ネタバレ注意!
●本人度 ホームズやワトスンが如何に正典に近いキャラクターか。
0 出てこない
× 出てくるがまったく認められない
1 問題点が多い
2 一部問題がある
3 ほぼ問題なし
●世界共通度 聖典世界と同一時間軸上と考えられるか。
× まったく異なる
△ 問題がある
○ ほぼ問題なし
扶桑社ミステリー文庫/ニコラス・メイヤー/田中融二訳
著者の叔父から、ワトスン博士の口述筆記のコピーだという原稿が送られてきた。
ワトスン博士は晩年をアイズルワース・ホームという療養施設ですごしていたらしい。
著者はその内容が本物だと信じ、校正の末発表に踏み切った。
その内容は想像を絶するものだった・・・。
「最後の事件」と「空家の冒険」は、ワトスン自身によるまったくの架空の物語だった。
その内容がある人物の生死にも関わる問題であり、発表どころか記録さえされなかったのだ。
実はその頃ホームズは重度のコカイン中毒に陥っており、少年時代の数学の家庭教師だったモリアーティ教授を悪の親玉だと思いこみ、つけ回したり脅迫の電報を送ったりしていたのだ。
ワトスンは妻のメアリとマイクロフトの協力でモリアーティ教授をウィーンに向かわせ、ホームズにそれを追わせて唯一の治療の希望であるジクムント・フロイト博士に診察させる。
なんとかホームズに回復の兆しが見え始めた頃、奇妙な患者がフロイトの元によこされる。
それは世界大戦の危機をはらんだ重大事件の発端でもあった・・・。
パスティーシュの中でも有名な作品で、映画化もされている。
小説としての完成度は申し分の無いもので、ホームズの回復シーンには感動さえ覚える。
パスティーシュとしてもホームズやワトスンのキャラクターも違和感無く書かれており、ほとんど問題は無いのだが、この内容を認められるかというとそれはまた別問題である。
なにしろ上記にもある通り、「最後の事件」と「空家の冒険」は架空の物語であるとされ、モリアーティ教授は小心者の単なる数学教授なのだ。
したがって正典を信ずる限りはこの作品は認められないと言うことになる。
しかし・・・ホームズのモリアーティ教授の評価は確かに誇大妄想的なイメージだったし、そもそもワトスンの前にはまともに姿さえ現していないことを考えれば、下手をするとこちらの方が正しいのではないかとさえ思えてくる。
それほど完成度が高いということである。
またフロイトによって催眠術をかけられたホームズは、母が父を裏切り、父が母と愛人を殺し、そのことをモリアーティ教授から聞いたと告白する。
少なくともこの作品上では完璧に筋が通るのだが、とりいれるかどうかはまた微妙なところである。
それ以外にも、ワトスンは本文中に「ライオンのたてがみ」「マザリンの宝石」「這う人」「三破風館」は彼以外の人物によって書かれたまがい物だとも断言している。
どれもそうだとしてもおかしくない内容なのでますます判断が難しいところである。
他にも正典の色々な解釈を試みており、どれもそれらしく出来ている。
小説として面白いのは確かだし、ホームズ好きには必読のパスティーシュだと言えるだろう。
追記:
本作ではホームズの推理&捜査能力もぞんぶんに発揮される。
特にマイクロフトとワトスンがモリアーティーをウィーンに向かわせてホームズに後を追わせるように仕向けるところがすごい。
モリアーティーがウィーンに向かったという形跡を残す必要は無いと言うマイクロフトにワトスンは不安を感じるのだが、ホームズはウィーン行きは勿論、モリアーティー以外に2人の協力者(マイクロフトとワトスンである)がいることまで突き止め、どんどん核心に迫ってくるのだ。
ここはホームズを敵に回したら如何に恐ろしいかが実感できて、寒気さえ感じる名シーンである。
本人度3 世界共通度△
ハヤカワ文庫/セナ・ジーター・ンスランド/青木久恵訳
ホームズがこの世を去ってから2年後の1922年12月21日、ワトスンがホームズの伝記を執筆すると発表すると、不可思議な妨害工作が始まった。
ワトスンは手元に残った記録をひもとき、過去の事件に思いをはせる。
1886年。 ホームズにバイオリンの鑑定の依頼があった。
ホームズは表面のニスからそれをストラディ・バリウスと判断する。
そのバイオリンを買おうかどうか迷っている男に興味を持ったホームズは、仲介人のあとをつけて男の住居をつきとめる。
そこからは得も言われぬ見事なバイオリンの音が流れていた。
ホームズはそのバイオリン奏者ヴィクター・シーガスンに惚れ込み、バイオリンの先生になってもらう。
やがてホームズはシーガスンの秘密を知り、更にルートヴィヒ2世にまつわる事件で再会することに・・・。
オチを言ってしまえばヴィクター・シーガスンは男装の麗人で、ホームズの父違いの妹である。
彼女はホームズと愛し合い、許されない愛から逃れるために、ホームズに自分が死んだように思わせて身を隠していたのだ。
要するにホームズの出てくるハーレクインロマンスである。
中で語られる事件も雅な城で貴族の振る舞いに翻弄されるといった感じで、腰が砕けること請け合いである。
描写も実に抽象的なものが多く、年老いたワトスンが見た夢や幻のようなものが多数描写されているのは悪夢のようである。
その辺りは雰囲気的には「ヤング・シャーロック」のらりってるシーンと、「12モンキーズ」の主人公視点みたいな感じで、要するにシャーロック・ホームズものとは相容れないものである。
そう言うわけで一つの作品として、少なくとも化夢宇留仁の好みには合わないのだが、パスティーシュとしても問題が多い。
ホームズが女にうつつを抜かすというのは勿論いただけないが、そもそも彼女が女性だというのにすぐ気付かないのもおかしい。
またストラディ・バリウスをどうやって手に入れたのかはワトスンの著作ですでに明らかにされているのに、それは完全に無視されてホームズがシーガスンから贈られた物だとしている。しかもこっちもワトスンの著述という形で。
そのワトスンだが、文中で過去の事件として語られる1886年と言えばホームズと同居を始めて5年あまりも経過しているはずなのに、ホームズに対する警戒心のかたまりで、とてもじゃないが「緋色の研究」のあとのこととは思えない。
マイクロフトも一瞬だけ出てくるのだが、ただ伝記の執筆は許さないとワトスンに告げるだけである。しかも話をしても聞く耳を持たないだろうと言われている。
ここでワトスンが伝記を書くのを防ぐ理由は、ホームズに父親の異なる妹がいたというスキャンダルを恐れているとしか思えない。
マイクロフトがそんなことを気にするだろうか?
また歩く論理のあのマイクロフトが、聞く耳を持たないなど有り得るだろうか?
更にこの作品はホームズが亡くなってから2年後ということになっているが、ワトスンはベーカー街221Bに住んでいる。
どう言うことかというと、ワトスンの妻が亡くなったのを聞き、サセックスに隠居していたホームズがまた一緒に暮らそうと言いだし、再びベーカー街に居を構えたというのだ。
などなど正典の事実をただしく認識していないところが多数あり、納得がいかない。
他にもこの作者は読解力も無いのか、ホームズがアイリーン・アドラーを「あの女(ひと)」と呼んだのを「軽蔑をこめて」と書いている。
あれをどう読んだら軽蔑につながるのだろうか(汗)???
例外はもちろんあるが、男性と女性では物の考え方が異なる。
これはどちらが優れているとかいう問題ではないのだが、この作品に関する限り、女流作家ならではの悪い部分が凝縮されているように思う。
本人度1 世界共通度×
創元推理文庫/ジューン・トムスン/押田由起訳
正典でタイトルや一部の情報だけ語られた事件の公開という形の短編集。
例によってワトスンのブリキ箱が発見された件から説明されている。
うまくドイルらしい雰囲気に仕上げており、ホームズやワトスンのキャラクターも忠実に描かれている。
またそれぞれの事件がなぜ公開されなかったかの理由もちゃんと付けてあるのがにくい。
ただよくできているだけに、たまに「ん?」と思うこともあるので、気付いたところをコメントしたい。
本人度3 世界共通度○
消えた給仕長
5月末のある金曜日。
こうもり傘を取りにいったきり姿を消してしまった給仕長の事件。
実は結婚を直前にしてどうしてもその相手が嫌になり、パンの配達夫に協力してもらって自ら失踪していたのが判明。
ホームズの配慮で彼は見つからなかったということにする。
特に問題なくまとまっている。しれっと正典に混じっていても気付かないかもしれない。
特別面白いわけでもないが。
アマチュア乞食
1887年6月のある日の午後、ワトスンが往診に歩いていると、偶然昔の戦友アドルフス・ヴェナブルズ少佐と出会った。
それ以来旧交を温め合った二人だが、12月末にワトスンがヴェナブルズ宅に訪れてみると、彼は意気消沈して弱り切っていた。
前々から問題が多いと聞いていた彼の一人息子が出ていったきり帰らないのだ。
ワトスンの頼みで調査に乗り出したホームズは、彼の息子が詐欺に関係しているのを突き止める。
詐欺の手法が最近(2005年6月現在)捕まった緑色のジャンパーの募金集団とそっくり(笑)。
奇妙な毛虫
ワトスンがメアリ・モースタンと結婚した年の8月のある暑い金曜日の夜とあるが、聖典の「四つの署名」の発生年がまだ特定できていない(汗)。
外国人の女性が駆け込んできて、ホームズを呼んでくるように言われたと話す。
ホームズは彼女がイサドラという名を告げると、慌てて出かけることに。
ホームズは旧友のイサドラ・ペルサーノというジャーナリストがおり、彼が呼んでいるに違いないとワトスンに説明した。
果たして呼ばれた家に行ってみると、ペルサーノは小箱に入った毛虫を見つめたまま発狂しており、ホームズ達が部屋にはいると窓から飛び降りて死んでしまった。
その虫は見たことのない模様のついた毛虫で、その毒によってペルサーノを狂死せしめたのかと思われたが・・・。
ホームズの、ワトスンの知らない友人というのは珍しくは無いが、今作のペルサーノは特別親しかった雰囲気があり、なんとなくワトスンが寂しそうである。
化夢宇留仁はホームズにはワトスン以上の友人はいないと思うので、ちょっと気になった。
ワトスンが誰かと親しくしている横で、ホームズが寂しそうにしているのなら納得できるのだが(笑)。
ワトスンの「毒があるんだろうか?ペルサーノはこいつに咬まれて気が狂ったのかな?」という問いに対して、ホームズが何も調べていない段階なのに「まあそういうことだろう」と答えているのはらしくない。
ホームズはこういう状況では、早とちりに気をつけている。
しかも聞いているのはワトスンである。大事な友人のワトスンに対して、嘘になる可能性のある返事はしないと思う。
レストレードあたりが相手なら、そう言うこともあるかもしれないが(笑)。
あと他の作品でもその傾向があるのだが、ホームズがワトスンに質問しすぎである。
質問と言っても例によってホームズ自身は見当をつけた上で聞いているのだ。それでワトスンが見当違いの返事をすると、「ほほう!」とか言って、ホームズはなにも説明しない。
聖典でも散見されるシチュエーションなのだが、この話では繰り返し繰り返し聞くのである。これではワトスンをいたぶって楽しんでいるように思えてしまう。
高貴な依頼人
11月末の霧の深い朝。
このところ事件が無く、雨が続いて憂鬱になっているホームズだったが、女性からの手紙が高貴な身分を隠したものであることを突き止め、やる気が復活してくる。
依頼人は男性の友達と手紙のやり取りをしていたが、その手紙を公開するという脅迫をされていたのだ。
実際は不倫関係などではないのだが、悪意ある者によって公開されればスキャンダルになるのは必至であった。
ホームズは手紙の内容を知ることができる人物を絞り込んでゆき、更に脅迫者に送られた金や宝石が受け取られていないのを確認し、やがては容疑者にたどり着く。
聖職者に変装したホームズとワトスンは、最後の仕上げのために依頼主の住居に向かった・・・。
恐喝と聞いてホームズがミルヴァートンの存在を予測する件はニヤリとさせられる。
名うてのカナリア訓練師
1895年1月の夜に訪ねてきた依頼人は、アニー・ヘアーという下層階級の中年の女性で、娘が行方不明になったと告げた。
娘のロージーが昨年15歳になったばかりの頃、新聞に上流家庭の高給召使いの募集があり、彼女はそれに受かって働きだした。
しかし次第に手紙が来なくなり、やがて完全に消息を絶ってしまったのだ。
またレストレード警部から若い女性の水死体が上がったという話も聞き、やがてホームズとワトスンは「カナリア・クラブ」という会員制のクラブにたどり着く・・・。
当時は似たような悪事が横行していただろうということは想像できるが、正典で出てこないのはやはり倫理的な問題だろうか。
流れ者の夜盗
1895年6月。
ワトスンの診療所にホームズからの呼び出しの電報が届く。
最近高価な物のみ盗んでゆくプロの夜盗によると思われる事件が頻発していた。
その最近の被害者であるエドガー・マクスウェル・ブラウン准男爵は、せっかく重要な証拠になるだろうと手をつけずに残しておいた犯人が使ったらしいワイングラスには興味を示さず、庭を踏み荒らすばかりでなんの役にも立たない警察に愛想を尽かし、ホームズに依頼の手紙を送ってきたのだ。
よくできている。
他の作品もそうだが、内容に加えてなぜ発表されなかったのかの理由もきちんと説明されている。
またちぎれたフェルトの破片と言い、情報の中央管理と言い、指紋の重要性と言い、ホームズが近代捜査法に先見の明があったことが強調されているのも面白い。
しかし事件解決にはどれも直接は関わっていないのが惜しいところだ。
打ち捨てられた灯台
ワトスンがクイーン・アン街に住むようになってから、ホームズがサセックスに引退するまでの間の7月はじめ。
マイクロフトから海軍の潜水艦を開発している科学者で、機密を外部に漏らしているらしい男がいるので、その証拠をつかんでほしいと頼まれるホームズ。
ワトスンと共にディオゲネスクラブでマイクロフトから詳しい話を聞き、その科学者が休暇を過ごしている灯台へ向かう。
そこで件の科学者モーリス・カリスターは、朝水鳥に餌をやり、釣り糸をたれ、夕方にも水鳥に餌をやって釣り糸を回収する。それだけを繰り返しているように見えた。
機密は離れたところに停泊しているオランダ船籍の漁船に伝えられているようなのだが、その方法は・・・
ブルース・パディントン設計書の続編っぽい内容。
トリックはまあまあというところだが、雰囲気があって楽しめる作品である。
新潮文庫/ジュリアン・シモンズ/新庄哲夫訳
原作を忠実に再現したドラマで一躍稀代のシャーロック・ホームズ俳優として有名になったシェリダン・ヘインズは、本人も強度のシャーロキアンで、車嫌いのヴィクトリア王朝時代に憧れる男だった。
しかし視聴率が下がり始めると、ドラマにアイリーン・アドラーをシリーズを通しての相手役にするなどの変更が加えられはじめ、彼とスタッフとの歯車も噛み合わなくなっていった。
そんな時連続空手チョップ殺人という奇妙な事件が発生し、警察が手をこまねいているのを見て、ヘインズはシャーロック・ホームズなら解決できると宣言してしまい・・・。
作者も言っている通り推理小説ではなく犯罪小説として描かれており、事件を追うよりも複雑な人間関係を描く方に比重が置かれている。
そのせいかミステリーとして考えるとものたらない。
また犯人の動機がこんなのだったら嫌だな〜〜〜っと思っていた通りのもので、犯人もいかにもな善人でドラマ的には逆にいかにも怪しい奴だったので、とほほな感じも(笑)。
原作を忠実に再現したドラマで大成功を収める設定がまるでグラナダテレビの「シャーロック・ホームズの冒険」そのままだが、原板はドラマの何年も前の1975年春に発表されているので、単なる偶然のようだ。
本人度0 世界共通度△
集英社文庫/ローリー・キング/山田久美子訳
作者の元に送られてきた様々なガラクタの入った段ボールの底に、その原稿はあった。
それは15歳の少女がシャーロック・ホームズと友情を交わした物語だった・・・。
1915年。
サセックスの丘陵を本を読みながら歩いていた15歳のメアリ・ラッセルは、危うく足元にうずくまっていた初老の男を踏んづけるところだった。
そしてそれが彼女とシャーロック・ホームズとの出会いだった。
それ以来親しい友人となった二人だが、ホームズはメアリが自分と同等の知性を備えていることを見抜いていた。
ホームズは彼女に様々な知識を与え、彼女が大学を卒業する頃には、ホームズが行動だけではなく、判断部分までも任せることが出来る相棒に成長していた。
少女誘拐事件を協力して解決した2人だったが、その後彼らは何者かに命を狙われることとなり、伝説の犯罪王に勝るとも劣らない相手と対決する。
設定からして「シャーロック・ホームズの恋」と同じく女流作家の悪いところが出た作品のような第一印象だが、実は傑作である。
主人公はあくまでメアリ・ラッセルという少女である。
しかし「リュパン対ホームズ」のようにホームズをダシに使うのではなく、ホームズを立て、そのホームズが彼女を認めることによってメアリも立つという見事な組立になっている。
またメアリの一人称で進むのも彼女への感情移入を助けており、ホームズ並の能力を身につけつつもギリギリのところで判断に迷ったりと少女らしいところも伝わってくる。
ホームズなみの知性を持っていだけあり、思考も論理的に筋が通っているのでイライラすることもない。
その他の登場人物もよく描けている。
ハドスンさんはホームズが小食なので欲求不満がたまっており、大喜びでメアリにせっせと食べさせる。
ワトスンはホームズに新しい友達が出来たのを心から喜び、マイクロフトはどこまでも頼りになるのだ。
パスティーシュとしても破綻無く描かれており、正典と印象が違うのはホームズの年齢くらいだろうか。
1915年の時点で54歳。通常ホームズの誕生年とされている1854年から考えると61歳になっているはずなのだが、誕生年の方も正典ではっきり書かれているわけではないので問題ないだろう。
メアリがホームズに「恐怖の谷」のオチはどうなるのかと質問しているのも面白い。1915年の5月まで、ストランド誌で「恐怖の谷」が連載中だったのだ。
ちなみにホームズは事件は知っているが、それからワトスンがどんな物語に仕上げるかは分からないので答えられないと誤魔化していた。
更に1915年の春と言えば、「最後の挨拶」の直後の事だというのも興味深い。
ホームズの世界に、頭のいい少女などという異分子を受け入れるのは最初は難しいと思うが、引退後のホームズが初めて同等の知能を持った友人を手に入れて楽しくすごしたと考えるとそれもなかなかいいと思える。
一読の価値はある作品である。
続編も少なくとも2冊は存在するらしい。
本人度3 世界共通度○
創元推理文庫/モーリス・ルブラン/石川湧訳
謎の机盗難の後、その机の中に高額の当たりくじが入っていたことが分かり、大騒ぎに。
盗まれた机の持ち主はその番号札は自分の所有権があると主張するが、なんとアルセーヌ・リュパンが当たり札を持っているとの告知があった。
そしてリュパンから山分けにする申し出があるが彼は断り、その直後娘が誘拐されてしまい、結局はリュパンの言うとおりにせざるを得なくなる。
ガニマール刑事はリュパンの弁護士のところでリュパンとその協力者である金髪美人を追いつめるが、彼らは忽然と姿を消してしまう。
また金持ちが殺される事件があったが、盗まれたと思われた高価な青いダイヤの指輪はそ後に友人の荷物の中から見つかる。
その指輪は競売に賭けられるが、落札したのはある夫人だったが、その夫人のところから盗まれてしまう。
そして夫人のところを訪問していた友人の荷物の中から発見され、大騒ぎに。
ガニマールはリュパンの協力者の金髪美人が全ての事件に関わっていると推理し、全ての関係者を呼び集めて金髪美人を呼び寄せるが、それはリュパンの工作によるトリックだった。
肩を落とすガニマールに、関係者の一人がイギリスから名探偵を呼ぶように示唆する。
助手のウィルソンを連れてフランスにやってきたホームズは、いきなりレストランでリュパンと遭遇。
お互いはったりをかましあい、ホームズは滞在期間のギリギリである10日目までにリュパンを逮捕すると宣言する。
しかしその後リュパンの嫌がらせを延々と受け、助手は負傷させられるし、殺人の現場に閉じこめられるしで散々な目にあう。
なんとか今存在する青いダイヤは偽物であるとつきとめ、本物のダイヤを取り返すことに成功、リュパンも逮捕されるが、すぐに逃げだし、ホームズがイギリスに帰る途中で余裕の挨拶をするリュパン。
しばらくしてユダヤのランプが盗まれる事件があり、再び依頼を受けてフランスにわたるホームズだが、助手はナイフを胸に突き刺され重傷。
ホームズはなんとか謎を解いて盗まれた物が隠されている河でリュパンに遭遇。
しかしリュパンが船底に穴を開け、リュパンはガニマール刑事に撃たれたと見せかけて逃走。
ホームズがイギリスに帰る船上で余裕の挨拶をするリュパン・・・。
ホームズのパスティーシュとしては、多分最も粗悪な作品である。
元々ホームズが主人公では無いので当然とも言えるが、それにしてもひどい。
また元はホームズの名前も使ってはおらず、エルロック・ショルメスという変な名前で発表されたらしいが、本文中でドイルの名前まで出てくるし、ホームズを意識しているのは間違いなく、内容を考えれば訴えられることを恐れてそのようにしたのではないかとさえ思える。
※これは西山さんのご指摘により、前の作品(おそらく「怪盗紳士」)にホームズを登場させたところ、ドイルからクレームがあったので、名前を変えたと判明。つまりこの後説明するホームズの扱いは確信犯だったらしい。
なにがひどいかと言えば、ほとんど全てにおいてひどいのだが、単にリュパンを主人公としたヒーロー小説としても、リュパンを愛した女性に盗みを働かせたり、事故を装ったり暴漢を雇ったりしてホームズを襲ってみたり、リュパンのやり口はひたすら汚く、とてもじゃないが感情移入できるキャラクターではない。
ホームズの描写に至ってはまさに噴飯物で、ルブランはホームズの原作をまともに読んでいないとしか思えない。読んだ上でやっているとすれば読解力が皆無なのか、単に嫌がらせで作品を書くということの出来る最悪な奴かのどちらかである。
ホームズは名誉欲が強く、激しやすく、目の前にあるもののことしか考えられない。そして助手のウィルソン(要するにワトスン)のことは便利な道具としか思っておらず、彼が怪我をしてもそんなことは一瞬で忘れてしまう。
ウィルソン(ワトスン)はひたすらホームズのことを信じ切っている大馬鹿者と書かれている。
吐き気のする内容で、化夢宇留仁は子供の頃にジュブナイルを読んで以来だったのだが、今回モーリス・ルブランのことが大っ嫌いになった。
だいたい元々フランス人は嫌いなのだ(笑)。
本人度× 世界共通度△
|