TRPG&GameBook TITAN




モンスター誕生
S・ジャクソン著

スティーブ・ジャクソンの、今のところ日本で翻訳された最後のパラグラフ式ゲームブック作品。
もしかしたら本国でもこれが最後なのかもしれない。

彼はパラグラフシステムにあらゆる方向からアプローチして、いくつものトリックやストーリーを作り出してきた。
その彼が、最後の作品として発表した「モンスター誕生」は、パラグラフシステムをこれでもかと縦横無尽に使いこなしており、かつびっくりさせる設定がてんこ盛りになっている。

まず目をひくのが、主人公がモンスターであるという点だろう。
しかしこれは他の作品でも似たようなものはあり、よくある視点の逆転ともとれる。
しかし流石はジャクソン先生、一筋縄では行かないところを見せ付けてくれる。
主人公が今まで敵として書かれてきたモンスターや悪の魔法使いなど、逆の立場に設定されているものはいくつかある。
ただしその知能まで再現したものがあっただろうか?
「モンスター誕生」の主人公は、冒険当初、いわゆる怪物であり、能力的には戦闘ルールに即死ルールが付け加えられ、なんと6分の1の確率で相手を即死させるパワーを持っている。
しかし怪物以外の何者でもないのだ。
したがって名前も無ければ知能もほとんど無い。
彼の行動を決定付けるのは、本能と気まぐれである。
つまり、ゲームブックにあるまじきことに、主人公は選択肢を選ぶことさえ許されないのだ。
分かれ道に来ればサイコロを振って行き先を決め、死にそうなホビットがいれば、例え助けてやろうと思っても本能はそれを許さず、かぶりついてしまう(笑)。
そのままではもちろん話にならないので、次第に知力がついてゆき、選択も出来るようになるのだが、そうなるまでにも結構危機は訪れ、プレイヤーの成す術も無くデッド・エンドを迎えることも珍しくない。
こう書くとあたかもサイコロ任せのオーバーキルなすごろくのように感じるかもしれないが、そんなことはない。その辺はジャクソンお得意のパラグラフ構造によるトリックと、視点の変化(主に読者と怪物)を見事にコントロールする描写とで、楽しんで死ぬことができる(笑)。

知能が上がり(これもストーリーの骨子に関わる設定が見事に絡んで、違和感無く説明される)、先へ進むにつれ、怪物は自分が地下迷宮にいるのを理解し、脱出すべく徘徊する。
この作品の大きな特徴のもう一つが、2部構成になっている点である。
前半は怪物が知能をつけつつ迷宮を脱出するまでが書かれ、後半でようやく今回の敵、ザラダン・マーを倒すための冒険が始まるのだ。
まれに見るオーバーキルな作品ということもあって、コンピュータゲームで言うところのセーブポイントを用意しているということだろうが、受動的な展開だった前半に比べ、能動的に行動する後半は今までの借りを返すべく、華々しく盛り上がる・・・のではないかと思う。 実は化夢宇留仁はこの作品をクリアしていないのだ(笑)。
ただでさえサイコロ運の悪い化夢宇留仁は、前半の選択能力の備わっていないうちから多数の死者を出し、後半に入ってもハードなのは変わりなく、一時ストップしてしまったのだ。
しかしこの作品は必ず続きをやろうと思う。
そういう気にさせる面白さをもっているのだ。

重大なことを書き忘れていたが、これまでゲームブックではタイタン世界の構築に大して力を入れていなかったジャクソンだが、この作品ではアランシアの重要な事件とキャラクターを創造している。
冒頭20ページにわたって書かれたそれは、ボリュームもさることながら内容も凄まじい。
なにしろアランシアの有名人(?)、嵐の3人(ザゴール、バルサス・ダイヤ、ザラダン・マー)の設定が語られているのだ。
その気になったら、とことんやってしまう。 そんなジャクソンらしさがここでもあらわになっているようだ。

というわけで、この作品をクリアしたら、またここも書き加えられる予定である。

何人死んだら気が済むの!?「モンスター誕生」編へ



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