ドイツ戦車軍団
PANZER CORPS
エポック社のウォーゲーム制作集団レック・カンパニーの
初心者向け作戦級ウォーゲーム


 多分誰かにもらったんだと思う。
全然記憶がない(汗)。
 それはさておき、このゲームは第2次大戦時のドイツ軍の戦いを題材とした初心者向けの作戦級ウォーゲームが3つセットになっている。それらを順番にプレイすることで初心者が自然にウォーゲームの面白さを学べるように作られており、更にベテランプレイヤーでも将棋やチェスをするように楽しめるという実によくできた作品である。

 ルールはアバロンヒルクラシック(ウォーゲームメーカーの老舗の一つのアバロンヒル社でウォーゲーム黎明期に作られていたゲーム群)に毛が生えたようなもので、メイアタックの作戦級と言えばほとんど説明が終わったようなものだが、特徴的な部分もある。
それは戦闘の結果防御側ユニットが後退することになった時、そのユニットは裏返されて次の自分の行動フェイズ終了時まではまったくなにも出来ず、ZOCさえ失ってしまうというルールである。
この実に単純なルールは、戦線が膠着状態に陥るのを防いでスピーディーな展開を実現してくれるので、まさにこのゲームのタイトルにピッタリな上に、我慢を知らない初心者にも安心なところが泣かせる。
では各ゲームを紹介してゆこう。

 最も簡単なゲームとして用意されているのが、「エル・アラメイン」である。
第2次大戦の北アフリカにおいて、ロンメル率いるドイツ軍が補給切れのために動きがとれなくなる前に、なんとかイギリス軍を突破しようとした戦いで、史実ではドイツ軍はついに英軍を突破することが出来ず、撤退している。
 上図が初期配置である。
マップ左側に展開しているのがドイツ&イタリア軍。その他の赤い色のユニットが英軍である。
ドイツ軍はマップ中央上部にあるエル・アラメイン以東の町か道路を占領するか、マップ中央のアラム高地の英軍陣地を占領すれば勝利となる。
しかしその為には英軍の防御線を破らなくてはならない上に、英軍が1ユニットでもマップ西端から脱出したらドイツ軍の敗北となるので、いたずらに戦力を集中させるわけにはいかない。
 このゲームにはこれと言った特別ルールもなく、実に簡単にプレイできる。
慣れれば1プレイ15分で出来ると月刊タクテクスに書いてあった(笑)。
しかし簡単なのは初心者向けのゲームなのだから当たり前である。
 このゲームのすごいのは、ゲームバランスが五分五分くらいに設定されているのに、ちゃんと作戦を立てないとあっと言う間にボロ負けしてしまう(特にドイツ軍)上に、そうなった時に初心者にその原因が作戦ミスだと分からせてしまうというところである。
よくある状況として、初心者がわけも分からずに負けた上に、そのゲームがつまらないと判断してしまうことがあるが、このゲームはそれを見事に回避しているのだ。
その理由ははっきりとは分からないのだが、それを伝えようという努力の気配は明らかにうかがえる。
ドイツ軍を受け持った初心者の多くは、なにも考えずに近くの敵に攻撃を仕掛けるが、妙な違和感を感じる。
攻撃はそこそこ戦果をあげるが、戦線はなかなか動かない。そして自軍のユニットには現状では発揮しようのない10という移動力が設定されており、マップ右下にはあからさまになにも無い砂漠が広がっていて、その遙か向こうに勝利条件である都市の姿が。
具体的に伝えるのではなく、暗示のように違和感を伝えることで、作戦ミスに気付かせる要素がちりばめられているのだ。
 実はこのゲームは詰め将棋のような要素を強く持っている。
正解に気付けば確実に勝率が上がるようになっており、対戦するプレイヤー同士がそれを知っていれば五分五分の戦いになるように設計されているのである。
そのおかげで、初心者には作戦を考える楽しさを。ベテランプレイヤーには短時間で盛り上がれるパーティーゲーム的な楽しさを提供するのに成功しているのだ。
小粒ながら実によくできたゲームだというのがお分かりいただけただろうか。

 2番目のゲームは「ダンケルク」である。
1940年のドイツ軍によるアルデンヌの森を越えてフランスを攻撃する作戦を扱っている。
戦史に詳しい人ならご存じだろうが、ドイツ軍が最も華々しい勝利をあげた戦いの一つである。

 マップは東から進攻してきたドイツ軍が、フランス、ベルギー、イギリスの連合軍と対峙したところから始まるが、すでにドイツ軍の主力はアルデンヌの森深く進入してミューズ川の手前まで迫っている。
対する連合軍の主力は中央以北に集中しており、ミューズ川の対岸を守るのは貧弱な歩兵部隊のみである。
この辺は史実通りで、連合軍の戦略的ミスが反映された形になっている。
 ドイツ軍の目的は敵軍の殲滅と、敵逃走経路の封鎖である。6ターン終了時に、これらのポイントの合計が勝利条件である35以上であればドイツ軍の勝利となる。
ただしドイツ軍で殲滅されたユニットがあれば、その戦力の2倍が先述のポイント合計から差し引かれることになる。
 ルール的にはエル・アラメインとほとんど変わらないが、このゲームには増援と、連絡線という要素が加えられている。
 増援は要するに初期配置にいなかったユニットが途中から参加するだけだが、もちろんそれを見越した作戦を立てる必要が生じてくる。
 連絡線は他のゲームでは補給線のルールとして散見するもので、このゲームではパニック状態で指揮系統が破綻しつつも逃げ延びる敗残兵の逃走ルートという形で扱われている。
連絡線は敵のZOC内にはひくことが出来ない。しかしZOCさえ通らなければどれだけ遠回りしても目的地までひければ通じているものと見なされる。

 ゲームが始まると、基本的にはドイツ軍はどんどん攻めてゆけばいいのだが、連合軍はマップの西と南に連絡路がひければ生き残ってしまい、更に北岸の港からもある程度の戦力が逃走するので、自然と敵全体の包囲を考えることになる。
 連合軍の方は結構頭を使う。
初期設定で配置されている場所にはそれなりに防御陣が出来ているし、その気になれば守りきることも出来る。
しかしその間にアルデンヌの森を越えて進攻してきたドイツ軍は北上して背後から回り込み、軍全体が包囲されてしまうのだ。
したがって連合軍で勝とうと思えば、ドイツ軍の包囲しようとする動きを見越して、早い内に初期配置の陣地に見切りをつけて部隊を南下させなくてはならない。
これに気付かないと勝つのは非常に難しく出来ているのだ。
 要するにダンケルクもエル・アラメインと同じく詰め将棋のような内容なのだ。
ただしこっちは防御する立場の方に重点が置かれている。
エル・アラメインとダンケルクをプレイすれば、自然と攻撃防御両方の考え方が身に付くという作りになっているわけである。

 最後のゲームは「ハリコフ攻防戦」である。
1943年1月。スターリングラードの大敗北によって、戦況は逆転し、ドイツ軍は敗走を続けていた。
しかしハリコフ近辺において、反攻作戦を開始。
補給切れで動きのとれなくなっていたソ連軍は各個撃破され、壊滅状態に陥ったのだった・・・。
 というわけで、第2次大戦の最後のドイツ軍大勝利に終わった戦いを再現したゲームである。
完全初心者向けの「ドイツ戦車軍団」だが、最終作の今作にはルールらしいルールも付け加えられている。
 まずスタックが出来るようになった。これでやっとアバロンヒル・クラシックから抜け出したか。
 そして装甲部隊のみ、戦闘で敵が後退した後の追撃時に、余分に1ヘックス自由に進むことが出来る。これは装甲部隊の機動性を表すルールで、色々なゲームでその表現法が探られていたが、これはその中でも最もシンプルな方だろう。
 あとは都市の占領と線路の切断という要素が加えられた。
これはどちらも勝利ポイントに影響するのだが、実はこれが一番ややこしい。
どの都市をどの軍が最後に通ったかなんて、覚えられないよ(汗)。

 上図がハリコフ攻防戦の初期配置である。
エル・アラメイン、ダンケルクと比べると、マップサイズが倍なので、ユニットが見にくいと思うが、右端に並んでいるオレンジ色がソ連軍である。
ドイツ軍(灰色のユニット)はわずかに6ユニットしかおらず、左上に3ユニット。右下に3ユニット存在している。
ただしこのゲームでは両軍とも増援部隊が続々と登場するので、ユニット数が極端に少ないわけではない。
 勝利条件は、8ターンのゲーム終了時に、都市の占領、鉄道の切断、敵ユニットの殲滅によって加算されてゆく勝利ポイントが敵軍よりも大きいこと。
加えてソ連軍は、マップの最西に位置するポルタワ、ドニエプロペトロフスク(すさまじい名前である/笑)のどちらかの都市を占領すれば、その時点で勝利となる。

 化夢宇留仁は1回しかやっていないのだが、なにしろ色々なところから増援が現れるので、それを把握しないことにはゲームにならない。
案の定その1回だけやったプレイでは、ソ連軍の圧勝というおよそ史実とはかけ離れた結果に終わった。
 ポイントは両軍大攻勢と守勢の機会が巡ってくるというところである。
最初はソ連軍が圧倒的な戦力で押してくるが、ドイツ軍はその間にうまく防御しながら少しずつ後退し、増援と合流して反撃に出る。
このタイミングを見切るのが、戦略的思考が必要でなかなか難しいところでもあり、面白いところでもあるのだ。
 しかし化夢宇留仁はこのハリコフ攻防戦にはいくらか文句がある。
まず増援部隊だが、前述の通り敵味方の増援がどんな内容で、どこから現れ、どのくらいの速度で動けるのかを把握していないとデザイナーの意図したプレイ内容にはならないわけだが、それにしてはそれを分かりやすく説明していない。
エル・アラメインやダンケルク程度の規模ならまだしも、ハリコフは主力になるユニットは全て増援で現れるのである。もう少しその辺をイメージしやすくしておいて欲しかったところだ。
まあこれは何度かプレイすれば自然と覚えてしまうだろうが。
 もう一つはユニットの識別である。
エル・アラメインとダンケルクは非常に識別しやすく、合理的に出来ていたのだが、ハリコフのユニットは下半分が敵も味方も同じなのですぐ間違えてしまう。特に黒い色はダンケルクでドイツ軍だと覚えた後なので、全てドイツ軍に見えてしまう。
これはほんとになんとかして欲しかった。

 とまあ文句も少しはあるのだが、基本的にはデザイナーの意図と結果が見事に合致した好ゲームなのは間違いない。
特に同じ初心者向けゲームとして前に紹介したタクテクス2と比べると、雲泥の差がある。
そもそも向こうは初心者向けに作られたゲームではないというのは勿論だが、タクテクス2のところで指摘した初心者にウォーゲームの魅力と基本を伝えるという点で問題だった箇所は、ドイツ戦車軍団ではそのルールブックの内容も含めて全て完全にクリアされているのだ。
後にホビージャパンから似たようなコンセプトのベーシック3というゲームも出たが、あれも初心者向けゲームとしては明らかにドイツ戦車軍団に勝るものではなかった。
なんだかんだ言って外れのないレックカンパニーはやっぱりすごい。

※2005年1月25日追記
 その後のプレイで、どうもエル・アラメインはイギリス軍に有利なゲームだということが判明。
適当に動かしているとまあまあ互角なのだが、 イギリス軍がちゃんと防御線を張り続けていると、よほどドイツのサイの目がよくないと突破できないことが分かってしまった(汗)。
多分レックカンパニーもそれが分かったので、イギリス軍は第1ターンの移動力は1/2というルールを付け加えたのではなかろうか。
それでもイギリス軍が勝ってしまうが(汗)。
どなたかこうしたらドイツが勝てる!という作戦がありましたら、ぜひ教えてください。