM型客船を除けば、 多くの商船は「燃料」損傷2回だけでジャンプ不能に追い込めることが分かりました。
 「燃料」損傷2回を与えられる確率は38.0%ですから、 致命的命中を与えられる確率の4倍以上です。
 獲物を逃がしてしまう可能性が一気に減少しました。
 しかし、先制の一撃で「燃料」損傷2回を与えられなかった場合、 獲物の商船はすみやかにジャンプを行い、星系を離脱してしまうでしょう。
 星系を離脱中の商船に対して海賊行為を成功させるのは、かなり難事のようです。



 反対に星系に到着したばかりの商船は、ジャンプアウト直後という事情もあって、燃料の乏しい状態です。
 燃料補給を済ませない限り、再びジャンプすることはできません。
 「燃料」損傷2回を与えることに成功すれば、すべての燃料を失ってパワープラント停止。 移動も戦闘もできない、生命維持すら不可能な状況に陥ります。
 実に脆弱な状況ですね。
 ジャンプアウトしてくる宇宙船に関して、事前情報が得られないリスクこそ大きいものの、 星系に到着する商船を待ち伏せるという方法は、襲撃の成功率が高いようです。




(4)海賊船の勝率

 探知と追跡の成功率、射撃の命中率、狙うべき命中箇所などを色々と考察してきましたが折角ですので 冒険商人の海賊船が、獲物である商船の捕獲に成功する確率を求めてみました。

 商船の行動(星系を離脱中/星系に到着後)、海賊船が狙う損傷個所、海賊船の射撃回数などによって、その数字は大きく変化します。


         表14 海賊船が獲物(商船)の捕獲に成功する確率

PIRATE05_FIG14.GIF - 7.31KB

 星系を離脱中の商船は燃料を満載しており、何時でもジャンプが可能です。
 私も帝国百科p.92〜93を見直すまで気付かなかったのですが、ジャンプの準備から実行、完了まで、それほど時間を要するものではありません。
 具体的には、まず準備段階で、

 ジャンプの座標計算を行うには:
   難易度〈並〉、〈航法〉、〈パイロット〉、2分

 ジャンプ・ドライブを始動するには:
   難易度〈並〉、〈エンジニアリング〉、教育度、2分


 上記の2つに成功する必要があります。
 時間単位が2分ですから、必要な時間は最短で6分。 それなりの技術を持ったキャラクターならば平均10〜14分で成功することができるでしょう。
 この行為判定は、100倍直径の内側を航行中でも試みることができます。

 そして、次はジャンプの実行。

 ジャンプを実行するには:
   難易度〈並〉、〈エンジニアリング〉、教育度、2分


 これも時間単位は2分です。
 流石にこの行為は100倍直径の外側で実行しなくてはなりません(内側で実行した場合は難易度が〈難〉)。
 商船がプレイヤーのものならば実際にサイコロを振るべきでしょうが、単なる獲物の商船である場合は、 ジャンプ準備に1ターン(20分)、ジャンプの実行にも1ターン(20分)を費やせば良いでしょう。

 という訳で、星系を離脱中の商船を襲撃した場合、 海賊船が射撃するチャンスは1〜2回、不意討ちの先制攻撃を加えても最大で3回しかないのです。
 この3回で商船を停船させることができるのか、という考察の結果が表14の数字、上半分になりました。

 当然のことですが、狙った損傷個所によって、捕獲の成功率が変わります。



 パワープラント使用不能を狙った場合、射撃1回当たりの成功率は8.3%ですが、 射撃2回で16.0%、射撃3回で23.0%と増えていきます。
 成功率が低すぎる、と感じるかも知れませんが、これが冒険商人の現実です。諦めましょう。

 ところで、致命的命中で選択すべき命中箇所を考察していた際にも述べましたが、 商船にパワープラント使用不能の損傷を与えると、乗組員の生命維持も救難信号の発信も不可能になります。
 捕獲成功率が最も高いパワープラント使用不能狙いですが、 商船乗組員の生命を気に掛けるのであれば、ここを狙うのは止めておくべきでしょう。

 致命的命中によるジャンプ・ドライブ使用不能と 外部損傷の通常ドライブ(1発の命中で十分です)を狙った場合、 破壊すべき命中箇所が2つですので、射撃回数1回では捕獲できません。
 捕獲に成功する確率は、射撃2回で6.1%、射撃3回で9.9%です。
 あまり高い成功率ではありませんでした。
 おまけに成功しなければ、獲物の商船はジャンプで逃走してしまいます。
 もっと成功率の高い方法はないものでしょうか。

 最後の攻撃方法は、まず「燃料」損傷2回を与えることで商船のジャンプを阻止。
 次に通常ドライブを狙って捕獲する方法です。
 成功率の低い致命的命中に頼らずともジャンプ阻止が可能になりますから、捕獲の成功率は高まります。
 具体的には、射撃2回で22.0%、射撃3回で36.0%でした。

 どうやら、これが限界のようです。
 星系を離脱中の商船を、冒険商人の海賊船が力尽くで捕獲できる確率は、 決して高いとは言えません。射撃を試みても逃がしてしまう可能性が高いということが分かりました。



 反対に星系に到着した直後の商船を襲撃する場合はどうでしょうか。
 商船は燃料が不足していますから、そのままではジャンプできません。
 ジャンプによる逃走を阻止する必要もないのです。
 破壊すべき命中箇所が1つ減りますので、捕獲成功率は一気に大きくなりました。
 星系に到着した直後の商船であっても、 パワープラント使用不能を狙った場合の捕獲成功率は変わりません。
 残念ながら、他の2つの方法と比べると見劣りしてしまいます。

 通常ドライブを狙った場合、精密射撃の成功率がそのまま捕獲成功率になります。
 捕獲成功率は射撃1回で36.3%、射撃2回で59.4%、 射撃3回で74.2%でした。

 最後に「燃料」損傷2回を狙う方法は、ジャンプ直後の商船に極めて有効です。
 燃料のすべてを失った商船はパワープラント使用不能と同様に、逃走も抵抗もできません。
 しかし乗組員の生命維持も救難信号の発信も不可能になりますので、 商船乗組員の生命を気に掛けるのであれば、やはり狙うのは止めておくべきなのでしょう。

 星系に到着した直後の商船を襲撃する場合、 星系を離脱中の商船を襲撃した場合と比べ、捕獲成功率は明らかに高くなっています。
 燃料不足でジャンプによる逃走が不可能だ、という要素が大きく影響していました。
 冒険商人が商船を襲うのであれば、 100倍直径でジャンプアウト直後の商船を待ち伏せる方法が最も確実で、安全なようです。




(5)ブラフ(はったり)の効果

 これまでの考察で冒険商人の駆る海賊船(A型自由貿易船AU型外航自由貿易船)は、視認距離でなければ、 獲物の商船を射撃できず、また、その射撃も成功率が低いため、獲物の捕獲が困難であると判明しました。
 抵抗する商船を力尽くで捕獲することは、とても難しい行為なのです。

 では冒険商人はどういった行動に出るべきでしょうか。
 不意討ちに成功しても、獲物を捕獲できる可能性は極僅か。
 とてもリスクに見合ったリターンがあるとは思えません。
 海賊行為を諦めるしかないのでしょうか?

 いいえ、そんなことはないのです。
 獲物の商船に対しては強気に出ましょう。
 はったりを利かせて、商船が自ら降伏してくれるように仕向ければ良いのです。

 何と言っても、どんな低攻撃力の射撃であれ精密射撃例外的命中+2に成功すれば 8.3%の低い確率ですが任意の致命的命中で獲物の商船を消滅させることが可能です。
 その事実を踏まえて相手を脅迫すれば、抵抗や逃走を諦めさせることもできるのではないでしょうか。
 橘様から以下のような提案を頂きましたので、紹介します。

 ブラフを信用させるには:
   難易度〈並〉、攻撃側=〈交渉〉、知力、教育度、(対立、不確定)
          防御側=〈尋問〉、知力、教育度。
     相手に与える肯定的情報(威嚇射撃、映像)につき+DM

 信用させた後、降伏勧告を受け入れさせるには:
   難易度〈並〉、〈交渉〉、知力、教育度、社会身分度(不確定)
     条件によりDM 


 この行為判定はまだ検討が不十分ですが、まず信用させることに成功しなければ、降伏勧告が受け入れられることは有り得ません(当然ですね)。
 そしてブラフを信用させるには、海賊側が説得力のある情報を用意して、優秀な〈交渉〉技能の持ち主が説得に当たらなければならないのです。
 商船側が頭の良い〈尋問〉技能の持ち主を用意していれば、まだ難しいでしょうが。



サンプル 1

 海賊船『ジャックポット』のドリンカー船長が、 パイリーマ星系で遭遇した連絡船『レディバグ』のポートマン船長に対して、降伏勧告を試みました。

 ドリンカー船長の〈交渉〉技能は1レベル、知力DMは+1、教育度DMも+1で、攻撃側のDM合計は+3です。
 一方、ポートマン船長は知力DM+3、教育度DMも+3でした。 さらに高自律型擬生物型ロボット・ビアトリスの持つ〈尋問−3〉技能も利用するので、 防御側のDM合計は−9です。
 難易度〈並〉で、攻撃側と防御側のDM合計が−6。

 サイコロを振るまでもなく『レディバグ』のポートマン船長は、ドリンカー船長を信用しませんでした。
 自動的に、降伏勧告の受け入れも有りません(笑)。
 ただし宇宙船同士の戦闘がハイリスクであることは承知していますので、一旦は降伏を装い、 海賊たちを『レディバグ』船内へ導くのです……。



サンプル 2

 連絡船『レディバグ』のポートマン船長は、遭遇した海賊船『ジャックポット』 の乗組員に対し、擬生物型ロボットのビアトリスが船長であり、他に乗組員が居ないことを信用させようと試みます。

 サンプル1と反対ですが、ポートマン船長の〈交渉〉技能は5レベル、知力DMは+3、教育度DMも+3で、攻撃側のDM合計は+11です。
 一方、ドリンカー船長は〈尋問〉技能なしですから、難易度がひとつ易しくなりました。 そして知力DM+1、教育度DM+1で、防御側のDM合計は−2。
 難易度〈易〉で攻撃側と防御側のDMが+8(実際は+9ですが、DMの上限は±8までです)。
 ポートマン船長を始め、『ジャックポット』の乗組員達はころっと騙されました。
 自分たちが実際に撃たれるまで、騙されていたことに気付かなかったようです。





7.接舷の後


 海賊船が商船に接舷した後の行動は、その商船から貨物や現金を奪うことになります。 商船の乗組員は、降伏して大人しくなっているか、あるいは、乗り込み戦で制圧されていることでしょう。

 乗り込み戦の途中経過に関しては、とりあえず保留します。
 ただし「海賊いじめ」の考察からは、戦闘する相手に死者を出さないように戦うことが、とても難しいと判明しました。
 相手の5倍から8倍の人数を用意しておかなければ、味方に死傷者が多発することが確実なのです。




(1)商船との接舷と、船内への侵入

 海賊船が商船と接舷するためには、商船側の協力が得られる(降伏勧告を受け入れた状態である)か、 あるいは、商船の通常ドライブと砲塔(散乱砂砲以外の武装)をすべて無力化しておく必要があります。

 まず、通常空間を航行中、すべての商船は1G加速を継続しています。
 接舷を試みる海賊船は、進路を合わせるための1G加速を行いつつ、商船に接近しなければなりません。
 海賊船は最低でも2G以上の加速度が必要でしょう。

 次に、宇宙船の探知機は極めて高性能ですから、商船から50km(視認距離)以内にある物体は どんな小さな物体であれ、確実に発見/追跡されてしまいます。
 小艇であれ、宇宙服を着用しただけの海賊であれ、商船に気付かれないで乗り込むことは不可能なのです。
 発見されれば必然的に商船は回避行動を取りますし、武装していれば迎撃することも可能です。

 以上のように、商船側に協力する意思がなく、通常ドライブと砲塔が無力化されていない場合、接舷は極めて困難になります。
 21世紀テラの海上海賊のように、通常航行中の商船が密かに接舷されていたり、いつの間にか海賊に乗り込まれていた、という事態は起こり得ません。



 さらに接舷した後も、商船側の協力が不可欠です。
 商船は装甲値40の船殻に覆われており、 船体内部は装甲値30の隔壁で仕切られています。
 強力な火器や爆発物がなければ、これらの障壁を突破できません。
 こっそり忍び込めたとしても船内各部に仕掛けられたセンサーと アンチ・ハイジャック・プログラムが侵入者を発見、撃退します。
 それらを出し抜くためには、高度なハッキング技術や〈侵入〉等の技術が不可欠でしょう。
 さもなければ商船の乗組員を脅して、ハッチやアイリスバルブのロックを外させなければなりません。

 やはり、21世紀テラの海上海賊のようなコソ泥タイプの海賊は、存在が難しいようです。




(2)商船と乗組員の解放

 略奪の終わった商船がそのまま解放されるのか、それとも、海賊行為の証拠を隠滅するため爆破されるのか、判断が難しい問題です。

 表向きは自由貿易商人を装っている冒険商人ですから、 宇宙船の特徴や乗組員の人相が知られ、指名手配されるような事態は好ましくありません。
 海賊船の行動や装備、人数、そして奪った貨物の詳細や逃走方向。
 そういった情報の流出を防ぐだけで、当局に追跡/逮捕されるリスクは大幅に減少します。
 確実な証拠隠滅のためには、略奪した商船のフライト・レコーダーなど一切の記録装置を破壊し、 さらに目撃者(商船の乗組員や旅客)を皆殺しにすることが最善の選択でしょう。
 できれば船内に爆発物を仕掛けて、船体を粉々に砕きたいところですが、 これは精密射撃任意の致命的命中、 宇宙船すべてを吹き飛ばしてしまう消滅で代替しましょう。

 もっとも、こうした行為に嫌悪感を抱く冒険商人は多いと思います。
 私の勝手な独断ですが、

 1D6のサイコロを振り、船長の身分度以下が出たら乗組員や旅客を無傷で解放するように心掛ける。

 としました。
 海賊行為を働く自由貿易船の船長と乗組員(=冒険商人)は、全員が身分度5以下であることに注意してください。
 身分度2の船長は、その3分の1しか商船乗組員の生命に配慮しませんが、 身分度5の船長は、その多く(6分の5)が配慮することになるのです。
 その結果として多くの証人を残し、簡単に捕まってしまう訳ですが。

 「海賊いじめ」に登場した海賊船『ジャックポット』のドリンカー船長は身分度5です。 サイコロを振ったところ5が出たので、彼は不必要な殺しを嫌うことになりました。



 海賊が商船乗組員の命を奪うということに、抵抗を抱くレフリーやプレイヤーの方も大勢いらっしゃるでしょう。
 それに関してGURPS Traveller Far Trader には、以下のような記述が見つかりました。

 商船の船長や乗組員が自発的に自分の財産を差し出すならば、海賊は誰一人として傷つけない。
 そういった評判が広がることによって、仕事を上手く成功させる海賊も有り得るかも知れません。


 こういう公式設定もあるのですが、メガトラベラーにおける冒険商人の場合、これは無茶な挑戦です。
 そうした評判が広がるほど長い間、冒険商人は仕事を続けることができません。
 はっきりした足跡を残せばそれだけ冒険商人が発見され、当局に逮捕されるリスクが高まります。

 抵抗しなければ、乗組員や旅客には危害を加えない。

 そういった評判を持った海賊については否定しません。
 これは評判を広めるのが目的ではなく、(非常に困難ですが)殺人を避けてきた結果としてそういった評判を得たと考えるのが妥当でしょう。

 そうでなければ、海賊が商船乗組員の命を奪う必要がない、といった背景設定が必要になります。
 トラベラー世界で海賊行為が盛んに行われており、海賊が逮捕されず、逮捕されてもすぐに釈放される といった世界観であれば、海賊たちは証拠隠滅のため、商船乗組員を殺す必要がなくなります。
 もちろん、殺されないことまでは保障されませんが、21世紀テラのマラッカ海峡やソマリア海域の海賊がそんな感じですね。
 隣国の領海に入れば、それ以上海賊を追跡できないとか、現地の有力者が海賊を支援しているとか、かなり厄介な状況です。
 幸い、トラベラー世界は巨大な帝国に統治され、宇宙空間における法律も整備されているので、そうした状況になっているとは思えませんが。

 GURPS Traveller Far Trader の同じページには、しっかりと以下のような記述もありました。

 もし海賊行為が稀であり、迅速で確実な処罰がなされるのであれば、証人を抹殺するため、乗り込んで全員を殺害する傾向があります。

 ということで、きちんとした法治社会であれば(法治社会であるからこそ)、 基本的に海賊は証人の抹殺に努力を傾けることになりそうです。
 CT版とMT版のトラベラー世界については、これから考察して行こうと思います。
 Mongoose版のトラベラー世界であれば、海賊も私掠船も野放しなので商船乗組員は比較的安全でしょうけれど、 21世紀テラのソマリアで誘拐された乗組員の運命(その3〜7割が行方不明)を考えると、あまり期待できそうにありません。




(3)商船の機能回復

 致命的命中パワープラント使用不能の損傷を受けた商船や、 「燃料」損傷ですべての燃料を喪失した商船は、ジャンプドライブも通常ドライブも動かせません。
 それどころか、生命維持や通信に必要な動力も得られない状況です。
 応急修理でもできれば良いのでしょうが致命的命中による損傷は応急修理不能。
 Bクラス以上の造船所へ持ち込まなければ、修理できません。
 あるいは造船所から工作船を呼んで修理してもらうしかないのですが、商船の乗組員には早急の救助が必要でしょう。

 商船が星系に到着した直後でジャンプポイントに停船しているのであれば、 それほどの時間を置かず、通りすがりの商船に助けてもらえる可能性もあるでしょう。
 漂流している商船が、海賊船の偽装ではなく、本当に遭難しているということを信じてもらうのは大変ですが(苦笑)。

 また、商船が星系を離脱中だったとしても、海賊船の指示通りに停船していれば問題になりません。
 しかし逃走を試みた商船は停船しておらず、海賊が立ち去った後も主要世界から遠ざかっている可能性が高いのです。
 交通量のない宇宙空間へ漂っていく商船が、救難信号なしで救助してもらえる可能性はあるのでしょうか?

 これらの問題については、海賊が通信機を破壊しなかった。
 そして、機能停止したパワープラントとは独立した(生命維持と通信用の)非常用電源が存在する。
 という設定を用意しておけば何とかなるかも知れません。
 海賊がそれらを破壊しなかった理由をこじつけるのは大変ですが。

 ちなみに、救難費用や回航費用は計算していませんが、パワープラント使用不能を修理する場合、 A型自由貿易船は10.8MCrの大金を必要とします。
 その費用が保険で賄えない限り、船主は破産することになるでしょう。



 艦橋破壊ジャンプ・ドライブ使用不能の損傷を受けた商船は、 造船所で修理を受けない限りジャンプできません。
 パワープラントと通常ドライブが機能しているのであれば、自力で主要世界へ戻るべきでしょう。
 艦橋破壊の修理費は0.4MCr、 ジャンプ・ドライブ使用不能の修理費は12.0MCrでした。 AU型外航自由貿易船ジャンプ・ドライブ使用不能は18.0MCrが必要です。



 通常ドライブ使用不能の損傷を受けた商船は、造船所で修理を受けるまで、加減速ができません。
 自力で主要世界へ帰還することは不可能ですから、救助を受ける必要があります。
 通常ドライブ使用不能の修理費は2.8MCrでした。



 致命的命中ではない通常ドライブの損傷を受けて 航行不能に陥った商船の場合、応急修理によって、その機能を取り戻すことが可能です。
 レフリーズ・マニュアルp.99の記述によれば、その行為判定は以下のようでした。

 損傷した機器を修理するには:
   難易度〈難〉、1ターン(20分、確定)。


 宇宙戦闘ルールの一部ですので、キャラクターの技能レベルは影響しません。
 技能レベルを加味する場合は、難易度を〈至難〉に上げ、〈エンジニアリング〉や〈反重力工学〉技能などをプラスDMに用いれば良いと思います。
 行為判定に成功すれば良いので、必要な乗組員が揃っているならば問題にはならないでしょう。
 乗り込み戦闘などで乗組員が死傷している場合は、問題になりそうですが。

 その後、本格的な修理はBクラス以上の造船所でなければ受けられませんが、修理費は0.7MCrになります。



 砲塔の修理費は、その砲塔の価格の4分の1です。
 応急修理は上記と同じで、本格的な修理にBクラス以上の造船所が必要なことも同じ。



 問題は燃料の損傷で、これだけは明確なルールがありません。
 そこでハウス・ルールの出番です。

 外部損傷表での燃料損傷は、「船体」に命中したものとみなします。
 その命中は、「船体10ton分」を損傷させたものだと考え、 修理の際、船体建造費用の「4分の1」を必要とします。

 仮にA型自由貿易船(200ton)が「船体10ton」の損傷を受けたとしましょう。
 船体200tonの建造費は15,741,000cr。
 船体10tonは、商船全体の20分の1なので、15,741,000cr×20分の1×4分の1=196,763cr。
 修理費として、196,763cr(面倒なので四捨五入して200,000Cr)が掛かります。
 ちなみに、T型哨戒艦(400ton)の場合、船体10tonの修理費は198,619cr(こちらも四捨五入して200,000Cr)でした。



 色々な損傷個所の修理費を見積もりしてみましたが、パワープラントジャンプ・ドライブの修理費が異様に高価です。 海賊被害を対象に含めた、損害保険(船舶保険?)の考察が不可欠になってしまったような気がします。
 これらの修理費捻出については、また今度、考察してみましょう。

 通常ドライブ砲塔燃料の損傷は、 比較的安価な修理費で直せます。応急修理も可能ですから、修理費が捻出できない場合は修理せずに航行するという選択肢もあるでしょう。 あまり実践したくありませんが。





8.冒険商人との遭遇


 今度は立場を入れ替えてみましょう。
 商売のために辺境航路を航行している自由貿易商人の立場から見ると、 危険な辺境航路で遭遇する海賊船の半数は、A型自由貿易船AU型外航自由貿易船を駆る冒険商人だということになりました。

 T型哨戒艦のような強力な海賊船に遭遇したのであれば、逃走も抵抗も試みるだけ無駄ですが、 冒険商人の貧弱な海賊船ならば、何とか逃げ切れるかも知れません。
 逃げ切ることができれば、海賊船のリスクは半分に減ります。
 彼らがどうやって、この不運から逃げ出すのか(逃げ出せるのか)、ちょっと考察してみました。

 その自由貿易商人は、A型自由貿易船AU型外航自由貿易船R型政府指定商船で航行していることにしました。
 戦闘力の低い、一般的な商船を想定しています。
 場合によっては、非武装の可能性もあるでしょう。




(1)星系離脱中に、100倍直径で待ち伏せされた場合

 5章の(1)を反対の立場から見た場合です。
 商船の探知成功率を絡めて考えると、遭遇の2ターン(40分)前に16.7%の確率、 1ターン(20分)前に41.7%の確率で、海賊船の存在に気付く可能性がありました。
 海賊船の存在に気付いたのであれば、自由貿易商人は減速を取り止め、 加速や回避行動を取ることによって、海賊船の襲撃を免れることができるでしょう。

 このあたりは、ヘクス・マップや距離線を使って戦術行動を取ってみないと分かり難いのですが、 イニシアチブの取り方によって、海賊船から一度も射撃を受けずに逃れることが可能です。
 具体的には、最初のターンで後攻を取り、海賊船が自分の移動を終えた後に移動。
 次のターンは先攻を取り、海賊船が動き出す前に移動すれば良い訳です。

 イニシアチブの取り方については、レフリーズ・マニュアルの宇宙戦闘ルール(p.94〜)によると 戦術ポイントの大きい方が任意に選べるようです。
 戦術ポイントが等しい場合はサイコロを振って決めるそうですが、これで決められてはちょっと物足りません。
 折角ですから、例の如く英文エラッタ(ver.220のp.38)を利用しましょう。

 1.宇宙船の数が1対多数であれば、1隻だけの側。
 2.より高い移動力の宇宙船を保有している側。
 3.パイロット技能の高いパイロットが居る側。
 4.宇宙船の数が、より少ない側。
 5.サイコロを1個振って、高い目を出した側が選ぶ。


 このルールの採用はレフリーとプレイヤーの同意によるべきでしょうが、とりあえず、 自由貿易商人海賊船の遭遇にこれを当て嵌めると、
 1.宇宙船の数は同じ1対1なので、適用できず。
 2.どちらも移動力0の商船を使用しているので、移動力は同じ。
 3.パイロット技能の高いパイロットが居る側。……これは採用できそうですね。
 4.宇宙船の数は同じなので、適用できず。

 自由貿易商人側の戦術ポイントが大きい場合以外にも、 優秀なパイロットが居ればイニシアチブを握り、戦闘を有利に運ぶことが可能になりそうです。

 イニシアチブの成否はともかくとして、海賊船に射撃される回数と、商船が逃走に成功する確率は、以下のようになりました。


        表15 商船の逃走成功率(星系を離脱中/反撃なし)

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 ヘクス・マップで試したところ、海賊船の探知に成功するタイミングが2ターン前でも1ターン前でも、逃走の成功率は全く同じでした。
 海賊船は最大で2回しか射撃を行えません。
 イニシアチブを上手く取れれば、海賊船の射撃回数は0回で逃走に成功することもできます。

 その成功率が表15に示した数字ですが、海賊船の射撃回数が0回ならば、当然、逃走の成功率は100%でした。
 射撃回数が1回になると、逃走成功率は91.7〜100%。
 射撃回数が2回で、78.0〜94.0%に下がります。

 海賊船の探知に失敗した場合、つまり、ジャンプ・ポイントで視認距離から海賊船の不意討ちを受けた場合は、 まず海賊船からの先制射撃1回を受け、それから逃走を試みることになるでしょう。
 ですから、射撃回数0回で逃走に成功する確率は有りません。
 射撃回数1回で成功率が91.7〜100%、射撃回数2回で78.0〜94.0%という数字は同じですが。

 星系を離脱中の商船が、冒険商人の海賊船に遭遇した場合、 海賊船の射撃回数0〜2回で、商船の逃走成功率が100〜78.0%だと判明しました。
 意外というか予想通りというか、イニシアチブの取り方で海賊船の射撃回数が大きく変わり、それに合わせて逃走成功率も変化します。
 上手くイニシアチブを握れれば海賊船の射撃回数が0回で逃走成功率は100%、失敗すれば海賊船の射撃回数が2回で78.0%という訳です。
 こういったリスクに対するレフリーとプレイヤーの反応は様々ですから 自由貿易商人がどういった対応を取るべきか、という結論は出しません。
 それぞれのレフリーとプレイヤーが考える世界観に従うべきでしょう。

 まぁ、私の場合は徹底抗戦(動けなくなるまで逃走)が常ですが……。



 徹底抗戦と言えば、自由貿易商人側の商船が武装している場合、 その反撃はどの程度の効果が期待できるものなのでしょう。
 海賊船と同レベルの火力、単架のミサイルかパルス・レーザーを装備しているものとして、商船の反撃成功率を求めてみました。


        表16 商船の逃走成功率(星系を離脱中/武装あり)

PIRATE05_FIG16.GIF - 15.2KB

 商船の逃走成功率は、上段の数字。
 商船が損傷を受ける確率が、下段の数字(緑字)です。



 獲物の商船が武装している場合、海賊船は何よりも先に武装の無力化を試みなければなりません。
 商船のジャンプドライブ通常ドライブを破壊してから、 最後にのんびり砲塔を狙うという訳にはいかないのです。
 船長の趣味によってはそうした優先順位もあるでしょうが、 冒険商人の海賊船にとっては無駄なリスクを増やし、襲撃の成功率を下げるだけの結果しかもたらしません。
 優先目標はあくまで砲塔であり、 次にジャンプドライブ燃料タンク、 最後に通常ドライブを狙うべきなのです。

 無力化すべき命中箇所が増えたため、商船を捕獲するためには3回の射撃が必要となりました。
 その3回の射撃が然るべき箇所に命中しないと、商船を逃がしてしまいます。
 つまり、1〜2回しか射撃チャンスがない場合は、商船に若干の損傷を与えることに成功しても、商船の捕獲は自動的に失敗するのです。
 襲撃の成功率がさらに下がりました(逃走の成功率が100%)。
 よほど上手くイニシアチブを取らないと(それなりに優秀な船長が不可欠ですが)武装した商船を襲っても、無駄骨に終わるでしょう。



 さて、ここでもう一度パワープラント使用不能の命中率を見直しましょう。
 乗組員の生命維持や救難信号の発信も不可能になることを除けば、これほど効率の良い損傷箇所は有り得ません。
 砲塔の使用はもちろんのこと、通常ドライブやジャンプによる逃走も不可能になるのです。 当たれば1回の射撃チャンスだけでも商船の捕獲に成功できるでしょう。
 というか星系を離脱中の武装した商船を冒険商人の海賊船が捕獲するためには、 パワープラント使用不能を狙う以外の選択肢が見つかりません。 非人道的な選択かも知れませんが、そういうことになりそうです。
 襲撃を諦める(非武装の商船しか狙わない)という選択肢もあるのですが……。



 武装した商船の反撃がどのぐらい成功するのか、成功率を求めてみました。
 すでに述べましたが、商船の武装も単架のミサイルかパルス・レーザー1門(どちらも攻撃力は2)を想定しています。


        表17 商船の反撃成功率(星系を離脱中/砲塔1基)

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 商船からの反撃が、特定の損傷を与える確率についてまとめました。
 勝手ながら、商船の反撃は海賊船の砲塔の無力化を最優先にする、と想定しています。
 海賊船の武装が砲塔1基だけであるならば、その砲塔を無力化するだけで商船の安全は確保されますので、 商船の安全が確保される確率は、数字を緑字にしておきました。
 海賊船の通常ドライブを無力化した場合にも、それ以上の追跡が行われないという点で安全を確保できますが、 残っている砲塔から更なる射撃を受ける可能性が存在するので、十分な安全とは言えません。
 また、海賊船のパワープラントを意図的に狙うことは、正当防衛だと見なされない可能性があります。
 諸般の事情を考慮すると、やはり海賊船の砲塔を最優先目標にするしかないでしょう。



 イニシアチブを最も有利に選んだ場合ですが、海賊船からの射撃を0回に抑えた上に商船からは2回の射撃が可能になりました。
 命中率58.3%の射撃、その射撃2回を行うことで、 海賊船の砲塔を無力化できる確率は66.6%です。 それが外れても通常ドライブに命中する確率は11.5%
 両方の確率を合わせれば78.1%の高確率で海賊船の意図を挫くことができる訳です。

 冒険商人の海賊船は獲物を不意討ちできなかった場合、襲撃を諦めて逃げるべきだと思います。
 まだ実際には撃たれていない自由貿易商人が、海賊船に対して先制射撃を行うかどうか、 レフリーとプレイヤーの世界観にも関わる難しい問題ですが、私なら躊躇なく撃ちます(苦笑)。
 何度も書いていますがトランスポンダを切っている不審船舶は無警告の射撃を受けても仕方ない のがトラベラー世界の常識です。 トランスポンダを切ってジャンプ・ポイント付近を遊弋し、救難信号も発信しない宇宙船は 海賊船以外に有り得ないでしょう。



 イニシアチブの取得に失敗、あるいは海賊船に「妨害」されてしまった場合、 商船からの射撃チャンスが1回だけになります。
 それでも、海賊船の砲塔を無力化できる確率は42.2%ありました。 通常ドライブの無力化率は5.9%。 合わせて48.1%ですから、ほぼ半分ですね。
 わずか1回の射撃チャンスであっても、反撃を受けた海賊船は半分の確率で砲塔通常ドライブを無力化されてしまうのです。 当然、その襲撃は失敗に終わりますし、損傷個所を修理するまで再度の襲撃を行うこともできません。 海賊船にとっては大打撃です。



 以上、商船が1回の射撃を行うだけで、海賊船の損傷リスクはとんでもないことになると判明しました。
 商船の逃亡を阻止する場合とは異なり、海賊船は通常ドライブ砲塔の どちらか片方を無力化されるだけで、海賊行為をそれ以上続けられなくなってしまうのです。
 やはり、冒険商人の海賊船は獲物を不意討ちできなかった場合、 襲撃を諦めて逃げるべきなのでしょう。




(2)星系への到着(ジャンプアウト)直後を待ち伏せされた場合

 今度は、5章の(2)を反対の立場から見た場合です。

 5章で述べた通り、ジャンプアウトの座標は、極めて高い精度で割り出すことが可能です。 そして、ジャンプアウト直後の商船は燃料タンクがほぼ空ですから、脆弱です。

 待ち伏せされた商船が海賊船から逃れる成功率を、以下の表18にまとめました。
 相対速度の関係で、どのようにイニシアチブを握っても、最低1回は海賊船からの射撃を受けてしまいます。


         表18 商船の逃走成功率(星系に到着/反撃なし)

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 表14で判明していたことですが、通常ドライブを損傷するだけで、商船の逃走は不可能になります。
 当然、海賊船もそこを狙ってくるでしょう。

 イニシアチブを有利にしても、海賊船から射撃1回を受け、逃走成功率は63.7%。
 イニシアチブの取得に失敗して射撃2回を受けたら、成功率は40.6%。
 私の好みからすると、成功率が低すぎます。
 ジャンプによる逃走は不可能ですから、非武装の商船は、すみやかに降伏の道を選ぶべきでしょう。



 商船が武装している場合は、商船の砲塔無力化が欠かせません。
 逃走成功率は、以下のように変わります。


         表19 商船の逃走成功率(星系に到着/武装あり)

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 今回も商船の逃走成功率は、上段の数字。
 商船が損傷を受ける確率が、下段の数字(緑字)です。



 武装した商船の砲塔通常ドライブの双方を無力化するため、 海賊船が商船を捕獲するためには2回の射撃が必要となりました。
 どちらも外部損傷表で命中を与えることができるため、それほど難しくはありません。
 商船の逃走成功率は71.6%
 難しくないといっても、7割の商船は損傷を受けつつも逃走に成功するでしょう。
 非武装の商船が4割しか逃げられないことを考えると、武装の価値は十分にあるようです。



 海賊船がパワープラント使用不能燃料を狙ってきた場合、 どちらにしてもその商船のパワープラントが機能しなくなります。
 通常ドライブによる逃走も、砲塔による反撃も不可能。
 実に効率的な攻撃方法であり、必要な射撃回数も増えません。
 燃料損傷を与える方法が最も逃走成功率が低く、 48.6〜69.7%のままでした。
 燃料を狙うのであれば、商船が武装していても、逃走成功率は変わらないのです。

 星系に到着した武装商船を襲撃する場合、通常ドライブではなく 燃料を狙う射撃が最も成功率が高いと分かりました。
 すべての燃料を失った商船はパワープラントが機能を停止し、 乗組員の生命維持や救難信号の発信も不可能になってしまうのですが、仕方ありません。
 星系に到着した武装商船を冒険商人の海賊船が捕獲するためには、 パワープラント使用不能を狙う以外の選択肢がないのです。


 商船の反撃がどれだけ痛いかについては、すでに表16の考察で述べましたから省きますが、このリスクは 食い詰めたことが原因で海賊行為に走った冒険商人にとって許容できるものではありません。
 冒険商人は極力、撃たれないように努めなければいけないのです。

 具体的には、
 不意討ちに成功しなければ、襲撃しないで逃げる。
 反撃の可能性がある武装付きの商船は、襲撃しないで逃げる。

 ということになるでしょう。

 これを実行する余裕がないのも、貧乏な冒険商人の現実なのですが。





9.まとめ

 自由貿易船で海賊行為を行う冒険商人の行動を考察しました。



 まずは「ハードタイムズ」に掲載されている、海賊との遭遇表を考察。
 遭遇する海賊船の半数AU型外航自由貿易船A型自由貿易船の2種類、専ら自由貿易商人の使用する宇宙船であることを確認しています。

 そして豪商キャラクターの作成表(プレイヤーズ・マニュアルp.60〜64)から、 個人所有の自由貿易船は、およそ130隻に1隻(0.77%)の割合で海賊船になっている事実を発見。
 スピンワードマーチ宙域の帝国領でAU型やA型自由貿易船を駆る海賊が75〜90隻も存在するとした計算の、十分な裏付けを得られました。



 次に、海賊船の待ち伏せ場所を考察しました。
 1G加速の海賊船で、星系内を移動中の商船を追跡して略奪することは極めて困難。
 主要世界の衛星軌道上に停泊中の商船を襲撃することはとても危険。
 という訳で、100倍直径で停船する商船を待ち伏せする以外に方法がないと分かりました。
 残念ながら、ガスジャイアントを利用する商船は数が限られているため、待ち伏せ場所としては不適切なようです。

 待ち伏せの成功率はそれほど高くありません。
 星系を離脱中星系に到着直後の2パターンで考えました。

 星系を離脱中の商船を待ち伏せた場合、 A型自由貿易船R型商船が相手でも48.6%(ほぼ半分)、 M型客船S型偵察艦を狙った場合は16.2%(6分の1) しかないのです。
 トランスポンダのおかげで商船の情報(大きさや武装の有無)を知ることができてリスクは低くなりますが、 その代わりに襲撃の成功率も低くなり、ローリスク・ローリターンの待ち伏せとなります。

 星系に到着直後の商船を待ち伏せた場合、 探知機やコンピュータの性能に関係なく至近距離での戦闘が始まりますし、ジャンプアウト直後の商船は燃料が少ないので、比較的簡単に制圧できます。
 その代りジャンプアウトしてくる商船の情報は出現するまで分かりませんから、リスクが高くなります。
 この方法は、ハイリスク・ハイリターンの待ち伏せだと言えるでしょう。



 冒険商人の海賊船は武装が少なく、コンピュータ・モデル数も低いため、 獲物商船の砲塔通常ドライブジャンプドライブを 個別に破壊して、捕獲することはとても困難です。
 特に星系を離脱中の商船はジャンプで離脱することが容易ですので、簡単に捕獲できません。
 星系に到着直後の商船は燃料不足でジャンプ不能ですから、こちらの方が狙い目でしょう。

 どちらにしても、低火力の海賊船で獲物の商船を捕獲するためには、 商船にパワープラント使用不能致命的命中を与えるか、 十分な燃料損傷を与えて行動不能にする方法が一番だと分かりました。
 この方法ですと、捕獲された商船は乗組員の生命維持や救難信号の発信も不可能になってしまうのですが、 そんな些細なことに配慮していたら、襲撃の成功率はますます下がってしまいます。
 冒険商人の生活を守るためには、止むを得ません。
 捕虜にされた乗組員や旅客の運命が心配です。

 あるいは、相手の恐怖心を利用して降伏の道を選ばせる、という方法も良いでしょう。 そのためのハウス・ルールを作りました。
 それなりの能力と実績が海賊側に備わっていれば、使えそうなルールです。
 個人的に犯罪者を信じて降伏するという選択肢は、抵抗して殺される抵抗しないで殺されるかという無意味な選択肢だと思っていますが。



 商船の修理費、特にパワープラントジャンプドライブの修理には、 極めて高額の修理費が必要になると判明しました。 致命的命中による損傷の場合は応急修理ができませんから、修理には余計な時間も掛かります。
 これらの修理費捻出(船舶保険?)については、また今度、考察してみましょう。

 通常ドライブ砲塔燃料の損傷は、 比較的安価な修理費で直せます。応急修理も可能ですから、修理費が捻出できない場合は修理せずに航行するという選択肢もあるでしょう。 あまり実践したくありませんが。



 最後に、襲われる商船側の視点から見た、逃走成功率を求めてみました。
 意外というか予想通りというか、イニシアチブの取り方で海賊船に撃たれる回数が大きく変わり、それに合わせて逃走成功率も変化します。

 星系を離脱中の商船は、逃走成功率が軒並み高くなっています。
 イニシアチブの取り方によって、逃走成功率は100〜78.0%。
 武装していれば、海賊船の射撃が砲塔に集中しますから、逃走成功率は100%。
 ただし致命的命中パワープラント使用不能を狙われた場合は、 武装の有無に関わらず100〜84.0%の逃走成功率になってしまいます。

 商船の武装は、海賊船の襲撃を大きく抑止する効果があります。
 射撃回数1〜2回で、海賊船の砲塔を破壊できる確率は42.2〜66.6%、 通常ドライブを破壊できる確率は5.9〜11.5%です。
 商船の反撃1回で海賊船の48.1%が、反撃2回で海賊船の78.1%が戦闘/追跡不能になる訳です。
 商船の逃走成功率は大きく増えることになりました。
 海賊船は高い確率で損傷を負い、さらに獲物の商船には逃げられる訳ですから、武装した商船を襲撃することは控えた方が良いようです。
 私ならば非武装の商船しか狙いませんが、皆さんはどうでしょう?

 星系に到着直後の商船は、燃料不足によって行動が制限されています。
 逃走成功率は91.7〜40.6%とかなり低め。
 イニシアチブにもよりますが、非武装の商船はなかなか逃げられません。
 武装した商船の逃走成功率は100〜48.6%。
 あまり変わらないように見えますが、反撃の成功率を考慮すれば十分な数字でしょう。



 以上、冒険商人の海賊船について考えてみました。
 彼らは極力、撃たれないように努めなければいけません。

 具体的には、
 不意討ちに成功しなければ、襲撃しないで逃げる。
 反撃の可能性がある武装付きの商船は、襲撃しないで逃げる。

 ということになるでしょう。

 「撃たれずに略奪する」方法については、また後で考えてみます。



 別件ですが、略奪を終えた後、捕虜になっていた商船乗組員や旅客の運命が心配になりました。
 宇宙空間で捕虜を生かしたままにしておこうとするのであれば、戦闘の開始時点から配慮が欠かせません。
 そうした配慮は海賊行為の成功率を下げ、略奪の妨げとなってしまうのです。
 そんな状況で、捕虜は生かしてもらえるのでしょうか?




2012.02.19 初投稿。