航海日誌番外編7
ウェンインは敵を殺傷せずに気絶だけさせる、特殊なコンカッション手榴弾を窓から投げ込んだ。
手榴弾が爆発し、強力な音響と、激しい爆圧が敵を圧倒する。
部屋に踊り込む。うめき声を上げている敵兵士にSMGの斉射を浴びせる。
幹部らしい男が床に倒れている。
ウェンインはすかさず麻酔薬を男に注射し、肩に担ぎ上げた。
部屋の外に複数の足音が聞こえた。
男を担いだまま、窓から外に飛び出し、振り返って部屋に焼夷効果のある白燐手榴弾を投げ込んだ。
爆発音と劫火を背にしながら、ウェンインは捕虜を担いで全力で走り出した。
ジュリエッタは遮蔽物に隠れ、4本目の弾倉を交換した。
数発を威嚇に撃ち、すぐに駆け出して位置を変える。
小人数で多数の敵と戦うには、絶対に機動力を失ってはいけない。
絶えず移動し、攻撃し、敵を撹乱し続けなければならない。
駆けながら、射撃で敵の1人を倒す。
スティットソンと撃ち合っている敵の一団の背後に出て、引き金を思いきり引く。
数人の敵がバタバタと倒れる。
弾倉が空になり、ジュリエッタは再び物陰に飛び込んだ。
だが、現実に戦力の圧倒的な差はかなりの負担となっていた。
少しずつでも敵の戦力を削いで、行動のフリーハンドを確保しなければ包囲され、やがて全滅が待っている。
ジュリエッタの周囲に敵の射撃が集中した。
完全に現在位置に張りつけられてしまった。
こうやって圧倒的な火力で弾幕を張られ、その間に突撃でもかけられれば、個人個人で戦っているチームには勝ち目がなくなる。
その恐れが現実となった。
10人以上の敵が一斉に走り出してきた。
逃げようにも、すさまじい射撃に身動きすらできない。
しかし、敵の指揮官の誤った命令がジュリエッタを救った。
敵の兵士達は、ジュリエッタが隠れている給水塔ではなく、全く違う建物の陰に向かって密集して突撃していったのだ。
そこにオクパラの放ったグレネード弾が炸裂し、敵は全滅した。
一瞬にして形勢が逆転したのだった。
ジュリエッタの所に、地対空ミサイルに爆薬を仕掛けに行っていたゲイルが戻ってきた。
「コンポジションを弾頭に張り付けてきました」
ゲイルが報告し、起爆装置をジュリエッタに渡した。
「よし、全員を集めろ。ウェンインが捕虜を確保したら撤退する」
「了解」
ジュリエッタが弾幕を張る。ゲイルは、タイミングを図って戦場に飛び出していった。
そこへ、捕虜を連れたウェンインが走ってくる。後ろには数人の敵兵士がいた。
ジュリエッタはウェンインに援護射撃を送る。
敵の1人が仰け反って倒れる。
だが、他の敵が撃った弾丸が、ウェンインの足を捉えた。
ウェンインが転倒し、捕虜を落とした。
(マズイ!)
ウェンインに追いついた敵兵士が銃を構える。
その兵士が血煙を上げて倒れた。
他の兵士も、次々と倒れていく。
フィナンだった。
4本のライフルを撃ちまくりながら、ウェンインの所に辿りつく。
フィナンはライフルは全て捨てると、ウェンインと捕虜を両肩に担いだ。
ジュリエッタも走り出して、フィナンを援護した。
「よくやった。撤退するぞ!」
ジュリエッタは撤退の合図の笛を吹き、起爆装置のスイッチを押した。