妖怪大戦争
2005年/三池崇史監督

 10歳の少年タダシは、神社のお祭りで「麒麟送子」に選ばれる。麒麟送子は大天狗の山の洞窟へ伝説の聖剣を取りに行かなくてはならないという。
よくある形だけの行事だと思っていたのだが、 今年に限っては違った。
魔人、加藤保憲が人間を滅ぼすために動き出していたのだ。
タダシは日本古来の妖怪達と協力して加藤に戦いを挑むが・・・。

 地上波で見た。上映時間124分を2時間枠で放映しているので、カットの影響が大きいところが目立った。
が、本質的には実に面白かった。
例によってネットで評判を見てみたら、これまた酷評が多い(笑)。
しかし子供だましだの、妖怪の造形が悪いだの、見当外れの意見が多いのも相変わらず。
 子供だましというのは、子供には分からないだろうといい加減なものを作ることを言うのであって、本作は全編力を入れて一生懸命作ってあり、当てはまらない。
 妖怪の造形は確かに最高ではないが、けなされるほど悪い部分は無かったと思う。
けなしている人にじゃあどうだったら満足するのかと聞けば、具体的なビジョンがあるとは思えない。
それより妖怪の個性や活気がうまく表現されていたのを評価してもいいのでは。

 なにより化夢宇留仁が気に入ったのは、今までの実写作品の中で、最も水木しげる的妖怪を表現できていたところである。
基本的にはそれぞれの好きなことしか興味が無く、お気楽で責任感はないがお祭りは大好きというのが実に妖怪っぽい。
なにしろ人間が作るものなので、無意識に人間の尺度を当てはめてしまう作品が多いのだが、本作はその辺をなんとか踏ん張れた珍しい成功例である。恐らくこの辺は「怪」のメンバーの影響が大きいのだろう。

 主役のタダシ少年は、最近流行の一見美少女に見まがうタイプだが、やはり経験豊富なのが大きいのか、演技力は大したもので、特に驚きおびえる表情はいい感じだった。
やる気を出した表情はイマイチだったが(笑)。

 敵役の加藤はトヨエツに代わっているのだが、「帝都物語」の嶋田の100倍よかった。
加藤を初めとして、色々な設定を活かしつつ作り上げた脚本も化夢宇留仁好みの内容。どの設定も曲げることなく、オリジナルストーリーとして完成させたのは見事だと思う。

 エロ気はキルビルねーちゃんが一手に引き受けているのかと思いきや、川姫のねーちゃんが太もも担当で魅せまくっていたのが最高だった(笑)。
なんで子供はああも太ももを触るのか(笑)。
そう言えば主役のタダシくんもショタエロ全開で頑張っていた。 その気は無い化夢宇留仁でも気付くくらいだから、その筋の人にはタマランだろう(笑)。

 とにかく地上波2時間枠ではカットが多く(恐らく40分以上/汗?)、最後の大先生のありがたいお言葉もじっくり見れなかったし、中古でDVDを買ってこようと思う。

 画像は上映時のチラシの一つ。
上半分の妖怪の潜む森の奥なイメージはいいのだが、下半分と繋がっていないのが少し気になる。
下半分は本編からとっているようだが、チラシ、ポスター用のショットくらいあらためて撮ってもいいのでは?
それともあらためて撮ったけど、本編の方がよかったのか。それも大いにあり得る話だが。
基本的にはいい感じなのだが、上の妖怪はもっと数を増やして、もっと水木っぽいのを並べてほしかったというのは化夢宇留仁の好み(笑)。

20060811


クルーシブル
1996年/アメリカ/ニコラス・ハイトナー監督

 17世紀末にマサチューセッツ州セイレムで吹き荒れた魔女狩り裁判を映像化。
保身と復讐のために密告が繰り返され、罪もない人々が次々に縛り首になってゆく。
召使いアビゲイルと姦通したのを悔いている主人公も、彼女の誘惑を退けている内に、悪魔と契約を交わしたという嫌疑をかけられる・・・。

 TRPG「クトゥルフの呼び声」をやる上で、セイレムの魔女裁判の様子は知っておいてもいいだろうと思って観た。
結果想像以上に小さい共同体での出来事だったのを知った。セイレムの事件が影響するシナリオの内容を修正しなければ(汗)。
 映画としてはおおむね想像通りの内容だったが、強烈だったのはアビゲイルを演じていたウィノナ・ライダー。そうじゃないかとは思っていたが、自己保身と目的のためには他人が何人死んでもかまわないどころか、それを楽しみ出す悪女(そしてバカ女)振りはまさに完璧で、絞め殺したくなるいやらしさ。
今まで観た彼女の出演作の中では、圧倒的に本作が当たり役だと思う。マジで嫌いになれる(笑)。
 想像通りの内容と書いたが、しょうもないことで次々と魔女の嫌疑が掛けられ、少女達の演技で陥れられてゆく村人達の様子は、分かっていても背筋が氷るものがある。 集団心理はほんとに恐ろしい。


 ゴクウ MIDNIGHT EYE
1989年/オリジナルビデオアニメ/川尻善昭監督

 2014年の世界で、何者かに、左目にあらゆるコンピュータを操ることが出来る義眼をつけられた探偵、風林寺悟空の活躍を描く。

 原作者の寺沢武一が脚本も手がけており、その分原作っぽさは十分引き出されているが、映像としてそのセリフはどうかと思うところも。
しかし寺沢武一の作品の中では最も完成度の高い作品だけあって、本作も十分楽しめる作品に仕上がっている。突っ込みどころは山ほどあるが(笑)。
だから化夢宇留仁もたまに無性に観たくなるのだ。
川尻監督と寺沢武一のコンビはこれが初めてだったと思うが、雰囲気良く仕上がっていて、これもベストだったと思う。
 上記の突っ込みどころだが、元々寺沢武一がハードな設定はちゃんと考えない質なので、要するに原作通りなのである。したがって川尻監督を責めるところではないし、確信犯の原作者を責めても仕方がない(笑)。
流石にインターネットのまったく関わらないコンピュータネットワークの表現はチープだが、これも当時は創造もしていなかったのだから仕方がない。なにしろ世界中のコンピュータをジャックして、「米ソ」のミサイルを発射も可能という描写があるくらいである。

しかしそれにしても、死体や機械に対してブツブツ話しかける主人公はどうかと思う(笑)。

※画像について
 画像はビデオジャケットだが、ほとんど原作の表紙そのまんまである。
当時としては川尻監督と寺沢武一のコンビというのが新鮮で、かつ魅力があったので、せめて同じ内容の絵でもアニメ絵に変えるなどの工夫は欲しかった。
もちろん原作者の意図もあるだろうし、これといって問題があるわけではないのだが。

2006.9.22


 GS(ゴーストスィーパー)美神
極楽大作戦
椎名高志/小学館 全39巻

 現代のエクソシスト、GS美神とその助手やらなんやらの活躍を描く、オカルトコメディ。
アニメ化もされた有名作品で、知っている人はよく知っているし、知らない人は知らないだろうし、知っていても興味のない人は山ほどいるだろう。
 一言で言えば実にロジカルな思考で創られた超傑作コミックで、イマイチ目立たないがコメディ漫画の中では十指に入ると思う。
最初の内こそタイトルを冠されている美神の魅力が乏しいという欠点はあるが、それを補ってあまりある見事なプロットと全盛期の高橋留美子に迫るようなテンポのよさで、読者をグイグイと引き込んでゆく。
特徴は上でもロジカルな思考と書いたように、完全に論理的思考で生み出されているというところで、それがオカルトという論理と相対する要素と絡み合って奇跡のような完成度を誇っている。
第1話からして実に見事なプロットで創られており、その後もそれは維持され、またシリーズが長引くに連れて増える長編エピソードも、しっかりしたプロットに裏打ちされているのでほとんどだれることなく読むことが出来る。
長期連載の少年漫画故、後半は対決要素が強くなってゆき、いわゆる強さのインフレも生じては来るが、その辺も論理的思考の上で成り立っているのでギリギリ不自然ではない線で踏みとどまっており、それを逆手に取ったギャグも冴えれば、最終話も近くなった頃の最強の魔神を倒した後も、日常で起こるほのぼのコメディも展開できる余地が残されているのはほとんど神業。
最終回も冴え渡っており、ちゃんと終わっているけどいつでも続きが描けるようにまとまっている。
 もう諸手をあげてべた褒めの内容なのだが、根本的な弱点はある。
それは何度も言っている論理的思考で、いわゆる浪花節は完全に排除されており、そう言うのが好きな人にはついてゆけない面もあるのと、論理的であるが故にあるラインより上には越えられない壁があるのだ。
化夢宇留仁のように第1巻の冒頭の著者のコメントだけでビビビッとツボを突かれる人にとっては最高に面白い作品なのだが、そうでない人にとっては突き抜けたところのない凡作に見えてしまうのである。
 しかし化夢宇留仁はこの著者にはこのままでいてほしい。
読者を増やすために浪花節に走られてドラゴンボールになってしまっては、万人は喜んでも化夢宇留仁は不満なのである。

20061025


 シャーロック・ホームズのライヴァルたち
ソーンダイク博士の事件簿1
オースチン・フリーマン/大久保康雄訳/創元推理文庫

 法医学者であり、弁護士でもあるソーンダイク博士の活躍を描いた短編集。
フリーマンは倒叙推理小説の生みの親としても有名で、本作でも最初の3篇が倒錯推理小説になっている。

計画殺人事件
 ルーファス・ペンバリー氏は、せっかく優雅な時間を得るために一等客車に乗ったというのに、粗野な薄汚い男と同室になってしまい、鉄道会社を呪っていた。しかしそれは不幸の始まりでしかなかった。同室になった男は、ペンバリーが昔脱獄した刑務所の看守だったのだ。
元看守プラットに正体を見破られ、ゆすりが始まったとき、ペンバリーの頭の中では既にプラットの殺害が計画されていた。
 警察犬の嗅覚を逆手に取ったペンバリーの計画は、完璧に成功したかに見えた。
しかし聡明な知能と、顕微鏡の目を持ち、警察犬を信用していないソーンダイクが調査に乗り出したら話は違ってくる・・・。

 警察犬を誤誘導するトリックは良く出来ていて、まったく同じ凶器を2つ用意するのも相まって、殺人が行われる過程だけでも十分に面白い。
ただ凶器そのほかの道具の準備時に変装さえしていないのはどうかと思った。
せっかくのトリックが、そっちからバレてはなにもならない。
また最後に計画的に逃亡するペンバリーだが、そうするのならあんなトリックも必要なかったような気が(汗)。
 ペンバリーの性格はジョジョの吉良を思い出させた。もしかしたらモデルになっているのかも。
主人公であるソーンダイクの方はというと、とりあえずいい人ということ以外よく分からない。
その内分かってくるかと思ったら、どうやらそういうキャラクターらしかった(笑)。

歌う白骨
 灯台に新しい灯台守がやってくる。
相棒が怪我をして、通りかかった船に乗って陸に上がってしまったので、寂しい思いをしていたトム・ジェフリーズは、新しい相棒が来るのを待ち焦がれていたが、それが昔船を襲ったときの共犯者だと知り、彼の脳裏には怒りがこみ上げていた。
共犯者トッドはトムを警察に売ることで減刑され、トムはそのおかげで捕まれば絞首刑が確実となり、素性を隠して灯台守にでもなるしかなかったのだ。
パイプを吸いながら話をする二人だが、やがて緊張が高まってゆき・・・。

 パイプの状態によっての持ち主の推測や、煙草の種類によるトリックなど、どれも興味深くて楽しい。

おちぶれた紳士のロマンス
 落ちぶれた男が、金目の物を奪うために変装してパーティーに紛れ込むが、若い頃の恋人と再会。
過去との葛藤に悩むが、彼女のつけていた大きな宝石に目がくらみ・・・。

 上着のポケットから出てくる埃の調査だけで犯人像に迫る様子が実にソーンダイクらしくて面白い。
推理に至るまでのデータ収集描写の説得力はホームズを遙かに越えていると思う。

前科者
 昔ソーンダイクが刑務所に放り込んだ前科者が、助けを求めて顔を出した。
今では真面目に生きているというのに、殺人事件の現場から彼の指紋が発見されたのだ。

 指紋を扱ったトリックもソーンダイクシリーズの得意なテーマらしい。
指紋が附着する状態と、実際に残されていた指紋の相違点が面白かった。

青いスパンコール
 列車の中で殺された女性の調査を行うソーンダイク。
彼女の側頭部には深々と穴が開いていた。
犯人は彼女の元恋人の画家で、持っていた傘によって凶行に及んだのではないかと思われていたが、ソーンダイクは彼の絵を見、また現場路線の周りの様子を確認することで、真犯人を見つけだす。

 犯人とその殺人の様子にはびっくり。まさに予想もつかない展開。

モアブ語の暗号
 式典の見物客の中に混じっていた怪しいロシア人。
彼を見張っていたバジャー警部だが、ロシア人は警部に気付くと逃げようとし、馬車にひかれて死んでしまった。
ロシア人のポケットからは奇妙な暗合の書かれた紙片が発見された。
それがモアブ語で書かれていることが分かり、警察は大英博物館に協力を求める。しかし英訳された文章はこれまた意味不明なものだった。
やがて紙片はソーンダイクの元にもたらされ、彼は予想していた方法で、易々と情報を読みとるのだった・・・。

  散々大袈裟に展開しておいて、それがオチかい!?と言う肩すかしトリックが楽しい。
使われた墨汁が耐水性だったというヒントがさり気なくてまたよい。

アルミニウムの短剣
 男が建物の3階にある部屋で刺殺された。
彼は壁の時計のネジを巻いていて、背後から刺されたものと考えられていたが、問題は殺人を行った犯人が部屋を抜け出した様子が無いのに、その姿が見つからないことだった。
解決不能の問題に頭を悩ませるバジャー警部だが、凶器を調べたソーンダイクは新たな解釈を見つけだす。

 オチはそれなりに納得がいくが、もう一つミステリーとしての面白味に欠けたような気がする。
音の問題はもっと影響しそうな気もする。

砂丘の秘密
 砂浜に残された不思議な足跡を見つけたソーンダイクと法医学者のジャービスは、それが砂丘にやってきてはいるが、立ち去っていないことを知り、不吉な予感にさらされる。
その後行方不明になった画家の捜査を依頼されたソーンダイクは、それがあの砂丘に関わる事件だと知り・・・。

 奇妙なナイフの描写と、それからソーンダイクが人物像を導き出す過程が素晴らしい。
特にナイフがなぜ象牙製なのかの説明には目からウロコが落ちる思いだった。
著者フリーマンの知識量と目の付け所には感嘆する。

 ホームズと比べると、ソーンダイクと相棒ジャービスの人間関係がサッパリしすぎているようにも思うが、なにしろソーンダイクが「常識的ないい人」なのである程度は仕方がないか。
逆に変人ばかりの名探偵達の中では、ソーンダイクは際立った変人と言えるかもしれない(笑)。
 事件のトリックやその調査の過程はどれも科学的でリアリティのあるもので、ソーンダイクは現代で言うなら探偵と言うよりも検死官や鑑識に近い。とにかく一番に頼るのが顕微鏡なのだ。
化夢宇留仁は大いに気に入ったので、他の作品も読みたいと思っている。

20070107


 

クリスティー短編集3
ポアロ登場
アガサ・クリスティー/小倉多加志訳/ハヤカワ文庫

 中学生の時以来読んでいないクリスティを、クトゥルフの参考も兼ねてちゃんと読んでみることにした。
最初に選んだのは初期短編集である本作。
まだポアロのキャラクターも完成していないが、ホームズとの比較も楽しめそうなので短編集にした。

<西部の星>盗難事件
 他に類を見ないほどの見事なダイヤである<西部の星>には、片割れとなる<東部の星>が存在するという。
そしてそれら2つのダイヤが揃ったとき、ダイヤは元の居場所である神像の眼に戻るという話が、まことしやかに噂されていた・・・。

 ろくに調査もしないで事件の真相を推理するポアロにびっくり。
ホームズが最も嫌う方法だが、ポアロはポアロで些細な情報をかき集めるのは彼の灰色の脳細胞には不要だと言い切る。
もちろんこれは扱う事件の性質にもよるのだが、時代の流れというものだろう。
 トリックはまさに事件その物はどうでもよく、それが起こるまでの経過が重要というもので、けっこう予想外で面白かった。
ヘイスティングズがポアロに復讐を誓うラストも、ホームズとワトスンの仲の良さと対称的で面白い。

マースドン荘の惨劇
 ポアロは保険会社の依頼で、ある男の死因の調査を行う。
男は病死かと思われていたが、実は銃による頭部の損壊が死因だった。銃弾が貫通していなかったので医者が気付かなかったのだ。
更にポアロはそれが自殺か他殺かを調べるが、決定的な事実は現場にいた妻の証言に頼るしかなく・・・。

 こういう解決の仕方はミステリとしてはどうなんだろう?
少なくとも化夢宇留仁的にはあまり満足のいくものではない。

安アパート事件
 格安で豪華なアパートを借りた話を聞いたポアロは、そこに世界的犯罪の臭いを嗅ぎつける。

 家屋侵入を気楽にやってしまうところに、なんとなく女流作家らしさを感じた。

猟人荘の怪事件
 ポアロが風邪で寝込んでいるところに、依頼人がやってくる。代わりにヘイスティングズが話を聞くと、ダービシャーで叔父が殺されたという事件だった。
とりあえずポアロを残して、依頼人と共に現場に向かうヘイスティングズ。
現場には女中と被害者の妻がおり、話を聞くことが出来、怪しい男の存在がほのめかされた。しかしポアロの電報は異なる解釈をしているようだった・・・。

 <西部の星>もそうだったが、提示された情報の嘘を見抜くという話が多いようだ。
その辺ホームズと同じ調子で読んでいると、びっくりさせられるが、それがまた愉快。

百万ドル債権盗難事件
 ロンドン・スコットランド銀行が、ニューヨークへ輸送中だった百万ドルの自由公債が消えた。
輸送中のどの時点で消えたのか、また盗難した債権をどのように陸揚げしたのかが争点だったが、ポアロはそんなことは気にもしなかった・・・。

 これも偽装トリックもの。
そろそろ予想がついてもよさそうなものだが、やっぱりびっくりする化夢宇留仁なのだった(笑)。

エジプト墳墓の謎
 エジプトで新たな墳墓が発見されたが、その後関係者が次々と怪死するという事件が発生。
調査に赴いたポアロは、迷信には効力があると言いだし、ヘイスティングズを不審がらせるが・・・。

 ピンと来ない話だった。
発掘隊の様子はクトゥルフの参考になりそうで興味深かったが。

グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件
 真珠の首飾りが盗難にあった。その部屋には小間使いとメイドしか立ち入っていなかったので、当然その二人が疑われ、特に小間使いだけに盗むチャンスがあったように見られたが、ポアロはそれが不可能だと立証し・・・。

 相変わらず気楽に不法侵入するポアロ。まあいいけど(笑)。

総理大臣の失踪
 暗殺未遂事件を軽傷で助かった総理が、今度はフランスに到着した途端に失踪した。
連合国会議までになんとか総理を見つけださないといけないと焦るヘイスティングズだが、ポアロはフランスに着いた途端に考え込み、イギリスに戻ると言い出す・・・。

 これは珍しく先にトリックが分かった。
分かってしまうとヘイスティングズがバカに見えてくるから面白い(笑)。

ダウンハイム失踪事件
 銀行頭取のダウンハイム氏が失踪し、ポアロとジャップ警部は彼を見つけだせるかどうかで5ポンド賭ける。
ポアロはダウンハイム氏の失踪前の行動を調査し、それが計画的な失踪だと突き止め、同時に銀行の倒産まで予言するのだった・・・。

 オチとしてはありふれているが、ダウンハイム氏の失踪先が意外性があって面白い。
最後に5ポンド手に入れて、照れたようにジャップ警部を可哀想がるポアロが愉快。

イタリア貴族殺害事件
 かかりつけの医者のところに、イタリア人貴族であるフォスカティーニ伯爵から「殺される」という電話が掛かってきた。
慌てて彼のアパートに向かうと、すでに伯爵は殺されていた・・・。

 死亡推定時刻の偽装という現代的なトリック。
濃いコーヒーとその形跡に関しては、気付かなかったので悔しかった。

謎の遺言書
 頭のいい叔父から、遺した家を自由にしていいが、1年たったら慈善事業に寄付するようにという遺言を受け取った聡明な女性。
彼女はすぐにポアロに相談し、書かれた日付が新しい遺言書どこかに隠してあるのだと見当をつけたポアロは、さっそく現地に向かい、遺言が作成された時の様子を調査する。
結果隠された遺言書が見つかるが、それは焼けこげて読める状態ではなかった・・・。

 ワクワクする宝探しミステリ。
今度クトゥルフかなにかで使ってみたいトリックである。

ヴェールをかけた女
 最近貴族と婚約したばかりの女性が、脅迫されているのだとポアロのところに助けを求めてきた。
彼女を脅迫している男の家に忍び込み、見事脅迫状を見つけるポアロだが、事件は単純なものではなかった・・・。

 ホームズの「恐喝王」の話をもう一ひねりしたような内容。
それにしても不法侵入を・・・(以下略)

消えた廃坑
 ポアロは一銭も払うこと無しに、ビルマ鉱業株式会社の株を1万4千株も持っていた。
それを手に入れることになった事件のことをヘイスティングズに話して聞かせるポアロ。
 それはある鉱山の権利書と、それを持ってきた中国人の失踪に関わる事件で、依頼人はその中国人と契約を交わすはずだった男だった。
やがて中国人の死体が見つかり、その前に彼と会っていた若い中国人が疑われるが・・・。

 変装して侵入というホームズ的な展開になるが、オチはやはりもう一ひねりしてある。

チョコレートの箱
 ポアロが推理を失敗したことがあるかという話になり、ポアロはまだベルギー警察に勤務していた頃の事件を思い出す。
 自然死とされていたデルラール氏の死因は、毒殺だった。
彼のチョコレートの箱の蓋が取り替えられているのに気付き、犯人の目星もつけた。しかし・・・。

 ポアロが見落として悔やんでいる点は、確かに不自然だった。
しかし不自然さというのは、小説故だと思って見落としてしまうことがあり、今回もそうだった。
クリスティはそれを逆手に取っているわけで、ほんとに一筋縄ではいかない。

 ポアロとヘイスティングズの関係は、ホームズとワトスンのそれと比べるとサッパリとしたものだが、それをポアロの濃さが補っている。
自信家で小男でチョコレートが大好きで船が嫌いなベルギー人という設定は面白すぎる。

20070108


 シャーロック・ホームズのライヴァルたち
思考機械の事件簿1
ジャック・フレットル/宇野利泰訳/創元推理文庫

 小柄でトウモロコシ色のくしゃくしゃの髪を生やした巨大な頭。斜視気味の眼には眼鏡。
奇怪な姿だが、哲学博士、法学博士、王立学会会員、医学博士、その他様々な肩書きを持つオーガスタス・S・F・X・ヴァン・ドゥーゼン教授は、2+2は必ず4であるように、どんな事件も論理に照らし合わせれば簡単に解決できると豪語し、それを証明し続けていた・・・。

<思考機械>調査に乗り出す
 「わたし」が思考機械と出会った経過が語られ、その後性格俳優ワトソン・リチャーズが3年前に遭遇した奇妙な事件を思考機械が調査する物語が展開する。
俳優の事件は、老人になりすまして遺言書にサインするというもので、明かな遺言偽装と思われた。

 最初の「わたし」の話で、てっきりその後は「わたし」が語り手になるのだと思ったらいつの間にか三人称になっており、混乱した。
本来なら本作は出版されなかった第3短編集の冒頭を飾る物語だったらしく、そのための著者の顔見せ的な話だったらしい。
それならそうと最初から断っておいてほしいところだ。
 事件自体は思考機械でなくても分かりそうな内容で、十字で書かれたサインというのは思いつかなかったが(知らないので当然だが)、思考機械がいきなり捕まってしまうミスを冒すなど、少し不安なスタートとなった。

謎の凶器
 顔が黒ずんでおり、口に少し怪我、そして左頬に穴が開いた死体が見つかった。
警察は自殺と断定したが、毒は検出されず、更に同じような死体が再び見つかり、思考機械の出番となる。
思考機械は即座に死因を推測したようだったが・・・。

 ・・・・・・鼻の穴は無視(汗)?

焔をあげる幽霊
 古い家屋の改築に来た作業員達が、恐ろしい焔をあげる幽霊を目撃してみな逃げ出してしまった。
新聞記者のハッチンソン・ハッチがにやにやしながら調べてみたが、同じ結果となった。
思考機械は幽霊のからくりを見透かすが・・・。

 トリックがそのまんますぎるような(汗)。

情報漏れ
 金融資本家のJ・モルガン・グレイソン氏に頼まれ、情報漏れの調査を行う思考機械。
状況はどう考えても秘書の女性が漏らしているとしか思えないのだが、そんな素振りはまったく見あたらない・・・。

 単純なトリックだが、効果的だと思う。しかし気付いてもよさそうにも思う。

余分の指
 美しい女が医者のところにやって来て、左の人差し指を切断して欲しいと申し出る。
断る医者だが、女は自分の指を拳銃で撃ち、結局医者は切断せざるを得なくなるのだった。
しかしその後、その女の死体が発見され・・・。

 切断面の状態に関する情報の隠蔽は、ちょっと掟破りではないか。

ルーベンス盗難事件
 絵のコレクターをしている成金が、画家にそのコレクションを見せたところ、彼は水彩画に興味を示し、その模写をしたいと言い出す。
やがて模写は完成するが、ルーベンスの名画が姿を消していた・・・。

 すぐにトリックが分かった。 分かったけど実行するには作業時間的に難しいと思うのだが(汗)。

水晶占い師
 水晶で自分の部屋で自分が殺される映像を見せられた男が、思考機械に助けを求める。
映像によれば、それは来週の出来事のようだった・・・。

 あまりにも大袈裟な上に、あまりにもいい加減な計画。あきれた。

茶色の上着
 銀行に忍び込んだ泥棒が、一つのミスにより警察に捕まる。しかし男は盗んだ金の有りかを話そうとしなかった。
男を奥さんに会わせば、金の有りかを暗号にでもして話すのではないかと試すのだが、男が頼んだのは上着を持ってきてくれということだけだった・・・。

 そのまんまの隠し場所だったらどうしようと思ったが、暗号の隠し場所は一段思考を掘り下げてあり、安心した。
逆にあの場所ならなにも言わなくても奥さんは見つけただろうに・・・。

消えた首飾り
 ブラドリー・カニンガム・レイトンという優れた盗賊がいた。
彼が犯人だとおぼしき盗難事件が多発しているのに、警察はその証拠を見つけだすことが出来ず、歯がみしていた。
高価な首飾りが盗まれた後、レイトンがアメリカに渡るという情報を入手したコンウェイ主任警部は、彼もまた船に乗り込む。
しかし宝石は発見できず、また途中でボートに渡した新聞紙が怪しいと思ったのだが、その中からも宝石は見つからなかった・・・。

 宝石輸送のトリックは単純だが、最近ではあまり聞かないアイテム(?)を使っているので、思いつかなかった。
それより宝石のついた首飾りを盗む手口が、あまりにも危険が大きすぎるような気がするのだが・・・。

完全なアリバイ
 夜中に歯医者をたたき起こし、歯を抜いてくれと頼んできた男がいた。
翌日殺人事件が明るみになり、その男が犯人だと断定されるが、男はその時間は歯医者にいたと証言する。
確かに歯医者もその時時計を見ており、犯行時刻には男がいたのを認めるのだが・・・。

 トリック自体は不可能なことを除外することで簡単に推測できる。
それより最後に言っていた警官が時間を知らないという賭けがすごすぎる。
しかし文章に面白い趣向が凝らしてあって楽しめた。

赤い糸
 寝ている間に何度もガス燈が消え、自分が殺されそうになったのだと気付いた男がいた。
新聞記者ハッチンソン・ハッチにその話を聞いた思考機械は、その男はこれからも命の狙われるから保護するように言い、更に現場に赴いて調査を開始する。

 火を消したトリックは思いつきもしなかった。集団家屋のガス燈の構造など分かるはずもないけど(笑)。

 全体としては、不可能犯罪を思考機械がいかに可能な方法かを説明するというパターンが多いのだが、機械の割に動機にもこだわるのがなんだか変で面白い。
解説でも書いてあるが、基本的には思考機械はほとんど動かず、新聞記者のハッチが手足のように調査を行うので、安楽椅子探偵の1人と言えそうである。
 ところで上記の第3短編集が出版されなかった理由は、なんと著者が作品6編と共に、タイタニックで海の底に沈んでしまったからというのが凄まじい。しかも奥さんは救命ボートに押し出して。
この作者が主人公なら、映画「タイタニック」を観てみたい。

20070108


 人狼 JIN-ROH
監督 沖浦啓之/原作・脚本 押井守
1999年日本

 第2次大戦の敗戦から十数年たったもう一つの日本を舞台に、首都圏のみで活動を許された過剰に武装した特殊警察組織ケルベロスの一員の数奇な運命を描く。
 反政府グループの一員の少女が、自爆すると分かっているのに撃つことが出来なかった主人公は、少女の姉と出会い、平和な時を過ごすが、彼の脳裏には血塗られた赤頭巾ちゃんの物語が繰り返し再生され、いつしか赤頭巾の顔は少女の姉のそれになっていた・・・。

 録画したときに「こうだったらいやだなあ」と思っていたようなシーンが目に入ってしまい、ちゃんと観るのが遅れたが、観てみたらそれは序盤のシーンで、そのシーンをきっかけとして語られる物語は期待以上の内容で楽しめた。
なにはともあれ「プロ」がちゃんと描かれている作品は、それだけでポイント高い。

20070110


黄色い部屋の謎
ガストン・ルルー/宮崎嶺雄訳/創元推理文庫

 完全な密室状態の黄色い部屋から、銃声とスタンガースン嬢の「殺される」という悲鳴が。
隣の部屋にいたスタンガースン博士と下男がなんとかドアを破って部屋に入ると、彼女はクビを絞められた上に頭部を鈍器で殴られており、生死をさまよう重体だった。
そして犯人の姿は無かった。 犯人が逃げる方法もあり得ないように思えた。
 事件の調査に乗り出したのは、パリ警視庁の名探偵として名をはせているフレデリック・ラルサンと、若き新聞記者のルールタビーユだった・・・。

 密室トリックの古典的名作として有名な本作だが、ミステリとしては確かに興味深い内容で、そのトリックも筋が通っている。
惜しいのは一部の情報を、ルールタビーユが本編が始まる前から知っていると言うことと、トリックが意図された結果ではない部分が多いというところ。
そんなことより一番印象的だったのは、フランス人らしい自信過剰な文章だった。
自分が最高と思うものは他の人もそうだと信じているというか、とにかく暑苦しい。
これは他のフランス作品でも見られる傾向で、国民性なのだろう。
疲れる国である(笑)。

20070225


キル・ビル Vol.2
2004年アメリカ/クエンティン・タランティーノ監督

 結婚式のリハーサル中にビルの襲撃を受け、愛する夫とお腹の子どもを殺された主人公が、昏睡から奇跡的に目覚め、襲撃に関わったかつての仲間たちを次々と仕留めていったのが前作。
残る標的を追いつめ、最後の標的ビルと対峙するが・・・。

 前作と打って変わって渋い演出が目立つ本作。
前作のハチャメチャバイオレンスアクションを期待すると拍子抜けだが、まあまあ悪くなかったと思う。
過去の修行シーンなど、地味ながら実はハチャメチャ度は上がっているとも言える。
こういう作りだと問題は主人公○○の心情描写にかかってくるわけだが、それも悪くはない。悪くはないが、特別よくもなかったので、やはりまあまあというところか。
 化夢宇留仁的には暗所&閉所恐怖症なので、棺桶生き埋めシーンが一番印象的だった(汗)。

20070331


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