TRAVELLERの地上生活。

TRAVELLERにおける地上生活は、実際の生活と同じく、人によって様々である。
ただしどんな世界でも破ってはいけないルールと、無意識に守っている常識というものがある。

たとえば現代日本では、他人を傷付けたら犯罪である(過去もそう?)。こういう基本的なルールは、現代の地球でもほとんどの国で共通 なのと同じように、TRAVELLERの世界でもまず通用すると考えていい。(例外はあるが、その場合はTRAVELLERの世界でも変わった世界として、注意される筈である。)

問題は常識である。
現代の地球でも国によって、または地域によって、常識は大きく異なる。
気候や地形などの、環境が原因で出来る常識はまだ理解しやすい。暑い世界なら薄着が常識なのは言うまでもない。
厄介なのは流行を含む、文化的常識とでも言うものだ。
流行に関しては、諦めるしかない。
TRAVELLERにおいては、広い視点の流行としては、地球文化の模倣がある。これは地球政府が中心になった第2銀河帝国のなごりである。
それ以外はそれぞれの惑星で、それぞれの流行が存在しているとしか言いようがない。

流行以外の文化的常識も、様々なものがある。
たとえば経済。現代地球でも、資本主義と共産主義がしのぎを削っている。
結婚制度にも様々なものがある。 カースト制なんていうのもある。
治安レベルによる生活の違いも大きい。アメリカでは自動販売機は通常考えられないのだそうだ。
またテクノロジーの定着によっても、文化的常識は大きく変化する。
実はこの辺は、TRAVELLER世界はほとんどが現代アメリカの常識で通用する(テクノロジー以外)。ただしやはり別 世界なのも確か。微妙に異なる。その微妙さがなかなか理解しづらいところである。

ここではそうしたTRAVELLER世界の文化的常識を解説する。
解説と言っても断言できるものではないのは上記の通りなので、再びマルコ・ロイド氏に登場願い、一つの例として理解していただく趣向である。


積荷の引き渡しも終わり、手も空いたので、久しぶりのリジャイナ宙港街をぶらついてみることにした。
宇宙港の正面ゲートを抜けると、黄色がかったリジャイナの空が広がっていた。ガスジャイアント「アシニボイア」 が大きく見えている。その脇には、宙港と首都とをつなぐ空中パイプラインが輝いていた。
何台ものエアラフトが忙しく飛び回り、遠くには大陸横断シャトルの銀色の機体が飛行機雲をひいて飛んでいた。
視野を下げると、エアタクシーのロータリーの人込み越しに、宙港街のごみごみした町並みがかすんで見えていた。
マルコはポケットを探ってみた。
もはや身体の一部のような、偵察局支給のクロースジャケットのポケットに入っていたのは、100クレジット札が1枚、コインで24クレジット(24Cr)と、1ハーフクレジット(1hCr)、更に3クォータークレジット(3qCr)、合計125.25クレジット。それに携帯用小型エキスパンダだけだった。


舞台となる第3銀河帝国公式の通貨は、 クレジット。
紙幣は10,20,50,100,500,1000,10000の7種類。
硬貨はクォーター、ハーフ、1、5の4種類がある。
どちらも特殊なプラスチック繊維を撚り合わせて、超高温、高圧で成形しものをスライスして作っている。
また帝国は各世界でオリジナルの通貨を作ることも認めているし、メガコーポレーションが自社専用の通 貨を作っているケースもある。

マルコは眉をひそめて更にポケットを探った。
そして1枚のカードを見つけ出し、安心したように溜め息をついた。


帝国IDカード。
このカードはただの身分証ではない。この中に健康保険データ、預金残高データが記録されている。
特に預金データは重要。恒星間飛行より早い情報伝達方法が無いと言うことは、通 常の銀行データとリンクした預金管理では、借りては次の星へ向かうのを繰り返せば、いつまでもお金が減らないという現象が起こる。
そこで出来た恒星間金融システムが、このカードバンクシステムである。
このカードには現在の預金高と、その日付が記録されている。銀行はそのデータだけを元に現金のやり取りをする。つまり全面 的にカードの情報が優先されるのだ。
もちろんカードは本人以外使えないし、偽造も極めて難しく、もし成功したとしてもその罪は重い。
しかしそれだけに、紛失時の再発行は時間と手間がかかる。

預金データは本人の肉体に記録するタイプなどもあるが、面倒なこともあり、マルコはカードだけで済ましていた。どうせそんなに大金が入っているわけでもなく、もし盗まれて悪用されたとしても、マルコの社会信用度からすれば、大金が融資されることも無い。
それよりも落とした場合、拾って届けてくれた人に最低でも預金額の5%の謝礼を渡さなければならない。むしろそっちの方が心配だった。

マルコはカードを内ポケットにしまい込むと、宙港街へ向けて歩き出した。
ロータリーの脇にはエスコートロボットがいて、慇懃な態度で目的地などを聞いてきたが、手を振って離れた。


呼吸可能な惑星の地上宇宙港は、何処も大体同じような雰囲気と考えていいだろう。
テクノロジーレベルや気候、治安レベルなどによって多少の違いはあるが、大体は宇宙港の近くには少し柄は悪いが活気のある宙港街が存在し、 首都は騒音などの影響の無い少し離れたところに位置している。

ロボット
帝国においては、ロボットの姿は珍しくない。
特に帝国の平均的テクノロジーの普通の世界では、あらゆる場所で、いろいろなロボットが働いている。
ただし人間と見分けがつかないようなロボットはいないし、完全な人工知能も存在しない。
帝国最先端技術で、それらはようやく作られつつある。
ロボットは基本的には、企業や個人の持ち物である。
動物愛護協会のような雰囲気で、ロボットを愛護する協会なども存在する。


銀行、金券ショップ、土産物屋、レストランなど宇宙港近くに必要であろうビルを通り過ぎると、そろそろ宙港街らしい雰囲気になってきた。
屋台のような出店が目立ち始め、酒場、風俗、ギャンブル関係の派手なホログラフが道にまではみ出して、がなりたてている。
宙港街に昼も夜も無い。違う太陽系からやってくる宇宙船が、夜には来ない道理はないのだ。

マルコはなんとなく、土産物や妙なアクセサリーとかを置いている路上販売などをひやかしながら歩いていった。
特に目的があって来たわけではない。
その上マルコは実はこういうところが苦手な方だった。
同じクルーのアリスだったら、こういう所でこそ本領を発揮して楽しむのだろうが・・・
そんな事を考えていたら、会社の金でギャンブルに興じていたアリスを見つけた時のことを思い出した。
自然に握った拳に力が入る。
もしかしたら自分がこういう所が苦手になったのは、あいつのせいもあるんじゃないか?

はっと気づくともう宙港街の外れに来ていた。
店の数も減り、旧市街の寂しい町並みが続いている。
そう言えばこの近くに、ドンキホーテ号を手に入れるきっかけになった妙な博士のいる研究所がある筈だ。マーキュリーとか言ったか・・・
マルコは溜め息をついて、今来た方へ引き返し始めた。
あの博士はどうも苦手だ。見るからに気難しそうで・・・助手の女の子は結構可愛かったが、マルコにしてみれば、妙な研究に協力している何を考えているのか分からない女だった。


最初に訪れた世界は、もちろん見知らぬ世界。
それはそれでいいのだが、難しいのが、設定上では来たことがあるのに、ゲーム上では(プレイヤーにとっては)初めての世界 だろう。
こういう時に、昔の知り合いとかがほいほい出てくればまだやりやすいのだが、そうそう毎回出てくるのもおかしい。
こういう時こそプレイヤーのロールプレイが試される時であり、マスターが腕を振るうところでもあるのだが、TRAVELLERは世界が広く、中途半端に現実的なので、かえって想像しづらいケースが多い。
そんな時はこういう場所なら当然あると思える施設を利用するのがいい手だ。
社会のしくみに触れることで、リアリティを作り出せるし、安心感も得られる。
またTRAVELLERではPCがゲームの前には別な職業に就いているケースが多いので、昔の職業に関係する場所を尋ねれば、自然に昔の友人に会ったり、あるべき思い出が創造されたりと、世界と自分にに生活感が出てくる。
その世界に自分の生きてきた影響があるのを確認すれば、足場もしっかりして、冒険はよりスリルのあるものになるだろう。

宙港街を戻る途中で、携帯コンピュータパッドを片手にきょろきょろしている船のスチュワード、クルスの姿が目に入った。
「クルス。珍しいな、あんたがこんな所をうろうろしてるなんて。一人かい?」
「あ、マルコさん。聞いて下さいよ。アリスさんが取引先に話があるって言って、出ていったんですよ。」
「うん?」
「僕は専用室のシーツのクリーニングをしてたんですけど、お客さんが来たんですよ。誰かと思えばその取引先の人で、アリスさんは来てないって言うんですよ。」
「え!?と・・・ところでその時アリスは船の金を・・・」
「そうなんですよ。接待にいるかもしれないとか言って、1000クレジットばかり・・・」
「なんてこった!また悪い癖が出たな!またこの辺のカジノに違いないぜ。」
「そう思って探しに来たんですけど・・・」
「じゃ、何でコンピュータパッドなんか持ってるんだ?」
「いや僕こういうところって、 たまにしか来ないから、なんかいい記事のネタでも転がってないかなと思って・・・」
クルスは元ジャーナリストだ。それもモーラ星系では結構売れっ子だったらしいのだが、今では自由貿易船のスチュワードで、食事を作ったり、シーツを洗ったりの毎日だ。
マルコも元陸軍中佐だったので、あんまり人のことは言えないが、それにしても何で・・・?


TRAVELLERのPCはいろいろな技能を持っている。
どんなゲームでもそうだが、技能を使う機会が増えればキャラクターも立ってくる。
ところがファンタジーとかと違い、戦闘の機会が少ないTRAVELLERでは、戦闘に関する技能は限られてくる。自然見せ場は日常生活の中で作らないといけなくなる。
ところが日常生活というものは、ゲーム中ではほうっておいたら何も無かったということで過ぎ去っていく。 マスターから出来ることといえば、なるべく描写を増やすことくらいで、それもテンポが崩れない程度に押さえなければならない。
したがってプレイヤーは、キャラクターを立てて楽しもうと思えば、そのキャラクターの持っている技能を能動的に使える機会を作らなければならない。
上記のクルスは元ジャーナリストという経歴を生かして、いつでも何処でも記事のネタを探している。
マルコは少し方向が違うが、自分の肉体を鍛えたいと思っていて、暇さえあればトレーニング。だからポケットにあんな物が入っていたりする。
話に出てきたアリスはと言えば、金銭に貪欲でギャンブル好き。彼の行動で、ただの日常生活の筈が大事件に発展したのは1回や2回ではない。

要はキャラクターがいつも何をしたいと思っているのか、それをゲーム世界で如何に表現するか、が面 白いところであり、難しいところでもある。


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