実験船マンパワー号の航海
第3回

家屋侵入器物破損強盗傷害


 警察で散々絞られたが、翌日には解放された。
なにしろ真犯人はしっかり捕まっているのだ。
聞いてみたところ、彼らはフルーム星系のオトレイ星を本拠地とするカイ・レーク教団の信者だということだった。
どうもジョーン・グレイが彼らの宗教的シンボルである壺を盗み出したらしい。

 3人はいったん研究所に戻った。
「おかえりなさい。危険は回避出来ましたか?」
エルザが懲りずにお茶を入れてくれた。
「当座はね。でもよく分かんないわ。」

 説明を聞いたエルザは少し眉を寄せ、考え込んだ。
「う〜ん。そういう宗教がらみの話はあとをひくかもしれないですねえ。アトスさんにもう一度会って、詳しく話を聞いてみたらどうでしょう。」
確かに今なら彼もちゃんと話してくれるかもしれない。
一行が出かけようとすると、エルザが言った。
「そうそうクリスさん。昨日マービンさんとルシアさんがいらっしゃったので、お仕事を紹介させていただきましたよ。もし気にされてたのならもう大丈夫ですから。」
「ああ・・・それはよかった。」
色っぽいルシアのことを思い出す。
どうして私も1日遅れて行かなかったのだろうか・・・

 アトス、いやジョーン・グレイの入院しているのは警察病院だった。
少々手続きに時間がかかったが、なんとか会うことが出来た。
彼の話では、教団は壺を見た者は命を奪うまでいつまでも付け狙うという。やがては次の刺客も放たれるだろうということだった。
要するになにも問題は解決していないのだ。
ピピは怒りのあまり彼の首を絞めていたが、それは流石に二人に止められた。
またガメガというのはジョーンの知り合いの骨董品を扱うブローカーで、近日中にここリジャイナで落ち合う予定らしかったが、話を聞いた警察が到着次第逮捕することになっていた。
今までも盗品と知っていて扱ったものが多数あるようである。

結局現状でこの問題をこれ以上改善する方法は思いつかなかった。


 なんとなく研究所に戻った3人は、1階応接室(?)のソファーで一息ついていた。
「大変でしたねえ。お茶をどうぞ。」
「何度もおじゃましてすみません。エルザさん。」
恐縮するクルスに、エルザはにっこり微笑んだ。
「とんでもない。こちらはみなさんのお話が聞けて、実験データを増やすことが出来て感謝してます。」
「実験データねえ・・・」
トラバントがカップを揺らしながらつぶやいた。
クリスも疑問だった。
いったいそんな話がデータとして扱われる研究とは、どういう内容なのだろうか?
なにやら個人が歴史に影響する要素がどうのと説明していたが、さっぱりわけが分からなかったのだ。
「みなさん今ちょうど簡単な仕事が入ったんですけど、よろしかったらやってみませんか?おひとり5000クレジットのお仕事です。」
エルザの申し出に、3人は顔を見合わせた。
確かに壺に関することは、今はどうにも手の出しようがない。そしてもちろんこれからの収入のアテもないのだ。クリスは年金をもらっているのだが。
5000クレジットと言ったら大した額である。
「ただ少し法律に触れる内容なんですよ。」
「なんですと!?」
クリスが立ち上がった。
「ここは犯罪の斡旋所だったのですか!?」
「そう言うわけではありませんけど、来た仕事はどんなものでも受け入れているんです。研究のためですから。」
「しかし・・・」
「まあまあ。どんなお話かだけでも聞いてみようじゃありませんか。」
トラバントがそう言いながらやんわりとクリスを座らせた。
「私はやるわよ?」
話も聞いていないのに、ピピはやる気満々である。
「実は依頼者はクラリッサ・ド・アビニヨンという貴族の御婦人なのです。」
「アビニオンですと?あの高貴な家柄の夫人がなぜ犯罪を?」
官僚の長かったクリスは、会ったことはなかったがその名前は覚えていた。
黙って聞いているトラバントは、仕事の内容よりも宙港街の外れの小汚い研究所に、貴族からの依頼が来ていることの方に興味をひかれていた。ここの教授と知り合いなのだろうか?
部屋の奥を見ると、相変わらず無愛想な教授がコンピュータに向かっていた。どう見ても社交的とは思えない雰囲気なのだが・・・。
話は続いていた。
「なぜかは私も聞いておりません。ただ犯罪と言ってもそんな大それた事ではないんです。」
「犯罪に優劣はありません。法を犯せばそれは全て罪なのです。」
「もちろんそうですわ。でもほとんどのことは自分の力で解決できる貴族の方が違法な手段に訴えるのは、だいたい事情が決まってきます。」
クリスはピンときた。なんらかのスキャンダルを怖れているのに違いない。
「脅迫されているのですか?」
「どうやらそうらしいのです。その脅迫者から、その元になっている物を盗み出して欲しいというのが依頼内容です。」
「なるほど・・・」
クリスにとって脅迫は最悪の犯罪である。人の弱みにつけこんで金を要求するなど、人間のやることとは思えない。そのような輩は、おおっぴらに捕まえれば脅迫のネタを公開するだろう。確かにこの場合は少しは違法な手段も・・・・いや待て。そんなことを言い出しては法律というものの存在が・・・。
クリスがなにやらブツブツと考え込んでる横で、ピピは脅迫のネタを横取りして、自分が脅迫出来ないかなどと物騒なことを考えていた。
反対側のトラバントは、すでに家屋侵入アイテムのアイデアを練り始めていた。

※このシナリオ導入部は「60人のパトロン」34を利用しています。


翌251日深夜。
3人は住宅地の植え込みの影に身を潜めていた。道の反対側には今から侵入する予定の、立派な庭付きの2階建ての建物が建っている。
「やっぱりやめませんか?」
クリスがつぶやく。
「今更なに言ってるのよ。脅迫されてる貴族の御婦人を助けるんでしょ!」
「そ・・・そうですが・・・」
やると決めたものの、やはりいざとなったら自分が犯罪に手を染めるのは恐ろしかった。
「スプレーはちゃんと持ってるわね?」
「ああ・・・大丈夫です。」
催眠ガススプレーにロープ、ガムテープ、懐中電灯・・・完全な泥棒の装備である。
ピピの方はしっかりマスクをつけ、手にはスタンガンと、物騒なことにブラックジャックも持っている。
トラバントもスタンガンを所持していた。
と言うのも目的の場所が「アントン・スタービック格闘道場」で、道場主である男が恐ろしく腕が立つという話だったので、護身アイテムショップで買い込んできたのだ。
ブラックジャックはピピの手作りだった。いったいどこでそんなものの作り方を覚えてきたのやら・・・。
  盗んでくるのはビデオフロッピィ。内容は不明だが、脅迫のネタが入っているのに違いなかった。
「ピピさん、穏便に行きましょうね。穏便に。」
「分かってるわよ。計画通り侵入すれば、そもそも誰にも見つからないんだから。」
「そうだといいのですが・・・」
計画とは窓にガムテープを貼ってから叩き割り、鍵を外す。それだけだった。
もちろんピピの発案である。
ほんとうに大丈夫なのだろうか・・・
犯罪にうといクリスは、ガムテープで硝子の割れる音がしなくなるという説明で、なんとなく納得してしまったが、やはり簡単すぎるのではないかと心配だった。
もちろんそんな計画で大丈夫なわけはないのだが。
トラバントはもはや考えることを拒否していた。

低い柵をまたいで庭に侵入。
窓に近寄り、ピピがガラスを割った。ちゃんとくっついてなかったのか、結構ガラスの破片が落ちて大きな音がした。
固まる3人だったが、それ以上建物の中から物音は聞こえてこなかった。
窓の中は真っ暗である。腕を入れて鍵を外し、中に侵入する。
トラバントが苦労していたので、二人で引き上げた。
さてここはどういう部屋なのか?そう思った瞬間、部屋に電気がついた。
 そこは道場らしく、板張りの広い部屋だった。目の前に立っているのは道場主のアントン・スタービックに違いない。手には棍棒のようなものを持っている。
「入門者にしては時間が遅すぎるな。もっと気配を消す練習をした方がいい。私は君たちが庭に入った時点で気付いていた。」
そう言って構えた。流石に様になっている。
ピピとトラバントがスタンガンを構えた。
「スタンガンか。しかし私に触れられるかな?」
ニヤリと笑うアントン。
クリスがスプレーを吹きかけた。アントンは笑顔のまま倒れた・・・。
「よく効くわね〜。私も1つ買っておこう。」
「ああ・・・私はなんということを・・・」
「ゴチャゴチャ言ってないでクリスタルを探すのよ!」

道場には大型のモニターがあり、その下にビデオデッキとフロッピィがしまってあった。
たくさんあってどれがどれだか分からないので、全部持って帰ることにする。


 翌朝。
研究所でニュースを見ていると、アントン・スタービック格闘道場に侵入した強盗の事件が報じられていた。
盗まれたのは道場での練習する様子を撮影したビデオフロッピィのみで、格闘マニアの犯行ではないかと言われていた。
脅迫ネタ???
すぐに連絡があり、それを受けたエルザが微笑んだ。
「ビデオを確認した依頼主からです。大変満足しているとのことです。今から報酬をお渡ししますね。」
なぜ???
3人の頭の中にクエスチョンマークが飛び交ったが、とにかく満足しているのだから結構なことだった・・・。

※レフリー解説
ほんとうは3人は返り討ちにあい、ビデオの中身を見せてもらって・・・という予定だったのだ(泣)。


実験船マンパワー号の航海
第3回終了

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