ニャルラトテップの仮面

1925年初頭、ニューヨーク。とある夜のこと、あなたは古い友人であるジャクソン・エライアスから電報を受け取った。
「かーらいるタンケンタイニカンシ、ジョウホウアリ  タンサクちーむ ヲソシキサレタシ 1ガツ15ニチにゅーよーくニトウチャクス」
タフで落ち着いたエライアスは、カルト教団の単独潜入取材などを得意とする、フリーのベテランジャーナリストである。随分危険な目にあってきたにも関わらず、持ち前の機転で難事を切り抜けてきた才覚のある人物で、滅多に他者と組むことはなかった筈だ。そうした彼の一匹狼的性情を知っているあなたとしては、こうして初めて助力を欲してきたことにやや不穏なものを感じている。
カーライル探検隊についても、成金の坊ちゃん当主の道楽である考古学旅行、という新聞記事程度の知識しかなく、さして重大な事件だという認識もなかった。それが、何故…?
とはいえ、彼はあなたの数年来の親友である。助けを求めるエライアスのために動くことはまったくやぶさかでない。充分に信頼できる仲間たちに声をかけ、即席ではあるが機動力に溢れた頼もしい探索チームを編成し、彼の連絡を待った。
1月15日。待ちに待ったあなたのもとにエライアスからの電話が鳴る。 所在の知れなかった親友は数年来の再会を懐かしむでもなかく、「チェルシー・ホテル、410号室で20時に落ちあおう」と事務的に放した途端、ぷつりと電話を切ってしまった。
その押し殺したような声色には、これまで聞いたことのなかったような焦りと混乱、恐怖が色濃く滲み出ているようで、あなたに奇妙な、おぞけだった余韻を残した。
仲間たちに連絡を回すと、身づくろいも早々、あなたは家を飛びだした…

梗概 「クトゥルフ」市販シナリオ中でも長大なボリュームを誇り、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、(場合によってはオーストラリア)アジアと5つの大陸をまたにかける、文字通 り地球規模で繰り広げられるキャンペーンがこの『ニャルラトテップの仮面 』です。
人気・知名度ともに高いこの外なる神の名に恥じないデッドリーな内容となっており、冒険は数々の生命の危機と、それを上回る精神の危機に溢れています。
探索者は想像を絶する異国の驚異に目を見張り、幾重にも張られた邪教徒の陰謀の魔手をくぐり抜け、ほんのわずかな希望を糧に、宇宙的恐怖から人類を救うための絶望的な戦いに身を投じなくてはなりません。
通常のボックス版と、後にオーストラリアの章を加えたソフトカバー版である「ニャルラトテップの仮面
・完全版」の2種類が存在しますが、ジャケットに関しては、個人的には「クトゥルフ」関連のアートワークでも1,2を争う美麗さだと感じるボックス版に軍配をあげたいところです(笑)。
なお、ボックス版で「冗長になるから」という理由でオミットされた(もったいない…)オーストラリアの章は絶版サプリメント『TERROR AUSTRALIS』に収録されている模様です。

シナリオ構成(一部キーパー用情報あり)
 シナリオは以下の5部構成となっています。どの章も最低数回のプレイを要するボリュームです。
第1章…ニューヨーク 第2章…ロンドン 第3章…カイロ 第4章…ケニヤ 第5章…上海
スタートは必ず第1章からとなりますが、以降は章ごとの連綿とした流れではなく、入手した手がかりとプレイヤーの行動如何でどの国にも行ってしまう可能性があります(一応、章通 りに進行していくのが理想的なルートではありますが…)。
キーパーは自分なりのシナリオ進行ガイドを作成する必要があるでしょう。この際、各国の国情、気候風土、風俗、通 貨単位などの簡単な情報を調べておくと、異国描写がいきいきとしてきます。
各章(国)の移動間のシナリオは特に設定されていないので、「さて○日後、君たちの船はジャンク船の行き交う上海港の入り江に停泊した」でもいいのですが、途上の幕間劇を自作したり、首尾いかんによっては探索者の助力になるような、ちょっとしたショートシナリオを考えるのも面 白いかも知れません(他国で有力な助けとなる協力者と知りあいになる、たまたま同じ客船に精神科医が乗船していて航海の間「精神分析」を施してくれる(笑)、など)。旅の醍醐味も伝わりますし、なにしろ厳しいシナリオなので、幕間くらいはPCに息抜き用のサービスをしてあげても構わないでしょう。
また、『クトゥルフの呼び声』のシナリオには往々にしてありがちなことですが、物語通 りに進行していては全滅の憂き目はほぼ免れません。ガイドにも書いてあるように「2代目」を用意するのも(ゲームの厳しさを強調する意味合いからも)いいのですが、それにも限度があります。杓子定規にシナリオをとらえず、要所では柔軟な処理をしていけばいいかと思われます。

  ゲームバランス調整、進行管理、膨大なNPCの取り扱い等々キーパー泣かせのシナリオですが、それでもエキゾチックな異国を舞台に繰り広げられる驚天動地の冒険旅行である本作は、非常に魅惑的な逸品です。
機会があれば、ぜひ一度挑戦してみてください。

テキスト@2c氏
(ありがとうございました/化夢宇留仁)