親愛なるジョナサン・クラーク様
覚えておいででしょうか。私は銀行に勤めるデヴィッド・リーというニューヨーク市民です。
数年前にあなたがレントゲン撮影機を注文されたときに、融資を担当させていただいた者だと言えば、思い出されるかもしれません。あれ以降もお父上と共に、順調な病院経営を行われているようで、私もその手助けが出来たと思うと自分のことのように嬉しく思います。
取引上のことで一度顔を合わせただけのあなたに、突然このような手紙を送りつける無礼をお許し下さい。
新聞で拝見したあなた方のご活躍を見て、今私が遭遇している奇妙な団体の正体を突き止めることが出来るのはあなた方しかいないと確信し、無礼を承知でこの手紙をしたためさせていただいた次第です。
1年ほど前のことです。「未来に眼を向けよ」という団体がニューヨーク市にやって来ました。
その宣伝するところによると、この団体は実業家のための互助団体で、入会者には激励と物質的な援助を約束しています。
私は8ヶ月前にこの団体に入会し、先月脱退しました。
この団体の指導者はロスタラス・ブラックという人物です。
ブラック氏は心理学者であると自称し、知的で洗練された人達の精神を、ある特殊な状態に置くとその創造力が解放され、素晴らしい発明発見を成し遂げるエネルギーとなると主張していました。
彼の述べるところの「精神オーラ」は確かに怪しげなものです。
彼はまず、参加者全員にある特定の幾何学的な図形と模様とを頭の中で思い浮かべるように指示し、壇上に立って意味不明の詠唱を始めます。
参加者も渡された紙を頼って詠唱に続きます。その文句は以下のようなものです。
「オング ダクタ リンカ、ネブロッド ヅィン、ネブロッド ヅィン、オング ダクタ リンカ、ヨグ=ソトース、オング ダクタ リンカ、ヤール ムテン」
これを45分から1時間ほど続けて繰り返すのです。
それが終わると散会して、お茶とポンチ酒を呑みながら雑談するというのが月に一度の特別集会の内容です。
その他に霊感を開発するための特別ゼミと、客員講師による講演会も開かれます。
その客員講師の何名かが、更なる高みを目指すためと称して秘密結社への入会を薦め、その中でも先日あなた方が正体を暴いた「銀の黄昏錬金術会」に入会するのを強く薦めていたことも付け加えておきます。
これだけでは単なる胡散臭いオカルトセミナーの話です。
しかし「未来に眼を向けよ」の場合は、実際の利益があるのが普通と異なる点の一つなのです。
私の場合は会に参加して2月ほどした頃、ある素晴らしい品物を100ドルで買い取らせてもらいました。その品物の素晴らしさといったら、本当に100ドルどころの価値ではないのです!
あなた方が当地に到着されたら、ぜひ見ていただこうと思います。
問題は普通と異なるもう一つの点なのです。
会に参加しはじめてからというもの、私は少しずつ体力、精神力といったものを吸い取られたかのように、どんどん体調が悪化していったのです。
会に参加している私の取引相手に確認してみたところ、みな同じような症状を訴えていました。
また、私が知る限り参加者の内2人が、原因不明の熱病にかかって亡くなっています。
まさかとは思うのですが、それもこの会に関係があるのではないかと不安を感じています。
あなたと、あなたが必要とするお仲間の力で、この団体のペテンを白日の下に暴くか、あるいはその無実を証明するかのいずれかのために、当地を訪れて調査を行っていただきたいのです。
もし後者であれば、私は再入会して更に素晴らしい品物を手に入れたいと思っております。
勿論相当額のお礼もさせていただきます。
どうか私の力になってください。お願いいたします。
あなたの来訪を心より願って
デヴィッド・リー
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