ルパン三世ゲームブック
 2007年6月現在で全19冊を数える(もう出ないと思うけど/笑)同じ主人公では最長と思われるゲームブックシリーズ。
量からすれば日本を代表するゲームブックシリーズと言えるだろう。
長いシリーズを続けられたのはルパンというキャラクターは勿論だが、著者がばらばらというのも大きな要員だと思う。
1人で書いていたら大変なのは当然だが、著者が変わることによって1冊1冊を新鮮な内容に出来、出版頻度も高めることで読者を惹きつけ続けることが出来たのではなかろうか。

 システムも作品によって異なるが、基本的にはシンプルで、サイコロさえいらない。
これもゲームブックに慣れていないルパン三世ファンを意識した心憎い選択だと思う。
双葉社と言えばファミコンを題材にした質の悪い(これも考え方による)ゲームブックを乱発していたことで有名だが、読者のニーズを捉えるという点では他の出版社よりも抜きん出ていたと思う。


ルパン三世 さらば愛しきハリウッド
双葉文庫
吉岡平/スタジオ・ハード編
パラグラフ数 400

 全19作という長寿を誇るゲームブックシリーズの第1作。
ルパンが1930年代に撮影された映画のフィルムを盗み出すためにハリウッドの映画撮影に参加したり、陰謀に巻き込まれたりするという内容で、ストーリー的にはこれと言って目新しいものではない。
しかし面白い。
ゲゲゲの鬼太郎ゲームブックでもそうだったが、吉岡平は既成のキャラを活かすのがうまい。
雰囲気もそのままで、セリフも気が利いていて、思わずにやりとさせられることも幾たびか。
 ただし完成度という点では少々首をひねるところも散見された。
まずはルパンがなぜフィルムを盗もうとしているのか、実際そのフィルムを盗むまで読者にも明かされないということ。
ゲームブックの読者はゲームブックの主人公と一心同体が普通である。
なぜなら行動の選択を行うのは読者であり、その選択が正しいかどうかを予想するには目的が分かっている必要があるのだ。
予想がまったく出来ない状態での選択は、選択とは呼べない。サイコロを振って選ぶのと大差ないのだ。
またモチベーションという意味でも、様々な困難を乗り越えて向かう先が分からないというのでは、困難に立ち向かう気力も湧いてこない。
幸い本作ではなにしろ主人公がルパンということもあり、読者(つまり化夢宇留仁)は観客の立場に慣れているので、やる気を無くすほどではなかったが、それでもやはり違和感は感じた。
 まあフィルムの内容上、ゲームが進むまで明かすわけにはいかなかったという事情は分かる。
なにしろフィルムを盗む目的はあくまでルパンのみが感じるものであり、読者にとっては疑似体験が難しい種類のものなのだ。
化夢宇留仁だったら、冒頭に内容は明かさないが雰囲気を伝えるイメージシーンを追加したところである。
読者にはそれをヒントにフィルムの内容の予測も楽しませることで、視点のおかしさから目をそらせるのだ(笑)。
 システムにも少々首をひねった。
最初に体力ポイント、武器ポイント、情報ポイントの3つの能力値に合計10ポイントを割り振るのだが、サイコロは一切使わない。
状況に応じてその時点で該当する能力値がいくつ以上だったかで分岐する訳だが、このシステムを活かすためには能力値の増減を詳細にコントロールする必要がある。
しかし本作ではそれが結構いい加減で、なぜ上がるのか(また下がるのか)、よく分からないことが多く、結果分岐したときも強制された感がどうしても残ってしまうのだ。
それにとにかく文章がよく出来ているので、そういう杓子定規なゲーム性が邪魔に感じるというのもある。
 というわけで完成度はもう一つな作品だが、もう一度言う。
この作品は面白い。
上で長々と書いた不満点は文章がよく出来ていたからこそ逆に気になったというレベルで、とにかく自分がルパン三世になったような気分を味わえるという究極の目的は果たされているのだ。


ルパン三世 黄金のデッド・チェイス
双葉文庫
樋口明雄/スタジオ・ハード編
パラグラフ数 400

 ルパン三世ゲームブックシリーズ4(ゲームブックシリーズ5)。
南米でルパンが死んだという噂が流れる。
その後しばらくして、ロスのダグラス・スタウトという探偵が来日した。
彼は御陽師の末裔である綾辺一族に伝わる秘宝「青龍鏡」を盗み出そうとしていた・・・。

 本作は前半は探偵ダグラス・スタウトとなり、ハードボイルドミステリー風の冒険を楽しみ、後半ではルパン三世となって迷宮を探険するという構成になっている。
勿論そこには様々な仕掛けがされており、一筋縄ではいかない内容である。
しかし・・・どうもイマイチよろしくない。
まずダグラス・スタウトの物語だが、ミステリー仕立てなのはいいのだが、原因があって結果があるという当然の決まり事が守られておらず、納得がいかない。
 秘宝が隠されているという屋敷に入ろうとするスタウト。
何者か聞かれ、探偵だと本当のことを言うか、ICPOの者だと嘘をつくかの選択をすることになる。
探偵だと言うと、屋敷に忍び込むことになり、ドーベルマンと殺し合いをすることに。
ICPOだと答えると、前もって潜入していた仲間が話を通してくれており、すんなりと中に入れる。
そして仲間が潜入しているというのは選択の後しか分からない。
 冒頭スタウトは依頼主に電話するように言われる。
しかし電話をしない。するかどうかの選択肢も出なければ、電話をしなかったという描写さえない(実は電話をしない理由はあるのだが)。
しかしその結果スタウトは依頼主に見放され、殺されそうになる(展開によっては殺される)。
 他にもこんな筋の通らない展開がてんこ盛りで、一番ミステリーなのはスタウト本人である(汗)。

 ゲームブックとして考えても、どうもよろしくない。
自分が運転していないのに、いきなり運転手の「俺は」という一人称になったりするのは可愛いもので、なにより問題なのは、選びたい選択肢が無いということ。
そうなのだ。特に前半では用意された選択肢のどれも選びたくない、他の行動をとりたいという状況が多いのだ。
これは明らかに著者が、読者の立場よりもストーリーの流れを優先した結果であり、ゲームブックとしては致命的な欠点と言える。
そんな無理な選択肢を並べてまでストーリーを進めたいなら、そもそも選択などさせなければいいと思う。
 では選択肢の関係ない小説としてはどうかと言うと・・・これまたよろしくない(汗)。
物語の中核である秘宝に秘められた魔力の説明も無ければ、それが発動したときの描写も無いのはこの際まあ許す。
敵の殺し屋がなぜか不死身で、不死身の割にあっさり死ぬ(笑)のもまあいいとしよう。
問題はキャラクターがなにを考えているのか分からないということ。
ダグラス・スタウトがミステリー(汗)なのは先に書いたが、 後半の主人公であるルパンも、そして次元も、やっぱり五右衛門も、なにを考えているのかさっぱり分からないのだ。
特に珍しく秘密めかした行動をとる次元。
最後に彼の行動の理由が説明されるが、さっぱり意味が分からない(汗)。

 こういうこともあるとしか言いようがない(笑)。


ルパン三世 暗黒のピラミッド
双葉文庫
塩田信之/スタジオ・ハード編
パラグラフ数 400

 ルパン三世ゲームブックシリーズ5。
読者は携帯用高性能コンピュータを自力で作ってしまう(1987年頃)天才少年ジェイクとなり、恩師である考古学者のアイゼンシュタイン教授を追ってパキスタンへ。
そこで教授の行方を追いつつ、やがてルパン三世と遭遇し、「混沌の祭祀書」の謎に迫る。
 まず少年の視点で物語が進むというのは、ルパン三世ゲームブックとしてはグッドアイデアだと思う。
基本的にルパンのようなキャラクターは、一人称には向いていない。
神出鬼没で予想外の仕掛けを配して活躍するのがルパンの真骨頂。それらの要素はゲームブックの主人公にはあまりにも相容れないのだ。
しかし一度他の人間の視点となると、そのヒーロー性は遺憾なく発揮される。
実際本作をプレイしていて、ルパン三世とそのメインキャラクターのカリスマ性に驚かされた。
それらしく登場するだけで、充分に面白いのだ。
絶体絶命のピンチを1発の銃弾が救い、振り返ってみれば暗闇から姿を現す次元・・・。
かっこよすぎ(汗)!

 また本作のイラストはこのシリーズにしては出来が良く、雰囲気を盛り上げてくれているのも嬉しい。
やはりゲームブックのイラストは重要だ。

 問題のゲームブックとしての感想だが、システムはほぼ消滅。単なるパラグラフ小説状態である。
しかし少年が主人公と言うこともあり、まともに戦闘とかやっても仕方がないので、これは正解だと思う。
その代わりダンジョンのマッピング用ベースシートが用意されているのはなかなか良心的と言えるだろう。
 で、ゲームを始めてみると・・・街で情報収集し、迷宮に入って迷うというのが基本的な内容だが、なんだかバッドエンドが多い。それも序盤の情報収集で(汗)。
雰囲気のいいイラストで、旅行気分を満喫しようと思ったところで、なんだかよく分からない内にバッドエンドというのが変に多いのだ。
バザール・・・・(汗)
このあたりで少々不安を感じる。
 迷宮に入ると・・・・・・例によっての迷宮のための迷宮である(汗)。
特に戦闘というスパイスも挟まらないので、いくら描写があってもきびしい。
しかも3つ目の迷宮はシャレにならないくらい複雑で、マッピング必須。
せっかく第2部からルパン達と協力しているというのに、その活躍も全然無し。
迷宮はマッピングしてもクリアする前に挫折しそうになる複雑さ・・・。
ウィザードリーの洗礼を受けているマッピング因子を持った化夢宇留仁でさえ苦痛なのだから、普通の人に耐えられるとは思えない。
そして・・・とうとう最深部にたどり着いたと思えば、偽物を掴まされてバッドエンドになったり、そうじゃなくても迷宮に入る前の選択で迷宮の前に戻されたり(汗)
 あとがきで著者は今までの作品では一番出来がいいと言っている。しかもストーリー重視とのたまっているが・・・・・
化夢宇留仁は思う。ゲームブック衰退の原因の一つはこの著者にあると(汗)。

20070623


ルパン三世 Pファイルを奪え!
双葉文庫
上原尚子・山口宏/スタジオ・ハード編
パラグラフ数 400

 ルパン三世ゲームブックシリーズ6。
銭形のとっつぁんが、突然やって来たかと思うと、なんとルパンに土下座した!
とっつぁんはある巨大企業の武器開発と政府との癒着を調べていたのだが、圧力がかかって手詰まりになり、ルパンに頼らざるを得なくなってしまったのだ。
しかしそれはルパンにとってさえ困難な仕事だった。
警戒厳重なビルの地下2階に忍び込み、問題のファイルを奪った後、来日する合衆国大統領にそれを示さなければならないのだ。

 ルパンと銭形が手を組むというのはテレビでもたまに見ることが出来たシチュエーションだが、盛り上がる状況には違いない。
またストーリーを語るでなく、ダンジョンをさまようでなく、読者の視点を変えてルパンを外から見るでなく、読者がルパンになって厳重な地下金庫に忍び込んで極秘書類を奪うという、まさにルパンの仕事を直球ストライクで表現しようという心意気は素晴らしい。
しかし・・・・・・
著者は本作がデビュー作らしいのだが、最初から直球勝負は少々きつかったようである。
 問題点は色々ある。
まずルパンの視点でルパンの仕事を表現しようという試み。
それ自体はまさに剛速球ド真ん中で素晴らしいのだが、コミックヒーローであるルパンのテクニックをルパン視点で表現しようと思えば、冗談抜きで著者にもルパンに等しい知力と知識が必要である。
これはいくらなんでも無理(汗)。
結果ルパンの計画は当たり前のものが並び、単なる普通の泥棒状態に。
しかしこれはまだ許せる。
それでも知恵を絞って警戒網をかいくぐり、目的を達するというゲームは表現できるはずなのだから。
しかし残念ながらそれは果たせなかった。
それどころかゲームブックのシステムをも利用した警戒網が異常に厳重になり、ルパンはありきたりな計画を試しては警備に引っかかって死んでしまうと言う、およそルパンらしからぬ展開を量産することになってしまっているのだ。
例えば装備を調え、地下排水路からなんとか侵入に成功し、警備員を縛り上げてIDカードを入手し、いよいよエレベーターに乗り込もうとしたら、突然落とし穴に落ちて串刺しになったりする。
超ハイテクのビルの地下エレベーターの入り口に落とし穴!
しかも落ちたら串刺し!
ゲームブックの主人公になったルパンは普通の泥棒になったが、忍び込む先はマンガ世界のままなのだ。
そりゃあ命がいくつあっても足らないのが道理である。
また上記の例からも分かると思うが、本書はデッドエンドが多い。しかもそれが予想できない。
予想できてもそれを避けるための判断材料が無いというケースが多く、これはもうゲームブックとして致命的である。
執筆中の著者の思考が想像できる。
先に正しい道を作り、それを外れればデッドエンド。
正しい道がなぜ正しいのかの根拠は無く、逆にデッドエンドがなぜそうなのかも特に考えていない。
読者は悔しい思いをして、何度もチャレンジし、正しい道にたどり着くように努力するのが当然・・・・・。
なぜこうはっきりと想像できるかというと、前に化夢宇留仁がゲームブックを作っていたときもこんな思考だったからである(笑)。

 後半はアクションシーンが続くという噂だが、化夢宇留仁はもういいです(汗)。

20070627


ルパン三世 謀略の九龍コネクション
双葉文庫
塩田信之/スタジオ・ハード編
パラグラフ数 400

 ルパンが珍しく不二子にも内緒のいい獲物があると言うので、手伝うことを引き受ける次元と五右衛門。
目的地は香港。
しかし次元は香港のホテルに落ち着いて間もなく、旧友から電話が掛かってくる。
なんと旧友の肉親の10歳の娘が誘拐されたというのだ。
一方1人手漕ぎ船で到着した五右衛門は、小さな女の子が1人で泣いているのに遭遇し、頭を抱えていた・・・。

 と言うことで、本作は次元と五右衛門が主人公である。
と、言うよりも、次元と五右衛門が主人公のゲームが2つ入っているという方が正確だろう。
ルパンは脇役に徹しており、しかもコメディー・リリーフ専門(笑)で、これはこれで面白い。
銭形は選択によっては一瞬だけ出てくるが、不二子に至っては名前が出てくるだけである。
結果次元と五右衛門の活躍が大長編で語られる・・・・・・わけではない。
実のところ、本作は化夢宇留仁の今までやった中では最も簡単で、最も物語の短いゲームブックだったのだ。
例によって会社への行き帰りの電車の中でやっていたのだが、往復で合計4回クリアした(笑)。
翌日もやって、もう数え切れないくらいクリア。
バッドエンドにたどり着いたのは2回で、それもメインキャラクターの誰かが死んだわけではないオチャラケ系バッドエンド。
つまり物語の長さよりも分岐のバリエーションに力を入れた作品なのだ。
しかしそれは完全にうまくいっているとは言えない。
次元、五右衛門という型にはまったキャラクターが主人公の場合、その選択肢には細心の注意を払う必要がある。
なぜなら「次元ならこうする」「五右衛門はこんなことはしない」というような、縛りと言える要素が強いのだ。
だから彼らがやりそうにないことをやったという描写があれば、読者は「こんなのは○○じゃない!」と怒るだろうし、らしくないことを選択肢に並べてもそもそもらしくない行動は選べないのだ。
そう言う点では本作は、バリエーションを楽しむ作りになっている割に、選択肢が「それらしい」ものが限られており、なかなかそれを楽しめ無いというジレンマに落ち込んでいるのだ。
とは言うものの、化夢宇留仁は無理矢理色々変な選択肢も選んでみたり、同じ状況でも異なる視点で表現されるのが興味深かったり、そこそこ楽しめた作品だった。
今までやったルパン三世ゲームブックの中では「さらば愛しきハリウッド」に続いて面白かった。

 この著者の「暗黒のピラミッド」には絶望したが、少し評価が回復した。
しかし全体的にオチャラケ描写が「ルパン三世」ではなくて「うる星やつら」だったのは時代もあるけど少し気になったな。

20070628


ルパン三世 灼熱の監獄島
双葉文庫
大出光貴/スタジオ・ハード編
パラグラフ数 400

 ルパン三世ゲームブック第9作。
  南国のホムンクルス島の遺跡に財宝があるという情報をつかんだルパン。
しかし遺跡は刑務所になっていた。
侵入の計画を練るルパンの前に、レジオンという男が現れ、財宝から手を引くように言い、更にルパンを嘲笑う。
ルパンは財宝を手に入れる決意を固め、刑務所へ向かう・・・。

 なかなか骨太な設定で、展開もオチャラケも交えつつ、ルパンらしい雰囲気があって、なかなかいい。
ゲームブックとしても、今までのシリーズには無かった、様々な分岐と情報収集の後に、収束して関門となるイベントが発生という王道とも言える構成で、必要な情報やアイテムが無くてゲームオーバーになっても、なにくそとやり直す気にさせられる。
 イラストもエキゾチックな線で、これまた雰囲気があっていい。

 しかし(やっぱり)気になるところも。
冒頭の「ゲームのやり方」を読んでいて、いきなり違和感を覚えた。
「もし選択を誤ると、一度経験したことを再び経験したり、時間の流れを逆のぼったりと、不思議な迷路に迷いこむことにもなるのです。」
・・・・・・・・・
本作は勿論そういう話ではない。
これは要するに、パラグラフ管理がちゃんと出来なかったけど、悪いのはそんな選択をした読者です。と言っているわけである。
「ゲームのやり方」の時点でここまで株を落とした著者は今までいなかった(笑)。
 でも上記の通り、ゲームを始めてみると骨太な作りで面白く、そんな奇妙な体験も(たまにしか/汗)無いので、まあいいかという気にさせられた。
それにしても次元・・・・・もっとあっさり出てきてくれ(汗)。

20070704


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