オリジナルな辺境戦争

帝国暦546年、帝国市民にとって未来は幸福に満ちたものに映っていた。  

帝国暦490年に終結した第2次辺境戦争の後、帝国は56年に及ぶ平和の時代を享受していた。  
先の519年にはアスラン帝国との間に永久不可侵条約が締結され、今またゾダーン連盟との間に新しい平和条約が締結されようとしていた。  
第2次辺境戦争の終結に伴い、496年にゾダーンとの間で調印された休戦協定の内容をさらに拡大し、帝国とゾダーンの両国が国境外への軍事干渉を一切放棄することを約し、その上でスピンワード・マーチ宙域における軍事力を互いに制限する、この平和条約は未来の絶対的平和を両国民に予感させた。  

惑星クロナーでの調印を済ませ、帝国領に帰還した全権委任大使クルップ公爵は歓呼の渦に迎えられた。  
しかし、時代の流れは着実に戦乱へと向かいつつあった。  

帝国暦570年第169日、スピンワード・マーチ宙域司政長官オルブライト公爵は、食糧局からの提言を受け、今後15年間の同宙域においての食糧エネルギー生産目標を大幅に下方修正すると宣言した。  
これは、過去15年間における増産目標が適正でなかったため、食糧の過剰在庫によって著しい食糧価格の下落が続いていたことを受けたものであった。  
この翌日、ゾダーン連盟政府は超能力によって瞬時にもたらされたこの情報について、秘密の緊急会議を設けた。  
確かに帝国は過去15年にわたって農業政策で失敗をした。彼らがその過ちを訂正したいのは分かる……。  
しかし、この先の15年で逆の失敗を犯したらどうする。帝国の食糧が不足したとき、帝国からの輸入に全食糧供給の8割を頼っている、連盟の19の星系はどうやって食糧を得たら良いのだ?  
もしや……この食糧減産は、帝国による経済攻撃ではないのか?  
そして、ゾダーンの恐れは現実のものとなった。

帝国暦574年の全宙域規模での食糧不足を機に、食糧価格は高騰を続けたのだ。  
これはゾダーン連盟領で穀物128億トン、飼料75億トンの不足をもたらし、緊急輸入による財政負担はゾダーン経済に深刻な打撃を与えた。  

帝国暦578年第074日、ゾダーン連盟政府は約30日後に迫った帝国との平和条約更新の拒否を、正式に発表した。  
そして、現在この辺境宙域を騒乱に陥れている食糧危機は、帝国資本主義社会の陰謀によってもたらされたものであり、ゾダーン連盟政府とソードワールド連合政府は協同でこの謀略に立ち向かう、という趣旨の宣言が続けられた。  

不正と欺瞞に満ちた帝国人を信用した我々が間違っていたのだ。ならば、間違いは直ちに正されなければならない。  
クロナーはそう判断したのだ。  

宙域における戦力比はゾダーン軍1:帝国軍2。しかし、配置密度では帝国軍1に対してゾダーン軍は4と圧倒している。  
チャンスは今しかない。帝国の戦時動員が完成する前に、速やかに宙域の大半を制圧するのだ。
ゾダーンの優れた統制指導下でなら、食糧生産などすぐに以前の水準を回復する。来年には、全ての家庭に温かいスープを供給できるはずだ。  

帝国暦578年第104日、ゾダーンは平和条約の期限が切れると同時に後方宙域から大規模の増援をスピンワード・マーチ宙域に流入させた。  
演習の名目で移動を開始した先発部隊は、すでに国境星系で待機している。  

ついに平和の時代は終わろうとしていた。

By 龍太郎氏

龍太郎氏による、GDW正史とは一味もふた味も違う辺境戦争史第1回です。

トラベラーのいいところの一つが、用意された設定の中から使いたいものだけを選んで、好きなように料理でき、またそれがやりやすいように考えられているところでしょう。
龍太郎氏の辺境戦争シリーズはそんな面白さを再認識させてくれます。

次回もお楽しみに。

化夢宇留仁

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