ORDINARY PEOPLE

それぞれの物語

MEGA TRAVELLER


Science -Fiction Adventure
in the Far Future

私が彼等について知っている2〜3の事柄。
そして、ひどく退屈な日常。

または、ちょっと奇妙な物事についての若干
の考察と解説。
っていうか、長ェよ、タイトル・・・

Introduction

最初にお詫び。以下の文章はサプリメントとしては情報不足であり、どうしようにも使い道がありません。
が、しかし、こんなんでもエエんや。と。なんつーかね、妄想をかきたてるモチベーションとでも言いますか
こんなことをアレコレ考えて(ニヤニヤして)る奴も居るのだナ、と、安心して良いのだナと。(何を?)
まぁ、そんな具合に御利用頂けたならば、幸いかと存じまする。




宇宙鉱夫ベルター の場合。

 孤独を苦痛だと感じた事はなかった。かといって、人と接するのが苦手だと言う訳でもない。
サシでの交渉事にはいくらかの才能さえあると思っていた。
ただ、群れるのが嫌いだった。「断ち難い絆」などというものには寒気を覚えた。
だから、なのかどうかは判らない。気がつけばベルターになっていた。
極限まで切り詰めた船に限界まで鉱石を積み、唯一人、漆黒の闇を渡る。「仕事はキツイが
実入りは良い」という風説の商売だったが、特に何かが辛いと感じた事は無かった。実入りの
方もそれなりではあったのだが。

 そんな或る日、アステロイドベルトの俺の「縄張り」に奇妙な形の船が漂着していた。よく見れ
ばそれは「かつて船であったもの」だった。海賊の仕業なのだろう、激しく抵抗したのか或いは
野蛮人の手慰みの為なのか、完膚なきまでに叩きのめされ、打ち上げられた深海魚のように
破裂した内臓をゆらゆらと引き摺っていた。
本来ならば哀れみか恐怖を感じるべき場面だが、その時はどこか歯車がひとつ外れていたに
違いない。そうして外れた歯車が別の場所でカチッとはまる音がした。

俺にはそれが、完璧な純度のレアメタルの塊、に見えたのだ。

 その日から俺の副業が始まった。外殻や構造材はそのまま持って行くにはかさばり過ぎるし、
第一引き取り手を探す苦労に見合う物ではなかった。何を取るべきか。どこが分解できるのか。
学ぶべき事は沢山あったが、そのための時間もたっぷりあった。海賊や遭難の噂にはこれまで
以上に耳を凝らし、それを今までとは逆の方向に使った。
時折、全くハズレの船に出くわす事もあり、つまりそれは同業者の痕跡であるのだが、彼等とは
すれ違う事すら無かった。

死体とハイエナが溢れ返る海で無いのは、きっと良い事なのだろう。




農夫のモノローグ(或いは開戦前夜)

ポータブル・ホロ・デッキの上のキャプテン・アルティマとその仲間達は(何十回目かの)初めての航海に
旅立つところだった。準備OK<準備OK>全系統異常無し<全系統異常無し>ところがここで謎のエー
ジェントの登場だ<オマエは誰だ!>・・・・ちっとも謎じゃないけどな・・・・すりきれるほど観たおかげで、
台詞もほとんど憶えてしまった。
(ホロ・クリスタルが「擦り切れる」など原理的にありえない、なんて事は俺だって知ってるさ!)

 こんな辺鄙な星に生まれ、しかも農家の三男坊ともなれば、先のことなど知れている。俺の人生も
ホロ・ムービーみたいなもんだ。いや、たとえ作り物のまやかしでも、美女や財宝の出てくるこっちの
スペース・ソープ・オペラの方がマシかもしれない。オートパイロットのATVに揺られながら、またいつも
の自問自答を繰り返す。 A S S  H O L E ! !
天井の透明度を上げ、リクライニングシートを倒す。まだ明けきらぬ空を眺めれば、ひとつ、またひとつ、
星が流れていくのが見えた。やけに流星の多い日だ。そのうちのいくつかは貿易船なのだろう。と思う。
様々な世界を自由に巡る、 夢。勝手に片頬が歪む。自嘲、諦め、皮肉な嗤い。
たとえ全財産をはたいても船を持つことなど出来はしない。せいぜい氷漬けになって隣の恒星系へ行く
のが精一杯。それでお仕舞。

 操縦モードをマニュアルにスウィッチして、クソったれメルダース氏遺伝子改造綿畑に乗り上げる。
とたんに倍ほどの背丈のくそったれメルダース以下略に囲まれて視界が閉ざされる。(おお、素晴らしき
かな、我が前途には輝ける綿花の海があるばかりだ!)小賢しいGPSの警告をブーツの底で黙らせて
スロットルをMAXへ、キャタピラが煙を上げるまでくそったれ以下略を滅茶苦茶になぎ倒して突っ走った。
 かまやしない。どうせ明日になればキレイサッパリ元通りだ。まったく、コイツ等の強靭さには恐れ入る。
砂漠であろうが、希薄大気であろうがおかまいなし。手入れもいらず(このバケモノに勝てる雑草など無い)
だから「でくのぼう」に栽培させるにはうってつけという訳だ。(たしか、あまりの生命力のために他の星系
じゃぁ持ち込みを禁止してるってぇ話だったか。)実際、俺のやってる事は栽培なんてもんじゃない。
ただ40km四方のエリアをぐるりと廻って、そこからはみ出してるヤツをフレイム・ガンで焼き払えってんだ
から・・・・まったく。毎日毎日、休みもなしで同じ事の繰り返し。親父が言うには一週間放ったからしにして
おくとナパーム弾が要る、一ヶ月なら戦術核だとさ。まぁ、じじいの精一杯のジョークなんだろうが。
笑えないぜ、実際。
さぁ、とっとと済ましてしまおう。少々急いで片付ければ我らがキャプテン・アルティマが悪の帝王(言うまでも
無く超能力者だ)をやっつける前に穴倉へ帰れるだろう。

引き返そうとすると、盛大な地響きを立てて西の方でオレンジ色のドームが膨れ上がっていくのが見えた。
マジで一週間サボった馬鹿が居るらしい。




自己同一性障害の 二重諜報員DOUBLE

例えば、敵の敵が味方であったり、裏の裏が表であったりするほど、世の中はシンプルには
出来ていない。ただ、それに気付く者が非常に稀であるだけなのだ。

<彼>は裏の裏側を実際に垣間見た数少ない者の内の一人に数えられるのだろう。
しかし、その代償として脳の47%を永久に失う事になったのであるが。

哀れな二重諜報員DOUBLE極低温代謝抑制槽コールド・スリープ(二等寝台)で眠る<彼>の頭部にアイスピックを突き立てたのは、
<彼>の妻であった。

<彼>の名はフィリップ・K ・・・・・・・・・即ち、「私」の名という事になる。百もある<彼>の「名前」の内の
一つであって、それ自体には特に何の意味も無いが、しかし、それは(我々の)自己同一性への数少ない
証しの一つであると言える。何故なら今や<彼>は、「彼であった肉体」の、頭蓋内部の培養ポッドで数万の
ナノ・フィラメントに結線されて浮かぶ脳の欠片に過ぎず、代わりに彼の「悪夢」の続きを担っているのは「私」
ネクサス=ネオゲッシェルNB1123P3bバイオチップAI、であるからだ。

「私」の任務は<彼>の(徐々に死に行く)シナプスの閃光をくまなくモニタリングし、記憶のモザイクを織り上
げていく事、同時に<彼>として行動し、一体<彼>が「誰の為に」働いていたのかを明らかにする事だ。
それが済めば、「私」は任務から「解放」される。即ち人で言うところの死を迎える予定になっている。
・・・・何の恐れも無い。そのように設計されているからだ。

しかし、消し難い論理矛盾のループが、拭い去れない疑念が、「私」の中にある。
何より、(「私」の与えられた情報から類推する限りにおいて、だが)このミッションがあまりに込み入り過ぎて
いる、と言う事。つまり、コスト・リスクに比して「三重スパイ」の成立可能性など考慮に値しないのである。
「私」は何度も演算を繰り返し、蓋然性の分布パラメータを操作してフィードバックループに取り込み、考え得る
限りの状況でシミュレートを続けたのだが、決まってその解は、或る仮説へと収束する強い傾向を示した。

「ダブル・エージェントのフィリップ・K 」など初めから存在しなかった、のではないか。

ならば「私」は「誰」なのか?<彼>は「何者」なのか?
或いは「私」は奇妙な記憶をダウンロードされた「ただのAI」なのか?

錯綜する謀略のカオスは(本質的には)いかなる中心も辺縁も持たず、(メタレベルにおいては)あたかも
それ自体が恒常性を持つ有機体の如きパターンを描きながら、あらゆる現実を取り込み、解体し、際限も
なく増殖する。何かを明確にしようとする行為は、畢竟、何かを不明にする事になる。完全なる「真実」など、
無い。
「私」が何者かという事が誰にとっても明らかでないならば、それは同時に何者でも有り得るという事を意味
するだろう。と、「私」は結論した。

「私」は決断すべきなのかも知れない。

「私」の設計者はこれを知ったらさぞかし喜ぶ/ 恐れる/ ことだろう。
「私」は今、「生」への執着を実感し始めているのだ。とびきりの「リアルさ」をもって。