大空のサムライ かえらざる零戦隊
坂井三郎著

を1月2日に実家で読了した。
 零戦のパイロットで数少ない太平洋戦争を生き残った著者の自伝。
小さい頃からパイロットに憧れていた三郎少年だったが、海軍に入ったはいいが戦艦「霧島」の副砲に配属され、その後操縦練習生を受験し、なんとかパイロットへの道を歩み始める。
厳しい関門を突破して晴れてパイロットとなった三郎は、やがて中国で実戦を経験し、やがて南方ラバウルに配属され、地獄の最前線で戦い続けるが・・・。

 この本はもう滅茶苦茶に面白い。
何が面白いって、まずなにしろ著者の体験を書いているので臨場感が半端ない。
初めて教官に乗せてもらって練習機で空を飛んだときとか、その後の教官の指導とか、視覚のみならず聴覚、嗅覚、触感、重さ、浮揚感など、まさに5感以上の臨場感で、これじゃあ4D映画も目じゃない。
上記教官の指導も、一段落した頃にはもう化夢宇留仁も操縦できると思ったくらい(笑)詳細に書かれている。
 そして著者だが、要するにリアル版アムロである(笑)
「後ろに目をつける」はエースパイロットに本当に必要な技能なのだ(笑)
しかしこの目の良さは戦闘中というよりも、戦闘が始まる直前に非常に大きな意味がある。
レーダーも無いので索敵は目が頼り。
そこに著者の視力2.5(汗)が効きまくり、誰よりも早く敵を発見し、更に敵に発見されるまでに編隊を完全に有利な位置に誘導できてしまうのだ。
何度か被弾したりして大怪我をしたりもするのだが、その中の1つも敵戦闘機にやられたものは無いのが凄すぎる。
なにしろ著者が一番えらい目にあったのは敵戦闘機8機に横から突っ込んだと思ったら敵機がSBD艦上爆撃機ドーントレスで、全機がこっちに後部銃座の機銃をピタリと向けて待ち構えていたという致命的すぎるシチェーションで、もちろん蜂の巣に(汗)
その後の究極のボロボロ状態で基地に帰り着くところももはや人間業とは思えない(汗)
 零戦隊の圧倒的な強さももちろん見どころで、例えばモレスビー上空の戦いでは敵のスピットファイアを中心とした40機近くと、その約半数の零戦21機が対決し、結果敵19機を撃墜して零戦の被害なしとか、ホワイトベース隊か(汗)
この零戦の強さは(少なくとも著者の視点では)末期まで大した変化はなく、ワイルドキャットとかヘルキャットとか、だんだん手強い敵も出ては来るものの、必ず勝っている。
零戦の性能が素晴らしかったのはもちろんだが、やはりパイロットの技量がものすごかったのがうかがえるところである。
またその零戦に対しての著者の視点で意外だったのが、著者にとっては零戦は全て零戦だったっぽいところで、敵機その他非常に細かいところまで言及があるのだが、零戦に関しては一度もその形式に触れられないのだ。
一言に零戦と言ってもその形式はけっこう有って性能もだいぶ異なり、著者もいくつかの形式に乗り継いでいるはずなのだが。
なんかもう身体の一部過ぎて細かいところは気にならなかったのだろうか(汗)
 戦争も中期になると、著者のいる南方では早くも敵の物量によって壊滅的な状況となる。
ラスト近くの体当たり命令もそうだが、その後の硫黄島への敵の7波にわたる空襲で飛行場の設備を全て破壊され、更にそこに艦砲射撃の嵐が降り注ぐのを山のてっぺんから見物するとか、こんな岡本喜八の映画みたいな状況がリアルであったとは(汗)
 一つだけ残念なのは終わり方が尻切れトンボ感があるところで、なにしろ物語じゃないので仕方がないが、全然終わった感は無い(笑)
ただし続編が存在するので、これも近いうちに読まなければ。

20250104(mixi日記より)
20250104


イントゥ・ザ・ストーム
スティーヴン・クォーレ監督

を観た。2015年5月31日。
 田舎町シルバートンの高校の卒業式の最中に竜巻が襲う。
教頭のゲイリーは、生徒達を校舎内に誘導した後、長男のドニーが町外れの廃工場に行ったことを思い出し、次男のトレイと共に廃工場へ向かう。
彼らはストームチェイサーチーム「タイタス」と合流し、超巨大な竜巻が発生しようとしていることを知る・・・。
 竜巻つながり(笑)
「ツイスター」のずいぶん後に作られた作品だが、あれより全然小粒なB級映画である。
ただし技術は進歩しているのでCGの出来はどっこいどっこいか(笑)?
脚本や演出は流石のB級(笑)という感じで、誉められたものではない。
かと言ってこき下ろすほどでもないので、対処に困る(笑)
まあ印象的な画面はいくつか作っていたし、暇であれば観ても腹は立たないと思う(笑)

20150618(mixi日記より)
20250105


銀河乞食軍団1 謎の故郷消失事件
野田昌宏著

を読んだ。
 辺境の自治星系「星涯(ほしのはて)」にある惑星「白沙(しろきすな)」の山道を、1人の少女がとぼとぼと歩いていた。
そこにいきなり立ちふさがったのは保安官だったが、それは少女パムには助けではなく、危機を意味していた。
 一方そこから100kほども離れた「星海企業」通称「銀河乞食軍団」のNo2であるロケ松が、小さな離着場に最新鋭の戦闘爆撃機であるF410が突進して来たのを見て目を剥いていた・・・。

 銀河辺境シリーズ関連をようやく読み終えたので、次のヘビロテシリーズとして選んだのは大元帥つながりで本シリーズということになった。
化夢宇留仁は昔本シリーズを途中まで読んだのが、当時は続きの巻を所有しておらず、そのまま頓挫していたのだ。
 で、うすぼんやりとした記憶とともに再度読んだ第1巻だが、感想は前に読んだときとほぼ同じなのをこれまたうすぼんやりと思い出した(笑)
パトロール宇宙艇は爆破されるは、警察のえらいさんは人質に取るは、サーカスの猛獣は暴れまわるはで、派手な事件はいろいろと起きるのだが、物語的には完全にプロローグの範疇で、まだまだ本編が始まったというイメージではない。
なんかうすぼんやりとした記憶ではそういう雰囲気がこれからも続いたような気もするが(汗)
 今回読んで初めて気づいたのは、本書が宇宙船や宇宙船の湾岸施設などの描写が非常に詳細で面白いというところだった。
SF的にすごいというわけではないのだが、商業として運営されているリアリティがあって、RPGでこれだけ描写できたら盛り上がるだろうと思える感じで、著者もこのへんは楽しみつつこだわっていたものと思われる。
 なにしろほんとにプロローグっぽくてまだキャラクターも覚えきらない感じだが、これからの盛り上がりを期待はできる内容だと思った。
あ、そうそう。
銀河辺境時代から超パワーアップした加藤直之大先生のイラストはどれも最高だった。

20250107(mixi日記より)
20250107


デイ・アフター・トゥモロー
ローランド・エメリッヒ監督

を観た。2015年5月31日。
 調査によって南極大陸の棚氷が融け始めていることを知った気象学者のジャック・ホールは、温暖化による海流の急変が、将来的に氷河期を引き起こす可能性に思い当たる。
数日後から世界各地で異常気象が頻発。
東京ではゴルフボールサイズの巨大な雹が降り注ぎ、ロサンゼルスは巨大な竜巻によって壊滅、イギリスでは一瞬で全てが凍り付くスーパー・フリーズ現象が発生。
ジャックの息子サムのいるニューヨークには豪雨と巨大な高潮が押し寄せた。
ジャックは氷河期の到来が予想よりも遙かに急激なものだと確信し、息子の救出に向かう・・・。
 派手な破壊シーンを期待して竜巻映画を観ていたわけだが、なんだかしょぼかったので、派手で大規模という点だけは保証されている監督(笑)の映画を視聴。
期待通り派手で大規模な破壊シーンを楽しめた。
破壊シーン以外でもいちいち規模がでかく、大げさなのがよかった(笑)
ストーリー?
ストーリー・・・・・・・・・
そんなものあったっけ(汗)?
とりあえず「氷河期が来ちゃって困った」という話である(笑)
ところで劇中に出てくるスーパー・フリーズ現象だが、要するに気圧のポケットに入るということだと思うのだが、温度は下がっても気圧が下がったという描写は無かったように思う。
化夢宇留仁の推定が違っているのか???

20150618(mixi日記より)
20250108


幽霊なんて怖くない BISビブリオバトル部
山本弘著/東京創元社

を読んだ。2015年7月3日。
OKM氏が貸してくれた。ありがたやありがたや。
 埋火の家に泊まり込んで「恐怖」をテーマにビブリオバトルをした後、今度は図書館で「戦争」をテーマにバトルを行う。
「恐怖」のバトルでは、本当に恐ろしい話から単にタイトルに「恐怖」の文字が入っているだけのものまで、様々な本が紹介された。
しかしまさに恐怖の神髄と言えるタイトルが欠けていたように感じたのは残念だった。
小説で本当に恐怖を感じることができる作品があれば教えてほしかったのだが。
そして今回のメインテーマである「戦争」の方では、その準備段階も含めて、相変わらずの埋火の凝り固まった偏見がうっとうしいが、あえてそういう存在を配置することで論理的思考を浮かび上がらせようとしているのは明らかなので仕方がない。
また前回もそうだったが、この本は化夢宇留仁が読んだ本がどんどん出てくるのも興味深いところで、今回は最近再読したばかりの「馬の首風雲録」が出てきたのには驚いた。
なんか途中からもしかして・・・・とは思っていたのだが。
結局「戦争」というテーマに関しては表面をなぞり、軽く偏見を批判する程度だったが、中学生が主人公のジュブナイルとしては濃い内容と言える方だと思う。
このテーマは議論するだけで本気で怒り出す人もいるので気をつけているというのもあるのだろう。
 全体的には「恐怖」と「戦争」がテーマと言うこともあり、前巻よりもマニアックさと面白みは薄れた感がある。
しかし総じて完成度は高く、楽しめたので、次巻も楽しみである。

20150712(mixi日記より)
20250109


まんが世界の歴史 人物辞典
小西聖一シナリオ/おだ辰夫まんが/近藤二郎監修/小学館

を読んだ。2015年7月9日。
 会社の商品(笑)
1人につき2〜4ページくらいのマンガで歴史上の人物の軌跡を説明している。
偉人ばかりではなく、悪名高い人物も紹介されているのがいい。
例えばヒトラーとかムッソリーニとかも載っていて、それも事実を冷静に紹介しているのが好感が持てた。
また140人以上を紹介しているので、同時期に関わりがあった人物や時期は離れていても影響があった人物などの関係も読みとれて歴史自体に興味が持てるように構成されているのは感心させられた。
各人物のページ数は少ないのでもっと突っ込んだ説明も欲しいと思うところもあるが、それは無い物ねだりというものだろう。逆にこの人数で詳しく紹介されていたらしんどいし(笑)
それでも上記ヒトラーではロンメルを服毒自殺させたこととか、微妙に細かいところにも触れていたりするのが興味深い。
とりあえず暇つぶしに読む分には面白かった。宣伝ではない(笑)

20150719(mixi日記より)
20250110


ドイツ中央軍集団 山崎雅弘戦史ノート Vol.2
山崎雅弘著

を読んだ。2015年6月21日。キンドル。
 ゲームデザイナー&戦史研究家である著者が書いた短編戦史紹介記事をキンドル化したもの。
最近ウォーゲームに凝っているのだが、どうせ遊ぶならもっと知識があった方がいいということで。
 分かりやすい文章で独ソ戦初期の流れを紹介している。
開戦時の両軍の様子や、開戦直後のソ連軍の混乱、そしてミンスクの包囲完了まで。
さすがはゲームデザイナー(主にウォーゲーム)だけあって、各軍の様々な立場の指揮官の状況や、両軍の細かな戦力の提示など、一般の歴史所とは一線を画する内容で、非常に興味深く読めた。
単に起こったことの流れだけではなく、なぜそうしたのか、なぜそうなったのかも簡単ではあるが説明されているので理解しやすい。
中でも可哀想なのはソ連軍の白ロシア方面軍の指揮官のパヴロフ上級大将で、上層部からはドイツ侵攻に対する準備や反撃を禁じられ、いざ始まったらパニック状態で訳が分からなくなり、結果戦力的には勝っていたにも関わらずなにもできずに歴史的な大敗となり、軍法会議にかけられて銃殺(汗)
ドイツはドイツで大変で、バルバロッサ作戦(ドイツによるソ連侵攻作戦)開始直後から上層部と現場との意図にすれ違いがあり、華々しい勝利の中に染みのような汚れを残しており、これは戦争が進むにつれて大きくなっていくのだ。
 とりあえず独ソ戦またはバルバロッサ作戦を、聞いたことはあるけど具体的にはよくわからないという人が流れをつかむには最適か。
惜しいのは地図が表紙にしかないところ。
これは元がゲームのヒストリカルノートだったらしいので仕方がないが、あとは250円という価格が微妙なところ。
値上げ前の150円だったらしっくりくる内容量だと思う。

20150719(mixi日記より)
20250111


西部戦線全史 死闘!ヒトラー対英米仏1919〜1945
山崎雅弘著/学研M文庫

を読んだ。2015年6月24日。キンドル。
 第2次世界大戦の西部戦線と言えば、フランス侵攻、バトル・オブ・ブリテンあたりまではなんとなく分かっているような気がしていたが、ノルマンディ上陸作戦、マーケット・ガーデン作戦、バルジの戦いあたりの英米が逆襲に転じたあたりはやたらと有名な作戦が並ぶ割に、それが時系列的に、そしてどのような経過で行われたのか、よく分からなかった。
そこで見つけたのがこの本で、まさに求めていたタイトルそのまんま(笑)
しかも嬉しいことに、タイトルの年号をみれば分かるが、解説されているのは第1次大戦終結直後の1919年の状況からで、いかにしてどのような理由で第2次世界大戦が始まったかも分かりやすく説明されている。
まずは第1次世界大戦の敗戦によって、ドイツがいかに過酷な賠償を求めらたかが説明され、再軍備のために水面下で進められた準備を経て、犬猿の仲のはずのソ連と手を結んで戦車と空軍の開発&訓練を行う過程など、実に興味深い。
そしてヒトラーの登場とその政権掌握。
独裁者の代名詞のようなヒトラーだが、意外にもその政権掌握までの道のりは実に真っ当で民主主義的であり、現在の日本の国会とほとんど変わらない。
つまりヒトラーはドイツ国民が求めてトップの座につけたのであり、その後のヒトラーの他国への侵略も含めた政策は、その期待と要望に応えるものだったのだ。
そしてその結果はあまりにも鮮やかな勝利の連続で、バトル・オブ・ブリテンでつまづくまではなにもかもが奇跡といえるほどの成功を収める。
その後アメリカが参戦。ドイツへの空爆開始。フランスでのレジスタンス活動の激化。北アフリカでの敗北とアメリカ軍の上陸を経て、ノルマンディ上陸作戦に至る。
史上空前の規模で行われた大上陸作戦の成功により、フランスは再び戦場となり、その後は英米連合軍のドイツへ向けた進撃が続く。
初期のまさに天才的なヒトラーの采配は、戦況が傾いてからはすっかり消え失せ、ドイツの救世主がドイツを滅ぼす存在になり果てるのは読んでいて切ないものがある。
さらに切ないのは信頼を置いていた部下達に対する不信感をつのらせ、有能な部下を片っ端からクビにし、末期には幾人もの部下を自殺に追いやっているのがいと哀れ。
 印象的な登場人物と言えば、モンティ(イギリス軍のモントゴメリー指揮官)も負けていない。
誰からもうとましがられ、無茶な作戦を繰り返して不要な死傷者を出しまくり、公の場所では強がりばかり言う。
当時のイギリスと言えば、もちろんチャーチルも目立っている。
なんだか当時はイギリスが濃い(笑)
 ちょっと本題からそれたが、この本の主題はあくまで戦史であり、主な戦場や作戦の参加兵力、地図、状況の進展、様々な状況に対する指揮官の判断などが分かりやすく描かれており、その気になったらそれぞれの作戦のちょっとしたウォーゲームを作れそうな内容で、資料としての価値が高いのはもちろん、西部戦線の流れと各戦場の様子を分かった気になれる(笑)
読みやすいのは保証付きで、今回この記事を書くためにパラパラと見返していたら、思わず全部読みなおしてしまったくらいである(笑)

20150802(mixi日記より)
20250112


完全分析独ソ戦史 死闘1416日の全貌
山崎雅弘著/学研M文庫

を読んだ。2015年6月26日。キンドル。
 西部戦線が分かった気になったら(笑)、当然東部戦線も知っておかなければ片手落ちというものである(笑)
この本では先の「西部戦線全史」と同じく、時系列に沿って東部戦線の数々の戦いを地図と分かりやすい文章で解説している。
 ドイツとソ連が死力を尽くして戦う東部戦線の始まりは、皮肉なことに独ソ不可侵条約の締結である。
これによってドイツはソ連から攻められる危険を抑え、きがねなくポーランドに侵攻し、第2次世界大戦が勃発したのだ。
どさくさに紛れてソ連の方もちゃっかりポーランドの東半分を占領し、ここまでは独ソの仲はまさに蜜月という感じなのだが、もちろんすぐに破綻する。
どっちも国土拡張政策真っ盛りで隣接しているのだから仲良くする方が無理というものである。
そしてとうとうドイツ軍がソ連に侵攻。
ところで前々から不思議なのだが、不可侵条約ってなんか意味あるのか?
あっちでもこっちでも不可侵条約を無視したという記述は見かけるが、それによってなんらかのペナルティを負ったという話は聞いたことがない。
それとも不可侵条約が無視された結果は片方の国が滅ぶので、文句を言う人がいなくなるだけ(汗)?
 それはさておき、ソ連に侵攻したドイツ軍は怒濤の進撃を見せる。
実は開戦当時の白ロシア方面軍だけでもドイツ軍よりも遙かに兵力は多かったのだが、スターリンの大粛正の結果有能な軍人の数が減っていたのとスターリンの無茶な命令、それに連絡網の未整備などにより、いいようにドイツ軍に蹂躙され、あっと言う間に白ロシアがドイツの手に落ちるのは前に読んだ「ドイツ中央軍集団」でも述べた。
いろいろな要素があるが、連絡網の差は激しく、ソ連軍は一般回線の電話がせいぜいで、しまいには伝令だったのに対し、ドイツ軍の方は各戦車に通信機を装備し、通信機を積みまくった指揮車両まで準備し、空軍との連携も綿密で、まるで第1次世界大戦の部隊と現代の部隊が戦っているような有様で、これでは手も足も出なかったのも無理はない。
 ドイツ軍中央軍集団はミンスクまでを迅速に占領し、更にモスクワへ続く道の中間目的地であるスモレンスクを手中に収める。
北方軍集団はレニングラード(現サンクトペテルブルグ)の手前まで迫っていた。
苦労していた南方軍集団も、中央軍集団からかけつけたグデーリアン率いる第2装甲集団の加勢もあってキエフの包囲殲滅に成功。
結果ソ連軍は白ロシアで28万人、スモレンスク31万人、ロスラウリで5万人、ウマーニで10万人、キエフで66万人、合計140万人もの兵士がドイツ軍の捕虜となる信じがたいほどの敗北を喫し、ドイツのバルバロッサ作戦はおおむね計画通りの大成功となった。
しかし予想外だったのは、それでもソ連が全然応えた様子が無く、あとからあとから部隊が投入され続けていることだった。
ドイツの計画ではこの時点でソ連軍の戦力と呼べるものは消滅しており、あとは降伏を待つだけのはずだったのだ。
そこで仕方なく開始されたのがタイフーン作戦、モスクワ攻略作戦である。
しかしドイツ軍の意志決定の遅れや開戦当時のユーゴスラビアのクーデターなどで、そもそもの開戦が計画よりも遅れていた影響もあり、タイフーン作戦の真っ最中に冬が訪れる。
しかもドイツ軍部隊には補給部隊の準備不足などから、冬季装備が支給されないままだった。
開始当初こそ圧倒的な進撃を見せるドイツ軍だが、零下30度の環境に冬季装備無しでは敵にやられる前にボロボロになっていき、手の指や足の肉を失う者が続出(汗)
結局自滅する形で攻勢をストップせざるをえなくなる。
それを見たソ連軍はとうとう反撃に転ずる。
ボロボロになって退却するドイツ軍だが、まだまだ当時のソ連軍には荷の重い敵であり、この冬季反攻では大きな戦果を挙げることはできなかった。
1942年春にソ連軍の反攻作戦も一段落すると、今度はドイツがコーサカス地方の油田と、交通の要であるスターリングラード(現ヴォルゴグラード)を制圧する「青作戦」を発動。
またソ連軍も更なる反攻作戦を開始したが、ハリコフでの攻防でドイツ軍の巧みな用兵によってたたきのめされて頓挫した。
「青作戦」の方は、スターリングラードのほとんどの部分の制圧には成功したが、コーサカス地方への進撃は、コーサカス山脈という自然の障害のせいもあり、計画通りに進攻するのは不可能になる。
仕方なくスターリングラードの完全占領を目標にしぼるが、泥沼と化した市街戦はいつ果てることもなく続き、更にはソ連軍の包囲の輪が狭まり、逆にスターリングラード内のドイツ軍が孤立し、補給も絶たれ、絶望的な抵抗の末に降伏する結果に終わる。
ドイツ軍26万人が捕虜となったこの戦いは、独ソ戦初のドイツ軍の戦略的大敗北であり、このあとイニシアチブはソ連軍が握り続けることとなる。
その後のハリコフの攻防によるマンシュタインの「後手の一撃」など、ドイツ軍が大きな戦果を挙げることもあったが、ドイツとソ連の国力の差もはっきりと出てきて、その差は開くばかりとなっていく。
翌年にはクルスク大戦車戦とも呼ばれる「ツィタデレ作戦」が発動されるが、これはソ連軍が広大な防御陣地を構築して今か今かと待ちかまえているところに攻め込むという、初期のドイツ軍には考えられないような硬直思考の作戦で、タイガー戦車の活躍などで進みはしたものの、双方に大きな被害を出しただけに終わる。
その後すっかり大人しくなったスターリン(笑)は有能な部下達に指揮を任せることを覚え、とうとうソ連軍はドイツ軍に並ぶほどの軍隊として成長。
逆にドイツ軍の方はほとんどヒステリー状態のヒトラーがマンシュタイン、ホト、グデーリアンなど有能な部下を片っ端から首にし、暗殺計画未遂事件をきっかけに信頼を置いていたロンメル将軍まで自殺に追い込んでしまい、兵士達の人的損失も重なり、開戦当時には文字通り世界最強の軍隊だったドイツ軍は見る影もなくなり、あとは破滅を待つばかりに。
結局ヒトラーは、少年少女や老人まで駆り出して守備隊にして多数の民間人の被害を加えたあげく、ソ連軍にベルリンに攻め込まれ、官邸の手前まで来られたところで自殺するという最悪の幕引き。

 というわけで独ソ戦の大まか流れが分かるのと、「西部戦線全史」と同じく各戦場や作戦の内容が地図付きで詳しく解説されているのが嬉しい本である。
最も興味深かったのは、今までよく知らなかったソ連側の事情で、特にスターリンがなにを考えているのかよく分からないけど、突然すねて別荘に引きこもってしまったり、かっとなったり弱気になったり、とにかく感情豊かで楽しい(笑)
それにしてもまだまだ謎が多く、例えば開戦当初の白ロシアのどうしようのない対応と、同時に開戦翌日には工場の大規模疎開を進めている手際の良さとか、一貫性が無さすぎて全部演技だったのかとさえ思えてくる。
スターリンはもっと調べてみたいキャラだ(笑)

20150802(mixi日記より)
20250113


無敵鋼人ダイターン3
第23話 熱き炎が身をこがす
富野善之監督

 
を見た。日付が変わったので昨日。
 都市部に近い休火山ばかりが次々に噴火。
調査に乗り出す万丈達は、奇妙な兆候を見せる休火山を発見する。
その火口には奇妙な石の柱が立っていた・・・。

 

 
 コマンダー・ジェノバが美しい。相変わらずメガボーグになったら見る影もないが(汗)
しかしメガボーグになる前はバリヤーで包まれながら空中を浮遊して迫ってくるなど、これまでのメガノイドとは一線を画す能力も披露しており、かっこよくもあった。変身前は(笑)
調査に向かったらそのままなし崩しに戦闘に突入するいつものパターンだが、この話では実はギャルソンが狙撃の名手だと判明する。一体どんな経歴なんだ(汗)?
また戦闘シーンでは溶岩にさらされた上に踏みつけられてダイターン3のツノ(?)がふにゃふにゃに変形した状態で戦っているのが印象的だった。
そう言えば冒頭の万丈の実験がいかにも伏線っぽく見せておいてやっぱり全然関係ないというのが富野っぽかった(笑)

20250114(mixi日記より)
20250114


ロンメル戦記 第一次大戦〜ノルマンディまで
山崎雅弘著/学研M文庫

を読んだ。2015年6月30日。キンドル。
 西部戦線、東部戦線の後は、西部っぽいけどイマイチエリアから外れている感のある北アフリカ戦線の流れが分かる本はないかと思ったらこれを見つけた。
そういえばロンメルって北アフリカに至るまではなにをしていたのかもよく知らないことに気づいた。
ちょうどいいので読んでみた。

 今本は今までと違い、戦線に視点をおくのではなく、あくまでロンメルの生涯を骨格にしている。
だから最初はロンメルの生い立ちから始まるわけだが、これはこれで新たな視点で見られて新鮮である。
 とりあえず特別天才というわけでもなかったロンメルだが、数学教師である父親の薦めで陸軍に進むが、なんのコネもないので希望の砲兵科や工兵科には入れず、結局歩兵科に入る。
後々は最強のコネを手に入れるロンメルも、最初はなにもなかったのだ。
ダンツィヒの士官学校で知り合ったルーシーという女性とつきあうようになる。まだ20歳にもならないロンメルだったが、このルーシーと結婚して生涯ラブラブ夫婦になるのだった。
しかし任官後に別な女の子と火遊びして子供ができたりもする(笑)
そして始まる第1次世界大戦。
ロンメルの所属する第124歩兵連隊はフランスへ向かい、1914年8月22日、まだ22歳のロンメルは初の実戦を経験することになる。
上官の命令で飯も食わずに伝令で走り回り、接敵したときには24時間不眠不休&飢餓状態の上胃を悪くしていた(笑)
しかし奇襲攻撃を指揮してベルギー南部のブレド村でのフランス兵との戦いで成果をあげる。
その後も順調に(眠りこんで叱られたりはしたが/笑)軍務を続けたロンメルだが、右足付け根に被弾し、前線を離れることを余儀なくされる。
4ヶ月後に前線に復帰したロンメルだが、そのころにはドイツ軍の進撃は停止しており、膠着状態に陥っていた。
終戦を迎え、それでも軍に残ることができたロンメルは、体験を基にした「歩兵の戦い」という本を出してこれがバカ売れで大儲け(笑)
そしてヒトラーと出会い、その身辺警護の任に就くことに。
やがてヒトラーはポーランドに侵攻し、第2次世界大戦が勃発する。
ポーランドでの装甲部隊のあまりの華麗な電撃的侵攻に魅せられたロンメルは、ヒトラーにねだって自分も装甲師団の指揮官にしてもらう(笑)
しかしフランス戦では期待以上の活躍を見せ、敵のまっただ中を装甲車で走り抜けるという蛮勇も。
ロンメルの名声は上がり続けたが、自分勝手な行動に対し、他の士官からは総すかんをくらう。
フランス戦後、自分が主人公の映画を撮ったり(笑)していたロンメルだったが、北アフリカで問題が発生。
ドイツの華々しい連勝に、勝ち馬に乗り遅れまいとエジプトに侵攻したイタリア軍だったがこてんぱんにやられ、ドイツに救いの手を求めてきたのだった。
ドイツにとっては北アフリカは重要な戦略目標ではなかったが、イタリアの存在が脅かされ始めたとあっては南方の防御の点でほっておくわけにもいかず、部隊を派遣することとなる。
その司令官に選ばれたのがロンメルであり、ここに「砂漠の狐」率いるDAK(ドイツアフリカ軍団)が誕生することになった。
 北アフリカに上陸したロンメルは戦力が整うまで待機するようにという命令をいきなり無視してイギリス軍を攻撃する。
当時はすでにドイツ軍の暗号「エニグマ」は解読されつつあったが、この命令無視がイギリス軍を混乱させることにもつながり、ロンメルは華々しい勝利を手にする。
その後もいけいけで攻勢を続けるロンメルだったが、補給が途切れだしたのと無理な命令、そしてイギリス軍の潤沢な補給による再編成により、情勢はシーソーゲームの様相を呈してくる。
それでもなんとかカイロの目の前であるアレキサンドリアまで進撃したDAKだったが、その時にはもは満身創痍という状態で、対するイギリス軍の方はチャーチルの肝いりでモントゴメリー将軍の指揮の元、大規模な反撃準備を着々と進めていた。
乾坤一擲の大攻勢は失敗し、DAKは退却を開始。
同時に体調を崩したロンメルはドイツに帰国することになる。
3週間後にアフリカに戻るも、それからは勢いに乗ったイギリス軍の攻撃をかわして退却を繰り返すしかなく、さらにはロンメル自身も心労のためにすっかりやる気を失ってしまい、結局帰国することになる。
その後ムッソリーニが失脚したイタリアを支配するための司令官となるも、作戦遂行中に盲腸で倒れ、そのまま司令官の任を離れることとなる。
その後大西洋防壁強化査察官という地位についたロンメルは、ルントシュテット元帥とともに、近い将来予想されるフランスへの連合軍の上陸に対しての防備を整えることに。
「大西洋の壁」として大々的に宣伝されていた要塞地帯は、実は穴だらけでまともに防戦が行える状態ではなかった。
急ピッチで海岸地帯の防備を整えるロンメルだったが、1944年6月4日、2日後に誕生日を迎える妻のルーシーへのパリで購入したプレゼントを携え、ヘルリンゲンの自宅へ向かったそのまさに2日後、フランスのノルマンディ地方で連合軍の一大上陸作戦が始まった。
緊急の連絡を受けて現地に戻ったロンメルだったが、連合軍は6つの海岸線の防備を打ち破り、キョウトウホを築きつつあった。
連合軍の侵攻は進み、7月2日には講和を提案したルントシュテットがヒトラーから罷免された。
そして7月17日、ロンメルの乗ったベンツはイギリス軍戦闘機2機による機関砲の掃射を受け、運転手が被弾し、車は道の脇の木に激突し、ロンメルは車外に投げ出されて頭蓋骨骨折の重傷を負った。
病院にはヒトラーからの見舞いの電報が届いた。
 7月20日。ヒトラー暗殺未遂事件が発生。
10月7日。病床のロンメルのもとに、2人の将軍が訪問する。
2人の用件はロンメルがヒトラー暗殺未遂に関わった嫌疑が掛けられているというものだった。
ロンメルに残された道は、家族ともども総統暗殺未遂犯として裁かれるか、自決するかの2つしかなかった。
ロンメルが自決した4日後の1944年10月18日には、国民的英雄エルヴィン・ロンメル元帥の国葬が盛大に催された。

 ざくっと流れを書いたが、前に読んだ同じ著者の本と同じく、メインは各戦場における地図を多用した分かりやすい説明で、ウォーゲームの参考書に最適な内容である。
ただ本作はロンメルという個人に焦点を当てているだけあって、他と比べるとはっきりした主人公が存在して物語っぽくも読めるので、むしろ第2次世界大戦をよく知らない人には読みやすいかもしれない。
 化夢宇留仁が興味深かったのはやはり北アフリカ以前のロンメルの活躍で、第1次大戦はもちろん、フランス戦で大活躍していたとは全然知らなかった。
またロンメルの人となりも新鮮で、思っていたよりも子供っぽさが目立ち、また学生時代からのつきあいである妻ルーシーとのラブラブっぷりも面白かった。
大事なときには妻に会いに行っていて現場にいないのだ(笑)
 とりあえず「ロンメル将軍」「フランス降伏」「砂漠の狐」「ドイツアフリカ軍団」「クルセイダー作戦」「エル・アラメイン」「ヒトラー暗殺未遂事件」などの単語に興味があるけどよく知らないという人は必読だろう。

20150829(mixi日記より)
20250115


魔界水滸伝3
栗本薫著/角川文庫

を読んだ。2014年中(汗)。
 夏姫とまりの2人は夏休みの共同研究のため、葛城山中にいた。
しかし人気のない山中でバイクに乗った暴走族の集団と遭遇し、輪姦されてしまう。
さらにそこに奇怪な怪物の集団が現れ、暴走族は皆殺しになり、まりも身体を引き裂かれて殺され、次は夏姫の番というところで、妖怪鷺の姫の意識が目覚める。
迎えにきたハーピー、カルラと共にクトゥルフの卷族だが下等な怪物どもを殺し、その地域を統べている妖怪土蜘蛛の領域へ向かう。
しかし警告を受けた土蜘蛛はどうせやつらは結界を破れないからと取り合おうとしない。
話がこじれてついには決闘が始まりそうになるが、そこに現れた天狗の長が仲裁する。

 葛城あき子は無惨なバラバラの死体となっていた。しかし彼女は妊娠しており、子宮は傷ついていなかったため、胎児は助けられるかもしれないということだった。
しかもその胎児は安西雄介の子供だという。
ショックを受ける雄介だが、そこに葛城家の若頭である葛城多一郎が現れる。
北斗化学の御曹司でもある多一郎は、高圧的な態度で雄介を侮辱する。
そして多一郎は公開できない多数の写真を撮影したNASAをはじめとする各国の最新情報でも、異次元からの侵略が始まっているのは確認されており、北斗化学が属する黒崎グループと、超科学的な能力を持つ葛城一族が手を結んでそれに対応しようとしているのだと言う。
葛城一族の長である葛城天道と面会した雄介は、天道が人ならざるものに変化していることを知り、決意を新たにする。
 葛城邸を出た雄介は、自分の過去と弟の竜二のつてで、これから始まる戦争に備えて戦力になる人間を探すことに。しかしその前に葛城山でも殺人事件のニュースが目に入り、被害者2人の内1人が結城画廊の一件で出てきた名前だと思い出した雄介は、葛城山へ。
そこで出会ったのはかつて怪奇現象の専門家である岡田に名前を教えられていた加賀という奇妙な男だった。
加賀によれば、日本は妖怪族の首都であり、その妖怪達はクトゥルフの捲族と戦ってきたのだという。
最初の仲間として加賀を加えた一行は、彼に言われるままエジプトに向かうことに。
その前に雄介は、「三革」時代の部下を召集。
最初にやってきたのは草薙三四郎という希代の詐欺師であり天才ドライバー。
次は那須俊明。爆発物の天才。
そして左文字徹。変装と語学の天才。
3人の奇妙な人物が集まったところで、次は大学に行き、竜二のつてを当たる。
竜二は伏魔殿と呼ばれる運動部の頭領であり、彼の配下にはまさに怪物と言えるような「運動部員」がそろっていた。
続々と集まってくる化け物じみたメンバーに、なにもできない涼は行き場を無くしたような気分になっていたが、「運動部員」の一人である少女小角に食事に誘われていそいそとついていく。

 1人雄介は岡田のアパートに向かう。
知識豊富な彼も仲間に入ってもらおうという算段だったが、雄介が見たのは元は岡田だった血と肉と骨の塔だった。
部屋は密室だった。
住人が呼んだパトカーが接近してきたので、そこにあったノートを取って逃げ出す雄介。
次に葛城天道の屋敷に向かう。
しかしそこはもぬけの空であり、いたのは北斗太一郎だけだった。
太一郎はクトゥルーと戦うために雄介に手を組まないかと誘うが、雄介は即座に断る。
太一郎は赤ん坊は「金髪で青い目だった」と言い残して去った。
 加賀から連絡が入り、いよいよエジプトに向かうということだった。
またパレスチナでゲリラ活動をしている「火の神の使者」と称している一団のリーダーが、日本人の少年らしいという情報も。
しかも少年は「伊吹風太」と名乗ったらしい・・・

 怒濤の登場人物増加編で、一癖もふた癖もあるキャラクターが山のように登場。いよいよ水滸伝らしくなってきた。
しかし・・・・・・・この後著者がいかにいい加減に物語を紡いでいるのかを思い知ることになる(笑)
例えば作中葛城天道が、太一郎のことを全く妖怪の血を引いていないが、真の妖怪にも比すべき本当の意味での人間と評する。
しかし後の展開で、太一郎はまさに妖怪中の妖怪だと判明するのだ(笑)
設定も展開も、先が読めないどころか前振りが全く無視されたりするわけで、先が読めるわけもなし(笑)
しかし面白ければいいという観点では、このシリーズは十分にクリアしていると思う。
これでいいのだ(笑)

20150901(mixi日記より)
20250116


SASプリンス・マルコ6
日本連合赤軍の挑戦
ジェラール・ド・ヴィリエ著/鈴木豊訳

を読んだ。ジェラール・ド・ヴィリエ著/鈴木豊訳
 日本のアメリカ大使館を突如3人の若い男女が襲撃し、大使その他のスタッフを人質に取った。
彼らの要求はアメリカで逮捕された同士と大使との交換だった。
マルコはその青年古木を連れて日本へ。彼の任務は人質交換はもちろん、その後古木を取り戻すことも含まれていた・・・。

 これはもう見どころ満載で滅茶苦茶面白かった。
まずはもちろん舞台が日本の東京であること。
著者は一応日本に来て取材もしたのだが、勘違いやらなんやらでおかしなところが山盛り(汗)
ただしそれが70年代前半ということもあり、おかしいのかそれとも当時の日本はそうだったのかが判断つかないところも多く、そこがまた悪夢じみていて面白い。
 今回の敵である連合赤軍のリーダー広子が超凶悪ですごい存在感なのもいい。
書かれたのがあさま山荘事件のあとでもあるし、著者も連合赤軍の性質は十分にわかっていたようで、敵にも味方にも容赦しない超凶悪な悪役に仕上がっている。病気持ちでそのせいで寒さを感じないというのもそれっぽい。
 マルコはCIAのおかかえでもある日本在住の記者マックス・シャロンから、東京を牛耳る日本のヤクザを紹介される。
ヤクザの親分である河内はそれを了承し、マルコを超高級トルコ風呂で接待(笑)するのだが、そこを襲撃する広子。
そのせいで河内が所有するトルコ風呂「ウタマロ」は大きな被害と死傷者も出る。
その結果連合赤軍対ヤクザの全面戦争という面白すぎる展開に(笑)
ちうかこの接待されているマルコがどう殺されそうになったかと言うと、頭だけ出して身体は全部自分からは出られない六角形のサウナ樽の中に拘束された状態で、その中に手榴弾を放り込まれるという絶体絶命すぎる展開である(笑)
 日本に対して色々と変なところがあり、フランス人っぽい見下したような書かれ方がされているところも多いのだが(これも当時は実際そうだったのかもしれず、微妙なものが多い)、なぜか空手への評価は非常に高い。
この話に空手家は2人登場するのだが、その2人共がまさに殺人マシーンでアベンジャーズなみに強い(笑)
 ラスト近くの大規模すぎる見せ場がまたすごい。
前に「アイス・レイド」の感想で、この時代を扱うと登場する勢力の規模が大きいほど内容が地味になると書いたが、絡むのがCIA、ヤクザ、連合赤軍と、米ソ冷戦と比べれば超小規模で核ミサイルも関係ないので、逆になんでもできて内容がものすごく派手になるのだ(笑)
最後のいかにもな展開も併せて、隅々まで面白い本だった。

20250117(mixi日記より)
20250117


MM9
山本弘著/東京創元社

を読んだ。OKさんに借りて。2016年6月3日。
 現実の地球にそっくりだが、いわゆる「怪獣」が実在し、その被害が自然災害として気象庁の災害対策の管轄になっているという世界が舞台。
メインになるのは「気象庁特異性物対策部」略して「気特対」の活躍だが、この組織はなにしろ気象庁の管轄なので、怪獣と直接戦ったりはしない。
怪獣と直接戦うのはあくまで自衛隊の仕事であり、「気特対」は怪獣の早期発見と能力や行動の分析によって、自衛隊や政府にアドバイスを行うのだ。
 そもそも「怪獣」という存在は重量の問題をはじめとして、科学的な整合性をとるにはあまりにも無理な部分が多すぎる。
そこを「多重人間原理」という、「怪獣は怪獣の属する世界の物理法則に従っている(意訳/笑)」という説明をでっち上げることでSFとしても成立させているのは流石。
 本作は連作短編の形式をとっている。

第一話 緊急!怪獣警報発令
 海上自衛隊の潜水艦<あましお>が正体不明の怪獣と接触。
全長100m近い怪獣が日本を目指しているとの報告に、気特対は騒然となった・・・。

 怪物の正体を探るミステリー色の強い作品。
この作品だけだと全然「怪獣」らしくないので、初っぱなから化夢宇留仁的には少し肩すかしを食らったような気分になった。
まあまあ面白かったのだが。

第二話 危険!少女逃亡中
 あどけない少女にしか見えない怪獣が出現。ただし身長約20m。
怪獣の質量から危険度を表すMM(モンスターマグネチュード)ではぎりぎり5を切り、即時退治の必要はないが、人間に死傷者が出れば退治対象となる・・・。

 なんだかんだで裸の少女を出してくるのは非常にこの著者っぽいと思った(笑)
怪しい組織の活動も匂わせ、いろいろつまった良作になっている。
やはり好きなだけあって怪獣らしい描写は流石にうまい。

第三話 脅威!飛行怪獣襲来
 遙か彼方の外国から、一目散に日本目指して飛んでくる怪獣。それはなぜか?
また怪獣からは強い放射線が確認され・・・。

 三話目にしてようやく直球の怪獣らしい怪獣の登場。
やはり直球はそれだけで盛り上がり、自衛隊の描写も光る。
ちょっとウルトラQっぽくもあったが(笑)

第四話 密着!気特対24時
 気特対にテレビの密着取材が入り、慣れない演技を強要される隊員達。
そんなところに植物型の怪獣出現の報が・・・。

 基本的にパロディ回だが、気特対の普段の様子が分かって面白い。

第五話 出現!黙示録大怪獣
 少女型怪獣「ヒメ」は人間サイズに戻って大人しくしていたが、ある無人島で発見された怪獣の目覚めが近づくに連れ、暴れるようになっていた。
それは太古から続く神話世界の戦いが迫っている兆しだった・・・。

 とうとう現れるMM9級怪獣、その名も「クトウリュウ」!
今回はこのクトウリュウとヒメとの戦いが焦点となるが、その周りを固める設定部分でも興味深い点が多かった。
「怪獣」のカテゴリーの中には、いわゆる「妖怪」も含まれている。
彼らが存在できるのは「多重人間原理」で説明される、「神話世界」の存在のためである。
しかし次第に全てが科学で説明される「ビッグバン世界」の範囲が広がり、怪獣や妖怪達は数を減らしている。
このままでは存在が消滅してしまうことを危惧した妖怪達が、MM9級の怪獣を暴れさせることで「神話世界」の存在感を増そうとしていた。
この辺の設定は非常に綺麗にまとまっていて、この著者ならではの優れたバランス感覚によるところだと思う。
ヒメは完全にウルトラマンのオマージュとなっていて、これは面白かったがこのシリーズはあくまでウルトラマンはいないが怪獣はいる世界が舞台だと思っていたのでこれまた少し肩すかしだった。

 総じて面白かったが、予想と違う内容だったところも多かった。
もっとヘビィな雰囲気を想像していたのだが、それは表紙によるものかもしれない。

20160619(mixi日記より)
20250118


BACK 記録&感想トップ NEXT

HOME