航海日誌番外編6
午前2時。
基地は静まり返っていた。
その兵士は背後で低いうめき声がするのを聞き、振り返った。
そこには咽喉から噴水のように血を噴き出しながら、もがいている同僚がいた。
咄嗟には何が起こったのか理解できなかった。
だが、ここ1ヶ月彼らの組織を執拗に攻撃している謎の部隊の事を思い出した。
すぐに警戒を呼びかける大声を出そうとしたが、声が出なかった。
誰かが自分の首を背後から絞めている。
首筋を熱い感触がなぞり、兵士は自分の首が胴体と離れていくのを感じた・・・。
見張り台の上で雑談をしていた兵士は、その小さな音を聞いた。
同僚も同じように、何の音だろう、という表情をしている。
その2人の間に、もう1人の仲間が倒れ込んできた。
「おい!」
声をかけるが、そいつはすでに絶命していた。
「これは?」
同僚に声をかけた。
しかし、その同僚も突然眉間から血を流し、機銃にもたれながら死んだ。
「何が起きてるんだ?」
もちろん、誰からも答えはなかった。
代わりに、一発のライフル弾が彼の眉間を貫いた。
グレネード弾の爆発が夜の静寂を切り裂いた。
「敵襲!」
「突撃!」
2つの怒号が交錯した。
ジュリエッタは兵舎から飛び出してくる敵の一団に銃撃を浴びせた。
ゲイルがテルミット手榴弾を駐車してあった装甲車に投げつける。
焼夷剤とアルミ粉を主成分とした高温手榴弾が、車両を激しく燃え上がらせた。
ジャイディは両手に突撃ライフルを構え、周囲に弾丸の雨を降らせていた。
ジュリエッタのライフルの弾倉が空になり、弾幕が途切れた。
隙をついて数名の敵が突撃してくる。
その敵が次々と倒れる。
側面からスティットソンとクライフが射撃を加えたのだ。
フィナンは鈎爪のような手で十字架を取り出しキスをすると、その十字架を額に押し当て、祈りの言葉を呟いた。
そして一気に物陰から飛び出し、後脚の跳躍力を生かして敵の見張り台に瞬時に駆け上がった。
彼に気づいたらしい敵が、何かを怒鳴った。
すでに照準を合わせていたフィナンは、鈎爪でそっと引き金を絞った。
敵が倒れる。
他の手に持った銃で、すぐ次の敵に照準を合わせる。
「神よ許し給え」
引き金を引く。敵とはいえ、一つの命が消える。
フィナンは4つの手に構えたライフルで、次々と敵を葬っていった。
足元に背後の敵から銃撃が加えられた。
だが、フィナンは全く躊躇せずその方向に1本の銃を向け、また引き金を引いた。
「神よ許し給え」
フィナンの全方向を向いた6つの複眼は、まるで悲しみをたたえるように青く染まっていた・・・。