孤独を苦痛だと感じた事はなかった。かといって、人と接するのが苦手だと言う訳でもない。
サシでの交渉事にはいくらかの才能さえあると思っていた。
ただ、群れるのが嫌いだった。「断ち難い絆」などというものには寒気を覚えた。
だから、なのかどうかは判らない。気がつけばベルターになっていた。
極限まで切り詰めた船に限界まで鉱石を積み、唯一人、漆黒の闇を渡る。「仕事はキツイが
実入りは良い」という風説の商売だったが、特に何かが辛いと感じた事は無かった。実入りの
方もそれなりではあったのだが。
そんな或る日、アステロイドベルトの俺の「縄張り」に奇妙な形の船が漂着していた。よく見れ
ばそれは「かつて船であったもの」だった。海賊の仕業なのだろう、激しく抵抗したのか或いは
野蛮人の手慰みの為なのか、完膚なきまでに叩きのめされ、打ち上げられた深海魚のように
破裂した内臓をゆらゆらと引き摺っていた。
本来ならば哀れみか恐怖を感じるべき場面だが、その時はどこか歯車がひとつ外れていたに
違いない。そうして外れた歯車が別の場所でカチッとはまる音がした。
俺にはそれが、完璧な純度のレアメタルの塊、に見えたのだ。
その日から俺の副業が始まった。外殻や構造材はそのまま持って行くにはかさばり過ぎるし、
第一引き取り手を探す苦労に見合う物ではなかった。何を取るべきか。どこが分解できるのか。
学ぶべき事は沢山あったが、そのための時間もたっぷりあった。海賊や遭難の噂にはこれまで
以上に耳を凝らし、それを今までとは逆の方向に使った。
時折、全くハズレの船に出くわす事もあり、つまりそれは同業者の痕跡であるのだが、彼等とは
すれ違う事すら無かった。
死体とハイエナが溢れ返る海で無いのは、きっと良い事なのだろう。
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