グラムメインシティの放射線状に延びている幹線道路の中央にソードワールズ連合議事堂が威厳高く見える。
その通り向いにある、近代的な建物が連合軍令部であり、その建物と各階連結通路で まるで双子の様に建っているのが、ソードワールズ連合軍 統合参謀本部である。
ここは、連合各地から集められた優秀な将兵のうち、参謀過程にある者と参謀任務に着任している者が集められた、 例えるならば、連合軍の頭脳とも言える組織である。
その最上階にある、大会議室で現在、最終調整とも言える検討会が行なわれていた。
「という訳で、海兵隊が入手した帝国軍の植民地仕様のいわゆるモンキーモデルの反重力戦車でも、 その装甲は我々の実地実験では、打ち破ることはできませんでした。」ジェイムス・ワトキンス海兵大尉は報告を締めくくった。
「また一つあのライラナー工科大学の先生の論文が検証されたというだけかね?海兵隊特務が命掛けで任務を遂行した結果。」とミルキス海軍少将が 皮肉気味に背もたれに体を預けて言った。
「我が親愛なる友好国ゾーダン連邦からコンピュタと戦車主砲だけでも購入したらどうかね?ゾダーン製のフュージョンガンならば対抗できたと 観測記録では立証されているが。」ルーウィッド海兵大佐が誰に尋ねるともなく声高に言うと、
「全軍の陸上機甲戦力に配分するだけの輸入をしたところで維持できる技術がありません。戦車とは酷く壊れ易いものなのです。 それに単に射撃するだけでもかなりの頻度で交換部品を必要とします。まして実戦配備となると・・・」ワトキンス海兵大尉が残念そうに反論した。 何に残念なのかは、判らないが。
「ふむ、我々カプセル降下兵とは色々と異なるという訳だ。」ルーウィッド海兵大佐が口の端を歪めて、笑って見せた。
やれやれ、こいつは勇猛と粗雑の区別ができない指揮官だな、 流石、降下兵は、”突入して、ぶっ放して、回収される”という評価は本当らしい、とワトキンス大尉は無表情に思った。
「では、技術本部としては、統合参謀本部にどうしろと?」ワイミー海軍少将がワトキンス大尉に尋ねた。
「現段階では例え我々の砲が弾かれるとしても、数で押すしか方法がありません。相手の壊れ易い部分に交戦中に狙えなどと楽観論を 御披露したら、現場の将兵に申し訳が立ちません。」とワトキンス大尉が深々と頭を下げた。
「つまるところ、反重力戦車の増産、これしかないな。」参謀本部長であるウェバー大将がこの座が始まって初めて重々しく結論付けた。
「それと、交換部品等の充足や補給部門の増加、あと戦車搭乗員の教育員数の増加と訓練も合わせて御願致します。」ワトキンス大尉は付け加えた。
「あと、海軍の輸送能力の充足だな。」ワイミー中将が流石に補給部門の総監だけに慌てて言った。
「海軍の艦艇の方はどうかね?」ウェバー大将は一座を見渡して言った。
「それについては、小官から御報告致します。」作戦幕僚部のマクファーソン少佐が立ち上がった。
3Dプロジェクタに青い棒グラフで主力艦船数、補助艦船数、空母数等が表示される。
「これが現在の我が軍の保有する艦船の数です。」一息つくと、マクファーソン少佐は廻りを見渡した。
「次は、帝国の我々が対峙すると推察される艦艇数です。」 赤い棒グラフが隣に並ぶ。多少の差はあるが、ほぼ拮抗している。 別画面に星域図が出ると、ダリアン方面が拡大された。
「仮想的になりますダリアンは、大規模なJ可能艦船を保有しません。その殆どがジャンプ能力のないバトルライダーとなります。 これは、情報部の報告でもかなりの高性能艦であるのは確実です。彼らはこの戦力で有人星系の自領防衛を企図し、 それ以外の警備をジャンプ可能艦で実施しています。」マクファーソン少佐は説明した。
「皆さんも御存じの通り、大規模有人星系の占領が海軍の主たる任務と考えれば、ゾダーン連邦海軍艦隊と合同して対応可能なダリアン方面、 戦力の希薄な帝国領ヴィリス及びランス星域にも戦力を配分し、同時にルーニオン星域へ積極防衛行動としての侵攻を掛け、艦隊決戦を有利な条件で実施し、 戦局の主導を取るのが、最も良い作戦であると、作戦幕僚部では纏めました。」
「だが、ライラナー工科大学のヤマナカ教授の論文では、難しい事が露見しているのではないかね?」ミルキス海軍少将が尋ねた。
「はい、これが教授の戦力比率を掛けた戦力値としての評価です。」マクファーソン少佐が言うと、棒グラフが変化して、赤は伸び上がったが、青は縮んで行った。 大きな溜息が大きな会議室の高い天井に充満した。 特に空母戦力などは、青色が殆ど無くなってしまった。
「では聞くが、例の教授の論文が正しいと決まった訳ではないだろう。 あの論文には我が軍将兵の士気や練度の高さや各級指揮官の戦術などは反映されていない。 それらの観点から、今迄も我が軍は善戦していたのは明らかだ。」 ミルキス海軍少将が半ば叫ぶように言った。彼はパイロット上がりの有数の空母信奉者でもある。 それを教授の論文の中では、ミサイルキャリアーと一蹴されてしまった。到底我慢できないところであろう。
マクファーソン少佐は両手で押さえる様なジェスチャーをしながら、苦笑して、「いえいえ、少将の仰りたい事は充分判っております。ですが、作戦幕僚部としては、これを逆境ではなく、好機と見做して、議会に予算の大幅増を危機感ゆえに通過させる事ができると考えております。」というと、プロジェクタが変わった。
「まず、この点が、現在の連合の造船能力、製鉄能力です。これが、将来20年に於ける増加を見込んだ変化です。」マクファーソン少佐が説明すると会議室の中の全員が息を飲んだ。
「そして、この重ねた棒グラフが連合海軍で供することの可能な造船量です。これでシミュレートすると、10年後に、現在の2.12倍の排水素tの戦闘艦艇を保持できます。また、補助艦艇、輸送艦艇もこれに準じて建造可能です。」
ウェバー大将も身を乗り出して資料を見て、「これならば、増産による景気への余波が見込めるとあるが、どれくらいかね?」と尋ねた。
「はい、人員の訓練に含む経費関係も検討すると凡そですが、GDPの最低2%、最高で5%の増加が見込めるのではと考えております。」
「よし、この案について、反対意見のあるものはいるかね?」ウェバー大将が大会議室全員に問い掛けると、若干の拍手が起こった。
「よろしい。マクファーソン少佐は、この案を纏めて置く様に。次の戦略会議で統合参謀本部案として軍令部へ具申する。」
「承知致しました。」とマクファーソン少佐は、答えると、まるで見本の様な海軍式の敬礼をした。

 こうして、ソードワールズ連合統合参謀本部の戦略会議への意見案は決定したのであった。

ワトキンス海兵大尉
ミルキス海軍少将
ルーウィッド海兵大佐 
降下兵 ワイミー中将  
補給 ウェバー大将
統合参謀本部の新進気鋭、作戦幕僚部付、アラン・マクファーソン少佐
ウェバー大将

軍令部長のエドワード・モリス大将

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