リングワールドふたたび

★ ラリイ・ニーヴン/小隅黎訳
早川文庫SF/昭和63年4月30日初版発行

 その人工物は太陽のまわりの巨大な輪であり、居住可能面積は地球の300万倍。
惑星ごと移住できるほどの高度な科学技術をもったパペッティア人に連れ出され、リングワールドにやってきたルイスとハミイーは、リングワールドの軸がずれ、破滅に向かっているのを知る。
はたしてリングワールドを救うことが出来るのだろうか。
・・・という話で、クトゥルフ神話とはまったく関係ない。
しかし絶体絶命のピンチに陥った主人公が、「クトゥルーよ、アラーよ!」と言う(笑)。




クトゥルー・オペラ
「邪神惑星一九九七年」「地底の黒い神」「双子神の逆襲」「暗黒球の魔神」

   

★★★ 風見潤
ソノラマ文庫/昭和55年7月30日初版発行

 ダーレスの世界観をベースに、邪神を倒すべく世界中から集まった7組の双子の戦いを描く。
読む前に聞いていた情報と、ダーレスがベースということで、しょうもない内容だろうと予測し、笑えたら収穫だと思って読み始めたのだが、これが意外によくできている。
クトゥルフ神話をベースにしたSFアクションといった内容で、昔よくあった質のいいSFジュブナイルに仕上げられているのだ。
 予測はしていても驚かされるのが次々と倒されてゆく旧支配者達である。
ダゴンなんて雑魚扱いだし、クトゥルフもアッという間に倒されてしまう。しかし描写や少年達の能力と相まって、邪神たちが単なる怪物にはなっていないのは見事。
またSF要素もちゃんと筋を通しており、ハードSFとも言える内容である。
善神(旧神)の正体も明かされるが、これはなかなか意外な展開が用意されている。

 とりあえずクトゥルフ神話を知らなくても楽しめるし、知っていればより楽しめる良作だった。




黒い仏

★★★ 殊能将之/講談社ノベルズ・講談社文庫

並みいる自称「本格ミステリ通」を激怒させ憤死させた、問題作。
映画化もされた『ハサミ男』で知られた著者が書いたクトゥルフ神話へのオマージュに満ちた本格ミステリなのですが、今回の舞台は福岡県の田舎町、阿九浜(=アーカム!)で、謎めいた美女、上鳥(=ウェイトリー!)瑠美子が登場します。そして、絡んでくるのは9世紀に天台僧が唐から持ち帰った「くろみさま」なる顔のない(!)仏像と、謎の経典「妙法蟲聲經(みょうほうちゅうせいきょう)」。殺人事件の聞き込み先は、瑠美子が勤めていたというファッションヘルス「イエロー・サイン」(!)。
ちなみに、この怪しげな経典「妙法蟲聲經」には、以下のようなお経の文句が記載されていたりします。

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 不倶隷 目楼那訶 朱誅楼 楼楼隷 阿伽不那瞿利 不多乾
  ふぐれい もくろなか しゅちゅろ ろろれい あきゃふなくり ふたけん

【ラヴクラフト原文】
 Ph'nglui mglw'nafh Cthulhu R'lyeh wgah'nagl fhtagn.

【大瀧啓裕氏訳文】
 ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなくる ふたぐん
(ルルイエの館にて死せるクトゥルー夢見るままに待ちいたり)

※著者のサイトより引用

##

ここでノックアウトされた人は迷わずこの本を手にとってみて欲しいのですが、注意していただきたいのが、単にファッションとしてではなく、ミステリの根幹を為す要素として、クトゥルフ神話が用いられているところ。そして、この「ミステリの根幹を為す要素」が、並み居る自称「本格ミステリ通」たちを激怒させた、そもそもの原因だったりするのです。
これ以上言うとネタバレになってしまうので伏せておきますが(推理小説の答えを先に漏らしてしまうほど興醒めなことはありませんしね)、読後、本を屑篭に叩きつけるか神棚に祭り上げるか、取る行動は両極端に分かれることでしょう。

私個人といたしましては、落ちそのものにも別の部分にも、色々と物足りないところがないではなかったのですが、国産ミステリというわりと閉鎖的なシーンにおいてこれを成し遂げた勇気には、感服させられた次第です。また、これに唸った人は、ぜひとも、イタリアの作家であるウンベルト・エーコという人が書いた『フーコーの振り子』という巨大トリビア小説に挑戦していただきたい、と思います(同じ落とし方してますので)。

それはともかくといたしまして、誹謗中傷の嵐により、Amazon.co.jpを利用すれば(送料・手数料はかかりますが)、1円からの値段で販売されておりますので(笑)、興味ある方はぜひ一度、「騙されて」みてください。

なお、著者自身のサイトには『黒い仏』の特設コーナーがあり、設定の全貌が垣間見えますので、読了の暁には一度訪問されることをお薦めいたします。

"Mercy Snow":『黒い仏』特設ページ

※このデータはThornさんに投稿していただきました。




スキュラの恐怖

★★★ 山本弘/ホビージャパン「クトゥルフ・ワールド・ツアー」掲載

 1920年代のアメリカはボストンが主な舞台で、突如として彼女の部屋のベランダに現れた裸の女の首無し死体を調べる内、恐るべき復讐と想像を絶する真実にたどり着く。
  関連作品というか、 そのものズバリのゲーム小説だが、クトゥルフ神話作品としても完成度が高い。プロットの巧みさは他に類を見ないと言っていいだろう。
ゲーム小説と言ってもリプレイのように直接ゲームを表現するのではなく、全ての描写がさり気なくゲームのルール通りになっているのも心憎い。
完全に論理的な思考で作られた作品なので、真のコズミック・ホラーとは言えないが、それでも十分恐怖も味わえるし、山本弘の腕の確かさを再認識できる作品。
 同作品は同社から刊行されたゲーム小説を集めた短編集「ヘンダーズ・ルインの領主」にも収録されている。




クトゥルー2

★★★ オーガスト・ダーレス他/大瀧啓裕・編/青心社

 最後の「クトゥルー神話の魔道書」以外は、ダーレス作のラバン・シュルズベリイ博士が活躍する連作短編集で、まとめて「永却の探求」という長編になっている。

永却の探求/オーガスト・ダーレス
●第1部 アンドリュー・フェランの手記
 アーカムの片隅に住む不気味な老人の研究の助手となったアンドリュー・フェラン。
雇い主のラバン・シュルズベリイ博士はオカルトじみた研究をしているようだったが、やがてフェランは奇妙な夢を見、少しずつ博士の研究対象が実在し、博士自身も奇妙な能力を持っていることを知る・・・。
 ・・・相変わらずのダーレス節だが、博士と助手のキャラが起っているのでそれなりに楽しめた。
ゲーム的な内容という点では群を抜く(笑)。
●第2部 エイベル・キーンの書置
 キーンの部屋に突然現れたのは、2年前に行方不明になったアンドリュー・フェランだった。
彼はインスマスで新たに邪悪が動き出していると語り、キーンに強力を求める。
  ・・・超能力アクションもののような雰囲気になってきている。一番近い雰囲気の作品は「クトゥルー・オペラ」かも(笑)。
●第3部 クレイボーン・ボイドの遺書
 亡くなった大叔父の遺品を調べ、その研究に興味をもったボイド。それは南太平洋の広い範囲に、怪物の姿の神が存在した可能性を暗示していた。
そんな時、彼の夢の中で、彼に語りかける者がいた。それは真っ黒なサングラスを掛けた老人だった。
老人の言うことが本当だと確信を持ったボイドは、ペルーの邪悪な教団に戦いを挑むことに・・・。
 ・・・幻魔大戦のようでもあるな(笑)。
●第4部 ネイランド・コラムの記録
 小説家のネイランド・コラムは、ラバン・シュルズベリイ博士の協力要請ものと、 アラビアの広大な砂漠にある無名都市へ向かう。
そこには行方不明になった若者達が眠っており、また伝説の狂えるアラブ人の墓があった・・・。
 ・・・とうとう出てきたアル・ハザード。しかしそれを気軽に降霊してしまうのがダーレスらしい。もっと威厳を持たせたいところなのに。
セイレムに魂が飛んだあとの抜け殻が無名都市に安置されているのは面白いアイデアだが、ゲームでは採用されなかったようだ。
●第5部 ホーヴァス・ブレインの物語
 考古学者のブレインは、シュルズベリイ博士とその仲間である若者達とともに、恐るべきルルイエ探索の旅に出る。またその旅はアメリカ海軍も協力しており、その船には最終兵器も搭載されていた・・・。
 ・・・とうとうやっちゃいました(笑)。内容的には「妖神グルメ」と「バタリアン」と「インスマスの影」を足して10で割ったような感じ(笑)?

 長編としてみると、それぞれ新しい主人公が出てきてはシュルズベリイ博士の仲間になって行くところとか、ほんとに超能力アクションっぽくてそれなりに面白い。
しかし突き抜けたところが無く、結局クトゥルフ神話全体をパワーダウンさせる結果になっているのが残念。
どうもダーレスの描く神性は人間的な思考を感じて、単なる「悪」という雰囲気なのがつまらない。

クトゥルー神話の魔道書/リン・カーター
 クトゥルフ神話関連作品に出てきた魔道書の実在の有無、その背景などを解説。
おそらくカーター作の資料では唯一参考するに値する内容。

※表紙に関して
 山田章博による相変わらず雰囲気のあるイラストで、コンパクトにまとまっている。
化夢宇留仁の好みとしてはもう少しディテールが欲しいのだが、文庫の表紙はあまりごちゃごちゃするのもなんなので、ちょうどいいくらいだろうか。
しかしピンク色の題字はどうかと思う。




クトゥルー9

★★★ 大瀧啓裕・編/青心社
 編者がクトゥルフ神話に関わると判断した作品が集められているシリーズ。

謎の浅浮き彫り/オーガスト・ダーレス
 音楽と美術の批評家ジェイスン・ウェクターが行方不明になった顛末には、彼にプレゼントした謎めいた浅浮き彫りが関わっていた。
それには海底の都市から八腕目が出てこようとしている様を描いたもので、それを受け取って以来、ウェクターの批評内容は一変し、彼自身も変調をきたしていた・・・。
 小品だがダーレスにしてはオチも効いていていい感じ。
C・A・スミスの彫刻作品も神話由来の遺物に迫る本物として紹介されているのが微笑ましい。
引き出しの中身」さんのところで、この浅浮き彫りと同様の物が出てくるオリジナルシナリオ「杉山屋敷怪異譚」が紹介されていて、こちらも雰囲気があって面白い。

城の部屋/J・ラムジー・キャンベル
 イギリスはブリチェスター郊外の丘にある城の廃墟。そこには1700年代に魔術師が住んでいて、怪物を閉じこめていたという伝説があった。
大英図書館でその噂に信憑性を感じたパリーは、その城へ向かい、隠し部屋を探す・・・。
 まさにゲームっぽい展開の塊のような作品。最後のオチが少し間抜けでホラーになっていないが、図書館や教会などで断片的な情報を得てゆく雰囲気は楽しい。
それにしても本作では怪物の描写(一貫性が無い部分もあるが)が詳細に成されているのに、ルールブックにその記載が無いのが不思議である。

喰らうものども/フランク・ベルナップ・ロング
 人間の原始体験を元にした物ではない、真の恐怖を描き出したいとフランクに語る怪奇作家ハワード。
そこに知人であるヘンリーが現れる。ヘンリーは恐怖に震えており、森の中で名状しがたい怪物に遭遇したことを語る。しかも脳が冷たいと言う彼のこめかみには、恐ろしく深い穴が開いていた・・・。
 クトゥルフ神話作品独特の内輪受け展開はまだ許せるが、十字架が神話的存在に効果があるというのは納得がいかない。また十字の印が人類よりも古い太古の印だというのも、なにを根拠に言っているのか納得がいかない。
そう言う問題以前に、途中の展開でボートに乗って海に逃げ出そうとしているあたりでは、メイン登場人物の二人とも発狂しているとしか思えず、通常の小説としての完成度も低いと言わざるを得ない。

魔女の谷/ラブクラフト&ダーレス
 アーカムの西に建つ第七地区小学校の教師ウィリアムズは、生徒の中に飛び級が十分可能な学力があるのに、まったく意欲が無く、加えて他の生徒達に恐れられているらしいアンドルー・ポターという少年がいるのに気付く。彼の家にも訪問してみたが、結果は散々で、それどころか不気味な事件が発生し・・・。
 相変わらずの合作とは名ばかりのダーレス作品だが、小学校という舞台が新鮮だし、ゲームの参考にはなると思う。
最後に出てきたのはハスターの落とし子か?

セベクの秘密/ロバート・ブロック
 ソノラマ文庫の「暗黒界の悪霊」の「セベク神の呪い」と同内容。訳者が異なるが。

ヒュドラ/ヘンリイ・カットナー
 1人の行方不明者と2人の死者を出したオカルト絡みの怪事件の顛末を、被害者の日記をたどって語る。
彼らは小冊子「魂の射出」に従い、大陸の反対側のオカルティストと連絡をとろうとしたのだが・・・。
 語り手があくまで現実的な視点なので、かえって内容の異常さが表現されていて実にいい感じ。
ヒュドラの設定は、上記の「スキュラの恐怖」で山本弘もパクって利用しているが、そうしたくなるのも分かるくらい面白くて手を加えられる部分も多い作りになっている。

闇に囁くもの/H・P・ラヴクラフト
 創元推理文庫の「ラブクラフト全集1」の同タイトルと同内容。

※表紙について
 これまでとは打って変わって分かりやすいイラスト。もうそのまんまとしか言いようがない。
しかしどうせここまでそのまんまに描くのであれば、もう少し本文の内容を加味してもいいんじゃないかと思う。恐らく山田章博画伯は内容を読んでないんだろうな。
それといつもの化夢宇留仁の好みからすれば、やはり彩度が強すぎて不気味さが足らないと思う。
どうせならクトゥルフ以外はモノクロにする勢いでもよかったのでは。
せめてタイトル文字の「クトゥルー」が白色だったら落ち着いたと思うのだが。




魔境遊撃隊 ナイルの呼び声

★★ 富士見文庫/昭和61年4月30日初版
栗本薫原作/永橋隆著

 数年前、「魔境遊撃隊」の一員として大冒険を繰り広げた新鋭作家栗本薫のところに、薄汚れた手紙が届いた。
差出人は印南薫。遊撃隊のリーダーだった美少年である。
しかも今度は彼は誘拐され、どこともしれぬ所に閉じこめられているという・・・・・・。
  栗本薫の「魔境遊撃隊」の続編の体をとったゲームブック作品。
そもそも原作の「魔境遊撃隊」がバリバリのクトゥルフ関連作品のようなのだが、化夢宇留仁は読んだはずなのに全然記憶が無い(汗)。
その内再読してみよう。
本作ではラスト辺りで旧支配者達が山ほど出てくる。
しかしその扱いはクトゥルフ神話に沿ったものではなく、著者オリジナルの味付けが成されている。
まあ「魔界水滸伝」の作者なのだから当然か(笑)。
でも雰囲気はなかなかで、むしろそこにたどり着くまでの描写が参考になるかも。
それは原作者ではなくて、このゲームブックの作者の功績か。

20070810




ドリーム・パーク

★ 創元推理文庫/1983年3月25日初版
L・ニーヴン&S・バーンズ/榎林哲訳

 近未来。最大の娯楽は「ドリーム・パーク」と呼ばれる大規模なライブ・ロールプレイングゲームだった!!!
ところがそのゲーム中にパークの警備員が殺される事件が発生し、ゲームプレイヤーに犯人が紛れ込んでいる可能性が・・・。

 最近車通勤になった上、昼食を人ととることが増えたので本を読む時間が激減し、読み終わるのにずいぶん時間が掛かった。
内容的にはまさに上記の説明のままで、まさにRPGゲーマー必読の書・・・と言えなくもない・・・かも(笑)?
まったくゲームに興味がなかった保安部長が、ゲーマー達の熱気とロールプレイングゲームの本質に触れ、いつの間にか熱中してゆく様が痛快。

 クトゥルフに関係あるのは、冒頭に出てくるパークの描写の一部。
「オールド・アーカムめぐり」というゲームが出てきて、クトゥルーの眷属に孫を食い殺される云々という一文がある。

20080127


 

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