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魔法使いの丘
S・ジャクソン著

スティーブ・ジャクソンの4部作大作ゲームブックシリーズ、ソーサリー第1巻、それが本作「魔法使いの丘」である。
まさに決定版と言うにふさわしい内容とボリュームを持ったソーサリーシリーズだが、本作は最初ということもあってか、コンパクトにまとまった佳作と言える。

例によって作品それぞれに特色のあるルールを用意するジャクソン、今回はタイトル通 り魔法使いが主人公であり、当然追加ルールは魔法に関してのものとなる。
今までも「バルサスの要塞」や、リビングストンの「運命の森」など、魔法ルールを付け加えたものはあったが、それらはどれも戦士である主人公を補助する目的で、他の魔法使いが授けたものだった。
だが本作は主人公自体が魔法使いであり、今までとは格の違う、まさにジャクソンが本気で取り組んだらこうなるぞ!という見事な魔法ルールが用意されているのだ。

読者はゲームを始める前に巻末の魔法の書を読むように指示される。
そこにはアルファベット3文字で表された魔法の効果と、同時に必要なものがなんであるかが書かれている。
読者はそこで文字通り魔法を覚え、冒険に旅立つことになるのだ。
いったんゲームが始まったら魔法の書は読んではいけない。記憶を頼りに状況に応じた3文字のアルファベットを選んで、魔法を使いこなさねばならない。
この魔法システムはまさにゲームと本の融合といった感じで、見事に魔法使い気分を味あわせてくれる。
幾つか並んだアルファベットの内、これだというものを選んだ結果、敵がこちらの意図通 り魔法の効果で目を回す様は爽快である。

実はもう一つこのシリーズで付け加えられたルールがある。
それは空腹と睡眠不足のルールだ。それまでのゲームブックでは最低限の食事と睡眠は文章で書き表され、読者の選択する余地はほとんど無かった。
食事に関しては、食べると体力点が回復するルールが採用されていた場合が多く、結果一度に何食分も食べたりして、空腹よりも満腹で死ぬのではないかと思わせるくらいだった。
本シリーズでは食事は指定された時にしかとることが出来ず、体力点の回復量も少なめに抑えられている。
逆に丸一日食事をしなかったり、睡眠をとらなかったりすると、体力点を減らすように指示されるのだ。
このルールで冒険のディティールを描写することで、生活感と内容に厚みを出すことに成功している。

さて、内容だが、先にコンパクトにまとまっていると書いたが、冒険自体は山あり谷ありで、移動範囲も広い。
ただしトリックや謎は最小限に抑えられ、敵も大して強いものはおらず、ジャクソンの作品の中では最も簡単に出来ているのだ。 これは上記の魔法ルールに慣れるのと、今後の冒険に関わる前振りを展開するのが目的だったからだろう。
つまり本書はまだプロローグに過ぎないのだ。
本当の冒険と、あきれるほどの危険はこの先に待っているのだ。

ところで表紙のモンスターは、本書の冒険の最後に待ち構えているマンティコアである。
とは言ってもどうしても勝てないような相手ではなく、そんなに印象深いわけでもない。
むしろ本書の最大の敵は、ミニマイトのジャンという名の、小さな妖精であろう。どう最大の敵なのかは説明はやめておくが、もし彼に遭遇したら気をつけたほうがいい(笑)。

最後にこのシリーズで化夢宇留仁がもっとも強い印象を受けたことを書いておく。
それは本文にインサートされている挿絵の数々に関してのことである。
このシリーズの挿絵は、どれもなんとも言えない気分の悪いイラストである。出てくる村人は誰も彼も病気もちのように見えるし、妙にディフォルメされた輪郭に比べて、精密に書き込まれたディティールなど、一種病的なものを感じる。
が・・・・これがまたいい感じで、ゲームに幻想的な雰囲気と生活感を加えているのだ。
ただしこのイラストのせいで、この冒険の舞台カーカバード大陸は伝染病の蔓延する近寄りがたい土地だというイメージも出来上がってしまったと思う。
いい感じである(笑)。


 

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