宇宙船シナノマルの人々

第8回

フリーブローカー


 幸いなことに今度は密航者は乗っていなかったが、やはり何事もない平穏な航海というわけにはいかなかった。
なんと密航者1号のリーナハイジャック犯の生き残り2人を解放しようとしたのだ。
だが密航したときと同じような不首尾振りで、すぐに同乗していた海軍士官に捕まったので大事にはならなかった。
話を聞いても彼女は「レイチェル様のため」としか言わず、結局彼女もファスト・ドラッグをうって部屋に閉じこめられた。
ハイジャック犯と仲間というわけではないようだが、同じレイチェル教団の信者なのは間違いなさそうである。

 希望号(仮名)は1106年273日リジャイナ地上宇宙港に到着した。出発地点に戻ってきたのだ。
乗客は全て海軍士官の生き残りが連れて出た。
2人目の密航者ラヴィカンは、船を降りた途端に誘拐されたと騒ぎ出したが、すぐに警察が連れて行った。
彼の親であるリジャイナ市長にコネが出来るのではないかというチークの目論見は、あっさりと潰えた。
 希望号のクルーも一応取り調べのために海軍基地へ出頭したが、海軍士官の生き残りの証言により、いくつか質問されただけですんだ。
ただしロビンはそこで元帝国海軍士官だということがばれてしまい、居残ることになった。

 殺伐とした部屋でロビンが緊張して待っていると、若い少尉がやってきてクリスタルを渡した。
「ロビン・ピッポー中佐が立ち寄るようなことがあれば、お渡しするようにと当基地が言付かっていたものです。」
「ほう・・・」
「この部屋のモニターでご覧ください。」
そう言って少尉は部屋を出た。
残されたロビンは首を傾げ、クリスタルをセットした。するとすぐに父親であるブライアンの顔が映ったので驚いた。
「ロビン。おまえが軍から姿を消したとき、私はその理由が見当がついた。前に私に質問したことで、悩んでいたのだろう。」
驚いた。まさかあの親父に考えが見抜かれていたとは。
「おまえの気持ちもよく分かる。わしも若い頃は世の中の様々な矛盾に納得がいかなかったものだ。どうやらおまえはそれをずっと抱えたままだったようだな。物心ついてから海軍しか知らなかったおまえには無理もないことだ。そこでだ。」
ドキドキしてきた。いったいこの親父はなにを言い出すのだろう?
「おまえに3年の考える時間をやろう。外の世界を見てこい。海軍士官としてではなく、ただの人間として本当の世界に触れてこい。そして人間はなぜ強い者と弱い者に別れるのかを学ぶといい。その後海軍に戻るもよし。わしのあとをついで政治の世界に入ってもいい。それ以外の道を進むというのならそれも考えよう。おまえは必ず戻ってくると信じているがな。海軍の方にはわしの指令で極秘任務についているということで通しておいた。元気でな。」
・・・画面が消えた。
なんとそう来たか。多分今説得しても無駄と思い、考えた末の苦肉の策だろう。
しかし親父にしてはなんて含蓄のある言葉だ。部下に草稿を書かせたのに違いない。
ロビンは深呼吸すると、部屋を出た。

 マービン、ルシア、チークの3人は、とりあえずロビンのことを心配しても仕方がないので、次の航海に備え、宙港の貿易センターへ行ってみることにした。
 貿易センターは大きな宇宙港ならだいたいどこでも備えており、乗客や船荷の募集や、投機品目の登録や入札を行う施設である。
もちろん船にいるままでも情報にはアクセス出来るのだが、ここに来れば業者やブローカーと顔を合わせて話し合えるし、多くのサービスも扱っているので、普通貿易船のオーナーは必ず立ち寄る場所である。
だが3人は今までそんな機会がなかったし、なにより来る必要がなかったので、初めての体験である。
ずらりと並んだモニター。行き交う人々。中央にはタワー型の大型モニターがそそり立ち、相場情報などを流している。
「なんだか場違いな場所にいるような気がする・・・」
マービンのつぶやきに、ルシアが答える。
「そうですねえ。でも誰だって最初は初心者ですし。」
チークは両手をポケットにつっこんで、斜め下からまわりを見回している。
「要するに商売だろ?客や船荷は目的地に運んでやればいいし、投機なんとかは安く仕入れて高く売ればいいわけだ。単純じゃね〜か。」
「そう言われればそうですが・・・で、とりあえずなにをしたらいいんですか?」
マービンの問いに、チークの視線は宙を泳いだ。
「そりゃおめえ・・・あ〜・・・船荷・・・そう言えば俺たちの船って船荷はどのくらい積めるんだ?」
3人とも知らなかった。
呆然と立ちつくす3人の背後から、どこか陽気な声がかかった。
「みなさんルーキーですかあ?」
「はあ?」
振り返ってみると、そこにはどことなくラテンな雰囲気の男が、はち切れんばかりの笑顔で立っていた。
「なんですか?あなたは?」
チークがあからさまに怪しんでいる顔で問う。
「あ、失礼しました。私フリーのブローカーのブロブ・スカードと言いまして、先ほどから拝見してましたら、貿易初心者の方とお見受けしまして、お手伝いさせていただけないかな〜っとお声を掛けさせていただいた次第です。」
なんだか異様に調子のいい男である。
「そんなこと言って、初心者だって言ったらカモろうとしてるんだろ?」
流石は元悪党。チークはなんでも疑ってかかるのだ。
「とんっでもない!私はお手伝いさせていただきたいと思ってるだけです!もちろん正規の報酬はいただきますがね。」
「やっぱりカモろうとしてるんじゃないか。」
「違いますって。なにしろ私がいただく報酬は、お客様の貿易売り上げから何パーセントかいただくというシステムですから、お客様が儲からなければ私も儲からないんです。それより目的地はお決まりですか?」
「え・・・ああ、まだだけど。」
「まだ!」
突然のブロブの大声に、まわりの人達が振り返った。
「目的地が決まらないと話が始まりませんよ!すぐに決めないと!」
「な・・なんでだよ。大声出すなよ。」
流石のチークも逃げ腰である。
「乗客と船荷はあ、目的地が決まらないと集まりませんねぇ。これ当たり前。どこに行くのか分からない船のチケット買う人は、変な人ですねえ。」
「言われてみればそうだな・・・。」
「投機品目もぉ、目的地決まらずに買っちゃ駄目です。この目的地に持ってゆけば、高く売れるという見込みが出来て初めて購入するのでぇす。」
「な・・・なるほど。しかし変なしゃべり方だな。」
「さっそく目的地決めましょう!この相談料はサービスさせていただきます。つまりただ。」
「あ・・・そうだな・・・」
なんとなく勢いに呑まれてしまったチークであった。
マービンとルシアはと言うと、実は最初ブロブが話しかけてきた時点で素直に喜んでいた。

「ほう・・・みなさんはY型ヨットのオーナーでいらっしゃる!素晴らしい!羨ましい限りです。」
ここは貿易センターの横にある喫茶店である。
チークがジュースのストローをくわえながらいらついていた。
「お世辞はいいからどこがお勧めか教えてくれよ。」
「そうですな。ヨットの場合・・・ジャンプ能力がなんと4!選択肢は非常に多く、みなさんが迷うのも無理ありません。ここリジャイナから1回のジャンプで到達できる星系が23もあるんですからな。」

「そんなにあるんだ・・・」
マービンがつぶやいた。ほんとに全然知らないのである。
「そうなんですよ!正直なところY型は高速すぎて目的地を選ぶのは難しい!そして高性能とひきかえに船倉が少ないので船荷では儲けがでにくい!初心者には厳しい船なんですよ!」
「俺もそれは思ってたよ。まともにやってたんじゃローンも支払えないってな。」
ブロブは立ち上がり、チークにびしっと指さした。
「そうなんですよ!そうだからこそ私のような取引のプロがお役に立つわけです!」
「それは分かったから目的地はどこがいいんだよ?」
ブロブは椅子に座り直し、1つ咳払いをした。
ダイナムンなら儲かります。」
「おお!」
3人ともどうせややこしい説明を始めて断言は避けるのだろうと予想していたので、思わず声が出た。
「他にも有望な目的地はありますが、その中でもダイナムンがダントツです。」
「どうしてダイナムンだったら儲かるんですか?」
雰囲気に引き込まれて興味津々のマービンのである。
「う〜ん・・・それはほんとは企業秘密なんですが、今回だけ特別にお教えしましょう。秘密はテクノロジーレベルにあります。」
固唾を呑む3人。
「ダイナムンのテクノロジーレベルは低い!リジャイナでは一般的な商品が、あちらでは魔法のアイテムになるのです!また高テクノロジーで人口の多いリジャイナからはダイナムンへの観光需要があり、船客も望めるというわけです。」
「なるほど〜!」

すっかり乗せられた3人は、今度の航海でブロブを雇うことにしたのだった。
「え?私もダイナムンに行くんですか?」
「だって俺たち初心者なんだから、売り方も知らねえもん。」
「ま、よろしいですよ。その場合1等船客扱いでただ乗りさせていただくことになりますが。」
「いいんじゃない?」
収支計算などまったく行われず、どんどん決定されてゆく。
 そこにロビンが姿を現した。
「やあ。ここにいたか。ここは広いから見つけるのに苦労したよ。」
「ロビンさん大丈夫だったんですか?私はてっきり脱走罪で銃殺かと・・・」
普通の顔で物騒なことを言うルシア。
「なんとかお許しをいただきました。お恥ずかしい話ですが、親父が手を回してくれていたようで。」
「へ〜。いいお父さんですね〜。」
「いや、まあ・・・」複雑な心境のロビンである。

 その後一行は宙港を出て、全ての始まりであったフレドリック・マーキュリーのマンパワー・サイコヒストリー研究所に向かった。
契約通り仕事の内容を報告に行ったのである。カメラは壊れてしまったが記録メディアであるクリスタルは無事であり、カメラは新しいものを買って(cr.920)持っていった。
もちろんブロブは取引の準備のために宙港に残った。
 研究所でクリスタルは再生機にセットされて上映された。
その内容は、ヨットの船内で宴会している様子が長々と続き、いきなり貯蔵室が映ったと思うと、見るからに気が狂っているよだれを流した汚い男が近寄ってきて、鉄パイプを振り下ろしたところで終わっており、所内はなんとも言えない気まずい雰囲気に包まれたのだった。


 ヨットの展望ラウンジで今後の相談。
取引についての話し合いが進み、その結果・・・
「なんでいつの間にか目的地がフルームになってるんですか!?」
船にやってきたブロブが目を白黒させた。
「あれ?そう言えばなんでだろ?」
チークが首を傾げる。
「ダイナムンなら間違いなく儲かるって言ったじゃないですかあ。」
「いや・・・そうなんだけど・・・なんとなく決まっちゃったのよ。
「そんな!話が違うではないですか。」
「そんなこと言って、フルームでは儲けを出す自信が無いんだな。さてはダイナムンには話を通してる相手がいるのか?」
筋が違うのはこっちなのに、妙に意地悪なチークである。
「いや・・・分かりました。」
ブロブは大袈裟なジェスチャー付きでため息をついた後、いきなり立ち上がった。
「こう見えても私は4レベルライセンスをもつブローカー中のブローカーです!フルームへの旅で、見事儲けを出してご覧に入れましょう!!!」
「よく言った!じゃあフルーム行きの特等船客をがっぽり集めないとな。」
「それが・・・特等船客は乗せらないんですよ。」
ブロブが真顔で言った。
「なんじゃそりゃ?この豪華なヨットに特等船客が乗せられないとはどういうことよ!?」
「この船にはスチュワード免許を持った人がおりません。スチュワード免許の無い船は特等船客を乗せることが出来ない決まりです。」
「スチュワード免許?そんなの初めて聞いたな。みんな知ってる?」
「いいえ。」とルシア。
「知らないです。」とマービン。
「存じませんでした。」とロビン。
「みなさんが聞いたことがあろうが無かろうが、そう決まっているのです。確かにモグリで免許のない船が特等船客を乗せているケースもありますが、だいたいは目的地で客に訴えられてますな。」
「特等船客が乗せられなくても、1等船客を乗せればけっこう儲かるんじゃないの?」
そう言うマービンに、ブロブは人差し指を振って見せた。
「ちっちっちっ。1等はあくまで特等船客のキャンセル待ちチケットです。特等の席が無い以上、公には募集できません。」
「じゃあ2等船客か?でもヨットにはコールドスリープカプセルは積んでないぞ!」
「その通り。つまり希望号には正式な船客を乗せられないのです。」
が〜〜〜〜ん。
しばらく呆然としていた一行だが、ロビンが口火を切った。
「人を雇いますか。特等船客が乗せられないのでは、ヨットの利点が生かせません。」
マービンは考えていた。
やっとまともに話せるようになってきた3人と、なんとなく話しやすいブロブ。この状況を結構気に入りつつあった彼は、これ以上人が増えるのは嫌だった。新しく入った人間一人で全てがぶち壊しになるのはよくあることだ。
なんとかそれを伝えようと思ったが、どう言えばいいのか分からない。
困った顔で考え込む彼の横で、チークがあっさりと言った。
「俺は反対だな。これ以上人は増やしたくない。」
マービンの顔が輝いた。
「なぜです?ご存じの通りヨットの船倉容量では儲けを出すのは大変難しい。しかし専用室は13もあるのです。特等船客を乗せない手はありませんよ。」
不審そうなブロブに、チークは言った。
「ロボットを使うってのはどうだ?スチュワードプログラムの入った奴。」
チークは艦隊にいた頃、攻め込んだ商船に乗っていたロボットの防戦に予想外に苦労したことを思い出していたのだった。
「それなら安上がりですが、多くの場合ロボットのスチュワードは、人間のそれよりサービスのランクが低いとされています。また責任能力が無いということで、世界によっては禁じているところもあります。」
「いいじゃん。」
チークの軽い一言で、話は決まった。

 宙港のレンタルショップに行き、店主に相談して手頃な価格で能力の高いロボットを選んでもらった。
借りてきたのは、クオリティ・ケア・オートメーション社の家庭看護雑役ロボット、YIV-77-DRというロボットで、レンタル料は1日30クレジットだった。
呼び名は型式番号から「ナナ」と決まった。
ナナはレベル1のスチュワードプログラムが入っており、本来看護用ということもあって人当たりが柔らかく、手先も器用で様々な仕事をこなせる。
「ナナちゃん。みんなにお茶を入れてくれ。」
「かしこまりました。」
ロビンの頼みに素直に従うナナ。
またナナが入れたお茶は薄くもなく、濃くもなく、絶妙な加減だった。
「悪くないね。これで1日30クレジットは安いじゃん。」
チークが素直に喜んでいる。
「そうですね。なんか声も女性っぽくて優しい感じでいいですね。」
マービンも人間と違って気を遣わなくてもすむのでほっとしていた。
「ネクタイみたいな胸のデザインも可愛いわ。」
ルシアにも好評である。
ロビンが機嫌良く言った。
「ちょっと試してみよう。ナナちゃん。今から言うことに答えてくれ。」
「はい。」
「私は嘘つきだ。さて、今言ったのは本当かな?」
「・・・・・・」
ナナちゃんは考え込んだ。
誰もしゃべらない時間が過ぎていった。
みんなが心配になってきた頃、突然ナナからかん高いブザーが鳴り響き、録音されたらしい女性の声が流れ出した。
「クオリティ・ケア・オートメーション社のYIV-77-DR。コールネーム”ナナ”は論理矛盾エラーが発生しています。再起動してシナプスをスキャンしてください。それでも問題が解決しない場合は、最寄りのクオリティ・ケア・オートメーション社に連絡してください。連絡先は・・・」
どうも複雑な思考は苦手なようである。

 その後ブロブと本格的に打ち合わせを行う。
最初は生ものはやめた方が無難で、加工品はテクノロジーレベルの影響が出やすいと言うブロブのすすめで、投機品目である金属パーツ11トンを55,000クレジットで購入し、船荷と船客を募集。
乗客は特等が5名。1等が4名集まった。


281日。出航日である。
一行は自分たちだけの(ブロブもいるが)初めての出航準備にてんてこまいだった。
食料の調達と積み荷の確認、乗客の乗船のチェックなど、それこそやることは山ほどあるのだ。
 積み込みの監督が一段落して一息ついたロビンが、宙港の喫茶店で一休みしていると、背後から声を掛ける者があった。
「もしもし。」
「はい?」
振り返るとそこには海軍の制服を着た、いかにも堅物っぽい男が立っていた。
「今日フルーム星系へ旅立たれる希望号のクルーの方でしょうか。」
「そうですが、あなたは?」
「あ、失礼。私はビジトー・カッターと申しまして、海軍の少佐であります。」
ロビンには一目で分かったが、彼の制服は惑星海軍のものだった。
わざと省略しているのだろうか。
海軍は帝国、星域、星系、惑星と規模ごとに別れており、もちろん最も規模の小さい惑星海軍が一番ランクが低いとされているのだ。最もその境界は曖昧な場合も多いのだが。
「どのようなご用件ですか?」
「実はフルームへの連絡事項があるのですが、ちょうど船が出払っていて困っているところ、当地へ向かう希望号のことを知りまして、よろしければ手紙を言付かっていただきたいのです。もちろん報酬はお支払いいたします。」
「しかしよろしいのですか?海軍の連絡事項を一般の船に頼んでしまって。」
「ええ。急を要することではあるのですが、半分私信のようなものなのです。もちろん報酬もお支払いします。受取人から1000クレジット受け取ってください。」
ついでなのだし、悪くない話である。
「わかりました。で、どなたにお渡したよろしいので?」
「フルームのスターンメタル社の窓口にお願いします。カッターからの言付けだと言えば伝わるはずです。」
「分かりました。お預かりしましょう。」
ロビンは手紙のようなブツを受け取った。
しかしロビンはこの話にどこか違和感を感じていた。惑星海軍の少佐が他星系のメガコーポレーション宛の私信とは・・・。

※レフリー解説
この件は「60人のパトロン」33「海軍士官」を利用しています。

 その頃着陸床へ向かう通路を歩いていたルシアに声をかけた者がいた。
その男はけっこう色男だったが、額に傷があるのが目立っていた。
「あの、今日出航のフルーム行きの船の方では?」
「はい。そうですけど?どちら様?」
「よかった〜。間に合った。急ぎでフルームに行かなきゃいけないんですよ。まだチケットはありますかね。」
「ええ〜?そうなんですかあ。でももう人数計算して食料積んじゃってるんですけど・・・。」
「そんなこと言わずに、お願いします。もちろん特等チケットを購入させていただきますし。食料も少しは余裕見て仕入れられてるんでしょ?」
勿論である。
彼はシャーズ・ナブルと名乗った。

 結局希望号はシャーズも入れて、10人の船客を乗せてフルームへ向かうことになった。
乗客一人に食料などで約2000クレジットの経費がかかるが、それを差し引いても72000クレジットの儲けとなる。
やはり船客は侮れない収入源である。

 いよいよ出航となるが、ルシアは今回もパワープラントの点火に手こずり、結局希望号(仮名)は、なんと半日も遅れてリジャイナを出発したのであった。


 ジャンプに入った2日後、ダイナムン産の大型両生類ギャボバーをメインとした盛大なパーティーを開催し、それなりに船客に好評だった。
まともに客船を運航したことなど一切無い一行だったが、それでなんとか少しだけ肩の力をぬくことができた。

 ジャンプ空間は見た目は奥行きのないオレンジ色の空間で、ジャンプアウトまでなんの変化もない。
ただしそれは保証されたことではなく、場合によっては突然あらぬところにジャンプアウトし、大惨事を招く場合もある。
普通ならジャンプアウト間近までは気にしないほどの確率なのだが、自分たちだけの初航海ということに緊張していた一行は、夜も一人はブリッジについていることにしていた。
その日の夜の遅番はロビンで、彼が部屋に戻ったのは翌朝の7時だった。そして呆然となった。
部屋が荒らされていたのだ。
とにかく無くなったものはないかと見てみるが、どうもなにも紛失してはいないようだった。
彼はほっと息をつき、胸ポケットから海軍少佐から言付かった手紙を出した。
「これはどうも個人の問題では無くなってきたようだ。」


宇宙船シナノマルの人々 第8回 終了

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