ヘンリーからの手紙
スコットランド キャニッチ
ハンコック荘
H・M・ハンコック
1928年5月19日
親愛なるジェイコブ。
おまえもおまえの父上も相変わらず元気でやっていることと思う。
これ以上奴らに妨害されなければ、秋きにはおまえにも会うことが出来るだろう。
私は今、マサチューセッツ州アーカムにあるミスカトニック大学の博物館にあるはずの物と同一の品物を、どうしても手に入れなければならない必要に迫られている。
その品物は、五芒星のような形をした小さな灰緑色の石で、もしかしたらこちらの発掘現場でも見つかるのではないかと期待しているのだが、その前に奴らの手に渡ってしまうのではないかと心配している。
なんとかして星石を手に入れて欲しい。そしてもし私の身になにかが起きたという知らせが届いたなら、石はおまえ自身の安全のためにそのまま持っていてくれ。
叔父 ヘンリー・ハンコック
スコットランド キャニッチ
ハンコック荘
H・M・ハンコック
1928年5月21日
親愛なるジェイコブ。
私は、あるいはこれが私がおまえに出す最後の便りになるのではないかと恐れている。
ここを逃げ出さない限り、「ヨグ・ソトースの息子」どもはじりじりと私に迫ってくるだろう。
ローンは連中のリーダーがベルフェゴールという男だと突き止めたが、彼は奴らが私たちの発見に気付けば皆殺しにしてでも手に入れようとするだろうと、非常に恐れている。
「王様の頭」亭のマーガレットが星石を持ってきてくれたが、私はもっと探してみるつもりだ。
発掘品の内、奴らが特に興味を持っているのは、ある物の破片だ。
その内一つは奴らに盗まれてしまったが、二つ目の破片は私が誰にも見つからない場所に隠した。
奴らがなぜその破片を欲しがっているのかは分からない。
私はそれが全部で三つあると考えている。
今日アダムが消えた。
彼は昨晩私のところへ訪ねてきたのだが、今朝ファーガスが話したところによると、アダムは昨晩遅くにチェックアウトし、出発したとのことだった。
しかし去年のアフリカでの一件以来、アダムは暗闇をとても怖がっていたのだから、よりによって夜中に出かけるのは考えられない。
私は彼がベルフェゴールの一味になにかされたのではないかと心配している。
ローンはアダムが姿を消したことをまだ知らないが、このことを告げて老人に心痛を抱かせてしまうのも心苦しい。
ここでの不吉な事件は、あのフランス人の女、アン・シャトレーヌの到着と共に始まった。
今朝彼女に会った感じでは、ベルフェゴールの手の者とも思えないのだが、警戒は必要だろう。
なによりお前自身のために、出来る限り早急に星石を手に入れ、肌身離さず持ち歩くようにしてほしい。
おまえの父上によろしく。
叔父 ヘンリー・ハンコック
スコットランド キャニッチ
ハンコック荘
H・M・ハンコック
1928年5月23日
親愛なるジェイコブ。
私の心配は全て杞憂だったことが分かった。
私の手紙がおまえに無用の心配をかけてしまったのならば、どうか勘弁して欲しい。
どうやら私は連日の発掘作業で、神経質になっていたようだ。
そこでここの作業はいったん切り上げ、これから私はアダムと共にアフリカに発つつもりだ。
ここでの作業の前に、昔の仕事の再チェックを行う必要が生じたのだ。
しばらくは連絡も取れなくなるだろうが、心配はいらない。
家族のみんなによろしく。
敬具
ヘンリー・M・ハンコック
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