航海日誌番外編9

 ジュリエッタは暗視ゴーグルを着け直し、敵の追っ手が現れるのを待った。
ゴーグルの中、黒く見える木々の間を、赤く見える人影が動いた。
ディスプレイに50メートルと距離が表示される。
銃を構えたまま、地面に這ってジッとプレッシャーに耐える。
表示が40メートル、30メートルと縮まっていく。
指をそっと引き金にかけた。
25メートル。
もう少し引き付けたいが、たった3人の防衛ラインでは逆に突破されかねない。
 ジュリエッタは引き金を引いた。
 ゲイルとジャイディもそれに習う。
 激しい銃撃の応酬。
 最初の射撃で、敵は少なくとも3人の被害を出している。
 しかし、全く火力は衰えない。
 見えるだけでも、10人以上が射撃をしてきている。
「ん?」
 ゴーグルの中で、新しい影が動いた。そいつは長く青い物を持っている。
「携行ミサイル!」
 ジャイディが叫んだ。
 ジュリエッタはバーストにしてあった銃のスイッチをフルオートに合わせ、立ち上がった。
 敵の火線にさらされるが、構わずミサイルを持った敵を撃ちまくった。
 
 その敵を倒したものの、ジュリエッタも3発の命中を食らっていた。
 1発はボディ・アーマーを貫通し、右胸に当たっていた。
 口の中に血が湧き出してくる。
 ジュリエッタは即効性麻酔のケースを取り出し、片手で射撃を続けながら、足の動脈に素早く注射した。
 ライフルの弾が切れた。
 ライフルを捨て、距離を詰めてきていた敵にグレネードを叩き込んだ。
 敵が怯んでいる隙に急いで位置を変えようとする。
 だが傷が痛み、思うように走れなかった。
 ジュリエッタは目指す大木まで辿り着くのを諦め、その場に伏せた。
 頭上を敵の銃弾がかすめる。
 ヘルメットにカキンという軽い衝撃まで走った。
 そこで顔を上げたりしない。
 案の定、またヘルメットに弾が当たる。
 顔を上げていれば、今のを顔面で受ける羽目になっていた。
 左腕に激痛が走った。
 それでも我慢して伏せ続ける。
「左上腕・・・骨まで来てるな・・・」
 医者としての自分が、妙に冷静な判断を下しているのがおかしかった。


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