龍太郎氏の前書き 辺境戦争シリーズの最新作です。 ゾダーン軍の進撃はついにランス星域にまで到達します。 そう、ゾダーンの今までの優勢も、しょせん帝国の掌の上で踊っているにすぎ ないのです(笑)。 |
第二波攻撃
帝国暦578年第134日、タヴォンニ星系を陥落させて勢いに乗ったゾダー ン艦隊は、ランス、ドガンジオの二星系に対して同時攻撃を開始した。
これに先立つ一連の戦闘で、ヴィリス、フレンジー両星系の帝国軍は壊滅し、 実質的にヴィリス星域はゾダーンの勢力圏となっていた。
帝国にとってこの決戦は決して敗れることのできない、重要な意味を持ってい た。
ここでランス、ドガンジオが奪取されることになれば、帝国の次の組織的防衛線ははるか25光年後方のライラナーかマーキュリーのどちらかの星系まで存在せず、まさにこの一戦に十数の星系の防衛がかかっているのだ。
一方で短期決戦を目指すゾダーン側にとって、ここでの勝利こそが帝国を講和のテーブルに着かせるための、欠かせぬ要素であった。
ランス攻略に向けられたゾダーン艦隊は、戦艦6隻、重巡洋艦4隻、軽巡洋艦 8隻、駆逐艦19隻、護衛艦15隻、工作艦2隻、揚陸艦4隻、輸送艦8隻であ
り、ゾダーン海軍でも最精鋭の部隊であった。
これに対して、ランス防衛にあたる帝国艦隊は、戦艦7隻、重巡洋艦1隻、軽 巡洋艦8隻、駆逐艦18隻、惑星防衛艦6隻。戦艦の数で若干上回るものの、総 合的な戦力はゾダーン軍に劣っていた。
一方のドガンジオ攻略に向けられたゾダーン艦隊は、空母1隻、戦艦1隻、重 巡洋艦3隻、軽巡洋艦5隻、駆逐艦12隻、戦闘艇輸送艦1隻と、その積載大型 戦闘艇8隻であった。
これに対峙する帝国軍は、重巡洋艦3隻、軽巡洋艦1隻、駆逐艦1隻、砲艦1隻、惑星防衛艦17隻。
やはり明らかな不利は否めなかった。
帝国暦578年第134日16時10分、最初の攻撃がドガンジオ星系第5惑星付近のガス・ジャイアント警備に就いていた駆逐艦「ワリヤーグ」と砲艦「コ
レーツ」に対して行われた。
2隻は数分間の間に続けて爆沈し、緒戦はあっさりとゾダーン側に軍配が上がった。
17時30分、ドガンジオ防衛部隊に残された全ての宇宙戦力、第1920戦 隊の重巡洋艦3隻、アルシャイム子爵家の軽巡洋艦、近隣惑星から増援を受けた
17隻の惑星防衛艦隊が、一斉にゾダーン艦隊への突撃を敢行した。
2時間弱の戦闘で、帝国軍は重巡洋艦1隻と惑星防衛艦2隻を失ったが、ゾダ ーン軍の重巡洋艦1隻、軽巡洋艦1隻、駆逐艦2隻を撃沈し、戦闘艇輸送艦には損害を与えた。
しかし、帝国軍は残った艦艇の消耗が激しく、主要星系の防衛を放棄して第2 惑星軌道上の簡易宇宙港まで撤退した。
ゾダーン軍はドガンジオ星系での地上戦は避け、港内の帝国軍を宇宙空間から砲撃し、帝国軍の宇宙戦力を封じ込めることに専念した。
この後、4日間に及ぶ砲撃により、帝国軍の全艦艇は破壊され、ドガンジオの制宙権は完全にゾダーンのものとなる。
帝国暦578年第134日19時50分、ランスでも戦闘が開始されていた。
戦艦数で劣るゾダーン艦隊は近距離での戦闘に持ちこもうと、アステロイドベ ルトを迂回して帝国艦隊に近づいた。
これを発見した帝国艦隊が距離8万Kmで砲撃を開始、ゾダーン艦隊も10分後に応射を開始した。
元々、乗組員の練度に差のある両艦隊の砲撃戦は、ゾダーン艦隊の圧倒的優位 に進展した。
まず最初の一斉射で帝国軍の2隻の戦艦が大破して戦列を離れた。 さらに20時10分過ぎに帝国艦隊の旗艦アレン・ジリが撃沈され、以後帝国 艦隊は統制の取れないままゾダーン艦隊の砲火を受け続けることになる。
22時、帝国艦隊の残存艦艇は戦場を離脱したが、ゾダーン艦隊は駆逐艦と護衛艦にこれを追わせ、執拗に追撃した。
23時20分、帝国艦隊の指揮権を引き継いだトシオ・ソガ少将は、ついに降伏を決意した。 この時、残っていた帝国艦隊は戦艦2隻、軽巡洋艦3隻、駆逐艦6隻、惑星防
衛艦2隻、当初の数の三分の一以下であり、残ったこれらの艦艇にしても無傷な ものは無かった。
一方でゾダーン艦隊の損害は、撃沈に関しては駆逐艦1隻と護衛艦2隻のみで あった。
圧倒的勝利を収めたゾダーン艦隊は、ランスを第二次侵攻の拠点とすべく、占領のための上陸軍を展開させた。
ゾダーン首脳部は戦争の勝利を確信していた。
第一次侵攻は、第一波攻撃、第二波攻撃ともに成功した。
右翼戦線の戦況は順調に推移している。 ヴィリス、ランスの両星域は完全に掌握した。
左翼ではイフェイトの占領に手間取っているが、大した問題ではない。 ジュエ ル星域を孤立化させているだけで目的の大部分は達成している。
いよいよ第二次侵攻を開始して、主戦力を投入する時が来たようだ。 帝国の目がイフェイトとランスに向いている今、リジャイナ、ライラナー、モ ーラと手薄になった中央の星域を突破し、最短経路で帝国の宙域首都を陥落させるのだ。
この戦争は、もうすぐ終わる……。
By 龍太郎氏
龍太郎氏による、辺境戦争史第7回。 ますます激しさを増す戦闘の中、両勢力の思惑が乱れ飛んでます。 化夢宇留仁 |