クトゥルー神話大全 暗黒の邪神世界
ラヴクラフトと宇宙神話入門
★★★ ムー特別編集/学研
ムー的視点からクトゥルフ神話を解説している。
まさに興味本位という感じが実に面白く、この手の本の中でも最もとっつきやすい方だと思うが、資料価値も高い。実にいい本だ。
CTHULHU PHOTO THEATER
クトゥルフ神話小説のいくつかのタイトルを、印象派風のディオラマで表現したカラーページ。
やはり立体の存在感は強烈で、なかなか楽しめる。ただし制作者の意図がそうなのだとは思うが、造形が抽象的すぎてせっかく立体になっているのに具体性に乏しいのは少し残念。
扱っているタイトルは「クトゥルーの呼び声」「魔宴」「未知なるカダスを夢に求めて」
CTHULHU IMAGINE MAP
神話関連の様々な場所を、雰囲気満点のイラスト調に仕上げた地図で紹介。
どれも如何にもムー的なハッタリと遊び心にあふれていて、見るだけでも楽しいし、ゲームの参考資料としても非常に役に立つ。このコーナーだけでもこの本を買う価値はある。
扱っているのは「幻夢卿・カダス(ドリームランド)」 「地球・邪神生息地」「狂気山脈(南極)」「地下無名都市(アラビア半島奥地の砂漠)」
ところで地球地図のアメリカ東海岸のアップで、気になるところが1つある。なぜかインスマウスが内陸にあ
るのだ。
これは化夢宇留仁の認識不足のため?それともここがムーなところなのか(笑)?
H・P・ラヴクラフトの時間と空間
ラヴクラフトの人生に深く関わる場所の写真やイラスト入りの手紙などが掲載されている。写
真の多くは菊池秀行氏が実際に訪れて撮影したもの。
化夢宇留仁は手紙のH・P・ラヴクラフトが描いたらしいイラストがすごくうまいのに驚いた。
絵がうまいのではなくイラストがうまいのだ。 そのまま小説雑誌のイラストに使える。
CTHULHU-INTERVIEW
例によってのインタビューコーナー。
●荒俣宏
クトゥルフ神話関連の作品は今で言うコンピュータゲームのロールプレイングゲームであり、ラヴクラフトはある意味プログラマーを目指した人物だと言う。
まったくその通りだと思う。またゲーム的な面白さをラヴクラフトサークルが追求していたのも確かだろう。
面白いのはラヴクラフトが生涯売れなかったので自分で自分の作ったゲームをプレイするしかなく、その結果
作品内容的には型にはまったまま内容を濃くしてゆけたという件。
勿論ラヴクラフトに才能があったということもあるだろうが、基本的にはその通りだと思うし、逆に後を次いだ者たちは内面
に向かって煮詰まってゆかなかった分、作品にオリジナリティと迫力が足らないのだと思う。
C・A・スミスだけは例外なのは、やはり才能のなせる技だろうか。
●栗本薫
彼女は魔界水滸伝のクライマックスを書いていると、必ず超常現象を体験するらしい。
なんか如何にも女性的な考え方と捉え方で、なかなか面白い。
しかし化夢宇留仁には理解しがたい。やはり理詰めで考えこんだ上で、理屈では説明できない要素に行き当たる方が楽しいし、クトゥルフ神話的だと思う。
●H・R・ギーガー
びっくりするほど普通のおっさんである。何というか考え方がフラットで、偏っていない。
フラットすぎて逆に偏ったイメージを鮮明に描き出せるのではないかと思わされる。
●菊池秀行
前から思ってたが、この人はいわゆるミーハーで、それが読者を楽しませる視点を培う結果
になってるんだと再認識。
視点がいちいち庶民的で笑ってしまう。
●矢野健太郎
ラヴクラフトの作品では、宇宙年代記的な後半よりも初期のホラーの方が好きらしい。
化夢宇留仁はラヴクラフトの真骨頂は、人の理解できない異なる思考から積み上げられた歴史や文化との遭遇だと思うので意見は違うが、そう言う視点も面
白い。
またこのインタビューでは爆笑した箇所があった。
健太郎氏が初めて読んだラヴクラフト作品は「ダンイッチの怪」。彼は前半は怪奇ものと思って読み、後半になったら怪獣ものになってネロンガ(笑)みたいなのが出てきたぞと思ったそうな。
確かにネロンガと言ってしまえばネロンガ以外の何者でもない(笑)。
ラヴクラフトと怪奇な現象
実にムー的なコーナーで、ラヴクラフトの父親がフリーメイソンの一員で魔道書を持っていたとか、ラヴクラフトの死後にその作品が暗示していたような怪奇現象が次々に起こったとか、
それっぽいことが書いてあった(笑)。
「死霊秘宝(ネクロノミコン)」または暗黒の聖書
歴史的事実や資料と参照し、ネクロノミコンが実在した可能性を探る・・・と言うか、むしろ実在する前提で書かれている。これまた実にムー的(笑)。
魔道書事典
実在するものも含めて、主要な魔道書を紹介している。でもなぜか「妖蛆の秘密」は載っていない。
CTHULHU BASIC STORY GUIDE クトゥルー神話絵図
矢野健太郎氏が筆をふるった、宇宙黎明から現代そして超未来にいたるまでの神話的年表。
なかなか激しいタッチで描かれており、一瞬永井豪かと思った(笑)。
CTHULHU EVIL-GOD PICTURE BOOK 邪神図鑑
同じく矢野健太郎氏のイラストで、代表的なモンスターを紹介。 しかしダーレスの四大精霊説をまともに扱っているのが気になる。
クトゥルー神話名作集
代表的な作品をそこそこボリュームのあるダイジェストで紹介。
興味はあるけど本編を読むのはしんどいという人にはうってつけのコーナーである。ただしラヴクラフトの作品はその描写
によるところが大きいので、これを読んで評価しないようにお願いしたい。
扱っているのは「アルハザードのランプ」「時間からの影」「狂気の山脈にて」「クトゥルーの呼び声」「インスマスを覆う影」「閉ざされた部屋」「永劫の探求」「イグの呪い」「永劫より」「異形」「銀の鍵」「銀の鍵の門を越えて」「未知なるカダスを夢に求めて」「ダニッチの怪」「闇をさまようもの」「ハスターの帰還」「ロイガーの復活」
ラヴクラフトとその後の作家たち
●深淵を覗く人 H・P・ラヴクラフト小伝
ラヴクラフトの一生を順を追って紹介。 略年譜もある。
●クトゥルーの使徒たち
クトゥルフ神話小説を手がけた作家を年代別に紹介。本を探すときの参考になるだろう。
クトゥルー神話用語集
この手の本には欠かせない用語集。各項目が結構詳しく書かれて、資料価値が高い。
当時のウイアード・テールズのイラストも掲載されている。
クトゥルー神話大系作品ガイド
これも欠かせない作品ガイド。 短いダイジェストとマメ知識のようなガイドで構成されており、特にこのガイドが興味深い。
クトゥルフ神話作品の原書や、ゆかりの地の写真も掲載されている。
CTHULHU COLLECTION
写真入りで、クトゥルフ神話関連の代表的な書籍、洋書、ゲーム、フィギュアなどが紹介されている。目に楽しい。
クトゥルー神話事典
★★★ 東雅夫編/学研
丸々1冊クトゥルフ関連の事典という愉快な本。
序<クトゥルー神話の世界へ>
クトゥルフ神話の概要と、その経過を分かりやすい文章で紹介。読み物としても楽しめる。
禁断の大百科<用語事典>
詳しい用語事典。当時の本に収録されたイラストなども掲載されている。
同じ学研の「クトゥルー神話大系」の用語事典と見比べてみると、項目が全体的には増えているが、なぜか消えているものもある。ページの都合だろうか?
暗黒の文学館<作品案内>
詳細なデータと共に、多くの作品が執筆年代順に紹介されている。
探奇の紳士録<作家名鑑>
各作家の経歴と、神話作品のリストとその執筆の経過が紹介されている。
資料価値高し。村上龍の名前もある(笑)。
恐怖の年代記<歴史年表>
起源730年から5000年(笑)までの神話関連年表。それぞれの年に、当時の主要な史実も紹介されているので、ゲームにも利用しやすい。
クトゥルー1
★★★ 大瀧啓裕編/青心社
編者がクトゥルフ神話に関わると判断した作品が集められているシリーズ。
クトゥルーの呼び声/H・P・ラブクラフト
創元推理文庫の「ラヴクラフト全集2」に納められている「クトゥルフの呼び声」と同内容だが、訳者が異なる。
読み比べてみると、こちらの方も古風な単語は使っているのだが、どちらかと言えば現代的で読みやすい文章で、雰囲気は全集の方がある。
例えばこちらでは「発狂するか、」という部分が、全集では「狂気に陥るのでなければ、」となる。
破風の窓/ラヴクラフト&ダーレス
従兄の遺した家に移り住んだ主人公が、そこに遺された不思議な丸窓の、異界につながる秘密に触れる。
ストーリー自体は結構よく出来ていてそれなりに楽しめるのだが、また意味もなくラヴクラフト作品に関連つけようとして、「闇に囁くもの」のヘンリー・エイクリーの親戚 という設定になっているのがうっとおしい。
アロンソ・タイパーの日記/ウィリアム・ライリー
辺鄙な場所の古い家の中で行方不明になった神秘学者の日記。
彼は自分の運命的な予感のようなものを信じて行動し、その家の元の主の形跡を調査する。次第に解明される自分の予感と、次々に起こる怪奇現象は、やがて1つの恐るべき結論に達する・・・。
あまりにもオチがオチになっていなくて呆れた。 それまでの描写はなかなか雰囲気があってよかっただけに残念。
ハスターの帰還/オーガスト・ダーレス
恐ろしい姿になって死んだエイモス・タトルの家を、ポール・タトルが相続する。
エイモスは遺言でその家を破壊するようにと言っていたが、ポールはそれを守らず、遺言の理由の調査を行う。いくつも遺された魔道書やメモなどから、どうやらエイモスはある神性の復活のための受け皿を準備しようとしていたと分かるのだが・・・
相変わらずのダーレス節。
いい加減飽き飽きしてきたが、「クトゥルー神話大全」という本で、ダーエスが成そうとしていたのは、クトゥルフ神話をアピールすることによる亡きラヴクラフトのプロパガンダであるという記載を目にし、確かにその通
りだと思い、そう言う意味では成功を収めたのだと納得した。
だからと言って作品が面白くなるわけではないが(笑)。
無人の家で発見された手記/ロバート・ブロック
珍しく子供が主人公。ある森の中の誰もいない家の中で発見された手記。それを書いたのがその子供で、
彼はただ一人、恐ろしい脅威と戦っていたのだった・・・。
なんかちょっと子供賢すぎだが、なかなか可哀想でいい感じ。
博物館の恐怖/ヘイゼル・ヒールド
人間業とは思えないような完成度をもった恐ろしい蝋人形を作る蝋人形氏に興味を持った主人公は、彼と親しくなるにつれ、彼がおぞましい神話のとりこであり、その作品の一部は本物の怪物なのだとほのめかすに至り、その交友関係にヒビが入る。
しかし彼の技術に感服していた主人公は、蝋人形氏との関係を継続する。
ある日蝋人形氏は、彼の話を信じられないなら、一晩蝋人形館の中ですごすことが出来るかと持ちかけ・・・
舞台に魅力があるのでそれなりに楽しめる。しかしなんか惜しい。もっともっと面
白く出来たはず。
ゲームの参考としては、舞台設定やキャラクターなど、使いどころが多い。
ルルイエの印/オーガスト・ダーレス
亡くなった叔父の遺産をついだ主人公は、その家で叔父が全身全霊を掛けて調査していた事物に行き当たり、彼もその虜となる。叔父も、彼もインスマウスにまつわる家系であり、その血を強くひいていたのだ。
ダーレスにしてはすごくいい出来。元々のインスマウスの設定が面白いんだから面
白くなって当然なのだが、この作品では視点を完全にその血筋のものにしていることである種の開放感のようなものがうまく表現されている。またもう一人の血筋の者であり、珍しく魅力のある女性キャラクターであるアダ・マーシュとの関わりも雰囲気があっていい。
映画「ダゴン」で妙に魅力のある血筋の女性が出てきて、彼女と主人公が海底を泳ぐ様などはなかなか印象的でいいシーンだったが、この作品が元になっていたのだと納得した。
また例によっての旧神と旧支配者の対立についての記述が出てくるのだが、これも他の作品のように完全に決めつけず、考慮の余地が残されているのもよかった。
クトゥルー神話の神神/リン・カーター
クトゥルフ神話の概要と、その神々の特徴を表している。
期待して読み始めたが、いきなり旧神の存在と四大精霊の概念がその理由も書かれずに断言されているのでがっかり。アザトースは旧神との戦いの指揮をとり、その罰として旧神に知性を奪われた・・・って、どうよ(汗)?他にも気になる記述満載で、ノリは子供向け怪獣図鑑に近い。
クトゥルー神話-遠近法の美学/大瀧啓裕
要するに解説。
「アロンソ・タイパーの日記」と「博物館の恐怖」は、ラヴクラフトがほとんど原文が残らないほど添削した作品らしい。どうりで両方とも雰囲気はよかった。
★★ ラヴクラフト&ダーレス/大瀧啓裕訳/青心社
ダーレスがラヴクラフトの死後に、そのメモを利用して書いた作品。
恐怖の巣食う橋
叔父が亡くなり、ダンウィッチの近くの家を継いだ主人公。辺りを散策していると、川の中央に、両端の壊れた橋が立っているのを発見する。どう考えても使用不可能な状態だが、その橋はコンクリートで補修が行われており、五芒星型の印がつけられていた。
やがて彼が越してきてから町の住人に行方不明者が出始め・・・
亡くなった親族の家を継いで、過去の悪夢が蘇る・・・いくらなんでもこのパターン多すぎないか(汗)?
ただこの作品では亡くなったはずの叔父が、魔術師として姿を現すのが少しかっこよい。
生きながらえるもの
古風なたたずまいを気に入って住み始めた家。その家の前の住人は亡くなっていたが、怪しい噂のある人物だった。例えばは虫類のような男だったとか。
また屋敷の権利はすでに亡くなっているその男が所持したままで、未来に相続人が現れる予定でもあるかのようだった。
やがて屋敷に怪しい生き物の気配が現れ始め、相続人のおぞましい正体が判明する・・・。
アイデアはすごくいいのだが、雰囲気作りがもう一つ。 ゲームの参考にはなるかな。
暗黒の儀式
3部に別れた長編。例によって先祖が住んでいた土地にやってきた男が、そこの古から伝わるおぞましい力の虜になってゆく。その友人の視点による展開など、新しい要素も見せる。
・・・が、つまらない(汗)。
あまりにつまらなくて途中で読むのを放棄してしまった。
やはりダーレスは化夢宇留仁にとっては読む価値を感じることができない。
クトゥルー神話-禁断の考証学-/大瀧啓裕
クトゥルフ神話において、キャラクターの交錯など、ある意味楽屋落ち的な楽しみを考察&紹介。
★★★ フレッド・チャペル/尾之上浩司訳/創元推理文庫
祖父の遺産である森と屋敷を相続した元神父である主人公が、様々な心理的体験を経て妻を殺し、敷地内に違法居住していた不気味な一家の娘に陵辱され、身も心もボロボロになりやがて・・・
って、なんのこっちゃって感じだが、なかなか根の深い佳作である。
ある意味ダーレスの「ルルイエの印」のリメイク的なところも散見できるが、多分それはこの日本の文庫版の表紙とタイトルからくる先入観だろう。
作品自体は実に計画的で周到な作りになっており、主人公の悲惨で悪夢的な状況を読者にも体感させることに成功しており、オチは予想できるがやはり作者の思い通
りに踊らされてしまう。
しかし・・・それにしてもしんどい作品である。
上記のようにこの作品では主人公が考えられる最悪な状況に陥り、ボロボロになり、それを読者も追体験してしまうのだが、それが延々続くのだ。
もう読むのが嫌で嫌で仕方が無くなる(笑)。
最後まで読むとそれなりに面白かったような気になるのだが、ほんとに途中はきつかった。
主人公が衝動的にまともな理由もなく計画もなく妻を殺すのがまだ全体の1/3くらいなんすよ(汗)!
たまらん作品です。
クトゥルフ初心者にはもちろんお勧めできません(笑)。
ちなみに書かれたのは1968年だそうです。この文庫の初版は2000年6月だけど(笑)。
★★★ 新熊昇/青心社/1994年8月11日初版発行/600円
日本人作家によるクトゥルフ関連の小説。 なんとなく表紙のイメージから、下手なファンタジックな設定とか、楽屋落ちっぽい内容とかだったらやだなあと思っていたのだが、これが大間違い。
今まで読んだクトゥルフ小説の中でも間違いなくトップ3に入る実に面白い作品だった。
内容は中編3作と、それをつなぐ現代の男性の幕間劇からなる。
彼が太古から伝わる不思議な品物に、神話的アプローチを行い、その時代の情景を幻視するという形で本編に入り、それぞれの話には必ず邪悪な魔導士アブドゥル・アルハザードが登場する。
アッシュールバニパルの焔の由来
アッシリア帝国の時代。
アッシュールバニパル王の兄の謀反から国を救った不気味なアラビア人魔導士アルハザードの陰謀を暴くべく、魔導士長エリバはその身を若返らせてアルハザードの弟子になる。
計画はうまくいくかに見えたが、アルハザードの企みは常人の想像を絶するものだった・・・。
傀儡戦争
アッシュールバニパル王の時代から時が流れ、ペルシア帝国が権力を振るった時代。
天才芸術家ムスタファは彼の作った怪物像が引き起こした様々な事件や噂により、故郷スサを離れることになり、最後の望みをかけて首都ペルセポリスへ向かった。
にぎわう都でダリウス王専属芸術家フィンダロスと知り合ったムスタファだったが、偶然立ち寄った見せ物小屋でアルハザードと遭遇し、彼と怪物像の出来を争うことになる。
しかしそれは全てアルハザードの策略だった・・・。
カルナクの棺
ペルシア王国も滅び、今度はプトレマイオス王が治めるエジプトが舞台。
ナイルの上流にあるカルナク神殿にて、1万人もの奴隷が死亡する事件が発生。調査に向かった王の書記のマネトと近衛隊のイリオン将軍は、それがただの事故でも病気でもないのを知る。
やがて神殿の地下に封印された化け物の存在が明らかになり・・・。
途中で出てくるクトゥルフの思惑が少々人間くさいとか、旧神の存在を一応認めているなど、少し気になるところもあったが、そんな些細なことは吹き飛ばすほど面
白く読めた。
どの話もアイデアに満ち、なによりストーリーが面白い。
シナリオの参考にも大いになると思う。
逆にクトゥルフをまったく知らない人でも楽しく読めるだろう。
★★★ 新熊昇/青心社/1995年11月25日初版発行/583円
最凶の魔導士アブドル・アルハザードの活躍(?)を描く連作シリーズ第2弾。
真紅の砂漠
西暦100年頃のバグダッド。街が、砂漠が、そして海までもが削り取られたように消失する事件が発生。
教主ハールン・アル・ラシッド猊下の書記アクバルが調査を進める。彼はバグダッドに残り少ない本物の魔導士であるアリーの協力のおかげで、削り取られた場所は異世界と攪拌された後、元の場所に戻されて世界中を混沌に陥れようとする邪悪な魔導士アルハザードの陰謀だと突き止める。
削り取られた場所には混沌が現れ始め、アクバルは世界を救うため、アリーとともに突入する。
サントリーニの迷宮
西暦820年頃、地中海に浮かぶ小島、サントリーニ島の小作人兼漁師のステファノは、嵐の夜に手に入れた宝の地図をなんとか解読する手はないかと考えていた。それはアラビア語で書かれているようだったが、そもそも彼は文盲で、アラビア語どころか母国語であるギリシア語さえ読めなかったのだ。
そんな時奇妙なアラビア人が現れ、島の遺跡などを案内するガイドを捜しているという話を聞いたステファノは、アラビア語を覚えるチャンスだと飛びつく。しかしそれは想像を絶する冒険の始まりだった・・・。
奈落の文様
機織職人のハジムは、アルハザードに許嫁のファティマを人質に取られ、禁制の白無垢の反物を織らされる。
アルハザードはものさえ受け取ればさっさと逃げるつもりだったが、恐るべき魔力を秘めた白無垢を織り上げたハジムにも魔力が備わっており、彼を逃がさなかった。
アルハザードはファティマを閉じこめた玉を無くしてしまったのを悔やみつつ、落とした場所を案内する羽目になる。
しかしその場所はどれも想像を絶する異世界で、アルハザードさえ手に負えない魔物が闊歩する世界だった・・・。
アルハザードの逆襲
西暦650年頃、アラビア半島のシバ王国は商都サナア。
才能豊かな少年アブドル・アルハザードは、父親がある神殿に彼を行かせないようにしているのを知る。
そこへ赴いたアルハザードは、そこで養父の死と、魔道への入り口をかいま見るのだった・・・。
相変わらず予想もつかないストーリー展開で、目が離せない面白さ。
アルハザードのキャラも妙でいい味が出てきている。
★★★ ロバート・ブロック/大瀧啓裕訳/創元推理文庫
ブロックのクトゥルフ神話長編決定版。
クトゥルフの復活が迫る現代(1978年頃?)を舞台に、その秘密に触れてしまい、否応もなく事件の渦中に放り込まれる人々が描かれ、やがてそれは大いなる結末に収束する。
3部構成の本編は、スピーディーで変化に富んだ内容で飽きさせない。
化夢宇留仁は途中で菊池秀行の作品を読んでいるような気になった。
ラヴクラフトへのオマージュが満載なのも特徴で、それはストーリーに関係ないお遊び要素にまでおよんでおり、ここまで来ると元作品を読んでいないと意味が分からないところもあるだろう。逆に言えば元作品を読んでいればいちいち思い当たることがあり、楽しめる。
派手な展開で見所満載なのだが、この作品ならではのオリジナリティが感じられないのは残念なところ。
★★★ ブライアン・ラムレイ/夏来健次訳
創元推理文庫/2001年3月16日初版
ラムレイが生み出した最強にして正義の魔道士タイタス・クロウの活躍を、その年代順に紹介した連作短編集。
他にも長編が多数書かれているが、この本でタイタスの出生から異界へ旅立ったところまで一通
りを読むことが出来る。
奇怪な事件に巻き込まれてひたすら怯え、次第に狂気に陥る他の作品とは違い、タイタスは追いつめられても反撃に転じる。ここのところはよりRPG「クトゥルフの呼び声」の参考になるだろう。
誕生
1916年12月のロンドン。 ある男が、夜霧漂うロンドンの街を逃走していた。
彼はサハラ砂漠のサヌシ教団からあるものを盗み出し、それ以来不気味な影に追われ続けているのだ。
彼は追いつめられ、最後に幼少時から隠れ家に使っていた場所にたどり着いた。
そこは終わりの場所であり、また始まりの場所でもあった・・・。
・・・やはり普通に生まれた人では無かった(笑)。
妖蛆の王
1946年。 戦争が終わり、若くして無職になってしまったタイタスが、自分にピッタリなアルバイトを見つける。しかし雇い主は恐るべき魔術師であり、タイタスには労働以上のものを期待していたのだった。
よくある魔術師の罠におちるストーリーだが、他と違うのは主人公にそれに対抗できる知識と、心強い協力者がいるということである。 じわじわと迫る脅威にあらゆる努力で反撃の準備を整えてゆく件はまさによくできたRPGの展開で、わくわくすること請け合い。
黒の召喚者
恐怖に怯えた裕福な男が、タイタスの屋敷にやってきて協力を求めた。
彼は友人とともに遊び半分に奇怪な教団に参加していたのだが、その内容を知って驚くとともに嫌悪していた。
彼の友人はそれをおおっぴらに話していたが、先日不可解な死を遂げた。 男は次は自分の番だと怯えていたのだ。
タイタスは男の友人の死に方に心当たりがあり、調べてみることを約束するが・・・
ホームズみたいな始まり方である。 なかなか面白いのだが、もう一つひねりが足りないように感じる。
海賊の石
タイタスの親友であるド・マリニーのところに、タイタスから電話がかかってきた。
共通の友人であるベンジャミンが、呪われた石に触れる危険が迫っているので、助けに行かなければならないというのだ。
半信半疑だったが、タイタスがこんな冗談を言う男ではないと知っていたマリニーは、いっしょにベンジャミンが向かった土地、スカルダボルグへ向かう。
その石は、呪われし海賊である「血まみれ斧」ラグナールの墓標だった・・・。
ビジュアル的に面白い。
ニトクリスの鏡
魔術的骨董品の蒐集家であるド・マリニーが、このたびオークションで高い金を出して手に入れたのは「ニトクリスの鏡」といい、忌まわしいいわれのある品だった。
同時に手に入れた元の持ち主の日記を調べていたマリニーは、やがて鏡に本当に恐るべきなにかがあるのではないかと疑いはじめ・・・
典型的パターンだが、仮にもタイタスの友人であるマリニーはパターン通りにはいかなかった。
魔物の証明
怪奇小説も書いているタイタスだが、ある日彼のお気に入りの挿し絵画家からクレームが。
タイタスは彼を屋敷に呼び寄せ、説得することにする。
詐欺師が嘘がばれそうになって、自分のテリトリーにカモを呼び寄せて再説得してえいる様に似ている(笑)。
タイタスが古代のあるものを日用品にしているのが笑える。
縛り首の木
オカルト書籍の著者が、参考のためにタイタスの蔵書である「水神クタアト」を見せてもらいに来た。
本を見ながら談笑する二人だが、やがて訪問者が超自然な事物を信じていないと知ったタイタスは、自分の屋敷の庭を例に説明する。
庭にはあるいわくのある立木があったのだ・・・・
あったんです(笑)。
呪医の人形
南アフリカで医療に従事するある男が、ある日を堺に猛烈な頭痛に苦しむようになる。
それは近隣の部族長の治療をやむにやまれぬ事情から断った日からであった・・・。
複写魔術または共感魔術のお勉強(笑)。
オチの意味がよく分からなかった化夢宇留仁でした(汗)。
ド・マリニーの掛け時計
タイタスが10年以上も研究している興味深い事物に、異様な時計があった。
それは古くはド・マリニーの父親が所有していたものであり、あの道士が姿を消した4本針の掛け時計なのだ。
その日も時計の研究に明け暮れたが手がかりとて無く、疲れて眠っていたタイタスだが、いきなり部屋の電気をつけられて飛び起きた。
なんと彼の前にいたのは二人組の強盗だった! ・・・・・・・
ドリフみたいな話である(笑)。 それにしても邪悪な魔術師には対抗できるのに、馬鹿そうな強盗には手も足も出ないタイタスはけっこう可愛い♪
名数秘法
ド・マリニーのところに突然タイタスからの呼び出しがかかった。
急いで行ってみると、タイタスはもったいぶりながらある兵器製造会社の代表者のことを話し出した。
アルビノであり、人の目を避けているようなこの男こそ、ヒットラーを凌駕する破壊の化身なのだと。
タイタスは人知れずその男と魔術的な戦いを繰り広げ、名数秘法によって勝利を収めたのだという。
・・・ 面白いんだけど、作者が注目して欲しいらしい名数秘法そのものについては化夢宇留仁はさっぱり訳が分かりませんでした(笑)。
続・黒の召喚者
つむじ風によって破壊されたタイタスの屋敷跡に、二人の男が歩いていた。
彼らこそはタイタスに「黒の召喚者」で滅ぼされた魔術師ゲドニーの元弟子であり、今では大きな力を持った魔術師であり、それぞれが異なる教団の教祖でもあった。
彼らは師匠の思い出を語り、やがて本心をあらわにし出し・・・
タイタスは死んでもやっかいなやつである。ほんとうは死んでいるわけではないらしいが、この本だけでは確認できない(汗)。
総じてどれもなかなか面白かった。
ヒロイックファンタジー色が強いというタイタスの出てくる長編も読んでみたいものだ。
★★★ ブライアン・ラムレイ/朝松健訳
国書刊行会/昭和31年7月18日初版
日本で初めて出版されたラムレイの短編集。
自動車嫌い
妻子を自動車事故で亡くした傷心の兄に会いに来た弟。
人里離れた森の中のその家はなにもかもが異常で、兄はテケレッツのパアになっていたのだ(汗)!
なんか納得のいかない話だった。
深海の罠
キプロス島に駐屯していた英軍兵士の中に、貝類を研究している男がいた。
彼は新種の貝を発見し、その奇妙な習性を研究するが・・・
なかなか気色悪い描写が面白いが、クトゥルフっぽくはないな。
縛り首の木
「タイタス・クロウの事件簿」にも収録されていた。
訳が異なるが、特に印象が違うということもない。
屋根裏部屋の作家
小説家になろうと努力していたが芽が出ずに困窮していた男が街角を歩いていると、ゴミ箱に小説の草稿が捨てられているのを発見する。それは男にはどう頑張っても書けないような素晴らしい内容だった。
男はその草稿を仕上げ、自分の作品として売り出すが・・・
「エーリッヒ・ツァンの音楽」ような雰囲気が漂うが、その後の展開は大きく異なる。解説で訳者も書いているが、高橋葉介がマンガで描けばピッタリである。
黒の召喚者
「タイタス・クロウの事件簿」にも収録されていた。
ニトクリスの鏡
「タイタス・クロウの事件簿」にも収録されていた。
海が叫ぶ夜
海底油田採掘船が沈没した。嵐のために沈んだかと思われたが・・・
オチがものごっつうダイナミック。おもわず爆笑。 そら起きるわ(笑)。
異次元の灌木
彼の地より持ち込まれた灌木は、夜には妖しい光を発した・・・。
彼の地というのはもちろん「焼け野」である。しかしちょっと解釈が違うのではないかと思う。
魔物の証明
「タイタス・クロウの事件簿」にも収録されていた。
ダイラス・リーンの災厄
ドリーム・ランドに3度にわたって赴いた男の冒険。レンからの男らの陰謀をうち破ることが出来るのか・・・?
訳者は文句を言ってるが、化夢宇留仁は結構面白かった。
デ・マリニィの掛け時計
「タイタス・クロウの事件簿」にも収録されていた。
創作の霊泉
特異な恐怖小説を書く作家がいた。しかし彼は、ある特殊な方法で発想を得ていたのだった・・・
星野宣之の作品でもこのアイデアのものがあったなあ。
真珠
幻かと思われた巨大な真珠貝は存在した!しかも真珠は・・・
なんちゅ〜かなあ・・・とにかくちっちぇえ話である。
狂気の地底回廊
独自の視点で「グ・ハーン断章」を研究したグループが、人の寄りつかない砂漠地帯で超古代の遺跡を発見した。それは古きもの(作中では旧支配者)達の前哨基地だった!
南極の都市のその後も説明した作品だが、超技術もそこまでいくとドラえもんでは・・・(汗)
ちなみに本書の表紙イラストはこの作品を表している。小さい画像では分かりにくいが、古きものの壁画を見る登場人物達を精密なタッチで描いており、実にいい感じである。
完成度はともかく、作者の新しいクトゥルフ神話作品を開拓しようとする意気込みは伝わってくる。
それにしても訳者の解説が毒がありすぎでひどい。何様かと思う。