ほどなくアリスがクラップスのテーブルについているのを発見した。
隣にはドンキホーテ号の機関士、ジャニアスの姿もあった。
「あれ?ジャニアスさんもいますよ。」
「ほんとだ。アリスがたぶらかしたのかな?どうもジャニアスは貴族気分が抜けない様だからな。」
二人がけばけばしいネオンに彩られた店内に入っていくと、まずジャニアスが気づいて手を振った。
当のアリスはサイコロを追うのに必死で、回りは見えていない様だ。
「おうおう。これで全員そろったの。 おぬし達もどうじゃ?一緒に6に掛けて命運を共にしようぞ。」
見ると6のポイントに、コインが高々と積まれていた。
「これはどういう事だ?」
マルコの声に、アリスが振り向いた。そして一歩下がった。
「これは・・・船長にクルスじゃないか。珍しいな。君らがこんなところに顔を出すとは。」
「ごまかしても駄目だ。1000クレジットを返してもらおうか。取引先に行ってないのも知ってるぞ。」
「おう、それだったら・・・」
ジャニアスが何か言いかけたが、アリスがその口をふさいだ。
「分かってる。もちろん分かってるとも。取引先には行ったんだが・・・・・アポが取れなかったんだ。」
「そんな事はいいから、1000クレジット!」
マルコが手を突き出す。
「もちろん返すとも。接待に必要かと思って借りただけなんだからな。返すさ。」
ジャニアスがふさがれた口でつぶやく。
「6が出ればな(もぐもぐ)。」
「なんだって!?」
「まぁまぁ、ほら、次のシュートだ。驚くなよ。あのシューターは今日1度も7を出してないんだ。ずーっとサイコロ振りつづけさ。」
マルコの顔色がどんどん赤くなっていくのに反比例するように、アリスの口調はどんどん弱くなっていった。
「まさかそんなに7が出ないなんて思わないからな。ちょっと最初はしくじったさ。でも見てのとおり、今は6に積んである。つまりその・・・」
ジャニアスがようやくアリスの手を振り解いた。
「6が出れば会社の金も、わしが貸した金も返ってきて、お釣が出るわけじゃよ。一口乗らんか?」
サイコロが転がり、歓声が上がっているようだったが、マルコには聞こえていなかった。
こいつは・・・何度同じ事を繰り返したら気が済むんだ・・・それにジャニアス!おまえってやつは、何でそういうところだけは貴族らしいんだ!?


日本人にとって、TRAVELLERに出てくる常識で最も分かりづらいのが、貴族と、軍人の存在ではなかろうか。
概念的には分かっていても、馴染みが無いのでいざ自分がその立場になると、何をしてよいのか、何をしたら自然なのか、思い付かないのだ。
それは多分みんながそうなので、 誰かに聞けばすむという問題でもない。そしてもし聞けたとしても、ピンと来ないだろう。
結局は回数をこなして足場を固めて行くしかない。
しかし何も知らないのでは足場の固めようも無い。
ここではそれぞれの社会常識について、簡単に解説する。
(よく知らないのは化夢宇留仁も例外ではないので、あくまで今までゲームをやってきて感じたことになるが。)

貴族
TRAVELLERにおいては、貴族は銀河皇帝の命を受けたれっきとした権力者である。
貴族と聞いて中世ヨーロッパとかが浮かぶとややこしいことになるが、基本的には変わらない。
イメージ的にはイギリスのビクトリア王朝時代とか、第1次大戦前後のヨーロッパなど、 まだしも近代に属するあたりを浮かべれば少しはやりやすいだろう。

貴族をPCとして使用する場合、特別くだけたスタイルが好き、とかの設定が無ければ、基本的には気位 は高い筈。
ナイト爵という1代限りの、何らかの功績によって受けた貴族位以外は、ほとんどが代々伝わる貴族の家系であり、幼少の頃から回りにかしずかれ、親には人を使う、または人の尊敬を得るように教育されている筈なのだ。
また貴族の家系には封土が与えられている。位によってその規模は様々だが、多くの貴族はそれを人に貸すことで、収入の足しにしている。もちろんそれだけで生きている貴族もいる。
封土に貴族が住んで、都市の中にある場合などは、皇居や、バッキンガム宮殿のような様相を呈しているかもしれない。
但し貧乏な貴族もいる。
封土の経営に失敗したり、融資に失敗したり・・・結局TRAVELLERは資本主義の世界なので、お金は儲けないと貧乏になるのだ。
この辺をうまくキャラクターの設定に使うと、厚味が出てまた面白い。

貴族に対する一般市民の対応。
別に道を歩いてきたら、平伏して頭を上げてはいけないというほどではないが、もちろん敬意は払わなくてはならない。
但し貴族の方も普通は、一般市民の生活にいたずらに影響を与えようとはしないはずである。
スキャンダルの可能性もあるし、やはり民衆あっての貴族なのだから。
例えばホームズに出てくる貴族は、プライベートを一般市民に知られない様にしている。
出かける時は中が見えない様にドア付きの馬車で移動する。ただし豪華な馬車で、その家の紋章がつけられている。
押し付けがましくはないが、さりげなくアピールはする。
一般市民は紋章を見たらすぐピンとくる。
TRAVELLERでは違う恒星系まで出かけて行くので、よほどの名家でないとこうは行かないだろうが、 それでも故郷とかなら市民はみんな知っている筈である。

あそこを飛んで行くのは、ヴァルマーシュタット家の専用エアラフトじゃないかい?
ほんとうだ。あんなに急いで、どうなさったんだろう?
何かよくないことが起こったに違いない。ヴァルマーシュタット男爵は病床につかれてるんだろう?
おいおい。めったなことを言うものじゃないよ・・・・・・・

軍人
日本人にとっては、もはや貴族よりも軍人の方が珍しい存在なのではなかろうか?
一応皇室は存在するわけだし。
そして誤解も多い。経験と教育環境から、日本では軍というもの自体に偏見が出来ているのだ。
軍人は国のために働いている。
多くの場合、この時点で悪いイメージが発生する。
国のためというと、日本人は国民を無視して国家のために・・・という風に考えてしまいがちだ。
歴史を振り返れば無理も無いことだが、それをSFゲームTRAVELLERに持ち込むと妙なことになる。
先に書いたが、TRAVELLERは社会常識は現代アメリカがベースになっている。
現代アメリカで軍人といえばどんなイメージだろうか?
まずアメリカにおいて、国家と国民は基本的に同義語である。もちろん例外は多数あるが、日本の現状と比べたらアメリカは愛国心の固まりだといえる。
果たして日本人で自分は愛国心があると、真面目に言う人は何%くらいだろうか?
また愛国心と聞くと、そういう方面に特別興味がある人だという印象を受けるのではないだろうか?
アメリカにおいてはそういう事はまず無い。
国家、国民を守るために存在する軍隊は、イコール正義の味方なのだ。
もちろん例外はあるし、物事には表裏がある。
だが少なくともTRAVELLERの世界において、軍隊は立派な職業であり、必要なものとして認知されている。これは念頭におく必要がある。

軍人がもっとも必要とされるのはいつか?
言うまでもないが戦争の時である。逆に言えば戦争が馴染み深いところでは、現地の軍隊はそれだけ頼りにされている。
親は子供を軍隊に送り出すのを誇りに思うし、社会的地位も上がる。
内戦や、外からの派兵とかになると事情はややこしくなるが、基本的には必要とされれば認められるのがあたりまえである。
逆に平和な時にはお金ばかり掛かる厄介者ということになる。
少し違うが日本の自衛隊はまさにそんな状態だ。
だが自衛隊のような状態は、特別な例だと理解する必要がある。
日本は過去に軍国主義化が進み、戦争に負け、戦勝国の政策によって今の社会基盤が形作られている。もちろん法律や教育もその影響をもろに受けており、世界でも珍しい反戦国家になっているのだ。
したがって日本ではこうだから、という考え方だと辻褄が合わなくなってくる。
TRAVELLERで軍人を扱う、または遭遇した時には、その辺は考慮に入れなくてはならない。

付け足しだが、自国の軍隊が正義の味方だと認識している場合は、敵国、または仮想敵国にはどういう感情を持つだろうか?
倒すべき悪、である。自国が正義に感じれば感じるほど、敵国は悪に感じる。
特にTRAVELLERにおけるゾダーン人は、テレパシーなど、帝国では禁止されている超能力を使うこともあり、平時から嫌われ敵視されている。
ゾダーンと聞けば、つばを吐く。
特に戦争に巻き込まれやすい辺境ではこの傾向が強い。


この章では、一例として実際にゲームに登場した自由貿易船ドンキホーテ号の皆さんに登場願ったが、彼らの行動や言動はゲームの内容から、化夢宇留仁が想像したものであり、プレイヤーの皆さんには何の責任も無いということをお断りしておく。



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