YOKOHAMA・TASOGARE

境界線上の住人達

MEGA TRAVELLER


Science -Fiction Adventure
in the Far Future

異なる「社会的秩序」の境界線上に住む人々の素描、
或いは数学博士ジャミル・クライフ失踪事件における
聞き込み調査報告ファイルの断片。

Bay city Blues

 それが銀河であれ運河であれ、およそ港と名が付く場所からは少なくとも一本のメインストリートが
伸びており、「超」は付かないまでも一流のホテル・レストラン・オフィスビル等が整然と立ち並んでいる。
 秩序ある町並みがどこまで続くかは都市の規模や歴史にも依るのだが、ともあれ、その境界線(場合
によっては物理的な境界が存在することもある。)から菌糸のように広がる細く曲がりくねった路地には、
入れ替わりの激しい貸店舗や露天商のテントがひしめきあい、産地直送だったり産地不明だったりする
品物(や人物)を流動させている。
 本当に美味いモノや珍しい品はこういう場所でないと手に入らないと・・・・・いう幻想は少なからぬ人々
が共有するところだが、大概はトンデモない屑や珍しい感染症をお持ち帰りになるのが相場と言えよう。


トマス・J・ホイヤー 53歳・無職

薄暗い酒場の隅でうたた寝をする老人。くたびれ果てた上着はもう何年も洗ってない様子で、
埃とヤニが交互に積み重なっている。年金生活者か、或いは、いくらかの蓄えでもあるのか
どちらにせよ一日中何をするという事もなくただ安酒を飲んで過ごす。社会から忘れ去られ、
石のように無視される存在。また彼の望みも、目の前のグラスから溢れる程のものでは無い。
まともな人間はけして彼に注意を払ったりしないが、ある種の人々は、それこそが得がたい
価値だと言う事を知っているものだ。(ex.情報屋・非合法物品の中継や売人等)

 あ?なんだって?一週間?それじゃ俺が一週間ずっとここで *hic* おっと失礼、飲んだくれてたみたい
じゃないか。(実際そうだがな)なんだぁ、その、もう少しで思い出せそうなんだがね、こう、ちょいと喉に
湿り気が足りない・・・と、hehe、ありがとヨ。・・・あぁ、思い出した。コイツぁ白いのと一緒に来てた奴だ。
連れ合いの方が強烈だったから。印象がナ、薄かったんだよ。すまんね大将。heh。
 女?いやいや、そんなんじゃない。アスラン人だ。まぁ、コイツが特殊な趣味を持ってるてぇのなら別だ
がね。hehe。しかしなんだぁよ、俺っちも色んな連中を見てきたし、ライオンも犬っころも別に珍しくも無い
んだがアノ野郎だきゃ別だ。肌から何から真っ白ケなんだ。こいつぁタマげたね。ありゃあ何とかいう病気
なんだろ?そうそう、アルビノ。病気じゃないのか?まぁ、どうでもいいやな。でな、ライオン野郎にしちゃぁ
妙にヒョロッこくてよ。タッパはあるんだが、ガリガリでね、歩くのもやっと、てな感じだったさ。

 何の話をしてたかなんてわからねぇよ。別に言い争いをしてたようには見えなかったがなぁ。ああ、ラボが
どうとかウィルスが云々とか言ってたっけか。やっぱ変な病気なんだろ。で、白いのが先に出て行って、・・・
あとは憶えちゃいないなぁ。
 ん?ああ、三日ほど前だったかな。ちょうど今時分だ。・・・なぁ、もう一杯もらってもいいかな?

ホームレス、靴磨き、バーテンダー、etc、往来や酒場等人が行き来する場所にあって
逆に「動かない」人というのに割り当てられる役割が、「ちょっと小耳に挟んだ」事を
漏らしてくれる情報屋というわけで。地域密着型の刑事や悪党はそれぞれにパイプを持っ
て居て「都合良く」活用する事になります。情報屋に求められる資質は野心を持たない
事。これに尽きます。彼等自身は圧倒的に無力な立場にある事を自覚しています。手に入
れた情報で一発カマシてやろうなどと思う者は決して長生き出来ないのです。
豪華キャストならば、ジーンハックマンあたりでしょうか。ただ、その場合は「実は潜入
捜査員」とか「実はエージェント」とかでしょうが・・・


ジャンク屋にて。捜査員証(偽造)を使用し証言を迫る事

 一般にジャンク屋と呼ばれるのは(電子機器等の)パーツを扱う店で、中古品や工場の半端物、また
は海や空からサルベージしてきた残骸、さらには他人の屋敷や懐から「サルベージ」してきた物品など
が狭いスペースに山積みされているのを常とする。素人目に見れば、ただのゴミの山とほとんど区別は
つかないし、ほぼ同じ意味しか持たない場所だ。

ゴミの山がひとつ勝手に動き出した、と思ったら人だった。正確を期すならヴァルグル人のようである。
首から肩からそれこそ身体中に隙間なく、何やら用途のはっきりしない個人装備をぶら下げているのは、
そう意図しての事なのか、ジャンクの中で最高のカモフラージュ効果を発揮していた。
 人間にとってヴァルグル人の年齢はあまりよくわからないものなのだが、立ち居振舞いや、身に纏う
しなびたオーラからして決して若くはなさそうだった。腰周りがダブついているのは肥満のせいなのか、
もしかすると上着の下にも装備品が満載なのかもしれない。しかし「それを売ってくれ」と言う客が居
るのだろうか?という点には大いに疑問の余地がある。・・・万引き対策にはなるのだろうけれども。

 人探しなら興信所に行くヨロシ。アタシこれでもイソガシいよ。ノー!NOOO!!アナタ達暴力ダメ!ダメ!
トモダチ、トモダチ!!・・・ん?アイヤ〜、ピストルより怖いもの出てきたネ。でもアタシの商売真っ当よ。
許可証もアルし。盗品なんてナイヨ。あっそれ触っちゃダメ、オネガイ。PLEAZE!FREEZE!!
デリケートな品物なのよ、デリケートが山積みでベリーデンジャラスな事なのよ、ドゥーヤーアンダスタン?
ワカタワカタ、降参スルよ。で、ホロとかピクチャとかアルの?・・・無くてどしてワカルですか!!

 あーーーーーーーーー、それ最初に言って欲しいヨ。白いアスラン人。知テル。知テル。
お得意様だタよ。色々買てもらタ。・・・・でもアノ人、妙に目利きネ。掘り出し物、即ピクアプするヨ。
だからウチに残るのクズばかり。ホントの屑屋にナテシマウね。イヤ、ホントに屑屋ヨ。アタシ。

 最近は見てナイヨ。最後に来たのは一月くらい前ダタかな。何も買わずに帰タよ。ホントヨ。ホント。
その前?憶えてナイヨ〜。・・・コレ、オミヤゲね。コレでオネガイ。再見!サヨナラ!・・・アタシ屑屋ダカラ
目方で買って言い値で売るヨ。なんでもワカテル訳じゃナイよ。ホントよ。・・・許可証アルヨ・・・・。

非合法な物品を取り扱う闇商人、非合法な処置を行う闇医者、所謂「チバ・シティ」に棲息する
類の人々は、無論堅気ではありませんが、基本的に権力には従順で、なんとか「うまくやって」
行く方法を心得ているものです。ちょっとした魔法使いのように、その世界では望むべくも無い
ものを持っている(かも知れません)が、決してバトル・ドレスを着込んでフュージョン・ガン
を撃ちまくりたい、などとは思っていません。彼等は少々ワリの良い商いがしたいだけであって
冒険には興味が無いのです。現状の維持を望み、コトを荒立てるのを嫌いますが、それだけに
一線を超える干渉には激烈な反撃が待っているでしょう。お忘れなきよう、彼等は善人では無い
のです。


Huck around the Crack

最初に(嫌でも)目を引かれるのは、頭の二倍はあろうかというアフロ・ヘアー。しかもそれはただ巨大な
だけでなく、角度によって様々な色を反射する特殊染料で染めてあり、流動するフラクタルな渦巻き模様は
軽い眩暈を引き起こしそうになる。膚の色は黒、或いは無限に濃くした群青と言うべきか。ともあれ、生来
の色では無いだろう。と言うのも輪郭がわずかに燐光を帯びているからだ。瞳はミラーシェイドに隠れて見
えないが、忙しく動き回っている気配はする。
足首にまで届きそうなロングコートはジップアップのスタンドカラーで、デザインこそシンプルなものだが
素材は高級そうなビロード。色は蛍光オレンジで裏地が銀である。のだが、あのアタマに幻惑された後では、
これでもおとなしいくらいに思える。糊の利いた純白のドレスシャツ。触れれば指が切れそうなくらいに折り
目がついた黒いスラックス。磨き上げられたリザードの靴。
差し出された手は異様なくらいに指が長く、1ダース程の指輪が光っている。爪には髪と同じ色のマニキュア
を塗っていた。

 おいおいマジかよ。えらく張り込んだもんだナ・・・・ふむ、まぁ俺もこれ以上吊り上げようなんてセコイ
真似はナシにする。
 シンプル&スムース。ビズはこうでなくちゃな。ただし、俺にもルールがある。この業界の深遠なる掟に
ついて講義する時間は無いが、つまりこうだ。「知らない」事はどんだけ積まれても「知らない」って事。
 ところで、アンタ等の中で「埋め込み」してるヤツは居るかい?オーケィ。ちょっと待ってナ。
・・・・・これで良し、と。いや、なに。ちょいと強力な「電磁的殺虫剤」てヤツ。以前コレで(人工)心臓を
やっちゃった奴が居てね。heh。まぁ、あんまりスマートなやり口じゃぁないが最近はイロイロと手の込んだ
「虫」があるからな。さて、と。コレで「ここだけの話」が出来る。

 ああ、そりぁレオだ。ちげぇねぇ。Leo the Jungle king サ。まぁアンタ方が知らないのも無理はないがね。
やり手のハッカー「だった」。まさに密林(マトリクス)の王者「だった」よ。二年前、BUZZなんとかって天才的
カウボーイと組んで仕掛けたヤマはこの辺じゃ伝説になってるぜ。でもそれっきり。・・・・・過去の人物サ。

 本名?Ahhh BOY!愚問だ。俺達ァIDカード(クレディットチップにしたってそうだ)でポーカーが出来る程
持ってるんだぜ。
 ともあれ、俺の知る限りどんなヤマにも奴はからんじゃいねぇ。そして、俺の知らないヤマなど無い。OK?
おっと、自己紹介がまだだったな。BUZZ=KWEEL。新しいKingだ。なんでも相談に乗るぜ。別料金でな。

トラベラー世界でギブスンばりのサイバーパンクを扱うのが適当なのかどうか、は、さておいて
(ただの冒険活劇として見れば充分使えますが、ともあれ、)こんどは所謂チンピラの代表とし
て彼に登場してもらいました。この手の人種についてはあまり詳しく解説するまでも無いのです
が、先のジャンク屋とはいろんな意味で対称的です。彼等は自称するほど大物でも、やり手でも
事情通でもありません(例外はあるでしょうが)。ただ、そうありたいという欲求は人百倍で、
なんとかのしあがってやろうと虎視眈々とチャンスを伺っています。概ね、その方法論において
粗雑に過ぎるきらいはありますが。そんな訳で、多くの場合、アマチュアであり、犯罪組織に加
わっていたとしても、その忠誠心は低いでしょう。成り上がる為には裏切りも平気ですし、利用
できるものは何でも使おうとします。
どんな大物も黒幕も、最初は彼等のような存在だったに違いありませんが、しかし、その確率は
あまりにも小さいものなのです。一発大当たりを狙うのが大好きな彼等には、せいぜい派手な
死に場所を用意してあげましょう。