宇宙船シナノマルの人々

クラシックトラベラー、リプレイ第2弾。
相変わらず成り行きまかせのTRAVELLERキャンペーンだが、プレイヤーが違えば雰囲気も違う。
一風変わったトラベラーをそうぞ(笑)。
ちなみにこのキャンペーン開始から、本格的に他のキャンペーンとの共存世界を作り始めたので、人物関係や事件が、互いに影響しあっているところも色々出てくる。


一期一会?

1106年247日、ワンディ
フレドリック・マーキュリー博士は、助手を伴って毎週欠かさず研究協力者をつのるため、リジャイナ地上宇宙港ロビーの一角に立っていた。
もちろん今日も例外ではない。

本日二人の演説に付き合って、また宙港街サブクレダにある研究所まで行ってみようと思ってしまった奇特な人は5人いた。

妙に明るい雰囲気の、金髪の女性、ピピ。
すでに好々爺の雰囲気を漂わせている元リジャイナ行政官の、クリス・スレイド翁。
元科学者という女性、ルシア・クリモワ。
ハンターだったという顔にあざのある青年、マービン・セガリオン。
そして元商船会社員だという、アトス。

F・マーキュリー博士の研究は、なにやら個人が歴史や社会に及ぼす影響を調べるものらしいが、5人に興味があるのはもっぱら斡旋されるという仕事の内容だった。
詳しい話は研究所ですると言われ、行ってみることに。

宙港街のはずれにある小さな2階建てのビルの研究所に着き、汚いソファに座って待っていると、研究助手だという女性、エルザ・ボビットが申し訳無さそうな顔をして、プリンターから吐き出された資料を持ってきた。
「すみません。現在丁度人手が足りてるようで、なかなか条件に合うお仕事が見つからないんです。」
5人は情けない顔つきで、渡された資料を見てみた。
確かにろくな仕事が無い。
工事現場の交通整理、日給60クレジット。
宙港街でのビラ撒き、日給50クレジット。
下水道の巡回、日給80クレジット。
給仕係り、時給7クレジット・・・・・
なんだか学生のアルバイトのようなものばかりである。
「本当に申し訳ありません。いつもならもっと幅広いお仕事が用意できるんですが・・・・昨日大人数の申し込みがありまして、また今日に限って新しいお仕事がまわってきてないんです。」
「仕事があるって言うからこんなところまで来たのにー・・・」元々なにをやっていたのかよく分からないピピが不平たらたらに言った。
「うむ・・・」年長のスレイドは、何か言いかけたようだったが、それを呑みこんだ気配があった。言いたいことをすぐに言ってはまずい職場にいたせいかもしれない。
「あら〜」ルシアは、声とは裏腹に特に残念そうな雰囲気ではない。溜息のようなその声に、彼女の方を見たスレイドは、ぴっちりとした黒いレザーを着ている彼女の肢体の方に目が行ってしまい、思わず目をそむけていた。
ちなみにピピもなかなかの美人だったが、性格のせいか、着ているスーツのせいか、そんな雰囲気は無かった。
「・・・・」最も若いマービンは、歳よりじみた性格なのか、単に暗いのか、黙ってうつむいたままだった。
元商船員だというアトスは、組んだ足を机の上に投げ出して、天井を見つめて煙草をふかしていた。その態度と顔の無精ひげは、彼が本当に元商船員だったとしても、まともな会社では無さそうだった。また彼の目つきは、生気が無くにごっていたが、どこか隙をうかがうような、不気味な輝きがあった。
パッと見では、そもそもやる気が無いのか、それ以外に考えることでもありそうな雰囲気だった。
「あの・・・」
エルザの声に、5人が振り返った。
「もし1日待っていただければ、明日にはもう少し色々なお仕事が御用意できると思うんです。いつもツーディにまとめて仕事を紹介してくれている口がありますので。」
5人は顔を見合わせた。
5人とも特に知人という訳では無かったのだが、立場的に相通じるものがあったのだろう。
「じゃあ明日来ます。」
あっけらかんとした感じで言って、ピピが立ち上がった。
それが合図であったかのように、他の4人も立ち上がった。
めいめい研究所を出てゆく。
この会見の間、マーキュリー博士は一度も口をきかなかった。

なんとなく路地にさまよい出た5人。
どうしようかとお互いの顔を見合わせていたが、アトスが口火を切った。
「おい、よかったらこれから飲みにでも行って、ちょっと話でもしないか?広い宇宙でこんな所で顔つき合わせてるのも何かの縁だろう。」
他の4人に文句は無かった。みんなこれからの身の振り方も決まっていないような状態だったのだ。
適当に落ち着ける場所を探して宙港街をうろうろし始めたが、アトス以外の4人は、彼がまるで何かに追われてでもいるかのような、おびえたような、警戒しているような態度を垣間見せるのに気付いていた。

近くの大衆酒場のようなところに入り、なんとなくテーブル席に陣取った。
しばらく言葉数も少なく、各自一人でいるかのようにちびちびとグラスを傾けていたが、再びアトスが口火を切った。
「あの研究所だが・・・信用できるのかね?いいかげんな事を言って、結局俺らから金を巻き上げようとしてるんじゃないか?」
「そんなことはなさそうですけど・・・・」答えたのはルシアだった。
「そうだとしたらやりようはもっとあるでしょうし、今日だってそのまま帰したりはしないでしょう?」
「そういうものですかな?」興味ありげに答えたのは、スレイド翁である。
「わしは長いことここの行政に関わってきたが、結局市民の経済観念というのは分からずじまいだった・・・・そんな一時凌ぎとしか思えないような詐欺商法がまかり通 っているのですかな?」
「そんなことはあたりまえのことだ。」
にべも無いアトス。
ピピもそれに加勢した。
「世の中隙のある人はカモなんです。それは政治が悪いんです。」
含蓄があるのか、何も考えていないのかさっぱり分からない意見だったが、それを聞いてスレイド翁は溜息をつき、肩を落としてしまった。
再び間が出来た。
沈黙を破ったのは再びアトスだった。
「俺・・・儲け話を知ってるんだ。」
「え?」
興味を示したのはピピだった。
「どんな?どんな?」
まるで尻尾を振ってる仔犬のようである。
「ここでは言えない。ただ・・・あの研究所が嘘をついていないのなら、あそこを介して協力者を募ろうかと思ってたんだ。」
「ははぁ。つまりあなたは仕事を探すというより、仕事に使える人を探すためにここにいるんですな。」とスレイド翁。
「まあそうなるか。そうはっきり考えてた訳じゃないんだが・・・」
スレイド翁は興味深そうにアトスの話を聞こうとしている。
マービンは相変わらず黙ったままで、上目遣いでアトスを見ているだけだった。
ルシアは相変わらず興味があるのか無いのか分からない態度で、グラスを揺らしている。
ピピの期待に満ちた視線に気押されるように目をそむけ、アトスは言った。
「実はここで話してもいいのか、俺にもよく分かってないんだ。だから今は話せない。」
「なにそれー!?期待だけさせといて〜!!!」
ピピがむくれ返ったが、アトスはやはり話す気はないようだった。
「すまん。今日よく考えてみる。どうせ明日はまたあそこで会うんだろ?その時に話せると思う。」
「・・・・・」
ピピは相変わらずむくれていたが、他の3人は異存はないようだった。

酒場は閉店の時間になり、5人はそれぞれの帰路についた。


1106年249日、サーディ。
マービンはあても無く宙港街をふらついていた。
酒場ではなんとなく翌日研究所で落ち合うような雰囲気になっていたが、別に約束をしたわけでもなく、またそんな気になれなかったこともあって、彼は行かなかったのだ。

マービン・セガリオン
(プレイヤー/R.K氏)

元ハンター 2期
5B63C8
118/1080リジャイナ生、男、26才

<狩猟-1><パイロット-1><医学-1><メカニクス−1>

(狩猟用ライフル)

マービンは生まれつき、顔のあざにコンプレックスを持っていた。
それは昔からのことで、両親は手術して取ってしまえばいいと言っていたが、そうなると逆に自分のアイディンティティーを失ってしまいそうで、出来なかった。

そんな彼は人付き合いが苦手になってゆき、ふと気付くとハンターになって、アルファー・コーポレーションという猟だん会社に入っていた。
ハンターとして、少人数のチームでいろいろな世界をまわる内、彼は各地の民族や風習に興味を持ち始めた。
民族衣装を集めたり、自分でそのようなものを作ったり、自分の殻に閉じこもりがちだった彼にも、ようやく居場所が見つかったようだった。

彼は、1週間前に故郷であるリジャイナに戻ってきた。
しかし両親はすでに亡くなっており、ただ一人の兄のマイケルは、結婚して違う大陸に住んでいた。
元マービンが住んでいた家は、リジャイナ郊外の住宅地にあったのだが、それは今は処分されていた。
リジャイナには彼の居場所は無かったのだ。

何か考えがあったのだろうか。
故郷リジャイナの地で、彼はアルファー・コーポレーションを退社した。
丁度再契約の手続きが必要だったこともある。
それよりも彼にとって、顔のあざが必要なものであるように、この居場所の無い故郷にも、自分のアイディンティティーの存在を感じたのかもしれなかった。

ただしそれらは彼の中ではっきりと認識されていたわけではない。
ただぼんやりと、自分の居場所を探している・・・・
それがマービンの本心なのかもしれなかった。


マービンは昨日はアテも無く、首都クレド近辺をうろうろしていた。宙港街の安宿に帰ってきたのはもう夜も遅かったが、ちょうど研究所の前を通りかかった。
研究所はその時、まだ明かりが点いており、中からはピピらしい不満そうな声が聞こえてきていた。
マービンはそのまま安宿に戻って寝た。

翌日の今日249日、マービンは三度研究所の近くに来ていた。
昼をすぎたくらいの時間で、宙港街のはずれにしては人通りは多かった。
マービンの鍛えられた目が、人通りの中に見た覚えのある人物が混じっているのをとらえた。
上下の黒いレザーに、プラチナブロンド。
ルシアである。
彼女もマービンを見つけたらしく、小さく手を振ってきた。道路をはさんでいるとは言え、人通りが多いこの状況で彼に気付くとは、ルシアも目がいいのか、それとも勘がいいのだろう。
彼女はそそくさと道路を渡ってくると、親しげに話し掛けてきた。
「セガリオンさん。昨日は行けなくてすみません。もうお仕事は決まっちゃいました?」
マービンはいきなりのことで、すぐには状況がつかめず、また生来の口下手でもあったので、あーとかうーとか、はっきりしない声が出ただけだった。
ルシアは気にする風でもなく、続けた。
「私昨日は前の仕事の関係で、急用が入ってしまって・・・・連絡は入れようと思ったんですけど、私ってそそっかしくって、連絡先を聞くのを忘れてたんです。」
「・・・・・」
話ながら彼女は自然に研究所の方へ歩いてゆく。
なんとなくマービンも、それにひきずられるように歩いていった。

ルシア・クリモア
(プレイヤーN氏)

元海賊 1期
元科学者 1期
587248
257/1078生、女、27才

<格闘-2><戦闘ライフル銃手-1>
<エンジニアリング-1><SMG−1><コンピュータ−1>

(9mm戦闘ライフル)(拿捕許可証

ルシア・クリモアは18歳の時に、海賊団「血まみれ真っ二つ無敵艦隊」に入隊した。
別に社会や自分の立場に不満があったとか、そういう訳ではない。
単に海賊になりたかったのだ。
600排水素トンクラスの主力艦、ゼットンに乗艦。
エンジニアとして、また切り込み隊員として頭角をあらわし、海賊提督ジャット・ロトローメスに気に入られ、その息子の世話などもしていた。
1101年に突然科学者を志し、艦隊を抜けた。最終階級は伍長だった。
ジュニアがなついていたこともあり、すんなりと辞められたのだが、科学者になるのには失敗。というか研究テーマが決まらなかった。
その翌年、「集団戦闘における強襲効果と被害の考察」というテーマで一応学士号を取得。
これは単に彼女の経験をコンピュータに入力し、シミュレーションを繰り返していたら偶然出来たもので、そもそも猪突猛進タイプの彼女には用の無いものだった。
だがそれで一応科学者(?)といわれるようになり、雑誌に執筆したり、学校で講師を務めたりして4年程を勤めて満足した彼女は、今年1106年になって、科学者も辞めることにした。
リジャイナ・スポーツの記事を最後に、引退を宣言。
今までためたお金を使いつつ、なんとなく次の目的を探していたら、宙港で博士の演説に引っかかったのだ。
ちなみに昨日の急用とは、払いの悪いリジャイナ・スポーツにたまっていた原稿料を取りに行っていたのだった・・・。


マービンとルシアは、連れ立って研究所の前までやってきた。
何とかマービンも昨日は来れなかったということだけはルシアに伝えたが、それ以上のこと(例えば特にこの研究所に興味は無いということなど)は言い出せずに終わっていた。

ルシアがインターフォンのスイッチを押した。
スピーカーが壊れているのか、建物の中から「どうぞ。開いてますよ。」とエルザらしい声が聞こえた。

マービンはここで入ってしまったら流れから逃れられないと分かっていた。そこで何とか言おうと思ったが、にこやかなルシアの声の方が早かった。
「よかった。留守だったらどうしようかと思ってたんです。」
「あ・・・」
出鼻をくじかれたマービンが見る前で、ドアが開かれた。
思わず中を見ると、エルザがソファを引くのが見えた。
「あら、おとついのお二人ですね。丁度よかった。いい仕事が入ってるんですけど、人手が足りなくて困ってたんです。」
「ほんとですか。よかった〜♪」
あくまでにこやかでマイペースなルシアだったが、なぜかドアを通ろうとしない。
なぜかと考えて、それは自分が彼女の前にいるからだと気付いたマービンは、思わず早足で中に入ってしまった。ルシアもそれに続く。
中に入って、すでにソファに二人先客がいるのに気付いた。
ピピとスレイド、それにアトスの内の誰かかと思ったが、その二人は初顔だった。


宇宙船シナノマルの人々 第1回 終了

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