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  恐怖の幻影
  S・ジャクソン&I・リビングストン監修/R・ウォーターフィールド著 
  
   クール大陸の北東にある、アフェンの森が舞台。
クール大陸の北東にある、アフェンの森が舞台。 
  
  この作品の作者はロビン・ウォーターフィールドといって、大御所二人があまりシリーズに顔を出さなくなってから出てきた新人の一人である。
  「恐怖の幻影」は、FFシリーズでは「仮面の破壊者」に続いて彼の2作目の作品にあたる(SFの「電脳破壊作戦」も書いている)。
  この作品はなかなかよく出来ている。
  特にストーリーとパラグラフシステムの融合と言う点では、素晴らしい。
  夢と現実を平行世界のように扱い、それらを行き来できる能力を持った主人公を設定することで、まさに夢幻と言えるような雰囲気と、パズル性を作り出しているのだ。
  また本書では夢の扱いが多義に渡っており、あるときは予知、またあるときは異世界という風に様相を変えて楽しませてくれ、時には驚かせてくれる。 
 化夢宇留仁が驚いたのは、最初の出発のときだった。
  主人公の森エルフは魔王子イシュトラに犯されつつある森を救うべく、枯死した森の中心部にあるイシュトラの開けた穴へ向かう訳だが、それらの情報は予知夢により得たもので、 
  出発した直後のパラグラフは、こうである。
  「どの道を行けばいいだろう?東にはネクロス湖が近くにあるから、つぎの三つの方向から選ばなくてはならない。」
  「北か?南か?西か?」
  おいおい、である。主人公には目的地の方向さえ、定かではないのだ。
  一応どの方向を選んでも、森の様子や更なる予知夢などで、やがては目的地へ向かうことになるのだが、出発地点を中心にどこへ向かってもいいが、目的地は決まっていると言われれば、誰だって驚くだろう。
  この辺は現実で得られる情報と、夢のそれをうまく区別していて面白いところだ。 
さて歩き出した主人公は森がいつもと様子が違うことに気付く。 
  小説のテクニックとしては、読者に衝撃を与えた後、描写により少しずつその理由がわかってくるのがこの作者はお好みのようで、この森の描写がまさにそれである。
  衝撃と言うのは先に書いた目的地の方向であり、間違った方向であれば森に変化はなく、そうでなければどんどん様子がおかしくなってゆくのを、森エルフならではの観察眼で描写しているのだ。
 話し変わってこの作品の世界設定だが、これの少し前にタイタン世界を詳しく解説したその名も「タイタン」が出版されているだけあって、いろいろ作品外の世界とも関わりを見せている。
  主人公の見る夢にはファングのコロシアムの様子などが出てくるし、ストーリーに関わる部分では「火吹山の魔法使い」のザゴールの迷宮に挑戦したが、迷ってしまってあきらめて、引退するためにクールにやってきたと言う男が出てくる。
  男の名はエリック・ルーンアックスと言い、狂った森の瘴気に当てられて本人も狂ってしまっているが、主人公の魔力と精神力により正気を取り戻す・・・場合もある(笑)。
  このシリーズでは、魔法使い以外で主人公の仲間になった者には、たいがい悲惨な末路が待ち受けているが、彼も例外ではない(笑)。
  仲間にしないとクリア不可能なわけではないが、難しいだろう。
  目的地に着くまでに遭遇する戦闘は、なかなかに過酷なのだ。
何とか目的地にたどり着くと、メインの仕掛けである夢と現実がリンクした迷宮が始まる。
  主人公は状況によって、夢と現実とを行き来しながらイシュトラのいる最深部へ向かうのだが、ここでも作者の描写のテクニックがうまく生かされている。同じ迷宮を歩いているはずなのに、まったく異なる描写と雰囲気がなされ、でもやっぱり同じ道を歩いているという、なんとも不思議な感覚が味わえるのだ。
  ここはまさに小説でもゲームでもない、ゲームブックとしてのよさが生かされている部分だろう。
イシュトラを倒すためには、まずその副官(?)である悪夢の源、モルフェウスと対決しなければならない(表紙でデンデロリンと構えているやつである)。
  悪夢の源であるがゆえに、戦いは当然夢の世界で行われる。
  次に待つのは魔王子イシュトラである。
  ここまでだいたい誉めてばかりだったが、そろそろそうでもない部分を書くとする。
  この作品にはいつもの3つの能力値の他に、魔力点という能力を用いる。 これがサイコロ2個振った数に6を足した合計(2D6+6)で決まるのだが、実は滅茶苦茶重要である。
  シリーズを通して最も重要な能力値は技術点だと思うが、これは使用するにあたって、ほとんどサイコロ判定を伴う。つまり可能性の幅を広げているのだ。
  しかしこの魔力点では、使用時にサイコロを振るのは夢の中での戦闘時くらいで、ほかのイベントをクリアする時は、ほとんどが固定の目標値との比較だけで決定してしまうのだ。
  しかもその決定は重要なものが少なくない。
  要するに魔力点が高くないとやってられないのだ。
  更に魔力点は他の能力値と違い、初期値を越えて上昇する。逆に言えば上昇していないと越えられないイベントがあるのだ。
  実はこれは回り道が用意してあるのだが、それにしても魔力点を参照する機会は多い。 
  なのにである。
  なのに決定方法が2D6+6だというのは納得がいかない。
  ここはせめてサイコロ1個に12を足した数にしてほしかった。
  そもそも主人公は森エルフの中でも力のあるシャーマンなのだ。その辺は考慮してほしかった。
  そうであれば化夢宇留仁もあんなにも苦労は・・・・・・(笑)。
さて、まだいろいろ書くことはあるのだが(例えば最初にずらりと出てきた魔法の存在感が無さすぎた、とか)、結局要素が多く、考えて作られている好著であるということは間違いないだろう。