闇の黄金郷(エルドラード)
富士見文庫/昭和61年12月10日初版
森田繁著/スタジオぬえ制作/高千穂遙原案
パラグラフ数 322

 第1次大戦中、大陸で諜報活動を行っていた神崎史郎は、戦後高校教師をしていたが、生徒を集めて賭場を開いて首に。
金に困って家に転がっていた古いツボを売ろうと手に取ると、それが異常に重いことに気がついた。
割ってみると、中から出てきたのは奇妙な文章と、黄金だった。
史郎はツボに書かれていた文字に従い、中国へ向かった。
「黄金の都」を探して。

 この本はやたらに売れたらしい。
と言うのも、化夢宇留仁は今までこの本を少なくとも5冊手に入れているのだ(汗)。
最初に手に入れたのは普通に本屋で買ったのだと思う。それ以降は全てオークションで何冊かセットのものを落札して集まってきたのだ(汗)。
「売られやすい本」なのも間違いなさそうだが(笑)、それなりに売れた本だというのも確かだろう。
なにがよかったのだろうか。表紙?内容?
ゲームブック云々以前に興味深いところである。

 さて内容だが、ペラペラめくっただけで他のゲームブックとは雰囲気が異なるのが分かる。やたらに漢字が多くて長めのパラグラフが並び、たまに出てくるイラストは佐藤道明、田中由利の渋くて雰囲気のあるもの。
著者はと言えば、スタジオぬえのバリバリのライターである。
どうやら結構なお金をかけて作られたらしい。
あ、それで発行部数も多かったので今やたらと出回っているのか(笑)。
 ゲームを始めると、読みやすい文章に邪魔にならないくらいの数値チェックで、ゲームと言うよりもパラグラフ小説という印象が強い。
物語はいかにもな冒険小説風で、若い美女と一緒に幾多の組織を敵に回して謎に迫ってゆくのはなかなか痛快である。
それなりによく出来ていると思う。
しかしゲームブックとしては物足りないと感じる人も多いだろう。
これと言って難しい謎があるわけでもなく、映画を見ているように物語が進んでゆくのだから。
 これと言った癖の無い本書だが、一つ面白い特徴がある。
金の管理がやたらに細かいのだ。
喫茶店に入ったら2元、飛行機の燃料補給で200元、食事をして20元と、金額の大小に関わらずしっかりと払わされる。
これはカジノのシーンもあるし、マネーゲームとしても楽しめるようにという配慮かもしれないが、同時に変に現実的な雰囲気も漂って楽しい。
ただし金が足りなかった場合の行き先パラグラフが書かれていないのは困ったものである。
生命力1点を消費すると3元に替えられるという奇妙なルールがあるが、これを使えと言うことか(汗)。
 経験値の使い方も少々変わっている。
好きなときに経験値2を戦闘力1として加算できるのだ。しかもどうやらそのまま上がったままらしい。
この経験値を使うことで、最初の戦闘力が最低でもクリア可能なバランスに設定されているとしたらなかなか見事な処理だと言えるが、どうも大雑把らしい(笑)。
  まあたまにはこういうのも楽しいと思う。

 あ、そうそう、治ってる版もあるかもしれないが、パラグラフ42の行き先が42になっている。
正しくは行き先は43だそうな。
化夢宇留仁の持っている内の1冊には「お詫びと訂正」の紙がはさまっていたのだ(笑)

20070702


魔境遊撃隊 ナイルの呼び声
富士見文庫/昭和61年4月30日初版
栗本薫原作/永橋隆著
パラグラフ数 341

 数年前、「魔境遊撃隊」の一員として大冒険を繰り広げた新鋭作家栗本薫のところに、薄汚れた手紙が届いた。
差出人は印南薫。遊撃隊のリーダーだった美少年である。
しかも今度は彼は誘拐され、どこともしれぬ所に閉じこめられているという・・・・・・。

 栗本薫の「魔境遊撃隊」の続編の体をとったゲームブック作品。
元が小説やアニメなどで、ゲームブックで続編を描いた作品は今まで面白かった試しがなかったので、本作もまったく期待していなかったのだが・・・・・・意外にいける。
と言うか、実に原作の雰囲気を忠実に再現しており、メインキャラクター達も毒のあるところもそのままに、自然にストーリーに絡まっているのが素晴らしい。
ストーリーはいかにもありがちなのだが、王道と言えるもので、主人公栗本薫の心情を挟みつつ、ちゃんと選べる選択肢で構成されており、好感が持てる。
 ゲームブックとしては、物語の大筋は一本道なのだが、同じように見えても微妙にことなる道をうまく用意していて、異なる選択肢を選んだときの楽しみもしっかり味わえる。
 戦闘システムはファイティング・ファンタジーのそれとほとんど同じでシンプル。
それ以外の、あまり表立ちはしないがゲームブック作品の骨格と言える部分のシステムに神経が行き届いている。
まず戦闘時のこちらの戦力だが、主人公のそれは勿論のこと、仲間の増減、乗り物などによっても変化するようになっている。
単純だがこれは実に効果的で、仲間が増えたときに戦力が増せば単純に嬉しいし、仲間と別れて戦力が減れば悲しい。システムが、主人公の感情に読者が近づけるように後押ししているのだ。
また情報点というシステム。最初は情報を数値の増減で表すのはどうかと思ったが、最後の迷宮において、その情報点を支払うことで、各所にある古代の史跡の意味を知ることが出来るというのには「なるほど!」と掌を打った。
まさに情報のゲーム的処理。
これぞゲームブックのためのものと言えるバランスのとれたシステムである。
こういう目立たないところでしっかりと筋の通ったアイデアを活かしてくれていると、それだけで嬉しくなる。
その他にも読者の記憶を試す選択肢など、興味深い試みが成されている。
 問題も無いことはない。
化夢宇留仁は通勤中に電車の中で読んでいたので戦闘は全て勝ったとみなして進めていたのだが、後半の敵の強さはなかなかのもので、上記のシステムからすれば、仲間が揃っていないと勝つのは難しい。
それはそれでシステムを活かしていていいのだが、なぜか最後の方に出てくる「大男」など、1人の単なる人間なのに、こっちのパーティー全員と渡り合える戦力を持っているのは納得がいかない。
そこではゲーム性は置いておいて、仲間を率いて圧倒的に強いと言うところを楽しみたかったところである。

20070731


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