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ROBOTEC.GIF - 9,024BYTESTITLE.GIF - 15,378BYTES

番外 Vol.05


 新しい理論が生まれると、それを積極的に現場に取り入れたくなる。
 うまくいく場合もあるが、なかなかうまくいかない場合もある。
 ここに紹介するのは、それがうまくいかなかった例、「エラー・エフェクト」と、それを医療現場に取り入れようとする試み、「ツインズ・システム・ロボット」である。


 試作 擬似人間型看護ロボット



 エラー・エフェクト(失敗効果)について

 昔から言われてきたことであるが、ミスを経験したことの無い組織というのは脆弱である。
 この点を証明しようというのがエラー・エフェクト理論であり、帝国暦1050年代にCore CapitalのH・Gimukusyaduを中心とした統計学者達のグループによって実証された。
 はるか古代から経験的に知られてきたこの理論がこれまで立証されなかったのはそれまでは有意な統計的データーを得られなかったためである。

 ある程度の“エラー”を内包することで、組織全体としての作業効率、信頼性が上昇する理由については様々な理由が考えられる。

 常に“エラー”と対峙することで、ミスに対するチェック機能が強化され、全体としての信頼性の向上が期待されること。

 “エラー”の存在が、組織の構成員達に適度な緊張をもたらすこと。

 “エラー”の内容によっては、逆に過度の緊張を解くこともできること。

 ある程度“エラー”の存在を容認することにより、“エラーの隠蔽”を減らし、より大きな危険性を取り除くことができること。

 等が挙げられる。

 このような「エラー・エフェクト」を、組織運用に積極的に取り入れようとする一つの試みがこれから紹介する看護用ロボットである。
 この看護用ロボットの開発に着手したのは、RUロボット製作所の元技術者達の一団であった。
 もともと、倒産前のRUロボット製作所内で、ある程度プロジェクトが進行していたものと思われる。

 「エラー・エフェクト」を積極的に医療の現場に取り込もうとするのはかなりの困難を伴うことである。
 なぜならば、医療現場というのはミスが即事故へとつながる危険性をはらんでおり、故意に”エラー”を起こすことそのものが危険であるからである。
 従って、医療現場への「エラー・エフェクト」導入には、過度と思われるほどの慎重さが要求される。

 この点を解決しようというのが「ツインズ・システム」である。


 ツインズ・システムの概要
  
 「ツインズ・システム」は、二台のロボットによって構成される。
 二台のロボットは相互リンクによってデーターの共有が図られ、常に片方の行動をもう片方が監視できる様になっている。
 このため、一方のロボットがミスを犯しても、もう片方のロボットがそれをカバーでき、全体としてミスそのものを帳消しにできる。
 また、ミスからカバーまでに一定の時間を要するため、その間に人間達にもそのミスをカバーする機会が生まれる。
 こうすることによって人間組織の中の、ミスに対するチェック機能を強化することができる。

 最初に考案された「ツインズ・システム」搭載型ロボットは非常に高価な物になると予測された。
 看護用ロボットには擬似生物型が最適であるが、これは非常に高価であり、これに「ツインズ・システム」の高度な情報処理能力を要する頭脳ユニットを搭載するとなると、ほとんど天文学的な価格となってしまうのである。

 そこで考案されたのが、頭脳部分を主部ユニットとし、二台の従部をコントロールする方法であった。
 しかしながら、この試みもうまくいかなかった。ひとつの頭脳ユニットで二台のほぼ同じ機能を持った従部を、まったく違った性格でコントロールすることは、頭脳ユニットに過大な負荷がかかり、一種の二重人格的な機能障害を引き起こす危険性が高いことがわかったのである。

 そこで、この点を解決するために、「シャム・ユニット」と呼ばれる新しい種類の主部が考案されることとなった。


 主部(シャム・ユニット)

 URP   410xx-00-PQ32A-42C9(L)  Cr1,349,870  40.3s  62.7L
 燃料=24 活動時間=10.0 TL=15 16/40(メッシュ) 
 副頭脳  URP xxxxx-xx-PM328-xxC3(B)
 胴体   主部ユニットx2 通信機(5km)x2 動力インターフェイスx1 頭脳インターフェイスx2
 プログラムインターフェイスx2
 技能   (CPU)  〈演芸(ツッコミ)−4〉〈医学−2〉〈心理学−2〉〈医療機器操作〉
       〈感情表現〉
 (メモリー)〈教官−2〉〈管理−2〉〈スチュワード−2〉〈従者−1〉〈清掃−1〉
 技能
(副頭脳) 
 (CPU)  〈演芸(ボケ)−4〉〈医学−2〉〈心理学−2〉〈医療機器操作〉〈感情表現〉
 (メモリー)〈スチュワード−2〉〈従者−1〉〈清掃−1〉

 「シャム・ユニット」は、二台の従部を、まったく異なった性格付けでコントロールするために、開発されたものである。
 このユニットの特徴は一台のロボットに、二基の頭脳ユニットを搭載していることである。
 二基の頭脳ユニットはお互いにリンクしており、またそれぞれが別々の従部をコントロールする。
 こうして主部ユニットはやや高価なものになったが、擬似生物型のロボットに頭脳を搭載した初期のシステムと比較すると、システム全体としての価格を非常に低く抑えることに成功した。


 従部(ハイブ製)

 URP   360x2-12-LL3x1-DD(3)(2)  Cr779,592  53s  53.8L
 燃料=24 活動時間=10 TL=15(頭脳は16) 12/31(ジャック)
 歩行  パワー/重量比=18.9 接地圧=1.9 走行速度=75km/h 不整地=60km/h
付属装置  頭部=25%x1 軽量腕x2 従部ユニットx1
 胴体   触覚センサー 嗅覚センサーx1 音声合成装置x1 通信機5kmx1
 頭部   目x2 耳x2
 技能   〈感情表現〉(戦闘禁止プログラム)

 前述したとおり、看護用ロボットは擬似生物型が最適である。
 しかしながら、このロボットを発案したグループは、擬似生物型ロボットを製作する技術を持っておらず、外部に頼るほか無かった。
 ほとんどのロボット製作所が興味を示さない中で、ハイブ人のロボット制作会社、Hexagramがこの依頼を引き受けることになった。
 HexagramStar・Patternsの下請けとしても知られている。

 Hexagram社では、幾つかの擬生物型ロボットを手がけてきた経験から、人類には自分達に似た存在に対し「不気味の谷」と呼ばれる、一種の心理的障壁が存在することを経験していた。
 この点に対する研究はある程度進んでおり、人類は相手が自分達の種族に近いほど、それが「人間ではない」というだけで、一種の嫌悪感を抱くことがわかっていた。
 つまり、全く人間と変わらないロボットを製作したとしても、それは「ロボットである」というだけで、決して「不気味の谷」を越えることができないのである。

 ハイブ人たちはこの「不気味の谷」を、ある画期的な方法で回避することを思いついた。
 ロボットが人間に近づくほどに嫌悪感を抱かれるなら、むしろ遠ざければよい。
 つまり、ロボットであることを誇示するのである。
 その方法として、彼らはロボットの頭部の形状を一部、人類の物から乖離させることにした。

 人間に対し、相手が人間ではないということをはっきりと示しながら、かつ、人間と“同一性”を持った者であるということを違和感無く表現することができる変形について、最も適した部分が「耳殻」であると結論したのである。
 彼らは、「耳殻」に替えて「nekomimi」(或いは「kemonomimi」)と呼ばれる装飾を、擬生物型ロボットに施すことを決定した。


ANNE_SENPAI.GIF - 1,533BYTES従部 Anne(Nekomimi-model)
HELEN_DOJIKKO.GIF - 1,887BYTES従部 Hellen(Taremimi-model)

 もうひとつの問題は、帝国とハイブ連合の間で取り決められている、戦闘用ロボット輸入禁止条項である。

 ハイブ圏で製作された戦闘用ロボットは、帝国圏に持ち込むことが禁じられているのだ。

 看護用に作られた、しかも擬似生物型ロボットが戦闘用に使われることなどありえないと考えられるであろうが、完全な従部ロボットである限り、対応する主部に戦闘用プログラムを搭載するだけで、それは即座に戦闘用ロボットとなりうるというのがHexagram社側の考えであった。
 そこで彼らはこの点に関する安全対策を講じることになる。

 これが、「ジェミニ」と呼ばれる、戦闘及びそれに類する行為を禁止する、いわば安全装置にあたる自律システムである。
 つまり、従部ロボットでありながら自律型の電子頭脳を搭載しているのである(「ジェミニ」とは古いテラの寓話に登場する木製の人造人間に与えられた“良心”のこと)

 このため、このロボットは従部型でありながら高価なものとなってしまったが、Hexagram社では、この従部ロボットを今回に限り半額に近い価格で提供することとした。
 これは、この「エラー・エフェクト」を実際に利用するという試みに興味を示したことと、いずれにせよ将来的には、帝国圏において「ジェミニ」を取り外した安価な擬生物型従部がライセンス生産されるであろうことを見込んでのことである。



 結末

 結局のところ、試作まではこぎつけたものの、この看護用ロボットは成功しなかった。
 無駄に搭載された「ジェミニ」システムのために高価になりすぎたこともあるが、特に「エラー」を起こす役割を与えられた「シャム・ユニット」の副頭脳が、主頭脳及び従部に搭載された「ジェミニ」双方からの干渉による軋轢に耐えられなかったのである。
 「ジェミニ」さえなければどうなったかわからないが、このグループはこの時点で、開発のための資金を調達することができなくなり、解散するほかなくなった。

 試作された一連の「ツインズ・ロボット・システム」の行方は、それまでの資金の抵当として、あるロボット会社にパテントともども引き取られたということ以外、不明である。

                        以上の部分は、橘様のアイデアを、私(山中)が編集したものです。




医療/看護用−擬生物型ロボット 「フローラ」シリーズ


 もう一つの結末

 ついにやりました!!
 我が、センタ・マウント社の人工頭脳開発チームが、ついにやってのけました。
 かつて、失敗に終わった「ツインズ・システム」を完成させたのです。

 DKロボット社の、ドジッ子ロボットは、確かに安全かもしれません。
 しかし、それはあくまでもドジを演出しているに過ぎませんでした。

 しかし、「ツインズ・システム・ロボット」は違います。
 このシステムによって稼動するロボットは、“本物”のドジッ子なのです。
 高度な演芸プログラムは次から次へと新しいミスを生み出し、しかも、ほとんど安全性を考慮していないため、非常にスリリングです。

 もちろんそのままでは危険極まりないため、“先輩”ロボットが、常に万全のフォローをしてくれます。

 あなたの部下たちは、あまりに変化のない職場にうんざりしていませんか。
 笑いも、緊張感も無い無味乾燥した職場では、仕事の効率も、信頼性も失われてしまいます。
 そんなあなたのオフィスに、わが社のドジッ子&先輩ロボットが適度な潤いと緊張感を与えてくれるでしょう。


センタ・マウント製 シャム・ユニット

 HM104−Siamese Unit

URP 

 805XA-00-MR32A-H49B Cr530,300 148.2kg 350.0L  (TL=15)
                MQ328-    98  (副頭脳)

ボディ

 70/175(なし) フレーム型

動力

 燃料電池5 燃料(水素)=118.8L 活動時間=16日2時間

車輪

 パワー/重量比、接地圧、整地最高速度、不整地速度
  無負荷時   = 13.5 、 4.2 、150km/h 、 38km/h
 +50kg荷重   = 10.6 、 5.7 、145km/h 、 29km/h
 +100kg荷重 =   8.8 、 7.1  、140km/h 、 14km/h

付属装置

 なし

胴体

 基本センサー・パック
 動力インターフェース×8 プログラム・インターフェース
 主部ユニット×2 通信機5km×8

主頭脳
Tina

高自律型 上級命令 知力9 教育度11

応用プログラム
 <感情表現><演芸(ツッコミ)−3><医学−4><心理学−2>
 <教官−2><管理−2><スチュワード−2><従者−1>
 <あやしい技能−3><清掃−1>

副頭脳
Betty

高自律型 上級命令 知力9 教育度8

応用プログラム
 <感情表現><演芸(ボケ)−3><医学−4><心理学−2>
 <スチュワード−2><従者−1><あやしい技能−3><清掃−1>

 

「シャム・ユニット」の特徴

 センタ・マウント製の「シャム・ユニット」は、車椅子型の主部ロボットです。
 車椅子型と言っても、床屋の椅子のように頭部と脚部を支えることが可能なリクライニング機能も付いていますので、自走式担架としても使えます。
 病院内で、1人の人間を乗せて移動することが本来の目的なのですが、急いで移動したい場合などには、従部ロボットの「フローラ」を載せて移動することも有り得るでしょう。
 オフィスでは「フローラ」用の事務机とセットにして、事務所の隅に設置されていることが、多いようです。


 胴体内には、2つの高自律型頭脳が搭載されています。
 その一つが副頭脳、「ドジッ子」役のベティ

 ベティにコントロールされるネコ耳型従部は、<医学−4>、<スチュワード−2>、<従者−1>の技能を持つ、とても優秀な新米看護婦です。
 しかし、彼女の行動を見ていると、とてもそうは思えません。
 それは、高度なボケ技能が、故意にミスを連発させているためなのでした。

 3レベルのボケ技能(演芸技能に相当)は、故意に誤ったデータを挿入して、間違った行動を行なわせるための「ボケ」プログラムです。

 この「ボケ」を単純な動作で表せば、物や場所を間違える。
 洗面器を逆さに置く。
 違う薬品で注射の準備をしてしまう、などのミスに該当します。

 あるいは、何かを忘れて行動してしまう。
 医療行為の手順を、ひとつ、飛ばしてしまうなどのボケです。
 注射器の空気抜きを忘れるだけでも、とても怖いことになりますね。

 ベティに組み込まれた「ボケ」プログラムは、完成後も新たな情報(職場の対人関係、患者の情報、新しい医療技術)を積極的に取り込み、その情報をもとに、新しいボケを実行します。
 ですから、「ボケ」が何時でも新鮮なのです。


 もう一方が主頭脳、「先輩」役を務めるティナ

 ティナにコントロールされるウサ耳型従部は、<医学−4>に加えて、<教官−2>、<管理−2>など、管理職に必要な技能までを備えた、優秀な先輩看護婦です。

 3レベルのツッコミ技能(演芸技能に相当)は、後輩のミスを決して見逃しません。
 傍から見ていれば、いつでもティナベティのミスをした現場に居合わせて、彼女のミスを、カバーするかのように見えることでしょう。
 しかし実際は、いつでもベティの(ボケを含んだ)行動予定がティナの頭脳に送られており、あらかじめチェックを受けているのです。

 ティナによるチェックの結果、ボケが面白くて、真の危険を含んでいないのならば、ティナは、その行動予定(ボケ)に実行許可を与え、ベティへその旨を伝えます。

 ティナが面白くないと判断すれば、例えば同じことを何度もしているから良い反応を期待できない、今の状況(TPO)に合わないボケである、そのボケでは気分を損ねる人間がいるだろう、などの判断をすれば、ベティには実行禁止の指示が送られます。
 ベティはその禁止理由を自分のメモリーに組み込んで、「ボケ」プログラムを、より面白くなるように進化させていくでしょう。

 ティナが危険を含んでいると判断する場合は、ツッコミによるカバーが困難だとか、物の落下のように予測が出来ないなどの理由です。
 ベティの「ボケ」は基本的に乱数で実行されますから、「ボケ」によって起こり得る危険を考慮していません。
 「受ける」かどうかだけが、「ボケ」の評価基準です(安全対策の制限を課してしまうと、真の「ボケ」を得られないためです)。
 ですから大抵の医療ミスは、「ボケ」プログラムによって、実行される可能性があるでしょう(「ツッコミ」プログラム無しでは、危なくて使えません)。

 ちなみに、「ツッコミ」プログラムは間違った行動を見つけると、反射的に「ツッコミ」を入れてしまいますので、相手がベティ以外のロボットでも、例え人間であっても、容赦なく「ツッコミ」が入ります。


CDSパラメータ

 <演芸>技能と<心理学>技能が組み合わさった結果として、「シャム・ユニット」には、高度な感情表現プログラムが搭載されたような形になりました。

 その感情表現の方向性を決定する、重要なパラメータが、CDSパラメータです。
 RUロボット製造所においては、オーダーメイドであるため、お客様の嗜好に合わせ、技術者がパラメータ調整を行なっていました。
 センタ・マウント社においては、パラメータ調整をお客様自身が行なう形に変わっています。


 CDSの「」は、Complexの「」。(ドジッ子パラメータ

 ロボットに、「自信の無さ」を表現させるパラメータです。
 従来のロボット開発では有り得ない、上目遣いの視線、伏し目がちな態度、消え入りそうな小声、曖昧にぼかした語尾、ためらい、などを実行させるのです。

 自信に満ちた態度、まっすぐな視線、はっきりした言動は、誤解を与えることが少なく、とても分かりやすいのですが、その反面、親しみを感じる要因にはなりません。
 逆に人間とロボットの間で、ビジネスライクな付き合いを築いてしまいます。

 ところが、Cパラメータを与えて、ロボットに「自信の無さ」を表現させると、人間の保護欲や母性本能を掻き立てることが可能になるのです。
 人間はロボットに興味を持ち、親しみを感じるようになるでしょう。

 Cパラメータが強ければ、ミスをして叱られたドジッ子は、見る影も無く落ち込んでしまいます。
 周囲の人間は、彼女を慰めずには居られません。
 最終的にドジッ子は立ち直るのですが、その過程で職場内の連帯感は強化され、ミスの再発を防ごうという緊張感が生まれます。

 Cパラメータが弱ければ、ミスをして叱られたドジッ子は、あまり落ち込まず、すぐに立ち直りを見せます。
 「ミスが起きても気にしない。誰しもミスは起こすもの。」
 という楽観的な雰囲気が職場内に生まれ、緊張し過ぎていた職場の雰囲気は、和やかなものに変わるのです。


 CDSの「」は、Dojikkoの「」。」。(ドジッ子パラメータ

 このパラメータは、ドジッ子のミス発生率(エラーの発生頻度)を調整するためのパラメータです。
 もともと、ドジッ子(人間の社員)がいる職場であれば、低く抑えておく必要があるでしょう。

 Dパラメータは、前述した「エラー・エフェクト」理論の実証によって、初めて実用化されたものです。
 「エラー・エフェクト」理論を適用すれば、その職場における最適な「エラーの発生頻度」を求めることができるのですから(今までは、定量化が困難でした)。


 CDSの「」は、Severityの「」。(先輩パラメータ

 ドジッ子や周囲の人間に対して、厳しい発言を行なわせるためのパラメータです。
 極めて特殊な心理計算と感情表現が必要なため、従来のロボットでは困難でしたが(唯一の成功例が、DKロボテク社ツンデレでした)、RUロボットから移籍してきた技術者によって、センタ・マウント社でもようやく実現することが出来ました。

 基本的にはドジッ子ミスをした場合、それを叱る強さを調整するパラメータになります。
 Cパラメータと関連しますが、職場が弛緩していると思われればSパラメータを強くすることになり、ドジッ子を強く叱って、職場内の緊張を高めます。
 反対に職場の緊張が過度であれば、Sパラメータを弱くすることで叱り方は優しくなり、職場の雰囲気を和やかなものへ変えていきます。

 特殊なパラメータ調整の方法として、特定の人物に対してだけSパラメータを強くする、周囲の環境に合わせて(二人きりの時だけ)Sパラメータゼロにする、などの方法も可能です。
 しかし、あまり複雑なパラメータ調整は、ロボット神経症を引き起こす原因とも成りかねませんので、ご注意ください。


その他の技能プログラム

 <医学−4>の技能を持っているため、大抵の疾病や負傷を治療することが出来ます。
 ロボット自体に医療器具パックは装備されていませんが、擬生物型ロボットですので、病院内の設備や医療器具を使うことには、何の問題もありません。

 オフィスなどで使用される「シャム・ユニット」の<医学−4>技能は、職場に応じて、事務技能の<管理−4>、<徴用−4>、<ブローカー4>、接客用の<スチュワード−4>、<従者−4>、<追加言語−4>、<ギャンブル−4>、教育用の<教官−4>などに変えられています。
 一部の企業では、<保安−4>、<近接戦闘−4>、<戦術−4>、<消火活動/救出−4>などが組み込まれ、夜間、無人になるオフィス内の警備にも利用されているとのことでした。

 <スチュワード−2><従者−1><清掃−1>の技能は、患者の身の回りの世話をするための、技能です。
 一般の看護ロボットよりも、はるかに高度な「お世話」が可能でしょう。

 1台の「シャム・ユニット」は、同時に4組のペアをコントロールすることが出来ますし、センタ・マウント社製の擬生物型従部「アンジェラ」や「ビアトリス」にも対応可能です。


 移民船に乗船した「フローラ&シャム・ユニット」には、非常事態の発生に備えて、砲手用のプログラムも組み込まれました。
 プログラム・インターフェースを用い、平時の医療用プログラムから砲手用のプログラムへ、瞬時に入れ替えることが可能です。

 <医学−4>に換えて、<砲術−4>、<探知器−4>、<通信−4>の技能を複数の主部が分担します。
 最低3台のシャム・ユニットが必要となりますが、極めて有能な砲手となり得るでしょう。
 移民船が砲戦を行なうことなど、本来、あってはならないのですが。


 

医療/看護用−擬生物型ロボット 「フローラ」シリーズ

FLORA13_USA.GIF - 3,211BYTES HR006−Flora15 「先輩

FLORA15_NEKO.GIF - 2,322BYTES HR006−Flora15 「ドジッ子

URP 

 26X32-N2-00000-DB00 Cr145,900 56.8kg 44.0L  (TL=15)

ボディ

 9/22(ジャック) 擬生物型

動力

 蓄電池=3.0kwh 活動時間=10分(節約モードで50分)

 パワー/重量比、接地圧、整地最高速度
  無負荷時 = 24.6 、  7.1 、90km/h
 +40kg荷重 = 14.5 、12.1 、65km/h
 +80kg荷重 = 10.2 、17.1 、55km/h

付属装置

 頭部=40%(8L) 軽量腕×2

胴体

 高感度触覚 動力インターフェース 従部ユニット 通信機5km
 あやしい装備×2

頭部

 視覚×2 聴覚×2 嗅覚 味覚 音声合成装置

主部A
Siamese
Unit

主部ロボットとして、HM104−シャム・ユニットを利用した場合(TL=15)
高自律型 上級命令 知力9 教育度11

応用プログラム(主頭脳、副頭脳に共通)
 <感情表現><演芸(ツッコミまたはボケ)−3><心理学−2>
 <医学−4><スチュワード−2><従者−1>
 <あやしい技能−3><清掃−1>

応用プログラム(主頭脳のティナのみ)
 <教官−2><管理−2>

主部B
Robotec
400

主部ロボットとして、LSP社製-ロボテック400を利用した場合(TL=15)
高自律型 上級命令 知力9 教育度3

応用プログラム
 <感情表現><医学−4>

オプション
パーツ

外装式増設バッテリー
 ベルトポーチ形の、外装バッテリーです。
 ナース・タイプのユニフォームに、違和感なしの取り付けが可能です。
 着脱に必要な時間は、わずか10秒。
 当社オリジナルの、ワンプッシュ/ワンタッチ方式(実用新案申請済み)

 蓄電池容量=21kwh 活動時間=90〜210分 重量3.0kg cr24,000

内蔵式増設バッテリー
 外装式では不都合がある、という顧客のクレームから開発されました。
 残念ながら非常に高価ですし(本体価格の132%)、とても重くなります。
 ワンプッシュ方式の交換もできませんが、それでも需要は多いようでした。

 容量=21kwh 活動時間=90〜210分 重量=4.5kg cr192,000(TL=15) 

「フローラ」の特徴

 「フローラ」は、アンジェラ/ビアトリス・シリーズの流れを受け継いだ、無脳従部型/擬生物型ロボットです。
 燃料電池を持たず、蓄電池のみで駆動する点も変わりませんが、大きな違いは筋力の増加にあります。

 アンジェラ/ビアトリス・シリーズが、医療部門へ進出する際、大きな障害となったものは、彼女達の非力な筋力でした。
 オフィスの事務部門や、レストランのウェイトレスとして働く場合には、全く問題にならなかった筋力3(超軽量腕×2本)が、医療の現場では不足だと判断されたのです。

 アンジェラビアトリスも、筋力3ですから、何の支障もなく運べる重量はわずか3kg。
 若干の負荷(能力値−1)で、6kgを運べます。
 専用のバッテリーパックなどは、あらかじめ、その負荷を前提として設計されていましたから、問題ありませんが、両腕で運べる荷物の最大重量は、たったの15kgでした(人間の5倍荷重に相当しています)。


 この問題を営業部門から指摘されたタロ・ヤマダ氏は、新たな試作品を、倉庫の奥から引き出してくることで、その答えとしました。

 その試作品に与えられた正式な商品名が、HR-006フローラ」です。


 フローラの両腕、超軽量腕2本は、より強力な「軽量腕」に換装されていました。
 そのため、フローラの筋力は13になっています。
 腕にかかる負荷を支えるため、当然、足回りやボディの強度も補強されました。

 強化された2本の軽量腕は、筋力13の力を発揮します。
 何の支障も無く、持ち運べる重量は、13kgまで。
 フローラは3倍荷重にも対応していますので、多少の負荷(URPの減少)はかかりますが、39kgまでの重量物を両腕で持ち上げて、運搬できます。
 短時間(5分程度)ならば、65kgまでの重量物を持ち上げて、運ぶことも出来ます(5倍荷重)。
 運ぶことは出来ませんが、130kgまでの物ならば、持ち上げることが出来ます(10倍荷重)。
 患者をベットから車椅子に乗せ換える程度の作業は、十分に可能でしょう。


 この試作品を今まで公開しなかった理由は、タロ・ヤマダ氏の説明によると「重くなりすぎた」ためだそうです。
 アンジェラ37kgビアトリス45kgに比べれば、フローラ57kgは確かに重いのですが、それでも、60kg未満。
 それほど問題になる重量とは思えません。
 タロ・ヤマダ氏が軽量化へ注ぐ情熱には、やや行き過ぎているところもあるようです。


 「フローラ」も、従来のアンジェラビアトリスと同じく、美女美少女の姿をした、擬生物型ロボットです。
 非常にスリムであり、それゆえに、顧客の要望に応じた、どのような姿にも「肉付け」が可能でした。
 長身でスレンダーなモデル体形にも、雑誌のグラビアを飾るアイドルのようなグラマラス体形にも、自在に作り変えることが出来るのです。
 しかし、重量が57kgまで増加しましたので、小柄な少女体形だけは止めておいた方が良いでしょう。
 人間は、見た目で相手の重さを判断することが多いですから、見た目の割りに重量の大きいフローラは、意外な事故の原因になりかねません。

 何と言っても、フローラの売りは、ふわふわの擬生物型ボディにあります。
 患者はいくらでもフローラにスキンシップを行い、甘えることが出来るでしょう。
 ボディに装備された高感度触覚と、応用プログラムの<感情表現>、<あやしい技能−3>が、ソフト面からそれらをフォローします。


 センタ・マウント社はヘキサグラム社から(ネコ耳に関する)技術指導を受け、看護用擬生物型ロボットフローラ・シリーズに採用しました。
 ハイブの擬生物型ロボットと異なり、人間型の耳殻が残されてる理由は、「耳殻が無いと、聴診器やマスクを使いにくい」ためです。

 「ネコ耳」や「ウサ耳」以外の装備、頭部に装備されたセンサ類は、標準性能のものに戻されています。
 ビアトリス・シリーズに搭載して好評だった高感度嗅覚の装備も、今回、コスト削減のため、見送られました。


 内蔵蓄電池の容量は、ビアトリスと同じ3.0kwh
 これだけでも、動力インターフェースを離れて、10分から50分の独立行動が可能ですが、さらに、ビアトリスと同じ外装式増設バッテリーの採用によって、1時間から3時間の連続行動が可能になりました。
 バッテリーの交換に必要な時間は、わずか10秒です。


 従部ユニットと通信機(5km)は、オフィスや病院内での使用を前提としています。
 通信距離は短く、建物内では50mがせいぜいですが、その代わり、高速なデータ通信を可能としました(周辺の医療機器に悪影響を与える可能性はまず、有りえません。帝国の電波法に則った、安全な設計を行ないました)。
 宇宙船内では、船内の無線LANを利用することで、主部と同じ室内にいる必要さえも、なくなっています。



「フローラ」の安全対策

 ビアトリスの販売直後に頻発した事故(お客様や子供が、悪戯で外装式増設バッテリーのリリース・スイッチを押してしまい、重量3〜5kgのバッテリーが床へ落下するという事故。運が悪ければ、お客様の足をバッテリーが直撃します) への対応として、ワンタッチ/ワンプッシュ方式のリリース・スイッチが改良されました。

 あらかじめ指示されている場所(特定の部屋や充電器の1メートル以内など)に居なければ、リリース・スイッチが動作しない
 あるいはバッテリー・リリースのため、専用の解除キーを必要とするなど、ソフト/ハード面双方の改良が施されています。
 また、安全(防犯)のため、リリース・スイッチの設置場所をスカートの中へ隠した所、顧客(男性層)からの反応が、大変良かったので、フローラリリース・スイッチも、スカートの中に設置されました。


「フローラ」の応用例

 「フローラ」は、テックレベルの高い世界において、病院や介護施設などに広く販売されましたが、宇宙船内での利用を積極的に推し進めた例もありました。

 そんな一例が、ディンガーからベイシル星系へ向かう移民船「ラスト・チャンス」です。
 移民船に設けられた二等寝台を見守る医療要員としての採用は、1隻の移民船に乗り込むフローラの数が250と大規模だっただけに、大きな話題になりました。
 帝国標準型の移民船は、大きさが1万トン。
 5千人の移民を二等寝台に乗せて、一般的には、およそ半年から2年半の航海を続けます(ラスト・チャンスの場合は特別に短く、わずか3ヶ月間でした)。
 そんな移民船を操る乗組員の人数はわずか20で、今回、乗り込むことになったフローラの数が250

 これほど大量のフローラを乗り込ませることとなった最大の要因は、二等寝台を見守る、医療要員の不足です。
 移民船の乗組員募集は、何時でも困難でした。
 乗組員自身が移民志願者である場合を除けば、故郷を遠くはなれて旅をするだけではなく、狭い宇宙船に何年も閉じ込められてしまう訳ですから、魅力のない職業なのです。
 移民志願者の中から、医療経験者を抜き出して医療要員に就けようとしても、移民の5%に当たる大人数は、とても集めることが出来ません。
 そこで、医療ロボットを採用する方法は昔から行なわれていましたが、それにも問題があったのです。

 従来の医療ロボットですと、低データ型のダムボットでは、突発事態への対応が困難でした。
 高自律型のロボットならば能力的には十分なのですが、擬生物型のボディ故に、価格が高騰してしまいます。

 その中点を取った解決策が、高自律型の主部ロボットが、擬生物型無脳従部をコントロールする「フローラ・シリーズ」という訳でした。
 RUロボット製作所のノウハウを受け継いで実用化された「エラー・エフェクト」により、長期に渡る航海であっても、乗組員の間に緊張を保つ効果が、期待されています。


 乗組員の性別がすべて男性で、すべてのフローラに「あやしい装備」が備えられていることから、移民船ではなくて、ハーレム船だという陰口も叩かれました。
 ディンガーの移民局は、ラスト・チャンスの帰還後に、乗組員のレポートから再評価を行なうと発表していますが、今後、フローラ・シリーズが大量に採用される可能性は、きわめて高いと思われます。

             以上の部分は、私(山中)の投稿ですが、半分以上を橘様のアイデアに依存しています。




2008.11.03 初投稿。