「化夢宇留仁の異常な愛情」の掲示板で@2c氏により突然始まったリレー小説。
クトゥルフの世界観をベースに、なぜか懐かしいコミックのテイストが・・・(笑)。
昭和53年。東京の某新聞記者である探索者は新作モーターショーの
取材に来ていた。何とレーサーのミキ・ラウダがお忍びで視察に来ている という情報を聞きつけたからである。
果たしてミキの来日云々はガセであった。が、腐る探索者を尻目に とんでもない事件が起こる。
試乗走行していたフェラーリが猛烈な勢いでこちらに突っ込んで くるではないか!
執筆・@2c氏
なんとか難を逃れた探索者の目に入ったのは、フェラーリのドライバーズシートに座ったレーサー、鈴森の姿だった。
しかしそんな筈はない。
鈴森は先月のレースでミキ・ラウダと接触し、コーナーガードに激突して瀕死の重傷を負っているのだ。
確認しようとしたときにはもう遅く、フェラーリはモーターショウ会場から走り出てしまっていた・・・・・・・・・・
執筆・化夢宇留仁
地獄のスーパーカーショウ 疾風怒濤篇
フェラーリがショウウィンドウを突き破って公道へと飛び出す。
後を追おうと、続いて飛び出した探索者に急発進した一台の車が!
ドライバーは見事なハンドルテクニックで車を操ると探索者のほんの3センチ手前で停車した。
ポルシェカレラ。
フェラーリを追うのにこれほど適した車があるだろうか?
探索者はドライバーに有無を言わせずポルシェの助手席にのりこむとフェラーリを追うようにドライバーに怒鳴った。
ドライバーシートに座っていたのは・・・ミキラウダ!
彼は一瞬とまどったが、すぐにポルシェを再発進させた。
「・・・どーやーら君たちと私のもくてーきはおなじよーですネー」
アヤシイ日本語でミキは探索者に語り始める。
「鈴森は邪教にココーロ、売り払ってしまーいマシタ」
「邪教の名は『裟阿貴徒』教。教主の名は時化沢さとし・・・」
時化沢の名は聞いたことがある。スーパーカーブームを巻き起こした大人気マンガの作者だ。
「彼はこどーものココーロにスーパーカーという偶像を植え付けそれに焦がれる気持ちを利用して『神』を呼び出そうとしていマース」
フェラーリが「時化沢プロダクション」と看板のあるビルの前で停まった。
「『裟阿貴徒の大神』を彼は呼び出そうとしているのデース』
執筆・マッドハッター氏
地獄のスーパーカーショウ・魔狼咆哮編
時化沢ビル。ペントハウスに咆哮する狼の巨大な偶像が乗った
8階建ての中途半端なビルである。
明らかに鈴森はこちらの追跡に気付いているらしく、入口に 消える直前振り返ってピースサインを出し、あまつさえ開いた
口からおかしな角度で舌を出している。
「ガッデム!ミーを煽りやがって。だがこのラウダの名に かけて負けるわけにはいかんのよ」
「ミキ、あんたは一体…?」
「HAHAHA、ユーが不思議がるのも無理はない」
何とミキはミスカトニック大学卒、ポルシェを駆って邪神の しもべを追い続けける一匹狼の探索者だったのだ(おお、
レーサーの探索者というのもアリかも)。
「聞けばユーもこのジャパンで同じような使命を帯びている とか。探索に国家のハッキネン無しよ!そりゃカキネだっ
ちゅーの! HAHAHAHA」
『これがアメリカンジョークという奴か…しかしミキって イタリア人じゃ…?』
焦る探索者を尻目に、ミキは後部座席から金属バットを2本 取り出した。いよいよ突入である!
執筆・@2c氏
二人は貴重な金属バットを手に時化沢ビルの非常階段を昇っていた。
フェラーリが屋内駐車場へ姿を消すと同時に、防護シャッターが二人を阻んだのだ。
貴重な・・・そう、金属バットは貴重品だった。どのぐらい貴重品かは、当時の野球少年の5人に1人しかそれを手に出来なかったという事実が、雄弁に物語っている。
『・・・その金属バットがいまこの手に握られている・・・』
そう意識すると、探索者の心中は恐怖よりむしろ優越感が占めるようになった。
『やったね、パパ!明日はホームランだ!』
意味もなくそんな言葉が脳裏に浮かんだそのとき・・・
「Wow!!」
探索者の物思いは、ミキの叫びに中断された。
7階の踊り場、非常扉の前でミキは突然こめかみに手を押し当て苦痛の表情を浮かべて立ちつくした。
「この中デース!この扉の向こうに子供達から搾り取られた想いと・・・印税が渦巻いてイマース!」
探索者が扉に目を向けると同時にそれは内側から開き始めた。
にやにや笑いを浮かべる鈴森の姿がそこにあった。
黒のジャケットに身を包み、手で何かをもてあそんでいる。
「先生はお忙しいんだ。今日のフェラーリでちょうど30個目の★マークだからな」
「サーキ○トの狼」の読者にしか理解出来ない理屈を鈴森は恥ずかしげもなく口にする。
探索者は鈴森のかわりにおもわず赤面した。
「事故に見せかけておまえを始末しようとしたが、失敗した。だが今度はそうはいかんぜ!」
説明ゼリフとともに手にしていたものをミキに投げてよこした。
マジックで黒く塗りつぶされたスーパーカー消しゴム。それは子供達の垂涎の的、ランボルギーニ・カウンタックだった。
「Oh!ユーは・・・『破魔の黒豹』!!」
地獄のスーパーカーショウ・黒豹襲来編 了
執筆・マッドハッター氏
地獄のスーパーカーショウ・ステインアライブ編
探索者とミキは金属バットを構え、鈴森ににじり寄った。
鈴森は、慌てて薄暗い部屋の奥に退き、何かのスイッチのような物に触れながら叫んだ。
「動くな!」
突然、部屋のすべての照明が灯く。
「このガキ共がどうなっても良いのか!」
見れば、鈴森の背後の壁一面にテレビのモニターが並んでいて、それらは何処かのスタジオに
集まった大勢の子供達を写していた。
「こ、これは!『対決!スーパーカークイズ』!!」
ブームに便乗して作られたテレビ番組『対決!スーパーカークイズ』は、スーパーカーに関する問題だけを出題するクイズ番組で、カウンタックマンと言うキャラクターがスーパーカー
音頭を踊ったりして、かなり安直な企画だったが、子供達には人気があった。
「そうだ!我々はこの番組を利用し、儀式に必要なパワーを集めていた!この番組を見たガキ共のパワーが、全国からこのビルに集まる。そして、今夜の放送でそのパワーも満ちるだ
ろう!その時こそ、我らが神が示現する時!今夜はフィーバーだ!!」
そう言って、鈴森は片手を挙げ腰をひねってポーズを決めた。
執筆・秋山氏
地獄のスーパーカーショウ・死霊の盆踊り編
右・左・右・・・
探索者とミキの前で鈴森の腰が左右にくねる。それは破滅の時へと時間を刻む振り子時計そのものだった。
『番組終了までになんとか陰謀を阻止しなければ・・・』
焦る探索者。ミキもその隣でいらだたしげに体を小刻みに揺らしている。
「おっと、変な動きはするなよ」
自分が一番変な動きをしているくせに、鈴森は涼しい顔で警告をする。
エンディングの「スーパーカー音頭」が流れ始めたそのとき、ミキの体が弾かれたように反応した。
なんと、ミキはモニターの中のカウンタックマンの動きに合わせて踊り始めたではないか!ミキの体内のラテンの血に火が付いたのだ。
一瞬あっけにとられる鈴森と探索者。
しかし、鈴森の立ち直りは早かった。
彼もまたリズムに合わせて、より激しく身体をよじらせ始める。鈴森も黒豹と呼ばれた男。ダンスで?負けるわけにはいかない。
ミキが金属パットをマイク代わりに「スーパーカー音頭」を熱唱し始める。と、黒豹・鈴森もまた、負けじとモニターのひとつを壁から引き抜き、お立ち台としてその上で踊り狂う。
探索者は男二人のダンス会場と化したその場を抜け出すと、先へと続く廊下を進んだ。
この先に「サーキット狂」いや「裟阿貴徒教」教主、時化沢がいるはずである。
最後の対決を前に、「ジェンカ」しか踊ったことのない自分に感謝する探索者だった。
執筆・マッドハッター氏
地獄のスーパーカーショウ・魔像の十字路編
「時化沢ァ! 覚悟しろ」
「社長室」とプレートの嵌った、これみよがしに怪しい部屋の 扉を金属バットでブチ破り、探索者は疾風の勢いで飛び込んだ。
部屋は数十畳はあろうか。ゴテゴテと成金めいた調度で飾られて いるが、部屋に敷かれた皮はオオカミのそれであり、甲冑の
代わりに立て掛けられているのはレーシングスーツである。
折しも夕陽で辺りは深紅に染まり、「大都会」でボスが座って いたような豪奢な椅子がキーと音を立てこちらに振り返った。
「クク、よく来たな探索者クン」
振り返った男はカパッと口を開き、そこからシューッと煙が 洩れ、妙に灰色がかった頬には点々とビスが打ち付けられ…
「って、なんだこりゃロボットじゃねえか!」
背後ではスーパーカー音頭がヘビーローテーションしている。
執筆・@2c氏
地獄のスーパーカーショウ・スーパーカーよ永遠に
探索者は用心深く、しかし、念入りにロボットを調査する。と、ロボットの後頭部に『影武者・1号』と刻印されたプレートがはまっている。『・・・時化沢が担当編集者から逃れるための影武者ロボットか?』
探索者はそれで無理矢理納得することにした。
だが、時化沢本人はどこに?
その時、時化沢ロボの前のデスク上に数冊の本と書類が散乱しているのが目に入った。
「!こっ、これは!!」
時化沢ビル屋上。
探索者が屋上へと続く鉄扉を開けると、そこはまさにスーパーカー会場だった。ランボルギーニ、ポルシェ、マセラティ・・・さらに日本に数台しか現存しないと言われるトヨタ2000GT。今日鈴森がモーターショウから盗み出したフェラーリもある。30台のスーパーカーが全長6mはあろうかという巨狼の彫像を取り巻いている。これらは全国のチビッコ達からのパワーを集めるアンテナであり、また召還される「裟阿貴徒の大神」への供物なのだ。時化沢の書類から探索者はすでにそのことを知っていた。
巨狼の彫像の足下で一人の人物が振り返った。
前髪が奇妙な角度ではね上がり、ストライプの派手なジャケットにパンタロンスラックス。時化沢だ。
「『地獄のスーパーカーショウ』にようこそ」
おおっ、やっとタイトルが!
「時化沢!バカな真似はよせ!」声を限りに探索者は叫ぶ。
「バカな真似?ふっ、儀式は既に終わった。我が神と我が信者が世界を治めることは既に決定事項なのだ。かの大予言者ノストラダムスも・・・」
「・・・これを予言していたって言うんだろ」
探索者はうんざりしたように時化沢のデスクからもってきた一冊の本を取りだした。「ノストラダムスの超予言 著者、五宝勉(ごほう べん)」日本にノストラダムスブームを巻き起こした予言本のハシリがこの本だった。
「・・・そうだ。ノストラダムスは車マニアが世界を支配すると予言した!」怖じけず時化沢は宣言する。
「それ間違い、誤訳」
「!」ちょっとだけ動揺する時化沢。
「五宝氏は地名のCarmaniae=カルマニアをカー・マニアと訳しちゃったんだよ」
「!!」さらにちょっとだけ動揺する時化沢。
「・・・ついでに言うとあんたが一生懸命訳した『エイボンの書』、これラテン語版だよ。近くにあったのは『クラウン英和辞典ジュニア版』だけど・・・これで訳したんだよね?」
「!!!」ちょっと泣き顔になる時化沢。
「・・・あー、これもあまり言いたくないんだけど、よく言われてるように英語に『スーパーカー』っていう単語はないわけで、あんたの語学能力にはちょっと問題が・・・・」
「わーん、そこまで言うこと無いじゃないかーー!バカバカーーー!!」
自暴自棄になった時化沢は手近なロータス・ヨーロッパに飛び乗ると探索者目がけてアクセルを踏んだ。
自動車に轢かれそうになるのは本日3回目の探索者だ。フェラーリやポルシェがかわせてロータスがかわせないわけがあろうか?悠々と回避する探索者。
時化沢のロータスはそのまま探索者の脇を通り過ぎると金網の柵を引きちぎり、虚空へと消えていった。一瞬おいて爆発音と閃光。
黒煙が時化沢ビルと巨狼の彫像に煤の縞を描いていく。それは時化沢を悼んで巨狼が流す黒い涙のように見ようと思えば見えなくもなかったが、やはり単に黒い煤の縞だった。
数日後。
探索者は2通の手紙をデスクの上に広げていた。
一通はミキからのもの。
時化沢との対決のあと「ダンス会場」におずおずと戻った探索者だったが、そこには精魂尽き果
て身動きできない黒豹・鈴森しかいなかった。そこに残されていたのが今目の前にある、ミキの伝言だった。
『陰謀は阻止できたよーですネ。HAHAHA、またお会いしまショ−、Adieu!』
アデュー・・・フランス語である。 「ミキ・・・結局あんた何人だったんだ?」・・・多分「外人」だったのだろう。
地上に墜落したロータスから時化沢の遺体は発見出来なかった。漫画雑誌「週刊少年J」にも「時化沢先生の休載のお知らせ」は載っていない。不審に思っていたところに時化沢本人から探索者に手紙があった。もう一通
がそれだ。
『今回は君たちの勝ちだ。しかし、世紀末、20年後を楽しみにしていたまえ。フフフ』
手紙にはマンガの企画書が同封されていた。「サーキ○トの狼2 モデナの剣」
・・・いや、いいんだが。しかし・・・
「まだ続けるつもりかい!」 探索者は虚空に向けて思いっきりツッコミをいれた。
執筆・マッドハッター氏
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