Call of Cthulhu
コラム エッセイ 考察

プレイヤーが探索者になるためには?

 ベーシックRPGシステム(D20システムもあるが)という単純明快なシステム、現実世界に近いのでほとんど説明不要の背景世界など、「クトゥルフの呼び声」は初心者にも簡単にプレイできるゲームとしても名が知れている。
しかし最近キーパーをやっていて、それは少し違うのではないかと思い始めた。
ルールは簡単だし、特殊な背景世界の設定を知る必要が無いという点では確かに簡単なのだが、それは楽しいゲームが出来るというのとは別問題なのだ。

 まず楽しいゲームとはなにかを定義しておく。
化夢宇留仁の考える楽しい「クトゥルフの呼び声」とは、

1.プレイヤーがその世界の雰囲気を感じ、
2.不気味な予兆を感じ、
3.そして勿論恐怖とスリルを味わった後、
4.事件を解決する、または悲惨な末路を迎える

というものである。

 世界の雰囲気を感じるところまでは、誰でも出来ることであり、ゲームを進める上での最低限の条件でもある。
これは要するに1890年代イギリスでは馬車が走っていたり、1920年代アメリカでは禁酒法が布かれていたり、現代の日本ならほとんどの人が携帯電話を持っていたりするような、その世界の最低限の設定さえ守られていれば自然に表現されるものだからである。
勿論現代日本以外の世界で、考え方や視点まで再現しようとするのは難しいが、そこまでやる必要は無い。いや、むしろそこまでやろうとするのはゲームに有害なのだ。
なぜ有害なのかは後述する。

 不気味な予兆を感じるのも、それなりによく出来たシナリオであれば、自然に表現されることが多いはずである。
勿論シナリオによってはいきなり事件が発生して、そのままラストになだれ込むというようなのもあるだろうが、そう言う例外を除けば、普通は感じるシーンがあるだろう。
しかしこの辺でそろそろ違和感が生じてくる場合がある。
探索者が不吉な予兆を示す情報や出来事を、気のせいや見間違いにしたがっていたら危険信号である。
「クトゥルフの呼び声」は現実に近い世界であるから、どんなことでも怪奇現象に結びつけて考えるというのは確かにおかしいが、やはり「クトゥルフの呼び声」はゲームである以上、探索者は表面的には否定したとしても、怪奇現象の可能性も認めるというのが正しい姿なのだ。
 ここで探索者が危険信号を発している場合は、キーパーはゲームを中断し、雑談をしながら上記のことをプレイヤーに思い出してもらう、またはそのように説明した方がいい。
そうでないとその後にくる恐怖とスリルは、単なる驚きと無力感にすり替わってしまい、最後の事件の解決などまったく不可能で、あとはむごたらしく殺された探索者の死体と、ゲームに不満を感じているプレイヤー、そして失望感で一杯のキーパーが残るのみなのである。
 世界の雰囲気を感じると言うところで書いた、その世界に生きる者らしい思考形態まで再現しようという行為がゲームに有害というのも同じ理由である。
あまりにリアルな思考形態を構築してしまうと、現実的にはあり得ないと思える現象は認めなくなってしまい、結果ゲームが崩壊してしまうのだ。

 では楽しいゲームが出来る探索者とはどのようなものだろうか?
それは「探索者」であるというプレイヤーの自覚である。
これは注意していないと見逃してしまう要素で、化夢宇留仁も今まで何度も何度も何度も痛い目にあった(汗)。
 また勘違いしやすい要素でもある。
プレイヤーが「クトゥルフの呼び声」のキャラクターを作る場合、H・P・ラヴクラフトの小説や、ホラー映画の登場人物を思い浮かべるのは自然な流れである。
しかしそれらの登場人物の多くは単なる「被害者」であり、「探索者」ではないのだ。
 「被害者」はただ流れに身を任せ、不気味な予兆は笑い飛ばし、やがて現れる怪物からは逃げまどい、そしてむごたらしく殺される。そういう役割なのだ。
だからプレイヤーが「被害者」を参考にすれば、出来上がるキャラクターはやはり「被害者」でしかないのである。
 では「探索者」とはどういうキャラクターなのか?
それは常識的にはあり得ない現象に対し、見た通りの現象である可能性も認め、それに危険の因子を見出せば防御の方法を考え、それをうち倒せる可能性を見出せばそのように行動できる者である。
別にオカルトマニアであったり、超常現象をなんでも信じ込むキャラクターだと言っているのではない。
勿論それでもかまわないのだが、職業や趣味に関係なく、そういう心構えを持ったキャラクターということである。
結局「クトゥルフの呼び声」はゲームであり、やはりシナリオに用意された勝利条件を満たすべく努力し、もし死ぬにしてもシナリオに用意された謎は解き明かしているべきなのである。
多くのホラー小説やホラー映画のように、むごたらしく殺されればいいわけではないのだ。
 たまに原作の雰囲気を重視するあまり、狂ってもいないのに狂っているようなロールを行い、怪物に突撃したりするプレイヤーもいるが、これも勿論「被害者」の行為であり、ゲームの目的を達せないばかりか、他の「探索者」の迷惑になる行為である。

 「探索者」がどのようなものかを分かっていただいた上で、今度は探索者ならば行うべきではない行動を考えてみる。
 最も陥りやすく、最もゲームを崩壊に導きやすいのが、警察の介入である。
現実世界に近い分、プレイヤーはすぐに警察を呼びたがる。
それは当然なのだが、探索者たる者、警察を呼ぶ前に考えなければならない。
もしここで警察を呼んだら、この事件は探索者の手から離れてしまうのではないか?
警察が介入したことで騒ぎになり、それを嗅ぎつけた敵は姿を消してしまうのではないか?
超常現象など眼中に無い警察は、常識的な証拠のみを採用して、重要なNPC、または探索者本人を逮捕してしまうのではないか?
それらを鑑み、それでも必要と思えば警察を呼ぶのが探索者である。
「ここで事件が起きているのだから警察を呼ぶのは義務である」
このような考え方をする人は「被害者」であり、「探索者」ではないのだ。
 これは特に自立心の強いアメリカ人の作ったシナリオではギャップが生じやすく、日本人の感覚で警察を呼んでいたらアッと言う間にシナリオが崩壊するケースが多いのも肝に銘じておく必要がある。
上記のようにアメリカ製のシナリオの場合は仕方がないとも言えるが、勿論キーパーはシナリオの内容的にも、探索者に警察を呼ばれないように工夫するのも重要である。
電話が繋がらない、他と連絡が取れないなどの状況を作るのが一般的だが、そればかりでは遭難シナリオばかりになってしまう。
そうじゃなくても、探索者が自然に警察を呼ばないでもすむように持ってゆくのが、シナリオとキーパーの重要な課題なのだ。
 勿論プレイヤーにも「クトゥルフの呼び声」の警察は無能であり、超常現象が絡んでいる可能性のある事件ではかえって解決から遠のく可能性が強く、基本的には探索者は自力で事件を解決するものだという認識を持ってもらうようにしなければならない。

 違法行為に対する拒否反応も、たまにゲームの進行を阻害する。
確かに現実に近い世界である「クトゥルフの呼び声」では、違法な行為をすれば警察に捕まってしまう。
しかしその法律は人間と人間社会のためのものであり、超常現象が起こった場合にはまったく対処が出来ない。
法律を守る神話怪物なんてほとんど存在しないだろうし、彼らの力や存在その物が法律違反と言えるのだ。
探索者たる者、いざとなったら法律を破るのも仕方ないと考えなければならない。
事件を放置しておけば、法律どころか世界が消えて無くなってしまうかもしれないのである。

 その内話が進むだろうから、情報は聞き流すなんて態度では、勿論事件は解決されない。
多くの場合ミステリーの要素を持つ「クトゥルフの呼び声」のシナリオは、待っていれば事件が勝手に起こって勝手にラストになだれ込んだりするケースは少ない。
特にアメリカ製のシナリオではその要素が強く、探索者たる者全ての情報は事件解決のために不可欠なものであると考え、情報が出そろったと思えば、名探偵になったつもりで推理しなければならないのだ。
そんな非現実的な情報は聞きたくない。聞いてもそれについて考えたくないというのは「被害者」の思考であり、待っているのは無意味な死のみである。

 呪文なんて馬鹿らしい
と、思うのは当然だが、探索者たる者なんとか理由をつけて呪文を覚えなければならない。
「どんなものか興味が湧いた」「なんとなく気になった」など、とにかく理由をでっちあげてでも覚えるべきなのである。
特にシナリオ中に出てきた呪文は、クリアのために絶対必要という場合もある。
気味が悪いし馬鹿らしいので読もうとしないのは「被害者」の思考なのは、もう言わなくても分かると思う。

 ここで初心者プレイヤーにお勧めの職業を挙げておく。

教授作家ジャーナリスト(フリー)、私立探偵学生

上記5つの職業であれば、比較的無理せず「探索者」をロールプレイ出来ると思う。

 と言うわけで「クトゥルフの呼び声」を楽しむためのプレイヤーの考え方を書いてきた。
勿論これにも例外があって、シナリオによってはいきなり緊急事態に放り込まれ、脱出すればクリアというようなのもあるし、完全巻き込まれ型シナリオもある。13ホラーに載っているシナリオの中では、まさに文字通り「被害者」を楽しむというものもあった。
しかしここで書いたことはほとんどのシナリオでは必須の条件なのは間違いないので、プレイヤーをやってみようという人は覚えておいてほしい。
またこれからゲームをしようと思っているキーパーも、上記の内容をあらかじめプレイヤーに告げておくことをお勧めする。

 

 最後に「探索者」の参考になる作品の例を挙げる。
これらを見たり読んだりすれば、ある程度は感じが掴めるのではなかろうか。

/////////映画/////////
 
時間が限られているので、主人公に探索者たる設定をつけにくく、結果ほとんどが「被害者」になっている。
ここではその中でも探索者らしいと思えるものを挙げた。

エルム街の悪夢
 この映画の主人公の女の子は、最初は悪夢に悩まされる「被害者」だが、やがてフレディを待ち伏せして反撃に出る「探索者」になってゆく。
最終的には反撃に出る「被害者」はたくさんいるが、彼女の場合はトラップを仕掛けまくって「待ち伏せ」するところが他と少し異なり、「探索者」と呼べるところでもある。

死霊のはらわた2
 この映画の主人公アッシュは、やはり「被害者」としてスタートするが、自分の手に死霊が取り憑いたあたりから反撃に転じ、自ら危険な地下室に死霊を封印するためのアイテムを取りに行くなど、「探索者」へと成長する。
ちなみに最後には「探索者」から「ヒーロー」にまで成長する(笑)。

ヘルハザード 禁断の黙示録
 主人公は探偵であり、依頼を受けて調査を進める内、悪意ある超自然的な存在に気付き、仲間達と計画を立てて強行突入し、更なる探索の末に隠された秘密にたどり着く。
これぞ「探索者」という内容。やはり職業「探偵」は初心者プレイヤー向きだと思う。
H・P・ラヴクラフト「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」が原作。

 

/////////小説/////////
 小説では比較的探索者と呼べるものも多い。
しかしほとんどは職業から探索者というものが多い。

エイリアン秘宝街 菊池秀行
 探索者と言うよりも完全にヒーローだが。

永却の探求 オーガスト・ダーレス
 青心社「クトゥルー2」に収録。
もはや完全に魔術師と化しているラバン・シュルズベリィ博士に導かれ、数人の若き探索者達が神話的存在に立ち向かう。
探索者の中には深きものの眷属もいたりして、参考になるところは多いが、最大の問題点は面白くないと言うところ(汗)。

タイタス・クロウの事件簿 ブライアン・ラムレイ
 主人公は経験を積んだ探索者で、ほとんど魔術師の域に達している。

ダニッチの怪 H・P・ラヴクラフト
 ミスカトニック大学教授、ヘンリー・アーミテッジは典型的な探索者。

 その他、特にオーガスト・ダーレスの作品は探索者が登場するものが多い。
残念ながらほとんどが面白くないが(汗)。

 

/////////コミック/////////
 対象年齢のせいか、比較的探索者と呼べるものも多いが、探索よりも戦いに比重が置かれているものが多い。

暗黒神話 諸星大二郎
 ある程度群像劇風でもあるが、どいつもこいつも探索者である。

妖怪ハンターシリーズ 諸星大二郎
 和製探索者の代表格。職業は教授とか、古物研究家あたり。

宗像教授伝奇考  星野之宣
 これまた妖怪ハンターに迫る和製探索者だが、怪奇分はほとんど無い。

ゲゲゲの鬼太郎  水木しげる
 究極のディレッタント探索者(笑)。いや浮浪者か?
妖怪だと思わず、特殊な能力をもった人間だと思えば、話によってはまさに探索者と言える行動をしている。

ジョジョの奇妙な冒険(第1部)  荒木比呂彦
 ジョジョが宿敵ディオの悪事に感づいてからの行動は、まさに探索者。
舞台としても1890年代イギリスの様子が参考になる部分も。

 

/////////コンピューターゲーム/////////
 ここでは特に挙げないが、ほとんどのホラーっぽいゲームの主人公は探索者である。
コンピュータの場合は探索しないと進まないので、自然にそうなってゆくのである。
それなら人間同士のプレイでも、コンピュータと同じようにキーパーすればいいとも考えられるが、結局巻き込まれ型のシナリオしか出来ない、または強制イベントで話を進めるという、RPG以外のゲームになってしまうのだ。

 

 基本的に探偵が主人公の作品は、どれも探索者を描いていると言える。
また教授や研究者が主人公なのも比較的見つけやすい。
残念なのはそれ以外の職業の探索者がほとんど見つからないという点。
コンピュータゲームの場合はどんな立場でも探索者たり得るが、それは上で書いている理由のためである。
それだけ初心者向けの職業以外では「探索者」としてプレイするのが難しいと言うことであり、初心者プレイヤーはやめておいた方が無難かもしれない。
あえて挑戦するなら事前にキーパーとよく相談することをお勧めする。

 ちなみにここで書いていることは全て化夢宇留仁の私見であり、また「クトゥルフの呼び声」に限っての話である。
例えば同じくTRPGのTRAVELLERになると、ここで書いてあることをPCが行おうとすると、それがゲーム崩壊の原因になる可能性もある。

2006.11.17
2006.11.19追加