1920年代のアメリカのボストン近くの田舎町が舞台のシナリオです。
クトゥルフ神話小説においてよくあるストーリーの一つの、典型的魔術師ものです。
探索者の職業は、なるべく自由に行動が出来て、場合によっては強硬手段もとれる探偵やジャーナリストがお勧めです。

1.あらすじ
探索者は友人に誘われ、田舎町の古い屋敷に遊びに行きます。
その屋敷に住んでいるのはスランプに悩む画家一人だけのはずだったのですが、そこで異様な老人に会います。実は老人は200年の時を越えて解放された邪悪な魔術師であり、画家を操って更に力を取り戻そうとしています。
探索者は彼を打ち破り、邪悪な魔術が現代社会に解放されるのを阻止しなければなりません。

 

2.登場人物 印刷用キャラクター画像表示(200dpiで高さ8cm)

●フレドリック・マッコイ


フリーカメラマン。27歳
筋力(STR) 8  敏捷力(DEX) 10  知力(INT) 11
体力(CON) 14  サイズ(SIZ) 12  精神(POW) 12
外見(APP) 6  正気度(SAN)60 教養(EDU) 15
耐久力 13
隠す(27) 聞き耳(64) 芸術「絵画」(31)
考古学(17) 自動車運転(25)
忍び歩き(17) 写真術(70)  心理学(95)
説得(27)  物理学(13)
他の言語「ドイツ語」(36)

ゲーム開始時より、探索者の友人です。
真面目で物静かで、礼儀正しく、信用できる男です。趣味は油絵です。
興奮すると、どもる癖があります。
1月ほど前に雑誌の風景写真コンテストで入賞しました。

●ブライアン・ロッホ
画家。32歳
筋力(STR) 7  敏捷力(DEX) 8  知力(INT) 15
体力(CON) 12  サイズ(SIZ) 15 精神(POW) 9
外見(APP) 14  教養(EDU) 17
耐久力 14
言いくるめ(53) 泳ぐ(43) 化学(11)
芸術「絵画」(76) 忍び歩き(43)
重機械操作(45) 信用(32) 目星(31)
歴史(46) 料理(70)

8年前に画家として登録され活躍していましたが、2年ほど前からスランプに悩まされ、精神的療養をかねてチャリス屋敷に移り住みました。
何も知らない内に、弱った精神を地下の魔術師に犯され、支配されてしまいます。
痩せて背が高く、神経質そうな風貌です。見ての通りの性格なのですが、探索者達が最初に会ったときにはすでに精神を操られているので、快活で自信に満ちた態度をとります。
彼にとってフレディは数少ない心を許した友人なのですが、性格が変化しているためによそよそしい態度になります。
おそらく2回目に会ったときの彼は、もはや彼ではないでしょう。
一人暮らしが長く、料理が上手です。

●エリオット・チャリス
会社員  33歳
筋力(STR) 9  敏捷力(DEX) 10  知力(INT) 12
体力(CON) 8  サイズ(SIZ) 16  精神(POW) 13
外見(APP) 11  教養(EDU) 17
耐久力 12  追加ダメージ +1D4
言いくるめ(7) 応急手当(74) 隠す(49)
経理(53) 信用(25) 心理学(21)
精神分析(42) 説得(61) 値切り(58)

角張った顔の中肉中背の男です。
努力してニューヨークの大きな会社に入ったので自立心が強いのですが、チャリス一族自体に劣等感をもっており、馬鹿にされるのに敏感です。
1年前に亡くなった祖父の家を相続し、遺言を無視して人に貸し出しました。
マッコイの大学の先輩でもあります。 ニューヨーク在住。
利己的だが臆病な性格で、貸しはしたものの何か起きないかとビクビクしています。
焦ると早口になります。

●ジェイムズ・トリヴァー
医者 64歳
筋力(STR) 10  敏捷力(DEX) 8  知力(INT) 11
体力(CON) 6  外見(APP) 8  精神(POW) 10
サイズ(SIZ) 11  教養(EDU) 19
耐久力 9  
医学(35) 応急手当(31) 自動車運転(44) 心理学(57) 
精神分析(66) 生物学(25) 物理学(35) 薬学(25)  ラテン語(33)

白髪に真っ白なカイゼル髭。丸い眼鏡を掛けています。
チャリスに住む医者で、半分隠居のつもりでひっそりと開業しています。
1年前にアルフレッドが亡くなるのを看取った人物でもあり、その前日のエリオットとアルフレッドの会話を聞いています。
また当時しばらく身体を壊していたアルフレッドの様子をちょくちょく見に行っており、亡くなる2日前に彼が倒れているのを発見したのも彼です。

●エリカ
少女 5歳くらい
近くの農家の娘で、親の手伝いをよくする舌っ足らずの可愛い子です。

●エンリオ・カルビム
魔術師。常軌を逸した高齢 生ける屍
筋力(STR) 12  敏捷力(DEX) 4  知力(INT) 15
体力(CON) 6  サイズ(SIZ) 11  精神(POW) 21
外見(APP) 3  SAN値 0  教養(EDU) 13
耐久力 9

武器 キッチンにあった果物ナイフ <命中40% ダ1d4+db 耐7>

隠れる(50) 機械修理(48)
クトゥルフ神話(20) 芸術「歌唱」(55)
経理(39)  自動車運転(12) 乗馬(17)
神学(49) 天文学(29) 化学(46)
他の言語「フランス語」(47)
他の言語2「ラテン語」(58)

攻撃 噛みつき 35% ダメージ1D4+db+吸血
一度噛みつかれると、STRの抵抗ロールに成功するまで、1ラウンドにつき1D4耐久力を吸い取られる。
装甲 毎ラウンド耐久力を1回復する。血を吸った次のラウンドには、吸った耐久力の分だけ耐久力を回復する。
貫通する武器では最低限しかダメージを与えられない。
耐久力が0になっても、身体が消失しない限りは死なない。

呪文 ゴルゴロスのボディ・ワープ
ハスターの歌
空中浮遊
精神的従属
旧き印
フェッチ棒の創造
本に魔力を付与する
投げ槍(木製)に魔力を付与する
ビヤーキーの召還/従属
不死

200年も昔から生きる屍となって生き延びてきました。
息子であるゲイリーに地下室に閉じこめられていましたが、ブライアンを操って脱出するのに成功し、今は朽ち果 てた身体の復活と、知識の吸収に務めています。
ハスターを唯一にして絶対の神と信じていますが、それは付け焼き刃のクトゥルフ神話知識によるもので、他にも色々間違ったことを信じています。

新しい呪文「不死」
カルビムが押収した魔道書や書類などの知識をとりまぜて、妻のモニカの生体実験で完成させた呪文です。
不死の呪文をかけるには、1D10のSANと、10のMPを消費します。
呪文を唱えてから、標的に彼または彼女の知人の死体のものだと分かっている血を飲ませ、その後標的に水も食傷もまったく与えずに餓死させます。
標的は死んだ時にSAN1D100を失い、POW×1〜10倍ロールに成功すれば不死になります。
この成功率は殺されて血をとられた犠牲者が、精神的に標的に近い者であればあるほど上昇します。
ただしこの呪文で不死となった者はいつも血以外では満たされない吸血鬼となり、長期間血を吸えないと行動不能に陥ります。血は特に肉親や友人のものを好みます。
不死になった者は貫通する武器のダメージは最低限しか受けなくなり、ちぎれた身体の部分も充分な血があれば再接着します。ただし傷自体は治りません。
唱えられる呪文はカルビムがでっち上げたもので、ハスターの名も入っていますが、実はヨグ・ソトースに訴えかけるものです。

 

3.導入
7月13日。
探索者達は友人のフリーカメラマン、フレドリック・マッコイに一緒に休暇に行かないかと誘われます。
目的地はボストンとアーカムの間にあるチャリスという山村の屋敷で、そこは彼の友人が借りており、 避暑も兼ねて一緒に遊びに行かないかと言うわけです。
予定では一泊して、翌日は午前中に帰ります。
探索者達はちょうど予定も空いているし、今は夏の盛りだし、木々の生い茂る山村での休暇は魅力的です。

フレディの話

 屋敷で待っているのは画家のブライアン・ロッホという男で、彼とは油絵のサークルで知り合いました。
ブライアンは3ヶ月前から屋敷を借りて住んでいますが、その屋敷を紹介したのはフレディでした。
 屋敷の持ち主はフレディの大学の先輩であるエリオット・チャリスという男で、1年前にそこに一人で住んでいたエリオットの祖父アルフレッドが亡くなったので、たった一人の親族だったエリオットが相続したのでした。
ニューヨーク在住のエリオットは、ボストンに住むフレディに家を借りてくれる信用できる人がいないかと打診し、彼はブライアンを紹介しました。

 ブライアンは8年前にプロの画家として登録され、爽やかな画風で人気画家となり、多作で知られていましたが、2年ほど前から思うように筆が進まなくなり、スランプに苦しんでいました。
フレディはなんとか尊敬するブライアンの役に立ちたいと思い、気分転換になるのではないかとその屋敷を紹介しました。
 先日ブライアンから遊びに来て欲しいという手紙を受け取り、友達も連れてきていいということだったので、みんなを誘うことにしたのです。


フレディが知っていること

他にも探索者から質問があれば、フレディは以下の情報を教えてくれます。

●チャリス・ビレッジについて
 ボストンとアーカムの間の山間部にある人口3000人に満たない小さな町。
1700年くらいから入植され、その最初の一族がチャリス家だったらしい。
ビルのレストランという店のステーキがうまい。

●ブライアン・ロッホについて
 人物、生物、風景など、モチーフを問わずに爽やかな作品を描く画家で、8年前にプロとして登録されて以来作品数も多い。
油絵のサークルで知り合い、人付き合いは不慣れなようで最初はなかなかうち解けてもらえなかったが、やがて友人として絵に関しても色々教えてくれるようになった。
一人暮らしが長くて料理もうまいので、今回も色々ご馳走してくれるはず。

●エリオット・チャリス
 ニューヨーク在住の会社員で、フレディの大学の先輩。
チャリス邸には住んだことはないのですが、思い入れがあるらしい。

●アルフレッド・チャリス
 長年一人でチャリス屋敷に住んでいたらしい。
特に働いていたという話は聞かないので、多分資産があったのだと思う。
1年前に病気で亡くなったが、高齢だったので寿命と言えるかも知れない。

 フレディの思惑は実はこれだけではありません。
彼は一通り説明してから、実は探索者達に屋敷とブライアンになにか変わったところがないか、見てほしいのも目的なんだと話し、何通 かのブライアンからの手紙を見せます。

ブライアンからの手紙

 今日引っ越してきた。 まわりは緑豊かで裏には美しい湖。
誰にも邪魔されない時間と、くつろげる空間。
まさに完璧だ。 君にここを紹介してもらったことを本当に感謝している。
ありがとう。

4月29日 ブライアン・ロッホ


 最初は気のせいかと思ったのだが、やはりそうではないようだ。
夜中に妙な音が聞こえることがある。 どこか遠くで聞こえる小さな音だ。
女の声のようでもあり、獣の遠吠えのようでもある恐ろして悲しげな声だ。 なにかを渇望しているようにも聞こえる。
この屋敷の地下から聞こえるように思うこともあるし、湖から聞こえるように感じることもある。
裏の崖を風が吹き抜ける音かとも思ったが、そうは思わせないなにかがある。
この屋敷にはなにかあるのだろうか。
できればエリオット・チャリスに確認してほしい。
私はここが気に入っている。
夜中に少々妙な音が聞こえるくらいは大した問題じゃない。
ただ理由が分からないのが落ち着かないだけなのだ。

5月11日 ブライアン・ロッホ


先日君が来たときも少し話したが、最近悪夢を見るようになった。
最初は環境が変わったためだろうと気にもとめなかったのだが、だんだん長時間眠っても疲れがとれず、昼でもぼんやりしているようになった。
今も自分が起きているのか夢の中なのかはっきり自信をもてないような状態だ。
この屋敷を出た方がいいのかもしれないとも思い始めている。
また意見を聞かせてくれると嬉しい。

5月24日 ブライアン・ロッホ


 先日はせっかく遊びに来てもらったのに、満足にもてなせなくて申し訳ない。
でももう大丈夫だ。
妙な音がするとか、悪夢を見るとか、普通に考えれば人が疲れているときの通 常の症状だ。 僕の場合もそうだったらしい。 多分環境が変化したのに身体がついていっていなかったのだろう。
あんな変なことを言って、君を心配させて悪かった。僕はもうすっかり元気で、この屋敷のすばらしさにあらためて感動していて、紹介してくれた君に感謝している。
また遊びに来て欲しい。今度来てくれたら精一杯歓迎させてもらうよ。
よかったら君の友達も連れて来たらどうだろう。今は暑い盛りだし、ここは都会で生活している人達には天国に感じるだろう。
いい返事を期待しているよ。

僕の生涯で最も大切な友人であるフレドリック・マッコイへ。
7月7日 ブライアン・ロッホ

文章だけ見てみると、なんの問題もないのですが、なぜかフレディは最後の手紙がブライアンの書いていることが本当だとは思えないのです。
嘘だいうわけではないのですが、文章も彼らしくないし、なぜかかえって心配になってしまったと話します。
 また屋敷の持ち主であるエリオット・チャリスもなにか心配事でもあるのか、頻繁に彼に屋敷とブライアンの様子を聞いてくるので、それも気になっています。
 探索者達には普通に休暇を楽しんでもらえばいいのですが、もし自分が気付かない妙なことがあったら教えて欲しいと頼みます。

 

4.チャリスの町へ
7月16日
 一行は車に乗って、雑談をしながら美しい景色の道のりを進んでゆきます。
フレドリックが古いフォードを持っているので、探索者が他に希望しない限りは全員彼の来るまで向かうことになります。
 目的のチャリス邸には昼前には着く予定です。
緑多き街道から細い脇道に入ると、あたりは鬱蒼とした森が続き、勾配もきつくなってきます。
やがて森が開け、広々とした丘陵地帯に出ます。チャリスの入り口です。
青々とした畑が広がる景色はなんとも言えず美しいものです。
これから更に山道を進み、森を抜けてチャリス邸に進むのですが、フレディは途中の商業地区にある雑貨屋に寄って、ガソリンを買います。
この時探索者は、店主のベイズと話をする機会があります。

ベイズ雑貨店
 銃器以外は大抵のものが揃っています。食料品も扱っています。
町には雑貨屋は2つあり、もう一つの店は町の反対側で少し遠いのですが、そこは狩猟用の銃器も扱っています。
 ベイズは気さくな40代の男性で、聞けば知ってることは何でも話してくれます。
ブライアンのことを訪ねると、引っ越してきてしばらくはよく画材や食料品を買っていったが、最近は回数が減ったと言い、ただ最近珍しい物を配達したと教えてくれます。
それは車椅子で、彼は怪我でもしたのかとベイズの方から聞いてきます。
フレディは車椅子のことはまったく知りません。

闇の進行状況

 ブライアンはここ3ヶ月の間に完全にカルビムの精神操作に取り込まれてしまっており、地下の棺からカルビムを解放してしまっています。
上記の最後の手紙は彼の精神が完全にカルビムの支配下に入ってからのものです。
 カルビムはまだ完全に復活できておらず、満足に歩くことも出来ないので、車椅子が必要になりました。
ブライアンはカルビムに操られるままに、アルフレッドの墓を掘り起こそうとしたり、近所の犬や猫を捕まえてきたりもしています。

 カルビムは完全に力を取り戻すためにはもっと血が必要で、それも肉親のものだと身体になじむのですが、とりあえずは1920年代の世界と、後にブライアンになりすますための情報収集を行っています。
それが一段落したらブライアンも殺して血を吸うつもりです。
ゆくゆくは唯一の肉親であるエリオットも呼び寄せて血を吸おうと考えています。

 店を出ようとしたところで、親に言われてランプ用の油を買いに来たエリカとぶつかりそうになります。
彼女は驚いて握りしめていた小銭を落としてしまいます。
拾ってやると彼女はお礼を言います。舌足らずで可愛い子だということをアピールしておいてください。
ベイズに聞くと、近くの農家の娘でよくお使いに来ると言うことです。
キーパーは、エリカは後に探索者の能動的行動の動機の1つになるので、印象的に演じるようにしてください。
場合によってはエリカの家族も登場させるといいでしょう。

 

5.チャリス邸
 商業区をぬけて、鬱蒼としげる木々の中を細くて曲がりくねった登り路を進むと、やがて丘の頂上に出て、木に囲まれたチャリス邸が視界に入ってきます。
チャリス邸は古い建物に何度も改築をした2階建ての大きなもので、経過した歴史を感じさせるたたずまいです。
窓のほとんどにはカーテンが掛かっています。
建物の左脇に馬屋がありますが、中にはブライアンのものらしい古いフォードが止まっているのが見えます。 フレディはその前の空いたところに車を止めます。

 古風なドアノッカーでドアを叩くと、中から背が高い痩せた男が顔を出します。ブライアンです。
彼は年齢よりも老けて見え、顔色もよくありませんが、にこやかに一行を迎え入れてくれます。
一行の部屋は2階のゲストルームで、それぞれに個室が用意されています。

 彼は自力で歩いており、不自由な様子もありません。
車椅子のことを訪ねると、一瞬彼の表情がこわばり、その話をどこで聞いたのかと質問します。
<心理学>に成功すれば、探索者達がなにか知っているのではないかと不安に感じたらしいことが分かります。
しかし雑貨屋で聞いたと説明すれば、安心したようにプロビデンスから大叔父が療養のために来ているのだと説明し、急だったので一行にあらかじめ連絡する暇もなかったことをわびます。
大叔父は昼食の時に紹介すると言います。
もし探索者が雑貨屋のことを話さず、ブライアンからなにか情報を聞き出そうとしても、フレディが雑貨屋のことを話してしまいます。

 フレディが最近絵の調子はどうですかと訪ねると、ブライアンは一瞬黙り込みますが、だいたい調子は戻ってきたので、近々新作にとりかかるつもりだと答えます。

 一行を各自の部屋に案内し、ブライアンは男の一人暮らしなので全体的に薄汚いが、一行の泊まる部屋は家政婦を頼んで綺麗にしてもらったので安心して欲しいと言い、また昼食は彼が簡単なものを作りますが、夜は近所の店のうまいステーキを持ってきてもらうよう手配しているので期待していいと言います。
お昼まではまだ間があるので、ブライアンは一行にくつろいで欲しいと言い、 屋敷内は自由にうろついてくれてもいいとも言って、戻ってゆきます。
お昼までは20分ほどしかないので、大したことはできませんが、ブライアンはキッチンにいるので、その間に屋敷の中を探検するくらいはできるでしょう。

 

6.チャリス邸俯瞰
チャリス邸の簡単な地図です。

 ドアは全て丈夫そうな木製です。
Sという記述のある部屋はゲストルームになっており、それぞれの部屋にベッドとユニットバスがあります。
探索者一行は2階のゲストルームに荷物を置いています。
探索者が割り当てられなかったゲストルームは最近使われた形跡はなく、カバーがかぶせられた上に埃がかぶっています。
特に記述のない部屋は全て鍵がかかっていません。

1.ホール
 2階までの吹き抜けになっており、左右に2階への階段があります。
調度類は最小限で、あっさりした印象を受けます。
中央に簡単なテーブルと椅子が置かれています。

2.書斎
 中央に古い書斎机があり、ランプと筆記用具が置かれています。
ペンとインクを調べてみれば(目星)、最近使われた形跡があるのが分かります。
部屋の左右には作りつけの大きな書架がありますが、本は美術関係のものが何冊かあるだけで、ほとんどは空きスペースになっています。
机の引き出しの中には、小物に混じってブライアンの日記が入っています。
最近の記述の抜粋を以下に記します。

ブライアンの日記

5月2日
ようやく引っ越しの作業が一段落し、落ち着くことが出来た。
まだ荷物の多くは梱包されたままだが、とりあえず絵を描ける状態にはなった。

----(特に注意をひかない内容)----

5月7日
どうも夜になるとなにか生き物の吠え声のような音が聞こえるような気がする。
風の音だろうか。

5月9日
やはり吠え声が聞こえる。それも屋敷の地下から聞こえてくるような気がする。
今日は地下室を調べてみたが、勿論なにも無かった。
環境が変わったせいで神経が過敏になっているのかもしれない。 しばらく気にしないようにする。

----(特に注意をひかない内容)----

5月19日
ここ数日悪夢に悩まされている。 夜中のあの声のせいだと思う。
今夜も見るのだろうか。

5月28日
最近どうも朦朧としている。
これは現実なのか、夢なのか。
あのドアの先に何があるというのだ。

6月7日
ここ数日草むらの中に古びた鍵が落ちている夢を見る。
この屋敷のそばのようだ。

6月12日
夢の通りの場所で鍵を見つけた。そして夢で見たドアも見つけた。
しかしこれは現実なのだろうか。
この日記を書いている今も夢を見ているのではないかと不安になる。
あのドアを開けるべきだろうか。

---(これ以降は記述無し)---

 探索者のブライアンに対する疑惑をはっきりさせるため、この日記はプレイの早いうちに発見された方がいいでしょう。できれば昼食の前に、遅くともディナーまでは屋敷内を探索する機会を作り、発見出来る機会を作ってください。

3.寝室
 よく使われているらしいベッドが置かれており、サイドテーブルにはランプと美術書が置かれています。

4.アトリエ
 ドアには鍵がかかっており、無理に開けようと思えば大きな音がしますし、それなりに時間もかかるでしょう。
今の時点ではこの部屋の中には探索者が入らないようにしてください。
詳細は「23.アトリエ」にあります。

5.物置
 雑多な荷物や画材などが詰め込まれています。
中庭に面した窓にはカーテンが無く、部屋には外の光が射し込んでいますが、荷物の多さで窓を半分ふさいでおり、薄暗くなっています。
ブライアンの作品も油紙に包まれた状態で多数しまわれており、包みを取れば内容を見ることが出来ます。
どれも油絵で、モチーフを問わずに爽やかな画風です。

6.食堂
 中庭に面した大きな窓があり、明るい雰囲気です。
中庭に出るための両開きのドアもあります。
部屋の中央にはクロスのかけられた長いテーブルが置かれています。
人数分の席が用意されており、ブライアンが一行を歓迎するために努力しているのがうかがえます。

7.キッチン
 規模の大きなキッチンです。
この屋敷の全てのゲストルームが一杯になっても、プロの調理人が頑張れば全員を満足させる料理を作ることが出来るでしょう。
今はブライアンが一生懸命昼食を作っています。
キッチンの左上にドアがあります。
ドアの先には地下室へ続く階段がありますが、もちろんキッチンからはそれは分かりません。
ドアの先はなにかと訪ねればブライアンは正直に教えてくれますが、中に入ろうとすると、地下にはボイラーと燃料があるだけだし、ひっくり返っているのでお客様にはとても見せるわけにはいかないと言って止めます。

8.応接間
 応接セットとカクテルセットを置いたら似合いそうな棚がありますが、現在は棚には何もありません。
しばらく使われた形跡のない部屋です。

9.居間
 テーブルとソファが置かれていますが、それ以外にも荷物が放り込まれており、半分物置になっているようです。
中庭で使えばパーティーが出来そうなテーブルやバーベキューのセットなども放り込まれています。
しばらく使われた形跡がありません。

10.中庭
 元は綺麗な芝生の中庭だったのでしょうが、居間は雑草が生え放題で、荒涼としています。

11.馬屋
 今では馬はおらず、ブライアンの古いフォードと燃料が置かれています。
フォードに近寄って注意深く見てみる<目星1/2>と、ドアの角の部分に動物のものらしい毛がむしられたような状態でついているのが分かります。
<生物学>に成功すればそれが猫の毛だと分かりますが、そうでなければ犬とか猫とか、短い毛の動物のものだと分かるだけです。
薄暗いのでフォードの中まではよく見えませんが、懐中電灯などで照らしてみれば、助手席に赤黒い染みがついているのが分かります。

 2階にはめぼしい部屋はありません。
ベランダに出れば中庭が見渡せ、その先は林になっており、更にその先は地面 が消えて、緑の山の遠景がぼんやりと見えます。
林の少し先は崖になっており、大きな池があるのです。

 

7.昼食
 昼食の準備ができるとブライアンは一行を食堂に呼び、更にアトリエにいる大叔父を迎えに行きます。
やがて彼が大叔父の乗った車椅子を押して食堂に現れます。
 大叔父は夏とは思えないようなガウンのような服を着て、目深にフードをかぶり、マスクをしており、手袋までしているのでどんな姿をしているのか見当もつきません。
ただ高齢らしいことは手の震えなどの動作から伺えます。
ブライアンは、彼はエンリオ・カルビムだと紹介し、特殊な皮膚病で光に当たるといけないので、このような姿で失礼します。しかしうつったりはしないので安心して欲しいと説明します。
カルビムは弱々しく手を挙げて、つぶやくようにボソボソと礼らしきことを言います。
<聞き耳>に成功しても単なる挨拶らしいと分かりますが、同時に言葉使いが古風なのにも気付きます。相当な高齢なのでしょう。
握手を求めようとすると、ブライアンが、「腕も動きにくく、力が加わると痛むので申し訳ありませんが握手もご遠慮下さい。」と止めます。
本人も頭をさげてなにやらブツブツとわびを言います。

実はまだ身体が復活し切れておらず、力を入れられると崩れてしまう恐れがあるのです。

 昼食はオープンサンドにローストビーフ、スープにサラダといった内容で、一人暮らしの男性の料理としては驚くほど豪華です。料理の腕も確かなようです。
ブライアンは法律制定前のものだけど今回だけ特別ですと言って、ワインまでふるまってくれます。
ブライアンは大叔父のマスクだけを取り、かいがいしく食事をさせてやります。
<目星>に成功すると、彼の口の当たりを見ることができます。
白くふやけ、ところどころ破れたようなボロボロの皮膚に、不健康な黄色い歯。なんらかの病気なのは間違いないでしょう。 また意外に立派な犬歯を持っているのも分かります。
<目星>に成功した人は上記の内容が分かると共に、食欲が無くなるのも間違いないでしょう。

 

8.散策
 昼食が終わると、ブライアンは大叔父を元の部屋に戻します。
それから一行とゆっくりコーヒーを飲んだ後、あたりを案内しようと申し出ます。
屋敷のまわりはぐるりと木々に囲まれていますが、その手前になんとか車が通 れるくらいの幅の遊歩道が造られています。
一行はブライアンについて屋敷のまわりを見て回ります。
屋敷の南東部には、大叔父のいる部屋がありますが、カーテンがかかっていて中は見えません。

屋敷の東側を北へ向かって歩きます。
途中、<目星>に成功すると、目立たないですが遊歩道から右に出る小道が森の中に延びているのに気がつきます。
ブライアンに訪ねると、休憩所があるのでよければあとで行ってみてくださいと教えてくれます。
この路の先の描写は「9.休憩所」を参照してください。

屋敷の北側に回り込むと、木々がまばらになってきます。
北方向の木の向こうは、少し行ったところでいきなり地面が消えています。
そこは崖になっており、下には大きな池があります。
池の周りは森に囲まれており、実に美しい風景です。
ここで<目星1/2>に成功すると、池の西の隅の方にどうやら猫のものらしい死体が浮いているのに気付きます。
それをブライアンに言うと、少しあわてて「可哀想に。溺れたんでしょう。」と言います。

ブライアンがカルビムに操られて捕まえてきた猫の内の一匹です。
猫は袋をかぶせてから殴り殺し、 喉を切って血を吸い取ってから池に捨てています。
石を縛り付けて沈めたのですが、ロープが古く、切れてしまったのでしょう。

 猫の死体は腐敗しているので詳しく調べないと分かりませんが、喉を切り裂かれています。
鈍器のような物で何度か殴られたのが直接の死因です。
また首輪をつけており、飼い猫だったことも分かります。 調べればチャリスの町の民家で飼われていましたが、1週間ほど前から行方不明になっていた猫だと分かります。
それ以外にもここ1月ほど、行方不明になった犬や猫が何匹もいます。

ぐるりとまわって屋敷の西に来ると、大きな馬屋が見えます。
馬屋の描写は「6.チャリス邸俯瞰」を参照してください。

更に歩いて屋敷の南西の角の部分にさしかかります。
<目星1/2>に成功すると、 そこに煤けたような跡がついているのに気付きます。
これは屋敷の元の持ち主のアルフレッドが、亡くなる2日前に火を放とうとした跡ですが、ここにいる人はそれがなぜついているのか誰も知りません。ブライアンやカルビムでさえ知りません。
知っているのは現場を目撃したトリヴァー医師と、医師から話を聞いたエリオットだけです。

屋敷の正面に戻ってくると、 ブライアンは好きなようにくつろぐように。また用があれば呼ぶように伝えて、屋敷に戻ります。

 

9.休憩所
 屋敷の東側に森の中にのびる細い下り路を進んでゆくと、6×6mほどのスペースがあり、簡単な木のテーブルとベンチが据え付けられています。
ここは涼しく、落ち着く場所です。 ここから北を見ると、木々の向こうに水面 が見えます。
<目星>に成功すると、ここから北に獣道のような小道が延びているのが分かります。
そっちに行こうとした時にブライアンがその場にいると、彼は「そちらにはなにも無いですし、危ないですよ。」と言って止めます。
その道を北に数m歩くと湖が見渡せる場所に出ます。簡単な桟橋があり、ボートが繋がれています。
ボートの内部にはロープが置いてあります。
<目星1/2>か<追跡>に成功すると、ボートは何年も使われていなかったのを、最近少し使用された形跡があるのが分かります。
またロープも古いものですが、切り口は最近のものだと分かります。

最近ブライアンが犬や猫を捨てに行くのに何度か使用されています。
死体は血をぬかれていたので、ボートに血痕は残っていません。

 

10.夜までの時間
 探索者達はおそらく休憩所もうろついて、大した収穫がなくてがっかりしているでしょう。
夕食まではそれでも約3〜4時間空いていますが、探索者の方から能動的になにかしたいと言わなければ、何事もなく夕食の時間になります。
きれいな空気を吸って、ゆっくりした休暇だと言えるでしょう。

夕食は町のレストランから取り寄せたステーキがメインディッシュで、それ以外にも地元の名産を使った豪華なメニューが並びます。
大叔父は夕食には出てきません。ブライアンは彼は早めに軽い食事をとってもう休んでいると説明します。
ブライアンは食事中、それとなく探索者達の家族構成や環境などを聞き出そうとします。
また彼はフレディに、すっかり調子も戻ったし、入居したときには変なことを言ってしまったので家主も心配しているかも知れないから、ぜひ彼にも遊びに来るように伝えて欲しいと言います。

カルビムは地下の深部にいます。
地下室への階段の前には車椅子が置かれていますが、キッチンに続くドアは閉まっているので、ドアを開けない限りは見えません。
地下深部への梯子はブライアンがカルビムを背負って降ろし、魔法陣の部屋で新たな猫の死体から血を吸っています。
カルビムははいずって移動しています。

ブライアンが探索者達のことを聞き出そうとする理由は、場合によっては行方不明になってもあまり騒がれないような者がいれば、隙を見て捕らえてカルビムに差し出そうという意図からです。
エリオットを誘うのも、カルビムに血を吸わせるためです。同じ血族の血は特に身体になじみやすいので狙っているのです。

 

11.夜
 各自ベッドにつく頃になると、あたりはたまに遠くでフクロウの鳴き声が聞こえるくらいで、実に静かです。
夜中まで寝ないようにして<CON×5>、聞き耳を立てていると<聞き耳> 、獣とも人間の女性ともつかない遠吠えのような声が聞こえます。
音はくぐもっていて、はっきりどこから聞こえてくるのか判断できませんが、池の方から聞こえるようです(探索者が1階にいれば地下から聞こえます)。
もしこの時にボートで崖の近くに行っていれば、声は崖の水際近くの裂け目から聞こえているのが分かります。

やがて全員が眠りについたら、POW11に対して抵抗ロールを行ってください。
抵抗ロールに失敗した者は、悪夢を見ます。

悪夢

暗闇の中にいます。仰向けに横たわっているようです。
身体を動かそうとしてもまったく動きません。 声を出そうとしても出ず、耳もまったく聞こえません。なのにどこからか、低い声で詠唱が聞こえます。
やがて自分が棺の中にいることに気付き、恐れのあまり気が狂いそうになります。
詠唱はだんだん大きくなり、それが自分の声だと分かります。
暗闇の中に、詠唱に会わせて踊り狂う裸の女がいます。見覚えのある女です。
彼女の喉を切り裂いてやると、真っ赤な血が噴き出します。女は狂ったような笑い声をあげて踊り続けます。自分は夢中でその血を飲んでいます。
全ての輪郭がぼやけはじめ、空を覆う巨大な黒い存在から、祝福のメロディーが送られます。詠唱とメロディーが混じり合い、闇と血も混じり合います。
自分が感動していることに気付きます。

悪夢を見た者は、SANを(1/1d3)とマジックポイントを1失いますが、目が覚めたときには悪夢を見たということしか覚えておらず、夢の内容は思い出せません。

 

12.引き上げ
 翌日はブライアン手作りの朝食をいただき、一休みしたら帰ります。
フレディが昼から仕事が入っているのです。
もし探索者が残りたいと言うと、ブライアンは申し訳ないけど今日は自分も出かけなければならないと遠回しに断ります。
帰り道、心配そうなフレディは昨日悪夢を見たことを話し、ブライアンはどこか変わってしまったように感じ、このままでは大変なことが起こりそうな気もすると話します。しかし本人が困っていない以上、勝手なことをするわけにもいきません。

3日後。
新聞をとっているものは、<目星>に成功すると、チャリスで女の子二人が行方不明になったという記事を見つけます。
行方不明になったのは3日前で、山に入り込んだのではないかと捜索が続けられていると書かれています。 行方不明になったのは、アニーという7歳の少女とエリカという5歳の少女で、二人で遊んでいるのが夕方4時頃に目撃されたのが最後の足跡と言うことです。
その日の昼前に、フレディから探索者に電話があります。

この3日間に探索者に下手に動かれると、プレイ時間が無意味に長くなってしまう可能性が高いので、普段の仕事に追われていたなどと説明し、できるだけ素早く流してしまってください。

 

13.依頼
 フレディは探索者達を雇いたいと申し出ます。
彼はブライアンのことが心配で、更に今日の新聞記事を見て、なにかに巻き込まれているのではないかと恐れています。
探索者を雇うお金は先月コンテストで入賞した賞金で支払います。
調査対象は主にチャリス邸になにが起こっているのか確認することですが、余裕があれば前の住人であるアルフレッドがどうなったのか。その孫であるエリオットがなにを知っているのかも捜査してほしいと頼みます。
そしてもしまた屋敷に行くのならばフレディも同行させてほしいと言います。彼は自分の目で友人に何が起きているのか確認したがっています。

ここからの展開は探索者の判断にかかってきます。
探索者がどのような行動をとるかによって、以下の番号を参照してください。

ベイズの雑貨屋で情報収集 14
アルフレッドの墓を調べる 15
アルフレッドを看取った医者を捜す 16
エリオットと連絡を取る 17
エリカの親の家を探す 18
図書館で調べる 19
役場で調べる 20
チャリス屋敷を見張る 21
再びチャリス屋敷へ行く 22

以下にエンリオ・カルビムの過去を記します。

エンリオ・カルビムの過去

1690年頃にセイレムで吹き荒れた魔女裁判の嵐の中、エンリオ・カルビムは異端審問官の立場であり、何人もの人を拷問してきました。
その押収物から得た知識は、彼を魔術に誘い、本物の魔術師へと変貌させました。
やがて自らの立場も危うくなったカルビムは、エンリオ・タマロフと名乗って、チャリスにやってきました。
チャリスにはルイーズ・チャリスを主とした一族が入植しており、すでにそこそこの町に発展していました。そこにカルビムは自分が一族の遠縁にあたるとだまし、屋敷に入り込みました。
やがて彼はチャリスの娘モニカ・チャリスと結婚し、エンリオ・チャリスとしてチャリス家の実権を握り、その後 しばらくは彼の深い知識が農耕の発展にも貢献し、チャリスは発展していきます。
しかし血なまぐさい事件が頻発し始め、町に不穏な雰囲気が漂い始めます。
モニカは御者と駆け落ちしたということにして、モニカは不死の実験に使い、御者のテッドは殺しました。
エンリオとモニカの間には小さな男の子ゲイリーが残されており、カルビムはゲイリーは大切に育てていました。
ある時すでに青年になっていたゲイリーは父親の正体に気付き、変わり果 てた母親も発見します。
復讐に燃えるゲイリーはエンリオを殺害しようとしますが、彼はすでに不死となっていました。なんとか動きを封じるのに成功したものの、その後どうしようもなくなり、彼を地下室に監禁することにします。
エンリオは自分が死んだときに使うと言って、すでに棺を用意していたので、その中に鎖で縛り付け、蓋も鎖で封印しました。
ゲイリーは自らを呪われた一族だと自覚し、子孫に伝えてゆくことを決心しました。

「地下の封印の間には、その時の管理人以外誰も立ち入ってはならない。」
「封印の間にある棺の蓋は何があろうと開けてはならない。」
「棺に耳を傾けてはならない。」

200年もの長い月日の間、エンリルは棺の中にいました。
弱った彼の精神的従属呪文では、脱出はかないませんでした。
しかしなにも事情を知らず、スランプにより精神的に弱っていたブライアンには彼の精神的接触が少しずつ効果 を現し、2月も過ぎる頃にはある程度彼を操ることが出来るようになりました。
夢でアルフレッドが屋敷に火をつけようとした時に落とした地下室の鍵の場所を伝え、とうとう自身の封印も解かせることに成功しました。
その後はブライアンの大叔父ということにし、車椅子を用意させました。
それからもブライアンを操り、あたりの犬や猫を捕まえてきては血を吸い、少しずつ力を取り戻します。
やがてブライアンから現代の知識は充分引き出したと判断したエンリオは、最後にブライアンに少女二人を誘拐させ、そのうちの一人、アニーを殺して血を吸い、更にブライアンも殺しました。
そしてゴルゴロスのボディ・ワープの呪文によってブライアンの姿に変身したのです。

 

14.ベイズ雑貨店で情報収集
 ベイズはエリカのことを心配しています。
彼はブライアンについては前に話したことくらいしか知りませんが、 アルフレッドに関して質問すると、思慮深くて信仰心の強いいい人だったが、一つ変わったところがあったと話してくれます。
アルフレッドの食事はベイズが数日おきに配達していましたが、 その量が老人とは思えないくらい多く、1.5人分くらいの分量 があり、それが最後まで継続していたのです。
しかし彼はあの屋敷でアルフレッド老人以外の人物は一度も見ませんでした。

 

15.アルフレッドの墓を調べる
 アルフレッドの墓の場所は、町役場に行って聞いてもいいし、そうでなくても町の住人ならほとんどの人が知っています。
アルフレッドの墓のことを訪ねると、「またなにかあったの?」と逆に質問されます。
どういうことか訪ねると、1月ほど前に墓石が倒される事件があったと教えてくれます。
棺を掘り出そうとした形跡もあったらしいです。
夜とは言え一目がまったく無いわけでもないので、途中であきらめて逃げたのではないかということです。
彼の墓は町はずれの小さな教会の脇にある墓地にあります。
確かに墓は一度倒されたらしく、そこだけ土の色が違います。しかし他に特に変わったところはありません。

墓石は、カルビムに操られたブライアンが倒しました。
棺を掘り出そうとしたものの、そのままでは途中で誰かに見つかる危険があると見てあきらめて車で逃げました。
掘り起こそうとした理由は、復活して間もないカルビムが、あわてて同じ血族の血を欲しがったためで、帰りに猫を捕まえて血を吸って落ち着きました。
今では1年も前の死体の血は役にたたないだろうと悟っています。

 

16.アルフレッドを看取った医者を捜す
 当時の新聞を調べるか、町の教会で訪ねるかすれば教えてくれます。
そうでなくても町に医者は数少ないので、誰でもすぐに教えてくれます。
トリヴァー医師は、町はずれの屋敷に住んでいます。
彼は話し好きらしく、お茶など出してくれて、なんでも教えてくれます。

アルフレッドは亡くなる1月ほど前から著しく体調を崩しており、医師はちょくちょく様子を見に行っていました。
アルフレッドがなくなる2日前に、彼がチャリス屋敷に行くと、アルフレッドが屋敷に火をつけようとしているところに出くわしました。
火はなんとか消えましたが、アルフレッドは精神的な影響か、危険な状態でした。
彼を寝室に運び入れ、親族であるエリオットに連絡すると、その日は仕事があるとかで現れず、翌日やって来ました。
そこでの会話は興味深いものでした。
アルフレッドは自分が死んで、この屋敷を相続したら全てを焼き払った後、誰も立ち入らぬ ようにせよと言ったのです。しかもそれを守らなければ恐ろしい呪いが降りかかるとも。
エリオットは驚いて反対しましたが、医師が興奮させてはいけないと注意し、ようやく彼も表面 上は納得して見せました。
その話は他人であるトリヴァー医師が聞いても理由が分からない意味不明なもので、錯乱していたのだろうと説明します。
エリオットはその日の内にニューヨークへ戻り、翌日アルフレッドは亡くなりました。
最後まで屋敷を焼き払えと譫言を言っていました。

最後にトリヴァー医師は「やはり遺言は守られなかったようですな。」と肩をすくめます。

 

17.エリオットと連絡を取る
 フレディの前でエリオットに連絡しようと話すと、彼はそれを止めようとします。
彼にとってはエリオットの信頼を裏切った形なので当然でしょう。
それでも必要だと説き伏せれば渋々納得します。

エリオットに連絡する一番簡単な方法は電話することです。
家も仕事先の番号もフレディは知っています。
ただしエリオットは祖父の遺言を守らなかったくせに、その内容に怖れてもいるので、協力的な態度は期待できません。
なんらかの脅迫のような方法をとれば彼も口を開くかもしれませんが、彼の知っていることはトリヴァー医師の知っていることとほとんど同じです。
ただ一つ、昔からチャリス家には重大な秘密が語り継がれてきているという話を、小さい頃にアルフレッドから聞いたことがあります。

 

18.エリカの親の家を探す
 町のほとんどの人が知っていますが、可哀想だからそっとしておくようにと忠告されます。
エリカの親は半狂乱で、ほとんど話にならず、しまいには余所者である探索者を疑いだします。
さっさと退散した方がいいでしょう。
アニーの親も同様です。

 


19.図書館で調べる
 チャリスには図書館が無いので、近くの町で調べることになります。
最寄りの町はボストンかアーカムです。
古い新聞を調べれば、いくつかの情報が手に入ります。
チャリスの最近の事件を調べるには
3時間かかって<図書館>ロールに成功する必要があります。
見つかるのは、アルフレッド・チャリスの墓が荒らされたという小さな記事です。

チャリスの昔の事件を調べるには
最初に3年の期間で、何年から何年までの新聞を調べるか宣言し、3時間後に <図書館>に成功する必要があります。しかもそれで分かるのはその期間内に起こった事件だけです。
3時間調べる毎に<CON×5>ロールを行い、失敗したらその日はそれ以上調べる気力が続きません。
ただしこのシナリオに関係する事件が起こったのは、新聞が発行される前のことなので、何も情報は得られません。

 

20.役場で調べる
 チャリスの役場で個人情報について調べものをしようと思えば、ある程度の説得力のある交渉が必要になります。
探索者が納得できる説得を行った後、<信用><言いくるめ><説得>の内の、キーパーが会話内容にふさわしいと思えるロールを行い、成功すれば記録を閲覧できます。

エンリオ・カルビムについて
そのような人物の記録はありません。 ブライアンの話ではプロビデンスから来たということなので、当然でしょう。

エンリオ・タマロフについて
1707年頃にチャリスにやって来て、チャリス家に居候した後、モニカ・チャリスと結婚し、チャリス家を継いだ。
1724年8月に行方不明になっている。

モニカ・チャリスについて
ルイーズ・チャリスの一人娘。 後にエンリオ・タマロフと結婚するが、1715年5月に行方不明になる。

ルイーズ・チャリスについて
チャリスの地に最初に入植した。1710年6月に亡くなった。
その後もチャリス家はこの町の中心的一族だったが、孫のゲイリーが1749年に亡くなってからは町の権力から距離をとるようになった。

チャリスの記録を調べる
役場にはわずかながら新聞発行前のチャリスの歴史が残されています。
それを調べて今回の事件に関わりがあると思える記述を探すには、2時間かかります。

1670年頃 ルイーズ・チャリスが妻と共に今のチャリスの地に入植。
1707年10月30日

今年のチャリスのトウモロコシの収穫が、前年の3倍以上に。
これはエンリオ・タマロフ氏の指導によるもの。

1709年10月8日 エンリオ・タマロフがモニカ。チャリスと結婚。正式にチャリス家の一員となった。
1710年1月15日 最近チャリス近辺で飼い犬、飼い猫、家畜が多数行方不明になった。
1710年4月20日 町はずれの墓地で、いくつもの墓が荒らされて遺体が数体盗まれているのが発見される。
1710年6月18日 ルイーズ・チャリス氏が亡くなる。
1710年6月21日 ルイーズ・チャリス氏の墓が暴かれ、遺体が盗まれる。
2ヵ月前の墓荒らしとの関連も含めて調査された。
1715年3月2日 旅行中だった実業家のデレク・カーンスタイン氏が行方不明になる。彼は最後にチャリスで目撃されていた。
1715年5月21日 モニカ・チャリス行方不明になって1週間。
おかかえの御者のテッドも時を同じくして行方不明になっており、様々な噂が囁かれている。
主人のエンリオ・チャリス氏は心痛のあまり病床にふせっている。
1724年7月29日 エンリオ・チャリス氏が出かけたきり一晩たっても戻らず、息子のゲイリー・チャリス氏が捜索を願い出た。
9年前にはエンリオ・チャリス氏の妻モニカも御者のテッドとともに行方不明になったまま。
1724年8月7日 行方不明になって10日たつエンリオ・チャリス氏の捜索が、息子ゲイリー氏の申し出で打ち切られる。
ゲイリー氏によれば、エンリオ氏は妻を亡くして以来感情的になることが多く、最近は自殺をほのめかすようなことも言っていた。
1749年9月6日 ゲイリー・チャリスが亡くなる。

これは要するに1700年代の始め頃、エンリオ・タマロフという男がチャリス家に取り入り、当主の娘モニカと結婚しましたが、いくつかの怪奇な事件があり、モニカは御者と駆け落ちし、エンリオも行方不明になったという内容です。
表そのままでは情報量が多すぎて混乱するようなら、そのように説明してください。

エンリオ・タマロフとはエンリオ・カルビムの偽名で、セイレムにいた頃はもちろんカルビムと名乗っていました。
現代(1920年代)では今更偽名もなかろうと思い、本名のカルビムを名乗っています。

 

21.チャリス屋敷を見張る
 チャリス屋敷は森に囲まれた丘の頂きにあるので、監視する場所は近くの木の陰か、木の上くらいしかありません。
また車で近寄ろうとすると、静かな場所なので音が聞こえてしまうでしょう。他に建物などが無い以上、車の音が聞こえて誰も訪ねてこなかったら住人に不振に思われる可能性が高いでしょう。
車の音が聞こえない程度離れた場所まで車で行くと、車を降りてからチャリス邸まで10分は歩くことになります。
どちらにしろ、フレディは行方不明の女の子も心配だし、こんなのんびりしてられないと焦っています。

夜のチャリス邸はほとんど明かりが灯っていません。
たまにブライアンがフォードに乗って出かけてゆきます。彼は運転が驚くほど下手で、少しでもスピードを出そうものなら事故になるのは間違いなさそうです。
他に明かりもないので、夜間気付かれないように後をつけるのは不可能でしょう。

昼はブライアンはほとんど外出しません。
たまにベイズが食料らしきものを配達しに来ます。
後でベイズに聞いてみると、確かに食料を配達していると教えてくれます。
彼はブライアンがどんな人間だったのかはあまり知らないので、その変化はよく分からないと言います。相変わらず陰気な感じだったと説明します。

夜に湖の方へ行ってみると、 <聞き耳>に成功した人は、どこからか女の子の泣き声が聞こえるような気がします。
どこから聞こえてくるのかははっきりしませんが、チャリス邸の建っている崖の下の方から聞こえるような気がします。
声はすぐに止みます。

 

22.再びチャリス屋敷へ行く
 チャリス屋敷には、昼はいつもブライアンがいます。
夜はたまに出かけてゆくので、留守を狙って忍び込むのは可能かもしれません。
もし正面から訪ねてゆくと、ブライアンが出迎えますが、彼はすっかり雰囲気が変わっています。

実はブライアンはすでに殺されており、出迎えたのはブライアンに変身したカルビムです。
彼はアニーの血でほとんど力を取り戻し、もう十分だとブライアンも殺して血を吸いました。エリカは地下の独房でまだ生かされていますが、それも時間の問題でしょう。

彼は声はブライアンを真似ていますが、しゃべり方はどうしても古風なものになります。また1920年代の文化も付け焼き刃なので、ぼろが出るのを怖れてまともに話の相手にはならないようにしています。
もちろんブライアンが得意だった料理など出来ようはずもなく、なにか作ってくれと頼んだら自分は女中ではないと怒ります。
自動車の運転はブライアンに習いましたが、もちろん極めてへたくそです。

顔色が悪く、前より痩せたように見えます。そのせいか不機嫌なようで、まともに話をしようともせず、探索者を追い返そうとします。
フレディにさえ同じような対応をします。
フレディは彼がブライアンではない。または人格と記憶が変化してしまっていると確信します。
ブライアンがしゃべっているときに<目星1/2>に成功すると、立派な犬歯を持っているのに気付きます。探索者は確信が持てないでしょうが、フレディは前のブライアンはそんなことは無かったと知っています。
チャリス邸にドアから一歩でも踏み入れると、中は異様な悪臭が立ちこめているのに気付きます。腐敗臭のようです。

このシナリオは、どういう道筋を通ろうと、結局は探索者が屋敷の地下の最深部に入らないと進まなくなります。
特に後半、情報収集が一段落してからは、なかなか屋敷に入るきっかけが作りにくいようです。
ですからプレイヤーがどんなものであれ屋敷に入る計略を思いついたら、少しくらいカルビムが無防備すぎると思える対応でちょうどよいでしょう。
元々カルビムは時代錯誤の自信過剰の一夜漬け魔術師なので、現代人(1920年代の人々)のことはなめてかかっているのです。

 

23.あらためて馬屋を調べる
 <目星>で、入り口と奥に前にはなかった車でぶつけた跡が出来ているのに気付きます。
車の前後もぶつけた跡が出来ています。
これはカルビムが運転の練習をした結果です。
車のトランクを開けて<錠前>、中を詳しく調べると<目星>または<追跡>、中の壁に泥の跡が見つかります。子どもの靴底が蹴ってつけた跡のようにも見えます。
<目星1/2>か<追跡>にも成功していれば、短くて細い栗色の毛も見つかります。人間のもののようにも思えます。
※エリカの頭髪です。

 

24.アトリエ
 2度目以降ににチャリス屋敷を訪れた時には、ドアの鍵は開いています。
部屋は元は異なる目的で作られたのでしょうが、今では完全にアトリエになっています。
照明はなく、カーテンを開けるか明かりを用意する化しないと暗くてはっきりとは識別 できません。
乱雑に画材が置かれ、部屋の隅にはカンバスが重ねて立てかけられているようです。
また小さな椅子の前のイーゼルには、描きかけの絵らしい物がありますが、暗いので絵かは確認できません。

部屋の中央にはドアに背を向けて車椅子に座った大叔父の姿があります。
前に回り込んで見てみると、それは変わり果てた姿のブライアン・ロッホだと分かります。
彼は全身の血を抜かれており、首は大きく切り裂かれていて、恐ろしい恐怖の表情で事切れています。
彼の痛ましい死体を見た者はSANを(1/1d3)失います。

イーゼルの絵は、ブライアンの描きかけの油絵です。
明かりを確保して見ると、彼の爽やかな画風とはまったく異なり、まさに悪夢のような絵だと分かります。
絵は棺の中で苦しむ男を中心に、何人もの男女がもだえ苦しんでいるらしい情景で、赤黒い色使いは地獄の光景を思わせ、背筋に冷たいものが走ります。
この絵をはっきりと見た者は、SANを(0/1)失います。
またフレディがこの絵を見れば、雰囲気はまったく違いますが、確かにブライアンのタッチだと確認します。

 

25.地下室
 地下室にはボイラーがあり、薪と燃料と小麦などの袋が積まれています。
階段を下りたすぐ右の壁にランプが引っかけられています。
壁は板張りで、床は石が貼られています。
ボイラーの前には、椅子代わりらしい直径1mほどの大きな石が置かれています。 石を動かそうとしても、固定されているらしく、びくともしません。
石のまわりの床をよく見れば<目星>、石の直径より少し狭い2本の傷跡が平行に1.5mほど石から伸びているのが分かります。
その方向に石を押してもやはり動きません。
石をよく観察すると<目星>、対角線上に4箇所、縦に切れ込みが入っているのに気付きます。
<アイデア>に成功すると、切れ込みはちょうど指が入るほどの幅だと分かります。
切れ込みに指を入れて引っ張ると、石は回転した後、横にずらすことが出来ます。
石をずらした後には、四角い穴があり、梯子がかかっています。
穴の中からは吐き気をもよおす強烈な悪臭が吹き出しています。

地下の最深部の地図です。
研究室、魔法陣の部屋、棺の間の扉は木製で、鍵もかかっていません。
それ以外の扉は金属製で、梯子の部屋の扉以外は鍵がかけられています。

A.梯子
何度も補修された形跡のある金属の梯子です。
降りたところは狭い部屋になっており、丈夫そうな金属の扉があります。壁にはランプが掛けられています。
扉には金属のプレートが取り付けられており、文字が掘られています。
「チャリス家の家長以外立ち入りを禁ずる。破った者には恐ろしい呪いが降りかかるものと思え」
扉の前には外された鉄の閂が落ちています。

扉を開けると、幅1.5mほどの通路になっています。

B.研究室
南側の半分は書斎のようになっており、北の半分は実験室になっています。
実験室には大きな長方形のテーブルがあり、壁には作りつけの棚があります。棚にはフラスコなどの様々な研究器具が並べられています。
南の書斎のまわりの壁は作りつけの本棚になっており、本と書類が入っています。
本はオカルト関係のものが多いようです。
書類もそのような内容ですが、本の書き込みも書類のものも、筆跡がバラバラです。 一番多いのがカルビムの筆跡らしいですが、どうも他人の持ち物だった本や書類を研究していたふしがあります。
ここには「サセックス草稿」と、「妖蛆の秘密」の不完全な写本があります。

妖蛆の秘密(不完全な写本)
ラテン語
正気度喪失1D4/1D6
<クトゥルフ神話> に+8%
呪文倍数×2

サセックス草稿に関しては、ルールブックを参照してください。

書斎の書きもの机には、ランプと本が数冊、筆記用具、銀製らしい十字架の台座付きの置物が置かれています。
置物は降るとカラカラと音がします。
机にはいくつか引き出しがあり、その1つには鍵がかかっています。
十字架の置物は、台座部分がスライドするようになっており、その中に引き出しの鍵が入っていmす。 引き出しは丈夫ですが木製なので、無理に壊して開けることもできます。
ひきだしの中にはアルフレッドの手記があります。

アルフレッド手記

歴代のチャリス家に科されてきた宿命も、私で最後になるだろう。
これまで半世紀年以上にわたって宿命を受け入れて守ってきたが、妻子には先立たれ、これ以上一族に重荷を背負わせるつもりもない。
呪縛からの解放の日が迫っているのが私には分かる。
その時初めて私の魂は浄化されるだろう。
その前に、一族の誓いをあえて破った者の懺悔として、この手記を残そうと思う。

私が一族の秘密を受け継いだのは、1872年の9月18日だった。
父の容態が悪化し、自分でも死期が近いと悟ったのだろう、私を地下室に案内したのだ。 まだ二十歳にも達していなかった私は、あまりの驚きと恐怖に言葉もなかったが、やがて引き継がなければならない秘密があるのは幼少の頃から聞かされていたので、なんとか正気を保つことが出来た。
しかしなんという運命か。
棺の中でうめき続ける男。
檻の中で飢え続ける女性。
彼らはもう200年もそうして死にながら生きているのだ。
しかも彼らはチャリス家の祖先であり、夫婦だったのだ。
棺の中の男、エンリオ・カルビムがチャリス家に現れたのは1700年頃らしい。
最初はうさんくさい男だと思われていたが、彼の様々な知識はこの辺りの痩せた土地にも豊作を呼び寄せ、家畜の乳の出もすばらしく改善されるもので、その成果 で彼は自分の地位を築き、やがてチャリス家の一人娘であるモニカと結婚した。
しばらくは幸せな時が続いたが、やがてチャリスの村に血なまぐさい事件が起こり始めた。 実はカルビムはセイレムから逃れてきた魔術師であり、その正体を現しつつあったのだ。
若い御者と駆け落ちしてそのまま行方不明になったと伝えられているモニカは、本当はエンリオの正体を知り、屋敷から逃げ出したが捕まり、恐るべき実験により、忌まわしい呪いをかけられた。
今地下牢で涎を流しているのが哀れなモニカのなれの果てなのだ。
母の運命を知った一人息子のゲイリーは、父であるエンリオに復讐しようとしたが、それも予期していたのか、エンリオは自分も不死の存在になっていた。
跡形も残らないほどに焼き尽くせば殺すことも出来るだろうが、実の両親にそんなことは出来なかったのだろう。
もはや選択肢は見あたらず、チャリス一族はその不死の呪いを秘密にし、地下室に封じ込めて子孫に伝えていった。
その呪いの最後の継承者が私と言うわけである。
毎日のようにエンリオの譫言を聞き、哀れなモニカには食料を与えた。
しかしもうこんな事は私の代で終わらせるべきである。 この屋敷に火を放ち、不死者も私も全てを灰にすればよい。
ゲイリーが出来なかったことを、私が行うのだ。
長かった苦悩の日々も終わりを告げ、私やモニカの魂も解放されるはずだ。
だが私の身体は日に日に弱っており、全ての仕事をやり終えることが出来るのか、不安もある。
伝え聞いた話では、不死の者を滅ぼすフェッチ棒という物が存在しているらしい。
フェッチ棒は、エンリオ・カルビム自身が不死の研究を行う上で、事故に対処するために作った呪われた槍であり、不死の者を永遠の眠りにつかせることが出来るといわれている。
ただしこれはゲイリー・チャリスがカルビム本人から聞いた話としか伝わっておらず、私も屋敷のあらゆる場所を探してみたが発見できなかった。
あるいは自らの呪われた運命に希望を見いだすために、ゲイリーが創作したことかもしれぬ 。

1925年5月28日
アルフレッド・チャリス

C.魔法陣の部屋
部屋の中央に大きく複雑な魔法陣が描かれています。
まわりの壁や床には赤黒い染みが多数ついています。
行方不明だったアニーの変わり果てた遺体と、状況によってはエリオットの死体もあります。
二人とも身体中の血を抜かれています。

D.岩
壁に大きな岩が露出しています。
どうやら地下道を掘り進むうちにこの岩にぶつかり、コースを左に向けたようです。

E.棺の間
扉にプレートがあり、以下のように書かれています。
「棺の蓋を開けてはならない。」
「棺に耳を傾けてはならない。」
奥の壁に十字架が配された祭壇があり、その手前に分厚く立派な棺が置かれています。
棺には鎖で封印がされており、鎖は留め金でとめられていたようですが、その鍵は外されています。鍵は壁にぶら下げてあります。
棺の蓋には「エンリオ・タマロフ」と掘られており、更にプレートがつけられており、
「何者もこれを開けることを禁ずる ゲイリー・チャリス」
とあります。
棺の中は空で、更に鍵付きの鎖が外されたものが落ちています。

棺は2重底になっています。
具体的に2重底になっていないかと疑惑をもって調べた場合のみそれが分かります。
底板は丈夫で厚い木製なので、なんらかの道具が無くては壊せません。
底板を破るまたはひっぺがすと、中に竹製の槍が入っています。 矢先は血の染みがこびりついた鉄製で、矢尻には人間の頭蓋骨のついています。
<アイデア>に成功すれば、これが200年前のものならば、こんな状態で鉄の矢先が錆びもせずに保存されているのは不自然だと分かります。
これはフェッチ棒です。

フェッチ棒
基本命中率 20%   ダメージ 1D6+db  耐久力20
竹の棒に鉄の矢尻、反対側には人間の頭蓋骨がつけられた槍で、全体に血の跡が染みついています。
魔法の武器として扱われる上に、アンデッドに対して攻撃が貫通すると、アンデッドは一瞬で塵になります。
貫通しなくても、この武器のダメージ(貫通しなければ最低ダメージですが)はカルビムもモニカも回復できません。
詳しい説明はルール・ブックを参照してください。

F〜H.独房
全ての扉に外からしか開けられない閂がかけられています。
扉には鉄格子付きの窓があり、中を覗くことが出来ます。扉の下方には小さなドアがあり、こちらは自由に開けることが出来ますが、人間が通 り抜けるには小さすぎます。これは食事を与えるための小窓のようです。
Hの部屋には弱って意識を無くしているエリカがいます。

I.岩牢
扉は独房とまったく同じですが、扉の横にはランプがかけられています。
この部屋からは特にひどい悪臭がします。
広い部屋で、奥にボロを着た若い(20代に見える)女性らしき人間がうずくまっています(モニカです)。
<目星>に成功すれば、呼吸している様子が無いので死体だと分かります。
女性の死体の横には、白骨化した男らしき死体があります。服装をよく観察すれば、御者の服らしいと分かります(モニカと一緒に行方不明になった御者テッドです) 。
部屋の隅に金属で出来た蓋があり、閂がかけられています。これを開けると1mほどの穴が開いています。穴はそこが見えないほど深く、どうやら湖に通 じているようです。
女の声が湖から聞こえてくるように思ったのは、この穴から音がもれていたのです。

モニカは、扉の小窓が閉じられた音がすると、恐るべきスピードで走ってきて、そこに食事が無ければ暴れます。 白目をむき、口からは血とも涎ともつかない液体を垂らしています。
肌はふやけたような白で、所々破れて中の骨などが見えています。
ドアが開けられると襲いかかってきます。

●モニカ
常軌を逸した高齢だが、姿は20代で止まっている。 生ける屍
筋力(STR) 15  敏捷力(DEX) 15  知力(INT) 1
体力(CON) 11  サイズ(SIZ) 9  精神(POW) 2
外見(APP) 1  SAN値 0 教養(EDU) 1
耐久力 10

攻撃 噛みつき 35% ダメージ1D6
引っ掻き 50% ダメージ1D3
装甲

毎ラウンド耐久力を1回復する。
貫通する武器では最低限しかダメージを与えられない。
耐久力が0になっても、身体が消失しない限りは死なない。

動くモニカを見た者は、SANを1/1D6失います。

彼女はテッドの死体を守ろうとし、いったんテッドを引き寄せて興奮させてから彼女に戻すと、おとなしく死体を抱きしめてうずくまります。
その隙に部屋を出てドアを閉めることが出来ます。
彼女は長年普通の食事を与えられてきたので、現在は血は吸えません。

モニカとの遭遇は、テッドの存在がアピールされないと、収集のつかない事態になる可能性があります。
探索者があやまってテッドの遺体を踏んでしまい、モニカがあわてて取り戻そうとするなど、キーパーはこの遭遇が探索者にとって重大なダメージにならないように気をつけてください。

 

26.エリオット
タイミングを見計らって、エリオットを登場させてください。
探索者達が地下の最深部を発見して、いざこれからカルビムと対決しようという時がいいでしょう。
エリオットと探索者が話をすることになれば、 エリオットはブライアンからの招待状が来たと説明します。
手紙を見せてくれと頼んでも家に置いてきたと言います。
フレディはどんなに自分が誘っても来ようとしなかったのに、なぜいきなりエリオットが来る気になったのか分かりません。

探索者の聞いているところで、エリオットとカルビムがチャリス一族の秘密について会話をするというのが、ドラマとしては理想的展開と言えるでしょう。
もしエリオットが殺されてしまうようなら、死を悟ったエリオットは、遺言のことを話し、探索者に屋敷に火をつけるように頼みます。
エリットが生き残った場合は、彼は今すぐに自分で遺言を果たそうとします。

エリオットに届いた手紙

古風な書体で以下のように書かれています。

「我チャリス屋敷の秘密を発見せし故、家主であるエリオット氏に拝見していただきたく候。一日も早く屋敷に来られたく思い申す。故アルフレッド翁の望みもその時に果 たされん。--- ブライアン・ロッホ」

この手紙はカルビムが同じ血族の血を欲しているため、エリオットをおびき寄せようと書いたものです。

エリオットは遺言を実行していないことを人に知られたくないため、誰にも手紙を見せようとしません。

エリオットは高級車で来ており、その車をフレディが見れば、エリオットのものだと分かります。

 

27.終幕
 おそらく最終段階で対決することになるエンリオ・カルビムは、数日前にゴルゴロスのボディ・ワープの呪文を使っているのでPOWが20に減っています。
彼は卑怯で自分勝手で自信過剰です。
もし探索者に追求されたら、最初は自分はブライアンだと言い張り、それが駄 目なら自分を傷つけるとブライアンも傷つくことになるなどと嘘を並べ立て、最終的には手近な者に噛みつこうとします。
首尾よく探索者がフェッチ棒を見つけて使っていれば、攻撃が貫通すればカルビムは一瞬にして塵になります。 モニカに使用しても同じです。
カルビムが勝てそうにないと判断し、その時が夜であれば彼は中庭に走り出て、最後の手段でビヤーキーを召還しようとします。彼はこの呪文を使うのは初めてなので、なんらかのトラブルが発生するかもしれません。
フェッチ棒が貫通したのが中庭に出てからであれば、頭まで塵になる前に、池に飛び込んで行方をくらますという展開もあり得ます。

エンリオ・カルビムを滅ぼせばシナリオは成功ですが、彼が屋敷の炎の中で姿を消すという終わり方もあり得るでしょう。
もちろんカルビムが逃げてしまって終わる可能性もあります。その場合は彼との決着は次回以降のシナリオに持ち越されることになります。

エリカを救出し、エンリオ・カルビムを滅ぼすことに成功したら、探索者は全員2D4のSANを獲得します。エリカを救出できていなかったら、SANの獲得は1D4で、後述するボーナスも無くなります。
更にフェッチ棒を発見した者はSANを1D4、実際にエンリオ・カルビムにとどめをさした者はSANを1D4獲得します。
エンリオ・カルビムを撃退、または屋敷ごと燃やすなどして完全に滅ぼしたと確認できなかった場合は、全員SANを1D4獲得します。

 

28.最後に
 このシナリオは、ラヴクラフトらしさの表現を重視しているので、展開に直接関係ない情報が多数用意されています。
もしもっとシンプルなシナリオとして楽しみたいと思う場合は、フレディの依頼内容を「なんらかの方法で屋敷に潜入して、中でなにが起こっているのか確認する」という具体的なものにしてください。
またトリヴァー医師は偶然屋敷の様子を見に来たところで遭遇させ、カルビムの正体その他は、最後の対決時に本人からしゃべらせればスピーデイーに展開する筈です。

そもそもフレディの存在自体が、キャンペーンシナリオの狂言回し的な立場として設定されているので、シンプルなシナリオを楽しみたいのであれば、フレディはカットして、ブライアンをPCの直接の友人にしてしまえばいいでしょう。





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