航海日誌番外編5
麻薬集積基地はジャングルの奥深く、ミトル河の小さな支流の側にあった。
密林を所々切り開き、施設を点在させているため、上空からの偵察では発見できなかったのだ。
川岸は遮蔽物が少ないため、まずゲイルに周囲の状況を探らせ、安全が確認されてからチームが渡河を始める。
最初にジュリエッタだけが川を渡った。
敵が待ち伏せをしていることを前提に行動するぐらいの用心深さがなければ、いざという場合に遅れをとる。
全員で呑気に一斉渡河でもして、敵に機関銃の一門でもあったら、足場が不安定で自由に動くことも出来ないチームは即座に全滅してしまう。
川の流れは少し急だったが、腰ほどの高さしか水位がないので、流されるようなことはなかった。
ジュリエッタは川底にトラップが仕掛けられていないかを探しながら、慎重に川を渡り終え、対岸のチェックと警戒についた。
親指を立てて見せ、渡河OKの合図を出す。
2名一組で順々に渡らせ、その間他のメンバーは警戒を続ける。
ジュリエッタは、ウェンインとジャイディに基地の詳細を偵察するように命じ、チームを安全な場所まで後退させた。
こうしてチームは基地から400メートルほどの地点に移動し、待機状態に入った。
偵察を任された2人が任務をこなして戻ってきた。
ウェンインは漢民族を祖先に持つ男で、その普段の無表情ぶりに似つかわしく、無音行動のエキスパートだった。
かつてゲリラの基地を攻撃した際、夜陰にまぎれて接近し、見張りを4人次々と音も無くナイフで始末したことまである。
初めてチームに加わったジャイディも、ジュリエッタはここ1ヶ月の仕事ぶりから高く評価していた。
そして、2人はやはりレベルの高い仕事をしてくれた。
施設の規模から計算して、これまで殺した敵兵を除いても敵の兵力は最低200人弱。
目標となる敵幹部の居住施設、地対空ミサイル、麻薬精製工場の位置も判明した。
表にいる見張りは7人。見張り台の上に3人、工場横に2人、2人が歩き回っている。
マシンガンが3門、1門は見張り台の上、1門は工場横で土嚢にガードされ、あとの1門は兵員宿舎の横でこれには兵士がついていない。
地対空ミサイルは4連装が2基。命中率の低い撃ちっ放しのオモチャだが、地元空軍にとっては十分な脅威になるだろう。
様々な情報を、ウェンインとジャイディが地図に書き込みながら報告していく。
ジュリエッタはそれをもとに作戦計画を立て、司令部に報告を行なった後で全員にミーティングを行なった。
「ウェンイン、歩哨をこの位置で始末しろ。それを合図に見張り台の上をフィナンが狙撃、このマシンガンはオクパラがグレネードで潰せ」
地図を広げ、指で各自の部署を指示していく。
「ゲイルとジャイディは私に続いて正面攻撃。スティットソンはクライフを連れてこちらから迂回、側面
攻撃だ」
全員が頷く。
「ウェンインは歩哨を片付けたら、幹部を確保しろ。殺すなよ。フィナンとオクパラは援護を続けろ。作戦は10分以内。幹部を捕虜にして、ミサイルに爆薬を仕掛けたら、すぐに脱出する。脱出方角はこっち、27度だ。さっきの川沿いに回収部隊を呼ぶ」
ジュリエッタは命令を終えると、部下達を見回した。
肉体を極限まで鍛え、戦術で頭をいっぱいにし、必勝の信念に燃える最強の男達。
ジュリエッタは静かに命令を下した。
「作戦開始。目標は全員生還だ」